繭墨の部屋は、濃く甘い匂いに満たされている。
床の上には、大量の紙箱とリボンが散っていた。
パステルカラーに満たされた事務所で、僕は溜息を吐いた。片づけても片づけても端からゴミが増えていくのだからきりがない。リボンに埋もれた荷物と相まって、それはひどい有様だ。僕は両腕を組み、包み紙の発生源である革張りのソファーを振り向いた。
そこには美しい姿が横たわっていた。平然としている彼女に、僕は大声で文句を言う。
「いい加減にしてくださいよ、繭さん。掃除をしろとは言いません。妥協しますが、せめて包み紙を、床に放り投げるのはやめてください。僕は全自動掃除機じゃありません」
「いいじゃないか。君がいる間は、せいぜい都合よく使わせてもらうつもりだよ。しかし、妥協についてはいいことだと思うね。掃除をするボクなんて、天変地異の前触れだよ。想像してみたまえ、小田桐君? 君だって突然世界が終わるのはごめんだろう?」
「掃除をしたくない理由に、世界滅亡を持ち出さないで下さい。無茶苦茶を言いますね」
軽口を叩きあい、僕はリボンを拾った。水色のそれを丁寧に巻き取り、机に置く。次に自分用のカップを回収すると、緩衝剤で包み、段ボールに詰めた。白い犬の描かれた大きなマグカップは、七海がずっと取っておいてくれた、結奈からの贈り物だ。私室に隠してあった灰皿も入れ、僕は段ボールの蓋を閉じた。勢いよくガムテープを引き出す。
ピ─────────────ッ、プッ
そして、僕は段ボールの蓋を固く封じた。
「繭さん、前に言った通りです。これは後で、雄介がバイクに乗って取りに来ますから」
「わかっているよ。勝手に持って行くんだろう? ボクに、わざわざ言う必要はないさ」
頷き、僕は顔をあげた。繭墨あざかは革張りのソファーに横たわっている。退屈そうに、彼女は足を振っていた。黒いゴシックロリータに包まれた姿は完璧に美しい。そして、その手にはチョコレートがあった。彼女はそれを齧る。僕は思わず笑みを浮かべた。
繭墨あざかは今日もチョコレートを食べている。
これこそ、繭墨霊能探偵事務所の日常の光景だ。