Part 01: #p高野三四#sたかのみよ#r: ふぅん……この期に及んで追加発注なんて、厚生省もずいぶんと無理を言ってくれるものね。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 自分たちが言えば、瞬時に倍にできるとでも……?製造には材料が必要という前提が理解できていないなんて、中世の魔法や錬金術にでもすがるつもりなのかしら。 スーツの男: ……皮肉を仰りたいお気持ちはよくわかります。ですが、先方も相当苦しい状況にあるようです。 スーツの男: 今週も、周辺国と懇意にしている与党代議士数名が閣議や事務次官への連絡もなく治療薬の無料提供を勝手に宣言したりしていましたので……。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 思いもよらぬ幸運で政治的切り札を手に入れて、舞い上がった気分で濫用している……というわけね。若手官僚たちの怒る様子が目に浮かぶようだわ。 #p高野三四#sたかのみよ#r: ただ、そんな政治屋連中の首に鈴をつけられないのも存外不甲斐ないわね……出世のための保身が過ぎる印象よ。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 昭和から平成の間に日本から気骨のある公務員が死に絶えたというのは、マスコミの劣等感が生み出したレッテル貼りやデマだと思っていたけど……。 #p高野三四#sたかのみよ#r: その認識は、そろそろ下方修正すべきなのかしら。元出身としてあなたの意見はどう、杉ノ下……? 杉ノ下: ……憶測では申し上げられません。彼らの置かれた環境や立場、上役からの指示内容を正確に把握しているわけではありませんので。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 無難かつ面白味のない回答ね。……でも、そういった常に正確を重んじる姿勢はこの場合とても満足できるものよ。 #p高野三四#sたかのみよ#r: それで、工場のラインは対応できそう? 杉ノ下: 休眠中のCラインを再開すれば問題ありません。他の製造ラインと比べても能力自体に遜色はなく、法に従って休ませていただけでしたので。 杉ノ下: Bラインも来週以降のロット納品分の生産をすでに終えて、現在は機器類のメンテナンス中です。工場長からの報告では、明日中に再稼働できると。 #p高野三四#sたかのみよ#r: これで稼働率は、従来の約120%……歩留まり率が悪化しないよう、現場への注意を徹底して。万が一にも不良品が市場に出回らないようにね。 杉ノ下: かしこまりました。……報告は以上になります。 #p高野三四#sたかのみよ#r: ご苦労様。あっ……そういえば、ユプミルナに出向していて今日戻るはずの彼……名前はなんだったかしら? 杉ノ下: 大高……のことでしょうか。彼でしたら、既に成田に到着している頃です。 杉ノ下: 出発前にあった連絡だと、本日の勤務時間内にここへ帰社するとのことでした。 #p高野三四#sたかのみよ#r: じゃあ、戻り次第私のところへ顔を出させて。向こうで行われた話し合いについての肌感を、直接確かめておきたいから。 杉ノ下: ……昨晩提出させていただいた議事録と報告書に、何か不備でもありましたか? #p高野三四#sたかのみよ#r: くす……そうじゃないわ。たとえば現場での真実味や相手の#p思惑#sおもわく#rについては、出席した本人だけが感じるものがある。 #p高野三四#sたかのみよ#r: その辺りの勘の良さを見込んで引き抜いたんだから、対価に見合った働きをしてもらわないとね。 杉ノ下: わかりました。では、本人と連絡がつきましたらそのように申し伝えておきます。 杉ノ下: ただ、そういうご意向であれば私どもの方から本人に事前の説明を綿密に行っておくべきでした。……気が回らず、申し訳ございません。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 謝る必要なんてないわ。子どものお遣いじゃあるまいし、種明かしをすると本人の力なのかわからなくなるでしょ? #p高野三四#sたかのみよ#r: わざわざ高い評価と報酬を与えている以上、常に上から動向を見られているという自覚と緊張感を持ってもらわないと……ね。 杉ノ下: ……。確かに、オーナーの仰る通りです。 #p高野三四#sたかのみよ#r: あなたも、他人事じゃないと考えなさい。上層部が『ノブレス・オブリュージュ』を忘れた時、それは組織の腐敗と退行に繋がるのよ。 杉ノ下: ……恐れ入りました。肝に銘じて、研鑽いたします。 #p高野三四#sたかのみよ#r: えぇ、期待しているわ。 #p高野三四#sたかのみよ#r: ……っと、次の予定まで時間があるわね。声をかけるまで、人払いをお願いできるかしら。少しだけ休ませてもらうわ。 杉ノ下: かしこまりました。……では、失礼致します。 頭を下げ、杉ノ下と呼ばれた男が退出する。そして重々しく扉が閉まるのを見届けてから、高野は軽くため息をついた。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 企業が大きく有名になれば、優秀な若手は集まる。……ただ、反比例的に自分の頭で考える人材が減ってくるのは、いわゆる企業病というものかしら。 #p高野三四#sたかのみよ#r: あるいは、自らの判断で失敗することを恐れる日本人の特徴と考えられるかもしれない。……西園寺雅ちゃん、あなたはどちらだと思う? そう呼びかけながら振り返ると、奥の本棚のそばに女学生らしき制服を身にまとったひとりの女の子の姿が視界の中に入ってくる。 雅: …………。 少なくとも、先ほど話をしている時……そこには誰も「い」なかった。さらにカーテンの裏側など、身を隠すことができるような死角はどこにもない。 突然そこに現れたような、異常な存在感。……にもかかわらず高野は特に驚いた様子もなく、妖しい笑みを浮かべたまま向き直った。 雅: ……ここに呼び出した理由は? #p高野三四#sたかのみよ#r: 今、面倒な話を聞かされたばかりなんだから……お茶を飲んで、気分転換をさせて頂戴。 そう言って高野は、部屋の片隅に用意されたミニキッチンへと移動した。 戸棚から白磁のティーポットと揃いのティーカップを2つ取り出して、最新式の電子ポットの湯を中に注ぐ。 そして、すぐに全ての湯を捨て……ティーポットへ量った茶葉を入れてから湯を注ぎ、砂時計を逆さにした。 #p高野三四#sたかのみよ#r: …………。 雅: …………。 沈黙の中、やがて砂時計の砂が全て下へと落ちる。ティーカップへと紅茶がなみなみと注がれて……。 それを手にとった高野が応接用のテーブルに戻るまでの間、雅と呼ばれた少女は微動だにせず直立の姿勢で挙動を見つめていた。 #p高野三四#sたかのみよ#r: どうぞ……座ったら? 雅: …………。 促してもその場から動こうとしない少女へカップを差し出し、自身はソファに座って早速口をつける。 時間をかけて、香り豊かになった紅茶はやはり格別だった。手前味噌の自賛でしかないが、淹れ方を教わっておいてよかったと本気で思う。 #p高野三四#sたかのみよ#r: (コーヒーがインスピレーションを与えるのなら、さしずめ紅茶がもたらすものは安らぎかしら……?) なんて埒もないことが頭に浮かんで、高野は思わず口元にほころびを覚えていた。 #p高野三四#sたかのみよ#r: ここまでは、おおむね計画通りね。厚生官僚の一部が横やりを入れてきた時は、少し嫌な感じがしたものだけど……。 #p高野三四#sたかのみよ#r: あなたの提案通り、外……外資企業をバイパスしたおかげで、順調にことが進みそうよ。 雅: ……この国の政治家と官僚は外圧に弱く、国内企業を育てるという感覚がない。 雅: だったらそれを、逆手に取ればいい……なんて私に、偉そうに語ったやつがいた。そいつの受け売りを思い出しただけ。 #p高野三四#sたかのみよ#r: へぇ……鋭いわね、その子。いつか機会があったら、紹介して頂戴。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 身に合っていない扱いを受けているようだったらすぐにでも引き抜いて、経営戦略室の一員として辣腕を振るってもらいたいくらいよ……くすくす。 雅: ……無理だと思う。彼女の背後には、たくさんの「星」が集まっている。それに金で動くほど、困窮もしていないはず。 #p高野三四#sたかのみよ#r: それは残念ね。でも、状況や環境なんて本人の意思とは異なる要因で変わるものだから……その子のこと、覚えておくわ。 #p高野三四#sたかのみよ#r: いずれにせよ……昭和が終わって平成になっても、日本人から負け犬根性はいまだに抜けない。それが自縛に繋がると理解しているはずなのにね。 #p高野三四#sたかのみよ#r: そして大衆は、頑なで自尊心を優先するお偉方に不満を持ちながらも、責任を取ることを恐れ……自ら動いて物申すことは決してしない。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 一方でとても誠実な人柄だから、上意下達に対しては基本的に従順で秩序を重視。操りやすい民で、本当に助かるわ。 雅: ……っ……。 無表情だった雅の眉間に、わずかだがしわが寄る。ただ、それが彼女の何の感情を示していたのかは窺い知ることができなかった。 雅: ……ユプミルナが、こちらの思惑に逆らって別行動を起こす可能性は? #p高野三四#sたかのみよ#r: ないわね。 間髪入れぬ否定に疑念を持ったのか、雅は怪訝そうに目を細める。 すると高野は、もう一口紅茶をすすった後に教え説くようなゆっくりとした口調で続けていった。 #p高野三四#sたかのみよ#r: まぁ……治療薬のレシピをタダ同然で渡すってこちらから提案した時は、確かに警戒されたわ。ビジネスとして正気じゃない、とか言ってね。 #p高野三四#sたかのみよ#r: ただ、さっきも言った日本人のお人好し気質が世界的にも有名なのと……ユプミルナの創始者が日本贔屓だったことが、功を奏したのよ。 #p高野三四#sたかのみよ#r: あと、今は引退したその人と一緒に冒険したっていうとある日本の若者との武勇伝のおかげもあって……こちらのことを全面的に信じてもらえたわ。 雅: ……。最初からそういった事情が先方にあると把握していたから、あなたたちはユプミルナを交渉相手に選んだ。……そう言っていなかった? #p高野三四#sたかのみよ#r: あら、そうだったかしら?あなたとその話をしたのはかなり前のことだったから、すっかり忘れていたわ……くすくす……! とぼけたように高野は、大げさに肩をすくめてみせる。……相手を小馬鹿にしたようなその態度と振る舞いが、雅はずっと前から大嫌いだった。 #p高野三四#sたかのみよ#r: いずれにしても、利益よりも人助けが大事……よって私たちは儲けを出そうなんて、全く考えていない。 #p高野三四#sたかのみよ#r: ……なんて情に訴える大演説をしたら、創始者は目を潤ませながら両手で握手をしてきたわ。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 「あなたは天使だ、いや女神だ」……なんて美辞麗句を連呼されてね。さすがにちょっとだけ、恥ずかしかったかしら。 #p高野三四#sたかのみよ#r: まぁ、大半の連中はこちらの脇の甘さにつけ込んでしっかり回収していくつもりなんでしょうけど……。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 偉い人が信頼した人間と同じ民族の言葉だから、信用できる……なんて、個体差という大前提を忘れた判断を下すあたり、あの会社も長くないと思うわ。 そう言って笑う高野の顔が、紅茶の水面に映る。 その表情をごく一般的な感性を持った人間が目にすれば、おそらくこうたとえるだろう。 「まるで悪魔に魂を売ったような……いや、悪魔そのものの禍々しい笑みだった」と。 雅: …………。 そんな偽善の聖女に目もくれず、雅はソファ越しに冷めていく卓上のカップを黙ったまま見つめている。 ……容貌には、感情らしき気配がない。ただその瞳には、青い炎を思わせる冷たい何かが宿っているようだった。 #p高野三四#sたかのみよ#r: それで……やっぱりあなたは、「また」行くつもりなの? #p高野三四#sたかのみよ#r: この「世界」に留まったままでも、もはや私たちの勝ちは揺るがないというのに……ずいぶんと慎重な働き者さんなのね。 その問いかけに答える代わりに、雅はくるりと踵を返して背中を向ける。 高野の言葉に含まれた皮肉に気づかなかった……わけがない証拠に、顔は見えなくてもその肩には激しい感情が波動となって立ち込めていた。 雅: ……まだ、決まったわけじゃない。「彼女」が昭和58年にいる限り、終わらない。 雅: だから――。 ポケットに手を差し入れ、中から1枚の「カード」を取り出す。 それを手の中で一回転すると、小さな長方形の紙片は長刀へと姿を変え……。 続いて繰り出された指揮棒を振るうような虚空への一薙ぎは、奇妙な裂け目を生み出した。 雅: 決着をつけに行く。そして、全てが終わったら――。 底なしの沼のごとく、終わりを感じさせない深淵を奥に潜ませた裂け目へと手を伸ばしかけ……。 ぎろり、と明確な敵意を込めて――雅は肩越しに振り返り……告げていった。 雅: 最後に、あなたを――殺す……ッ! その言葉を最後に、彼女の姿は裂け目の向こうへと消えていく。 残ったのは、1人の女と2組のティーセット。 #p高野三四#sたかのみよ#r: …………。 高野は裂け目へ消える直前、少女が振り返りざまに自分へさし向けてきた刃物のように鋭い視線を思い出して……。 #p高野三四#sたかのみよ#r: ……くすくす。 #p高野三四#sたかのみよ#r: くすくす……くっくっくっ……! #p高野三四#sたかのみよ#r: あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!! 部屋に似合いの静かな優美さを、飽いたおもちゃのように投げ捨てながら大声で哄笑した。 #p高野三四#sたかのみよ#r: いいわよいいわよ! 殺せるものなら殺してみなさい! #p高野三四#sたかのみよ#r: たかが人間ごときが神に抗えるか、実に見物だわッッ!! Part 02: ……ここを通って荒れた山道を進み、鬼樹のある場所へと向かったのは数時間前のことだ。 前に進む私たちの胸には、決意があった。命さえ賭けてもいいという、強い覚悟も……。 なのに……それなのに……。 美雪(私服): (こんなにも早く、古手神社に戻ってくることになるなんて……) とにかくいたたまれないというか……情けないし、申し訳ない思いで一杯だ。 ただ、あの場所に留まっていても訪れた当初の気分で結論を出すことなんてとてもできない。……できるわけがない。 そう考えた私たちは恥を忍び、落ち着いて考えをまとめられる場所まで引き返すことにしたのだ……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 美雪さん、菜央さん……?! その声を聞いてのろのろと顔をあげると、こちらに向かって駆けてくる絢さん……いや、絢花さんの姿が見える。 表情が乏しい印象だった彼女が、明らかに驚きをその顔に浮かべているのが遠目でもわかって……。 ぎゅっ……と胸が締めつけられるように苦しくて、つい逃げ出したくなる気持ちを私は必死に抑え込んでいた。 美雪(私服): んー、えっと……その、すみません……。 美雪(私服): 威勢良く飛び出していった手前、正直すっごい恥ずかしいんですけど……。 美雪(私服): また……戻ってきちゃいました。はは、ははは……。 笑う声が、自分でも痛々しいと感じる。ただ、それを聞いている他のみんなはもっと居心地が悪いのか……誰も追随してこない。 菜央(私服(二部)): …………。 それでも、俯いて何も言えず……私のシャツを握りしめている菜央のためにも、虚勢を張らずにはいられなかった。 采: ……少し、時間をくれてやるのです。明日の朝……、またここに来るといいです。 川田(私服ストールなし): ぅ、采、様……。 采: 『御子』は、もう語らなくてもいい。……これ以上の要素は、ただ混乱に繋がるだけ。 采: 無能の働き者は、今後の策においてチョー邪魔でチョー無駄。お前の役目は、もう必要ないのです。 美雪(私服): って、そんな言い方は……! 川田(私服ストールなし): ……は、ぃ……。 思わず反論しようとした直後、川田さんの力なく応じる声が小さく聞こえて……。 灯さんに羽交い締めされて暴れていたはずの彼女は、突然糸が切れたようにがっくりと崩れ落ちてしまった。 灯: って、あおい……?! 巴: 大丈夫、気を失っているだけみたいよ。……何をしたの? 采: 何もしていない。元より『御子』の力は、かなり前に尽きていた。動けていたのは、我の『護符』の恩恵。 采: さりとて依存を続ければ、魂の維持が困難になる。その前に休止させた……と言えなくもない。 魅音(25歳): あれだけ複数を相手に立ち回っていながら、実は体力ゲージ真っ赤だったってこと……? それだけ「カード」が強力だったのか、あるいは精神力が規格外だったのか……いや、おそらくその両方なんだろう。 世界を救うために、自ら進んで悪になる……やり方の正誤はともかく、彼女の並々ならぬ覚悟を私たちは改めて思い知らされていた。 采: ……先に言っておくのです。『御子』への干渉も、我の計画に対して著しい悪影響を及ぼす。 采: よって、『御子』はお前たちの手に渡さないです。これ以上の戒めは、我への敵対行為と見なすです。 レナ(24歳): はぅ……つまり、川田さんが今までやってきたことを許してあげてほしいってことかな……かな? 采: っ……? その表現は、正しい……とは全然違うです……っ! 采: 角の民、チョー訂正を求めるです。我、そんな優しい神ではないです……! 千雨: ……なんだ、照れ隠しか?#p田村媛#sたむらひめ#r命といい、神様ってやつは素直じゃないやつばかりだな。 采: むがーー!!あのポンコツ無愛想神と比べるなんて侮辱の極み! チョーチョー不遜っっ!! 采: やっぱりお前らは、我の敵!協力の話はチョー白紙です!! 千雨: ……ふざけんな。今さらそんなこと言われて、そうですかって引き下がれるわけがないだろ。 千雨: 落とし前は、ちゃんとつけてもらうぞ……先に言っておくが、私は神でも悪魔でも容赦なく全力で刃向かえる性分だからな。 そう言って千雨は、鼻先が触れんばかりに自分の顔を采様に近づけながら……低い声で凄んでみせる。 表情は、後ろ姿だったのでよくわからない。ただ、それを至近で見た采様は「……うっ」と短い悲鳴を上げて少し怯んだ様子だった。 采: み……明朝まで、時間をくれてやるです。せいぜい悔いの無い時間を過ごすといいですよ。 その後……采様はそそくさと姿を消し、あとには重い沈黙に包まれた神域だけが私たちの周囲に広がっていて……。 川田さんの容態が心配だから、彼女を抱えていったん山を下りる……と南井さんが言い出したのをこれ幸いに、私たちも追随することにしたのだ。 美雪(私服): (明日の朝まで、時間をやる……か。つまり、それまでに覚悟を決めろってことだよね) もし、私たちが命惜しさにここを逃げたら……おそらく「世界」は最悪の事態を迎えることになる。 また、采様の指示に従って過去に飛び……そこで失敗しても、やはり結末は同じで地獄絵図。 そして、成功すれば「世界」は救われるが……私たちは存在ごと消滅して、未来を永遠に失う。 全ては、田村媛命の力による悪影響をなくすため。かの神様によって図らずも強化されてしまった、「世界」を滅ぼす因子……。 それを消し去るがための、確実……かつ唯一の選択だった。 美雪(私服): (以前川田さんは、私たちに忠告してきた。これ以上「世界」を変えようと考えるな……って) 美雪(私服): (あれって結局、田村媛命の力を抑えていれば私たちは放置しても問題ないから見逃してやる、ってことだったんだね……) ただ……彼女を『御子』に据えた采様は、危険の芽を放置せず摘み取ることに決めたようだ。 采様は自分の意思で「来い」と言ったが、来なかった場合は自ら手を下すに違いない。私たちを殺すか、消すか……それとも……。 おそらく、自らの手で責任を取れというのはあの神様なりの慈悲なのだろう。……そう考えなければ、やっていられなかった。 美雪(私服): (それに……逃げたところで、意味はない) 田村媛命の復活による最悪の可能性を潰さずとも、私は自分の犯した罪に押し潰されそうになっている。 街中のたくさんの人々が、千雨が……血を吐きながらバタバタと倒れる光景が脳裏に蘇ってくる。 美雪(私服): (田村媛を復活させたから、起きた未来……) 美雪(私服): (私のせいで、「世界」が滅ぶ……。だったら、選べる道なんて……ひとつしか……) #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 美雪さん……? 美雪(私服): え、えへへ……なんかもう、笑うしかなくて……。 できるなら、毅然とした態度を取りたかった。……けど、それができない以上はもう笑ってこの場を取り繕うしかない。 美雪(私服): (正直、笑う以前に喋ることも苦しいけど……) ここで衝動に任せて絶望し、泣きわめいたら……私はもう、自分自身を罵倒するしかできることがなくなってしまう。 ……まるで、道化師だ。そして自分では、以前よりも心が強くなったと思っていたつもりだったけど……。 結局のところ、私は以前と何も変わっていない。無力で、臆病で……誰かいないと何もできない、根性なしの情けない女子だった……。 菜央(私服(二部)): …………。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: …………。 と、力なく笑う私……そして立っているのもやっとの菜央を交互に見て、絢花さんは何かを察したのか……。 元よりあった表情の影をさらに色濃いものに変え、憂鬱そうに目を伏せて……ぽつりと、言った。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……知ってしまったんですね。この「世界」を壊すことになってしまった、その原因を……。 千雨: っ……あんたは……ッ! それを聞くや、隣にいた千雨が砂利を蹴飛ばす勢いで絢花さんとの距離を詰めて、その胸倉を掴み上げる。 そして、苦悶の声を上げる彼女に鋭く見据えながら吠えるように怒鳴っていった。 千雨: やっぱりあんた……最初からわかってたんだな?!田村媛を復活させるのが、何を意味するのか!こいつらが過去に行くってことがどういうことか! 千雨: わかってたなら、なんで……なんで美雪たちを行かせたんだっ?あんたなら止められたはずだろ?! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……っ……! 千雨: こいつらを見殺しにするつもりだったのかっ?「世界」の救済のためなら2人やそこらの命なんてどうでもいいってことなのか、えぇっ?! レナ(24歳): ま……待って、千雨ちゃん!絢花ちゃんは、そんなつもりは……! 千雨: じゃあ、どういうつもりだったんだ?!あのままだと、うまくいってもいかなくてもこいつらは死んでたってことだぞ?! レナ(24歳): ……っ、それは……! 千雨: ……答えろ、絢花さん!あんたがやろうとしてたのは、人殺しと同じだ!違うなら違うってその口で否定してみろよッ!! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……っ……! 絢花さんが苦悶の表情とともにつま先立ちになり、ひっ……と菜央が喉奥を引きつらせる音に遠のいていた意識が、急速に現実味を取り戻す。 菜央(私服(二部)): や、やめて……! 美雪(私服): 待って、千雨!そんなことしたら、絢花さんが……! 千雨: なんで止める?! こいつはお前たちに、今なら一穂を……友達を助けられるってエサをぶら下げて、過去に行かせて……! 千雨: 騙したまま、殺そうとしてたんだぞ!そのエサだって、今となっちゃ怪しいモンだ! 千雨: あんた、知らないだろ?!こいつらがどれだけ、一穂ってやつを助けたいと思ってるか! 千雨: そのおかげでこいつら、何度も何度も死にかけた!!危険な状況なんて、それこそ数えたらきりがねぇ!! 千雨: こいつらが生きてるのは、奇跡でしかないんだ!少しの掛け違いだけで、間違いなく死んでた!! 千雨: 何度も巻き添えで死にかけた私が言うんだ、間違いねぇ!! それでも諦めずにギリギリの死線をかい潜って……辿りついた先が地獄の強制選択だ!! 千雨: 大勢の人間が血反吐吐いて死ぬか!!美雪と菜央が過去に行って死ぬか!! 千雨: なんでそんなクソみたいな選択しなきゃならないんだ?!こいつらが何かしたかっ? いったい誰が決めたんだ?! ひとつ、ふたつと千雨の足元の玉砂利の色が変わる。 ……千雨が、泣いていた。 お父さんが死んでも泣かなかった千雨は、全身を震わせて……泣いていた。 千雨: なんで……なんで、なんで……!こいつらに辛い選択をさせやがる……?! 千雨: 世界を救うなんてのは、もっと……!神懸かり的な能力持ったヤツとか!イカれた正義感に酔いまくったヤツとか! 千雨: 英雄みたいに、他とは違ってるヤツが引き受けるもんだろうが……ッ! 千雨: 美雪と菜央はただのガキだ!どこにでもいるフツーの女の子だ! 千雨: 何の権限も権利も与えられなかった!なのに、どうしてそんな選択の義務だけを押し付けやがる?! 美雪(私服): 千雨……っ……。 千雨: あんた巫女なんだろ?! 神様に仕えてるんだろ?!じゃあ神様に聞いてくれよ、頼むから! 千雨: 神様ってのはどうして、どうして……! 千雨: 人を見る目がないんだって……!!! 千雨の腕が少しずつ下がり、やがて絢花さんの足が地面へと下ろされる。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: けほっ、げほっ……っ……ごほっ……。 千雨: うっ、ぐっ、う…………ぅ……! 軽く咳き込む絢花さんを、棒立ちになった千雨は涙をこぼしながら睨みつけていた。 菜央(私服(二部)): 千雨……。 ……わかっている。私も、菜央も……千雨の怒りの根幹は私たちの理不尽に対するものだと。 『御子』でしか田村媛命を復活させられないのなら、『御子』ではない千雨の行動は決定打になり得ない。 ……間接的な関与はできても、惨劇の引き金を引くことはできない。 だから、無意識に元凶となった私たちの理不尽を代わりに怒って、嘆いてくれる千雨を止める言葉を……今の私たちは、持っていなかった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: こほっ……。 絢花さんは咳を収めると、目を開いたまま涙を流す千雨とその後ろで一歩も動けない私たちを見て。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 私は、真の意味で神に仕えていません。この巫女服はお仕着せ……何の意味もない布です。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: だから、私には力がない……その代わりに私は、あなた方に事実を伝えることができます。 美雪(私服): 事実……って、どんな話……? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: やっと、打ち明けられる時が来ました。今まで誰にも話していなかったこと……どうか、聞いてください。 美雪(私服): 千雨、大丈夫? 千雨: ……ん……。 案内された社務所に腰を落ち着け、目を真っ赤にして鼻をすする千雨の頭を撫でる。 菜央(私服(二部)): …………。 反対側では菜央が猫のように黙って身体を千雨に寄り添わせ、時折不安そうな顔で千雨を見上げていたけど……。 落ちてくる涙が収まるにつれて、少しずつ表情を和らげた。 美雪(私服): (千雨はもう、大丈夫……あとは……) 部屋の片隅に敷かれた布団に寝かされた川田さんは、まだ目覚めない。 レナ(24歳): 大丈夫かな……かな。やっぱり病院に運んだ方がいいと思うんだけど……。 灯: 呼吸も脈も問題ないから、命に別状はないと思うんだが……。 巴: 目を離さないようにしないとね……またいなくなっちゃいそうだから。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……戻りました。 南井さんが心配そうに眠る川田さんの頭を撫でた時、部屋を出ていた絢花さんがお盆を片手に戻ってきた。 巴: おかえりなさい、絢さん。布団を貸してくれて、助かったわ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: お気になさらず……粗茶です、どうぞ。 人数分の湯飲みをテーブルに置き、絢花さんが畳の上に腰を下ろす。 灯: ……それで、私たちに何を話したいのかな? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 私が知る……事実を。 場の空気が落ち着いたのを確認するように周囲を見渡し、絢花さんは居住まいを正すと静かに口を開いた。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 全ての始まりは……西園寺雅。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 今から70年ほど前に本来死んでいたはずの人物が、何があったのかは不明ながらも生還し……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あまつさえ『繰り返す者』の力を得てしまったことが原因なのです。 レナ(24歳): 『繰り返す者』……って? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 端的に申し上げるならば、時間旅行者。過去や未来に戻る能力を持った人です。 魅音(25歳): 時間旅行者……タイムトラベラー。つまり、美雪や菜央ちゃんと同じ力を持っているやつってわけだね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……近いですが、同一ではありません。美雪さんたちと違って、彼女は意のままに過去と未来を行き来できるからです。 巴: 意のままに……って、どんな時間軸にでも特定の条件や制限なしに移動が可能ってこと? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: その通りです。……しかもあの人は、年老いることが決してない。肉体の時間因子が進行を停止しているのです。 美雪(私服): …………。 魅音(25歳): にしても、70年ってのは中途半端な年数だね。何か意味でもあったりするの? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ありますよ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 70年前といえば、神々の裁き……人の手では対処できない脅威を意識させられた#p未曾有#sみぞう#rの大災害があったはずです。 巴: 70年前……未曾有の大災害……。 巴: あっ……?! 関東大震災?! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そうです。 南井さんの指摘に、絢花さんは静かに頷く。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 1923年、9月1日……関東一円が、大地震に見舞われました。死者と行方不明者は、10万人以上。 美雪(私服): 10万人……っ? その数が膨大すぎて、とても実感がわかない。 #p雛見沢#sひなみざわ#rでさえ、大災害での犠牲者が数千人……単純に考えてその数十倍の命が奪われたということだ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: この分社が置かれた地域にあった集落も、山津波……土石流によって村の大半の方々が亡くなったと聞いています。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 実際、この村のある場所では……かつては全身像だった観音様が土石に埋まり、上半身の一部だけが出た状態になっています。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: また、運の悪いことに当時の駅には東海道本線の汽車が止まっていたので……それも山津波に飲み込まれました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 駅舎ごと流された機関車と客車は海へと転落し……乗客全員が行方不明のまま、死亡扱いとなったそうです。 美雪(私服): (あれ……その話、前の「世界」で絢花さんに聞いたような……) 確か、絢花さんは言っていた。この神社は関東大震災で起きた被害者たちを慰霊する場所なんだと。 その記憶を掘り返し、ようやく雛見沢によく似せたこの場所が高天村であることを思い出す。 美雪(私服): (ここでも、山津波……土石流の被害者たちが出た。いや、地理的に考えて被害は内陸の方が大きいはず) #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そして、事故から20数年が経過した昭和40年代。地質学を専攻していたとある学者が山津波の被害に遭った地域の調査を行いました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 最初は、考古学としての活動だったそうです。かつて起きた自然災害の悲劇を記録にとどめ、再発を防ぐきっかけ作りになればいい……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そこには、野心や打算などは一切なかった。戦災により過去の記録が失われていたので、大学もかなりの支援を行ったとのことです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ただ……その調査によって偶然、教授は山津波が地震ではなく別の要因で発生した……その可能性に辿りつきました。 菜央(私服(二部)): 別の要因で発生した……可能性? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 当時の日本陸軍は、集落の中心となる山に爆薬庫を設けて……火薬を管理していたのです。起こりうる、海外への戦地拡大に備えて。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: その火薬が地震の衝撃で大爆発を起こし、結果として……山津波が発生した、と。 美雪(私服): (あ……!) 灯: 実は震災後しばらくしてから、直接の原因が自然災害だとしても土石流の発生規模があまりにも大きすぎるんじゃないか……? 灯: なんて疑問が、一部の界隈で沸き上がったそうなんだ。他の要因も、加わっていたんじゃないかってね。 美雪(私服): 他の、要因……? 灯: 調査を行った、とある大学の研究室によると……どうやらこの近辺には、旧陸軍が非公開にしていた弾薬庫があった可能性が高いらしい。 灯: それが震災によって発生した火災によって暴発し、大規模な土石流を引き起こした……なんて仮説も存在するそうなんだ。 美雪(私服): 確か灯さんも、同じことを言ってた……?! 灯: …………。 私の声に、場の視線が一斉に灯さんへと集中する。……しかし彼女は黙したまま、気づいていないと振る舞うかのようにお茶を口にしていた。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……この話は、西園寺家のみに伝えられた秘匿情報です。国家でも記録は抹消されています。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: なのに……どうしてあなたが知っているのです?誰から、どこからその情報を入手されましたか? 灯: 悪いけど、情報の提供元は教えられない。それが相手から聞き出した交換条件だったからね。 灯: ただ、この件については一切隠さないつもりだし、嘘も絶対に言わず真実だけを語るとここに誓おう。……話を続けてもらえるかな? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……。わかりました。 穏やかに促され、再び絢花さんは口を開いた。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 爆発そのものは、自然災害が原因で起きた事故です。国家の責任になるかと問われれば難しいところでしょう。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 山火事など想定できる災害への防止策は施していても、未曾有の大地震の発生までは予期していなかった……不条理ではない弁明だと思います。 千雨: まぁ、国も地震が予測できたならそんなところに火薬庫なんざ作らないしな……施設も中身も、全部無駄になっちまう。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そうです……ただ、当然のことながら生まれ故郷と家族を失った元村民たちはそう考えなかった。 灯: まぁ、軍……いや、お国がそんなところに火薬を保管しなきゃ山津波は起きなかったのにって考えたら、そりゃ怒って当然だろうね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: えぇ。ですので遺族たちは調査資料をもとに、教授を代表として訴訟弁護団を結成し……国に訴えることにしたのです。 レナ(24歳): ……。その代表になった、教授の名前は? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: …………。 絢花さんは一拍置くと、すっと息を吸い込んだ。まるで、何かの覚悟を決めるように。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 西園寺……#p太壱#sだいち#r。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そして彼の息子の名前は、……稔。現在は改姓し、「公由」を名乗っています。 菜央(私服(二部)): まさか、その息子って……?! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 現名、公由稔……一穂さんの、お父さんです。 Part 03: ……絢花さんから告げられたひとつの事実は、思わぬ衝撃となって私たちの心を揺るがせた。 美雪(私服): (一穂のお父さんが……西園寺の人だった……?!) #p雛見沢#sひなみざわ#rの外部から来た婿養子、とは聞いていた。そして、たまたま体調を崩した村長に代わって公由家の頭首代行を務めることになった……。 美雪(私服): (……いや。本当に、「たまたま」なのか……?) 偶然の巡り合わせ……とは、考えづらい。出自が明らかになった以上、あまりにもタイミングが良すぎる気がする。 もし、村長が入院することになった経緯が雛見沢における権力を握るべく、意図的に仕組まれたものであったとしたら……? 美雪(私服): (一穂たち一家は……いや、父親の公由稔氏は雛見沢に仇なすことを企図した上で、この地に乗り込んできた……?) 裏付ける確証はない。あくまでも状況からの推察……ただの憶測だ。 だけど、火のないところに煙は立たないの言葉通り……かの人が代行の座を得た経緯には、明らかに疑わしい事象がついて回っている。 真相を解明するためにも、今後の調査ではまずそのあたりを確かめていくべきだろう……。 菜央(私服(二部)): えっと……西園寺ってことは絢花さんとその稔氏って、親戚関係なの? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: はい。そうなります。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: とはいえ西園寺家の人間は、大震災の影響で各地へと散り散りになってしまったので……実際の交流はほぼ皆無でした。 菜央(私服(二部)): ……本当に、交流はなかったの?だってあたしが行った2つ前の「世界」の雛見沢だと、あなたは養女として古手家の頭首を務めてたわ。 菜央(私服(二部)): しかも後見人は、公由稔さんだった……お互いに交流がなかったのに、どうして絢花さんが雛見沢に来ることができたのよ? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……なるほど。菜央さんはあちらでの「世界」を経て、記憶を引き継いでいたんでしたね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: だとしたら、一部補足をさせてください。私は稔氏から養子縁組の話を持ちかけられるまで、彼の存在を全く知りませんでした。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 彼の正体を知ったのも、あの「世界」の崩壊を目の当たりにして……次の「世界」へと移動し、数年後になってからです。 魅音(25歳): い……いやいや! ちょっと待って?! と、そこへ驚きのあまり裏返った声を出しながら、魅音が口を差し挟んできた。 魅音(25歳): おかしいでしょっ?あの稔さんの旧姓が西園寺だったなんて、私は全然知らなかったよ?! 千雨: ……お前が把握してないのは、そんなにもおかしいことなのか? 魅音(25歳): そりゃそうだよ、ありえないって断言してもいい!だって私と婆っちゃは、あの人が香苗江さんと一緒に雛見沢に移住してきた時、身体検査をしたんだから! ……魅音が今言った「身体検査」は、もちろん身長や体重といったものではないのだろう。いわゆる身辺調査というやつだ。 魅音(25歳): 圭ちゃんのところみたいな一般家庭だったら、詳しく詮索なんてしないけど……御三家の人間と縁組をする相手ともなれば、そりゃ調べるよ。 魅音(25歳): けど、わかったのは大学で教鞭を執っていたとかそれくらいのことで……怪しい点は特になかった。まして西園寺家のことなんて、どこにも……! 巴: 私たちの方でも、公由怜の身元調査の延長で彼の父親……稔氏のことを少し調べたわ。 巴: 警察の調査網だけでは調査は不十分だったけど、彼の旧姓は西園寺じゃなかった……間違いなくね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: おそらく、養子縁組をしたんだと思います。……それも過去を綺麗に消し去ってしまえるような、権力を持った方の協力を得た上で。 美雪(私服): ……っ……! それは、自分が西園寺の血縁で……高天村出身の事実を隠すつもりだったという明確な意図の表れでもあると推察できる。 やはり、稔氏の雛見沢への移住は偶然とは思えない。明らかに彼は、「わかった」上でやってきたのだ……! 巴: それにしても……高天村訴訟、か。高度成長期は数々の訴訟問題が起こっていたのに私はそのことを知らないし、見た覚えがない。 巴: 情報収集活動を専らにした組織の長が、こんな体たらくじゃ不勉強を笑われてしまうわね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: いえ……そもそもこの訴訟は、政府閣僚によって表沙汰になる前に闇へと葬り去られました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 警察の組織内でも、知る者はごく一部でしょう。……あなたの直属の上司である長官官房長さえ、関連の情報を把握していないかと思います。 美雪(私服): 公安にも、話が伝わっていない……? だとしたら、どうしてそのことを絢花さんが知っているのか……当然の疑問が湧き上がってくる。 が、それよりも早く黙って話を聞いていた灯さんがぽつり……と口を差し挟んできた。 灯: ……彼らが訴訟を起こしたのは、昭和40年代。その頃は公害に関する大規模訴訟が続出して、政府全体が大混乱に陥っていた頃だ。 灯: これ以上はもうやめてくれと、国を挙げて隠蔽工作に走ったんだろうね。 菜央(私服(二部)): じゃあ、被害に遭った人たちを見殺しに……?! 灯: ……言葉を取り繕ったところで、事実としては確かにその通りだ。彼らの犯した罪は、赦されるものじゃない。 灯: ただ……公害は確かに憎むべき事象だが、それは「誰かを不幸にしてやる」といった強い憎悪の果てに生まれるものばかりじゃない。 灯: あえて国側としての見解をさせてもらうが……そもそも公害とは、何かを得る経済活動の果てに生まれた人災……意図なき副産物なんだよ。 レナ(24歳): 人災……じゃあ本人たちも、自分たちがやむを得ず悪いことをしているってわかっていたってことかな……かな? 灯: その通りだ。さらに言うと、彼らは加害者でありながら被害者であったりもする。 灯: 実際、公害を発生させた原因である工場に勤めていた会社側の作業員も……多数に渡って被害に遭っている。 灯: カドミウムが原因の水質汚染。石油化学コンビナート稼働による大気汚染……メチル水銀化合物が原因の水質汚染。 灯: 現代社会の授業でも学ぶそれらの公害問題は、被害者側の事実の一部が知られているだけだ。 灯: 企業側がどうしてそのような過ちを行い、そして即座に止められなかったのか……私はそこも大事だと思うんだよ。 千雨: …………。 灯: 当時の経済施策は製品・商品をたくさん作る、イコール戦後復興を少しでも早めることだと本気で信じられていた。 灯: ゆえに直接的原因かどうか断定できない段階で施設や設備の稼働を止めれば、生産は中断……ひいては復興の歩みを止めることになる。 灯: だから、疑惑段階では現場としても判断できず……その時間分だけ、被害が拡大した。 灯: おかげで、皮肉な話だが……復興のためと必死になった果てに生まれた公害の補償金は莫大だった。 灯: その額は、ようやく返済の目処が立ちかけていた国家財政を危機的状況に追い込むほどだったと聞く。 灯: なのに、厄介な補償問題がまたひとつ追加されることが判明したんだ。……政府関係者は、顔が真っ青になっただろうね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: なぜ、あなたがそのことを知っているかはさて置きましても……確かに、仰る通りです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 国立大学の「御用聞き」研究チームの調査報告は、その教授の資料を完全に否定して……マスコミも政府からの圧力で、一切報道しませんでした。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: さらには筆頭弁護士が、とある嫌疑をかけられて職を追われ……起訴の直前に、交通事故によって命を落としました。 美雪(私服): っ……それって本当に、「事故」だったの? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 警察からの発表によるものです。真偽につきましては、……なんとも。 巴: …………。 ちらり、と視線を向けられて……南井さんはわずかに目をそらしてみせる。 否定したいが、実際にあった可能性が高いということを本人が自覚しているのだろう。……その苦渋が、伝わってくるようだった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: いずれにしても、リーダーと頭脳……残った遺族たちだけでは訴訟団を維持できず、彼らは解散して運動を止めるしかなかった。 美雪(私服): ……解散……。 遺族団の無念は、どれほどだっただろう。 でも、理不尽に立ち向かおうにも頭を失い、残された住民たちに状況を立て直す余地は残っていなかったに違いない……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 太壱氏はその後、まもなく逝去。稔氏は姿を消して……再び現れたのは公由家の娘、公由香苗江さんの結婚相手としてでした。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そして、偶然なのか必然なのか西園寺雅と出会い、情報を交換して……『雛見沢症候群』を用いた計画を立てた。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……私が聞いているのは、そこまでです。 千雨: つまり例の西園寺雅ってやつと、一穂の親父さんが全ての黒幕って可能性が高いわけか。 千雨: で……そもそもの話に戻るが、西園寺雅ってのは何者なんだ……? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 彼女は……関東大震災の生き残りです。山津波で列車とともに海中へと落ちた際、一命を取り留めました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: その際に、『繰り返す者』としての力を得た……私はそう聞き及んでいます。 菜央(私服(二部)): っ……じゃあ、一穂のお父さんと西園寺雅が企んでることって……! 美雪(私服): 復讐……だろうね。自分たちの故郷を壊し、あまつさえ存在さえ消し去ろうとしたお偉方への……仕返しだ。 みんなの視線が、今度は私へと向けられる。 なるほどと頷く者、怪訝そうな顔をしている者、無言で考え込んでいる者……反応はそれぞれだった。 千雨: だとしたら、例の岩松って村長と宮司は土砂崩れで亡くなった集落の人間の家族……。 千雨: いや、年齢的に考えてその子孫か。でも、ん……どうにもピンと来ないな。 怪訝そうな顔をしていた千雨が、頭をガリガリとかきむしる。……うまく整理がつけられない時の、彼女の癖だ。 千雨: こう言っちゃなんだが、事故そのものは70年以上前のことだろ?当時生き残ったヤツも年齢的に死んでるはずだ。 千雨: 復讐が始まりとして、最終的な目的はなんだ?金……賠償金か? 魅音(25歳): ……そうとも限らないよ。千雨は、生まれも育ちも……東京? 千雨: ? あぁ……そうだが。 質問の意図が読めず、怪訝そうな千雨の反応を見て魅音は「……そっか」と納得したように頷くと、ほろ苦い笑みを浮かべながら言葉を繋いでいった。 魅音(25歳): じゃあ、わかんないの当然かもね。……結構堪えるもんなんだよ、生まれ故郷が失われるってのはさ。 魅音(25歳): 親や祖父母、先祖代々が守ってきた……なんて堅苦しい保守的な発想じゃない。 魅音(25歳): 自分が生まれた時から当たり前にあった大切な居場所が無価値なものでしかない、って勝手に決めつけられた気がしてね……。 千雨: ……誤解されるような発言に聞こえたんだったら、謝った上で撤回させてもらう。 千雨: だけど私は、別に郷土愛が無価値だとか考えてなんかいないぞ。 魅音(25歳): もちろん、わかっているよ。……けどね、故郷を奪われた人間はそう思わない。 魅音(25歳): 奪われる前だったら、死に物狂いで抵抗する。少しでも守れる可能性があれば、全力で戦う。 魅音(25歳): 失わないためなら、卑怯な手も姑息な手も使うよ。……そうしないと、自分にとっての大事な場所が無くなっちゃうんだからさ。 美雪(私服): …………。 魅音(25歳): 突然故郷が土砂に埋もれて、水の底に沈んで……姿を変えてしまって……。 魅音(25歳): 家族や財産……築いてきたものが全部消え失せていたって喪失感は……正直、想像したくもない。 魅音(25歳): 仮に原因がどうしようもない天災だったとしても、何十年経とうが表向きはともかく、心の奥底では仕方なかったなんて……納得できない。 魅音(25歳): ……そして、なんとか飲み込もうと足掻いている中で、故郷が消えた理由が人的なものだと知ってしまったら。 魅音(25歳): 全部失わないですむ未来があったかもしれない、って絶望を抱いてしまったら……。 魅音(25歳): せめて、原因に責任を取らせたいと思う。お前たちのせいで、私たちの故郷は消えたんだって。 魅音(25歳): そうしなきゃ、償わせなきゃ、お前たちのせいで消えたものは全部価値があったんだって証明しなきゃ……! 魅音(25歳): 自分だけが生き残ったことに、意味がない……! レナ(24歳): 魅ぃちゃん……。 拳を握り、声を震わせる魅音にレナがそっと寄り添う。……おそらく彼女は、かつての雛見沢ダム戦争のことを思い出していたのだろう。 美雪(私服): (この世界の雛見沢はダムの底に沈んでしまったけど、そうならない未来もあったのは……私もよく知ってる) 雛見沢での住民反対運動は、凄まじいものだったと聞く。工事を中断させるため、座り込み、拡声器による罵声、つかみ合い……果ては重機の破壊工作も起きたそうだ。 殺気立った雛見沢住人たちによる抵抗の姿は、雛見沢に残る伝説……。 彼らが鬼の血を引くという噂を納得させるのに十分だったと書かれた記事も読んだことがある。 でも、鬼のようだと称されるほど敵意を剥き出しにした雛見沢住人の、その中の1人だった魅音の目的は……。 美雪(私服): (……大事な場所を、守るため) なりふり構わず、自分たちの大切なものを守りたいという……あえて鬼とならざるを得なかった、悲しくて優しい「人」としての思いだった。 灯: ……たとえ話をさせてもらうよ。私の叔父の友人に、弁護士がいるんだが……。 灯: 彼は離婚問題で明確な原因が相手にある場合、可能な限り数千円のはした金だったとしても慰謝料を得るようにする、と言っていた。 灯: これは、どちらが有責……離婚の際に婚姻関係を継続するには難しい理由を作った側がどちらかをはっきり証明するためだ。 巴: 確かに。法律だと、慰謝料は責のある方が払うのが大前提だものね。 灯: そう。逆に言うと、慰謝料を払った側は自分に責があると認めたと見なされる……少なくとも、法的には。 灯: ゆえに、有責側が財産分与と呼ぶには多い額を相手に譲渡することで表向きは協議の形に収め……有責の烙印を避けるケースもままあるそうだ。 レナ(24歳): …………。 灯: 訴訟費用や、訴訟準備に時間を費やした間の生活費の補填としての賠償金は、訴訟団のその後の生活基盤安定のため必須ではあるが……。 灯: おそらく、賠償金そのものが目的ではない。魅音先輩の言う通り、故郷を失った原因が自然災害ではなく人災だと認めさせることだろう。 魅音(25歳): ……そうだね。私も同意見だよ。 灯: もちろん、確かに認めさせたところで何が戻ってくるわけでもない。感情的に救われることも、ほとんどない。 灯: だが……自分たちの痛みを認めさせなければ、そこから一歩も動けない。踏み出せない。 灯: お前たちのせいで失ったものは価値があったのだと認めさせること……それが彼らの最終目的なのかもしれない。 みんな: …………。 灯さんが話し終えて湯飲みを手に取り、お茶を飲み干すまで……誰も、何も言えなかった。 責任者を求める……どんな形であろうと罪を償わせる。それは争いごとのけじめをつける上で必要不可欠な「禊ぎ」というものなのだろう。 たとえ、自己満足に過ぎない「生贄」であっても理屈では納得できない感情を鎮め、慰めるために……。 菜央(私服(二部)): でも……本当に、認めさせることができるのかしら。偉い人たちって頭を下げるのを、すごく嫌がるって聞いたことがあるわ。 レナ(24歳): 難しい……というより、無理だろうね。だから、破れかぶれでも起死回生を目論んで暴挙に出た……ということなのかな、かな。 レナ(24歳): 自分たちの大切なものを奪ったお前たちから、今度は自分たちが奪ってやる、って……。 美雪(私服): (暴挙……か……) 今の話が『雛見沢症候群』とどう繋がるか、まだ今ひとつ飲み込めないというのが……本音だ。 でも……全てを奪われた人々が私たちの行く手に立ち塞がっているのは間違いない。 美雪(私服): (彼らは全てを奪われ、地獄を見た。だから同じ……いや、それ以上の地獄を呼び起こした……?) 70年の間に煮詰められた憎悪の重さ……そして深さを想像して、底なし沼の深淵を覗き込むような恐ろしさを覚える。 私たちの「敵」の一部……あるいは全員が、それぞれ果てのない恨みと憎しみを抱いて対峙しているという事実を前に、……息を飲んだ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……少し、お休みになってください。お布団を用意します。 巴: そうね……私も正直疲れちゃった。朝になってからまた話し合いましょう。 美雪(私服): …………。 まだ、聞きたいことはたくさんあった。 でも私自身、南井さんに抵抗して会話を続ける気力はもう残っていなくて。 用意された布団に潜り込んだ途端、そのまますぐに気を失うように眠り込んだ……。 Part 04: ……いつもとは違う感触がする布団の中、あたしは何度目かわからないくらいの寝返りを打つ。 菜央(私服(二部)): ……はぁ、……んっ……。 どうしても眠れない。気持ちが異常に高ぶって、何も考えまいと思っても思考が勝手に動いて……堂々巡りをしている。 菜央(私服(二部)): …………。 寝つくのを諦めたあたしは目を開けて起き上がり、視線の先にある壁時計で時刻を確かめる。 あと少しで午前2時の、丑三つ時前。……日の出まで、まだ2時間以上もある。 菜央(私服(二部)): ……ぁ……。 なにげなく身体の向きを変え、隣を見ると掛け布団がめくれ上がっていた。そこで一緒に寝たはずの人が……いない。 菜央(私服(二部)): (全然気づかなかった。いつの間に……?) あたしは布団から抜け出し、立ち上がってあてがってもらった寝室を出る。 そして外に出て、月明かりを頼りに暗がりの境内をやや不安な思いで歩いていくと……本殿のところに、ひとりの人影を見つけた。 菜央(私服(二部)): (……っ、レナお姉ちゃん……) ……安堵して、胸をなで下ろす。ひょっとしたら、と最悪の可能性を考えかけていたのでわりと早く発見できて……本当に良かった。 大きく息をついてから、あたしはお姉ちゃんのもとへと歩み寄る。 じゃりっ、と玉砂利を踏む音は静けさの中だと甲高く響いたようで、彼女がこちらに気づいて顔を上げる動作がぼんやりと目に映った。 レナ(24歳): ……ぁ……。 本殿の階段に腰掛けていたお姉ちゃんも向かってくるのがあたしだとすぐにわかったのか、ゆっくりとした動作で立ち上がる。 そしてお互いの顔が見える距離まで近づくと、穏やかに笑う息づかいがはっきりと伝わってきた。 レナ(24歳): ……こんな夜中に、どうしたの? 菜央(私服(二部)): 全然……寝つけなくて。それで目を開けて隣を見たら、いつの間にかお姉ちゃんがいなくなってて……。 レナ(24歳): はぅ……そうだったんだ。寝息が聞こえたから、音を立てないようにして外に出たつもりだったんだけど……。 レナ(24歳): ひょっとしたら、起こしちゃったのかもだね。……ごめんなさい、菜央。 そう言ってお姉ちゃんは、あたしの頭を撫でながら優しく微笑んでくれる。 眠れないと言いつつ、実は少し寝ていたようだ。……つまり寝ようと懸命に悪戦苦闘していたのは、あるいは夢の中の行為だったのかもしれない。 菜央(私服(二部)): (でも……菜央、か。これだけは、現実だって思っていいのよね……?) この人に名前を呼び捨てされるのが本当にあたたかくて、嬉しすぎて……つい泣きそうになってしまう。 もしこれが夢だったら、絶対に起きたくない。……そんな思いを抱きながら、あたしは手を伸ばしてお姉ちゃんの手をぎゅっ、と握りしめた。 菜央(私服(二部)): お姉ちゃんこそ……こんなところでどうしたの? レナ(24歳): あはは……今日起きた出来事を布団の中に入ってからも思い返していたら、目が冴えちゃって……ね。 レナ(24歳): ちょっと頭を冷やしたくなって、ここで星を見ていたんだよ。 菜央(私服(二部)): ……。あたしも、一緒にいていい? レナ(24歳): もちろん。……おいで、菜央。 菜央(私服(二部)): うんっ……! 手を繋ぎながら飛び跳ねるように並んで、あたしは一緒に本殿の階段へと腰を下ろす。 おとがいをそらして、満天の星を見つめるお姉ちゃん。その横顔が、とても綺麗で……目が離せなかった。 菜央(私服(二部)): (まさか平成の「世界」で、レナお姉ちゃんと会えるなんて……!) 本当に嬉しくて、幸せで……このまま時が止まってしまえばいいのに、と心から願いたくなる気持ちを止められない。 もちろん、今の自分たちが置かれている立場に意識を向けると、そんな資格なんてないことはよくわかっているし……覚悟もしている。 だけど……いや、だからこそ今のこの瞬間を心の中にしっかりと焼き付けておきたかった。 やがては消えて跡形もなくなり、最期を迎えるその時まで……っ……。 レナ(24歳): ……あのね、菜央。 菜央(私服(二部)): な……なに、お姉ちゃん? レナ(24歳): レナのこと、ちゃんとレナに見える? 菜央(私服(二部)): えっ……? 質問の意味がわからず、あたしは言葉に詰まって小首をかしげる。 するとお姉ちゃんは、言い方がまずいと悟ったのか苦笑を浮かべて……あたしに身体ごと向き直っていった。 レナ(24歳): 今の私の頭の中には、レナと礼奈……他にもいろんな記憶や感情が入り交じって、すごくごちゃごちゃしているんだよ。 レナ(24歳): だから、自分が何者なのか……みんなが思う「竜宮レナ」はどれなのかが、よくわからなくなっていて……。 レナ(24歳): 魅ぃちゃんたちと再会したおかげで、少し落ち着いてある程度の整理がついたけど……まだちょっと、不安定な感じなんだ。 菜央(私服(二部)): …………。 レナ(24歳): 大丈夫、かな……かな?ちゃんと、菜央ちゃんの知っているレナに見えている……かな……? そう言ってお姉ちゃんは、伏し目がちに今の不安な思いを打ち明けてくれる。 それに対しての答えは、迷うまでもない。あたしは素直に感じるまま、即座に答えていった。 菜央(私服(二部)): お姉ちゃんのことは、お姉ちゃんにしか見えない。あたしの大好きな……レナお姉ちゃんよ。 レナ(24歳): ……。そっか。 レナ(24歳): だったら、……よかった。ありがとう、菜央。 にっこりと嬉しそうな笑顔を浮かべて、お姉ちゃんは再び星空を見上げる。 ……たとえわずかでもいい。この人の力になることができれば、何よりも幸せ。そんな思いとともに、あたしは腕にすがりついた。 レナ(24歳): ……覚えている?私と最初に出会った「世界」と、次の「世界」でのこと……。 菜央(私服(二部)): えぇ、もちろん……忘れてないわ。 というより、忘れられないし……あたしにとっては忘れたくない貴重な思い出だ。 出会えるはずのない人に、はからずも会えたこと。もう会えないと諦めかけた人と、再会できたこと。 どちらが上だなんて、比べたくもない。とても言葉では表すことのできない2つの想いは、今も胸の内を占めて色褪せることがなかった……。 レナ(24歳): さっき、魅ぃちゃんたちと話して……なんとなくだけど、気づいたんだよ。 レナ(24歳): 最初の「世界」で菜央たちを送り出して……次に再会した時にレナは「レナ」じゃなくて、「礼奈」になっていて……。 レナ(24歳): 菜央のことを、……覚えていなかったよね? #p竜宮礼奈#sりゅうぐうれいな#r: もしかしてあなたが、新しい転校生さんかな?今日から短い間だけど、よろしくね! 菜央(私服(二部)): ……っ……! 菜央(私服(二部)): 事前に一穂から聞いてたけど、あの時は……やっぱり、ショックだったわ。 菜央(私服(二部)): お姉ちゃんが別れ際にあたしのこと、妹だって言ってくれてたから……余計に……。 覚悟していたつもりだったのに、「礼奈」を目の当たりにした瞬間……悲しくて、衝動的に教室を飛び出してしまった。 誰のせいでもない……まして、お姉ちゃんに非はない。だけど、悔しさと恨めしさを抑えることができず……現実から逃げるしかなかったのだ。 レナ(24歳): ごめんなさい、菜央。あなたに悲しい思いをさせちゃって……でも……。 レナ(24歳): ずっと……不思議だったんだ。どうして私は、魅ぃちゃんたちと違って記憶を引き継ぐことができなかったのかな、って。 レナ(24歳): その理由が……さっき、わかった気がしたんだ。 菜央(私服(二部)): 何が、わかったの……? レナ(24歳): 美雪ちゃんから……聞いたよ。あの人が……お母さんが『眠り病』で、意識不明になっているって。 菜央(私服(二部)): ……っ……! お母さん、の言葉が出た瞬間……#p雛見沢#sひなみざわ#rよりも涼しい高天村の空気が一段と冷えた……気がした。 レナ(24歳): 菜央は、お母さんのこと……好き? 菜央(私服(二部)): き……嫌いよ。だって、お姉ちゃんたちを裏切って酷いことをして……っ! レナ(24歳): ……嘘だね。 菜央(私服(二部)): なっ……? 穏やかな口調で断じる、レナお姉ちゃん。それに対してあたしは叫ぶような勢いで否定していった。 菜央(私服(二部)): あ……あたし、嘘なんかついてない!だって、お姉ちゃんが大嫌いな人を好きなわけがないでしょ?! レナ(24歳): 菜央……。 菜央(私服(二部)): お母さんは……あの人は、酷い人よ!そ、それに『眠り病』になったのだって日頃の……行いが……! レナ(24歳): ……じゃあ、教えて。そんなに嫌いだったら、どうしてお母さんが作った服をずっと着たままなのかな……かな? 菜央(私服(二部)): えっ……? ど、どうして……?! レナ(24歳): ……やっぱり、そうだったんだね。ほとんど当てずっぽうで言っただけなんだけど、菜央の服のデザイン……見覚えがあったんだ。 レナ(24歳): 昔、お母さんが見せてくれた子供服のラフ案にそれと同じものがあった……ってね。 菜央(私服(二部)): ……っ……! レナ(24歳): それに……菜央、川田さんに言っていたよね。本当にお母さんのことを憎んでいるなら、貰ったハンカチなんてとっくに捨てているって。 レナ(24歳): だから、もし菜央がお母さんを嫌っているならそんな服なんてとっくに捨てて、自分で別の服を用意しているんじゃないかな? かな……? 菜央(私服(二部)): …………。 ……お姉ちゃんの指摘は、全て正しい。 平成では美雪に、昭和では魅音さんたちに。少し相談すればあたしの代わりの服なんて、簡単に用意してくれたはずだ。 でも、……結局あたしは、変えなかった。分校に行く服でさえ、お母さんの服だった。 レナ(24歳): きっと私は、無意識のうちに気づいたんだね。そしてわかった瞬間に受け入れたくない、って拒否してしまったんだと思う。 菜央(私服(二部)): ……ぁ……。 一瞬、息ができなくなって……そんな自分に驚く。 菜央(私服(二部)): (……当然じゃない) お姉ちゃんを捨てた母親のもとで育ち、口では嫌いだなんて言っておきながら彼女が作った服を着続けている……。 それを見たお姉ちゃんが、何を思うかなんてわかりきったことじゃないか……! 菜央(私服(二部)): ごめ……ん、なさい……。 レナ(24歳): えっ……な、菜央……? 菜央(私服(二部)): お姉ちゃんを、傷つけて……お母さんのことを思い出させるかもって、もっとよく考えるべきだったのに……っ! なんとか、声が出なくなる前に謝罪を絞り出せた。でも、これ以上はもう口から言葉がこぼれる前に涙の方が溢れてしまいそうで……。 レナ(24歳): ……ご、ごめんなさい!でも、私はそういうつもりで言ったんじゃないよ! レナ(24歳): まして、菜央を嫌いになったとかじゃない……!だから勘違いしないで……お願い! そう言ってお姉ちゃんは慌てて否定し、ややあって申し訳なさそうに目を伏せていった。 レナ(24歳): 私はね……お母さんの変化を、受け入れたくなかったの。 菜央(私服(二部)): ……ぇ……? どうして、と頭が疑念で埋め尽くされるよりも早くお姉ちゃんは申し訳なさそうに言葉を繋いでいった。 レナ(24歳): あの時、菜央を未来に送り出してからみんなと一緒に『ツクヤミ』と戦って……死ぬ直前に、気づいちゃったんだ。 レナ(24歳): 菜央は、自分が生まれてこなければ私を不幸にすることはなかった、って言ったけど……お母さんが嫌いだとは、言っていなかったなって。 レナ(24歳): 菜央は、とっても頭がいい子。人を見る目がないとは、とても思えない。 レナ(24歳): だから、私のことを気遣ってお母さんの話題に触れようとしていなかった。……そう感じたんだよ。 菜央(私服(二部)): あ、あたしは……お母さんとケンカして家を飛び出して、雛見沢に……っ……。 レナ(24歳): でも……嫌いになれなかったんだよね? 菜央(私服(二部)): …………。 ……何も言えなかった。そんなあたしを見て、お姉ちゃんは少し寂しそうに目を細めて続けた。 レナ(24歳): 私は……どうしても、あの人のことが許せなかった。 レナ(24歳): でも、菜央が尊敬するお母さんだって言えるくらいに立派な大人の女性として暮らしていたんだったら……。 レナ(24歳): なんで私やお父さんと一緒にいた時、そうなってくれなかったんだろう……って。 レナ(24歳): そんなふうに思いながら……意識が途切れたの。 菜央(私服(二部)): …………。 レナ(24歳): だから……かな。礼奈の「世界」のお母さんが、信じられなかった。 レナ(24歳): お父さんと仲良く仕事しながら、雛見沢で私たちと家族として一緒に過ごす別の「世界」があったなんて。 レナ(24歳): ……そして、私の記憶を知った礼奈はこう思う。あんなに優しくて真面目なお母さんが、私たちを裏切る可能性があったなんてって。 レナ(24歳): どっちが先かはわからない。……けど、これだけは断言できる。 レナ(24歳): レナは礼奈を拒絶して、礼奈はレナを拒絶する。 レナ(24歳): 再会した時の礼奈がレナの記憶を持っていなかったのは、そのせいなんだろうね。 菜央(私服(二部)): レナお姉ちゃんも礼奈お姉ちゃんも、お互いを受け入れられなかったから……? レナ(24歳): ……うん。 レナ(24歳): 礼奈が次の「世界」で、レナの中で目覚めた理由がわからなかったけど……。 レナ(24歳): そう考えると、自分の中で納得できた気がする。……勝手な思い込みかもしれないけどね。 菜央(私服(二部)): ……。お姉ちゃんは……お母さんのことが、憎い? レナ(24歳): …………。 レナ(24歳): 菜央と会う前は、憎いってすぐに答えたと思う。けど、今は……わからない。 レナ(24歳): お母さんに捨てられて苦しんだお父さんのためにも私はあの人を最低の裏切り者として憎み続けなきゃいけないんだって、ずっと思ってきたけど……。 レナ(24歳): ……なんだか、間違っているような気もする。お母さんの言い分を何一つ聞いてあげようとしなかったから、余計に……ね。 菜央(私服(二部)): ……お姉ちゃん。 レナ(24歳): それにね、正直に言うと……もう、疲れちゃったんだ。 レナ(24歳): お母さんが『眠り病』にかかって、死ぬかもしれないって知った時……ざまぁみろ天罰だ、って思ったけど。 レナ(24歳): いなくなった後のことを想像した瞬間……あの人が恨みに対しての天罰を受けたとしても、私の中には何も残らないし……何も晴れない。 レナ(24歳): そう気づいちゃってからは……空っぽなんだよ、今の私は。 遠くを見つめながら、……呟くお姉ちゃん。その表情が悲しくて、切なくて……。 だからあたしは、身を乗り出すと彼女に言いつのっていった。 菜央(私服(二部)): ……。だったら、あたしがお姉ちゃんを満たしてあげるわ。 レナ(24歳): ……えっ……? 菜央(私服(二部)): お姉ちゃんが空っぽなら、あたしがたくさん……素敵なものを用意して隙間なく詰め込んであげる……! 菜央(私服(二部)): お姉ちゃんの宝物になれそうな素敵なもの、いっぱい……いっぱい見つけてくるわ! 菜央(私服(二部)): だから……っ……だから……! 欠けたものがあるなら、あたしが埋める。必要なものがあるなら、あたしが探す。 だから……だから……。 菜央(私服(二部)): (……そんな、悲しい顔をしないで……) レナ(24歳): …………。 と、あたしの必死の訴えが届いたのかお姉ちゃんは寂しげな微笑みを湛えて。 レナ(24歳): ありがとう、菜央。だったら……。 レナ(24歳): ……レナと一緒に、ここから逃げる? 菜央(私服(二部)): えっ……? 最初……お姉ちゃんが何を言っているか理解できなかった。 そんなあたしの戸惑いを正確に見抜いたのか、お姉ちゃんは笑顔のまま続けていった。 レナ(24歳): 『眠り病』も『雛見沢症候群』もない、どこか遠くの世界に――逃げちゃおっか。 レナ(24歳): 昭和58年のレナは、子どもだった。お父さんもいた。だからお金はあっても、どこにも逃げられなかった。 レナ(24歳): でも、大人になった今の私なら……菜央ひとりくらい連れて、逃げることができる。 菜央(私服(二部)): ……っ……。 ……お姉ちゃんと、逃げる。 菜央(私服(二部)): (お姉ちゃんとずっと一緒にいられる……?) 優しく頭を撫でてくれるお姉ちゃんを見上げながら、想像する。 昭和58年でレナお姉ちゃんと一緒に過ごした夢のような時間が、ずぅっとずぅっと続く世界。 ……それはきっと、とても楽しい。 お姉ちゃんとお互いにおはようを言って、朝ご飯を作って、いただきますをして。 午前中は家事をして、お昼は簡単に済ませて……午後からは何をしよう。気分次第で決めていい。 夜はたまに外のご飯を食べに行きたい。知らない美味しいレシピを見つけて、家で再現するのだ。 そしてお姉ちゃんにお休みを言って、布団にもぐって、眠って、そしてまた朝が来て……。 ……世界中の人々が血を吐いて死ぬとか、それを防ぐために誰かが死ななきゃいけないとか、血生臭い事柄は……TVの向こう側の他人事。 寝ぼけた頭でトーストをかじりながら、大変ねぇなんて呟いておしまい……そんな世界。 ううん、もしかしたら毎日平和とはいかないかもしれないけれど……。 菜央(私服(二部)): (でも、……お姉ちゃんがいる) どんな困難も一緒に乗り越えてくれる、頼もしくて素敵な味方が側にいるのだ。 菜央(私服(二部)): …………。 菜央(私服(二部)): あたしは、……。 美雪(私服): ……。そっか、そうだよね……。 どうやら、菜央はここまでのようだ。 美雪(私服): (小さい身体で、よく頑張ってくれた) もういい、もう十分だ。 美雪(私服): ……点棒を全部失う前にオリるのだって、立派な戦法だ。 まだ世界は暗闇の中にいるけど、大丈夫。夜間登山ならガールスカウトで鍛えた。 だから……大丈夫。 美雪(私服): …………。 私は音を立てないように潜んだ草むらを出て静かにその場を離れ、社務所と反対の方角へ足を向ける。 ……鬼樹の社へ、向かうために。 Part 05: 朝方、この山を登った記憶はまだ鮮明に残っている。……にもかかわらず日が落ちただけで、ずいぶんと雰囲気が変わったように見えた。 美雪(私服): (登った記憶はあるのに、下山の記憶が全然ない……完全に上の空だったんだなぁ) 静けさに包まれた夜の山を、単独で黙々と登る。 美雪(私服): (大丈夫……ガールスカウトで何度も夜間ハイクをしてきたしね) 見覚えのある山道であることに加えて、必要な動作は身体が覚えてしまっているせいか……空っぽの頭はとりとめのないことを考え始める。 美雪(私服): (私は、梨花ちゃん……いや、梨花お姉ちゃんのおかげで、この「世界」に生まれることができた……) ……今から15年前の、昭和53年。 建設大臣の孫の誘拐事件捜査で#p雛見沢#sひなみざわ#r地区を訪れたお父さん……赤坂衛刑事は、梨花お姉ちゃんの警告を聞いて東京へと戻った。 おかげで妻が転落事故に合うことはなく、妊娠中だった彼女はお腹の子どもを無事に出産することができた。 そして生まれてきたのが私……赤坂美雪だ。 その5年後の昭和58年……赤坂刑事は古手梨花の元へ、雛見沢へ向かった。 妻子の恩人である古手梨花を脅かす運命と戦い、絶対に真相を暴いて犯人を捕まえてみせる……と村に乗り込んで――。 その後、行方不明になった。生きているかどうかもわからない状態になって、社会から姿を消したのだ……。 美雪(私服): (ここまでは事実……ここから先は、仮の話) おそらく昭和53年に古手梨花は、5年後に自分が死ぬことを赤坂刑事に伝えて……予言していた可能性が高い。 美雪(私服): (梨花お姉ちゃんが何度も「世界」を繰り返していたなら、5年後に自分が死ぬことは理解していたはず) ただ、なぜ死ぬか……誰に殺されるかまでは、本人も突き止められていなかったのだろう。……だから赤坂刑事も、知らなかったと思う。 美雪(私服): (ここから先は……もしもの話) もしお父さんが、梨花ちゃんの注意も聞かずに東京へ戻らなかったら、どうなっていただろう……? 美雪(私服): (お母さんは転落事故に遭って……おそらく、母子ともに死んでた) 実際、一穂と菜央が電話をよこしてきた『昭和D』の私は、生まれる前にお母さんと一緒に転落事故で死んでいるようだった。 ……それはつまり、建設大臣の孫が誘拐された事件の捜査を続行して雛見沢に留まり続けていたことを示している。 つまり……私が生まれてきたのは奇跡のようなものなのだ。 その奇跡の果てに生まれて来た私は、雛見沢を訪れて謎を突き止めるために「世界」を渡り歩いて……。 その果てに、『雛見沢症候群』が全国規模に拡大する最悪の結末の引き金を引くことになった……。 美雪(私服): ……。私って、本っ当に余計なことばっかしてるな……。 ……ガールスカウトの時もそうだ。 新しく入ってきた新興住宅の子たちと古くからの仲間たちがなんとか同じ場所で仲良くやっていけるように、と考えて……。 間を取り持とうと奔走した結果、どうしようもなくなって……千雨に手を引かれる形でガールスカウトを逃げた。 美雪(私服): (新興住宅の子たちと元々の仲間たちが、それなりに仲良く過ごせるようにしたかった) 逃げた私に付き合う形で格闘技を辞めたせいで千雨が父親と……お世話になったおじさんと仲違いする原因を作り……。 ……おじさんはそのまま亡くなった。だから私は、捜査まがいのことを始めた。 美雪(私服): (落ち込む千雨を、……元気づけたかったのに) その後、雛見沢に向かった私は#p田村媛#sたむらひめ#r命と出会い、昭和の「世界」を訪れて……。 ずっと会ってみたかった、梨花お姉ちゃんたちと出会った。 そして一緒の立場である一穂と菜央と、奇妙な共同生活を送るようになって……。 美雪(私服): (……今、こうしてここにいる。最悪の悲劇をもたらす、疫病神になって……) 望んだことはそう大層なことではないはずなのに、足掻けば足掻くだけ最悪の結末に陥る。 美雪(私服): (もう何もしないほうが、いいんじゃない……?) 頭の奥底で、泣きわめく自分の悲鳴が聞こえる。 もう自分のせいで悲劇が起きるのは嫌だ、と。私なんて何をしてもダメなのだ、と。 あぁ……そうだ。こんなことになるくらいなら、私は……私なんて……。 美雪(私服): 生まれてこない方が、……よかったのかな。命を授かったことが、間違いだったの……かな。 ぽつりと、そんなことを考える。 美雪(私服): (例えば……お母さんが、入院前に私を流産してたら……どうなったかな) 母親が妊娠したら、赤ちゃんが生まれてくる……それが当然じゃないことは、よく知っている。 赤ちゃんができたと喜んでいた社宅の奥さんが数日後悲愴な顔で病院の方向から帰宅するのを何度も見てきた。 私が生まれて来る前にお腹の中で死んでいた可能性は、転落事故を差し引いても……皆無、とは言い切れない。 美雪(私服): (もしも、私がお母さんのお腹の中で死んでたら……) お母さんは嘆き悲しみ、自分を責め続けるだろう。どうして元気に産んでやれなかったのだろうかと。 でも……きっとまた新しい命を育んで、立ち直って……幸せになれる。その後も穏やかな生活を送ることができるはずだ。 美雪(私服): あー、でもお母さんが流産したらお父さんは雛見沢行きを断っちゃうよな……。 美雪(私服): そうなったら、梨花お姉ちゃんたちはどうなるんだろう……? ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる考えて考えて、考え抜いた……結論。 私の命は、惨劇の果てにしか……存在できない。 でも生まれてこなければよかったか、という結論に帰結するには……周囲への影響が大きすぎる。 川田: 私の経験から申し上げますと……おそらく「今回」は、「前回」の最悪をかなり下回っているはずです。 川田: となると、「次」はさらにその下の最悪が待ち構えてる可能性が高い……まぁ、あればという前提ですけどね。 川田: そんな状況になったら、元に戻りたいと思っても……戻るのは容易なことじゃない。泣いて叫んでも、沼にはまって抜け出せず……。 川田: 絶望と後悔だけを抱えて、生き地獄を味わうことになる……そういう「世界」に行きつくことだって、当然あり得ますよ。 最初に昭和58年から戻ってきた際、川田さんに言われた警告を……思い出す。 ……なるほど、彼女の言う通り現状は確かに絶望と後悔まみれの生き地獄だ。 美雪(私服): (でも、川田さんに任せることはできない) 意図はともかく、彼女の神である采様が『眠り病』の原因の一端を担っているならば……彼女たちは眠り病患者が目覚めることを望まない。 『眠り病』のワクチンを潰して惨劇を阻止しても、菜央のお母さんと夏美さんの旦那さんは永遠に眠りの中。 美雪(私服): ……それは、ダメだよ。 だから私は足を進める。山の上へ、昭和58年へ。 美雪(私服): (……ただ死ぬだけなら嫌だ。でも……) 灯: あぁ。他には……そうだな、身元が判明しなかったという1名の犠牲者の名前は調べた資料の中に発見することができた。 灯: まぁ60年前だから、もし別人だったとしてもこの世には存在していないだろうけどね。 美雪(私服): ……その人の名前は? 灯: ――西園寺雅。 灯: 昼間に訪れた古手神社分社の宮司を代々務めている西園寺家の長女だそうだ。その妹も村にいたらしいが、土石流に巻き込まれて行方不明になっているらしい。 あの時、灯さんは60年前と言ってた。……でも、それはおかしい。 だって絢花さんが言ってたように、震災が起きたのは今から70年前……西園寺雅の死亡も同じ日なら、70年前のはずだ。 美雪(私服): (……10年、時間がずれている) 単なる計算間違いかもしれない……でも、計算の基準点が平成5年ではなく昭和58年なら? 平成5年から10年引いたら……昭和58年。年数計算の開始地点が昭和58年なら、10年の差は埋まる。 美雪(私服): (そうあって欲しいって、私の願望かもしれない……けど!) 一緒に夜の海に草船を流した灯さんは、おそらくだけど……見つけたに違いない。 美雪(私服): (昭和58年に、手がかりを……!) ただ灯さんには、以前の「世界」で私と出会った記憶がない。 絢花さんから話を聞く彼女の様子を思い出す限り、今の彼女はそのヒントにいまだ辿り着けていない可能性が高いように思えた。 でも……きっとあるのだ。昭和58年にヒントが! だから昭和58年……『眠り病』がまだ存在しない「世界」で、『雛見沢症候群』を食い止めることができれば……! 美雪(私服): ……やらなくちゃ。 美雪(私服): (……差し違えても、真相を突き止める) 美雪(私服): (元の「世界」を取り戻す……一穂も連れ戻す!) 美雪(私服): (それがきっと、惨劇が存在しなかった「世界」では生まれることすらできなかった私の使命なんだ……!) 私がもっと有能だったり、頭がよかったり何かを成し遂げられる強い人だったらよかったと心底思う。 美雪(私服): (ここまで来ることができたのはみんなのおかげだと、よくわかってるのは……他ならぬ私自身だから) 力強く地面を踏みしめ、前を見る。 美雪(私服): (だから、全部……私が引き受ける!) ……数時間ぶりに見上げた大樹は、夜の闇だと実物以上に大きく威圧感があった。 戦いの跡をあちこちに残した草むらを踏みしめ、宵闇の中悠然と佇む樹を見上げる。 美雪(私服): えっと、采……様! 采様ーっ!!! 呼びかけの後、数秒の間が開いて。 采: ……。我、夜明けと言ったのです。 静かな夜の世界に、幼い少女の姿をした神様が現れた。 美雪(私服): あー、ごめんなさい。ちょっと事情がありまして……。 采: ……決心は固まったですか? 美雪(私服): もっちろん!世界を救うために、いっちょ大暴れしてきます! 采: ならば2人分にて、「門」を開いてやるです。 美雪(私服): ではよろしくー……って、2人……? その言葉に違和感を覚えると同時に、背後に気配。反射的に振り返ると、そこには……? 美雪(私服): ち、千雨っ……?! 千雨: …………。 いつもと同じ……いや、いつも以上に仏頂面をした千雨が立っていた……! 美雪(私服): (さすが、釣り上手。魚に悟られないよう気配を消すのは慣れたもの……じゃなくて……!) 美雪(私服): な……なんでキミが、ここに……?! 千雨: 勘だ。お前がもし行くつもりだったら、きっとひとりで夜中に動くと思ってな。 美雪(私服): っ……用意周到なことで……。 千雨: 回りくどい言葉は嫌いだ。それにため込んでも、良いことはないぞ。 言いたいことがあるなら言えと暗に促され、私は大きく息を吸って、吐き出して……。 美雪(私服): ……東京に、帰って。 夜の山の空気に似た、低く抑えた声で告げた。 美雪(私服): 千雨は『御子』じゃない。同情でついてきて死なれても、迷惑なだけだよ。 千雨: んなことわかってる。 美雪(私服): えっ……? 間髪入れずに想定外の返事が返ってきて、反射的にうろたえる。 美雪(私服): いや。わかってるって……あのさ。幼馴染みだったら、私の気持ちをまずわかる努力をしてよ。 千雨: とっくにしてる。努力した結果として、私はここにいる。 千雨: というわけで、お前も幼馴染みとして私の気持ちを理解してくれるよな……? 千雨: お前だけじゃ、すぐ死んで終わりだと。 そう言って、千雨は物騒な笑みを満面に浮かべて……断言した。 千雨: 自惚れるなよ、美雪。私がいなかったら、何度死んだと思ってるんだ? 美雪(私服): ……その言い回し、卑怯だと思わない? 千雨: サメに卑怯なんて言葉は存在しないからな。 美雪(私服): そりゃそうだろうけどさ……あぁもう! 美雪(私服): それに、おじさんが残してくれたフロッピーディスク!まだ調べてる最中でしょ?! 中身知りたくないの?! 千雨: 全部南井さんに任せてきた。元より、あの人たちがいなきゃ調べる以前に掘り出しもできなかった代物だ。 千雨: というか、あれはおそらく私に見つけてもらいたかったやつじゃない。何が入ってるか、それなりに危険なモンだ。 千雨: そんな代物を我が子に意思を託すとか綺麗なお題目でガキの私に押し付けるほど親父は阿呆じゃない……と思いたい。 美雪(私服): ……おじさんに対して、ぼろくそだね。 千雨: つまりだな、私は暗号が解けて遺品が見つかった時点で結構満足してる。 千雨: それに、あっちは私みたいな小娘1人を足して状況が変わるほど単純じゃなくなった。 千雨: お前についてく方が、まだ勝ち目の足しになる……以上。 一息に喋り倒した千雨は、さてと再び私を見て。 千雨: ……で? 他に言いたいことがあるか? しれっとした顔で断言した幼馴染みを前に、私はぐぅっ、と息を詰める。 千雨の言葉は正しい。正論だ。 この幼馴染みがいなければ、前に進むとか以前にさっくりと死んでいた可能性が大いにあったことは私がよーくわかっている! だからこそ、腹が立つ! そして同時に……! 美雪(私服): ……幼馴染みに死んで欲しくなくて、面倒くさい彼女みたいなこと言って突き放そうとした私が、バカみたいだね。 そんな恨みごとしか返せないくらいには、もう私の負けは目に見えていた。 千雨: 面倒な彼女……? そりゃアレだろ。島原の上の兄ちゃんの元カノみたいなヤツ。 美雪(私服): 「私を愛してないの?」って聞き続けられて疲れ切った兄ちゃんが「そうだ」って返して、ケンカ別れしたヤツだね。……それに匹敵するよ。 千雨: そうか? 兄ちゃんの方も、そんなに面倒な話でもないだろ。 千雨: 女が愛されてるって、自信を持たせてくれない男なら捨てちまえ。 千雨: 男が愛してるって、自信をつけさせたいと思えない女なら消えろ。 千雨: ……これで万事解決だ。他に何か問題があるか? 美雪(私服): 別の問題が発生した……! 人間、そんなに簡単に相手を嫌いになれるなら好いた腫れたの大騒ぎなんて起こらないと言うのに何を言ってるんだろう……この幼馴染みは。 美雪(私服): 千雨の彼氏は、苦労しそうだね……。 千雨: 私の恋人はサメだが? 千雨: サメはいいぞ。無限の可能性の固まりだ。存在してるだけで世界が広いことを教えてくれる。 千雨: 全人類、人間じゃなくてサメを愛せばいいんだ。サメは何をしても振り向いてはくれないが、こっちのことを迷惑だと跳ねのけることもない。 千雨: ……よく言うだろ、恋愛は片想いが一番楽しいって。サメを愛すると、人生は最高に楽しくなる。 美雪(私服): それ……最終的に全人類。滅びるんじゃない? 千雨: 滅びの美学ってあるだろ?こういう滅び方ならアリだ。むしろコレ以外はナシだ。 美雪(私服): 全部ナシだよ……あぁ、頭痛くなってきた。 こんな切羽詰まった状況で普段通りのくだらないやりとりをしている自分たちが、目眩がするほど愚かしくて。 美雪(私服): (ダメだ……泣きたいくらいに、嬉しい) 千雨を死なせたくないのに、この状況にどこかほっとしている自分が存在していることが……心底嫌だった。 美雪(私服): (……絶対に泣かない。泣いてやるもんか) 泣きたいくらいに嬉しいと思ってしまう自分を恥じる気持ちが建前ではないと証明するためにも。 絶対に……泣くものか。 采: ……結局どうするのですか? 千雨: その口ぶりだと、私が同行する分は問題なさそうだな。 采: …………。 さらりと指摘した千雨を、采様は下から上まで値踏みするように観察する。 千雨: …………。 相対する千雨も大したもので、神様からの値踏みするような視線を正々堂々と受け止めていた。 采: ……ふん。 やがて、神の方がすっと視線を引いて。 采: お前なら……。まぁ、いいのですよ。 美雪(私服): ……じゃあ、2人で行きます。 菜央(私服(二部)): ――3人、でしょ。 聞こえてはならない声が耳に届き、振り返る。 菜央(私服(二部)): 美雪、あんたって算数ができないの?そんなことじゃ来年からの高校受験、かなり不安よね。 そこにいたのは、額に汗をにじませながら息を切らせた……。 美雪(私服): 菜央……?! Part 06: ……ここに「い」ないはずの、「い」てはいけないはずの菜央がいる。 その事実に、一瞬目の前が真っ白になった。 美雪(私服): なんで……なんで来たの?! 菜央(私服(二部)): なんで……って、何を寝ぼけたこと言ってるのよ。 菜央(私服(二部)): 真相を解き明かして、一穂を連れ戻したいと思ってるのが自分だけだと思ってたの……? 美雪(私服): ……っ……。 息を整えながらの口調は普段通りの菜央。でも彼女の状況がもう変わったことを、私は知っている。 美雪(私服): (菜央……?レナと一緒に残るんじゃなかったの?!) 美雪(私服): 菜央……レナのこと、どうするの?10年間、必死に生き抜いてきたお姉ちゃんとそんなに簡単に別れても、いいの……? 千雨: お、おい? どうした、美雪……? 美雪(私服): ……黙って。 何も知らず戸惑う千雨の言葉を遮り、動揺を押し殺して菜央に向き直る。 美雪(私服): (……菜央を連れて行くわけにはいかない) 昭和58年に行って、また同じ時間に帰ってこられるか……不確かどころではない。というか、可能性自体が極めて低いのだ。 ほぼ確実に……もう、ここに帰ってくることはできない。 美雪(私服): (前の記憶を思い出す条件が不明な以上、この世界のレナの記憶がここで終わりの可能性は……否定できない) 美雪(私服): (いや、十分以上にその可能性はある……!) レナと菜央が築き上げた奇跡的な絆は、この「世界」限りで終わってしまうかもしれないのだ。 ……いや、そもそも普通はそういうものだ。今こうして続いていること自体、奇跡に等しい。 菜央がそれを理解していないなら、年長者として……私が理解させないといけない。 美雪(私服): 帰って、菜央。……帰れ。 どうか、どうか帰って欲しい。 菜央は、十分頑張った。この子がいてくれたおかげで私は、ここまで来ることができた。 なのに、私は……その頑張りに何も報いてあげられていない。 美雪(私服): (だったらせめて、これ以上失わせたくない……!) 菜央(私服(二部)): …………。 菜央は最初戸惑ったように私を見つめていたけれど、やがてイタズラがバレてしまった子どもみたいにばつが悪そうに頬をかいて。 菜央(私服(二部)): ……聞かれちゃってたのね、あの会話。でも、大丈夫よ。 美雪(私服): 何が?! 菜央(私服(二部)): ちゃんと、お姉ちゃんには伝えてきたわ。……行ってきます、ってね。 ……お姉ちゃんに頭を撫でてもらいながら、どこか遠くで鳴く鳥の声を聞いた。 仲間を探しているのだろうか。なんだか、とても寂しそうな声だった。 菜央(私服(二部)): ……お姉ちゃん。 レナ(24歳): どこに行きたい?海外……は、向かう国にもよるかな。レナ、前科がついちゃっているから。 菜央(私服(二部)): ……嘘、でしょ……? レナ(24歳): ……ぇ……? 頭を撫でる手が止まり、あたしはゆっくりとその手を頭から外して……両手で握る。 菜央(私服(二部)): そんなの、らしくないわ。お姉ちゃんは嘘をつくのも……つかれるのも、大嫌いだったんでしょ? 菜央(私服(二部)): なのに……こんなところで、あたしのために「い」やなことを……しないで。 レナ(24歳): 菜央……。 菜央(私服(二部)): だから……ごめんなさい、お姉ちゃん。今は、お姉ちゃんと一緒には行けないわ。 レナ(24歳): ……っ……。 菜央(私服(二部)): あたしね、美雪と一穂と約束したの。3人揃って、平成に戻るって。 菜央(私服(二部)): 言い出したのは美雪だけど、その場にあたしもいたし……反対しなかった。……もちろん、一穂も。 菜央(私服(二部)): だから、約束はまだ続いてるの。それに……。 菜央(私服(二部)): お姉ちゃんの方は、逃げる気なんて全然無いでしょ? レナ(24歳): …………。 見開いたお姉ちゃんの瞳は、驚いているようで……少し悲しんでいるようで。 レナ(24歳): ……どうして、そう思ったの? 菜央(私服(二部)): だってお姉ちゃんが、魅音さんや絢花さんを置き去りにして逃げるはずがないもの。 レナ(24歳): ……それは……。 レナ(24歳): ……。嘘なんかじゃ、ないよ。 菜央(私服(二部)): えぇ、わかってるわ。でもあたしが「嘘」だって言い続けたら、真実にはならないんでしょう? 菜央(私服(二部)): じゃあ、……「嘘」のままでいい。今聞いたことは、「な」かったことにさせてもらうわ。 そう言ってあたしは、ぎゅっ……とお姉ちゃんの手を握りしめる。 優しくて、あったかい手。……この手から離れるのは、とても寂しい。 その名残惜しさに耐えながら顔を上げると、寂しそうな微笑みを浮かべるお姉ちゃんとすぐ近くで目が……合った。 レナ(24歳): やっぱり……行っちゃうんだね、菜央。 念押しのような言葉に、静かに頷く。 菜央(私服(二部)): ……ありがとう、逃げるって選択をくれて。嘘でも……嬉しかったわ。 レナ(24歳): 嘘じゃないよ……。もし菜央が逃げたいって言ったら、本当にそうするつもりだった。 菜央(私服(二部)): …………。 その言葉は、きっと嘘じゃない。あたしが心の底から逃げることを望んだなら、お姉ちゃんは笑って叶えてくれただろう。 ……魅音さんや絢花さん、大事な友達を置き去りにして。 でも……友達を置き去りにする苦しさを、あたしは知っている。そんな思いを、お姉ちゃんにさせたくなかった。 菜央(私服(二部)): ……さっきまでのあたしには、逃げるなんて選択肢は存在しなかった。 菜央(私服(二部)): 美雪は逃げていいって言うかもしれないけど、もしそう訊かれたとしたら……あたしは何も考えず反射的に拒否したと思う。 菜央(私服(二部)): でも……お姉ちゃんが選択をくれたおかげで、あたしは自分がどうしたいか考えることができた。 菜央(私服(二部)): 逃げられない、じゃなくて……逃げないって。 レナ(24歳): …………。 レナ(24歳): 選ばれなかった選択肢だけど、存在した意味はあったのかな……かな? 菜央(私服(二部)): えぇ、もちろんよ。 レナ(24歳): ……でも、選ばないんだね。 菜央(私服(二部)): えぇ。そうしなきゃ、この「世界」がめちゃくちゃになっちゃうもの。 菜央(私服(二部)): それに……一穂のこと、迎えに行ってあげなくちゃ。 菜央(私服(二部)): ……あたしね、いつだったか美雪と一穂に言ったの。いざって時は2人のことよりも、お姉ちゃんを選ぶって。お姉ちゃんが生きてくれるなら、なんでもするって。 菜央(私服(二部)): あたしの願いは叶った……だから今度は、美雪の願いを叶えてあげる番よ。 菜央(私服(二部)): 自分の願いが叶ったからそれで解散、はいおしまい……なんてセンスのないことはできないわっ! レナ(24歳): …………。 お姉ちゃんは、笑うあたしが握った手にもう片方の手を添えて……握りしめる。 レナ(24歳): 私は……情けないお姉ちゃんだね。 レナ(24歳): 菜央が行きたい理由も……行かなきゃいけない理由も全部全部、わかっているのに……。 レナ(24歳): 私が菜央なら、誰に何を言われても絶対……絶対行くって、わかっているのに……! レナ(24歳): 「世界」がなくなっちゃうよりも……妹ともう会えなくなることが悲しくて、寂しくて……辛くて……苦しくて……! レナ(24歳): 嫌だよ……これでお別れなんて、嫌だよッ……!! 大人になったお姉ちゃんの瞳から、ぽろり……と涙がこぼれ落ちる。 菜央(私服(二部)): お姉ちゃん……。 ……再会してから、ちょっとだけ思っていた。 平成5年のお姉ちゃんは、昭和58年よりも正しく年齢差が出てしまったせいで少し遠い存在になってしまったみたいだ……って。 お姉ちゃんの背が少し伸びて、物理的に距離が離れてしまったことも関係している……のかもしれない。 レナ(24歳): せっかく、姉妹に戻れたのに……!10年かけて、菜央のお姉ちゃんになれたのに……! レナ(24歳): なんで……なんでこんなことになるの……?こんなのってないよ……酷すぎるよッ……! でも、ぽろぽろと大粒の涙を流しながらあたしの手を握るお姉ちゃんは……あの日と同じ。 昭和58年のゴミ山で戦って、泣きながら抱き合ったレナお姉ちゃんなのだ。 菜央(私服(二部)): ……ありがとう、お姉ちゃん。その言葉を聞けただけで、あたしは十分よ。 菜央(私服(二部)): けど……一つ訂正させて。 レナ(24歳): え……? 菜央(私服(二部)): あたし、……戻ってくるわ! 菜央(私服(二部)): 絶対……絶対に、ちゃんとお姉ちゃんのところに戻ってくる! 菜央(私服(二部)): こんなに素敵なお姉ちゃんが待ってる「世界」を諦めるなんて……センスがなさ過ぎるわ! 菜央(私服(二部)): だから、だから、だからっ……! 菜央(私服(二部)): 泣かないでよ……お姉ちゃん……っ……! レナ(24歳): 菜央……っ……! 涙は……なんとか、こらえた。だってあたしの分の涙は、お姉ちゃんが十分すぎるほど流してくれたから。 菜央(私服(二部)): ……さよならなんて、言わない。絶対に諦めないし、受け入れたりしない。 だから、あたしは……お姉ちゃんの分まで、笑う。 お互い最後に覚えているのが泣き顔なんかじゃ、未来を明るく迎えることができないから……っ! 菜央(私服(二部)): ねぇ……お姉ちゃん。妹のワガママ、……聞いてくれる? 菜央(私服(二部)): あたしが戻ってきたら……お帰りなさい、って言ってほしいの。 レナ(24歳): ……っ……。 レナ(24歳): うん……うん。もちろんだよっ……! レナ(24歳): 笑顔で、いっぱい抱きしめてあげる……!菜央のしたいこと、何でも叶えてあげる……! 菜央(私服(二部)): ……じゃあ、約束ね。ゆびきりげんまん。 手を離して、……右手の小指を立てる。 お姉ちゃんは嗚咽をもらしながら、同じように手を伸ばして……。 ……小指が絡むと同時に、頬が熱くなった。もう……抑えられなかった……。 菜央(私服(二部)): (……バカね。泣かないって決めたじゃない) 我慢しようと決めたはずの涙が、次から次へとこぼれ落ちて……止まらない。 それでも、……あたしは笑い続けた。少なくとも自分では、笑っているつもりだった……。 レナ(24歳): 約束だよ……菜央。帰ってきたら、たくさんお話をしようね。何日でも、ずっと……一緒にいて……。 レナ(24歳): お買い物にも、行こう。一緒にお洋服を選ぼう。かぁいいものをいっぱい見よう……。 レナ(24歳): それで……それで……ッ……! レナ(24歳): ……夜が来たら、一緒にお料理しようね?なんでも好きなものを作ってあげる。 レナ(24歳): 何日かけても食べきれないくらいのご馳走、心を込めて、作るから……っ……。 レナ(24歳): たくさん、たくさん用意するから……ッ……!! 菜央(私服(二部)): ……すごい食卓に、……なりそうね。 菜央(私服(二部)): あたしひとりだと、食べきれないかも……かも。だから……一穂と美雪、千雨も誘っていい……? レナ(24歳): うん、うん……!一穂ちゃんが大好きな白いご飯、たくさん炊くね! レナ(24歳): 美雪ちゃんがおいしいって言ってたハムカツも、いっぱい揚げるね! だから、だから……っ! レナ(24歳): 約束だよ……! 絶対、帰ってきてね……!嘘ついたら、……許さ……なっ……!! 菜央(私服(二部)): ……っ……。 菜央(私服(二部)): うん……行ってきます、お姉ちゃん……! ――ゆびきりげんまん、うそついたら針千本のーます。 2人で泣きながら、笑って交わした約束。 これが最後になるかもしれないことは理解している。交わした指切りの約束が、果たされないことも……。 それでも、……あたしたちは約束を交わす。 別れた指が、もう一度絡むことを信じて。……そのための、約束だった。 菜央(私服(二部)): ……確かにあたしが帰ってこなければ、お姉ちゃんの努力を踏みにじることになるでしょうね。 菜央(私服(二部)): でも、帰ってきたら……そうはならないわ。 美雪(私服): そんなこと言っても、帰ってこられる保証なんて……! 菜央(私服(二部)): それは美雪も同じでしょう? それともなに? 菜央(私服(二部)): 命がけで守ってくれた、あのお父さんの想いを踏みにじるために……あんたは昭和に戻るの……? 美雪(私服): ……っ……! 思わぬ反論に息を詰める私を見て、菜央が苦笑する。 菜央(私服(二部)): あんた、昭和58年に泣いて暴れるあたしを必死に引き留めながら、お父さんと別れて平成に戻ったこと……覚えてるわよね? 菜央(私服(二部)): もっと話をしたかったはずなのに……本当にバカね、あんたって。他人のことを気にして、優先しすぎなのよ。 美雪(私服): …………。 忘れてはいない。もちろん覚えている……ただ、忘れたふりをしていただけだ。 菜央(私服(二部)): まったく……あんたって、隠し事のセンスがないわね。何を考えてるかなんて全部お見通しよ。 美雪(私服): わ……悪かったね、センスがなくてさ。 千雨: ふっ……。 背後から千雨が鼻で笑う声が聞こえ、とっさに振り返って睨みつけたけど……。 迫力がないことは、自分が一番よくわかっていた。だって心の大半を占めていたのは、怒りではなく全く正反対の感情だったからだ。 菜央(私服(二部)): というわけだから、行きましょう。さっさとしないと……。 ツクヤミ: オォオオオオオオオオオオオオオオオォオォオ――! 菜央の言葉を奪うように、不気味な唸り声が響き渡った。 菜央(私服(二部)): ……邪魔が入るって、言おうと思ったんだけど。 美雪(私服): い、いや。まだ邪魔が入ると決まったわけでは……。 楽観的と呼ぶより、そうであってほしいという願いを打ち砕くように、暗闇の茂みが動いたかと思うと……。 千雨: って……なんだ、あのデカい『ツクヤミ』は?! 菜央(私服(二部)): 複数いるわよ?! これ囲まれてない?! 采: っ……ついに、ここの神域が破られたです……!お前ら、急ぐのです!! 美雪(私服): いや、急ぐって言われても……采様が「門」を開いてくれないと、急ぎようがないんですが?! 采: あぁっ、そうだったのです!汝らが話し込むせいで、準備が遅れたのです! 采: 汝らのせい!!! 千雨: こっちに責任を押しつけるなよっ!とにかく、早くしてくれ! 采: 今から開くから時間を稼ぐのですよ! 美雪(私服): えっ?! すぐに開けないんですか?!#p田村媛#sたむらひめ#rは結構さくっと開いてくれましたが?! 采: ヤツと我では性質が違うのです!元より我とチョー相性が悪い力!なんとかしてやるだけ感謝するのですー! 菜央(私服(二部)): あー、うるさい!とにかく時間を稼いだらいいのねっ?! 美雪(私服): 結局、行くも退くも地獄ってやつかーっ! 社の前に立った采様がぶつぶつと呟き始めるのを背中で聞き、私は『ツクヤミ』の群れに立ち向かうべく『ロールカード』を取り出して……。 ツクヤミ: ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! ツクヤミ: アァアアッ?! 押し迫る波のようだった『ツクヤミ』の群れ。その一部が……突然、割れた……? レナ(24歳): みんな、大丈夫?! 菜央(私服(二部)): お、お姉ちゃん……?! 海面を割るモーゼのようにツクヤミの群れを割って姿を現したのは……大鉈を手にしたレナだった。 さらに、その背後でひらめく銀色の刀を構えていたのは……! 魅音(25歳): あっはっはっはっ……あんたたち、水くさいねぇ!せめて、見送りくらいはさせなっての! 美雪(私服): 魅音っ……? どうして、キミが……?! 魅音(25歳): ちょっ、美雪……後ろっ!! 美雪(私服): えっ? 魅音の指摘に振り返った背後に広がるのは大きな闇……いや、大口を開けたツクヤミの口内。 そのまま私を飲み込もうと、押し迫って――。 それが突然、落としたトマトのように弾け飛んだ。 川田: ……とりあえず、手伝ってあげますよ。私は采様の『御子』ですか、らっ! 川田: 主の意志を尊重するが『御子』の務め。あと……このままお別れになったんじゃ、寝覚めが悪いですので。 美雪(私服): 川田さん……! 川田: あの……なんで嬉しそうな顔するんです?油断させてスキありー! って殺すとは思わないんですか? ライフルを片手に長いストールを夜風になびかせ、川田さんはけだるそうにため息をつく……。 いや、今は畠山さんと呼ぶべきだろうか? 美雪(私服): (最初に出会った頃とは別人みたいだし……こっちが素?) 猫と呼ばれながら犬を名乗っていた彼女は私の顔を見るやふん、と鼻を鳴らすと……吐き捨てるように言葉を繋いでいった。 川田: しけたフレンチフライみたいな顔していますねー。どうせ色々と思い悩んでたんでしょうけ……どっ! 美雪(私服): ……その悩みの大半を作ってくれたのは、あなたと采様ですけどね。 川田: 否定はしません。……でも、そもそも自分から死地に飛び込んでいくことでそうなったんだぞ、って抗弁をさせていただきます。 川田: あれだけ危ないよー、引き返せーって注意し続けても全然聞きもしないし……悩みの原因だと言われたら、逆ギレですかって文句を返したいくらいです。 美雪(私服): あははは……確かに、その通りですね。善意にお応えできなくて、すみませんでした。 川田: …………。 川田: あと……これだけは言っておきます。昨日は私、美雪さんを確実に殺すつもりでしたが……他の人たちを巻き込もうとまでは考えてませんでした。 美雪(私服): えっ? それって、どういう意味……? 川田: ……どう解釈するかはあなたの自由です。もちろん、忘れても捨て置いても構いません。 川田: あの女の言葉を借りるなら……他人の言葉でも誰かに伝えた時点で、それは受け取った当人の私物になるそうですので。 美雪(私服): (あの女って……) 灯: ――美雪くん! 美雪(私服): 灯さん?! 振り返った視線の先、今まさに脳裏に描いたばかりの顔が別の茂みから飛び出してきた。 灯: 保持は獲得より、達成感を得にくい!君は何も為し得ていないと、失ってばかりだとそう思い込んでるかもしれないが……! 灯: 私がここに立っているのは、間違いなく君の功績だ!ありがとう! わずかでも私を信じてくれて! 灯: 自分で言うのもなんだが、私ほど信用しにくい女もそうそういなかっただろうにっ!! 美雪(私服): (自分でそれ言っちゃう……?!) 自覚があったのかと唖然とする私へ、頭に葉っぱをつけたまま灯さんは叫んでいった。 灯: 全てを信じる必要も全てを疑う義務もない!だってほら、世界を2色に分けてしまうのは勿体ないだろう?! 暗闇の中、朗々と灯さんの声が響く。私の行く先を、少しでも照らそうとするように。 灯: 君は君が思う正解を選ぶといい!仮にその選択の末に屍の山が積み上がろうともッ!!幾千幾万が君を憎悪し、否定し、恨み憎もうともッ!! 灯: 私は……私だけだとしてもッ!! 灯: 君が心から選んだ結末ならば、その未来全てを一点の曇りもなく肯定するッッッ!! 灯: まぁ君にとって私の肯定など何の意味も価値もないかもだがははは――。 灯: うわぁああなんか飛んで来たんぎゃうーっ?! 巴: あんた、顔を出し過ぎなのよ! 下げなさいっ! 川田: ちょっと?! 南井さんもその肝心要役立たずクソザコ女と引っ込んでっていったじゃないですか!なんでここにいるんです?! 川田: 自分が死にやすいって自覚してください、お願いですから!!! 巴: 人を縁日のヒヨコみたいに言うんじゃないっ!! 川田: 同程度ですっ!! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: お二人は下がっていてくださいっ!足止めくらいは、私にだって……! 魅音(25歳): 絢花こそ無理しないで、ひっこんでなっ! 千雨: おい、まだか?! 采: あと少し……! 背後で少しずつ……扉のような、今ここにはなかった何かが開く気配がする。 美雪(私服): レナっ! ……だから、その前に。 美雪(私服): いつだったか作ってくれたお弁当、ありがとう!甘めの卵焼き、あれすっごいおいしかった! レナ(24歳): えっ……? 大鉈を振るっていたレナが、きょとんとした顔で振り返る。 レナ(24歳): あ、ありがとう。……でもあの時、お礼を言ってもらわなかったかな……かな? 美雪(私服): 言った!けど、もう一度お礼言っとけばよかったって後悔したから! ベッドの上でミサンガを編んでいたうつろなレナに、どんなに感謝の言葉を伝えても返事はなかった。 必死で話しかけても、願っても、私の心は何一つ届かなくて……。 レナ(24歳): レナこそ……美味しく食べてくれて、とっても嬉しかったよ……! だから、こうやって感謝を伝えられることが……返事があることが奇跡だって理解できる。 レナ(24歳): ねぇ……美雪ちゃん。 レナ(24歳): 過去に行った先にいるレナは、ここにいるレナとは全くの別人かもしれない。 レナ(24歳): 美雪ちゃんのことも一穂ちゃんのことも、全然知らない可能性だってある……。 レナ(24歳): それどころか、菜央を妹としてちゃんと受け入れられるか、わからない……。 最後の言葉は、背後で戦う菜央に聞かせまいとしてなのか……消え入りそうなほど小さな声で発せられた。 ……レナが恐れていることは理解できた。正直、その光景は容易に想像できたのでちょっとだけ……怖い。 レナ(24歳): でも……。 レナ(24歳): 美雪ちゃんのお友達のレナは、ここにちゃんと「い」るってこと……忘れないで。 美雪(私服): ……忘れないよ。頼まれたって、忘れるもんか。 だから、今言えることはひとつだけだ。 美雪(私服): 「向こう」のレナとも友達になれるって、断言はできないけど……頑張ってみる! 強気なのか気弱なのか自分でもよくわからない宣言に、背後でレナがくすっと笑う。 レナ(24歳): ……ありがとう。 レナ(24歳): 菜央を……妹を、お願い。 美雪(私服): もちろん! 采: 開いた! 急ぐのです!! 菜央(私服(二部)): お姉ちゃんッ!! レナ(24歳): 行きなさい……菜央! 早くっっ!! 千雨: おい! 美雪、急げっ!! 美雪(私服): みんな……またねっ!! 強く地面を蹴り出すと同時、背後でレナが鉈を振るう音が聞こえる。 美雪(私服): (わかってたよ……全部自分で引き受けるなんて、無理だって) それでも、やるしかないと思ってた。他に道はないと思ってた。 みんな、もうボロボロで……たくさんのものを失った。だからもうこれ以上、なにも失ってほしくなくて……。 でも……失う覚悟をしてでも、何かを為すために手を伸ばしたいのは……私だけじゃなかったんだ。 美雪(私服): ……っ……! 菜央と千雨に続いて地面を蹴り出した先に待つのは、ぽっかりと口を開けた暗闇の中。 相変わらず、草船に乗るような不安定な旅立ちだ。無理。無茶。無謀……笑うしかない無の三倍役満。 美雪(私服): (だけど……見送ってくれる人が、帰りを待ってくれる人がいる) だから私たちは、胸を張って夜の海のような闇の中でも飛び込めるのだ――! 美雪(私服): 行くよ……菜央、千雨っ!今度こそ……成功させる! そして――! 美雪(私服): あの子に……一穂に会って、連れ帰るんだ! そうだ、私たちは負けない……!!負けてたまるか、絶対にッッ!!!