Epilogue: 美雪(私服): (なんか今回のお祭り、規模が小さい……?) #p綿流#sわたなが#rしのお祭りに私が足を踏み入れるのは、よくよく考えてみると今日が初めてだ。そういう意味では、やはり感慨深いものがある。 美雪(私服): (でも、以前遠目に眺めたお祭りの風景よりも少し規模が小さい……気がする) ……ただの気のせいかもしれない。そもそも私は、綿流しの祭にはちゃんと参加していないのだから。 それに、人の入りはそれなりにあって活気も盛んでやかましいくらいに賑わい、みんな楽しそうに過ごしているようだ。 美雪(私服): (そう……だからまだ、なにもかも無くなったわけじゃない) #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): あー……万事解決、大団円とは言えないけど。今日くらいは、何もかも忘れて楽しもう! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): うまい具合に新しいメンバーが加わったことだし、その歓迎も兼ねてさ! そう言って魅音……の姿をした詩音が、ともすれば下を向いてしまいそうな私たちを鼓舞するように、威勢よく声を張り上げる。 その意気に合わせようと私も努めて明るく、たとえカラ元気だろうとないよりはマシだとばかりに「さんせーい!」と、こぶしを突き上げて応えた。 美雪(私服): あっ、紹介が遅れたね。私の隣にいるこの子は幼なじみの腐れ縁、同い年の黒沢千雨でーす!好きなものはサメ全般! 千雨: おい……こんな流れで歓迎だと言われても、どういう感じに接したらいいのか迷うんだが。 千雨: あー……黒沢千雨だ。よろしく。 梨花(巫女服): はじめましてなのです、にぱー。 圭一(私服): おぅ、よろしくな! レナ(私服(二部)): えっと、よろしくお願いします……はぅ。 菜央(私服(二部)): 大丈夫よ、千雨はあぁ見えて優しい人だから。それでね……あ、あのね……お姉ちゃん……? レナ(私服(二部)): 大丈夫だよ。 レナ(私服(二部)): レナと一緒にたくさんお祭り見て楽しもうね。今夜は、ずっと一緒だから……。 菜央(私服(二部)): ……うんっ……! レナ(私服(二部)): 菜央ちゃん、何食べたい? それとも先に遊ぶ? 菜央(私服(二部)): え、ええっと……うぅ、どうしようかな……。 レナと菜央は楽しそうに屋台を見回している。 だけど心の底から楽しむと言うよりも、どこかこの時間を噛みしめるように歩く足取りもゆっくりだ。 美雪(私服): (これが2人で回る、最後のお祭りになるかもしれないんだよね……) 大石: ……今回の竜宮礼奈さんの件については、正直悩ましいところですねぇ。 レナはどうなるのかと言う私の質問に、大石さんは難しい顔ながらも率直に答えてくれた。 大石: 証言をそのまま信じるなら、未成年であることを加味した上で……情状酌量の余地がありまくりですからねぇ。 大石: というかそれ以前に……肝心の死体が出てきてませんし。 美雪(私服): 死体が? 大石: えぇ。ですから彼女の証言だけでは立件も難しいかと……それにまぁ、あの2人は関係各所で恨みを買いまくってましたのでね。 大石: あの2人を殺したのは別人で、竜宮礼奈はそれを目撃して自分が殺した妄想に取り憑かれた……なんて主張されたら警察側としては、さすがに分が悪いんですよ。 大石: 園崎家からも優秀な弁護士の集団がバックアップにつくという話ですし……保護観察ってことになると思います。 大石: 本人も逃亡の意思はないとのことなので、そうですね……赤坂さんが一緒についているなら、お祭りが終わるまで自首をお待ちしますよ。 梨花(巫女服): …………。 大石: おやぁ、どうしました古手さん。 梨花(巫女服): ……大石、なんだか変わったのです。前は園崎家と聞いたら目の色を変えていたのに。 大石: はは……ちょっと色々聞いちゃいましてね。ただ、別に園崎家は清廉潔白な連中だとかいう気はありませんよ? 大石: おやっさんの件が白でも、それ以外で叩けばいろ~んなものが出るのはわかっていますからね。んっふっふっふ! 梨花(巫女服): それでも……ありがとうなのです、大石。 大石: ……そういうセリフは、もっと綺麗に解決してから聞きたかったですね。 大石: 鷹野三四を死なせてしまったのは、痛かった。 美雪(私服): …………。 大石: 亡骸を抱えた富竹さんの慟哭は……あれは、さすがに見ていて胸が苦しくなりました。 大石: 何か他に、手は無かったのかと……はは、考えだしたら後悔が止まらなくて。 梨花(巫女服): ……ボクもなのですよ、大石。 梨花(巫女服): ボクも……どう選択していれば、誰も傷つかずに解決できなかったのか……ゴールに辿り着けなかったのか。 梨花(巫女服): ずっと……ずっと悩み続けているのです。 美雪(私服): 梨花ちゃん……。 思い悩む梨花ちゃんに、結局私は何も言えず黙ってその背中をさすることしかできなくて……。 圭一(私服): 美雪ちゃん? 美雪(私服): えっ……? 悲しげに視線を落とす大石さんと梨花ちゃんの顔が、前原くんの声とお祭りのお囃子の音とともに急速に遠のいていく。 圭一(私服): いや、菜央ちゃん、よかったな……って。それは俺が言えることじゃないな。 圭一(私服): 菜央ちゃんがあそこまで思い詰めていたなんて、側にいたのにわからなかった……申し訳ない。 美雪(私服): しょうがないよ、いろんなことが一気に起こりすぎたみたいだし。責任って意味なら、菜央をここに送り出した私にもあるから。 肩を落とす前原くんの背中を、私はぽんと叩く。彼なりに菜央を思って頑張ってくれたのだから、責めるのはお門違いというものだろう。 美雪(私服): それにまだまだ、多くの疑問が保留状態のままでしょ?そっちをクリアにしないとねー。 本音を言うなら、今すぐにでもお互いの情報を共有して、今何が起きているのか把握したい。 ……まして、この祭りが終わったらレナは警察に行く。そうなると当然、頼もしい戦力が減ることになる。 ただ……この先に何が起きるのかは全くの不明。私たちが平成に戻ることはおろか、菜央がレナと再び会えるという保証も……ない。 だから……菜央がレナと過ごせるのは、今日が最後なのかもしれないのだ。 全ては、レナが警察に行った後……。 こうして互いに疑念を抱えながらも祭りを楽しめているのは、暗黙の内にタイムリミット付きの不可侵条約が結ばれたからだ。 美雪(私服): ……明日から忙しくなるよ。 圭一(私服): あぁ……今日くらいは、楽しまないとな。 言いながら、前原くんが寂しげに目を細めた。 圭一(私服): ……これで詩音と沙都子、それに悟史がいたらよかったんだが。 美雪(私服): 沙都子の熱、まだ下がらないんだ……入江先生と悟史がつきっきりで世話してるんだよね。 圭一(私服): あぁ、でも熱の原因が全然わからないらしい。 梨花(巫女服): っ……ボクのせいなのです。 集まった後は黙って静かについてくるだけだった梨花ちゃんが、そこでようやく口を開いた。 梨花(巫女服): ボクを助けるために無茶させてしまったから、だから……。 美雪(私服): 私からも直接確認したいんだけど、沙都子ってどこまで思い出したの? 梨花(巫女服): 沙都子は気を失う前、口調が変わって……「ですわ」と言ったのです。 圭一(私服): つまり、俺たちがよく知ってる……美雪ちゃんたちが最初に会ったっていう沙都子の口調ってことだよな? 梨花(巫女服): はい……いえ、むしろあの沙都子の感じは……。 それだけ言って、梨花ちゃんは何か考え込むように黙り込んでしまった。 梨花(巫女服): …………。 圭一(私服): ……梨花ちゃん? あまりに沈黙が長いので、心配になったのだろう。前原くんがおそるおそる声をかける。 梨花(巫女服): ごめんなさいなのです……ボクの気のせいかもしれないのです。 梨花ちゃんは軽く首を横に振ると、憂うように目を伏せた。 梨花(巫女服): 正直に言うと、ボクはもう……沙都子は何も思い出さなくていいと思うのです。 圭一(私服): え……一緒に住んでいた親友だった頃の記憶を? 梨花(巫女服): 沙都子が苦しむくらいなら、思い出さなくていいのですよ。 梨花(巫女服): 無事に目を覚ましてくれたなら……沙都子が元気でいてくれたなら……ボクは……っ! 美雪(私服): 梨花ちゃん……。 どうにか慰めようとして……でも、何も言葉が浮かばずまごついてしまう。 赤坂: きっと大丈夫だよ。 そんな中。ぽんと梨花ちゃんの頭にお父さんが優しく手を乗せた。 梨花(巫女服): 赤坂……? 赤坂: 今、入江先生が賢明に手を尽くしてくれている。医者ってのは警察と同じ、横の繋がりが強い人たちだ。 赤坂: もしも入江先生に沙都子ちゃんを治せなくても、彼なら代わりに沙都子ちゃんを治せる人を見つけてくれる。 赤坂: 大きな病院に搬送されたら簡単には会えなくなるかもしれないけど……。 赤坂: その時は、会いに行けばいい。必要なら、私が連れて行ってあげるから。 梨花(巫女服): ……ありがとうなのです、赤坂。両親のことでも、色々迷惑をかけたのですよ。 美雪(私服): あ、それ聞いた! 怪しまれまくったって!未成年略奪で捕まらなくてよかったですね。そんなことになったら奥さんが泣きますよ~? 赤坂: いや、まぁ……はは、なんとか理解を得られてよかったよ。 梨花(巫女服): みー……その時はボクがちゃんと説明するのですよ。赤坂は誘拐犯なんかじゃないのです、って。 美雪(私服): うーん、それたぶん逆効果だと思うんだけどな~。 ……私は、この「世界」のお父さんに娘だと名乗らなかった。迷いに迷ったけど、他人で貫き通すことにしたのだ。 美雪(私服): (……今は、それでいい) 私は最初の「世界」で、10年前のお父さんに娘だと呼んでもらった。……この「世界」でもそれを望むのは、ちょっと贅沢が過ぎる。 美雪(私服): (でも……一緒に居るくらいは、いいよね) 圭一(私服): よーし、射的やろうぜ射的!一番大きいのをとったヤツが優勝なっ! レナ(私服(二部)): はぅー、負けないよーっ! 美雪(私服): お、やる気満々! 私もいっちょがんばるか~! 千雨: おい……詩音。お前、いつまで姉貴のふりしてるんだ。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): ……今は魅音と呼んでください、とお願いしたと思うんですが。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): 前に説明したじゃないですか。ちょうどお姉に用事ができたので、話し合って入れ替わることにしたって。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): 詩音はルチーアに軟禁扱いで問題ありませんが、鬼婆が検査入院している今、園崎家次期頭首の魅音が#p雛見沢#sひなみざわ#r不在になるわけにはいきませんので。 千雨: …………。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): あと……私が知らない私がやらかしたせいで、菜央さんにはものすごく警戒されているらしいので。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): 今素直に詩音と名乗るわけにはいかないって説明したと思うんですが……忘れちゃいましたか? 千雨: もちろん覚えてるさ。……でなきゃ、お前の策なんかにおとなしく従ったりするわけないだろうが。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): おぉ、怖い。……ですがまぁ、美雪さんのお父さんと初めて顔を合わせる直前に入れ替わることができたのは、ラッキーでした。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): 鋭そうな人ですからね。些細な違いから入れ替わりを見抜くのが上手そうです。 千雨: ……質問を変える。いつまで私と美雪にお前を魅音と呼ばせて、嘘の片棒を担がせるつもりだ? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): しばらく協力してもらいますよ。そのための協力費として#p興宮#sおきのみや#rまでの交通費、宿代、諸々をこっちで持つ約束は果たしましたから。 千雨: ……そうだったな、それには感謝してる。 千雨: まぁ、菜央ちゃんがギリギリになるまで私たちを興宮に縛り付けて動けなくした……とも言えるがな。見張りまでつけやがって。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): くっくっくっ……お人好しの美雪さんらしくない、ずいぶんと疑り深いお友達ですね。見張りじゃなくて護衛だって言いましたのに。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): それに、ちゃんと菜央さんがやばいって気づいてあなたたちを雛見沢に連れて行ったじゃないですか。 千雨: それもギリギリだったけどな。 千雨: やっぱりお前、何か隠してるな?……いや、別にいい。 千雨: けどな……美雪だって、別にお前を怪しまなかったわけじゃない。 千雨: 迷って悩んで、それでもお前を信じるって言ったんだ。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): ……。わかってますよ、それくらい。 千雨: なら話は早い。隠し事をムリに聞き出すつもりはないが……。 千雨: そっちがそういう態度なら、こっちの隠し事を一方的に聞き出せるとは思わないことだ。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): ふむ、そっちにも隠し事がある……と? 千雨: まだ見せてないカードがあるってだけだ。それを隠し事と呼ぶなら、好きにしろ。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): くくっ……!あなた、本当に美雪さんの友達ですか?タイプ違いすぎません? あはは……。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): ……はぁ……。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): おっしゃる通り、私は大事なことを黙っています。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): ただ、今それを話すわけにはいかないので……今夜だけは大目に見ておいてください。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): あなただって、菜央さんとレナさんの邪魔をしたくないでしょう? 千雨: ……気に食わないな。そういう言い方で反論を封じるのは、卑怯だとは思わないか? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): 正方向で守れないなら、卑怯になるしかないじゃないでしょう? 千雨: ……その通りだ。やめやめ、私の負けだ。言い返す言葉が思いつかない。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): 口では負けたなんて言っていますけど、そんなことは微塵も思ってないでしょう? 千雨: ずいぶんと疑り深い女だな。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): ……その言葉、そっくりそのまま返しますよ。それより、警戒を怠らないでくださいね。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): 鷹野さんは死にました……けど、何も起こらないだなんて私には思えません。 千雨: ……綿流しの夜に、惨劇が起きるってやつか?状況を明らかにするより、菜央ちゃんと姉ちゃんが一緒に過ごすのを認めた責任ぐらい、取ってやるよ。 千雨: 安心しろ、私はこの村とは無関係だからな。正直、この村も村の人間もどうなったってかまわない。 千雨: 誰が敵に回っても、私には関係ないからな……必要なら、誰の首だって跳ね飛ばしてやるよ。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): ……それは心強いですね。 そんな感じに、多少ぎくしゃくがありながらも楽しい時間は瞬く間に過ぎていった。 そしていよいよ綿流しのメインイベント、梨花ちゃんの奉納演舞の時間が迫ってきて私たちは会場へと向かおうとしたが……。 レナ(私服(二部)): ……ごめんなさい。レナはもうそろそろ、失礼させてもらうね。 そう言ってレナは同行を拒み、ずっと繋いでいた菜央の手を……放す。 もちろん、それに対して菜央は驚きと悲しみに打ちひしがれつつもすぐさま食い下がっていった。 菜央(私服(二部)): ど……どうして、お姉ちゃんっ?今夜のお祭りの間はあたしたちと一緒にいてくれるって言ったじゃない! レナ(私服(二部)): うん、さっきまではそのつもりだった。でも、今のレナは……梨花ちゃんの演舞を見ちゃいけないんだと思う。 レナ(私服(二部)): だって綿流しは、身体についた「ケガレ」を流すためのもの。……これから罪を償っていくレナには、参加する資格がないんだよ。 菜央(私服(二部)): ……っ……?! それを聞いた菜央は、はっと息をのみ……みるみる目を潤ませて、俯いてしまう。 きっと、彼女は……違うと言いたいのだろう。レナは決して汚れていないし、罪を背負う必要だってないのだ、と。 だけど……それを審議して判断を下すのは私たちではなく法と、それを司る人々だ。 菜央はとても賢い……というより、賢すぎた。だからこそ、理屈を投げ捨ててすがりつけばレナを困らせてしまうと……よくわかっている。 でも、その悲しくて辛い感情に耐えている彼女の必死すぎる心の動きが……私たちにも切ないほど伝わってきて……っ。 菜央(私服(二部)): ……明日、会いに行くから。 それでも……菜央は震える声を絞り出し、懸命に笑顔を作っていった。 菜央(私服(二部)): あたし……差し入れを作っていくわ。おいしいお菓子、いっぱい持って……。 菜央(私服(二部)): だから、……だからッ……! レナ(私服(二部)): ……うん、ありがとう。楽しみに待っているね、菜央ちゃん。 そう言ってレナは、背後にいた大石さんの部下とともに去っていった。 彼女は、その背中が見えなくなるまで一度も振り返ることなく……。 それを見送ってから振り返った菜央は、目を腫らしながらも……笑顔だった。少なくとも、笑おうとしてくれた……。 菜央(私服(二部)): ……じゃ、行きましょ。いい場所を確保しないとね。 美雪(私服): ……うん。 赤坂: ここで梨花ちゃんが奉納演舞をやるのかい? 美雪(私服): うん、そろそろ始まる時間だと思うけど……。 梨花ちゃんと別れてから演舞台に向かった私たちはなんとか最前席を陣取り、始まるのを待っていた。 お父さんの隣をちゃっかり確保したのは、まぁそれくらいは役得ってことで。 美雪(私服): (私は『昭和B』の奉納演舞見逃したから初めてだな、梨花ちゃんの奉納演舞……って、あれ?) 心の中で首を捻る。 美雪(私服): (時系列的に考えて、『昭和B』で奉納演舞をした梨花ちゃんってもう乗っ取られてたんだっけ?) 美雪(私服): (あれ……? いや、待って。そもそも『昭和B』の梨花ちゃんっていつ、どのタイミングで入れ替わってたんだっけ?) 赤坂: うん……? お父さんの声に思わず顔をあげると、暗がりからこちらに向かってくる白い影……って。 美雪(私服): って……梨花ちゃん? 巫女服姿に着替えた梨花ちゃんが、困ったような顔でこちらに近づいていた。 圭一(私服): 演舞の時間なのに、こんなところにいていいのか? 美雪(私服): あ、いや……この「世界」だと梨花ちゃんのお母さんが生きてるんだっけ。 千雨: あぁ、じゃあ演舞は母親がやるのか。 梨花(巫女服): ……みー。ボクがやる予定でしたが、演舞の前に大事な儀式があると言われて一度戻ってきたのですよ。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(詩音): 演舞前に大事な儀式……?そんなの、今夜の祭りのプログラムにはなかったはずなんだけど……? 助けを求めるつもりで前原くんに目を向けても、彼も初耳なのかきょとん、と首を傾げている。 そんな中。ドン! と大きな太鼓の音がして……。 菜央(私服(二部)): ……ぇ……?! 演舞台を見ていた菜央が、引きつった悲鳴をあげた。 私はまたその声に釣られて、演舞台を見上げて……。 美雪(私服): ……は……っ……?! 凍りついた。 美雪(私服): え……ぁ……え……? 信じられない。いや、信じたい。でも、いや、なんでなんでなんでなんで なんでそんな格好で、あの子が空っぽの瞳で立っているのか、わからない……なんで?!どういうこと?!?! 美雪(私服): か……一穂ッッ??!?!! 柔らかそうなふわふわのくせっ毛を夜風になびかせながら……。 感情の抜け落ちた空っぽの瞳で佇む、公由一穂の半開きの口から。 一穂(神御衣): ――――。 呟きのように小さな声で、何かを告げる……いや、宣うような言葉が……紡ぎ出された。