阿重霞は柾木家から持ち込んだ
「だってお姉さま、ここしかお部屋がないんだもん、仕方ないでしょ?」
「美星さんと清音さんにはちゃんと個室があるじゃないの。いいえ、分かってますわ。これはギャラクシーポリスのパトロール船で、
積み重ねた二人分の布団の上で
そこには持ち込んでまだ三日と経たないうちに早くも万年床のようになってしまった布団が二組、そしてその上には大の字になって眠りこけている魎呼と、布団に腹ばいになったまま、
「鷲羽さん! そんなもの読んでどこが面白いんですの!?」
「え?」
ようやく広辞苑から顔を上げた鷲羽は、布団の上に起き上がり、首をコキコキと動かした。
「さすがに首が疲れたわね。いや、何しろ
鷲羽は布団の
「まあ、何をなさるの? もったいない……」
「だって
鷲羽の答えは反論の余地がない。
「もう覚えちゃったし。しばらくは辞書がわりになってやるわよ」
「覚えた?」
阿重霞はおうむ返しに聞き返し、鷲羽の平然とした視線の前にたじろいだ。
「何しろ美星と清音がこのシャトルはいじるな、って言うしさ、雪之丞は
鷲羽は柾木家の亜空間にある自分の研究室をこのシャトルに接続しようとしてギャラクシーポリスの法規にぶち当たったのであった。
「せっかくこのシャトルを大改造して、
「そ、そんな
阿重霞は今は亡き双蛇の
この一見少女に見える、実は
「ま、ともかく雪之丞の容量じゃ何にも出来ないわ。最大出力時に
阿重霞は
「そうじゃなくって! 天地様は今、どこにいるの? わたくしたち、こんなところでうろうろしてる暇はないはずですわ。まったく、美星さんたちは何をやっているのかしら」
「あの子たちなら、今一生
鷲羽はコクピットのある方向へ
「あいにく、この
「布教キャラバンですって?」
「正確には、無国籍の放浪宇宙船ね。一種の宗教団体よ。この銀河に
「あのー、皆さん、ちょっといいですか?」
阿重霞と鷲羽が立ち話をしているところに、何やら手にいっぱい
「捜査の結果なんですけどね、布教キャラバンのクルーたちは、確かに交戦中の二
美星は発光体の入ったちゃちな腕輪や、共通語で光輪と書かれたお守りなどを鷲羽と阿重霞に手渡した。
「何なのよ、これは!」
オカルト・グッズを手渡された阿重霞が叫んだ。
「だってぇ、それ買わなきゃ教えてくれないって言うんですもの」
美星は自分の腕に
「あなた、刑事さんでしょ?
「いいんですぅ。もう清音に
美星の目にじわっと涙が
「それで、天地様の行方は分かったんでしょうね?」
「いいえ」
美星は
「宇宙の真理を
「親切!?」
「美星殿が言うなら、それは本当かもしれないわね」
阿重霞の鼻先でくるくると腕輪を回しながら、鷲羽は人の悪そうな笑みを浮かべた。
「あんたはどう思う?」
いつの間に起きたのか、魎呼は不機嫌な顔で
「魎皇鬼は今、名前の分からない場所にいる……宇宙に咲く一輪の
その場に一瞬、
「天地様は? みんな無事なのね? 一輪の薔薇ってどういうことなの? 分かってたなら何でもっと早く言わないのよ!?」
「うるせえな。あたしだって魎皇鬼が通常空間に
お決まりのケンカが始まる、美星がそう思った時、魎呼はプイと横を向いてしまった。
「
阿重霞は妙に思ったが取り
「分かりました。天地様の居場所を発見してくださってお礼申し上げますわ。で、そこはどこですの? どうやって行くのです?」
「おめえに言ってもしょうがないだろ」
魎呼は
後に残された阿重霞と鷲羽と美星は黙って顔を見合わせていたが、ひそひそと話し始めた。
「何でしょう! あの言い方は」
「魎呼さん、どうしちゃったんですか?」
「さあねえ。バイオリズムの低下ならまた白衣の天使にでもならなきゃね」
鷲羽が白衣の天使、つまり
魎呼の返答からすると、
どうやって魎皇鬼のスクランブル・ワープに同調したのかは分からないが、今の魎皇鬼は普段の半分の性能しか持っていないから
今、一番
顔を見れば一目
青蘭が天地を追い、我々が天地を追っているというこの状況の中で、魎呼が我々に、特に天地に知られたくない理由があるとすれば、それはごくプライヴェートなことだと考えるのが
鷲羽はそこまで推論して自然に
「これからがいいところよ」
コクピットに続く通路を歩きながら、鷲羽は阿重霞に向かってにっこりした。
「我ながらアホらしいとは思うんだけどさ」
「鷲羽さん、何のお話ですか?」
美星が不思議そうに鷲羽の顔を
「なに、今に分かるわよ。私は宇宙一の天才だけど、
「天地様……」
阿重霞の足取りが速くなった。どうやら、天地のこと以外は頭に入らないようだ。
コクピットに入ると、清音と雪之丞が真剣な表情で話し合っているところだった。
砂沙美はつまらなそうに予備シートの上でスクリーンを
「良かった。アタシ今、ちょうど呼びに行こうかと思ってたの」
コクピットから清音が
「
清音がエリート刑事らしい、きびきびとした口調で鷲羽に同意を求めた。
「
美星が気楽に
「早くなさいよ。ぐずぐず話し合ってないで
阿重霞は高圧的な口調で言いかけたが、砂沙美が
「あーあ、つまんない。だあれも遊んでくれないし、魎ちゃんもいないし……早く魎ちゃんに会いたいな」
砂沙美は腕に
「ねえねえ、見て。これ、なんか書いてあるよ。誰か読んで!」
「え?」
阿重霞と美星が腕輪を透かし見る。
「……読めないわ。共通語じゃないみたい」
「清音、どう?」
「またアンタは変なもの買ってくるから……」
清音は
「ほんとだわ。角度があるのね。えーと……」
「これは古代神聖文字だわ。待って、アイハコクウヲ……」
「愛ハ
魎呼の低い
魎呼は腕輪を見もしなかった。
「あたしも持ってたことがあるのさ。昔な」
魎呼は、砂沙美から取り上げた光輪様のリングをぽいと放ると、足速にコクピットを出て行った。
「今思い出したけど……」
鷲羽がにやにやしながら一同を見回した。
「これは
「まあ……」
美星が
「神秘なる和合って? ねえねえ、それ、エッチなこと?」
「雪之丞、ショート・ドライブ、スタンバイ」
「ラジャーでござる。ショート・ドライブ、スタンバイ、フル・チャージ」
清音はくるりとスクリーンに向き直り、早口で指示を出した。
「わたくし、歯を
阿重霞がそそくさとコクピットを出て行った。
「美星! ほらこっち来て!」
「う、うん。雪之丞、レディ・スタート」
その間に鷲羽はコクピットから出て行ってしまった。
「……もう!」
一瞬後、スクリーンにノイズが走る。
美星のシャトルは加速して通常空間から姿を消した。
ちょうどその頃、天地たち
長い長い
実存を
と、思ったのはほんの一瞬にも満たなかったのかもしれない。
「あなたは……誰です?」
天地の声が
いや、実際声を発したのかどうか、それすら定かでなかった。
「ようこそ、我が夜の宮殿へ……光の
星々を散りばめたヴェールの奥から、五感を