第五章 助かった……
「助かった……」
間一髪、魎皇鬼のブリッジに転移した天地は、青蘭とガーディアンの下敷きになったまま呟いた。
「みゃああああん!」
魎皇鬼の叫びが虚空を切り裂き、ブリッジに散らばっていたクリスタルたちが次々と起き上がる。
「ゴメンネと言っております」
「もう大丈夫、と言っております」
ガーディアンたちが早口で翻訳した。
「分かった。分かったからどいてくれ」
天地は身動きが取れないまま、手で床を叩いた。
「これは失礼」
「あまりに急なことでして」
ふっと体が軽くなった。
と同時にブリッジに強い衝撃が走った。
魎皇鬼が薔薇の花びら、いや隔壁を突き破って飛び出したのだ。
天地は本能的に顔を伏せ、衝撃が収まったのを感じるとおそるおそる顔を上げた。
目の前に青蘭の顔があった。
天地の前に片膝をついた青蘭の顔はまだ蒼白だが、先程のショックからは立ち直ったようだ。
「天地とやら。一応礼を言っておこう。立てるか」
青蘭は自由の利く右手を差し出し、天地を助け起こした。
こいつ、結構いい奴なのかもしれないな。
唯一の利き手を使わずとも、俺を起こしたければ他にも方法はあるはずなのに。
天地は頭一つ分長身の海賊を改めて見上げながら思った。
群青色の瞳がなければ地球人といってもよい。
それも、明らかに俺や父さんとは別の世界に属する男だ。
端正な、だが微塵も脆弱なところの感じられぬ顔立ちは、強靭さを秘めた体軀とあいまって一種危険な魅力を醸し出している。
青蘭は、ごく自然な様子で天地に近づいた。
だが、その目は冷ややかに天地を見下ろしている。
冷たい、海賊の目だった。
天地は先程の感触を訂正した。
さっきまで、俺に銃を突きつけていた男なのだ。
一瞬でも利き手を塞ぐだけの自信があるに違いない。
「さて、話してもらおうか」
青蘭が口を開いた。
その声は穏やかだったが、有無を言わせぬものがあった。
「魎呼は……」
天地は言いかけ、躊躇した。
何を話せばいいんだ?
天地は、魎呼の過去など聞いたことがなかった。
遥か昔、今は亡き神我人の船で、鷲羽の手によって生み出されたことは分かっている。
そして七百年前、樹雷の皇子遥照、つまり俺のじっちゃんの手によって封じられ、永い眠りについた。