Part 01: 詩音(私服): よい、しょっと。 ……買い物袋を両手に抱えて帰路を辿る。 多少荷物はかさばっているけど、普段のお供である葛西は今日は休みだから仕方がない。 というか、お目付役の目がないからついうっかり色々と買いすぎてしまったとも言えるのだが。 詩音(私服): さーて、あと必要な物は……おや……? 圭一(私服): はぁ……。 前方にとぼとぼと寂しげに歩く圭ちゃんを発見し、私はそろりと足音を殺して。 詩音(私服): わっ! 圭一(私服): ひっ……?! 飛びすさった圭ちゃんが振り返った瞬間、どこか怯えたような顔があっという間に緩んだ。 圭一(私服): ……って、詩音か。びっくりさせるなよ。 詩音(私服): こ、こっちの方がびっくりしましたよ……。そこまで驚くとは思いませんでしたし。 圭一(私服): あぁ……悪い。その……。 詩音(私服): どうしました? 圭一(私服): ……俺が通ってる塾で、ちょっとな。 詩音(私服): なんです?塾のテストで0点取った、とかですか? 圭一(私服): いや、そうじゃなくて……。 圭ちゃんに耳を傾けているうちに、だんだん手に持った荷物が重くなってきた。このままの立ち話は、ちょっと辛い。 詩音(私服): なんだか複雑そうですし、よかったらここよりも落ち着いた場所で聞かせてもらえませんか? 詩音(私服): はぁ……つまり、生徒同士のトラブルで夏休み中は出入り自由だった自習室が閉鎖されちゃうってことですか? 圭一(私服): まぁ、ざっくり言うとそういうことになるな。 詩音(私服): 閉鎖するほどのトラブルって、何があったんです? 圭一(私服): いや、俺も詳しいことは知らないんだが……塾のヤツに聞いたら、工事業者を入れないとダメじゃないかって話で。 詩音(私服): よっぽど大騒ぎだったんですね。 圭一(私服): 仲よさそうに見えたんだけどな……そいつらは。 詩音(私服): まぁ人間、腹の中では何を抱えているかわかりませんからね。 圭一(私服): 何も抱えていない可能性だってあるだろ? 詩音(私服): ……圭ちゃんはお人好しですねぇ。夏休みに入り浸るつもりだった場所を潰されちゃったってのに。 詩音(私服): というか、そんなに勉強しなくちゃダメなんですか?圭ちゃんってほっといても優秀そうなんですが。 圭一(私服): 勉強もそうだけど、#p興宮#sおきのみや#rの他の学校のやつらとか、違う学年の子から話が聞きたくてな。塾だとそういうの、接点が持ちやすいだろ? 詩音(私服): なるほど。つまり情報収集がしたかったんですね。 圭一(私服): あぁ。けど……まいったな。おかげで夏休みの予定がぽっかり空いちまった。 詩音(私服): 友達同士の喧嘩の余波で夏休みの予定が飛ぶなんて、嫌なとばっちりを食らっちゃいましたね。 適当に頷きながら紅茶に口をつける。舌に豊かな風味が広がると同時に、ひらめいた。 詩音(私服): ……あ、そうだ。圭ちゃん、みんなで海に行きません? 詩音(私服): お姉たちと明後日から行く予定なんですよ。三食宿つきアルバイトつきで。いかがです? 圭一(私服): ……海じゃなくて、最後のアルバイトがメインじゃないのか? 詩音(私服): てへっ、バレちゃいましたか。 詩音(私服): 実はそうなんですよ。親戚の海の家で、バイトの手が足りなくて。 詩音(私服): お姉も頭を抱えちゃっているので、圭ちゃんが来てくれるとすっごく助かるんですが。 圭一(私服): こき使われそうだな……。けどまぁ、魅音と詩音が困ってるなら力を貸すぜ! 圭一(私服): って言いたいけど、水着いるよな?俺学校用の水着しか持ってないからどっかに買いに行かないと……。 詩音(私服): 任せてくれるなら、私が用意しますよ。はーい、1名様ご案内でーす! 圭一(私服): ……そんなに男手が足りないのか? 詩音(私服): 女の子ばっかりですから。いざという時のためにいてほしいんですよ。 詩音(私服): あ、そうだ……ちょっと圭ちゃんに会わせてみたい子がいまして。 圭一(私服): 会わせたい子? 詩音(私服): ……黒沢千雨、って知ってます?最近#p雛見沢#sひなみざわ#rに来た、美雪さんの友達なんですけど。 詩音(私服): ちょっと圭ちゃんの感想を聞かせてもらいたいんですよね。 Part 02: 魅音(水着): それでは海の家バイト、本日終了!昨日以上に今日はお客さんが多かったけど、みんなよく頑張ってくれた! お疲れ! 圭一(ナイト水着): つ、つ……疲れたーっ!海の家バイト、キツすぎる!! 詩音(水着): くす……圭ちゃん、ホールでの働き見事でしたよ。おかげでお客さんの入りも売上も上々でした。 圭一(ナイト水着): 片付け専門だったけどな……。 菜央(水着): 片付けも料理のうちよ。それがあるとないとじゃ、天地の差があるわ。 圭一(ナイト水着): そ、そうか。それならよかった……けど、足が疲れすぎて動けねぇ。 梨花(水着): えいっ。 圭一(ナイト水着): ぎゃあああっ! 一穂(ナイト水着): ま、前原くん?! 羽入(水着): あ、あぅあぅあぅ……り、梨花ぁ!ちょっとつつく程度でもこれ以上はダメなのです! 沙都子(水着): なるほど、では……。 圭一(ナイト水着): おい沙都子! なんだその、潮干狩りの時に使うような鉄製のクマデは! まさかそれで俺の足をガリガリするつもりじゃないだろうな?! 魅音(水着): おっ、沙都子いい物を持っているねぇ。えーっと、おじさんはどうしようかなぁ……。 圭一(ナイト水着): おい魅音、なんでお前はキョロキョロしているんだ。 魅音(水着): いや、この波に乗らない手はないなって思って。 圭一(ナイト水着): 乗るなっ! 詩音(水着): くすくす……でも今日の圭ちゃんの働きなら、エンジェルモートでも即戦力になれそうですね。 レナ(水着): はぅ……圭一くんが、エンジェルモートの制服を着て……? レナ(水着): は、はぅ~~~~♪ 一穂(ナイト水着): レナさん、鼻血鼻血っ! 菜央(水着): レナちゃん、しっかりして!前原さん、よくもレナちゃんを……!! 圭一(ナイト水着): 俺かよ?! 美雪(水着): おう、見事な冤罪成立の瞬間。 閉店後の海の家は、営業中に負けず劣らず大賑わいだ。 千雨(水着): …………。 ただそんな騒ぎを、たった1人……千雨さんだけは、輪に入る気がなさげに眺めている。 彼女と出会うのは何度目かだけど、いつ見ても同じような仏頂面。 詩音(水着): (無愛想ではありますけど、仕事はちゃんとしてくれましたし……) おそらくこのままアルバイトを続けても、それ以外の顔を見ることはできないだろう。 詩音(水着): (となると、やっぱり状況を変えないとダメですね) 詩音(水着): そうだ! 実は皆さんにご相談がありまして。 レナ(水着): はぅ? 詩音(水着): 皆さんが頑張ってくれたおかげで、実は明日の分の食材まで使い切っちゃいまして。 詩音(水着): 明日の海の家ですけど、食材の関係上臨時休業にした方がよさげなんですよね。 美雪(水着): え、それっていいの? 詩音(水着): 売り上げは十分できたのでOKです。で、ちょっと面白い話とチケットを手に入れまして。 詩音(水着): だから明日は、思いっきり遊びませんか? 沙都子(水着): な、なんですのこれは~?! 羽入(水着): い、いつの間に海の上にこんなものが……。 千雨(水着): ……なんだこりゃ。 詩音(水着): 元はテレビの撮影セットらしいですよ。 詩音(水着): 私たちが必死こいてアルバイトしている間に撮影が終了したらしくて、その後一般向けに解放されたそうです。 魅音(水着): で、あんたはいつの間に人数分のチケット確保していたのさ。まさかサボって……? 詩音(水着): あ、じゃあお姉は不参加ですか?仕方ありませんね、じゃあ他の皆で……。 魅音(水着): 行かないとか言っていないでしょーがっ! 羽入(水着): あぅあぅ、海にはこんなものがあるのですね……。 菜央(水着): 羽入は海って、初めてだっけ。あたしも海を行き尽くしたワケじゃないけど、こういうやつは珍しいと思うわよ。 美雪(水着): 私も初めて見るなー。千雨は? 千雨(水着): 私も初めてだな。 梨花(水着): みー……どれも楽しそうで目移りしてしまいそうなのですよ。 沙都子(水着): あの人が透明なボールに入ってるあれ……あれはなんですの? 詩音(水着): よくわかりませんけど、面白そうですね!私はあの透明なボールにします。 詩音(水着): 千雨さんも、一緒にどうですか? 千雨(水着): 私? ……私は、いい。 詩音(水着): そうですか。 詩音(水着): じゃあ行きますよ、お姉! 圭ちゃん! 魅音(水着): は?! なんで私も?! 圭一(ナイト水着): いいじゃねぇか、面白そうだし!競争しようぜ! 詩音(水着): いいですね、負けたら罰ゲームってことで。 魅音(水着): ちょ、ちょっとちょっと! 美雪(水着): おぅ、魅音が詩音に振り回されてる。意外に妹に弱いんだね。 沙都子(水着): 詩音さんが強すぎるだけでしてよ……。 詩音(水着): お姉! 圭ちゃん!なーにのんびりしているんですか? 圭一(ナイト水着): うぉっ……詩音って進むの、上手いな! 詩音(水着): 向かい風には強いんです、私!このままだと一位は私がもらっちゃいますよ~! 圭一(ナイト水着): 負けるかよ……うぉおおおっ!! 魅音(水着): ちょっと、なんで二人ともサクサク前に進めるわけ?!……うわぁああっ!! 沙都子(水着): あ、魅音さんまた転んだ。 羽入(水着): みんなー! 頑張るのですよーっ! 詩音(水着): ぶっちぎりで1位げーっと!最下位のお姉には、どうしましょう。どんな罰ゲームがいいですかね~? 魅音(水着): ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……! レナ(水着): 大丈夫、魅ぃちゃん? 魅音(水着): め、めちゃくちゃ動きにくかった……! 沙都子(水着): そうなんですの? 傍から見ている限りはそうは見えませんでしたが……。詩音さんも圭一さんも進んでいましたし。 千雨(水着): あれは、見た目より進みにくいだろうな。 圭一(ナイト水着): そうそう、意外と進みにくかったんだよな~。けど、海の上に浮いているってなんだか不思議な感覚だったぜ! 魅音(水着): く、悔しい~っ!詩音、リベンジ! もう一回! 詩音(水着): いいですけど、負けたら次は焼きそばですからね。 魅音(水着): いいよ、乗った! 美雪(水着): じゃあ次は私も挑戦してみようかな。千雨もやらない? 千雨(水着): ……賭けはしないからな。 一穂(ナイト水着): が、頑張ってね。美雪ちゃん……ち、千雨ちゃん。 千雨(水着): ……あぁ。 詩音(水着): …………。 Part 03: 詩音(私服): あら、圭ちゃん。どうしたんです、こんな時間に海岸なんて。 圭一(私服): 宿の窓から海に向かう詩音が見えたからな……どうしたんだ、こんな時間に一人で。 詩音(私服): いい感じの夜の海を見ながら、ひとりでちょっと考え事です。 詩音(私服): 圭ちゃんはどうしたんですか?私のこと、心配してきてくれたとか……? 圭一(私服): 心配したのもあるけど、例の話なんだが……。 詩音(私服): ん? 何の話です? 圭一(私服): 詩音が言ったんじゃないか。千雨ちゃんを見てどう思ったか、聞かせろって。 詩音(私服): あら、覚えていてくれたんですか。それでどうです? 圭一(私服): なんと言うか、悪い子じゃないと思うがちょっとひっかかると言うか……。 圭一(私服): そうだ……自習室壊すほど喧嘩した子の中のひとりと千雨ちゃん……が、似ている気がしたんだよな。 圭一(私服): 顔とか見た目じゃなくて、なんと言うか……雰囲気って、言えばいいのか? 詩音(私服): なるほど。周りは全部敵だ、みたいに目を血走らせているって印象ですか。 詩音(私服): 千雨さんへの印象の大枠は私と違わないみたいですね。よかったです、私だけじゃなくて。 圭一(私服): 詩音も同じ感想を持ったのか? 詩音(私服): 感想というか、見覚えがあるって感じですかね?前の学校にたくさんいましたから、あんな子は。 詩音(私服): 本人は隠しているつもりかもしれませんが、全然隠しきれていないんですよねー。 詩音(私服): お姉なんて#p雛見沢#sひなみざわ#rに来たばかりだから緊張しているんじゃないか、って言うんですけどあれは絶対違うと思っています。 詩音(私服): 圭ちゃんと意見が一緒でよかったです。けど、よく気づきましたね。 詩音(私服): もしかして、見覚えがあるんですか? 圭一(私服): 見覚えというか、身に覚えが……いや。それより詩音の前の学校ってどんなところなんだ? 詩音(私服): あんまり楽しいところじゃありませんでしたね。だから逃げてきちゃいました。 詩音(私服): 理由はわかりませんけど、千雨さんにとっては今の環境はそれに近いところにあるんじゃないですかね。 詩音(私服): 隙があれば逃げ出したい、みたいな。 圭一(私服): 俺たちと一緒なのが、楽しくないのか? 詩音(私服): 私の前の学校だって、楽しんでいる人はいましたよ。私は楽しめなかったですけどね。 詩音(私服): まぁ、そう思えるようになったのは時間が経ってたからですけどねー。 圭一(私服): …………。 詩音(私服): 千雨さんですけど、美雪さんと一緒の時は落ち着いてますし……表立って何かする感じはなさそうです。 詩音(私服): 沙都子や年下に対しては、そこそこ優しい態度見せてますし。 詩音(私服): 一穂さんと妙に距離を取っているところが気になりますが……単に気弱なタイプが嫌いなだけかもしれませんね。 詩音(私服): その辺、美雪さんに確認してみたいですけど……彼女を呼び出してこっそり話を聞く、とかは現状やめておくべきかと思います。 詩音(私服): 一度不信感を持つと、しつこそうですから。なので現状としてはひとまず様子見かな、と思うんですが……圭ちゃんはどう思います? 圭一(私服): …………。 詩音(私服): 圭ちゃん? 圭一(私服): あ、あぁ。 詩音(私服): なんですか、その生返事は。反論があるなら素直に言ってくださいよ。 圭一(私服): 千雨ちゃんについては今は様子見でいいと思う。それより……。 圭一(私服): 詩音って周りのこと結構見ていたんだなって。 詩音(私服): …………。 詩音(私服): くすっ……。 詩音(私服): ちょっと圭ちゃん、それ失礼ですよ。私がまるで何も見えていないみたいじゃないですか。 詩音(私服): まぁ、そういうところは皆無とは言えませんけど……でも、私だって色々考えてるんですよ? 詩音(私服): どうすれば、幸せになれるのかって。そのためなら、どんな努力もします。 詩音(私服): ……でも、ひとりで頑張るのは辛いですから。 詩音(私服): 圭ちゃんが一緒に頑張ってくれると、心強いです。 圭一(私服): あ、あぁ……そうだな。俺も詩音が一緒だと思うと、心強い。 詩音(私服): 裏切らないでくださいね? 圭一(私服): おいおい、俺が裏切ると思っているのかよ。 詩音(私服): だって圭ちゃん、お人好しですから。コロッと騙されやしないか心配です。 圭一(私服): おいおい、それお人好しか? 魅音(私服): ちょっと詩音! 圭ちゃん!2人で何やってるのさーっ! 詩音(私服): あら、見つかっちゃいましたね。行きましょう、圭ちゃん。 詩音(私服): ……頼りにしてますからね。 圭一(私服): おうよ!