Prologue: 平成5年6月――。 千雨: ……なぁ、魅音。3人で集まるのをこの日にしたってのは、弔い云々の意図があってのことか? 席につき、ウェイトレスが持ってきたコーヒーが思っていたよりも熱かったので顔をしかめながら……私は来る前から抱いていた疑問をぶつける。 今日は平成5年、6月19日……10年前に#p綿流#sわたなが#rしが行われた「あの日」。 今日集まった理由が理由だけに日時を設定した魅音に他意があるのでは、と勘ぐってしまうのは当然のことだろう。 ……が、当の本人は苦笑しながら肩をすくめると、「違うよ」と言わんばかりに軽く首を振ってみせた。 魅音(25歳): この日になったのは、本当にたまたまだよ。夏美ちゃんと都合をつけて会合を開けるのが、ここくらいしかなかったからね。 そう言って魅音は、隣に座る女性に視線を送る。大人しげで、なんとなく良家のお嬢様然なその人はそれに応えるように無言で微笑みを返した。 千雨: (……容貌のせいか、実際の年齢がわかりづらいな。これで魅音より年上だなんて、信じられん) 彼女は、旧姓公由夏美。#p雛見沢#sひなみざわ#r御三家のひとつ公由家の分家筋に当たる人で、現在は結婚して「藤堂」姓になっているのだという。 千雨: (そういえば、一穂も実際の年齢よりなんとなく幼い感じだったような気が……。やっぱり親戚だと、似てきたりするのか?) なんてくだらないことを考えていると、ふいに顔を戻してきた夏美さんと視線が交差する。 見つめられて少し気まずさを覚えたが……慌てて顔を背けるのも失礼だと思った私は、とっさに思いついたことを話していった。 千雨: ……忙しいとは聞いてましたが、やっぱりまだ、夏美さんのところの部署は落ち着かない感じですか? 夏美: うん。『眠り病』の勢いは一頃と比べて、なんとか収束の気配を見せつつある感じだけど……入院患者さんたちの容態は、依然変わらないから。 夏美: 現状の報告と今後の指針についての資料を早く出すように、と上からはせっつかれて省内の職員は泊まり込みの毎日だよ。 そう愛想よく応える夏美さんの頬を見て、やや化粧が厚ぼったくなっていることに気がつく。 彼女は厚生省の職員で、現在巷を騒がせている謎の伝染病……『眠り病』の対策チームの一員だ。 千雨: (きっと、連日連夜の対応やら会議やらで疲労が顔に出てるから、それを隠すために化粧が濃くなってるんだろうな……) マスコミ連中は何かにつけて官僚の批判をするが、緊急の時に彼らほど働いてくれる人たちはいない。……その激務を思うと、本当に頭が下がる思いだ。 魅音(25歳): まぁ、そんなわけだから……時間も惜しいし、さっさと始めることにしよう。 魅音(25歳): で、今日は千雨の方から私たちに報告があるそうだけど……雛見沢のことで、何か新しい情報でも掴んだの? 千雨: あぁ。ただ、その前に……初歩的な質問で悪いが、2人に一応尋ねておきたいことがあるんだ。 魅音(25歳): 初歩的な質問……?私たちで答えられる範囲のことだったら別に何を聞いてくれてもいいけど、なに? 千雨: ……魅音、夏美さん。結局のところ、『綿流し』ってのはいったい何だったんだ? その質問に対して魅音と夏美さんは、きょとん、と目を丸くして小首をかしげてみせる。 尋ね方がさすがに抽象的すぎたか……そう反省した私はこほんと咳払いをひとつしてから、改めて言葉を繋いでいった。 千雨: 『綿流し』は、雛見沢伝統の村祭りで……曰く、願い事や1年の汚れを小さな綿に込めて川に流す……憑き落としの供養祭。 千雨: また曰く、鬼の血を引く鬼ヶ淵村の人々が村の戒律を破った不心得者の腹を割いて#p臓物#sはらわた#rを引きずり出す、見せしめの儀式……。 千雨: 調べれば調べるほど、異説などを含めて色々な記録が発見された。……とはいえ、その分内容についての真偽が入り乱れてしまっててな。 千雨: マスコミ受けとか、オカルトマニアが喜びそうな内容が際立つというか、目立っちまって……逆に真相が、遠くなってきたような気もする。 千雨: だからここで、『綿流し』というものが現地の人々にとってどういう認識だったのか……改めてしっかりと把握しておきたいんだ。 魅音(25歳): なるほどね。でも……うーん……。 魅音は腕を組み、天を仰ぐ。そして大きくため息をついてから、私に顔を戻していった。 魅音(25歳): こう言っちゃなんだけど、実際のところ『綿流し』のお祭りってのは『オヤシロさまの#p祟#sたた#rり』が起きる前……。 魅音(25歳): もっと厳密に言うと、雛見沢ダム建設の反対運動が起こる前までは大した規模のものじゃなかったんだよ。 千雨: そうなのか。格式と伝統を持った、かなり昔から続いてきた歴史ある村祭りと思ってたんだがな。 魅音(25歳): 外向けとしては、確かにそうだったね。まぁ集客目的もあったから、あの当時は結構吹きまくっていたんだよ。 千雨: ……ちなみに、規模が大きくなるまではどんな感じだったんだ? 魅音(25歳): 年寄り連中が村の集会所に集まって、酒を飲みながら夜を明かす程度だね。せいぜい懇親会って言ったほうが近いかな。 魅音(25歳): 奉納演舞も……やっていた、かな?内輪だけの儀式ではあったかもしれないけど、少なくとも私は聞いた記憶がないんだよ。 夏美: 『綿流し』にみんなの関心が向き始めたのは、昭和54年……雛見沢ダム建設現場の工事責任者が作業員とのトラブルで惨殺されてから、だね。 夏美: そして翌年の昭和55年、ダム建設賛成派のリーダー格の北条家夫妻が転落事故で命を落とした。 夏美: さらにその次の年、中立派だった神主夫妻が死んだことで村の守り神様に対する信奉心と畏怖心は、急激に高まって……。 夏美: 奉納演舞まで含めた村祭りになったのは、その翌年の昭和57年から……だったと思うよ。だよね、魅音ちゃん? 魅音(25歳): ……たぶん、ね。とはいえ、情けない話だけどこのあたりについては複数の「世界」の記憶が入り交じっているからさ……。 魅音(25歳): 私自身、間違いなくこうだ、って断言できる情報じゃなかったりするんだよ。……ごめん。 千雨: あぁ、わかってるさ。2人が把握してる部分を聞きたかっただけだから、気にしないでくれ。 千雨: にしても、雛見沢の人たちはダム建設の反対運動を起こすために、『オヤシロさま』信仰を錦の御旗に仕立てたって話と聞いてたが……。 千雨: 村の結束を高める目的で用いてた言い伝えの存在が、途中から村に住まう人々にとって心の拠り所ではなく脅威に変わっちまったってわけか……皮肉だな。 魅音(25歳): 笑えない話だねぇ……マッチポンプでやんやと盛り上がっているうちに、火が燃え広がって自分たちを焼き尽くすなんてさ。 千雨: まぁ、それもオカルト的なものが存在するっていうにわかには信じがたい前提があってのことだがな。……で、2人に質問だが。 そう区切ってから私は、魅音と夏美さんを見据えながらさらに尋ねていった。 千雨: 村人たちに綱紀粛正の象徴として崇められていた、村の守り神様……いや#p禍神#sまがつかみ#r(まがつかみ)様か。 千雨: その祟りみたいなことを、いくら幼かったとはいえ村に住んでたやつが意識しない、恐れを抱かない……。 千雨: ってのは、あり得ると思うか? 夏美: それは……誰のことを指しているの? これまでの経緯をまだ把握していない夏美さんが、それを聞いて怪訝そうに眉をひそめている。 ただ対照的に魅音は、すぐに私の意図を理解したのか……渋い表情で口を引き結んでいる様子が見て取れた。 千雨: あくまでたとえ話だ。魅音と夏美さんが今ポケベル端末を持ってて、そこに昔の知り合いの電話番号で着信があったとしよう。 千雨: そして、折り返し電話をかけたところ「雛見沢に来い」と謎の応答が返ってきた。……それを聞いて、素直に従うか? 魅音(25歳): いや……それはないね。イタズラ電話だって思って、さっさと忘れるよ。 夏美: うん、私も……。それに、あんなことが起きて誰もいなくなった雛見沢に足を運ぼうだなんて、現地で何が起こるかわかったものじゃないし。 千雨: ……だな。私と美雪のように、赤坂さんや私の親父の足跡を追って訪れたり……。 千雨: あるいは菜央みたいに、死ぬつもりだったりでもしない限り、あんな不気味なところに行こうとは考えもしないだろう。 魅音(25歳): っ、死ぬつもり……?菜央ちゃんは、そんな目的があって雛見沢をひとりで訪れたっての?! 千雨: 美雪から伝え聞いた話だ。もっとも、その後は翻意してくれたようだが。 千雨: とにかく……『祟り』ってものを強く意識してたら、雛見沢を訪れることなんて絶対にないはずなんだ。少なくとも出身者はな。 夏美: ……っ……。 千雨: ……だけど、それでもたったひとりで雛見沢を訪れた「やつ」がいた。 千雨: さっきも言ったように、明らかにイタズラか何かだとしか思えない手がかりを元に……だ。 魅音(25歳): っ……千雨?まさか、あんたはまた一穂を疑って……?! 魅音と、ようやく話が飲み込めた夏美さんがほぼ同時に息をのんで私を見つめ返す。 が……そんな2人に、私は首を左右に振りながら続けていった。 千雨: いや、そうじゃない。もう私は、あいつを犯人だと疑ってないし……そんな大それたことができるとも思ってない。 千雨: ……ただ、妙なのは確かなんだ。あいつだけ、常にどこか違和感と矛盾を抱えてた……そして……。 千雨: あいつの動向を調べてるうちに、同じように違和感のある人物が他にもいるって……気づいたんだ。 魅音(25歳): 他にもいるって……誰のこと? 千雨: ……夏美さんは、もしかしたら知らないかもな。ただ、魅音は確実に知ってる……「あの人」だよ。 そう言って私は「ある人」についての資料を鞄から取り出し、2人の前に差し出した……。 Part 01: ……昭和58年、6月。 #p綿流#sわたなが#rしを明日に控えた夜……私は美雪ちゃんと菜央ちゃんにお願いして、夕食後に時間をつくってもらった。 そして、私自身がこれまでに経験したこと……見たり聞いたりした内容、出会った人たちの話を思いつく限り打ち明けることにした――。 美雪(私服): んー……なるほど。サバゲーをしてたら、その古手絢花さんという人に危うく殺されかけて……。 美雪(私服): 再び目が覚めたら、ファンタジー世界……?みたいなところに飛ばされて、そこで旅するレナや魅音と出会った……と。 菜央(私服): レナちゃんが、まるでアラビアンナイトの踊り子のような格好をしてた……っ? 菜央(私服): ほわぁ、見てみたかったわぁ……♪なんで写真を撮ってきてくれなかったのよ、一穂? 一穂(私服): ご……ごめんなさい!そんな余裕、全然なかったから……! 菜央(私服): くす……冗談だってば。そもそも、そんなファンタジー世界にカメラがあるとはとても思えないわ。 そう言って菜央ちゃんは、くすくすとおかしそうに笑ってみせる。 ……こういう時、普段の菜央ちゃんだったらあまり冗談を言ったりはしない。 それをあえて和ませようとしてくれたのは、私がそれだけ緊張していたからだろう……。 菜央(私服): それにしてもまぁ、魔王だの部族だのって……本当に幻想というか、もはや夢想の出来事にしか聞こえないわね。 菜央(私服): なのに、「世界」の名前だけは#p雛見沢#sひなみざわ#r……これって、どういうことなのかしら? 美雪(私服): んー……その「世界」の魅音も言ってたし、私たちも以前似たような話をしたような気がするんだけど……。 美雪(私服): いわゆる、平行世界……時系列のどこかの時点で「可能性」によって生まれた分岐が生まれて、両立して……。 美雪(私服): 異なる概念や理論が常識として共有される「ここではない世界」が形成された、って考えた方が良さそうだね。 一穂(私服): っ……そんなことが、本当にあり得るの? 美雪(私服): 超常の現象については、私たちの常識だけで推し量れないものがあるからね。可能性としてはゼロじゃないと思うよ。 美雪(私服): ……っていうか、実際に見てきたはずの一穂がそれを言う?キミこそ信憑性を証明すべきでしょうに。 一穂(私服): ご、ごめんなさい……。 美雪(私服): いやいや、謝らなくてもいいって。あまりにも非現実的な体験だと、かえって夢か現実かの区別がつけづらくなるしねー。 菜央(私服): ……そういう意味では、まさにあたしたちの今置かれた立場がそうね。 菜央(私服): 10年前の雛見沢に来て、会いたくても会えなかった人と会えるなんて……夢だったらもう、絶対に覚めてほしくないわ。 美雪(私服): んー……それは私も同感。ここを訪れて私も、奇跡ってものを本気で信じたくなったからねー。 一穂(私服): 菜央ちゃん、美雪ちゃん……。 2人の真意がくみ取れる分、……心が痛い。彼女たちにとってここを訪問したことは本当に幸せだったのか、それとも……。 他人でしかない私にはその判断をつけることなどおこがましくて、到底できなかった。 美雪(私服): とりあえず、話をまとめると……一穂はこれまで、いろんな秩序と常識によって構成された雛見沢を渡り歩いて――。 美雪(私服): そこで起きた出来事を目にして、さらには異なる姿と記憶を持った私たちと出会ってきた……そういうことだね。 一穂(私服): う、うん……信じられる内容じゃないと自分でもわかるし、まして理解してもらおうってのは、その……。 菜央(私服): まぁ、信じるほうが難しい内容なのは確かだし、悪い夢か妄想だって切って捨ててしまうほうがずっと楽でしょうけど……。 菜央(私服): あんたは、あたしたちを信じて語ってくれた。……だからあたしは、今の話を信じるわ。 一穂(私服): ……っ……? 美雪(私服): もちろん、私もね。でなきゃこんなこじつけみたいなSF設定で、自分を納得させたりなんかしないよー。 一穂(私服): 美雪ちゃん……菜央ちゃん……っ! 私に向かってにっこりと笑いながら、美雪ちゃんと菜央ちゃんは頷いてくれる。 それだけでも私は、涙が出るほどに嬉しく……そして心強い思いだった。 一穂(私服): あ……ありがとう。私のことを、信じてくれて……! 美雪(私服): あはは。まぁ、これがとんでもない大嘘かホラ話だったら、あとで魅音たちも交えて罰ゲーム! ってところだけどね。 美雪(私服): ただ、全ては一穂の勘違いでしたー、って結末になったとしても、それはそれで笑い話ですませるんだから別にいいんだよ。でも……。 菜央(私服): 本当に何かが起こるんだったら、今動いておかないと確実に後悔する。……無視なんかしてられないわ。 一穂(私服): っ……そうだね……もし何かを変えられるのだったら、変えるための努力をしなきゃ……! 菜央(私服): それで……一穂。綿流しの夜にはいったい何が起きるの? 一穂(私服): っ……ごめんなさい、わからない。前の年と同じように誰かが殺されたり、いなくなったり……。 一穂(私服): 他は村の人たちが急におかしくなって殺し合ったり、あるいは『ツクヤミ』――。 一穂(私服): 2人も知ってる怪物がたくさん祭り会場に現れて、参加してる人たちを襲ったりってのもあった。 一穂(私服): あとは……ファンタジー世界で魔王軍が襲撃をかけてきたってのもあったけど、こっちは特に気にしなくていい……と思うよ。 美雪(私服): んー……注意はしなくても、意識はしておこう。なぜなら起きる確率は全くのゼロじゃない……ってやつか。つくづく面倒な話だねぇ。 美雪ちゃんはため息をつきつつも、にやり……と不敵な笑みを浮かべて腕を撫す。 続いて菜央ちゃんもまた肩をすくめつつ、意を決したように顔を上げていった。 菜央(私服): いいわ。元々あたしたちがここを訪れたのは、10年前に何があったのかを突き止めることが主目的だったんだもの。 菜央(私服): その原点に返って、しっかり調べ上げましょう。 美雪(私服): だねー。そして何か情報を手に入れた時は必ず、一穂に託すのを最優先として動くことにしよっか。 一穂(私服): えっ……わ、私に情報を……なんで? 美雪(私服): そりゃ、決まってるじゃんか。だってキミは、その『スクセノタマワリ』……?って水晶玉を持ってるんだよね? 美雪(私服): それを使うことで、一穂は渡り歩いてきた「世界」の記憶を継承することができる……。 菜央(私服): だったら、あたしたちの行動も決して無駄には終わらない。……そういうことだったら、任せて。 一穂(私服): うん。……お願い、します。 頼もしく笑みを浮かべる2人の様子に、深々と頭を下げて感謝する。 ただ……肝心なことが、また言えなかった。綿流しを迎えた後は雛見沢の人たちだけじゃなく、おそらくは美雪ちゃんと菜央ちゃんも……。 一穂(私服): (2人だけでも、元の世界に返してあげたい……そのためには……) そのためには自分に、何ができるのか。自室に戻って布団に入ってからもずっと、私は寝付く直前まで考え込んでいた……。 Part 02: ……そして、#p綿流#sわたなが#rしの夜。古手神社は大賑わいの様相を見せていた。 色とりどりの提灯が並んで、連なる屋台や大勢の人でごった返す雰囲気が、とても楽しげに見える。 美雪(私服): おぅ、すごい人の数だねー!#p雛見沢#sひなみざわ#rに住んでる人って、こんなにもたくさんだったの……? レナ(私服): あははは!たぶん、雛見沢全体の半分くらいは来ていると思うよ。 魅音(私服): それ以外にも近隣の町会、子ども会にも案内を送って、人集めをしたからねー。これくらいは序の口だよ。 美雪(私服): 確かに……子どもの姿がたくさん目につくね。分校の3倍……いや、もっと? 魅音(私服): あっはっはっはっ!お祭りのにぎやかさは、やっぱり子どもがたくさん押しかけてこそだからだよ……ん? 圭一(私服): おぅ、魅音! それに他のみんなも!今日は目一杯楽しもうぜー! 一穂(私服): 前原くんも来てたんだね……!#p興宮#sおきのみや#rからは、ひとりで? 詩音(私服): はろろーん、こんばんは。ちょうど途中で見つけたので、私の車に乗せてあげました~♪ 魅音(私服): って、詩音も来たのか……。こういうお祭りは苦手だったはずなのに、どういう風の吹き回し? 詩音(私服): まぁまぁ、そこは深く突っ込まないで。せっかくなんですから、楽しくやりましょう。 レナ(私服): ……あ、おばさん!どうもこんばんは~! おばさん: あぁらレナちゃん。この間はお惣菜をありがとうね!うちの子もおいしいって喜んでたわ。 レナ(私服): あ、いえいえ☆気に入ってもらえてうれしいです。和正くんにもよろしくお伝えくださいね! 屋台親父: よぉ!園崎のお嬢ちゃんじゃねぇの!今年も屋台担いで来てやったぜぇ!! 魅音(私服): おっちゃん、太ったぁ?!今からそんなお腹じゃ果ては心筋梗塞だね! 屋台親父: ん? この子たちは初めて見る顔だなぁ。嬢ちゃんの後輩かい?! 魅音(私服): うちの部員だよ。期待のニューフェイス!侮ると一晩で屋台潰されるよ! 屋台親父: 嬢ちゃんのお墨付きかい!そりゃーお手柔らかに頼むぜ~!! 一穂(私服): 魅音さんって、ここに出てる屋台の人たちと顔なじみなんだね……。 レナ(私服): 魅ぃちゃんは元気いいからね。おじさんたちにすごく人気あるの。 魅音(私服): この人たちは、今日のお祭りのために遠くからわざわざ来てもらっているんだよ。 魅音(私服): やっぱりこういうのがないと盛り上がらないからね~!! 菜央(私服): で……そこで例によって部活なのよね?あんまり迷惑かけないようにしないと、来年から来てもらえなくなるわよ。 レナ(私服): あははは、大丈夫だよ。屋台の人たちはみんな、子どもが楽しんでいるのを喜んで見守ってくれているから。 レナ(私服): 菜央ちゃんも、今日はレナと一緒にいっぱい楽しもうね……? 菜央(私服): ほわっ……も、もちろん!今夜は忘れられない夜にさせてもらうわ! 沙都子(私服): ……言葉だけを聞くと、とんでもなくいやらしい感じに聞こえましてよ。さて、梨花は……あら? 梨花(巫女服): みー。お待たせなのですよ。 レナ(私服): わぁ~あ☆梨花ちゃん……か、かかかかかかぁいい…~♪!! 梨花(巫女服): こんばんはですよ、みんな。圭一も一穂たちも、こんばんはなのです。 魅音(私服): いいね、いいねぇ!今年も良い感じだよ~! レナ(私服): か、かぁいいかぁいい……!お持ち帰り~!! 美雪(私服): 梨花ちゃんの服装は、本格派だねー!もしかして、本物の巫女さん仕様……? 魅音(私服): うちの婆っちゃのお手製。なかなかのもんでしょ。 レナ(私服): 梨花ちゃんはお祭りの最後に大切なお仕事があるから、その衣装なの。 詩音(私服): 梨花ちゃまは、祭りの神事で大トリを務めることになっていますからねー。奉納演舞はなかなかの見物ですよ。 梨花(巫女服): これからボクは、演舞の打ち合わせなのです。終わったら戻ってきますので、先にみんなで楽しんでいてほしいのですよ。にぱ~☆ 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!梨花のお気遣い、しかと受け取りましたわ。では皆さん、参りましてよー! 圭一(私服): おっしゃあぁああッ!!んじゃ行こうぜ、みんな! そんな感じに私たちは部活の出張版、魅音さん命名の『十凶爆闘』なるもので特別ゲームを楽しむことになった。 魅音(私服): では、たこ焼き早食い勝負~ッ!各自購入の上、よーいどんッ!! 圭一(私服): おぉ、屋台の定番のたこ焼きッ!タコなど名ばかりの小麦粉玉というエセっぷりがいかにもだ!! 圭一(私服): あッ熱ッアツがツがぁあぁあぁああッ!!! レナ(私服): け、圭一くん、大丈夫?!お水お水! 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!そんなアツアツたこ焼き、丸呑みなんて自殺行為でしてよ~! 魅音(私服): 作り置きの冷めたヤツを購入するのがコツかなぁ。 菜央(私服): ……そんなの食べても、おいしくないと思うんだけど。 詩音(私服): そういう菜央さんは、ゆっくり味わっている感じですねー。でも、それだとビリになりますよ? 菜央(私服): 大丈夫よ。ビリ確定の子が、あっちにいるから。 美雪(私服): んー、おいし~!やっぱりたこ焼きはあつあつ、ほくほくが一番だよね~♪ 詩音(私服): ……早食い対決だってこと、忘れていますね。 魅音(私服): 続いての種目は、かき氷!ちょっと季節が早いかもしれないけど、熱く燃え上がる私たちには関係ない! 圭一(私服): よっしゃぁ! 次も完食早食い勝負だッ!!レディ、…ゴーッ!! レナ(私服): か、かき氷の早食いなんて……む……むり~……!! 沙都子(私服): こうなったら、体温で少しでも溶かしてしまえば少しは……! 沙都子(私服): つッ?!冷たいですのぉおぉおお!! 魅音(私服): 甘いね!おじさんはシロップ大盛で頼んだのさ!!混ぜればすぐに溶ける!! 圭一(私服): 遅過ぎるぜのろまども!!正攻法の時点でお前らの負けだぁあぁあああぁあ!!! 圭一(私服): ぷはぁあぁあぁッ!!完食だぁああぁああッ!!! 魅音(私服): け、圭ちゃんがぁ?!は、早過ぎる…ッ!! レナ(私服): ま、……まさか圭一くん……後ろの……金魚すくいのお水を入れたんじゃ……! 菜央(私服): ……知らないわよ。明日になってお腹痛くなっても。 魅音(私服): 続いての競技はこれまた定番!綿あめだッ!! 沙都子(私服): 次はこちらにしませんこと?!もちろん早食いですわっぁああぁあ!!! レナ(私服): ね、ねぇねぇ…綿アメの早食いなんて…どうやるんだろ?どうやるんだろ?! 沙都子(私服): よーいドンッ!! 菜央(私服): ほわっ……? 沙都子と前原さん、魅音さんが手の平でばしばし叩いて、一瞬で綿アメを潰しちゃった……?! 魅音(私服): 沙都子はともかく、圭ちゃんも気づいていたとはね……!! 圭一(私服): へへっ……俺をいつまでもよそ者扱いしないことだぜぇえぇええぇ?! 菜央(私服): ……もう、わけがわからないわ。 レナ(私服): こんな綿アメの食べ方。きっと日本中でもここだけだよ……。 たぶん、菜央ちゃんやレナさんに食べてもらえた綿あめが一番幸せだと思う……。 沙都子(私服): 悪食勝負では、魅音さんにはかないませんわねぇ……。 圭一(私服): あぁ、まったくだ。……にしても一穂ちゃん、今日は調子悪そうだな。 一穂(私服): あ……う、うん。ちょっと夕飯を、先に食べちゃったから……。 そうごまかしつつも、本来得意であるはずの早食い対決に専念することができなくて……思ったような成績を上げることができない。 その不調の様子を心配されたり、ハッパをかけられたりしながら次の競技は何か、と視線を動かしたその時……。 本殿のある方向からやってきたのは梨花ちゃんだった。 梨花(巫女服): みー。みんな、お待たせしてごめんなさいなのですよ。 魅音(私服): 大丈夫大丈夫、まだ始めたばかりだからさ!一穂も巻き返すチャンスは十分あるんだから、まだ勝負を諦めるのは早いよ! 一穂(私服): う、うん……頑張る、よ。 魅音さんの励ましに、私はなんとか笑顔を返す。 すると、そんな様子を見た梨花ちゃんがこちらへと歩み寄り、ささやくように小声で告げていった。 梨花(巫女服): 一穂……あなたも気づいているのね。この綿流しの夜に何かが起きるかもしれない、いえその可能性が大だってことを……。 一穂(私服): ……っ……?! その言葉を聞いて、はっと息をのむ。こうして注意を促してくるということは、つまり彼女も……? 一穂(私服): 梨花ちゃん……あなたが別の「世界」の記憶を持ってるってことは、この「世界」にはもしかすると『カムノミコトノリ』が……?! 梨花(巫女服): ……なるほど。私が記憶を継承できているのは、その宝珠があってのことだったのね。 梨花(巫女服): だったら鍵を渡すから、あんたたちは祭具殿に行って中にある『カムノミコトノリ』を確保して。 梨花(巫女服): そしてもし、できることなら……。 一穂(私服): 誰が、『カムノミコトノリ』を奪おうとしてるのか……その犯人を確かめるんだね。 説明が少なくとも、これまでの経緯もあって梨花ちゃんの意図を理解した私は頷く。 その後奉納演舞の準備をするべく立ち去ろうとする彼女から、鍵を受け取った。 一穂(私服): 美雪ちゃん、菜央ちゃん。2人にお願いがあるんだけど……。 そして美雪ちゃんと菜央ちゃんに声をかけ、会場からこっそりと抜け出すと祭具殿へと向かった。 Part 03: 圭一(私服): ……詩音、どこに行くんだよ。もうすぐ梨花ちゃんの奉納演舞が行われるのに、間に合わなくなっちまうぞ? 詩音(私服): いいから、お静かに……黙ってついてきてくれれば、わかりますから。 圭一(私服): いや、ついてこいって……境内から離れて、こんな人気のないところでいったい何をしようってんだよ? 圭一(私服): あ……そっか、どこかに高いところがあるんだな?屋根の上とか、そういう場所から見下ろそうってことなのか? 詩音(私服): はい……?なんで屋根の上になんか登らなきゃいけないんです? 圭一(私服): だって、そうじゃなかったらどうやって梨花ちゃんの演舞を見るんだよ。 詩音(私服): ……梨花ちゃまの演舞を見るだなんて、誰が言ったんです? 圭一(私服): いや、お前が……って、話がかみ合わないぞ。なぁ詩音、お前は俺を演舞がよく見える場所に案内してくれているんじゃないのか……? 詩音(私服): はい?誰もそんな約束はしていないんですが……。 圭一(私服): は……はぁぁああぁっ?じゃあ、お前はどうして俺をこんなところに呼び出したんだ……、っ? 詩音(私服): ……しー、圭ちゃん黙って。あれを見てください、ほら。 圭一(私服): あれ? あっちの茂みの向こうに何があるってんだ……って、人? 圭一(私服): あれって……もしかして富竹さんと、鷹野さん?2人とも、あの建物の前で何をしているんだ……? 詩音(私服): ……やっぱり。祭会場で富竹のおじさまの姿が見えなかったから、おそらくと読んでいましたが……ビンゴです。 圭一(私服): おい……詩音。まさか、あの2人がここにいるとわかって俺を呼んだのか? 詩音(私服): その通りです。……ちなみに言っておきますが、大人の男女の甘い逢い引きを見せようといった下世話な目的ではありませんので、そのつもりで。 圭一(私服): お……俺は何も言っていねぇだろっ?だいたい、お前は――! 詩音(私服): だから圭ちゃん、声が大きいです……! 鷹野: あらあら……そこにいるのはどなたかしら? 詩音(私服): っ……あはは、どうもこんばんはー。お月様の綺麗ないい夜ですね。 鷹野: 誰かと思ったら、詩音ちゃんに前原くんじゃない。こんばんは、本当に素敵な月夜ね。 富竹: おやおや……圭一くんも隅に置けないねぇ!こんなところで2人きりかい? 富竹: だとしたら僕たち、とんでもないお邪魔をしちゃったかもしれないな。あっはっはっ!! 詩音(私服): いえいえ、そういうのじゃないのでお気遣いなく。……それより、お二人とも何をしていたんですか? 詩音(私服): 富竹のおじさま……さっきその扉の前で、南京錠をいじっていたように見えたんですけど。 富竹: ……はは、しょうがないなぁ。僕たちが倉庫破りをしていたなんて、内緒にしていてもらいたいんだけど。 圭一(私服): な、内緒って……つまり泥棒ってことですか?! 鷹野: くすくす……それは誤解よ。泥棒ってのはものを盗む人たちのことだけど、私たちにそのつもりはないんだから。 詩音(私服): じゃあ、何のために鍵開けなんかを?ここ……立入禁止の祭具殿ですよ。 詩音(私服): 古手家と、ほんの一握りの人間しか入ることが許されていない場所に、……どうして? 圭一(私服): さ、祭具殿……?ここも、古手神社の施設のひとつなんですか? 鷹野: えぇ、そうよ。ここには村の神事などで使われる祭具が収蔵されているの。 鷹野: いえ……むしろその祭具を祀っている神殿と言ってもいいかもしれないわね。 鷹野: 梨花ちゃんが今奉納演舞で使っている祭事用の鍬も、今日までこの中にしまわれていたのよ。 鷹野: だから、詩音ちゃんが言ったように『不浄』を持ち込む古手家の人間以外の立ち入りは基本厳禁……聖域にも等しい、不可侵領域ね。 圭一(私服): そ、そんな場所に、どうして……? 鷹野: 私はね……#p雛見沢#sひなみざわ#rの昔語りや伝承を研究するのが趣味なのよ。 鷹野: そして、そんな知的好奇心をくすぐるような品々がこの中に収められている……今夜が唯一で最大のチャンスってわけなの。 詩音(私服): …………。 詩音(私服): ……嘘ですね、鷹野さん。 圭一(私服): えっ……? 詩音(私服): とりあえず、昔のことを懐かしんでしばらく茶番劇に付き合ってあげましたが……あんたがここに来たのは、そんな目的じゃない。 鷹野: ――――。 詩音(私服): というわけで、まぁ答えてくれないとはわかっていますが……念のためお聞きします。 詩音(私服): あんたにそうしろと命じたのは、誰ですか?それと富竹のおじさま、あなたは何を――。 一穂(私服): ――そこにいるのは、誰っ……? 本殿を離れた私たちが、人気のなくなった祭具殿のある場所へとたどり着いて……。 梨花ちゃんから預かった鍵を用いて、中に入ろうと建物に近づいたその時……暗がりの中に複数の人影が映って見えた。 美雪(私服): えっ……前原くんと、……詩音? 菜央(私服): 建物の前にいるのは、鷹野さんと……富竹さん? 一穂(私服): 前原くんたち……そこで何をしようとしてたの? 圭一(私服): あ、いや……これは、だな……。 詩音(私服): ……やっと来てくれましたね、一穂さん。あと少し遅かったら、私ひとりだけでも中に押し入るつもりでしたよ。 美雪(私服): いや、中に押し入るって……たぶん、キミたちが求めるようなモノは何もないよ?そこはただの倉庫だって梨花ちゃんも言ってたしさ。 鷹野: くすくす……それが事実かどうかは、自分の目で確かめないと鵜呑みにはできないわ。 鷹野: あなたたちだって、この雛見沢で噂されている『オヤシロさまの#p祟#sたた#rり』の正体……突き止めたいと思っているんでしょう? 菜央(私服): えぇ、もちろんそのつもりよ。でも、泥棒みたいな犯罪行為に手を染めるのはさすがにこっちから願い下げよ。 鷹野: ……そのあたりのラインは、価値観の相違ってことでしょうね。 鷹野: でも私は、悪いけど押し通させてもらう……自分の信念に基づいてね! そういって鷹野さんが手を挙げると、周囲に不穏な気配が。 何かと思って懐中電灯を向けて目を凝らすと、いつの間にか周囲には見覚えのない男たちが現れて、私たちを取り囲んでいた……。 富竹: た……鷹野さんっ?これはいったい、どういうことなんだい……?! 鷹野: ごめんなさいね……ジロウさん。あなたたちには『オヤシロさまの祟り』の生け贄になってもらいたいのよ。 鷹野: 本当にこの地には、『祟り』をもたらすという#p禍神#sまがつかみ#r(まがつかみ)がおわすのか……あなた方にはその身でもって、試してもらいたいの。 圭一(私服): た……鷹野さんッ……あんた、ただの看護師じゃねぇな……?! 美雪(私服): ……どうする、一穂? 一穂(私服): 今はとにかく、『カムノミコトノリ』を確保しなきゃ……!申し訳ないけど、手段は選んでられないッ! そう言って私は、持っていた『ロールカード』を振りかざす。 美雪(私服): 雑魚……って言っていいのかは微妙だけど、こっちのむさい連中は私と菜央に任せて!一穂は鷹野さんたちを、よろしくっ! 一穂(私服): う……うん! そして同じように武器を出現させた美雪ちゃんと菜央ちゃんとともに、鷹野さんの手勢たちに立ち向かっていった。 Part 04: 居並んでいた男たちとともに、なんとか私たちは鷹野さんを無力化させることに成功した。 鷹野: ぐっ……こ、こんなはずじゃ……っ? 私たちに敵わなかったことが心底意外だったように顔をゆがめて……鷹野さんはその場に倒れていく。 そして私たちは、気絶した彼女を縛り上げながら次はどうすべきかを話し合うことにした。 一穂(私服): さっきも言ったけど……『カムノミコトノリ』を回収しなきゃ。鍵を開けて、中に入ろう。えっと……。 詩音(私服): あ……私たちのことはお構いなく。ここで圭ちゃんと、誰か来ないか見張っています。……富竹のおじさまも、いいですか? 富竹: ……。あぁ、構わないよ。 詩音さんにどういう意図があってここに来たのか、その真意は表情からは読み取れなかったけど……。 それは後で聞けばいいと思い直して私は、彼女に任せて中に入ることにした。 そして2人を促し、すでに開きかけていた鍵を解錠して……祭具殿の扉を開ける。 美雪(私服): ……見事に真っ暗だね。一穂と菜央、転ばないように気をつけてよ。 菜央(私服): いらぬ心配よ、小さい子じゃないんだから。さて……と。 入ってすぐの場所は前室で、奥にはさらに厳かな装飾の扉があった。……二重の扉とは、かなりの厳重さだ。 菜央(私服): 一穂……あんたって確か、別の「世界」でこの中に入ったことがあったのよね。この扉の向こうには、いったい何があるの? 一穂(私服): た、確か……壁の方にずらりと拷問器具が並べられてて、部屋の正面の一番奥には……。 美雪(私服): まずはこの目で見てからにしよう。……じゃあ、開けるよ。 そう言って美雪ちゃんが扉を開くと、暗がりの室内が懐中電灯の明かりに照らし出されて……。 一穂(私服): ……っ……。 奥には私の記憶通り『オヤシロさま』の像。さらにはそばに祭壇らしきものがあるのがはっきりと目に映った。 美雪(私服): あれが、一穂の言ってた祭壇か……どう、上に何か置いてあったりする? 菜央(私服): ……あっ、あったわ!あの小さくて黒い水晶玉が、そうなのよね? そう言って菜央ちゃんが指さした先には、小さな水晶玉……『カムノミコトノリ』とおぼしき黒い塊が見える。 ようやく見つけることができた……そう思って私たちが駆け寄りかけた次の瞬間、甲高い音が轟きわたった。 一穂(私服): えっ……? 美雪(私服): 今のって、……まさか、銃声……? 不吉なものを覚えた私たちは足を止め、ほぼ同時に背後へと振り返る。 するとそこには、詩音さんを人質にして拳銃を彼女のこめかみに押し当てる、富竹さんの姿があった。 詩音(私服): ぐっ……?! 菜央(私服): と……富竹さんっ?いったい、何を……?! 富竹: ……お願いだ。大人しくそれを、僕に渡してくれ。 一穂(私服): それを……って、『カムノミコトノリ』を……? 彼は、それに応えることなく……ただ。 富竹: っ……すまない……。 懐中電灯で浮かび上がるその表情は、なぜか……苦しげに歪んでいるようにも見えた。 Epilogue: そして再び、平成5年6月。 千雨: 例の富竹ジロウっていう、フリーのカメラマンなんだが……警察関係者に調べてもらっても、その正体が不明なんだよ。 千雨: 企業や事務所、プロダクションなどに所属したという形跡は一切見当たらず……何かの作品を発表したとか、コンテストに出たとかという記録もない。 千雨: なぁ魅音、あの人って本当にカメラマンだったのか……? 魅音(25歳): ……一応、村へ来た当初は園崎家の人脈を使って身体検査をしたけどね。 魅音(25歳): 特に怪しいところはないって話だったよ。……ただ。 千雨: ただ……なんだ?何か怪しい点でもあったのか? 魅音(25歳): ……これは後々に判明したことなんだけど、彼の経歴や素性は人の手で改ざんされたものだった。 魅音(25歳): おそらく園崎家の内部にいた人間の誰かが金を渡されて、偽のプロフをでっち上げたんだろうね。当時は気づかなかったなんて、情けない話だよ。 夏美: その……と富竹さんって人も、#p雛見沢#sひなみざわ#r大災害で亡くなったの? 千雨: いや……死亡者リストに、富竹って人の名前は載ってなかった。 千雨: ついでに言うと偽名の可能性も考えて該当者を徹底的に調べ上げたんだが……彼らしき顔の人物はついに発見できなかった。 魅音(25歳): 1000名以上の犠牲者の顔を全部洗ったのかい?無茶するねぇ……。 千雨: しつこくて根気強いのがサメの特徴だ。で、結論だが……。 そこでいったん言葉を切り、水分を求めて私はお冷やを一気飲みする。 そして呼吸を整え、2人に告げていった。 千雨: この富竹ジロウって人……今もまだ、どこかで生きてる可能性がある。口封じだので消されてない限りはな。