天地はほっとして息を
「良かった……。俺、魎呼が死ぬんじゃないかと……あれ?」
ブリッジがぐらりと
天地はつんのめり、
「どうした、皇子?」
「いや、大丈夫……ちょっとめまいが……」
「天地様、どうなさったの!?」
阿重霞が走り寄って来る。
「いいんだ……何でもない。ただ俺……」
「血を見て気分が悪くなったのね?」
「いや。違うんだ。違うんだけど俺……なんて言うかその……安心したら急に腹減って……」
「まあ……!」
阿重霞は思わず青蘭と顔を見合わせた。
「情けない奴だな」
「そんなこと言ったって俺、夜の宮殿からずーっと飲まず食わずで……」
「まああ、そうだったんですか」
美星が
「ちょっと待っててくださいね。私、魎呼さんに聞いてきますから」
青蘭は
「余計なことを思い出させるんじゃない」
「え?」
天地が顔を上げる。
「俺もそういえば何にも食ってなかった」
「はああ……」
天地はものを言う気力もなくなって、
結局、天地と青蘭を
六人分のカップラーメンにお湯を注ぎながら、美星はかいがいしく
「おなかすいてるでしょうけど、ちゃんと三分間待ってくださいね。あっ、熱いですから気をつけて」
傷を洗い、シャワーを浴びてさっぱりした魎呼が、
「うるせえなっ。てめーに言われなくたって、そんなこたぁ分かってるよ」
「魎呼さん、ほんと、大したことなくて良かったですね」
「…………」
魎呼は美星のお気楽な顔を殺しかねない目付きで
それから
「ねえねえ、ちょっと聞いてもいいですか」
美星が待ち切れなくなったように口火を切った。
「青蘭さんと魎呼さんって、恋人どうしだったんでしょ? その
「美星!」
清音が驚いて美星をつついた。
「ちょっと、今そんなこと……」
「あら、そんなことないですわ。天地様の前でハッキリした方がいいですわよね。そうじゃなくっちゃ、落ち着きませんわ。そうでしょ、魎呼さん?」
「うっ……」
急にラーメンが
「魎呼は宇宙一の女だった!」
今までモノも言わずにラーメンに
カップを置き、口を
「そして、今現在もだ! 俺は危うく真実を見損なうところだった。一時の怒りに我を忘れて、永遠に魎呼を失ってたかもしれなかったんだ。俺は神など信じていないが、今この瞬間から信じるよ。宇宙にしろしめす神は、
「あああ……」
魎呼がげっそりしたように
「……だからヤなんだ、こいつは」
一人盛り上がっている青蘭をよそに、天地たちの間に白けたムードが
「君たちを巻き込んでしまって申し訳なく思っている。だが、分かってほしい、全ては真の愛から発したことなんだ。どうか許してくれ」
青蘭は一同の
「天地様のリングは外してくださるんでしょうね?」
あっさり
「重大な
「魎呼のためにも死ぬわけにはいかないんだ!」
青蘭は即座に
「阿重霞姫。魎呼と結婚したらすぐにリングを外すことを約束しよう。皇子が手を出さない限り、リングは使わない。命に
「海賊の誓いなど……!」
阿重霞は言いかけたが、急に
「考えてみれば無理もないわよねえ」
阿重霞は素早く天地に
「最愛のひとに裏切られたと思ったんですもの、わたくしだって逆上するかもしれないわ。よろしい。誓いを
阿重霞は皇女らしく
「そうと決まれば一刻も早く誓いを果たしていただかなくてはなりません。樹雷皇家第一皇女であるこのわたくしと、法的機関の代理人としてギャラクシーポリスの美星一級刑事、清音一級刑事が立ち会いますわ。美星さん、光輪教のキャラバンに連絡を取ってみては
「あ……そうですよね。結婚するには式を
美星は
「なっ……」
完全に
「何を勝手に……」
「何が勝手だとおっしゃいますの?」
阿重霞は皇女の
「あなたはそもそもの原因を作った張本人なんですわよ。あなたに発言する資格はありません。見なさい、一歩間違えばみんな宇宙の
「阿重霞てめえ……」
魎呼は見事にしてやられたことを
まことに愛の力とは恐ろしいものである。
この宇宙にしろしめす愛の神は魎呼の裏切りを覚えていたのだ。
そして今、阿重霞の頭に
「天地様が死んでもよろしいの?」
阿重霞がにっこり笑いながら、最後の通告を出した。
「…………」
今度青蘭がブチ切れたら確実に死人が出るだろう。
魎呼はその死人が自分だったかもしれないことを思い出してぞっとした。
「天地……」
魎呼は絶望的な顔で天地を見た。
短い間だったが楽しかったぜ。
そんな
「良かったですわね、天地様」
阿重霞が
「こんなに望まれて結婚するんですもの、魎呼さんは本当に幸せ者ですわ。おめでとうって言ってあげなさいな。ね?」
「魎呼……」
天地は何を言っていいのか分からなかった。
なぜこんなに急に事態が進んでしまったのか、それも考えるのを避けていた方向……魎呼が青蘭と結婚するという結末に向かって
天地は魎呼の
青蘭の目はこう言っているようだった。
皇子、お前に何が言える?
お前は本当に魎呼を幸せにできるのか、と。
「……魎呼」
天地は魎呼の顔が見られなかった。
言うべき言葉はたったひとつしかなかった。
それは別れの言葉だった。
「……幸せにな」
「みんな勝手なこといいやがって!」
その
「あたしの気持ちなんて誰も聞いてくれないじゃないか。こいつと結婚するぐらいなら死んでやる! 魎皇鬼ごとギャラクシーポリスに突っ込んでやる! あたしをバカにすんなよ。あたしは七つの海の恐怖だったんだ。誰が結婚なんか……」
青蘭が立ち上がり、魎呼の肩をつかんだ。
「死ぬなんて言うな!」
真剣そのものだった。
その指が
「
「青蘭……?」
知的生物など何もいない、資源価値もない
他には誰もいなかった。
夜になると満天の星が
あんまり
いつも見慣れてるはずの空なのに。
怖いなんて思ったのはそれが初めてだった。
あたしは青蘭の手をつかみ、その胸に思わず顔を
青蘭の髪は水の
一面の水と、緑の
あんな不思議な気分になったのはそれっきりだった……。
「魎呼」
青蘭の声に呼び
「改めて言うよ。俺と結婚してくれ」
「青蘭……」
魎呼の目に涙が浮かび、
くそ、こんな時に泣くなんて!
自分の心を裏切った涙を
「奇麗だよ、魎呼」
青蘭は魎呼を抱き締め、そっと涙を
天地は何だか
今食べたばかりなのに、急に胃が空っぽになってしまったような気分だった。
「こんな常識はずれの結婚式はアレ以来じゃな」
異星人の司祭がぶつぶつと副司祭に
光輪教の布教キャラバンが魎皇鬼と並ぶように
「それで? 花嫁と
「あのー、どっか行っちゃったんですぅ。きっと
美星が……大混乱のあげくキャラバンとコンタクトを取り、ウェディング・ドレスを調達し、信じられないことに料金の
「私、こんなこと初めてなんですぅ」
「そりゃ、初めてだろうがね」
生きた水晶のように見える
「まあ、別にそう
白いローブの若い副司祭は言った。
「進行なんかはみんなうちの方でやりますから。ただね、さっきちらっと見ましたけど、花嫁さん、
副司祭は声を落とした。
「ほんとに結婚したいんですか? 私がまだ聖歌隊だった頃、こんなことがあったんですよ。やっぱり花婿さんと
耳をそばだてていた阿重霞と清音は顔を見合わせた。
「いーえ、そんなことありませんとも!」
阿重霞の声が裏返った。
「二人はそりゃあ愛し合っているんですわ。そりゃ魎呼はちょっと神経いら立ってるかもしれませんけど、もう
清音に思いきり足を
「いいですか。我々光輪教の誓いにならった者は離婚できないんですよ。
副司祭が疑わしそうに二人を見比べた。
「あっ、来たわ!」
美星のほっとした声に思わず阿重霞が立ち上がった。
青蘭はマントを
魎呼は青白く見える
その
げっそりした顔の天地は魎呼のドレスを踏んづけそうになり、魎呼は青ざめた上に
「まあ、魎呼さん……
美星があやふやな調子で
「ほんと……見違えるようだわ」
阿重霞が負けず
光輪教の聖歌だけが高らかに
「あー……
できるものならこんなことは早く
「教典に手を置きなさい」
青蘭が
「よろしいか? では……
「誓います」
青蘭のはっきりした声が答えた。
「誓うよ」
ぶっきらぼうな声が言い添える。
司祭は
「宣誓は成された。ではリングの
青蘭は
小さな音と共に
青蘭は天地の左手首からリングを取り、魎呼の右手首に
再び継ぎ目が魔法のように消え、手首にきっちりと
司祭はほっとしたように早口になった。
「よろしい。愛は
青蘭が初めて
「魎呼!」
手を取って引き寄せようとする。