第八章 お嬢さんは!?



「おじようさんは!?

 手続きをませ、カウンターのそばで待っていたジョージがけつそう変えた鷲羽わしゆうの顔を見て飛んで来た。

れがゆうかいされたの! 女の子よ! すぐステーションをへいして!!

 鷲羽はカウンターの受付に向かって叫び、ついでに客を押しのけて受付嬢をぎようてんさせた。

「早く! 誘拐犯ははんそう用シュートに飛び込んだわ。ステーションの見取り図を出して!」

「ギャラクシーポリスにれんらくを……」

 受付嬢はうきあしった。

「いいから見取り図を出してよ!」

 鷲羽のけんまくおどろいて、受付嬢はパネルをそうした。

 カウンターの案内図が3D見取り図に切りわる。

「パーツ・ショップの近くよ。そう、それだわ」

 その搬送用シュートは直接外空間のはんにゆう口までつながっていた。

 誘拐犯がその事情を知っていたのは間違いない。

 鷲羽がぜつしていると、となりで見取り図をのぞんでいたジョージが静かに言った。

「行きましょう、鷲羽さん。あの子をさらったのが何者にせよ、そいつはプロです。もうここにはいませんよ」

 鷲羽ははっと思った。

 何を取り乱しているのよ。

 私は宇宙一の天才科学者じゃないの。

 ギャラクシーポリスにたよろうなんて、鹿なこと考えたもんだわ。

 鷲羽は手を伸ばすと、パネルのスイッチを切った。

って悪かったわ。もうあなたの手をわずらわすことはなくなったみたい。ギャラクシーポリスには連絡しないで。必要だと思えば、私がするから。お世話になったわね」

 鷲羽とジョージはあっけに取られている受付嬢をしりに、フロアーを出て行った。


 そのころ、一方的にアンシブルを切られたほしは、布教キャラバンの中でほうれていた。

「切られちゃった……」

「なに? 何があったのよ!?

 長に寝かされたについていたきより返る。

「それどころじゃないんだって。鷲羽さんがあんなにあわててるの、初めてだわ。一体どうしたのかしら」

ゆきじようけたんじゃなかったの? とにかくもう一回連絡してみなさいよ」

「え? ああ、そうよね」

 美星は、すみません、というように白ローブの男……リーにうなずき、再び自分のシャトルを呼び出し始めた。

如何いかがですか?」

 灰色のローブを着た中年の修道女が阿重霞の顔を覗き込んだ。

「まだ意識がもどらないの。……ショックが強すぎたみたいね」

 清音は阿重霞から目を離さずに答えた。

 あの後……てんりようが消え、阿重霞が倒れた後の話だ。

 アタシたちはだれも、何をどうしていいものやら分からなかった。

 魎呼が天地と一緒にスクランブル・ワープしてしまったことだけは分かっていた。

 だが、どこへ?

 見当もつかなかった。

 アタシとガーディアンたちは阿重霞のめんどうを、美星はせいらんを、布教キャラバンの連中は司祭の面倒を見るのにせいいつぱいで、二人の行方をさがすヒマはなかった。

 だが、りようおうは違ったのだ。

 美星がぼうぜんと突っ立っている青蘭の手にじようをかけた瞬間、不意に下位クリスタルが起き上がり、せんかいし始めた。

 魎皇鬼が叫び、クリスタルたちの間に光が走った。

「魎皇鬼ちゃん! どうしたの!?

 美星が驚いて叫んだ。

「みゃあああああん!」

 魎皇鬼が怒ったような鳴き声で答えた。

 じんじような声じゃないと気づくまで、二秒かかった。

 おそかった。

 その時すでに、床はうねり、クリスタルは発光し、アタシたちはろうのようになったブリッジの中央へまとめてころがり落ちていたからだ。

「みゃああああん!!

 何が起こったのかかいもく見当もつかなかった。

 アタシは阿重霞を、美星は青蘭を、白ローブの男は司祭を、聖歌隊はお互いの体にしがみつくのがやっとだった。

 その時、床が消えた。

 同時にクリスタルもスクリーンも消えた。

 アタシたちは宇宙のただなか……正確には布教キャラバンの横に放り出され、アタシたちを放り出した魎皇鬼が一瞬かがやいて飛び去るのをもくげきした。

 それからはもっとパニックだった。

 阿重霞は危うく宇宙のくずとなってただよっていってしまうところだった。

 せき的にその髪の毛を美星の手がつかみ、アタシは手近にあった黒いブーツにしがみつきながら、前を流れていく白ローブのフードをひっつかんだ。

 その時、天の光かと見まごう金色のビームがアタシたちを包んだ。

 布教キャラバンのけんいんビームだった。

 アタシたちは一人のだつらくしやもなくエアロックの内側に転がり込み……人命救助でほうしよう金つき感謝状ものだ……じゆらいおう第一皇女の命をすくったことを合わせれば、樹雷皇家にこうりん教会が建つだろう……今はこうしてにんを続行しているというわけなのだ。

 そう、アタシがしがみついたのは青蘭のブーツだったというわけだ。

 清音はめ息をついて、布教キャラバンの集会室を見回した。

 長の一つに座っている青蘭のりようわきをガーディアンが固め、アタシの反対側には修道女がひかえている。

 あんなことがあったわりには、信者たちは親切だった。

 質問のあらしの代わりに阿重霞には毛布が、アタシたちには熱い飲み物がわれ、そしてこれが一番がたかったことなのだが、この集会室にはたくさんの信者が出入りしていたにもかかわらず、誰もアタシたちを悩ませに来る者はいなかった。

 美星とコンビを組んでいると、信じられないような不運にも出合うが、信じられないような幸運にも出合うのだ。

 美星はまだ連絡がつかないらしく、アンシブルにしがみついている。

「回線がふさがってるのよ」

 美星は振り向きながら、言った。

「ブレスレットで割り込めるきよじゃないの。やっぱり、何か良くないことが起こってるんだわ」

 その時、とうとつにアンシブルがつながった。

「雪之丞!? 雪之丞なのね? 一体何があったの!?

「美星殿!! 大変なことになったでござる!」

 モニターに雪之丞のなつかしい顔が現れた。

「今、鷲羽殿が戻って来て、事情をいたばかりでござる。殿が……砂沙美殿が女かいぞくさらわれたでござる!」

「ええッ!?

 モニターがぱっと切り替わり、鷲羽の顔が大写しになった。

「と、いうことなのよ。私たち、今海賊の行方を追ってるの。雪之丞のデータには入ってなくってさ、合成写真を送るから、分かったことがあれば何でもいいから情報が欲しいのよ。布教キャラバンって何? 取りえず、無事なのね?」

「アタシと美星、それに阿重霞さんと青蘭がいるわ。砂沙美ちゃんが攫われたって、どういうこと?」

 清音が割り込んだので、鷲羽はもう一度事情をり返すはめになった。

「それで、天地殿と魎呼は一体どこにいるわけ? かんけつに、手短に説明するのよ」

 鷲羽のいらった顔を見たたん、美星は清音をモニターの前に押し出した。

 清音が簡潔に、手短に今までのけいを述べている間、鷲羽はけんあくな表情でだまって聞いていたが、途中でまん出来なくなったらしく、清音をさえぎった。

「まったく、あんたたちの頭の程度にはうんざりするわ! 天地殿が人質にされたんならどうして魎呼を人質に取らなかったの? それぐらいの取引は思いついて当然だわ。そろいも揃ってマヌケばっかりだわね! 海賊のリングにふっ飛ばされなくて幸いだったわよ」

 清音がそうはくになってくちびるんだのを見、鷲羽は言い過ぎたと思ったらしくやや調ちようゆるめた。

「天地殿と魎呼については何も出来ることはないわ。魎皇鬼ぶ飛んでったってことは、アストラル・リンクが回復したか、見当がついたか、どちらかだろうから、まかせるのね。それから、分かってるだろうけど、阿重霞さんには言わないこと。後は自分たちで何とかするのよ。いい?」

「待って!!

 清音の背後でかすれた声がした。

「あの子に……砂沙美に何かあったのね! 砂沙美はどこ? 砂沙美を出して!!

 阿重霞だった。

 モニターの鷲羽は青ざめた阿重霞がふらつく足取りで清音を押しのけ、アンシブルの前に倒れ込むように座るのを唇を引き結んだまま見ていた。

「鷲羽さん!」

 鷲羽はそれから十秒は黙ったまま、阿重霞を見返していた。

「気分はどう、阿重霞さん」

「わたくしは大丈夫です。砂沙美は……」

 鷲羽は手を上げて阿重霞を制すと、にっこり笑った。

「清音殿に伝えてちょうだい。私は宇宙一の天才科学者よ。私の辞書に不可能という文字はないわ」

 モニターが暗くなり、しばらくして一枚の合成写真がき出された。

 素晴らしいブロンドと、くらひとみを持った黒いジャンプスーッの美女が微笑ほほえんでいる。

「誰? この女」

 阿重霞は合成写真を片手に周りを見回した。

「ここはどこなの? 魎皇鬼は!?

「阿重霞様!!

 だけあわてて飛んで来た。

「まだお休みになっておられた方が……」

「ここは布教キャラバンの中でござる。我々は魎皇鬼に放り出されたところを救われたので……」

「どうしてわたくしがこんなところにいるのです!? 天地様と砂沙美を今すぐ取り戻すのよ! そしてあの海賊を死刑にするのです!!

 ガーディアンの言葉など全然聞いていなかった。

「阿重霞さん!?

「そんなこと言われても、魎皇鬼がいなくなっちゃって……」

 清音と美星の言葉も耳に入らなかった。

 阿重霞の頭にあるのは、天地がいなくなってしまったという事実、砂沙美がさらわれたらしいという事実だけだった。

「船を出しなさい! 今すぐに! 全宇宙をくまなくさがすのよ! 阿座化、火美猛、何をぐずぐずしているのです!」

 清音と美星は顔を見合わせた。

 阿重霞の目には何も映っていないらしい。

「ど、どうしよう、清音。阿重霞さん……」

「まさか……」

 考えられる限り、最悪の事態だ。

 天地と魎呼は行方不明、砂沙美はゆうかいされ、シャトルは鷲羽に乗っ取られ、どこにも行くことが出来ない。

 この上阿重霞までヘンになったら……。

「うるさいな!!

 事態を救ったのは男のり声だった。

「女にわめかれるのはごめんだ! 喚きたいならどっかよそでやってくれ!」

 阿重霞の目がじようけた男にそそがれた。

 一瞬のうちにしようてんが合い、ほんりゆうのごとく記憶がよみがえってくる。

「海賊!!

 阿重霞の手が青蘭のむなぐらつかんだ。

「青蘭! お前のせいで天地様は……天地様を返しなさい! 今すぐに!」

 青蘭は右手で阿重霞の手を引きはがした。

「じゃあ、おれの魎呼を返せ! 今すぐ! 出来るものならやってみろ!!

「海賊が何を言う! 死刑にしてくれるわ!」

「じゃあ、あんたは何なんだ!? 皇女のくせに喚いて人に命令することしか出来ないのか!?

 阿重霞はぐっとまった。

 集会室にいた信者たちも、阿重霞についていた修道女も静まり返ってしまった。

「言い返さないところをみると、頭がおかしくなったわけじゃなさそうだな」

 青蘭は立ち上がり、阿重霞の手にしていた写真を引ったくった。

 途端に、手首をねじったのか、苦痛にまゆを寄せる。

「そこの刑事二人! どっちでもいいからこのじようを外せ。外すのがいやなら俺をち殺せ! こんなところに閉じ込められて、俺に何が出来るっていうんだ? 俺の左手は使えないんだぜ。このかつこうでトイレに行けっていうのか!?

「外しちゃダメよ! こいつは人殺しよ! わたくしは許しません」

 阿重霞が一歩もゆずらないという顔でぜつきようする。

「阿重霞さん!」

 美星は青蘭を無視してり、思わず阿重霞の両手をにぎめた。

「良かったぁ。阿重霞さんまでおかしくなったらどうしようかと思ってたの。とにかく気を確かに持ってくださいね。ね?」

「何よ。わたくし、そんなにヘンだった?」

 阿重霞はバツが悪そうに聞き返した。

 だって、それしか考えられなかったんですもの、と心の中で言い添える。

「そりゃあもう」

 美星のひとみうるんだ。

「無理もないですけど。最初が天地さんで、次が魎皇鬼、その後がこれでしょ? 私だって泣きたいわ。でも、泣いちゃいけないのよね。だって私たち、ギャラクシーポリスの刑事なんですもん」

「美星!」

 清音が肩をさぶった。

「泣くんじゃないわよ。泣いたりしたら任務ほうやまに報告するわよ! アタシだって泣きたいんだから。船ははる彼方かなただし、鷲羽さんは人の言うことなんて全然聞いてくれないし、アタシたち一体どうすればいいのよ!?

「清音……」

 美星のほおおおつぶの涙がころがり落ちた。

「地球に帰りたいわ。岡山にいればこんなことにならなかったのに。私たち、何にも悪いことしてないのに、どうしてこうなっちゃうの!?