Part 01: ……ゴミ山での待ち合わせ場所に到着した時、先にいるはずのレナさんはどこにも見当たらなかった。 一穂(私服): 時間……間違えちゃったのかな。それとも場所がここじゃない、とか……? 人の往来がほぼ皆無の村外れということもあって、私は不安に駆られながらキョロキョロと辺りを見回す。 奥の方にはダム建設を予定していた名残か、工事現場を示すような看板がもの悲しくてなんとなく……不気味な雰囲気だ。 目につく範囲だけでも、処分に困るような大きな粗大ゴミや廃車などがたくさん積み上げられている。……うっかり迷い込むと、出られなくなるかもしれない。 一穂(私服): レナさんは宝の山、って言ってたけどとてもそんな感じには見えないよね……。 本人の前では絶対に言えない感想を呟きながら、私は足下に注意して少しだけ中に入る。 もしかしたら、私よりも先に着いて一足早く作業を始めているのかもしれない。そう考えて、レナさんの姿を探し始めると――。 圭一(私服): ……おっ?誰かと思ったら、一穂ちゃんじゃないか。 一穂(私服): っ……ま、前原くん……? そばの物陰からひょっこり顔を出してきた「彼」の姿を見て、私は意外な思いでその屈託のない穏やかな笑みを受け止める。 彼は、前原圭一くん。最近知り合ってから何かとお世話になっている、ひとつ年下の男の子だった。 圭一(私服): 珍しいな、こんなところで会うなんて。慣れていないやつがひとりで歩き回ると、結構危ないから注意しろよ。 一穂(私服): ご、ごめんなさい……。 圭一(私服): ははっ、別に責めているんじゃないって。まぁ大方、ここで宝探しでもしようってレナに誘われて来たんだろ? 一穂(私服): う、うん……よくわかったね。 見事にここへ足を運んだ理由を当てられて、私は若干の訝しさを覚えながらまじまじと前原くんの顔を見つめる。 確かに私は、下校途中でレナさんに誘われて村外れのゴミ山にやってきた。……だけど、どうして彼がここにいるのかがわからない。 今、#p雛見沢#sひなみざわ#rの前原邸は私たちが使っているので前原くんの一家は#p興宮#sおきのみや#rに在住中だ。つまり、この村にあえてやってくる理由は特にない。 一穂(私服): (まして、こんな人気の無い村外れでいったい何をしていたのだろう……?) 彼には色々とお世話になっているので、怪しさや怪訝な思いを抱いたりはしないけど……若干の違和感を覚えずにはいられなかった。 一穂(私服): え、えっと……前原くんも、レナさんに誘われてここに来たの……? 圭一(私服): いや、違う。昔はそういうこともあったが、最近だとさっぱり声がかからなくなったなー。 圭一(私服): もっとも、今住んでいるところからだと自転車の往復だけで相当時間がかかっちまうから、レナも気軽に誘えなくなったんだろうけどさ。 一穂(私服): なら、どうして今日は……って、ごめんなさい。理由って、聞いちゃまずかった? 圭一(私服): いやいや、そんなことはねぇって。俺はちょっと、やっておくべきことがあってここに顔を出すことにしたんだよ。 一穂(私服): やっておくべき、こと……? 圭一(私服): あぁ。……ちなみに一穂ちゃんって、このゴミ山のことをレナや魅音たちからどんなふうに聞いているんだ? 一穂(私服): え、えっと……確か5年前、じゃなかったもっと前からでいいのかな……。 一穂(私服): この村を湖の底に沈めて、大きなダムを建設するっている計画があったって……。 一穂(私服): 私はそのあたりのこと、あまり詳しく聞いてなかったんだけど……何か事故とか、事件とかでもあったりしたの? 圭一(私服): ……どうして、そう思ったんだ? 一穂(私服): えっ? あの、その……えっと……。 一穂(私服): それだけ大規模な工事が中止になったんだから、よっぽどのことがあったんじゃないかって……ごめんなさい、勝手に勘ぐっちゃって。 圭一(私服): いや……悪ぃ、俺も聞き方がまずかったな。一穂ちゃんは雛見沢に縁がある人間だから、何か知っていても知らないふりをしている……。 圭一(私服): なんて可能性を考えて、つい問い詰めるように変な感じになっちまった。許してくれ。 圭一(私服): 疑心暗鬼ってのは、嫌なもんだよな。何でもかんでも否定的に捉え始めると、全てが怪しいように思えてくるっていうか……。 一穂(私服): う、うん……私は別に気にしてないから、謝る必要なんてないよ。 そんな前原くんの正直すぎる返答と態度を見て、私は後ろめたい気分さえ抱いてしまう。 ……疑ったのは、こっちも同じだ。元々私が、同年代を含めた男性とのやりとりに慣れていないせいでもあるのだろうけど……。 特に1対1だとつい反射的に身構えて、警戒心が過剰にわくのを抑えられない。 一穂(私服): あの……前原くん。よしよかったら、そのやっておくべきことが何なのか……教えてもらってもいいかな? 一穂(私服): まだレナさんも来てないし、私でも役に立つんだったら、その……手伝うよ。 圭一(私服): ははっ……ありがとうな、一穂ちゃん。 圭一(私服): ……俺はただ、止めようと思ったんだ。最悪の未来に繋がるかもしれない失敗を、他のやつにやらせたくなかったから……。 Part 02: ……「それ」を見つけたのは、レナを手伝ってゴミ山の中から大きな人形を掘り出そうとしていた時だった。 名前は確か、ケンタくん……?いや、他の名前だっただろうか。とりあえず、それはどうでもいい。 とにかく、大変だった。木材に壊れた家電、ベニヤ板……諸々が複雑に重なって、取り除いているうちに全身が汗だくになったほどだ。 ……聞けば当初は、レナがひとりだけで掘り起こす予定だったらしい。あの華奢そうな腕で、それはさすがに無理だと思う。 だから、頑張った。ここで掘り起こさなければ、思いあまった末にレナがお店の店頭にある人形を強奪しかねない……なんてのは冗談だが。 何より、レナの喜ぶ顔が見たかった。#p雛見沢#sひなみざわ#rに引っ越してきてから何かと世話を焼いてくれた彼女に、少しでも恩返しがしたかったのだ。 圭一(私服): くっそぉぉぉっ!捨てても、捨ててもまだ出てくるっ!人形はもう見えているのに……! ……ただ、取り除くためのゴミの数が多すぎた。大見得を切った以上引っ込みがつかないものの、さすがにこのままだと手に余ってしまう。 圭一(私服): 本気でやるなら……斧とか、のこぎりとかがいるかもしれねぇな……。 レナ(私服): はぅ……もういいよ、圭一くん。すごい汗……そんなに無理しなくても……! 圭一(私服): 気にするなって。レナのためにやっているだけなんだからさ。 レナ(私服): 圭一くん……。 圭一(私服): とはいえ、さすがに……休憩……。こいつは手強いぜ……! そう言って俺は、草むらになった斜面にどかっと大の字になって倒れ込む。動きを止めた途端、全身から汗が噴き出してきた。 レナ(私服): 大丈夫、圭一くん? すごい汗……。 レナ(私服): ちょっと休んでいてね。レナの家、ここからだと近いから……麦茶とか持ってくる! そう言い残すとレナはハンカチを俺に渡し、一目散に駆けていった。 足場の悪いところにもかかわらず、軽やかなステップ。……実はとんでもない身体能力の持ち主かもしれない。 圭一(私服): ……。さて、と。 レナの姿が見えなくなったのを確かめてから、俺は身体を起こして……さっき偶然見つけた「それ」がある場所へと移動した。 圭一(私服): ……あった。 それは、紙紐で縛られた新聞や週刊誌の束だ。中にはあまり上品ではない写真週刊誌があり、過去数年分のものが重ねられていた。 富竹: 『……嫌な事件だったね。腕が一本、まだ見つかってないんだろ?』 以前、富竹さんから聞いた話だと……どうやらここで、何らかの事件が起こったらしい。 もし、彼の言ったことが真実だとしたら……それに関する「モノ」がまだ残っている可能性がある。 ただ……レナも魅音も、知らないと言った。聞き出そうとしても、明確な答えどころか露骨に話題を変えられたほどだ。 だから、その理由を知りたかった。そして彼女たちが口をつぐみ、何を隠そうとしていたのかを突き止めたいと思った。 圭一(私服): 一言でも教えてくれりゃ、こんな好奇心もわいたりしなかったのにな……。 もちろん黙っていたのは、俺への気遣いなのかもしれない。少なくとも、悪意からのものではない……と思う。 そんなわけで俺は、友人たちへの背徳感を覚えて勝手に心臓が高鳴り、息苦しくてうそ寒い感覚が全身だけでなく思考を支配していたが……。 圭一(私服): ……あった。 『雛見沢ダム工事現場、作業員たちの凶行!バラバラ殺人!!』――。 巻頭のカラーページに写真が出ていたので、話題性の強い事件であったことがうかがえる。 捜査官が死体袋を運び、報道陣が一斉にフラッシュを浴びせているシーンだった。 写真は黒ずんで分かり難いが、白抜きの見出しはくっきりと読み取れた。 『雛見沢ダムで悪夢の惨劇! 報復・バラバラ殺人!』 『被害者は現場監督。日頃から粗暴な振る舞いで加害者たちを…』 『日頃の鬱積が爆発? 現場監督は見るも無惨な……』 ……やっぱり。あったのだ。 事件の詳細は、次のページから始まるようだ。俺は膨らんでいく好奇心に突き動かされながら、さらに週刊誌を開いていく。 『犯人達は被害者を滅多打ちにして惨殺し、』 『さらに鉈で遺体を6つに分割』 見出しだけでも十分わかる、それは……あまりに無惨な……事件だ。 普通、報復とか仕返しってのは殴ったり蹴ったりじゃないのか…? 斧やつるはしや、鉈で?こんなのは仕返しというレベルを逸脱している。 文字通りの惨殺、残虐殺人だ……。何人もでよってたかって。 ……斧で。……つるはしで。……「鉈」で。 レナ(私服): ――――。 圭一(私服): なっ……れ、レナっ?! Part 03: 圭一(私服): わああぁあぁあぁあぁあッ!!! レナ(私服): きゃッ! ごご、ごめんなさい……!!驚いたかな?! 驚いたかな?! レナもまた俺の声に驚き、その手にあった「鉈」をどさり……と草むらに落とした。 レナ(私服): 圭一くんね、さっきほら、斧とかがあると便利だって言ったじゃない?! レナ(私服): そ、それでねレナ、物置から鉈を持ってきたんだよ……!! レナは慌てふためきながら弁解と謝罪の言葉を続ける。 どうやら、俺は相当険しい目つきをしているらしかった。 圭一(私服): ご、ごめん……、ちょっとオーバーに驚き過ぎたかな。 レナ(私服): う、うぅん、……こ、こっちこそごめんね!……ごめんね! ……もうすぐ日が落ちてしまう。身体はくたくただし、続きを明日にしてもいいだろう。 圭一(私服): 最後の梁はその鉈じゃないと壊せそうにない。せっかく持ってきてくれたんだし。……明日借りるよ。 レナ(私服): ……うん。 圭一(私服): なにしょんぼりしてるんだよ。明日にはケンタくんが掘り出せるんだぜ?! レナ(私服): そうだよね。……あははは!早くケンタくんをお持ち帰りしたい~! 互いに、これ以上謝り合っても意味がないことは十分に分かっていた。 レナの持ってきてくれた麦茶で喉を潤すと、すっかり冷えてしまった汗を拭き、帰路についた。 脱いだ上着にくるんで隠した写真週刊誌が、今はとても後ろめたかった――。 一穂(私服): 『……くん? あの、前原くん……?』 圭一(私服): ん……? あぁ、すまねぇ一穂ちゃん。ちょっとここに来るまでに考えていたことが浮かんできて、ぼーっとしちまった。 一穂(私服): 考えていた……こと……?それって、どんな内容なの? 圭一(私服): いや……別に大したことじゃねぇから、気にしないでくれ。それと……。 一穂(私服): ……? 圭一(私服): あっちの方が、レナ好みの良さげなものが転がっている感じだったぜ。あとおそらく、あいつのお目当てはこの辺のはずだから……。 圭一(私服): ……っと。ほら、見つかったぜ。こいつを掘り起こすのが、今回のミッションになると思うんだけど……どうだ? 一穂(私服): ……そうなんだ。よく知ってるね、前原くん。そんなにたくさん、レナさんとここで一緒に宝探しをしてきたの? 圭一(私服): まぁ……な。引っ越してきた当初から、レナには何かと世話になりっぱなしだったからな。 一穂(私服): ふふっ……だったら、私たちと同じだね。 圭一(私服): あぁ。だからこそ俺は、一穂ちゃんたちに――。 レナ(私服): おーい、一穂ちゃ~ん……! レナ(私服): ごめんね一穂ちゃん、色々準備していたら遅くなっちゃった……って、圭一くん? 圭一(私服): よっ、レナ。こんな場所で一穂ちゃんを待たせるなんて、ずいぶんと罪作りなやつだな~? レナ(私服): は、はぅ……ごめんなさい。もしかしたら喉が渇いたり、汗をかいたりするかもしれないと思って……。 圭一(私服): ……麦茶、それにタオルか。確かにそれが必要になるくらいに、例の「あれ」は大物だしな。 レナ(私服): あれ……?レナがここでケンタくん人形を見つけたことって、圭一くんに話したことがあったかな……かな? 圭一(私服): ははっ、ちゃんと前に話してくれたじゃねぇか。結構大きなやつだから、ひとりで掘り起こすのはちょっと厳しいかもしれない……ってさ。 圭一(私服): だからちゃんと、約束通りに来てやったぜ。いくら一穂ちゃんが力自慢だとしても、汚れて汗をかくような仕事は男がやるべきだしな。 一穂(私服): わ、私は力自慢なんかじゃないよ……! レナ(私服): あははは……でもありがとう、圭一くん。レナが前に言ったこと、覚えてくれていて。 圭一(私服): おぅよ。……んじゃ、とっとと始めるとすっか!重いゴミは引き受けるから、レナと一穂ちゃんは片付けと足場の維持を頼むぜ! 一穂(私服): わ、わかった……! レナ(私服): はぅ~、3人で力を合わせてお持ち帰りぃ~♪楽しいな、楽しいなー☆             …………。 圭一(私服): 悪いな、レナ。……それに、一穂ちゃんも。 圭一(私服): とりあえず、一穂ちゃんがあの雑誌を見つける前に間に合って……よかったぜ。 圭一(私服): あんな思いをして、仲間を疑って……最悪の末路に行き着くのは、俺だけで十分だ。 圭一(私服): あんなことは、もう二度と……。