Part 01: 魅音(私服): しっかし、よくもこれだけ揃えたもんだね。改めて見返すと呆れるやら感心するやらで、妙な気分になってくるよ。 詩音(私服): まぁ……100年やそこらではすまない昔から、村の裏事情で使用されてきたって話ですし。 地下室に所狭しと置かれた禍々しい器具や装置の数々を見やりながら、私は渋面の魅音に肩をすくめてみせる。 彼女が鼻白む気持ちも、わからなくはない。ここにあるのはよほどのことがない限り、本来は日の目を見ることのない代物ばかりだ。 それを、今回の企画のプロモーションとして使おうというのだから……発案しておいてなんだが、いい度胸だと思う。 詩音(私服): ただ……私から提案しておいてなんですが、よく使用許可が下りましたね。いったいどう言って説得したんですか、お姉? 魅音(私服): 包み隠さず、事実を伝えただけだよ。監獄をテーマにした飲食店を穀倉に開く予定だからその宣伝を目的にした映像に使わせて……ってさ。 詩音(私服): ……。母さんならまだしも、私の知る鬼婆なら激怒して却下するところだと思いますけど……どういった心境の変化があったんでしょうか? 魅音(私服): まぁ、私もダメもとで頼んだつもりだったから婆っちゃのOKがもらえたのは、確かに予想外でかなり驚いたよ。でも……。 魅音(私服): 私たちが考えているよりも、年寄り連中は今の#p雛見沢#sひなみざわ#rに危機感を抱いているのかもね。このままだと村がなくなる、てな感じにさ。 魅音(私服): あとは……詩音が色々と提案してくれた新しい企画が、成果を上げてきたおかげだと思う。地道な積み重ねが実を結んで、よかったじゃん。 詩音(私服): ……ウケるような斬新な企画を作ってくれたのは一穂さんたちですよ。私はぽーんっと丸投げして、それに乗っかっただけです。 魅音(私服): あっはっはっはっ、謙遜しなくてもいいって!他の部活メンバーの前でならまだしも、私にはドヤ顔をしたって怒りゃしないんだからさ。 詩音(私服): 建前で言っているんじゃありませんよ。……打つ手がことごとくうまくいきすぎて、正直私自身が驚いているくらいなんです。 実のところ、現状の成功続きは私としても想定外というのが本心からの思いだった。 新しい企画を持ち込み、今までになかった技術・知識を取り入れて村を活性化させる……その意図があって動いていたのは、間違いない。 ただ、残念ながら若輩者の私にできることは限られているので……あくまで何かが変わるきっかけにでもなれば、と考えていたのだ。 詩音(私服): (なのに……一穂さんたちが来てから、いろんなことが変わり始めた。それも徐々にではなく、加速度的に……) ……あの3人は、いったい何者なんだろう。いくら流行の発信元である首都圏の出身でも、知識の量があまりにも違いすぎる……。 魅音(私服): 詩音……? 詩音(私服): っ……あぁ、すみません。ちょっと、考え事をしていました。 詩音(私服): とりあえず、鬼婆のお墨付きもいただいたことですし……ここにある一切合切、ありがたく使わせてもらうことにしましょう。 詩音(私服): その方針で構いませんよね、お姉? 魅音(私服): あ、うん。この場所が村のどこなのか特定されないようにしてもらえたら、あとは自由にしていいってさ。 魅音(私服): けど……詩音。この際だから打ち明けちゃうと、ここの拷問器具を宣伝に使おうだなんて意見があんたから出るとは思わなかったよ。 魅音(私服): 私が言うのもなんだけど……ほんとにいいの?あんたはこの場所にいい思い出がないだろうし、それに……。 ……なるほど、魅音なりに気を遣ってくれているというわけか。その気持ちは、とりあえずありがたい。 ただ、それはそれ、これはこれだ。使えるものはなんでも最大限に利用する……それが、何事に対しても私の信条だった。 詩音(私服): えぇ、もちろん。誰かを傷つけるのじゃなく、むしろ楽しませたり笑わせたりする目的で使ったほうが、この道具たちも浮かばれますよ。 魅音(私服): モノに感情が本当に宿っているんだったらそういう扱いもありだろうけどさ……けど、あんたにしては妙にロマンチストな発言だね。 詩音(私服): 特に深い意味はありませんよ。ただ、せっかく一穂さんたちがうちの親戚のために色々と骨を折ってくださっているんですから……。 詩音(私服): こちらもそれなりに持ち出して手伝わないと、さすがに申し訳ないでしょうに。 魅音(私服): ……。それがあんたの本音だって言うなら、私もこれ以上言うつもりはないけどね。 そう言って魅音は矛を収め、奥の方にある器具のひとつに触れながら顔をしかめている。 これが最後に使われたのはいつ頃なのか……知識のない私には確かめる術もない。 ただ、少なくとも1回どころか複数回にわたり流血を伴った「使用」があった痕跡があって、非常に気味が悪い感じだ。 詩音(私服): いっそ、鬼婆が「身罷った」あとに祭具殿のと併せてここの設備一式を展示する、博物館なんかを建てるってのはどうですか? 詩音(私服): 『鬼ヶ淵村伝説、ここに』……なんて、良いアイディアだと思いますけどね。 魅音(私服): んなことできるわけないでしょ。婆っちゃが化けてくるに決まっているって。 詩音(私服): それは、……確かに。あながち冗談だと笑い飛ばせませんね。 悪霊と化した鬼婆のイメージを頭に思い浮かべてぞっ、と嫌すぎる怖気を背中に感じる。 他の有象無象の化け物や霊と違い、御三家……それも園崎家の連中のそれとなると、実に厄介だ。形として見えないから、余計に。 詩音(私服): …………。 そんな思いを抱きながら、私はなにげなく「器具」のひとつに手を触れてみる。と、その時――。 詩音(私服): っ……?! 私の脳内に、奇妙な映像が流れ込んでくる。 これは、私の記憶?いや、もっと違う「何か」が……! Part 02: …………。 空気が重く、一面に生臭さが立ち込めて暗闇が支配する中――。 「器具」に拘束された「彼」の前に歩み寄り、私は明るく弾んだ声で語りかけていった。 詩音(私服): こんばんは、公由のおじいちゃん。いえ……こんにちは、でしたっけ?まぁどちらでも構わないんですけど。 詩音(私服): ご機嫌の方は、いかがですかー?もし身体の具合に何か異常とかがありましたら、遠慮なく早めに教えてくださいねー。 喜一郎: っ、……ぐ、……ぁぁっ……。 詩音(私服): ……? もう、おじいちゃんってば。そんなふうに呻いてばかりじゃ、何も伝わってきませんよー。 詩音(私服): 相手に意思を伝えるんだったら、ちゃんと言葉にしてくれないと困ります。だって私たちは人間なんですから……ねっ? 喜一郎: ぐあああぁぁぁあぁっっ……?!や、止めてくれ……詩音ちゃん……!! 詩音(私服): ……うん、今度はよく聞こえました。というわけなので、いったん止めてあげます。 詩音(私服): それで……おじいちゃん?そろそろ、ちゃんと話してくれる気になりましたか?あと、何か思い出したことがあれば教えてください。 喜一郎: っ……だ、だから何度も言っているように、わしにはいったい、何が何だか……ッ! 詩音(私服): ……。ほんとに固くて、重い口ですね。左右に裂いて大きくしたら、もう少し滑らかに動いてくれるんでしょうか……? 喜一郎: っ? ま、ままっ、待っておくれ……!思い出す、思い出すから……せめて何のことなのか、それだけでも……ッ! 詩音(私服): まぁ……いいでしょう。私の聞きたいことくらい、おじいちゃんなら事前に察してくれると思っていたんですけど……。 詩音(私服): 知りたいことは、ひとつだけです。……悟史くんは今、どこにいますか? …………。 その後……私は次々に友人、家族たちをこの場所へと引き入れ……言葉にするのも憚られる行為も辞さず、情報を求め続けた。 確かめたかったのは、彼……悟史くんの安否。どこに行ってしまったのか。なぜ#p雛見沢#sひなみざわ#rからいなくなったのか。そして……。 詩音(私服): 悟史くんは……今、生きているんですか……? 最悪の事実が明るみになる恐怖に抗いながら、私はそれを尋ねたが……それに返されるのは「わからない」「知らない」の答えのみ。 無論、それで納得できるはずもなかったので私は激しく、執拗に……時には暴力でもって、彼らから真実をほじくり出そうとした。 ただ……そんなことを繰り返すうちに、彼らが真実を隠しているのか、あるいは噓を言っているのかも判別がつかなくなり……。 もはや何のために彼らを傷つけて拷問し、あまつさえ命を奪ってしまったのかさえわからなくなった。……考えられなくなっていた。 詩音(私服): ひひひひっ……あはははは、あーっはははははははッッッ!!! 血と肉の臭いと、えもいわれぬ快感に酔いしれて、狂って……私はひたすら、本能のままに暴走を続ける。 誰かに、止めてもらいたかった。……なのにもはや、誰の言葉も耳に入らず頭で理解することができなかった。 詩音(私服): (あれ……あれ、……あれっ……?) そして疲れと眠気が頂点に達した時、私の中でわずかに残った冷静さを保つ理性が、狂気の思考に向けて疑問を投げかけてくる。 ……いったい私は、どうすれば満足したのか。全てを否定し、存在をことごとく消せばこの怒りと憎しみを癒すことができたのか……? ……。残念ながら、答えは否だった。ここまで他者の意思を踏みにじり、命さえ奪った私にもはや救済を求める資格などない。 だから、いつか訪れるであろう弾劾の日までひたすらに暴れ、嗤い……狂い続けるしか……できることは残されていなかった。 詩音(私服): 『……ごめんなさい……』 心の奥底で、闇の中で小さな波紋をつくるその声の響きに……私は問いかける。 あなたはいったい、誰に謝っているのか。傷つけた人や、守れなかった人に対して?あるいは弱くて惨めで醜い、自分に向かって? それとも……それとも……? 魅音(私服): 詩音……? おーい、詩音ってば。 詩音(私服): っ、……え、お姉……? 魅音(私服): いったいどうしたのさ。急に黙り込んで、ぼーっとしちゃって。 魅音(私服): 何度話しかけても、全然返事しないし……どこか、具合でも悪かったりするの? 詩音(私服): いえ、そんなことはありませんよ。なんとなく、考え事をしていただけです。 魅音(私服): ……。もしかして、去年のこと?だったら、ここを使うのはやっぱり止めておいたほうが……。 詩音(私服): あんまりしつこいと怒りますよ、お姉。関係ないって、さっきも言ったじゃないですか。 詩音(私服): とりあえず、中は確認できましたからそろそろ戻りましょう。みなさん上で待っていてくれていますしね。 魅音(私服): ……うん、わかった。それじゃ、行こっ。 …………。 今の映像は……何だったんだろうか。妄想にしては、やけにリアルに感じたが……。 Part 03: 詩音(看守): はーい、富竹のおじさま。こんな感じでいかがですか~? 富竹: おっ、いいね……! そのポーズと表情、ぐっとくる感じがして魅力的だよ! 富竹: 次は同じ笑顔でも、もっと妖しい感じに流し目でこちらへ視線を送ってくれるかな?相手を見下して蔑むように、ね……! 詩音(看守): はい、お安い御用です。けど……もしかして今リクエストした表情って、富竹のおじさまの趣味だったりするんですか? 富竹: っ? い、いや……そんなことはないよ!ただ僕は、そういった感じの方が煽情的で女看守っぽいアダルトさが際立つかと思って……。 詩音(看守): くすくす……冗談ですよ、もう。そんなことより、お姉も含めてしっかりいい写真をお願いしますねー。 詩音(看守): あ、圭ちゃん。ちょっとこっちに来て、四つん這いになってください。人間椅子に見立てて、私が座ってあげます。 魅音(看守): ちょっとちょっと、詩音!いくらなんでも調子に乗りすぎでしょ!あんた、何考えているのさー? 詩音(看守): あれ……ひょっとしてお姉が、圭ちゃん椅子に座りたかったんですか?もう、だったらそう言えばいいのに~。 魅音(看守): だ、だだだだ、だぁぁれがそんなことを言ったのさー?勝手に決めつけているんじゃないよっっ! レナ(私服): はぅ……魅ぃちゃんの顔、お耳まで真っ赤になっているよ……? 菜央(私服): 内心秘かに思ってたことを、ずばりと突かれて言葉を失った感じね。 梨花(私服): みー……魅ぃにそんな願望があったなんて、ボクたちも驚きなのですよ~。 魅音(看守): あ……あんたたちいいぃぃいッッ?! 圭一(囚人): ん? なんだ、俺がお前の椅子になればいいのか?んじゃ、ちょっと失礼して……よっと。 魅音(看守): 圭ちゃんは圭ちゃんで、もっとプライドをもって行動してよぉぉぉおおぉっっ?! 美雪(私服): んー……なんかほんとに、カオスって感じ? 詩音(看守): くすくす……ほんとお姉の周りって、見ていて飽きないですよね~。 一穂(私服): ……。あの、詩音さん。 詩音(看守): ……? どうしましたか、一穂さん。なんだか神妙な顔をしておられますが、何か気になることでも? 一穂(私服): あ、ううん。たぶん私の気のせいだと思うんだけど……その……。 一穂(私服): あんまり、無理はしないでね……?詩音さんの顔って時々、笑ってるようで違う感情を隠してるようにも見えるから……。 詩音(看守): ……っ……。 一穂(私服): ご……ごめんなさいっ。私つい、変なことを言っちゃって……!今のこと、聞かなかったことにしてくれる? 詩音(看守): ……ご安心ください、一穂さん。私って昔から記憶力が弱いほうなので、覚える必要のないことはすぐに忘れますよ。 一穂(私服): っ……よ、よかった……。それじゃプロモ写真の撮影、頑張ってね。 詩音(看守): …………。 詩音(看守): 覚える必要のないことは、忘れますが……今のやりとりは覚えておくべきことなので、忘れたりはしませんよ。 詩音(看守): 公由一穂さん……私はあなたの正体に、とても興味があります。くすくす……くっくっくっ……!