Part 01: 魅音(私服): じゃあ私、お茶取ってくるから。 圭一(私服): なぁ魅音、トイレ借りていいか? 魅音(私服): いいよー。こっちの廊下、まっすぐ行った突き当たりにあるから。 魅音(私服): あ、他の部屋には入らないでよ~? 圭一(私服): 入らねぇって! 菜央(私服(二部)): ……………。 梨花(私服): ……………。 菜央(私服(二部)): (あたし、と梨花2人だけ……今のうちに聞いておこうかしら) 菜央(私服(二部)): ……そういえば口調、戻したのね。 梨花(私服): みー……? 菜央(私服(二部)): 前に地下から連れ出した時と、あたしがこの世界に来た時はもうちょっと大人っぽい口調だったけど。 菜央(私服(二部)): 今は、前と同じなのねって……そう思っただけよ。 梨花(私服): ボクは、この口調のままでいたいのです。 梨花(私服): 時々疲れることもありますですが、部活メンバーたちと一緒の時は……なるべく。 菜央(私服(二部)): ……そう。 梨花(私服): 変だと思いますですか? 菜央(私服(二部)): そうは思ってないわ。 菜央(私服(二部)): あたしはただ、口調を戻した理由が聞きたかっただけ。 菜央(私服(二部)): 前に疲れるって言ってたでしょ?でも、疲れてもこっちの方がいいって梨花が選んだ。以上、それでおしまい。 梨花(私服): ……ありがとうなのですよ、菜央。 菜央(私服(二部)): お礼を言われるほどのことじゃないわよ。 梨花(私服): それでも、ありがとうなのです。 菜央(私服(二部)): じゃあ、ありがたく受け取っておくわ。 Part 02: 圭一(私服): ……菜央ちゃんは帰ったみたいだな。 圭一(私服): で、魅音。俺たちだけ残して、何の話をするつもりだ? 圭一(私服): そんなに、菜央ちゃんに知られたくないことなのか? 梨花(私服): 圭一……これは、ボクが提案したことなのです。菜央には隠して、圭一にだけ話そうと。 圭一(私服): 梨花ちゃんが? 魅音(私服): ……圭ちゃん。あんた、自分は嘘が上手い人間だ、って思う? 圭一(私服): は……? 魅音(私服): 答えて。大事なことだから。 圭一(私服): それは……ぅ……。 梨花(私服): 誤解しないでくださいなのです。ボクと魅ぃは、嘘がつけないのは圭一のいいところだと思っています。 梨花(私服): でも、今の状況では……その長所が裏目に出てしまうかもしれないのですよ。 圭一(私服): ……なんだそりゃ。もうちょっとズバっと言ってくれないか? 魅音(私服): じゃあ、はっきり言うね。 魅音(私服): ……レナのことで、私と梨花ちゃんは圭ちゃんに隠していることがある。 圭一(私服): っ……レナに何かあったのか?! 魅音(私服): うん。 圭一(私服): ……。なんで、俺にまで隠してるんだ? 梨花(私服): ボクが先に相談されて、圭一に言うのは待った方がいいと言ったのです。 圭一(私服): な、なんで……? 梨花(私服): 菜央が現れる可能性が高かったからなのです。ボクが地下室に閉じ込められた記憶を持って、この世界に現れたように。 圭一(私服): つまり、レナについての隠し事を知られたくないのは、俺じゃなくて……。 圭一(私服): 菜央ちゃん……ってことか? 魅音(私服): 私も正直迷ったけど、圭ちゃんはともかく菜央ちゃんは知らない方がいいと思う。 魅音(私服): ……レナのことは、私がなんとかする。だから圭ちゃんは、菜央ちゃんのことを頼みたい。 圭一(私服): ……それが、レナのためになるのか? 梨花(私服): 少なくとも、ボクと魅ぃはそう思っています。 圭一(私服): …………。 魅音(私服): 圭ちゃんのこと、信じていないわけじゃない。ただ、菜央ちゃんのことを考えると……。 圭一(私服): いや……わかった。正直納得はしていないが、理解はした。 魅音(私服): じゃ、じゃあ……。 圭一(私服): 何があったか、今は聞かない。レナのことも、魅音に任せる。 圭一(私服): でも、全部解決した時は……ちゃんと、何があったか教えてくれよ。 魅音(私服): もちろんだよ。 梨花(私服): ありがとうなのです、圭一。 梨花(私服): ……正直、もう少しごねられるかと思っていたのですよ。 圭一(私服): へっ、そんなことするかよ。 圭一(私服): 話せないことがあるって教えてくれただけでも、十分だ。 圭一(私服): なんでもかんでも話せなきゃ仲間じゃない……。 圭一(私服): そんなこと、ないよな。 梨花(私服): …………。 魅音(私服): ……。圭ちゃんには、あぁ言ったけどさ……。 梨花(私服): ……みー。 魅音(私服): ねぇ、梨花ちゃん。 魅音(私服): おそらくだけど……圭ちゃんもしているよね、隠し事をさ。 梨花(私服): はい……ボクもそう思いますです。 魅音(私服): 隠している……ってことすら、教えてくれなかったけどさ。 梨花(私服): ……きっと、圭一なりに考えがあるのでしょう。 魅音(私服): それは、私もそれはわかるよ。 魅音(私服): 何についてか、はわからないけど誰についての隠し事なのか、は……予測がついてるから。 梨花(私服): ……ボクも、魅ぃと同じ予測をしていると思うのです。 梨花(私服): でも、もしボクたちの予測が当たっていたら、なおさら圭一は言えないと思うのですよ。 魅音(私服): それは……うん。わかってるよ。 魅音(私服): ……なんだか皮肉だね。同じ理由で、お互いに隠し事しているなんて。 梨花(私服): 圭一の言葉を借りるなら、なんでもかんでも話せなければ仲間じゃない……なんて、そんなことはないのですよ。 梨花(私服): ……魅ぃには、嫌なことを任せてしまいました。何の力にもなれず、ごめんなさいなのです。 魅音(私服): 気にしないで。こんなの対処できるのって、そうそういないしさ。 魅音(私服): 梨花ちゃんの出番はこれからだよ。御三家同士、一緒に頑張ろう。 梨花(私服): はいなのですよ。 梨花(私服): ……ふぁいと、おー。 魅音(私服): おー……なんてね。あははっ。 Part 03: 葛西: お待たせしました、魅音さん。 魅音(私服): ううん、こっちこそ色々頼んでごめんね。 魅音(私服): 詩音のことも……ごめん。 葛西: いえ……お気になさらず。では、行きましょうか。 魅音(私服): ……うん、今行く。 魅音(私服): あ……そうだ。ねぇ、葛西さん。『カワタ ミドリ』って人のこと、何か聞いたことがある? 葛西: えっ? 魅音(私服): あ、いや。知らないならいいんだけど。 葛西: いえ……すみません。少し驚いただけです。 葛西: まさか魅音さんの口からその名前が出るとは思わなかったもので。 魅音(私服): へー、有名人なんだ。私は名前しか知らないんだけど、どんな人? 葛西: うちの同業者ですよ。関西にある外資系組織の上役です。 葛西: 確か、背中に……閻魔の入れ墨があると聞きました。 魅音(私服): 閻魔……? 葛西: 私も知っているのはその程度です。しかし魅音さん、どこでその名前を? 魅音(私服): あ、いや。ちょっとね。 魅音(私服): 閻魔大王の入れ墨……自分で選んで入れたのかな? 魅音(私服): なんで閻魔を……。 葛西: 珍しいことは珍しいですが……そこまでですか? 魅音(私服): いや、若い女の人で閻魔大王の入れ墨ってあんまり聞かないなー、って思って。 葛西: ん? 魅音(私服): えっ? 葛西: ……すみません。魅音さんの知っている『カワタ ミドリ』は若い女なんですか? 魅音(私服): えっ? う、うん。 葛西: …………。 魅音(私服): 葛西さん? 葛西: すみません、人違いです。忘れてください。 魅音(私服): えっ? 同姓同名の別人? 葛西: 私の知っている『カワタ ミドリ』は、40代の男なので……おそらく。 魅音(私服): あー、じゃあ別人だ。ごめんごめん。 魅音(私服): それにしても葛西さん、よく関西の組織の社員なんて知っていたね?うちの家、外資系と付き合いがあったんだ。 葛西: いえ……個人的な付き合いで、『カワタ』が所属する外資系組織が色々とごたついていると小耳にはさんだだけです。 魅音(私服): なにかあったの? 葛西: ……よくある話です。勢力を急に拡大したせいで、内部で色々ともめ事が起きているとか。 魅音(私服): ……本当に、どこにでもある話だね。 葛西: うちとは関わりのない話ですけど。 魅音(私服): 男の『カワタ ミドリ』は無関係だけど、うちも内部には気をつけないとね……。 葛西: えぇ。