Part 01: 美雪(私服): さて、今晩の献立はどうしようかな~。一穂は食べたいもののリクエストとか、何かあったりする? 一穂(私服): あ、えっと……私はおいしいものだったら何でも嬉しい、かな。 菜央(私服): あのね……それじゃ、答えてないのと同じでしょ?肉か魚か、希望があったらちゃんと伝えないと。 一穂(私服): ご、ごめんなさい……。 美雪(私服): まぁまぁ、別にいいじゃん。一穂はいつも私たちの作るものだったら、何でもおいしく食べてくれるんだからさ。 一穂(私服): 美雪ちゃん……ありが、 美雪(私服): というわけで今夜は、サンドイッチとホットドッグに決定! パンが大安売りしてたから、朝食の分も含めてまとめ買いしちゃおう♪ 一穂(私服): えぇっ?あの、できれば夕食はご飯系の方が、私っ……。 菜央(私服): ……なんておかしなことを美雪が言い出すんだから、希望があったらハッキリ主張しなさい。わかった? 一穂(私服): う、うん……でも私、夕食の準備は2人に任せっきりだから献立でわがままを言うのは、その……。 美雪(私服): わがままなんかじゃないよ。食べ終わった後の片付けとか洗いものとか、一穂は一穂なりにちゃんと家事をやってくれてるんだしさ。 美雪(私服): もちろん、フランス料理を作れって言われたらまずは食材を調達してこい、って返すけどねー。あと、それができる腕利きのシェフも。 菜央(私服): あら、フレンチといっても簡単なものだったらこのスーパーで売ってる食材でもできるわよ。なんだったらいくつか作ってあげましょうか? 美雪(私服): おぅ……思わぬところに腕利きがいたよ。 一穂(私服): あ、あははは……ありがとう美雪ちゃん、菜央ちゃん。 美雪(私服): んじゃ改めて、献立は何にする?ちなみに私は、あっちで安売りしてた牛肉で何か作りたいんだけどさ。 菜央(私服): あたしは鶏肉料理の気分よ。クリームシチューなんてどうかしら? 美雪(私服): んー、見事に主張が分かれたね。それじゃ、一穂の意見も聞くとしますか。 一穂(私服): わ、私はどっちでも……。 美雪・菜央: ……一穂? 一穂(私服): ひぃっ? ご、ごめんなさい!私はえっと、その……。 …………。 美雪(私服): いやー、一穂の希望がまさかの豚肉とはね。牛と鶏、豚の三つ巴になるとは思わなかったよ。 菜央(私服): しかも、その後のじゃんけん勝負で一穂が1回目で勝っちゃうなんてね。やっぱり、ここ一番の勝負強さってやつかしら? 一穂(私服): ご、ごめんなさい……。 美雪(私服): いやいや、別に責めてるわけじゃないって。勝負は時の運、恨みっこ無しが大前提なんだしさ。 美雪(私服): まぁ私としては、2人ともかなり力が入ってたから絶対グーだ、って見抜いた気分になって自信満々にパーを出した、愚かな自分を呪いたいけど……。 菜央(私服): 恨みっこ無しどころか、未練たらたらじゃない。見苦しいわよ、美雪。 菜央(私服): それにお店の人が「豚肉の残りが半端だから」っておまけもしてもらえたんだから、逆によかったでしょ? 美雪(私服): んー、まぁラッキーには違いないけどさ。……にしても、#p雛見沢#sひなみざわ#rに来た時から思ってたんだけどこの村の牛肉って、結構高いよね。 美雪(私服): 私たちの「世界」だと、もっとお手頃だったような気がするんだけど……これって地域性ってやつ? 菜央(私服): 地域性じゃなくて、時代性ってことだと思うわ。この頃は確か、日米間の牛肉・オレンジ交渉がまだ妥結してなかったはずだもの。 一穂(私服): えっと……それって、何のこと……? 菜央(私服): 平たく言うと昭和と平成の境目辺りで、日本とアメリカの間で輸出入における関税を撤廃するといった措置が行われたのよ。 美雪(私服): あー、それニュースや新聞で見たことがあるよ。日本の自動車とかがあまりにも外国で売れすぎて、その分農作物を買えって言われたんだよね? 菜央(私服): えぇ。だから外国産の牛肉も、この頃は結構高い値段がついてたりするの。別に雛見沢だけじゃないと思うわ。 美雪(私服): ……一応納得はしたけど、そんな難しい話をなんで菜央が知ってたのかがむしろ疑問だよ。 一穂(私服): あ、あははは……あれ? 美雪(私服): どうしたの、一穂? 一穂(私服): うん。あそこの喫茶店って、この時間だともう閉まってるんだね……。 菜央(私服): このあたりって、日が暮れると真っ暗になって人通りが減るからじゃないかしら。少し歩けば、エンジェルモートもあるでしょ? 美雪(私服): 私たちの「世界」だと、夜になってもカフェとかファストフードの店とかに学生や若い人たちが結構入り浸ってるんだけどねー。 美雪(私服): そのあたりは、やっぱり住民の年齢層の違いってやつなのかな。 一穂(私服): …………。 美雪(私服): まぁ以前やってたランチはおいしかったし、お昼の時間はお客さんが入ってる様子だったから潰れたりすることはないと思う……んー……? 一穂(私服): ……美雪ちゃん? 美雪(私服): 何か聞こえる……この音は、サイレン? 菜央(私服): ……この響きは、消防車ね。どこかで火事でもあったのかしら? 美雪(私服): まぁここは#p興宮#sおきのみや#rだから、私たちの知り合いの家じゃなさそうだけどね。 一穂(私服): …………。 菜央(私服): ……一穂? 一穂(私服): あっ……ご、ごめんなさい。早く帰らないと、日が暮れちゃうよね……。 美雪(私服): …………。 Part 02: 詩音: いやー、参りましたよ。幸か不幸か軽いけが人が出た程度で済みましたが、店がほとんど丸焼けになっちゃいまして……。 一穂: じゃあ……昨日#p興宮#sおきのみや#rで起きた火事の現場って、詩音さんのところのお店だったんだね。 詩音: 正確には、園崎家の系列の店です。さすがに私はキャバクラで働いていませんから、誤解のないようにお願いします。 詩音: なのに、たまたま現場に居合わせていたせいで現場検証に来たポリ公……もといお巡りさんたちに遅い時間まで痛くもない腹を探られて……はぁ。 レナ: はぅ……大変だったんだね、詩ぃちゃん。 美雪: いやいや、そりゃ聞き込みされても当然でしょ?焼け出された従業員たちの中に未成年がいたんじゃ、警察だって無視できるわけないじゃんか。 菜央: 消火活動に加わってたのが、逆にまずかったわね。状況的にそこで働いてたと疑われても、仕方がないのかも……かも。 詩音: 本当に濡れ衣なんですよ……!うっかりバイト帰りにマンションの鍵を落として、葛西にスペアを受け取りに行っただけなんです。 詩音: 私だって未成年の立場で、お酒を扱う風俗店で働いたりはしませんって!……一応相談したことはありますけどね。 一穂: 働きたいって意思は、あったんだ……。 詩音: だって、時給が破格なんですよ?それに、おっさんたちに愛想笑いで応対しているだけで大金を稼げるなんて……素敵じゃないですか! 沙都子: 確かに……それだけを聞くと、詩音さんがエンジェルモートで働いている内容とさほど違いはありませんわねぇ。 梨花: みー……沙都子。詩ぃの話は大人な内容が抜け落ちているので、言葉通りに聞いては危険なのです。 美雪: 詩音……キミが私たちの時代に生まれてなくて、本当に良かったと心から思うよ。 一穂: ? 私たちの時代に詩音さんが生まれてると、何かまずいことでもあるの……? 菜央: ……世の中には知らなくてもいいことがあるのよ、一穂。美雪の戯言だと思って、聞き流してなさい。 一穂: う、うん……? 羽入: あぅあぅ……とりあえず詩音が疲れている事情は、今の話でよくわかったのです。 羽入: ただ、魅音までもがどうして疲れているのですか?今日は一日中、机に突っ伏して爆睡状態なのですが……。 魅音: ぐぅ……すやぁ……。 梨花: みー……今日は知恵が出張で助かったのです。いくら自習が中心だとしても、ずっと居眠りだとさすがに大目玉を食らっていたのですよ。 レナ: はぅ……お昼も少し食べ物をお腹に入れたら、そのままずっと眠っていたよね……。 詩音: えっと……実はお姉も、近くで打ち合わせがあったので一緒に車で帰ろうと誘って、店に立ち寄っていたんです。で、運悪く警官に呼び止められてしまって……。 詩音: 未成年が風俗店で働いていないことは一応納得してもらえましたが、園崎家頭首代行として報告書の作成だのと色々な対応を申しつけられて……。 美雪: おぅ……つまり、詩音のとばっちりってわけか。魅音もついてないねぇ。 詩音: それは心外です!店が火事になったのは、私のせいじゃないのに……! 詩音: そりゃ、私が葛西の車で帰ろうと誘わなかったら面倒事はもう少し減っていたかもしれませんので、その点で責任は感じていますが……。 美雪: まぁ、詩音も被害者といえば被害者なんだしね。これ以上の追求はしないでおくよ。 美雪: で……詩音? わざわざ放課後になってここに来たのは、ただ愚痴を言いに来ただけじゃないんだよね……? 詩音: ……やっぱり見抜かれていましたか。実は、その火事に遭った店に関して困った事態が起きてしまいまして。 一穂: 困った、事態……? 詩音: はい。燃えてしまった以上、新たに店舗を建て直す必要があるんですが……それまでの間、店は当然休業になります。 詩音: ですからそれまでの間、従業員たちをどこで働かせるべきかで悩んでいるんですよ。このままだと、ほぼ無給状態ですからね……。 レナ: はぅ……それならエンジェルモートとか、園崎家系列の他のお店で働いてもらうのはどうかな……かな? 詩音: もちろん、それは真っ先に考えました。ただ、どこも余剰人員がいるわけではありませんから、数人が精一杯で……。 詩音: 温泉旅館の方も最近バイトを雇ったばかりで、人手が足りているそうなんです。 沙都子: でしたら、興宮のどこかの空き店舗を一時的にお借りして、臨時の飲食店などを開いたらいかがですの? 詩音: 一応、それも考えて物件を探しています。ただ、新たに店を構えるとなると清掃や設備投資で時間がかかる上、出費も結構かさみますからね……。 詩音: 暫定的な雇用ができるとしても、店は儲けを出してこそですから……必要資金を求めるのは難しいと思います。 詩音: あと、従来のお客さんはお酒と会話を目当てに通っていたわけですから……ただの飲食店だと、別のお店に流れていくでしょう。 詩音: そういった太い顧客をもう一度呼び戻すのは、かなりの負担になるでしょうね……。 美雪: んじゃいっそのこと、臨時店舗とやらでキャバクラを……ってのは、ダメだね。風営法にもろに引っかかるし。 一穂: 風営法……? 菜央: 簡単に言うと、お酒を扱う大人のお店は許認可をもらうための期間が必要になってくるのよ。しかも飲食店より、厳しいチェックでね。 菜央: だからキャバクラのような店を開くには、思った以上に時間がかかるものらしいわ。……最低でも数ヶ月は必要じゃないかしら。 菜央: 飲食店の許可だったら、資格を持ってる人がいれば新規でも数週間程度でもらえるそうだけど。 美雪: いや、確かにその通りだけど……なんでキミが知ってるんだ、菜央? 菜央: お母さんのお友達がお店を開きたいって、相談をしに来られたことがあったのよ。その時に色々と教えてもらったわ。 菜央: 確か、カウンター越しのバーや居酒屋だとお酒を提供できる飲食店って扱いになって……隣に座ったりするのは、風営法対象になるのよ。 一穂: そっか……カウンター越しだったらお酒も出せるし、お客さんに会話を楽しんでもらえたりするかもしれないんだね。 一穂: カウンターのあるお店でいいんだったら、あの喫茶店を夜だけ使わせてもらえるといいのに……。 詩音: ……? 一穂さん、今なんて言いました? 一穂: え、えっと……興宮に、小さな喫茶店があるよね?そこって夕方になるとお店を閉めちゃうから、夜だけ貸してもらうことができたら……なんて。 詩音: っ……そ……! 魅音: それだぁぁぁぁああぁああっっ!! レナ: はぅっ……み、魅ぃちゃん?! 沙都子: いきなり大声を上げないでくださいませ……心臓が止まるかと思いましてよ。 魅音: ごめんごめん。実は少し前から起きていたんだけど……。 魅音: 一穂、ナイスアイディア!それならきっと、うまくできるよ!! 一穂: あ、あの……えっと、……? Part 03: 魅音(エンジェルモート): ……というわけで、今日が開店初日!特別にエンジェルモートが出張衣装でお客様をお出迎えなわけだけど、みんな……準備はいい? 一同: おおおぉぉおおおおぉっっ!! 魅音(エンジェルモート): うん……いい返事だ!ちなみに私たちが働くのは、日暮れ時の6時まで! 魅音(エンジェルモート): そこから先は、飲み屋の……じゃない、ガールズバーのお姉さんたちの出番だ!しっかり働いて、あとはバトンタッチでよろしくっ! レナ(エンジェルモート): あははは、任せてっ。いつでもどこでも、お客さんにおいしいお料理を楽しんでもらうよ~! はぅっ♪ 詩音(エンジェルモート): くっくっくっ……それにしても、まさにコロンブスの卵的な発想の転換ですね。 詩音(エンジェルモート): スナックと違って、女性スタッフはカウンターから一切出てこない……いわゆる、バー。これなら飲食店と言い張ることができます。 詩音(エンジェルモート): もちろんキャバクラとも違いますが、お客さんとの会話やお酒を楽しむことは可能……!それに、お触りなどの迷惑行為を断る口実になる。 詩音(エンジェルモート): 確かにこれなら、風営法にも引っかかりません。まさにいいところ取りの、逆転の発想です! 圭一(私服): いや、それはいいんだが……なんでお前らが全員、揃いも揃ってエンジェルモートのウェイトレス姿なんだ? 詩音(エンジェルモート): いくら営業外の時間とはいえ、ただ同然でこの場所をお借りするわけですからね……これくらいの売上貢献はさせてもらわないとです。 魅音(エンジェルモート): あー、でも……ごめんね、美雪。あんたの分もちゃんと用意する予定だったんだけど、急すぎて仕立てが間に合わなくてさ……。 美雪(クッキング): いやいや、気にしなくてもいいよ。……着たら着たで、キミたちの壮観すぎる光景に劣等感がわくだけだしさ……はぁ……。 圭一(私服): っていうか……一穂ちゃんの格好は、なんだ?エンジェルモートの衣装よりも過激というか、その……。 一穂(サキュバス風): あ……あんまりじっと見ないで、前原くん。私だって、その……こんな衣装になるとは思わなかったから……。 美雪(クッキング): ふっふっふっ……この前のジャンケン対決の、リベンジ成功っ! 美雪(クッキング): って……危なかったぁ。最後に残った1対1対決でもし負けてたら、この衣装を着せられてたんだ……。 菜央(エンジェルモート): ……残念ね。美雪にぜひ着せてあげたくて、腕によりをかけて仕立てたのに。 美雪(クッキング): って、やっぱり私に着せる気だったかー?!どうりで一穂の胸元がキツく見えると思ったよ、ちくしょー!! 沙都子(エンジェルモート): まぁ、今回のイベントの功労者に罰ゲームのような衣装を着ていただくのは少々心苦しくはありますが……。 沙都子(エンジェルモート): これも部活ルールなので、受け入れてくださいましね。……をーっほっほっほっ! 梨花(エンジェルモート): みー。一穂はかわいそかわいそで、とてもよく似合っているのですよ。にぱー☆ 羽入(エンジェルモート): り、梨花……同情するふりをするにしても、そこまで弾ける笑顔は哀れすぎるのですよ……。 一穂(サキュバス風): あ、……あぅぅ……っ。 美雪(クッキング): まぁ、これも仲間ならではの遠慮なさってことで。あとでちゃんとおいしい料理を作ってあげるから頑張ってね、一穂! 一穂(サキュバス風): っ、……う、うんっ……! 客1: おーい、注文していたドリンク、まだですかー? 一穂(サキュバス風): は……はいっ! ただいま参ります……! 客2: すみませーん、注文いいですか?あと、お冷やもお代わりを……。 一穂(サキュバス風): い……今、メニューと一緒にお持ちします……! 美雪(クッキング): なんか、初めて会った時よりも少しずつ……一穂も慣れてきたみたいだね。 菜央(エンジェルモート): えぇ、そうね。いい傾向だと思うわ。これからもっともっと、あの子には遠慮なく振る舞ってもらいたいわ。 客3: お姉さん、お願いしまーす。 一穂(サキュバス風): はいっ……少々、お待ちください……!