Part 01: 沙都子: ……魅音さん。いきなり言われてもおもちゃ屋さんのテコ入れ案なんて、簡単には思いつきませんのよ? 魅音: そう言わずに……いや、無茶を言っているのは承知の上だけどさ!頼むよ、お願い~! 羽入: あぅあぅ……うーん、うぅーん……。 梨花: みー……羽入。そんなに頭を抱えて考え込みすぎると、脳が沸騰してぱーん、となるのですよ。 羽入: あぅあぅあぅ~っ?! 美雪: いや、さすがにそうはならないでしょ。……血が上ってひっくり返るかもしれないけどさ。 魅音: 本当に、あんたたちが頼りなんだよー!隣町に大手の資本が入った新しいおもちゃ屋ができたから、早急に対策を取らないとマズいんだって~! レナ: ……はぅ?魅ぃちゃん、隣町のおもちゃ屋さんって少し前に潰れたって言っていなかったかな、かな……? 梨花: みー、ボクも聞いた覚えがあるのですよ。 魅音: そっちじゃなくて、同じ場所に同じおもちゃ屋がオープンしたんだよ。 魅音: で、さっきも言ったけど今度は個人経営じゃなくて大手ブランドの専門店が支店としてそのまま入ったってわけ。 菜央: えっ……玩具量販店……? 一穂: つまり、おもちゃ屋さんが潰れた場所に新しいおもちゃ屋さんができたんだね……? 美雪: 居抜きってやつか。イチからお店を建てるより、元からあった建物を改装した方が安くすむしね。 美雪: で、浮いた分のお金を割引セールとか客寄せイベントの景品とかに使っている……と。 魅音: それだけじゃないんだよ。元からあったおもちゃ屋が閉店したのも、新しくできたおもちゃ屋が開店したのも……。 魅音: その経緯が、ちょっときな臭い感じなんだ。 美雪: きな臭いって……まさか、乗っ取りとか? 魅音: 証拠はないけどね。けど、うちの#p興宮#sおきのみや#rの店が勢いをなくしてから系列店がとどめを刺すために乗り込んでくる、って可能性も否定できないしさ。 菜央: 競合相手を潰す時の、常套手段ね。そういうやり方で、大手スーパーが地元商店からお客を奪い取るって話を聞いたことがあるわ。 レナ: じゃあ、あのおもちゃ屋さんがなくなっちゃうってこと……? 沙都子: まぁ新しいおもちゃ屋ができても、今のあのお店ほど楽しめるとは限りませんものね。とはいえ、どうしたものかしら……? 梨花: みー……いつものようにゲーム大会を開いて盛り上げるのではダメなのですか? 羽入: あぅあぅ!みんなが楽しくゲームを遊んでいるところを見せて、お客を集める作戦なのですよ~! 一穂: わぁ……! それ、すっごく楽しそう! 魅音: もちろん、その企画もちゃんと考えているよ。けど、あともう一押しの何かが欲しいんだよね~。 菜央: ……おもちゃの品数を増やす、というのは?この時代……じゃなくて最近はゲームクロックスとか、テレビゲームとかが流行ってるって聞いたわ。 魅音: 人気商品は、仕入れ数の確保が厳しくてさ。それこそ量販店にはかなり劣ることになると思うよ。 菜央: …………。 レナ: はぅ……難しいね。売れるものがあればお客さんを呼べるけど、それだと大きなお店には対抗できない……。 羽入: で、でも……!あのおもちゃ屋さんがなくなってしまうのは僕も嫌なのです。 羽入: あそこは、興宮や#p雛見沢#sひなみざわ#r……子どもたちみんなの笑顔が集まる憩いの場なのですよ……! 梨花: 羽入……。 一穂: わ、私もそう思う!なくしちゃいけない、大事な場所だから……! 魅音: ありがとう、一穂……それを聞いたら、善朗おじさんもきっと喜んでくれるよ。 美雪: とはいえ、どうしたものかな……。 菜央: ……あのおもちゃ屋さんの隅っこ、アーケードゲームが置いてあるけど格闘ゲームはないのね。 魅音: へっ……かくとう、ゲーム?何それ? 美雪: あー……菜央、あと一穂も。ちょっとこっちに。 一穂: ……? どうしたの、美雪ちゃん? 菜央: なによ?あたし、何かおかしなことでも言った? 美雪: んー、私も正確な情報を知ってるわけじゃないけど……まだこの時代には、格闘ゲームはないと思うよ。 菜央: えっ……そうなの? 美雪: うん。少なくとも、菜央が知ってるような対戦型の格闘ゲームはないはずだ。 美雪: 実際、うちの社宅で格闘ゲームにハマって同好会を作ったグループがあるんだけど……結成されたのは私が中学に入る頃だったからね。 菜央: そうなのね。じゃあ、別の何かを……。 魅音: あーっ、そうだ! 思い出した! 美雪: えっ……? 魅音: 前に見せてもらったアーケードゲームのカタログにあったよ、対戦型格闘ゲームってやつ!確か、キャラクター同士を戦わせるやつでしょ?! 美雪: ……ええっ?! 沙都子: なるほど……!つまりは新台を入れ替えるということですわね! レナ: はぅ……その言い方はどうかな、かな……? 魅音: 費用はかさむだろうけど、園崎からの援助はなんとかなりそうだし……。 魅音: 今のうちにそっちを確保して、固定客を作っておくってのはいいかもね……! 美雪: い……いや、ちょっと待って魅音っ?この時代にそんなゲームがあるはずが――もがっ?! 菜央: ……黙ってて、美雪。 沙都子: をーっほっほっほっ、ナイスアイディアですわ~!ゲームコーナーは、隣町のおもちゃ屋にもありまして? 魅音: 確か……まだなかったはずだよ。あっちは売ることに特化していたからね。 レナ: じゃあ、違う方向性で戦えるんじゃないかな? かな? 魅音: よーし、その方向でやってみるよ! 羽入: あぅあぅ!おもちゃ屋パワーアップ作戦スタートなのです! …………。 菜央: ……。やっぱり、変よ。 Part 02: 魅音(私服): よーし、新台の入れ替え完了~!いやー、手に入って本当によかったよ! 美雪(私服): お、おぉ……これが社宅の兄ちゃんたちがどハマりして、人生を変えたという格闘ゲー……。 美雪(私服): ……んー……? 一穂(私服): どうしたの、美雪ちゃん……? 美雪(私服): あ、いや。私はプレイしたことがないからうろ覚えだけど、こんな感じの台だったかな……と思ってさ。 菜央(私服): あたしも初めて見るわ、このゲーム。似たようなのはいくつかあったと思うけど……こんなメーカー名だったかしら? 魅音(私服): え、菜央が東京で遊んだのって、これじゃないの?格闘ゲームで対人型のはこれが世界で初めてだってメーカーの人は言っていたんだけどさ。 菜央(私服): ……そうかも、かも。いえ、そうだったかもしれないわ……。 一穂(私服): 菜央ちゃん……? 沙都子(私服): それにしても、格闘ゲームって人生を変えるほど面白いんですの? 美雪(私服): んー、ハマる人はハマるらしいよ。 魅音(私服): だったら、これでお客さんをたくさん呼べるね!対戦型となれば、盛り上がる要素としては最高だよ! レナ(私服): はぅ~♪この画面に流れている映像を観ているだけで、ワクワクしてくるよ~! 菜央(私服): ……えぇ、そうね。あたしもあとで、ちょっとプレイしてみたいわ。 美雪(私服): ところで、当日のゲーム大会……どんな内容にするのかは、もう決めたの? 魅音(私服): いや、まだ詰めている最中だよ。まずは新台ゲームのお試し大会になると思うけどね。 魅音(私服): ただ#p興宮#sおきのみや#rの学校でも、最新のゲームが導入されたって話題になっているらしいし……当日は盛り上がること間違いなしだよ! 羽入(私服): …………。 沙都子(私服): あら……?どうしたんですの、羽入さん。 羽入(私服): ……いえ、なんでもないのですよ。 沙都子(私服): そうは言っても、浮かない顔ですわ。何か気になることでも? 魅音(私服): そうだよ、羽入。仲間なのに水くさいよ~? 梨花(私服): ……羽入? 羽入(私服): あぅあぅ……的外れな意見かもしれませんので、言ってもいいのかどうか……。 レナ(私服): 大丈夫だよ、みんな笑ったりしないから。何か不安なことがあるのかな、かな? 羽入(私服): ……このゲームは、とても楽しそうなのです。きっとみんな遊びたいと思うのですよ。 羽入(私服): でも……ゲーム大会に集まった人全員が、このゲームを遊ぶことは時間的に考えてできないのではないかと……思ったのです。 魅音(私服): それは……まぁ、ん……。 美雪(私服): 何人集まるかはわからないけど、全員はさすがに厳しい……かな。 菜央(私服): 話題になってるなら、いつも以上に結構な人数が集まるでしょうしね。 一穂(私服): 遊べなかった人はまた今度、じゃダメかな? 沙都子(私服): 手に入らなかったものほど欲しくなる、というのは真理に違いありませんけど……。 沙都子(私服): 絶対に手が届かないと思わせてしまっては、逆効果になってしまう可能性がありますわ。 美雪(私服): ……ふむ、すっぱい葡萄ってやつかな。 美雪(私服): 高い場所に実って手に入らない葡萄をあれはすっぱいから食べなくて正解だ、って自分に言い訳しちゃうやつだね。 菜央(私服): 食べてみないと、すっぱいかどうかはわからないんじゃないの? 梨花(私服): みー……でも手に入らない葡萄が甘くて美味しいと聞かされたら、とても悔しくなってしまうと思うのですよ。 レナ(私服): はぅ……つまり羽入ちゃんは格闘ゲームを遊べなかった人が、あのゲームはとてもつまらないから遊ばなくて正解だ……。 レナ(私服): そう、思われないようにしたいんだよね? 羽入(私服): はい。新しいゲームを入れても、遊べるお客さんが限られてしまうのは意味がないと思うのです。 魅音(私服): 確かに……となると、対策を考えないとね。 美雪(私服): 人間、行列に並んで待った後に完売でーすって言われるとガッカリするから……あらかじめ整理券を配っておくとかはどう? 沙都子(私服): 待つ場所を確保できまして……?週末は暑くなると聞きましたわ。 菜央(私服): ゲームの台数は2台しかない。当日プレイできる人は、時間的にどうしても限られる。あと、お客さんが何人来るかわからない……。 一穂(私服): たくさんお客さんに来てもらいたいけど、来すぎたら逆に困っちゃう……うぅ、難しい。 沙都子(私服): ……ぁ……。 羽入(私服): どうしましたか、沙都子?今、何か思いついた顔をしていたのですよ……すごいトラップをひらめいた時のように。 沙都子(私服): かなり思い切った案ですが……。 梨花(私服): みー、どんな案なのですか? 沙都子(私服): お客さんは大会当日、全員プレイできないというのはいかがでして? 一穂(私服): えっ? でもそれだと、お客さんは楽しめないんじゃ……?! 沙都子(私服): さっきレナさんと一穂さんが話していたではありませんの。ゲームの画面を見ているだけで、ワクワクすると。 沙都子(私服): おもちゃ屋さんの店長さんが魅音さんの親戚の方であることは興宮はもちろん、#p雛見沢#sひなみざわ#rでは有名ですわ。 沙都子(私服): ですから魅音さん主催の、魅音さんがチョイスしたメンバーによる新ゲームの対戦を観戦する大会……なんてどうかしら? 梨花(私服): チョイスしたメンバー……つまり、ボクたちのことなのですか? 魅音(私服): でも、せっかくおもちゃ屋に来たのに遊べないってなったら……ガッカリしない? 沙都子(私服): もちろん、それだけでは終わりませんわ。 沙都子(私服): 観戦者には優勝候補を予測してもらって……優勝者に投票した人は別の日にそのゲームを遊べる権利がプレゼントされるんですのよ! 魅音(私服): なるほど……!それなら投票者数で、後日集まる人数を割り出せる! 美雪(私服): 外れた人は多少不公平感は持つだろうけど、自分でこの人に投票したっていう自主性が不満を多少緩和してくれるってことか……おぉ、なるほど。 レナ(私服): そうだね。それに、突然新しいゲームを遊んでいいって言われても、どうやって遊ぶかわからない子もいるんじゃないかな? かな? 菜央(私服): 人のやり方を見て遊び方を学ぶのは、ゲーム上達の王道だもんね。 沙都子(私服): えぇ……そこでさらにもう一押し。 沙都子(私服): ゲーム大会に出場する選手は選ばれた存在だと派手に見せつけて……そのビジュアルでも目を引いてみせるのですわ~! 羽入(私服): ……あぅ? 派手に見せつけるとは? Part 03: 詩音(私服): それではエントリーナンバー8! 詩音(私服): 燃えるドラゴンここに現れり!変幻自在カンフーキャラクターを使役するのはこの女! 詩音(私服): ふるでぇええええええええはにゅうううううううう!!! 羽入(RPG): ちょ、ちょいやー! なのです! 詩音(私服): おおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 詩音(私服): 羽入選手、意気込みをどうぞ! 羽入(RPG): あ、あぅあぅ……あ、の、えっと、その……。 詩音(私服): おおっと、緊張しているようですね! 詩音(私服): しかし羽入選手、操作スティックを握らせたら激しいことこの上ないとの事前情報が入っています。 羽入(RPG): あ、あぅ?そんなに激しく動かしていたのですか……? 詩音(私服): 自覚なし!つまりは無意識からの超攻撃型! 詩音(私服): くっくっくっ……これは序盤の攻めがそのまま決め手になりそうですねー。 羽入(RPG): あぅあぅ……そ、そうなのですか? 詩音(私服): そうなんでーす! 詩音(私服): ……さてさて、これで全メンバーが出揃いました。さぁて、ゲーム大会開始まで間もなくです。投票券は後ろの係員からお受け取りくださ~い。 オタクA: お前、誰に投票する? オタクB: みんな可愛いからな……。 オタクC: 個人的には……あぁ、迷う! みんな可愛い! オタクA: おい……どうした?お前ら、あのゲームのプレイ権を勝ち取るために優勝できるヤツを選ぶってのを忘れたのか……? オタクB: いや、だって……可愛いだろ? オタクC: あぁ、みんな可愛いな……もう誰が優勝しても可愛いな。 オタクA: ひぃ! ゲーマー魂が可愛いに食われている…?! 沙都子(水着): 想定外の客層が集まりましたわね……けど、それ以上に詩音さんのノリノリ具合が気になりますわ。 沙都子(水着): 一枚噛ませてくれと言っていましたけど、大会まるっと飲み込む勢いですわね……。 羽入(RPG): 詩音は賑やかなのが好きですから……それにしても、沙都子はどうして水着を着ているのですか? 沙都子(水着): 私が使うキャラの服に、一番似ているからだと……菜央さんが格闘着っぽく寄せようとしてくれましたけど、足し算も引き算も出来ないと嘆いていましたわね。 沙都子(水着): まぁでも、ゲームとはいえ戦いは戦い……動きやすい服に越したことはありませんわ! 羽入(RPG): あぅあぅ!僕のこの服もなかなか動きやすいのですよ。 沙都子(水着): あら、羽入さんもやる気満々ですわね。 沙都子(水着): 魅音さんのことですから、秘密の優勝賞品はエンジェルモートのデザートフェスタの招待券が妥当でしょうし……頑張る理由は十分ですわ。 羽入(RPG): あぅあぅ、優勝賞品は欲しいんですが……こうしてみんなとゲームができることも、嬉しいのです。 羽入(RPG): 沙都子が名案を思いついてくれたおかげなのですよ! 沙都子(水着): ……思い切った案を出せたのは、羽入さんの後押しがあったからですわ。 沙都子(水着): 羽入さんが、ここがなくなるのは嫌だと言ったので……私も必死で考えましたのよ? 羽入(RPG): あぅあぅ……じゃあ、少しは僕の功績だと思っていいのですか? 沙都子(水着): えぇ……ですが、戦いは戦い。遊ぶだけでいいなんて殊勝なことを言わないでいただけまして? 沙都子(水着): 私、勝つ気のない人に勝っても楽しくありませんもの。 羽入(RPG): もちろん、僕も勝ちにいくのです!負けないのですよ~! 沙都子(水着): ふんふふんふふ~ん♪ 羽入(私服): あぅあぅ、お風呂場からご機嫌なミュージックが聞こえるのです。 梨花(私服): よっぽど今日のゲーム大会、楽しかったのね。くすっ……鼻歌なんて歌っちゃって。 羽入(私服): ……梨花は楽しくなかったですか? 梨花(私服): 楽しかったわよ。あんなゲーム、初めて遊んだもの。幾千幾万の繰り返しの中でも、見たことがなかったわ。 梨花(私服): ……隣町のおもちゃ屋が潰れて、居抜きで別のおもちゃ屋が入ったって話もね。 梨花(私服): 少なくとも、私たちが繰り返した「世界」では初耳よ。……いったい、何が起こっているのかしら? 羽入(私服): あぅあぅ……。 梨花(私服): 別に、羽入を責めているわけじゃないわ。だって、あんたにもわからないんでしょ? 羽入(私服): ごめんなさいなのです……。 梨花(私服): それにしても、あんたがあのおもちゃ屋にあんなに深く入れ込んでいたなんてね……ちょっと意外だったわ。 羽入(私服): ……あぅあぅ。梨花はあのおもちゃ屋さんに、あまり思い入れがないのですか? 梨花(私服): そんなことないわ。あの場所には、楽しい思い出がたくさん詰まっている。 梨花(私服): けど、どうしても魅音と人形の件の印象が拭えなくて……。 羽入(私服): …………。 梨花(私服): とはいえ、この「世界」ではその事件は起こらない。圭一の不在、一穂たちの存在……前提が違い過ぎる。 羽入(私服): だから……あのおもちゃ屋で安心して遊べたのかもしれないのです。 梨花(私服): 少なくともこの流れで詩音が暴走することはないから?確かにそう言えなくもないけど……。 梨花(私服): ……そうね。安心はできないけど、いつもと違う遊びは……結構楽しかったわね。 羽入(私服): またみんなで、新しい遊びを探しましょうなのです!それに、もしかしたら……。 梨花(私服): ……もしかしたら? 羽入(私服): いえ、なんでもないのです。 梨花(私服): 甘い物をたくさん食べる機会ができるかもしれないってこと? 羽入(私服): 違うのですよ~ あぅあぅあぅ~!!!