第六章 リングをはず!?



「リングをはず!?

 せいらんは思わずおうむ返しにり返した。

「おひめさん、こいつは人質なんだ。外すわけがないだろう?」

じゆらいおう第一おうじよです!!

 阿重霞はかんぜんと青蘭の前に立ちふさがり、長身のかいぞくにらみつけた。

「やることが汚いじゃないの! りようと結婚したきゃ勝手にすればいいでしょ。わたくしの大事なてん様を巻き込むなんて許しません。だから海賊はきらいなのよ。わたくしを怒らせると後がこわいわよ。外しなさい!」

「ちょっとちょっと、阿重霞」

 魎呼があわてて阿重霞のそでを引いた。

「あたしが何とかするからだまってなって。天地が死んだらどうすんだよ!?

「何とかするって何よ!? ふたまたかけてたやつが何をするって? あんたなんかに天地様は渡さないわよ。せっかく昔のカレがむかえに来たんだから、さっさと結婚したらどうなの!?

「えーっ、ほんとに結婚しちゃうんですかぁ?」

 ほしが割り込んだ。

「うっさいな。どうして急にそういう話になるんだよ!?

「だって魎呼さん、自分で言ったんじゃないですか。ネプチューンの涙を取って来たら結婚するって……」

「違うんだってば!」

 何を余計な、という顔で美星をにらむ。

「あたしが結婚? じようだんじゃないぜ。あん時そう言ったのはな、もののはずみってもんよ。それをこいつはに受けやがってさ、七百年前の約束なんか覚えてられるかよ!」

 すっと青蘭の顔色が変わった。

 こめかみのあたりが引きつり、ライト・ソードのつかにかかった手がふるえている。

「魎呼てめえ……」

 押し殺したような声だった。

「それがお前の本音か? そんな女とも知らずにネプチューンの涙を取りに行ったおれは宇宙一のおおけってわけだ。よくも七百年間だましてくれたな!」

「やだなー、そんなマジになっちゃって」

 青蘭の引きつった顔を見るや魎呼はそくかいじゆうにかかった。

「あたしだって色々事情があってさ、ほこらに封じられちゃったりして動きが取れなかったのさ。ほんっとに悪いと思ってたんだ。別に騙すつもりじゃ……」

「愛していたんだ!」

 青蘭は全然聞いていなかった。

「俺の気持ちが分かるか? 七百年間信じてきたたったひとつのものがにせものだったと分かった男の気持ちが……魎呼、お前は俺を裏切った上にまだ騙そうと言うのか!?

うそじゃないっ」

 魎呼は思わず叫んでからはっと気づいた。

 ダメだ、何を言っても噓になっちまう。

 あたしだってお前を嫌いなわけじゃなかったのに、結婚なんて持ち出すからこんなやっかいなことになっちゃったんじゃないか。

 こいつは昔っから、人の話を聞かない奴だったっけ、と思いながらも魎呼は何とか事態をしゆうしゆうしようとしたに出ることにした。

「青蘭、あたしが悪かったよ。だけど……」

「問答無用!」

 冷たい返事が返ってきた。

 魎呼はかっとほおに血が上るのを感じ、奥歯をめた。

 むらむらと腹が立ってくるのをかろうじておさえる。

「青蘭、こっちの話も聞けよな!」

「今更何を聞くっていうんだ!?

 青蘭はライト・ソードを抜き放った。

 アイス・ブルーのほのおが燃え上がる。

「この剣を覚えているな、魎呼? こいつは何百人と生き血をすすってきた剣だ。俺がこいつを抜いたらどうなるか、知ってるな?」

「待て、青蘭!」

 魎呼はぎようてんした。

「待てだと? これ以上俺を待たせようっていうのか?」

 ライト・ソードが走り、魎呼の服を切りいた。

「きゃああああっ 魎呼さん!」

 美星がめいを上げる。

「ちょっと、何すんのよ!?

「阿重霞様っ、危のうございまするっ」

 だけがすっ飛んで来て、阿重霞ごとブリッジのすみに空間移動した。

「青蘭! 剣を引きなさい。つわよ!」

 きよがプラスターを片手に割り込む。

「うるさいっ。俺のじやをするやつはみんなたたっ切ってくれる!!

「清音、危ないっ」

「きゃッ」

 プラスターが真っ二つになってころがった。

 辛うじて身をかわした清音がブーツの内側からナイフを引き抜く。

「青蘭、めてくれっ」

 天地はリングのことなど忘れて飛び出した。

ェー天地様! リングが……」

 阿重霞のぜつきようがブリッジをつらぬく。

「魎呼っ。待て!!

 ライト・ソードがクリスタルを切り払い、魎呼が飛びのいた。

「やだねっ。だからおめーはやなんだよ。宇宙には山ほど女がいるじゃんか。どうしてあたしにこだわるんだよ!?

「お前にちかいを立てたんだ。他の誰でもない。どうしてもこばむというなら仕方がない、お前の命でつぐなってもらおう」

「てめーはヤクザか!?

 魎呼の姿が一瞬消えた、と思うと、次の瞬間にはバトル・スーツ姿に変わる。

 魎呼はオーラ・ブレードをかまえ、青蘭をにらみつけた。

 そのひとみが金色に切れ上がる。

「無茶苦茶言うなよなっ。海賊は止めたって言っただろうが? せっかくフツーの女の子に戻ってへんきようの小さな星で幸せに暮らしてたってのに……」

 げんな顔の青蘭を見つめながら、魎呼はオーラ・ブレードを引いて、急にイヤイヤをするように首をった。

 金色のひとみうるみ、涙が盛り上がる。

「宝石みたいな小さな青いわくせいで、貧しいながらもつつましく暮らしてたのに、あたしが幸せになっちゃいけないの? か弱い女がたったひとつ、つかんだ小さな幸せなのに、青蘭、それをあんたはぶちこわすのね!?

 その場にいた全員がこけ、ブリッジに立っているのは目をうるませた魎呼一人になった。

「あのなあ……何だよ、貧しいって」

 天地がい起きた。

「誰が慎ましいですって!?

 ブリッジのすみから阿重霞がうなる。

「魎呼さんてばぁ……」

「帰ろうか、美星」

 清音と美星が顔を見合わせ、うなずき合う。

「魎呼……俺をコケにしてうれしいか!?

 青蘭がひんぎようそうで立ち上がった。

 怒りのあまり、ライト・ソードを持つ手が震えている。

「もう許さない。死んでもらうっ」

 青い光条が魎呼をぎ払い、続いてオーラ・ブレードとかち合った。

「青蘭、止めろってば!」

「うるさいうるさいうるさいっ。ここまで女にコケにされて黙ってられるか! お前を殺して俺も死ぬんだっ。かくしろ!!

 とうていか弱いとは思えぬ顔で魎呼も言い返した。

「あたしに勝てると思ってんのか? ケガしないうちに剣を引きな」

 天地はぼうぜんと二人の果たし合いを見つめていた。

 ライト・ソードが光のざんぞうを残し、オーラ・ブレードが黄金のせきを描く、妙にバーチャルな立ち回りだった。

 一体、俺は何なんだ? という思いが心をよぎる。

 結局、このリングは何だったんだ?

 青蘭がブチ切れてしまったおかげで吹っ飛ばされずにんだのは幸いという他はないが、それでもこのまま見てていいものだろうか?

 いやな予感にすじが寒くなった。

 俺しかいない。

 この二人を止められるのは俺なんだ。

 だが俺が止めに入れば、青蘭はリングのことを思い出すに決まっている。

 それでも、このままどっちかが死んだり、りようおうがスクラップになったりするよりましなんじゃないか!?

 天地! 逃げるんじゃない!

 心の奥で声がした。

 これは修行の旅じゃ。今逃げたらお前は一生そうやって逃げ続けることになるのじゃぞ。それでもいいのか!?

 じっちゃん……!

 天地は思わずぎゅっと目をつぶり、こぶしにぎめた。

 だって、できないよ、

 俺に死ねって言うのか?

 と、その時、はっきりと苦痛の叫びが上がった。

 魎呼!?

 天地はちゆうね起き、走った。

 魎呼はがっくりとひざをつき、うなれている。

 こめかみを押さえた手は血に染まり、オーラ・ブレードは消えていた。

 まさか……。

 胸の奥に信じられないほどの怒りがき起こってくる。

 死なないでくれ!

 だが、青蘭の方が早かった。

「魎呼!?

 ライト・ソードがブリッジの床に落ち、光が消えた。

「魎呼……大丈夫か?」

「う……」

 青蘭はぼうぜんとしてひざをつき、恐る恐る魎呼の手を退けた。

 こめかみからほおを走るきずは結構深いらしく、あふれ出す血が首筋を流れ落ちている。

「魎呼……!」

 青蘭は思わず溢れる血をぬぐい、真っ青になって魎呼の肩をつかんだ。

「俺が悪かった。ついカッとなってしまったんだ。魎皇鬼! 魎呼を助けてくれ!」

 青蘭はほつ的に魎呼を抱き締め、はらはらと涙をこぼした。

「愛しているんだ。一日だって忘れたことはなかった。七百年も人のこと待たせといて、やっとめぐり会えたその日にケンカして死んじまうこたぁないじゃないかっ。魎呼! 何とか言ってくれ! バカヤローでも死んじまえでもいい。俺はこんなことをするためにお前を追って来たんじゃなかったのに……!」

 青蘭は動転のあまり死ぬかもしれないにんをがくがくとさぶり、天地は余りの急展開について行けず、声をかけるのがやっとだった。

「青蘭!?

「魎呼! 魎呼っ」

 何も耳に入ってないことは明らかだった。

「お前が死んだら俺も死んでやるからな! 化けて出てやる。いや、みんな道連れにしてやる。魎皇鬼も何とか姫も皇子もみんなだ。俺は本気だぜ。そうなってもいいんだな?」

 はや心配しているのかきようはくしているのか分からない状態であった。

「こいつってば……」

 ブリッジのすみから息をめて見ていた阿重霞がぼそっと阿座化にらした。

「……落差の激しい奴だったのね」

「……そのようでござるな」

 首が振れるものなら振っていただろう声で阿座化が同意した。

「誰かさんにそっくりでござる」

 だが、そのどうさつに感心したのは火美猛だけであった。

 次の瞬間、魎呼がこうったからである。

「うるせえなっ。そんなにわめかれたらよけい傷が痛むじゃないか!」

「り……魎呼!?

「……おー、いてェ……誰か鏡持ってないか?」

 魎呼はこめかみを押さえながら立ち上がり、呆然と自分を見上げている青蘭に気づくと、腹立たしげに怒鳴りつけた。

「何ごちゃごちゃ言ってんだよ! あたしの顔に傷つけやがったな! チクショウ、倍にして返してやる!」

 魎呼はけんあくな顔でクリスタルのひとつをのぞき込み、自分の顔にぎょっとしたようにブリッジを走り出て行ってしまった。

「魎呼!?

 跳ね起きた青蘭はようやく天地の存在に気づき、足を止めた。

 ライト・ソードを拾い上げ、さやに収める。

「あのー……」

「何だよ!?

 さすがにバツが悪いのかぶっきらぼうに言い返され、天地は言葉に詰まってしまった。

 良かった。

 もっとひどいことになっても不思議じゃなかったんだ。

 胸の中にあんが広がっていく。