そう、一年前、俺がこの手で封印を
だがそれ以前のこと、つまり海賊時代の話はまるで知らない。
この青蘭という海賊は、魎呼とどんな関係があったのだろう。
「魎呼は、俺の家にいる。いや……」
青蘭の顔色が変わったのを見、天地は言い出しを
「そういう意味じゃなくって、もう家族の一員なんだ。いや、俺にとっては、っていうことで、ほらその、なんと言うか……」
いきなり
「
目付きだけで殺されかねない
「どういう意味だ! はっきり言え! 魎呼とどういう関係なんだ!?」
「天地殿!」
ガーデイアンたちがすっ飛んで来た。
「海賊め、天地殿から手を離せ!」
「天地殿、こいつを
ガーディアンが青蘭の
「いいんだ。
天地は
今までの短いつきあいから察するに、こいつはかなり
なるべく
「俺の言い方が悪かったんだ。俺もこの人にはさっきの借りがある」
天地は
「
青蘭の目に
と、すっと手が離れた。
「いいだろう。話が終わるまでは待ってやる」
その時だった。
「てんちぃぃぃぃ!!」
いきなり、何者かが宙に現れた。と、同時にそれは天地にぶつかってきた。
「わッ……」
ここが地球を遥か離れた宇宙空間であろうとも、この声、この感触だけは間違えようがない。
「魎呼!?」
「天地様!」
魎呼と折り重なるようにして倒れ込んだ天地の上に、もう一人、よく知っている姿が倒れ込んだ。
「天地さん!」
さらに、その上にギャラクシーポリスの制服を着た二人の女がのしかかった。
「ぐげえ……」
「天地!! 無事だったか!?」
「天地様、よくぞご無事で」
「天地さん、お
三人、いや四人の女が同時に
「うう……」
女たちの足元、いや体の下で押し殺したようなうめき声がした。
「ど……どけ……」
「まさか……」
魎呼が息を
その声に男ははっと起き上がった。
「魎呼!?」
「青蘭……」
その瞬間、青蘭の
心から愛した、ただ一人の女。
共に星を
そして俺を裏切り、去って行った女。
「魎呼ぉぉぉ!!」
動かぬ左腕のことも忘れ、青蘭は魎呼を抱き
その
オーラ・ブレードが青蘭の
「動くな!」
魎呼が、天地を守るように立ち
その目も、その姿も、青蘭の覚えているあの日の魎呼と
冷たく、だが
「魎呼……
青蘭の唇から
「俺を忘れたのか!?」
オーラ・ブレードが
「あたしはもう海賊じゃない。お前のことなど、忘れたぜ」
その場に重い
その沈黙を破るものがあるとすれば、それは最後の審判のトランペットだけだったろう。
「みゃあああん!」
実際に鳴り響いたそれは、もうちょっと現実的で、もうちょっと
魎皇鬼が
「なに、追っ手が?」
魎呼はオーラ・ブレードを引っ込めた。
「青蘭。話は後だ。生きて話の続きがしたければな」
その一言で
巨大な
「魎皇鬼、スクランブル・ワープ」
魎呼は一声かん高く叫ぶと、加速した。
星々が
夜の女王は、[見守るもの]からその報告を受けた。
「スクランブル・ワープされました。ワープ・アウトを待って
天地たちが聞いたアナウンスと同じ、
「良いのじゃ、アインよ。急ぐことはない。思ったより多くの運命が交わることになりそうじゃ。それまで、わらわは待つとしよう」
「
アインと呼ばれた声は
「何故、お見逃しになったのです。
「さあ、何故かな」
女王はゆったりとクッションに身を
天地が見た黄金の玉座は消え、
二人の女……眠りと死の使い手は
「あの海賊……青蘭とか言ったな。わらわを突き飛ばしたのはあいつが初めてじゃ。たわけた男よ」
女王はさも
「そうは思わぬか、
黒衣の女は重々しく
「
女王が
「時はいつか
女王は光の皇子のまだ幼い顔を思い浮かべ、満足げに舌で唇を
何秒か何分か後、実際スクランブル・ワープ中の時間を問うても何の意味もないのだが、再びスクリーンに通常の宇宙空間が
「魎皇鬼!」
魎呼が
「みゃん!」
魎呼が振り向いた。
「大丈夫だ。ここは通常航路の近くで、ほんの3パーセクほど飛んだだけだ。追っ手の姿はない。危険はない」
魎呼はそれだけ言うと、またくるりと前を向いてしまった。
天地は我に返ったように息を
ちらり、と青蘭を
青蘭は身じろぎもせず魎呼を
何を思っているのか、その唇は真一文字に引き結ばれたままだ。
阿重霞と清音、美星たちは互いに顔を見合わせ、とまどっているようだった。
無理もない。
天地はジエット・コースターに乗っかったような一連の経過を思った。
あの時魎呼が、阿重霞さんたちが現れなかったら、俺と青蘭はもっと
魎呼が現れたので、青蘭が俺に聞きたかったことの一つは解決した。
だが、さっきの魎呼と青蘭のやり取りは、何にも事情を知らない者が聞いても、おおよその
青蘭と魎呼はごくプライヴェートな関係にあった。
間違いない。
二人は俺の生まれる
天地は、自分がこんなふうに頭を
関係ないじゃないか。
頭の一部で冷静な声がする。
昔の男が追いかけて来て、目の前で
俺は、魎呼とキスひとつしてないんだ。
門答無用に問い
天地は思ったが、惨めな
何なんだ、こいつは!!
天地は黒ずくめの海賊を再び
そう、七百年前も、このブリッジでこうして宇宙を見ていたに違いない。
チクショウ、かっこいいじゃん!
こいつが魎呼の恋人だったんだ。
何で今まで言わなかったんだよ!?
天地は心の中で毒づいた。
……って、言うわけないか。
俺だって聞いたわけじゃないもんな。
魎呼いったい何があったんだ!?
何で
「宇宙海賊、青蘭!」
「魎皇鬼を……一般人の乗った船を
清音が銃を
「俺は知らなかった。海賊が海賊の船を
青蘭は平然と答えた。
「悪いが、刑事さん。そんな
ようやく清音の方に顔を向けると、青蘭はニヤリと笑った。
自分の言葉の効果を知っている者の笑いだった。
「聞かせてもらうわ。留置場の中で、ゆっくりとね」
清音が
「待てよ!」
天地は思わず叫んだ。
「聞かせてくれ。いや、聞く権利があると思うんだ。襲われた本人が言ってるんだから、いいだろ?」
清音は肩を
「天地さん。この男は海賊よ。この七百年間ギャラクシーポリスのお世話にならなかったからといって、本性が変わったとは思えないわ。
「俺は、この人に借りがあるんだ」
天地はのろのろと言った。
「それに、
青蘭の唇が笑いを含んで
「天地。いや、皇子と呼ぶべきかな。君は思ったより
青蘭はそっぽを向いている魎呼に向かって
「魎呼! そんなところで
ごく当然といった調子だった。
「俺と魎呼はコンビを組んでいた。……七百年ちょっと前のことだ」
青蘭はクリスタルのひとつに寄りかかって話し出した。
「出会いは、そう……よくある話のひとつだったよ」
ラメドのバーは海賊どもや無法者たちでごった返していた。
フリー・ポートに近くて、適当な料金で、いざとなれば裏口から抜けられる、そんな店のひとつだった。
生きてりゃまた店に来る、というのがマスターの言い草だった。
死体になった
実際、生きてる海賊は酒を飲むか、
俺は
かといって、女のいるような店に行く気もなかったので、奥のカウンターに
そこに魎呼が入って来た。
ほんの一瞬だったが、店が静まり返った。
魎呼は俺の
その時
「一人か」
俺は聞いた。
「どこから来た」
魎呼は丸腰だった。得物も持たずにこの店に来る奴は旅行者か、間抜けかどちらかだった。
魎呼の手にオーラ・ブレードが現れた。
「消えな」
というのが最初の
「そうだったな、魎呼?」
「フン」
魎呼はまたそっぽを向いてしまった。
「そんなこと、もうどうでもいいじゃんか」
「いいや、良くない。思い出して欲しいからな。皇子、君も聞きたいだろ?」
聞きたくないとは言えなかった。
阿重霞たちは興味
青蘭は
それから三日後、俺と魎呼は宇宙にいた。
三年と三か月の間、俺たちはコンビを組んで宇宙を荒らし回った。
俺たちは古典的な海賊行為からトレジャーハンターまがいのことまで、なんでもやった。
金は
宇宙船一台分のドレスに身を包んだ魎呼は美しかった。
クラブ・シャミールを借り切って遊んだエメラルドの海は、死の恐怖を洗い流してくれた。
だが、魎呼に一番似合ったのは、暗黒の宇宙とバトル・スーツだった。
このブリッジで見る星々の海は
魎呼は相棒としても、女としても、申し分なかった。
だが、決して言わなかったセリフがあった。
俺が同じセリフを何万回
笑いながら、
俺は、そのセリフを言わせてみたくなった。
「ネプチューンの涙を取って来たら、望む言葉を言ってくれるか」
魎呼は笑った。
「青蘭、お前に出来たらな」
「その腕の宝玉に
「やなこった」
魎呼は、それだけは決して外そうとしなかった、発光体の入ったリングを外し、俺の前に置いた。
光輪教のお守りだった。
「こいつに
魎呼の顔がふっと陰った。
「そいつは、あたしのぶっ壊した船の下敷きになって死にかけていた。ホームレスだって着ないようなボロを着て、たった一つの
「そいつは俺が何万回
魎呼の目が冷たい光を帯びた。
情け知らずの女海賊の目だった。
「違うな、青蘭。でも、ネプチューンの涙を取って来たら、同じ呪文を唱えてやってもいいよ。お前の目と同じ色だ。お前の目はきれいだけど、ほじくり出すわけにいかないもんな」
そして俺は、
俺がネプチューンの涙を手に入れた時、魎呼、お前は消えていたんだ。
青蘭はそこで言葉を切り、しばし
「魎呼。俺はあの時の誓いを果たすために来た」
青蘭は立ち上がり、魎呼の手にちょうど宝玉と同じ大きさの、
魎呼の手の上で青い
「ネプチューンの涙……!」
魎呼は目を見張った。
「まさか! 記録には
清音が思わず声を上げた。
青蘭は魎呼を見下ろしたまま、答えた。
「どちらを信じる? 俺か、斎王家か」
魎呼がはっと顔を上げた。
青蘭は
「その目を見れば分かる。お前はもう、海賊じゃない。だが、このリングに誓った約束は果たしてもらおう。そのために俺は生き
青蘭は、凍りついたように立ち尽くしている魎呼を満足げに
どうやったのか、誰にも分からなかった。
青蘭が離れた時には、天地の左手首にリング……誓いのリングが
「え!?」
予想もしていなかった出来事だった。
天地は、ぼーっと光るリングを外そうとして引っ張ったり、手首を
「皇子よ。
青蘭は静かに言った。
「そのリングには
流れ星が消える程の間があった。
次の瞬間、清音と美星が銃を構え、魎呼が
「俺を殺せば、そのリングは即座に反応する。
青蘭の唇に満足そうな笑みが
「青蘭!!」
オーラ・ブレードの切っ先が青蘭の喉元に食い込んだ。
「魎呼。お前は変わったな。以前のお前だったら、ネプチューンの涙を手に入れた瞬間に、俺を切り捨てていただろう。お前はそういう女だった。覚えているか? 俺の腕の中にいる時でさえ、お前の目は冷えびえと
青蘭はオーラ・ブレードを押しやり、魎呼に近づいた。
「さあ、約束の呪文を唱えてもらおうか。皇子を死なせたくなければな」
「魎呼!」
天地は反射的に動いた。
額の
天地の右手に光が集まり、
「天地……!!」
魎呼の叫びに振り上げた剣が止まった。
「来るな! こいつは本気だ!」
「魎呼!?」
額の紋章から光が消えた。
光鷹真剣が薄れていく。
「
青蘭が
「君には何かがあると思っていたよ。魎呼が興味を持つような何かがね。だが、皇子よ。君は少しばかり経験が足りないようだ。俺のような海賊を出し抜くには、な」
青蘭は右手で魎呼を抱き寄せ、一同を見回した。