Prologue: 「隠し宝物殿」探索を終えて自宅に戻ってきた、その日の夜――。 美雪(私服): んー、今日はいろんなことがあって結構疲れちゃったねー。 菜央(私服): ……それを言うなら、今日「も」でしょ?まったく、#p雛見沢#sひなみざわ#rに来てからずっと不思議が常識になりすぎて頭がおかしくなりそうよ。 たくあんをポリポリとかじる美雪ちゃんに、菜央ちゃんはそう言ってお茶漬けをお箸でさらさらと口の中に流し込む。 買い物に行くだけの余力もなかったので、私たちはあり合わせの食材で夕食をとっていた。……少し物足りないが、さすがに贅沢は言えない。 一穂(私服): (たとえ簡単でも準備してくれただけ、とてもありがたいんだしね……) この後お風呂に入ったら、すぐに寝てしまいたい。……それほどに身体と心、両方が疲労困憊だった。 美雪(私服): 結局、『カムノミコトノリ』って水晶玉は「隠し宝物殿」でも見つからず……か。 美雪(私服): 誰に、いつ盗られたのかどうかはともかくとして、いったいどこに行っちゃったんだろうねー……。 菜央ちゃんがいれてくれた温かいお茶を飲みながら、そう言って美雪ちゃんは大きく伸びをする。 前原くんから前の「世界」で託された、『スクセノタマワリ』に似ているという古手家の秘宝――『カムノミコトノリ』。 私たちは梨花ちゃんの協力を得て、それが保管されているという祭具殿の中に入りこの目で確かめようとしたのだけど……。 梨花(私服): おかしいわね……以前の「世界」だと、ここに『カムノミコトノリ』があったのよ。 祭壇らしき場所には、何かが置かれていたような跡があったものの……『カムノミコトノリ』とおぼしき物体はどこにも見当たらなかった。 そこで、羽入ちゃんが教えてくれた古手家の「隠し宝物殿」なるところを探してその中に入ってみたものの――。 やはり、そこにも宝物らしきものは何も見つけることができなかった……。 美雪(私服): なんか……形からして奇妙な洞窟だったね。自然にできたものなのか、人の手が入ってあぁなったのか……わかりづらい感じでさ。 菜央(私服): ……えぇ。それに、中に入ってからも変な感じだったわ。 菜央(私服): 内部に入った途端、急に意識が飛んだと思ったらいつの間にか外に出されてたし……。 美雪(私服): んで、すぐにもう一度みんなで一緒に入ってみても何もなくて、何も起こらず……と。 美雪(私服): ホント、狐につままれた気分だよ。……まぁ、中にいたのは狐とかじゃなくて毎度おなじみの『ツクヤミ』だったけどさ。 美雪(私服): あいつらって、何かを守ってたのかな?……キミはどう思う、一穂? 一穂(私服): えっ? あの、その……。 急に話を向けられて、しどろもどろになった私は思わずお茶碗を取り落としそうになってしまう。 と、その様子に違和感を覚えたのか美雪ちゃんは首をかしげながら……私をのぞき込んできた。 美雪(私服): ……大丈夫?戻ってきてからずっと口数が少なくて、何かを考え込んでる感じだけど……。 菜央(私服): そうね……。無理には聞かないけど、何か気になることがあるんだったら話してくれると、嬉しいわ。 そう言って菜央ちゃんも、気遣うように優しい言葉をかけてくれる。 ……2人の気持ちが、とてもありがたい。私のことを心配しているという思いが伝わってきて……不安が癒やされていく。 一穂(私服): (……そうだ。私は、美雪ちゃんと菜央ちゃんのことを信じると決めたんだ。だから――) 一穂(私服): ……美雪ちゃん、菜央ちゃん。 私は意を決して、顔を上げる。そして彼女たちに、「隠し宝物殿」での出来事を打ち明けていった。 一穂(私服): 実は私……「隠し宝物殿」に入ったところで、羽入ちゃんと話をしたの。それで――。 私の前に現れた、羽入ちゃん……ではなく『オヤシロさま』。 彼女が依頼してきた内容は、私にとってあまりにも衝撃的すぎるものだった。 一穂(私服): 絢花さんを、殺す……っ?どういうことなの、羽入ちゃん?! 羽入(巫女): 『…………』 驚いて思わず身を乗り出した私に、『オヤシロさま』は物静かな表情のまま愁いを含んだ視線を向けてくる。 ……一瞬、聞き間違いかと思った。いや、そうであってほしいと心から願った。 でも……そんな私の思いもむなしく、彼女が続けた言葉は残酷なほど……聞いたままの内容を肯定していた。 羽入(巫女): 『……戸惑うのも無理はありません。私もあなたにとって、とても残酷なことをお願いしているという自覚はあります』 羽入(巫女): 『……でも、わかってください。それしか梨花を救う方法はないのです』 一穂(私服): い、意味がわからないよ……!絢花さんは雛見沢とは全く関係のない人なんだし、何も悪いことなんてしてない! 一穂(私服): それなのに、どうして……?! 羽入(巫女): 『何かをしたから、ではありません。存在自身がすでに悪なのです』 一穂(私服): そ、存在が悪っ……? 羽入(巫女): 『……そして、絢花は無関係ではありません。彼女は雛見沢が『鬼ヶ淵』と呼ばれていた頃に歴史上から抹消された……』 羽入(巫女): 『私たちにとって、忌むべき血筋の者なのです』 一穂(私服): ……っ……? 一穂(私服): ……。そう言ってから、羽入ちゃん――『オヤシロさま』は消えちゃって……。 一穂(私服): 気がつくと、美雪ちゃんたちと同じように洞窟の外に出ていたんだ。 一穂(私服): そのあともう一度みんなと洞窟の中に入って、中には何もないことを確かめてから外に出て……。 一穂(私服): 帰り間際に念のため、羽入ちゃんに私に言ったことを聞いてみたよ。けど……。 美雪(私服): 羽入は、何も知らなかった。まして、一穂に依頼をかけたという事実は全く覚えがない様子だった……と。 一穂(私服): ……うん。 食事を終えた食器をテーブルの上に置いたまま、私は話を終えて大きく息をつく。 ……正直に言って、すごく後味が悪い。友達のひとりを超常の存在として扱った上、無用な疑いを抱かせているようで……。 梨花ちゃんが聞けば、酷い言いがかりだと激怒するかもしれない……そんな不安が、後悔とともに胸の内で渦巻いていた。 美雪(私服): 古手絢花を殺せ、か……。……ちなみに、その羽入によく似た女の子って自分が『オヤシロさま』だって名乗ってたの? 一穂(私服): うん。本当かどうかはわからないけど……普段の羽入ちゃんの雰囲気じゃなかった。 美雪(私服): んー、まぁ羽入がそんな冗談を言うとはとても思えないしね。それに……。 美雪(私服): 実は私も、羽入の出自については以前からずっと違和感があったんだよ。梨花ちゃんには親戚がいないのに、遠い親戚だってことにさ。 美雪(私服): そして魅音たちも、矛盾点に気づかず彼女を受け入れている。……それって、やっぱりおかしいよね? 一穂(私服): う……うん。美雪ちゃんは、その……信じて、くれるの? 美雪(私服): 言ったでしょ?私たちはどんな時でも、一穂の味方だって。……だよね、菜央? 菜央(私服): えぇ。それに、羽入が悪趣味な冗談を言わないのと同じように……一穂が根拠もなく、誰かを悪く言うはずがないもの。 菜央(私服): とりあえず、その前提で動きましょう。疑ったり、迷ったりするのは時間と労力の無駄よ。 一穂(私服): 菜央ちゃん……っ……。 2人の気持ちが、ありがたくて……嬉しい。私は彼女たちが友達でいてくれることに、心からの幸せを感じていた。 菜央(私服): とりあえず、殺すかどうかはともかく……絢花って人に会う方法を見つけ出すことが先決よね。どうやったらその人と会うことができるの? 一穂(私服): ……わからない。ただ、梨花ちゃんがいない「世界」に飛んだ時は必ず代わりに絢花さんがいた……と思う。 美雪(私服): つまり、梨花ちゃんがいるこの「世界」ではどこを探したところで会えないってわけだね。……んー、どうしたものか。 美雪(私服): まぁ、悩んだところで何もできることはないから……今夜はもう寝よっか。 菜央(私服): そうね。『隠し宝物殿』の探索で疲れたし、休んで明日以降に改めて考えましょう。 一穂(私服): うん……。 Part 01: そして、翌日の放課後。 美雪: さーて、授業も終わりっと!いよいよ待ちに待った、部活の時間だねー! 沙都子: をーっほっほっほっ!昨日の宝探しは残念ながら空振りでしたので、その鬱憤を晴らさせてもらいましてよー! 梨花: ……みー。その前に大山鳴動して鼠一匹、いえ0匹の原因を作った羽入は罰ゲームが確定なのですよ。 羽入: あ、あぅあぅあぅ~!僕は、もしかしたらあるかもしれない……とあくまで可能性を言っただけなのですよ~! 菜央: まぁ、いいんじゃない?結果的には確かに何も見つからなかったけど、探してる時はわりとワクワクしたもの。 レナ: あははは、そうだねっ。ピクニックをしているみたいで、とっても楽しかったよ~♪ 羽入: あ、あぅあぅ……!みんなも、こう言ってくれているのですよ。ですから梨花も、どうか寛容な心で……! 梨花: ……わかりましたのです。ボクも鬼ではないので、許してあげるのですよ。 美雪: おぅ、それでこそ梨花ちゃん……ん?ちなみにその手に持ってるのは、なに? 梨花: お昼に食べ損ねた、キムチなのです。持って帰ると荷物になってしまうので、ここで軽くしておくのですよ……あむあむ。 羽入: ふっ、ふぎゃぁぁああぁぁあっっ?く、口の中が大火事で大惨事ぃぃぃいいっっ?! 一穂: は……羽入ちゃんっ?のたうち回って、何っ? どうかしたの?! 羽入: や……やっぱり梨花は、鬼なのですよ……がくっ。 ……なぜか羽入ちゃんは、その言葉を最後にまるでこの世の終わりを迎えたような表情で教室の床に突っ伏してしまう。 と、そこへ職員室から戻った魅音さんが教室に入ってきて、私たちの前に来ていった。 魅音: はー、今日の日直の仕事は終わりっと。……ん? どうしたの羽入、そんなところに転がっていると制服が汚れるよ。 梨花: みー、大丈夫なのです。家に帰れば、予備の制服があるので問題ないのですよ。にぱー☆ 羽入: せ、制服の心配よりも……中身のことを気遣ってほしいのですよ……。 魅音: ……まぁ、いいか。ところで、みんなに相談があるんだけど部活を始める前にちょっといい? レナ: はぅ、相談……?また何かのお手伝いとかかな、かな? 魅音: うっ……「また」って言われると耳が痛いね。いや、今回はそっちじゃなくてさ。 魅音: 相談ってのは、村のあちこちに出没している『ツクヤミ』に関してのことだよ。 菜央: 『ツクヤミ』がどうかしたの?またどこかに群れで姿を目撃されたから、それを退治しろってこと? 魅音: ぐ……これも「また」って言われちゃうかぁ。まぁ確かに、毎回みんなの力に頼ったりして申し訳ないとは思っているんだけどさ……。 一穂: あ、あははは……。 がっくりと肩を落とす魅音さんに、私たちは苦笑いとともに顔を見合わせる。 これまで彼女から、色々と頼まれ事を受けてきたせいで……みんなも相談と聞くや、先回りして身構えるようになっていた。 もっとも、よほどの内容でもない限り私はそれを断るつもりなんてない。それは美雪ちゃんたちも、きっと同様だろう。 魅音: ……って、そうじゃなくて!昨日『ツクヤミ』と戦った時に感じたことで、まずみんなの意見を聞きたいんだよ。 美雪: おぅ、私たちの……意見? 魅音: うん。なんか、最近あいつら……以前よりも結構強くなっている気がしてさ。 魅音: ひょっとしたら私の錯覚かもしれないけど、みんなはどう思う? 沙都子: ……。そうですわね……。 魅音さんからの質問を受けて、私たちは腕組みをしたりして思案に暮れる。 そして、真っ先に顔を上げて答えたのは沙都子ちゃんだった。 沙都子: 魅音さんの言う通り、最近のバトルではかなり手こずるようになってきましたわ。図体も大きくなってきたようですし……。 梨花: みー。動きも素早くなって、1対1ではとらえることが難しいのですよ。 菜央: 昨日の『ツクヤミ』も手こずらされたわ。攻撃のパターンが今までとまるで違ってて、どこを攻めていいかわからなかったしね。 魅音: そういうこと。なのに私たちは、ずっと「カード」の力で個人の戦闘力に頼りっぱなし……。 魅音: これからは連係攻撃とかも覚えないと色々と厳しくなってくるかもしれない……そんな気がするんだよ。 沙都子: ……魅音さんの言う通りですわ。敵が強くなってきたのであれば、私たちもさらに強くなる必要があると思いましてよ。 レナ: はぅ……そうだね。チームで戦うんだったら、合図や陣形を決めておいたほうが何かと役に立つんじゃないかな……かな? 詩音: くっくっくっ……お姉にしては、いい見解じゃないですか。私も同じ考えですよ。 魅音: って詩音、また学校をサボってきたんだね……?もう毎度のことだから、怒る気力も失せたけどさ。 いつの間にかひょっこりと顔を出してきた詩音さんに顔を向け、魅音さんはそう言って呆れたようにため息をついてみせる。 こんなにも頻繁に来るのだったらいっそ分校に転校してきたらいいのに、と考えてしまうのは私だけだろうか……? 梨花: みー。だったら一度、みんなで訓練してふぁいと、おーなのですよ。 羽入: あ、あぅあぅ……ぼ、僕も頑張るのですよ。 魅音: うんうん、そう言ってくれると思った!というわけで今週末は、裏山を使って対『ツクヤミ』の特訓だー! 美雪: んー、特訓をやることには異存ないけど……具体的には何をやるの? 魅音: よくぞ聞いてくれた!この日のために、私と詩音が海外で学んできた軍事演習のマニュアルを使って……。 魅音: 銃火器と「カード」を組み合わせた、チームバトルを裏山でやってみようー! レナ: はぅ……銃火器って、つまり銃を使うってこと……? 菜央: まさか、本物じゃないわよね? 魅音: いやいや、さすがにそれはないって。あくまでも本物を模した、エアガンだよ。 美雪: えーっと……要するに、裏山を使ってサバゲーをやろうってこと? 魅音: その通り!こういうことは身体を鍛えると同時に、楽しく盛り上がらないとね~! 一穂: ……さばげー? 盛り上がっている魅音さんとは対照的に、私は何をするのかわからず首をかしげる。 美雪ちゃんたちは、なんとなく理解したのかそれぞれの反応を見せているけど……彼女たちは何をするつもりなんだろう? 一穂: あの……美雪ちゃん、菜央ちゃん。どうしてサバを食べて吐くことが訓練になるの? 美雪: は……?いや一穂、いきなり何を言い出すのさ。 一穂: だ、だって……今、サバゲーって。 菜央: サバをゲー、じゃなくて、サバイバルゲームの略称よ。……とんでもない間違いね。 美雪: って、一穂はサバゲーを知らないの? 一穂: う、うん……ごめんなさい。 美雪: いやいや、謝る必要なんかないって。女の子が知ってるほうがむしろ珍しいんだからさ。 そう言って美雪ちゃんは、菜央ちゃんとともに「サバゲー」について説明をしてくれた。 菜央: 使う武器はエアガン……空気銃ね。火薬の代わりに圧縮した空気で弾を発射して、いわゆる銃撃戦をやるのよ。 一穂: じゅ、銃撃戦……っ?撃たれたらその、怪我とかをして危ないんじゃ……? 美雪: 大丈夫。弾はプラスチック製とか塗料を入れたものとかを使うから、人を殺傷するほどの威力はないよ。 菜央: といっても、目に当たると危ないからゴーグルはつけておいたほうが良さそうね。……魅音さん、その辺りの装備もあるの? 魅音: もちのロンロン!さすがに迷彩服とかは全員分の調達が間に合わなかったけど、その他は問題なし! 魅音: ちなみに接近用として、サバイバルナイフも用意しているよ。当然刃がない、当たったら塗料が服に付着するタイプでね。 詩音: くっくっくっ……私はそっちの方がいいですね。まねごととはいえ相手の身体を切り刻むなんて、考えただけでも燃えてきそうです。 レナ: はぅ~!レナも接近戦の方が得意かな、かなっ♪ 沙都子: をーっほっほっほっ!では私も、自前の迷彩服を身にまとってバトルに挑ませてもらいましてよ~! 梨花: みー……沙都子の持っている迷彩服は雪原用なので、この緑の多い季節だと逆に目立ってしまうのですよー。 羽入: ……あぅあぅ。沙都子がそんなものを持っていることを、梨花はどうして知っているのですか? 一穂: …………。 わいわいと騒いでいるみんなの会話に、私は懸命に耳を傾けるが……その半分も理解ができず、呆然と立ちつくす。 「サバゲーを知ってる女の子は珍しい」と美雪ちゃんはさっき言ってくれたけど、みんな……詳しすぎじゃないだろうか……? 魅音: 大丈夫だよ、一穂。本物じゃないから、当たっても痛くないって。 一穂: そ、そうなの……?だったら、少し安心……。 詩音: ……まぁお姉は、暴徒鎮圧用のゴム弾を間違えてぶっ放して、小屋を一軒まるごと粉々にしたことがありましたけどねー。 一穂: 全っ然大丈夫じゃない!絶対間違えたりしないでよねっ!! 魅音: あっはっはっはっ!! そう言って念を押す私に、魅音さんは笑顔を返してくれる。 ただ、目が笑っていないように見えたのは気のせい……でもなさそうだった……。 Part 02: ……そして、週末。 裏山の一角に集まった私たちは2つのチームに分かれて、対『ツクヤミ』の「特訓」を行うことになった。 魅音(サバゲー): ルールは簡単! この裏山の小屋を拠点として、攻撃側は中にある宝物を取れば勝ち! 魅音(サバゲー): 守備側はそれを守って、攻撃側を全員死亡扱いにすること! いいねっ? 美雪(私服): おっけー!身体のどこかに弾や武器が当たれば、死亡判定ってことでいいの? 魅音(サバゲー): その通り!通常は1発当たれば終わりだけど、今回は3発で戦線から離脱だ! 魅音(サバゲー): ちなみに、当たったかどうかの判定は正直に自己申告すること!嘘やごまかしをした場合は、即罰ゲームだよ! 魅音(サバゲー): それと、作戦移動中はゴーグルを必須で!首から上を狙うのも禁止ってことでよろしく!……それじゃ、チームに分かれて! その号令を受けて、私たちは事前に行ったくじ引きで決まったチームに分かれる。 守備側は、魅音さんとレナさん。攻撃側は私と美雪ちゃんに、菜央ちゃん……。 さらに詩音さん、沙都子ちゃんも攻撃側だ。残りの人たちは守備側へと配分されることになった。 一穂(私服): (まだ来てないのは、梨花ちゃんと羽入ちゃんの2人。だから守備側は4名で、攻撃側は5名……?) その配分に違和感を覚えて、ふと首をかしげる。私には軍事演習の知識なんてものはないけど、守備側が少ないのは不利じゃないだろうか……? 一穂(私服): あの……魅音さん。守備側がひとり少ないみたいだけど、大丈夫? 魅音(サバゲー): そんなことないよ、ぴったりだって。……あっ、来た! おーい、こっちだよ~! そう言って魅音さんは、私の背後に向けて大きく手を振ってみせる。 ようやく、梨花ちゃんたちが来たんだろうか。そう思いながら私が、ゆっくりと振り返った次の瞬間――。 一穂(私服): なっ……?! 視界に映った光景に息をのみ、大きく目を見開く。そこにあったのは2人ではなく、3人の姿で……。 一穂(私服): (ひとりは……前原くん。そしてもうひとりは、……悟史くん……?) 前原くんについては、さほど驚きはなかった。梨花ちゃんと羽入ちゃんの2人+1人として、魅音さんが言った「ぴったり」に合致する。 ……悟史くんの存在も、まだ受け止められた。私の気づかないところで「世界」に何らかの影響が及ぼされた時、彼が現れることがあったからだ。 だけど、残るひとり……「彼女」だけは……?! 一穂(私服): ど、どうして……絢花さん、がっ……?! ……そう。一番衝撃的だったのは、3人の中に絢花さんがいたことだ……!! しかも……しかもっ!昨日の放課後にだって、確実に顔を合わせて話をしたはずの「あの2人」が……いない?! 一穂(私服): ど、どういうことっ?梨花ちゃんと、羽入ちゃんは……?! 驚愕のあまり、思わず出てしまった疑問の言葉。それが聞こえたのか、隣のレナさんが怪訝そうに私の顔をのぞき込んでいった。 レナ(サバゲー): はぅ……?一穂ちゃん、梨花ちゃんと羽入ちゃんって誰のことかな、かな……? 一穂(私服): えっ……?! 沙都子(私服): 他にお知り合いの方でも呼ぶつもりでしたの?あいにくですがさすがにこれ以上は、用意した銃が足りなくなってしまいましてよ。 一穂(私服): なっ……?! 2人の名前に心当たりがない、と言いたげにレナさんたちは「?」と首をかしげている。 ただ、突然のこの事態に愕然としているのは幸と呼ぶべきか、それとも不幸なのか……。 美雪(私服): い、いや……何を言い出すのさっ?梨花ちゃんだよ、古手梨花ちゃんとその親戚の羽入っ! 菜央(私服): 知らないって、どういうことっ?昨日も分校で話をして、ちゃんと挨拶してお別れしたでしょ?! 美雪ちゃんと菜央ちゃんは、驚きをあらわにして私の驚きを代弁するように食い下がってくれる。 ……記憶を残しているのは、自分だけじゃない。その事実は本当に嬉しくて、今までとは違った心強さと安堵を覚えたけど……。 私が味わった、残酷な失望感……それを2人が味わうことになっている様子は、見ていてとても……辛かった。 魅音(サバゲー): えっと……どうしたのさ、2人とも。私たちが今回の訓練に呼んだのは、あの3人だけだよ。 詩音(私服): ……大丈夫ですか?もし寝不足かお疲れのご様子でしたら、今日の特訓は中止でも構いませんが。 美雪(私服): っ……キミたち、本当に……?! 菜央(私服): あの2人のことを……忘れてるの……?! 一穂(私服): ……っ……。 呆然とする美雪ちゃんと菜央ちゃんの姿が痛々しくて……私はきゅっ、と胸元を掴む。 ……そこへ、ふいに人の近づく気配。はっ、と弾かれたような勢いで振り返ると、私は無意識のうちに身構えた。 一穂(私服): ……ぁ……。 視線を向けた先にいたのは……巫女服姿の絢花さんだった。 一穂(私服): 絢花……さん……。 絢花(巫女服): 残念ながら、今回は敵同士になりましたが……頑張りましょうね、一穂さん。 一穂(私服): ……っ……! 予想もしていなかった再会に、私は返す言葉も思いつかず固まってしまう。 そして頭の中では、羽入ちゃん……の姿をした『オヤシロさま』から託された「あの」言葉がリフレインしていた。 羽入(巫女): 『……古手絢花を、殺してください』 魅音(サバゲー): ちなみに守備側が守る宝物は……これっ!小さいから、なくさないようにねー。 美雪(私服): なっ……あれって、まさか?! 魅音さんが掲げた宝物を見て、さらに驚く。それはまさしく、『スクセノタマワリ』と形状が瓜二つの水晶玉で――。 一穂(私服): ……『カムノミコトノリ』……? 思いもしなかったものを目の当たりにして、私は混乱のあまりに気を失いそうだった……。 Part 03: その後、とりあえず私たちは混乱する感情と思考を必死に押さえつけ、なんとか鎮めることにして……。 魅音さんの指示に従い、詩音さんの先導で攻撃側の出発地点へと移動した。 詩音(私服): それでは皆さん、覚悟はいいですかー?訓練や演習だと言っても、勝たなければ意味がありません。 詩音(私服): もし負けるようなことがあれば、それはあなたたちの技量が未熟だったからです。私の責任ではありませんので、よろしくです。 沙都子(私服): ……もし勝った場合は、私たちの腕が優れているということでよろしいので? 詩音(私服): いえ。その場合は優秀な指揮官が立てた、素晴らしく隙のない作戦のおかげです。よって私のことを、大いに称えてくださいね。 沙都子(私服): ……部下に嫌われる上司の典型的なタイプですわ。バトル中、どさくさに紛れてこっそり背後から撃ってさしあげてもバレな――。 沙都子(私服): んきゃあぁあぁあああっっ?な、何をするんですの詩音さんんっ?? 詩音(私服): ……おや、すみません。足元に蛇のようなものが見えたので撃ったら、ただの麻紐でした。 沙都子(私服): 絶対紐だってわかっていましてよねっ?そもそも、銃で撃つ前に一言でもあれば十分伝わるのではありませんの?! 詩音(私服): 声を掛け合うのは、最後の手段です。チーム全体の動きを読まれるかもしれませんし、なにより敵に所在が知られてしまいますので。 詩音(私服): ですから、離れた味方に送る伝達として銃撃で知らせる方法もあります。とりあえず今のは「足元、蛇」の合図にしましょう。 沙都子(私服): 足元に蛇がいるとわかるくらいに近い場所なら、なおのこと言葉で伝えればすむ話でしてよっ! 美雪(私服): ……はいはい沙都子、声を落として。まだ離れた場所にいるけど、どこで聞いてるかわかったもんじゃないんだからね。 そう言って美雪ちゃんは、2人の間に入ってまぁまぁとなだめている。 彼女も、さっきの状況の急変に直面してかなり動揺しているはずなんだけど……それをおくびにも出さないのはさすがだ。 菜央(私服): ……大丈夫、一穂? 一穂(私服): あ、うん。詩音さんと沙都子ちゃんが銃の操作をちゃんと教えてくれたから、たぶん問題ない……と思うよ。 菜央(私服): いや、そっちの心配もだけど……あんたはあの人を相手にして、平気なの? 一穂(私服): …………。 問いかけてくる菜央ちゃんに対して、私はどう返事をすべきかわからず……下を向く。 突然周囲の状況が変化して、今までの常識がひっくり返ってしまうことは何度もあった。……本当にありすぎて、うんざりするほどに。 でも、今回のように前触れもなく、身構えも覚悟もないままで急変を告げられると……思考と感情を落ち着ける余裕も暇もない。 ……パニックにならずにすんでいるのは、美雪ちゃんと菜央ちゃんがいてくれるおかげだ。でなければ、この場から逃げ出していただろう。 美雪(私服): にしても……まさか、今回の奪い合う宝物が例の『カムノミコトノリ』とはね。……っていうか、なんで魅音が持ってるのさ? 菜央(私服): あたしに聞かれてもわかるわけないでしょ。……それより一穂、あの人が絢花さんって人なの?なんだか、仲よさげな感じに見えたんだけど。 一穂(私服): う、うん……。私だけじゃなくて、菜央ちゃんに対しても優しい人だったんだよ……。 菜央(私服): ……そうなのね。記憶がないのが、残念だわ。 悲しげな表情を浮かべて、菜央ちゃんはそっとため息をつく。 そんな彼女に思わず声をかけようとしたが……折悪しく詩音さんが遮るように私たちの前に立ち、今回の作戦を説明していった。 詩音(私服): おそらくお姉のことですから、守勢になると見せかけて私たちの背後に回り込み……挟み撃ちを仕掛けてくるつもりでしょう。 詩音(私服): そこで私たちは二手に分かれて片方が囮に、もう片方が拠点をつく攻め方でいきます。 沙都子(私服): 『双頭の蛇』の応用というわけですのね……?どちらが本命なのかをあえて絞らせないのは、良策だと思いましてよ。 美雪(私服): んー……『双頭の蛇』って、どういう作戦? 沙都子(私服): あら、聞いたことがありませんの?『双頭の蛇』作戦とは、2手に分かれた部隊がそれぞれのルートで敵に向かうものですのよ。 詩音(私服): で、先に敵と遭遇した側が戦闘しつつ、注意を引きつけて……もう一方はその隙に背後や側面へと回り込むのが常套手段です。 詩音(私服): ただ、お姉もこの作戦を知っているのでその裏をかき、1隊が主力部隊を遅滞戦術で引きつけてその間にもう1隊が拠点へ攻撃……という案配です。 美雪(私服): なるほどね。つまり、囮役か主力かは敵と遭遇した時点で決めるってことか。……一穂、どう? 一穂(私服): えっ? う、うん……たぶん大丈夫、だと思う……。 理解できているかどうかは自信がなかったが、美雪ちゃんを安心させるつもりでこくこく、と私は何度も頷き返す。 おそらく彼女は、要領が掴めていなかった私のためにあえて質問をしてくれたのだろう。……その優しさがありがたく、嬉しかった。 詩音(私服): 迂回攻撃を仕掛けてくるのは、熟練度と攻撃力から考えてもお姉とレナさんの可能性が高いです。 詩音(私服): 拠点の防衛は圭ちゃんと悟史くん。最終防衛ラインは、絢花さん……といったところでしょうね。 菜央(私服): 最終防衛ラインって、宝物を守る一番重要なポジションなのよね。……それが絢花さんで、大丈夫なの? 沙都子(私服): あら……知りませんの?絢花さんって薙刀の使い手で、銃弾だって叩き落としてしまえるほどですのよ。 菜央(私服): えっ……そうなのっ? 詩音(私服): 本当です。私も最初聞いた時はまさか……と全然信じていませんでしたが、実際にその実演を見せられまして……はい。 美雪(私服): ……それはもう達人どころか、剣豪レベルって言った方がいいんじゃない? 一穂(私服): …………。 ……私の記憶の中にある絢花さんは、たくさんの薬の服用が欠かせないほどの病弱なイメージだった。 以前見せてもらった奉納演舞の動きで、武道をやっているかもしれない、とは感じていたけど……。 一穂(私服): (この「世界」だと、違うのかもしれない。でも、何がきっかけになってそんな改善が実現したんだろう……?) 詩音(私服): なにはともあれ、A班は私と沙都子。B班は一穂さんと美雪さん、それと菜央さんでよろしくです。……じゃ、行きますよ! 詩音さんのかけ声を受けて、私たちは一斉に立ち上がる。 そして、まだ戸惑いを拭えない私のそばに美雪ちゃんが近づいてきたかと思うと……そっと耳打ちするように、小さな声でいった。 美雪(私服): ……とりあえず、今のところはサバゲーに集中しよう。絢花さんのことは、その後で……ね? 一穂(私服): う、うん……わかった。 Part 04: 木々を抜け、茂みを踏み越えながら私たちは拠点を目指して進んでいく。 ……と、その時。少し離れた場所から銃撃音が聞こえる。 菜央(私服): 方向と距離から考えて……詩音さんのA班が向かった先ね。 美雪(私服): つまり、魅音とレナはA班の方に食いついたってことか……! 菜央(私服): だとしたら、あたしたちがやるべきことはひとつ……一気に拠点を叩きましょう! 腹をくくった私たちは勢いよく駆け出し、慎重に身を隠しながらも前へと進む。 …………。 やがて、茂みのいくつかを踏み越えた後……拠点の見える場所にまでたどり着いた。 美雪(私服): ……あれで、間違いなさそうだね。 菜央(私服): 前原さんたちは、中にいるのかしら。それとも……? 美雪(私服): まずは、近づいてみよう。入口はあっちだから裏から回って……。 先に進む美雪ちゃんのすぐ後に、菜央ちゃんが続く。私はそのさらに後ろだ。 そして茂みを抜け、小屋へと近づこうとしたその時――。 一穂(私服): ……なっ……? すぐそばの幹で、ぱぁん、と弾ける音。明らかに銃撃によるものだ。 とっさに身を隠して、恐る恐る顔を上げる。……すると遠くの方に、前原くんと悟史くんが銃を構えている姿が目に映った。 美雪(私服): んー……どうやら、あえて小屋の周囲をがら空きにすることで遠くから狙撃する戦法をとっているみたいだね。 菜央(私服): 小屋の周りには、身を隠せるようなところがあまりないみたい。……接近するのは、骨が折れそうよ。 一穂(私服): ど、どうしたら……? 美雪(私服): セオリーで考えたら、1人が銃撃を続けて残りの2人が前原くんたちの背後に回り込む。ただ、そうなると……。 菜央(私服): 時間をかけすぎると、魅音さんとレナちゃんが銃撃を聞いて戻ってくるわ。そうなると各個に分かれてるあたしたちの、勝ち目は薄くなる。 美雪(私服): だね。それに私たちには、他にやるべきことがある……だよね、一穂? 一穂(私服): ……っ……! 菜央(私服): ……なら、決まり!あたしと美雪が牽制するから、一穂はその間に小屋へ近づいて宝物を取りに行きなさい! 一穂(私服): で、でも……あの中にはきっと、絢花さんがいて……! 美雪(私服): だったら、なおさらだよ。キミと絢花さん、2人っきりじゃないとできない話だってあるんでしょ? 菜央(私服): ……あたしも美雪も、あんたが絢花さんを殺すわけがないってわかってるわ。 菜央(私服): でも、まずは本人の話を聞かなきゃ……というわけで、こっちは任せて行きなさい! 美雪(私服): というわけで……おっぱじめるかぁあぁぁっ!! そう言って美雪ちゃんと菜央ちゃんは銃撃を始め、前原くんたちの注意を引きつけてくれる。 一穂(私服): っ……行くよ……!! そんな2人の気遣いに感謝しながら、私は身を隠しつつ小屋の中へと滑り込むようにして入っていった。 一穂(私服): ……っ……。 意外に広く感じた屋内を、私は身構えながら左右に見渡す。 薄暗がりの室内。その部屋の奥には、『カムノミコトノリ』らしき水晶玉が置かれた台座があり……そして……。 絢花(巫女服): ……やっぱり来ましたね、一穂さん。 一穂(私服): 絢花さんっ……!! 薙刀を構える絢花さんの姿を見て取るや、私は反射的に銃を放つ……が……。 一穂(私服): なっ……?! 詩音さんたちが話していた通り、彼女の薙刀の動きは素早く、凄まじく……弾丸は目の前で叩き落とされてしまった。 一穂(私服): (っ、それよりも……!) 暗がりの中でぎらりっ、と鈍く輝く薙刀の切っ先を見て……思わず息をのむ。 この光り方と、空気の動き……刃を落とした模擬刀なんかじゃない。むしろ、これは……? 一穂(私服): 絢花、さん……まさかその、薙刀って……?! 絢花(巫女服): はい、本物です。……その気になれば、あなたを殺すことだってできるでしょう。 暗い中でもはっきりとわかるほどの、妖しい笑みと鋭い瞳の輝き。 一穂(私服): ……っ……! そこに殺意を感じた私は銃を捨て、「カード」を振りかざして武器を出現させた。 絢花(巫女服): さぁ、一穂さん……文字通りの真剣勝負です。私を殺すように、依頼を受けているんですよね……? 一穂(私服): なっ……?! 告げられたその言葉に、私は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚える。 なんで……どうして絢花さんが、『オヤシロさま』からの依頼を知っているんだ? 一穂(私服): (いや、そんなことよりも……私は……!) 一穂(私服): い、嫌だよ……絢花さん!私はあなたを殺すつもりなんて、全然ないんだからッ!! 必死に、震える喉を励まして声を絞り出す。その思いだけは絢花さんに、どうあっても伝えておきたかったからだ。 絢花(巫女服): …………。 すると絢花さんはおもむろに目を閉じ、軽く息を吸って……吐く。そして――。 絢花(巫女服): やっぱり……一穂さんは優しい方ですね。どの「世界」にいても……あなただけは変わらないでいてくれる……。 絢花(巫女服): それが、私にはとても嬉しいです。 一穂(私服): っ、絢花さん……っ……! 絢花(巫女服): でも……一穂さん。あなたが、私を殺さないと――。 次の瞬間、絢花さんの姿が消える。 そしてはっ、と振り返ると大上段から薙刀を振り下ろす彼女がいて……! 一穂(私服): ぐっ……?! 私は間一髪でその斬撃を受け止めた。 絢花(巫女服): あなたが殺さないのなら、私が……あなたを殺す。2つにひとつ……選ぶのは、あなたです。 Epilogue: 旋風のように鋭く、無数に放たれる絢花さんの薙刀の斬撃……! そのことごとくが首やくるぶし、胴体の急所を正確に、容赦なく狙い……必殺の念が込められているのが伝わって、ぞっと怖気が走る。 一穂(私服): (絢花さん……本気だ!私を殺す気で、攻撃してる……?!) なぜ……どうして?なんで私は絢花さんと、戦っているの……?! そんな困惑と逡巡がぐるぐると頭の中で渦巻き、目眩がして吐き気を催しそうになったけど……。 一穂(私服): っ……はぁぁあああぁぁっっ!!! 死ぬわけにはいかない。終わるわけにはいかない。託してくれた美雪ちゃんと菜央ちゃんのためにも……! その思いが私の心を支え、力をつなぎ止め……床を踏み抜くほどの勢いで足に力を込めると、武器を大上段に構えて大きく振り下ろした! 一穂(私服): やぁぁぁああああぁぁぁっっ!!! 絢花(巫女服): ……っ、ぐぅっ……?! 振り下ろした薙刀を防御に回すのが一瞬遅れて、絢花さんの手から……柄が、弾け飛ぶ。 からんからん、と床に転がる薙刀。それを拾い上げようという動作も見せず、彼女はその場に立ち尽くして……。 絢花(巫女服): ……強いですね、一穂さん。 汗だくになった顔に笑みを浮かべながら……私に告げていった。 絢花(巫女服): ……あなたの勝ちです、一穂さん。さぁ、とどめを刺してください……。 絢花(巫女服): あなたの手にかかるのならば、本望……です……。 一穂(私服): ……っ……! 諦めて、何かを悟ったような……美しいけれど儚さに満ちた、透明な笑顔。 そんな絢花さんを見ていると切なくて、悲しくて……私は思わず、叫んでいた。 一穂(私服): できない……できるわけがないっ!どうしてあなたを、殺さなきゃいけないの?! 一穂(私服): それに、絢花さん……なんでっ?私の前に現れたら、こうなるってわかってたんでしょ?! 一穂(私服): 梨花ちゃんがいたままで、絢花さんがいないままだったら……こんなこと、しなくてよかったのに! 一穂(私服): なんで……どうしてっ?私は、絢花さんのこと……ずっと……! 絢花(巫女服): それが、正しい「世界」を維持して……あなたの大切な、#p雛見沢#sひなみざわ#rの人たちの命を守るために必要だから、……です。 一穂(私服): ……それはどういう……、っ? そう絢花さんが言った次の瞬間……周囲の景色が一変する。 そして、再び視界が輪郭を持ち始めるとここは先日、私たちが訪れた洞窟……。 羽入ちゃんが言った『隠し宝物殿』だった。 絢花(巫女服): 波動が乱反射して、外部との交信が断たれている……あの「神様」は、良い場所を用意してくれましたね。 絢花(巫女服): おかげで、少しの間であれば……あなたともお話ができそうです。 一穂(私服): 絢花……さん。あなたは、いったい……? 困惑のまま、私は問いただす。すると絢花さんは、厳かな口調で告げていった。 絢花(巫女服): 私は……本来であれば、雛見沢にいてはいけない存在なんです。 絢花(巫女服): ある意味、常識ではあり得ない怪物……『ツクヤミ』と同じモノなのかもしれません。そして――。 そこで彼女は、私の元へと歩み寄り……手を包み込むように優しく取って、告げた。 絢花(巫女服): ……一穂さん。あなたも……私と同じ。この「世界」にいてはいけない……だから。 一穂(私服): ぐっ……?! いつの間にか、絢花さんの手が首にかかって……恐ろしい力で締め上げていく。 絢花(巫女服): 私たちは……ここで「消える」べきなんです。 その瞳は、氷のように冷たく……光が消え失せた、うつろな闇に染まっていた。