Part 01: 沙都子: 『刻の図書館』……?それは『図書の都』のバックアップとして偉大なお方がつくられた場所……? 千雨(制服): この単語に、なんか聞き覚えあるか? 沙都子: ……っ、っ……! 千雨(制服): おい……? 沙都子: ぷっ……くっくっくっくっ!あーっはっはっは!  ひーっひっひっ、ひーっ! 千雨(制服): ……私は真剣に聞いてるんだぞ。なんでそこまで笑う? 沙都子: しっ、失礼……!それにしても、千雨さんはずいぶんと面白い夢を見られたんですのね。 沙都子: 『刻の図書館』? 『図書の都』?お話を聞く限り素敵な場所のように感じられましてよ。 沙都子: そんな夢に出演できたなんて、光栄ですわ~っ! 千雨(制服): いや、夢は夢なんだが……つまりは本に関係するような何かに心当たりがあるかって聞いてるんだ。 沙都子: ……。私にあるとお思いですの? 千雨(制服): ない。だから、念のためだ。 レナ: はぅ……?2人とも何の話をしてるのかな? かなっ? 沙都子: レナさん、聞いてくださいまし!千雨さんの夢に、私が登場したそうですのよ。 レナ: 夢に……沙都子ちゃんが? 沙都子: よくわかりませんが、その夢の中で私は魔法の本が山のように集まる図書館で働いていたそうですわ。 沙都子: ぷぷぷっ……ですが、この私が図書館で働くなんて高尚すぎてちゃんちゃらおかしいですわ~! 千雨(制服): 図書館で働くことが高尚なら、パン屋とかも高尚だろ。 沙都子: パンと本を同列に並べるのはさすがに違うのではと私も思いますのよ……? 千雨(制服): と言われてもな……。 レナ: 千雨ちゃんは、よく本を読むの? 千雨(制服): パンを食べるくらいの気軽さで読むというか、読まされたな。うちの母親司書だからな。 レナ: 司書って、図書館で働いている人のことだよね? 沙都子: あら、なんだか意外ですわね。美雪さんの方が物知りなイメージがありますけど。 千雨(制服): あいつは結構なんでも読むからな。他人に勧められた本もとりあえず一度は目を通してる。 千雨(制服): 読書の守備範囲は、あいつの方が広い。私は基本サメに関係する本だけだから……本で迷ったらあいつに聞いてみろ。 沙都子: 本なんて、必要最小限で十分でしてよ!夢の中まで読書なんてしたくありませんわ~! 千雨(制服): 沙都子、本が嫌いなのか?いや、意外でもないが……ますますわからないな。 レナ: えっと……千雨ちゃんは沙都子ちゃんが読書が好きじゃないって知らなかったんだよね? 千雨(制服): あぁ。沙都子が読書しているところを見たこともないし、イメージもないんだが……。 千雨(制服): だからこそ、なんで図書館の夢に沙都子だったのか、気になったんだ。 レナ: ……夢には、他に誰が出てきたの? 千雨(制服): 魅音が出てきたな。 沙都子: 魅音さん……? 沙都子: あぁ、わかりましたわ!きっと逆に読書のイメージがつかない人が夢の登場人物に選ばれたのではありませんの? レナ: はぅ……魅ぃちゃんって、結構読書している方だと思うんだけどな。 沙都子: 読書と言ってもマンガでしょう? 千雨(制服): マンガも立派な本だな。ただ、図書館にはほとんど置いてない……たまに例外はあるが。 レナ: ちょっぴり寂しいよね……。マンガも本なのに、違うって言われているみたいで。 沙都子: 確かに、マンガが除外されているのは不公平な感じがしましてよ。 千雨(制服): まぁ、頭の固い老人の言い分はともかく現場としても予算と置き場の兼ね合いで色々と難しいんだとよ。あと盗難問題な。 沙都子: むむ……単なる手抜きかと思いきや、思わぬ問題がありますのねぇ。 沙都子: でもまぁ、マンガがたくさんある図書館でしたら、私も司書として働いてあげなくもないですわ。 千雨(制服): じゃあ、魔法図書館は? 沙都子: そうですわね……。 沙都子: 魔法が使えるようになる本なら、読んでもいいかもしれませんのよ~!をーっほっほっほっ! Part 02: #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: おーい、※※。※※ってばさーっ。 沙都子(司書): えっ……? し、魅音さん? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: どうしたの、ぼーっとして。 沙都子(司書): ぼーっとって、ぼーっとして当然ですわ。夕飯の後にお風呂をいただいて、歯を磨いてお布団に入って……。 沙都子(司書): うとうとして……して? 沙都子(司書): えっ、なんですのここ?!それに魅音さん、なんでそんな格好をしていますの?! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: ……何を言っているのさ?あんただって、同じ格好をしているじゃん。 沙都子(司書): はっ?! い、いつの間に……?! 沙都子(司書): (なんですのなんなんですのこれはどう言うことですのー?!) #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: あはは、それに何?私は魅音じゃないのに魅音って、誰と間違えたのさ。 沙都子(司書): えっ……? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: といっても、完全な別人でもないけどね。それはあんたも一緒でしょ? 沙都子(司書): ……は? あの、いったい何を……? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: ……? 侵入者の影響を受けたせいで、おかしなことになっているのかな? 沙都子(司書): 侵入者……。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: いたじゃん。どうやって逃げたか知らないけど、髪が長くて目つきが悪いやつがさ。 沙都子(司書): (……まさか、千雨さんのことですの?) 沙都子(司書): (だとしたら、ここは千雨さんが話していた……魔法の図書館?!) #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: なんで変な顔をしているのさ……まぁいいや。さぁ、さっきの作業の続きを頼むよ。 沙都子(司書): さっきの作業……とはなんですの? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: 写本。 沙都子(司書): 写本……ってなんですの? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: それすらも思い出せないの?この本の内容をこっちの白紙の本に書き写すんだよ……ほらっ。 沙都子(司書): わっ?! ま、まさかこんな分厚い本をこっちの白紙の本に全部書き写すんですの?! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: それとも、増える一方の可能性の本を次々に収納、収納、また収納し続ける終わらない片付け作業の方がいい……? 沙都子(司書): そ、そんな終わりの見えない作業なんて嫌ですわっ! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r?: じゃあ、はい。がんばってー。やらないとお叱り受けるからね~。 沙都子(司書): ちょっ……! 沙都子(司書): ほ、本当にやりますの……? 沙都子(司書): ううぅ、書いても書いても終わらない……。 沙都子(司書): (こんなの印刷すればいいだけの話ではありませんの?なんでわざわざ手書きで写させられているんですの?) 沙都子(司書): そもそも、なんなんですのこの文字は。読めるのに全然意味が頭に入ってきませんわ……! 沙都子(司書): 全然知らない国の全然わからない文字を、ひたすら書き写させられているようでしてよ……! 沙都子(司書): ああ、書いても書いても終わらない……!夢の中なのに、手が痛くなってきましたわ……! 沙都子(司書): ……って、夢の中? 沙都子(司書): (そう、そうですわ。よく考えれば、ここは私の夢の中……) 沙都子(司書): (なのに、なんでこんなよくわからない作業を言われるがままやっているんですの?) 沙都子(司書): そうですわ……さっき現れた方もまるきり魅音さんと同じ声と姿をしていましたが、魅音さんではないというよくわからない自己紹介をしていましたし……。 沙都子(司書): なんで私、夢の中でこんな苦行しなくてはいけませんの? 沙都子(司書): やめやめ! やめですわっ……はっ?! 沙都子(司書): (……物音がしない。さっきの方は近くにいないということですの?) 沙都子(司書): よかった……今の声が聞かれていたらお仕置きされていたかもしれませんわ。 沙都子(司書): いえ、そもそも……夢の中でお仕置きって、誰にお仕置きされますの? 沙都子(司書): …………。 沙都子(司書): まぁいいですわ! 沙都子(司書): (千雨さんの言う通りなら、ここは魔法図書館。きっと読めば、魔法が使える呪文が書かれた本がどこかにあるはず……!) 沙都子(司書): では、探検に出発ですわーっ! 沙都子(司書): ……迷いましたわ。 沙都子(司書): なんなんですの、この図書館……広すぎますわ。歩いても終わりが見えないってどういうことですの? 沙都子(司書): (夢の中だから、終わりがないんですの?だったら私が終わりがあると思えば……) 沙都子(司書): むむ、むむむむむっ……! 沙都子(司書): ……何も変わりませんわね。 沙都子(司書): はぁ……とりあえず適当に本でも開いてみますわ。どうせ読めないでしょうがパラッと……。 ……だ、ダメっ! 沙都子(司書): あら? 今、声が聞こえたような……。 沙都子(司書): えっ? な、なんですのこれ。ひ、光って風が、風がぶわぁあああって……! ――閉じてっ! 今すぐ閉じてっ! 沙都子(司書): 閉じてって、どうやって閉じればいいんですの?! 沙都子(司書): ああああっ!そうこしているうちに風と光が強くなって……! 沙都子(司書): わ、わ、わ……わぁああああああああっ?! 沙都子(司書): う、う……な、なんですの? ここはどこなんですの? ……して……これは…… ……どうして……裏切……っ。 沙都子(司書): なんですの、ここは……この重苦しくて、暗い空間は……。 ……ゆるさ……置いていくなんて……。 沙都子(司書): うっ……?! 息が、あ、ぐっ……?!く、苦しい……?! げほっ、がっ、ぐっ……?! 憎……憎……私だけ……どうして……あんなに……したのに……!!! 沙都子(司書): い、嫌……! げほっ、ごほっ……嫌、ここは嫌……! 沙都子(司書): だ……出して、出してくださいまし!私を、ここから……ゲホッ、ゴホゲホッ、ゲホゲホッ……! 沙都子(司書): 誰か、助けて……っ! Part 03: 沙都子: ……というわけで、千雨さんのおかげで大ッ変素晴らしい夢を見せていただきましたわっ! 羽入: 朝からなんだか様子がおかしいと思ったら夢見が悪かったのですね……もぐもぐ。 菜央: なんでその話を、早く言わなかったの?もうお昼ご飯の時間じゃない。 沙都子: ……夢の内容を整理するのに時間がかかりましたの。 沙都子: 慌てて飛び起きて、梨花が隣で寝ているのが見えた時は安心したせいか、滝のように汗が流れましてよ……。 梨花: みー……だから沙都子は、朝お風呂に入っていたのですね。 沙都子: 正直、まだ思い出せない部分もありますの。本を開いた後、酷く悲しい夢を見たような気がしますが、思い出せなくて……。 魅音: まぁ、夢って目が覚めたら忘れてること多いもんねー。でもつらい夢なら、思い出さなくていいんじゃない? 沙都子: よくありませんわ!全部思い出せないおかげで、朝からモヤモヤが止まりませんのよっ! 梨花: 沙都子、そんなにプリプリ怒っては消化に悪いのですよ。 沙都子: わかっていますが止まらないんですの。 レナ: 沙都子ちゃん、レナの卵焼き食べる?はい、あーん。 沙都子: あー……もぐもぐ。 レナ: はぅ~。レナの手から直接食べる沙都子ちゃん、かぁいいよぉ~! 千雨(制服): えーっと、その、なんだ……悪かった? 菜央: あんまり悪いって思ってない顔ね。 千雨(制服): そりゃ、沙都子が見る夢の内容を私がコントロールしたならともかく……なぁ? 美雪: 悪気はなくても、原因ではあるよ。魅音まで出てきたってことは確実に千雨の影響なんだし。 美雪: ということで、はい。 千雨(制服): ……悪かった。 沙都子: …………。 梨花: 沙都子? 沙都子: いえ、こうも素直に謝られると思わなかったので……なんだか怖いですわね。 千雨(制服): ……なぁ、私怒っていいか? 沙都子: り、理不尽ですわ~! 羽入: あぅあぅ、どっちが理不尽なのかわからないのです……。 菜央: 理不尽、ねぇ……。 レナ: どうしたの、菜央ちゃん。 菜央: 確かにせっかく魔法が使える世界の夢を見られたのに、ただ働かされてるだけなんて理不尽よね。 魅音: 確かに。せっかくなら好き勝手に魔法を操って大暴れする夢とかがいいよね! 沙都子: 私だって、可能ならそういう自由な夢が見たかったですわ。 沙都子: 夢の中なんだから自由に魔法を使って好き勝手遊び回ってもいいのに、なんであんな夢を見てしまったのかわかりませんわ。 沙都子: ひたすらわけのわからない本の内容を写本させられるなんて、苦行でしかありませんでしたわ。 レナ: はぅ……でも写本なんてよく知っていたね。 沙都子: えっ? レナ: 写本って、本の内容を手で書き写すことをそう言うんだよね。沙都子ちゃんはよく知っていたんだね、って。 沙都子: でもそれは、夢の中で魅音さんのようで魅音さんじゃない何かがそう言っていましたので……。 魅音: 私……写本とか知らないよ? 美雪: ……古典の授業で教わらなかった? 魅音: そういえば、聞いたことがあるような、ないような……んー? 羽入: あぅあぅ、覚えていないのですか? 魅音: いやいや、覚えているよ!ちょっとど忘れしていただけでっ! 千雨(制服): それを覚えてないって言うんじゃないのか? 梨花: みー……レナは知っていましたですか? レナ: うん。印刷機が無かった昔の時代は、手で書いた本の中身を人の手で書き写してたんだよね。 菜央: 本物の魅音さんは知らなかったのに、沙都子の夢の中の魅音さんは知ってたの? 魅音: いや、だって沙都子の夢の中に出てきた私は私じゃないし……。 羽入: あぅあぅ、なんだか話がとてもややこしくなってきたのです。 菜央: つまり写本って言葉は、沙都子が知らないとそもそも沙都子自身の夢に出てこないってことよ。 菜央: たとえそれを夢の中で口にしたのが、魅音さんだとしてもね。 沙都子: でも私、写本なんて言葉も意味も知りませんでしたわよ? 梨花: ……無意識に記憶に残っていた可能性はあるのです。子供の頃、テレビでやっていた話を覚えていたとか……。 レナ: きっとそうじゃないかな? かな? 沙都子: それは可能性としてはあるかもしれませんわね。 魅音: それにしても、せっかく魔法図書館なんて夢に満ちた場所で本の内容を書き写しさせられるとか……魔法を使うのも楽じゃないねぇ。あっはっは! 沙都子: 笑い事ではありませんわ!私、漢字の書き取りとか大嫌いでしてよ! 千雨(制服): あぁ、それはわかる。なんか書いてるうちに意識がふわーって浮いてくるよな。 梨花: それで覚えられるのですか? 千雨(制服): 全然。 美雪: か、書き取りの意味がない……! 沙都子: 宿題などでやれと言われたからやるだけで書き取りなんてやりたくありませんもの。意識だってぼんやりしてきましてよ。 羽入: でも、沙都子。勉強したら魔法を使えるようになると言われたら、どうですか? 沙都子: ……魔法って呪文を唱えるだけでぽんって使えるから魔法ではありませんの? レナ: 勉強しなくちゃ使えない魔法もあるんじゃないかな? かな? 沙都子: ということは、勉強しても魔法が使えない可能性もありますの?でしたら私、魔法を使えなくてもかまいませんわ! 美雪: おぅ、なんか頑なになっちゃった。 沙都子: 魔法図書館なんて名前で呼ばれてましたけど延々とわけのわからない本を書き写せられただけで……。 沙都子: 結局のところ、あの夢の図書館は図書館の姿をしているだけの……。 沙都子: ――ただの地獄ではありませんのっ! 千雨(制服): 夢も希望もないな。 羽入: あぅあぅ、沙都子が図書館嫌いにならないといいのですが……。 菜央: もう手遅れじゃない? 羽入: あぅあぅあぅ~っ!