Part 01: レナ(私服): はぅ……どうしたの、魅ぃちゃん。相談したいことがあるって電話で言っていたけど、何かトラブルでもあったのかな……かな? 魅音(私服): いや、その……トラブルじゃないんだけど、自分以外の誰かの意見も聞いてから考えをまとめたいと思ってさ……。 魅ぃちゃんはそう言葉を濁しながら、歯切れが悪そうに視線をそらしてうつむく。 その「誰か」として私を頼ってくれたのは、ちょっと嬉しい。……ただ、話を聞くにしても気持ちの整理がついてからの方がいいだろう。 そう思って私は、にこやかに笑いかけるとあえて話題を変えることにした。 レナ(私服): そうだ、魅ぃちゃん。実は昨日、菜央ちゃんと一緒に焼き菓子を作ってみたんだ。 レナ(私服): とってもおいしく焼けたと思うから、もしよければ試食して味の感想をもらってもいいかな、かな……? 魅音(私服): えっ?……あぁ、うん。 魅音(私服): ……いやー、そいつはありがたいねぇ。実はついお昼を食べ損ねちゃって、お腹が空いていたんだよ~。くっくっくっ! レナ(私服): あははは、ならよかった♪すぐにお茶をいれて持って行くから、居間の方で待っていてくれる? 魅音(私服): わかった。それじゃ、お邪魔しまーす。 そう応じてから魅ぃちゃんは靴を脱ぎ、台所に向かう私と別れて居間へと入っていく。 ……付き合いの長い彼女のことだ、これが自分を落ち着かせるための口実だとおそらく気づいているだろう。 なので私も、台所に着いてから少しゆっくりめにお茶の準備を始めた……。 魅音(私服): うん……おいしい!この焼き加減と生地の柔らかさは絶品だね。本当にこれ、レナと菜央ちゃんが作ったの? レナ(私服): はぅ~、そうだよ♪菜央ちゃんがレシピのアイディアを考えてくれたから、レナはその内容と手順通りに作っただけだけどね。 魅音(私服): いやいや、いくらレシピがあってもちゃんと調理ができるかどうかは別問題だよ。さすがレナ、主婦力ピカイチは伊達じゃない! レナ(私服): はぅ……魅ぃちゃんだってお料理が上手なんだから、1番なんかじゃないよ。 レナ(私服): それに、やっぱりすごいのは菜央ちゃんだね。いくら本で読んだって言っても、その内容をちゃんと覚えているんだから……。 お世辞でもなんでもなく、私は本心からそう思う。年下で可愛らしいあどけなさを残しているけれど、菜央ちゃんは本当に勉強熱心なしっかり者だ。 もちろん、それなりに厳しいしつけを受けて高い教育の機会を得てきたという家庭環境も影響しているのだろうけど……。 それを生かすも殺すも、本人の資質によるもの。さらに謙虚で常に向上心を持っているところも、彼女の素敵な魅力だった。 魅音(私服): 本当にレナは、菜央ちゃんのことをすごく気に入っているんだねぇ。可愛がった上で、敬意も払っている感じでさ。 レナ(私服): うん。あんなふうに、何事にも熱心で真面目な子を見ていると応援したいし、自分も頑張らなきゃって励みにもなって……。 レナ(私服): それに、あんなに話題と趣味が合う女の子って今まで近くにいなかったから、ついつい一緒にいたくなっちゃうんだ……はぅ。 魅音(私服): ……そっか。そこまでレナに想ってもらえているなんて、菜央ちゃんは幸せ者だねぇ。 レナ(私服): 魅ぃちゃん……? ふと声に陰りを感じた私は、浮かれかけた気持ちをいったん棚に上げて魅ぃちゃんへと顔を向ける。 彼女は焼き菓子を少し残して皿の上に置き、カップのお茶の水面を見つめながら……はぁ、と大きくため息をついていった。 魅音(私服): 血の繋がった兄弟姉妹「なのに」って言うべきか、それとも「だから」なのかはわかんないけど……うまくいかないもんだね。 レナ(私服): ……詩ぃちゃんと、何かあったの? 魅音(私服): あ、いや……さっきも言ったように、喧嘩とかをしたってわけじゃないよ。ただ……。 魅音(私服): なんていうか……詩音が#p雛見沢#sひなみざわ#rのために色々と企画を立てたりして頑張ってくれるのはすごくありがたいし、嬉しいんだけど……。 魅音(私服): あの子、本当は雛見沢での暮らしが気に入っていなくて……なんか居づらいと思っているんじゃないかな、ってさ。 レナ(私服): ……どうして?この村のことが好きだから、新しいイベントで盛り上げようとしてくれているんじゃないの? 魅音(私服): ……実はさ。詩音のやつ、聖ルチーア学園についての資料を最近取り寄せたみたいなんだ。 レナ(私服): 聖ルチーア学園……それってどんな学校なの? 魅音(私服): いわゆる私学の、全寮制の学校だよ。高校の三年間は寮暮らしになって、季節の休みと身内の冠婚葬祭くらいしか帰省もままならない。 魅音(私服): まぁ偏差値も、結構高いそうなんだけど……詩音の今の成績だったら余裕で合格だろうね。 レナ(私服): じゃあ、詩ぃちゃんは来年から魅ぃちゃんと違う学校に通うつもりなのかな……かな? 魅音(私服): 本人に確かめたわけじゃないから、まだわからない。進学以外の目的で興味を持った可能性もあるからね。ただ……。 魅音(私服): あの子……昨夜話をした時に、ぽつりと漏らしたんだよ。「私のせいで、お姉に迷惑をかけている」……ってさ。 レナ(私服): えっ……? Part 02: レナ(私服): 詩ぃちゃんが、魅ぃちゃんに迷惑をかけている……?それってどういう意味なのかな……かな? 魅音(私服): わかんない。気になってすぐ問い質したんだけど、なんでもないって言ってはぐらかされたしさ。 魅音(私服): けど……もしかしたら詩音、町会の年寄り連中の一部で上がっている声を聞いたのかもしれない。 魅音(私服): 「園崎家の次期頭首に並ぶ人間がいると、後々に跡目争いや揉め事の原因になる。今のうちに切り離したほうがいい」……って。 レナ(私服): なんで、そんなことを……?だって詩ぃちゃんは魅ぃちゃんと同じくらいに、この村のことを思って頑張ってくれているのに……! 魅音(私服): もちろん、その通りだよ。あの子が居てくれるから私も何かと助かっているし、他の誰よりも頼りになる自慢の妹だ。けど……。 魅音(私服): あの子が頑張れば頑張るほど、頭の固い連中は実に妙な疑いをかけてくるんだよ。私の地位を狙ってのことかもしれない、とかね。 レナ(私服): っ、言いがかりだよ……! 私は首を振って、あり得ないと否定する。詩ぃちゃんがそんな打算で動いているはずがないし、魅ぃちゃんも彼女のことを疑っていないと思う。 だけど……本人たちがどれだけ否定したところで、相手が信じようと思わなければ意味がない。 特に頑迷な人は、自分の欲する情報だけを聞いてあたかも唯一無二のように考えてしまうので……説得を試みても、それは徒労でしかないのだろう。 魅音(私服): ……元々詩音は、中学に上がる段階で聖ルチーア学園に入学する予定だったんだよ。あっちには中等部もあるそうだからね。 魅音(私服): けど、母さんと婆っちゃが血を流すくらいの大げんかを繰り広げて、大もめに揉めて……。 魅音(私服): 村長代行を務めている公由家の稔さんの仲裁で、それが中止になったそうなんだ。 魅音(私服): けど、村の頑固ジジイどもはその話をこれ幸いとばかりに復活させたいらしい。……口では詩音の将来のためだ、てな感じにさ。 レナ(私服): なんで……?どうして村の人たちは、そんなにも詩ぃちゃんを村から追い出そうとするの? あまりにも理不尽すぎる村人たちの姿勢に憤りさえ抱いて、私は魅ぃちゃんに尋ねかける。 すると彼女は、嫌悪をあらわにした表情で大きくため息をつきながら……呆れと嘲り交じりに口を開いていった。 魅音(私服): 双子の片割れは#p雛見沢#sひなみざわ#rに不幸をもたらすから、「鬼子」として赤子の時に殺す……園崎家の家訓に、そういうものがあるんだ。 魅音(私服): いや、あった……というべきかな。だって、本来なら殺されるはずだった詩音は今のところ普通に#p興宮#sおきのみや#rの学校に通っている。 魅音(私服): けど……そのせいで雛見沢に不幸が訪れる、って不安に思っている連中は結構いるんだよ。 レナ(私服): ど、どうして……?今まで雛見沢に、不幸なことなんて何も起こって……あっ……? いや……確かに起こって「いた」。4年前から続いている、#p綿流#sわたなが#rしの夜の……?! レナ(私服): ……っ……。 魅音(私服): あっ……ご、ごめんレナ。余計なことを思い出させちゃって、私……! レナ(私服): ……ううん、大丈夫だよ。レナはもう、整理ができているから。 慌てて詫びようとする魅ぃちゃんに対して、私は笑顔で首を振って返す。 確かに、少し前まで……私は『オヤシロさまの#p祟#sたた#rり』のことを思うだけで思考と感情がおかしくなることがあった。 それは、私の家庭が崩壊した原因が村を捨てた『祟り』によるものだと思い込んで……母への悲しみを隠すためだったのかもしれない。 ただ、自分でも不思議だけど……最近は『オヤシロさま』についての怖さが少しずつ、薄らいでいる気がする。 以前なら、悟史くんがいなくなった『4年目の祟り』のことを考えただけでも正気を保つことさえ難しかったのに……。 今はそれほど心をかき乱されずに、『祟り』という言葉にさえ一つの事実として受け止めていることができていた。 レナ(私服): レナは大丈夫だよ……ね?だから、話を続けてくれるかな、かな……? 魅音(私服): ……わかった。 魅音(私服): それで……迷信を信じるやつらが、一連のあれをまるで詩音が呼び込んだって陰口を叩いたりもしているんだ。 魅音(私服): あの子は、何も悪くないのに……何かをしたわけじゃないのに、勝手なことを言いやがって……! レナ(私服): 魅ぃちゃん……。 魅音(私服): 確かに、レナが引っ越してくるまでのあの子はちょっと独善的だった。一人暮らしをいいことに、結構我がままに振る舞っていたしね。 魅音(私服): でも……今は、違う。だから詩音はもっと、村の連中から評価されて受け入れられるべきだと思うんだよ。 魅音(私服): 確かに私は、園崎家の次期頭首として年寄り連中やお役所の偉いさんたちと交渉したりしているけど……。 魅音(私服): アイディア出しや、資料の取りまとめ……水面下の根回しとかでも、詩音がいないとまともに立ち回らない。 魅音(私服): あの子が頑張ってくれていることは、一番近くにいる私がよくわかっているんだ。 レナ(私服): うん……そうだね。詩ぃちゃんは本当に頑張ってくれていると、レナも思うよ。 魅音(私服): 今回のカーニバルパレードの件もね……実は興宮の学校と雛見沢の分校って、これまではあまり仲が良くなかったんだよ。 魅音(私服): まぁ分校って、ダム建設反対運動の一環としてかなり強引に立ち上げられたものだからね……。向こうの先生たちが白眼視するのも、理解できる。 魅音(私服): けど、受験対策とか林間学校の手伝いとかで興宮の学校とも交流が増えたから、これからはもっと変わっていけると思う。 魅音(私服): なのに、年寄り連中が変なことにこだわるせいで詩音をどんどんこの村に居づらくしているのが、悔しくて……申し訳なくて……っ。 レナ(私服): 魅ぃちゃん……。 魅音(私服): ……ごめん、レナ。こんな話を聞いたところでどうしようもないってわかっているんだけど、つい誰かに……っ……。 レナ(私服): ううん、レナは大丈夫だよ。魅ぃちゃんが詩ぃちゃんのことをすごく大事に考えているって、よくわかっているから。 レナ(私服): 村の人たちの、詩ぃちゃんに対する偏見……大変だけど頑張って少しずつ、なくしていこう。もちろんレナたちも手伝うから……ね? 魅音(私服): ……。ありがとう、レナ。あんたが友達でいてくれて、私……本当に良かった。 レナ(私服): あははは、それはレナもだよ。 Part 03: 詩音(カーニバル): さて……そろそろ#p雛見沢#sひなみざわ#r・#p興宮#sおきのみや#r合同の『学生カーニバル』の始まりですね……!レナさん、それに沙都子。準備はいいですか? レナ(カーニバル): あははは、もちろんっ♪ダンスの練習もいっぱいしてきたから、頑張って最後まで踊っちゃうよ~! 沙都子(カーニバル): をーっほっほっほっ!せいぜい今回のイベントを印象的にアピールして、いずれは毎年恒例の宴にしてみせましてよ~! 発破をかける詩ぃちゃんに、沙都子ちゃんは元気いっぱいの笑顔でこぶしを作って応える。 今回の参加メンバーはくじ引きの結果、私と沙都子ちゃん……そして詩ぃちゃんの3人。 そして私たちが身にまとう衣装は、菜央ちゃんと興宮の家庭科部の人たちが仕立ててくれた……まさに渾身の逸品だった。 詩音(カーニバル): いやー、それにしても派手派手の衣装ですねー。こんな姿でダンスを万一とちったりでもしたら、衆目の前で大恥を晒しちゃいますが。 レナ(カーニバル): あははは、大丈夫だと思うよ。興宮の参加メンバーの子たち、かなり遅い時間まで踊りの練習をやっていたそうだしね。 レナ(カーニバル): レナと沙都子ちゃんも、古手神社の境内を借りていっぱい練習してきたよ~! はぅっ♪ 詩音(カーニバル): はぁ……レナさんは相変わらず真面目ですねぇ。私なんてバイトが終わった後に、踊りの映像をだらーっと横になりながら見ているだけでしたのに。 詩音(カーニバル): まぁ、お姉の顔に泥を塗らない程度には頑張ってみせますよ……くっくっくっ! 詩ぃちゃんはそう言って、いつものごとくいかにも真剣味の薄い態度で飄々と振る舞ってみせる。 ……でも、私は知っていた。彼女が夜のエンジェルモートの駐車場で、ずっとステップの練習をしていたことを。 菜央(私服): 『やっぱり、詩音さんはすごいわね……!努力してるところは決して見せないけど、どんな企画でもすごく真面目に取り組んでる』 菜央(私服): 『レナちゃんも、頑張ってね!あたし、みんなのことを観客の中から最後まで応援してるから……!』 数日前、興奮気味に報告してくれた菜央ちゃんの言葉が……脳裏に蘇ってくる。 自由奔放のように振る舞っているけど、実は誰よりも気配り上手で努力家。そして、姉のことを大事に想う……妹。 そんな優しくて頑張り屋の詩ぃちゃんが、いつかこの村で報われる日が来ることを私は心から願い、そして祈りたかった……。 レナ(カーニバル): あ……そう言えば、詩ぃちゃん。今後の進路についてだけど、もう決めちゃった? 詩音(カーニバル): ? なんですか、藪から棒に。これからテンション高く派手に盛り上げていこうってのに、嫌なこと思い出させないでくださいよ。 レナ(カーニバル): あははは、ごめんねっ。だって来年に興宮の高校へ進学したら、魅ぃちゃんや一穂ちゃんたちと一緒の学校になるってことでしょ? レナ(カーニバル): だったら、来年は高校も一緒に参加してもらえばもっと賑やかに楽しくなるんじゃないかな……かな? 詩音(カーニバル): あー……確かにそうですねぇ。でも、お姉はともかく一穂さんたちは興宮の高校に進学しないんじゃないですかね。 レナ(カーニバル): はぅ……どうして?一穂ちゃんと美雪ちゃんから、進路について何か聞いたりしたのかな、かな……? 詩音(カーニバル): いえ、本人たちから聞いたわけではありませんよ。……ただおそらく、そうなると考えただけです。 そう言って詩ぃちゃんは、意味深な表情で私に笑顔を向けてくる。 あわよくば、彼女の進路について確かめることができればと思って場違いな質問をしたのだけど……わいてきた別の疑問のせいで、聞きそびれてしまう。 ひょっとすると、答えをはぐらかすつもりであえて困惑するような台詞をぶつけてきたのだろうか。……だとしたら、相当な策士だ。 菜央(私服): レナちゃん……? レナ(カーニバル): ? どうしたの、菜央ちゃん。 菜央(私服): なんだか、ちょっとぼんやりしてる感じに見えたから……体調、大丈夫? レナ(カーニバル): うん……平気だよ。それじゃ菜央ちゃん、行ってくるね~! そして間もなくしてから、『学生カーニバル』は予定通りに開催された。 目の前では詩ぃちゃんが、連日の練習の成果として華麗な踊りを観客に向けて披露している。 肌面積の多い衣装も何のそのといった、陽気で堂々とした振る舞いだ。こういう度胸とサービス精神は、本当にすごい。 レナ(カーニバル): (……レナも、頑張らないと) 先頭で踊る彼女の背中を見つめながら、私はリズムに合わせて全身の振りに力を込め……観客のみんなに向けてアピールしていった。