Part 01: 灯: ふーんふんふふん♪ ふーんふんふふん♪いやぁ~、赤坂くんは常に自らがどうあるべきか、どうありたいかを考え続けている……いい子だね。 灯: ……が。それ故に多くの人には好かれないだろう。彼女のような道義的なタイプは、好き嫌い以前に正誤の判定をされがちだ。 灯: 相手の道義に反していると断定されれば、感情の天秤は嫌いに傾く。 灯: 反対に、私のような身勝手に振り切った人間は道義的判断は既に目に見えているから、最初から好きか嫌いかでしか判断されない。 灯: ともすると、私のように振り切ったほうが好かれているように見えるというエラーが起きがちだ……実に皮肉だね。 灯: ねぇ、君もそう思わないかい? 声: ……因幡の白ウサギの話だが、あれは本来日本神話じゃなくて、東南アジアあたりから入ってきた言い伝えをもとにしたものらしい。 声: だから「サメ」が出てきたのは日本の風土的に辻褄が合うようにしただけで、本当はワニだったという説が今では有力視されてるんだが……知らないのか? 灯: 知っているよ。だから間違った話をしておけば、訂正しなければと使命感を抱いてその草むらからぴょこんと飛び出してくれると思ったんだが。 灯: 赤坂くんが戻ったからかな?ようやく姿を見せてくれて嬉しいよ……黒沢くん。 千雨: …………。 灯: 昭和39年に大阪で発見されたマチカネワニの化石、見たことあるかい?この国に、かつてワニがいたという証拠だ。 灯: 地方ではかつてサメをワニとも呼んでいたのはサメとワニが元々同一視されていた名残かもしれない。つまり神話の方も本来はワニである可能性はある。 灯: ……かと言って神話の方はワニだ、とも断言はできない。本当にサメである可能性は十分ある。 灯: 夕暮れ時の曖昧な時間をオオカミと犬の間とも呼ぶように、見えにくい時間で遠い海に浮かぶ姿はサメとワニのどちらか……一瞬見ただけで正確に判断するのは、難しいだろうね。 千雨: …………。 灯: 神話とは口伝で語り継がれるものだ。古今東西、語り継がれていくうちに詳細が変化するのはある種のお約束とも言える。 灯: たった一つの物語が語り継がれるうちに変化していく様子は、進化分類学めいていて面白いね。 灯: ……ん? この流れだと神話とは人間の言語を媒介とするある種の生物だ、とも言えるのかもしれないのかな? 灯: というわけで、黒沢くんは因幡の白ウサギ伝説に登場するのはサメとワニ、どっちがいい? 千雨: サメ……と言いたいが、大体その話を子どもにするとサメが悪者でウサギは可哀想って言われるからな。最初に仕掛けたのはウサギなんだが。 灯: 第三者として完璧な判断を下すことは、どう足掻いても実質不可能だと思い知らされるね。人間である以上、主観的な視線を完全に拭うことはできない。 千雨: 所詮他人の判断なんざアテにならないってことだろ。……で、なんで美雪が立ち去ってから私を呼んだ? 灯: 赤坂くんと2人で話せて楽しかった。だから、黒沢くんとも2人で話をしてみたかったんだ。 灯: 3人で話すのも楽しかったけど、1対1の会話はまた別の楽しさがあるからね。……まぁ本来は安全性を考慮して、3人で宿に戻りたかったんだが。 灯: とりあえず、黒沢くんが懸念するようなことは起きなかった。だからこうして私が呼びかけるまで姿を隠していたし、応じて顔を見せてくれたんだろう? 灯: ちょっとお喋りしていかないかい? 千雨: いいぞ、サメの話ならいくらでもしてやる。まずはそもそもサメとは何かという話だが……。 灯: うーん、その話題については夜明けまでに終わらなさそうな予感がものすっごいから、またの機会にとっておくことにしよう! 灯: ……というわけで、さっくり終わる話題を一つ。 千雨: なんだ? 灯: 赤坂くんに、グレる自由……道を外れて堕落するような権利や余裕はあったと思うかい? 千雨: ……っ……? Part 02: 灯: やぁ、赤坂くんに黒沢くん。待たせてすまないね……って、どうしたんだい2人とも。なんとも味わい深い顔をしているが。 千雨: いや……灯さんが外国の観光客相手に英語で流暢に案内してて……ちょっと驚いた。 灯: そうかい? でも、日常会話程度だよ。 美雪(私服): いや、とっさに道を聞かれて英語で返せるのは十分すごいと思いますけど……。 美雪(私服): (色々ありすぎて忘れてたけど、この人ってついこの間までアメリカにいたんだっけ。いや、それより気になるのは……) 美雪(私服): あの、全部聞き取れたわけじゃないですけど……さっきの人たちに灯さん、『guy』って言われてませんでした? 灯: ふむ、よくヒアリングできたね。きっと男と間違われたんだろうな。 美雪(私服): ……訂正しなかった、ですよね? 灯: よく間違われるけど、必要がない場合は訂正しないことも多いよ。面倒だし。 美雪(私服): (面倒だし、で誤解されたままにするんだ……) 千雨: さっきの日帰り温泉の入り口でも男と間違われて店の人に止められかけてたな……昔からそうなのか? 灯: 顕著になったのは、大学入学以降かな?忙しかったせいで胸からストンと痩せてしまってね。 千雨: あー……そういやうちの母親、うちの家系は太る時は尻から肉がつくから気をつけろって。 灯: 体型は案外遺伝が関係している部分もあるからね。家系的にかかりやすい病気なども遺伝に左右されるよ。 美雪(私服): (へぇ……じゃあ千雨や他の社宅の子に巨乳が多いのは遺伝か。そう言えば、社宅のお母さんたちの巨乳率って高いよなぁ) 美雪(私服): (はは、じゃあ私の胸が小さいのはお父さん由来の遺伝?お父さんに似ちゃったのかな? ははは……) 美雪(私服): (……お父さんの遺伝子強すぎない?!お母さん大きいのに、そっちの遺伝子は顔だけ?!) 美雪(私服): (はぁ……一穂も園崎姉妹も大きかったし、レナは着痩せするタイプっぽいしまだ成長途中の梨花ちゃんも沙都子も菜央も後々すごいことになるんだろうなぁ) 美雪(私服): (社宅でも#p雛見沢#sひなみざわ#rでも仲間外れみたいでちょっと寂しい……別にみんな気にしないだろうけど! 個人的に疎外感が半端ないッ!誰も悪くないけど悪くないからこそ感情の行き場がないッッッ!!) 灯: うちは胸から痩せる家系らしくて、姉さんも髪が短い頃はよく間違われてたそうだよ。 千雨: あぁ、なるほど……元モデルと言われりゃ納得だが。 灯: 本人は身長だけのバイトモデルだと謙遜していたけどね。雑誌に載った時は学園の寮に送ってくれてたんだ……大学卒業と同時にあっさり引退してしまったが。 灯: ……さて。温泉でサッパリしたことだし、何か甘いものでも食べに行こうか! 美雪(私服): あっ、ハイ。 美雪(私服): (灯さんが今着てるの、バイト時代の服だって言ってたっけ。下をスカートにしたら誤解されることも減りそうだけど……) 美雪(私服): (スカート、苦手なのかな?) Part 03: 川田: ……やってくれましたね、西園寺絢。自分がやったことの意味、まだわかりませんか?! 川田: あなたがやったことは、自分が宗教に全財産巻き上げられたからと別の人間を引き込んで、同じように財産を吐き出させるようなものです。 川田: 誰かに傷つけられた自分は被害者で、だから他人を傷つけても仕方ないと思っていたら大違いですよ……?! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 彼女たちを思うなら、美雪さんたちのことは追い返すべきだった……そう言いたいようですね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 確かにそうするべきだったとはわかっています。……でも、私はこの10年……とても苦しかった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: このままでは美雪さんが生き残ったとしても、彼女は私と同じ……いえ、私以上に空虚な10年を歩むことになる。 川田: だから、地獄を指し示したとでも……? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 本人に判断を委ねても、行き着く先は同じでしょう……ならば、私が彼女を地獄へ案内した罪を背負います。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: それが、わずかでも古手の血を引く者に課せられた宿命……いえ、責任のようなものです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あぁ……でもあなただけは、10年前と変わりませんね。……川田さん、でしたっけ? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 10年目にして、ようやく自分を殺した相手の名前が判明しました。……これで心残りが消えましたよ。 川田: ……へぇ、よく覚えていますね。一瞬顔を合わせただけなのに。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 自分を殺した相手のことですからね……。初恋の人並みに忘れられませんでした。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あぁ……でも。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あの時、あなたのことを大人の女性だと思いましたが、こうして自分が大人になってから見ると……その、なんです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: なんだかとても、子どもっぽい人ですね。大人なのは身体だけ、というものですか……? 川田: ……もう一度死なないとわからないみたいですね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ごめんなさい……私、懲りない女ですから。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あの#p雛見沢#sひなみざわ#rで、人を信じなかったこと……ずっと後悔していたんです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 特に礼奈さんは、何度も歩み寄ろうとしてくれていたのに……私は彼女のことを、他の村の人々と同類だと思っていました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 一穂さんや菜央さんも、そう。もっと早く信じて相談していれば、あの惨劇は防げたかもしれないのに……って。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……それなのに私は、せっかく会いに来てくれた美雪さんのこと、結構本気で疑ってしまったんです。私を騙そうとしてるんじゃないかって。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 秋武と言う人に嘘を看破されていなければ、きっと追い返していたでしょう。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……あぁ、でも。大人になるって悪いことじゃないですよ。10年前に雛見沢で、私を忌み嫌っていた人たちのことがちょっとだけ同情できるようになりましたから。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あの人たちがどうして私を嫌っていたか、いえ、そうしなければならなかったか……こうして「世界」ごと離れて、理解できましたから。 川田: ……あなた、よく喋りますね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ずっと小さな神社に閉じ込められて、話し相手もいなくて寂しかったんです。ですから……もうちょっと遊んでくれませんか? 川田: 今のあなた……ウザいですよ。初彼ができて調子に乗った、うぶな高校生みたいで。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: だったらあなたは、そういう楽しそうなグループを教室の端っこからイライラして睨みつけてたタイプですね。少し、場に合わせるってことをしてみませんか? 川田: ……ほんっと、10年間で随分いい性格になりましたね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ふふっ……少し浮かれてるのかもしれません。私、あなたにずっと聞きたかったことがあるので。 川田: あなたに聞かれて、まともに答えるとでも……? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 別に答えなくても構いませんよ。ただ……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 10年前……あなたに撃たれた後の記憶は曖昧なんですけど、もうろうとした意識の中で最後に聞こえた声が残っているんです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 甲高くて可愛い……悲鳴。……あれ、あなたのですよね? 川田: …………。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: どうしてそんな声をあげたのかは興味ありますが、それ以上に知りたいんです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: どんな顔で、あんな悲鳴をあげたんです?あの時はもう、目が見えなくなっていたのでわからなくて……だから。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 今ここでッ! 見せてくださいよ……ッ! 川田: くっそ……!ホンット、10年でいい性格になりましたね?!