Part 01: 菜央(私服): このっ……いい加減、しつこいッ! うんざりとした思いで武器をふるい、あたしは迫ってきた「それ」を渾身の力で迎え撃つ。 重い衝撃が両手に伝わると同時に、「それ」は鈍い音とともに地面へ叩きつけられ……わずかな痙攣を残した後、やがて動かなくなった。 菜央(私服): はぁ、はぁっ、……はぁっ……! 荒い息を全身ごと上下に揺らして吐き出しながら、汗でしとどになった前髪を乱暴にかき上げる。 ……慣れたというより、感覚が麻痺してきた。初めのうちは不快感と罪悪感に満ち満ちて、最悪の気分で何度も吐きそうになったけれど……。 今はもう、いったい自分が何をしているのか理解すること自体を止めて……感じる心も固く、冷たく閉ざしている。 菜央(私服): (……もう何人、いえ何十人「倒した」かしらね。おそらくまだ、100人には達してない……はず……) ただ、この調子で進めばそれもあっさりと超えてしまいそうな気がする。 どこかの寒村で起きたという猟奇殺人事件よりも凄惨で、残酷極まりない悪夢を引き起こしている人の皮をかぶった殺人鬼……。 それが、今のあたし……いや、あたし「たち」だった。 菜央(私服): もっとも、ごめんなさいって謝ったところであたしの手にかかった人たちは許すどころか、理解もできないでしょうけどね……。 血と肉を求めて誰彼と構わず襲い続け、人間としての理性と尊厳を失ったケダモノ――それが、この雛見沢で跋扈する「元村人」たちだ。 もはや、あの人たちを救う手立ては何もなく……人間に戻ることも絶望的だと思う。 そして、他の人々が彼らを見て抱く感情は慈悲や憐憫ではなく、憎悪だけ……だったら……。 菜央(私服): (あたしたちがやってることは、ある意味で彼らにとっての救済なんだろうか? いや……) 結局のところそれは、あたしが今の所業を正当化したいと思うが故の逃避、逃げ口上だろう。 あぁ、そうだ。あたしたちはもう、咎人。この血に染まった両手から罪が消えることなどなく、業はあたしの命が尽きない限り、永遠に残る。 ……でも、それでよかった。それを覚悟した上で、あたしたちはこの「世界」に舞い戻ってきたんだから……! 美雪(私服): ……菜央。 と、その時。茂みの中から姿を現した美雪……と、もうひとりの女の子が月明かりに照らされながらこちらへとやってくる。  : 彼女は、黒沢千雨。美雪が元の「世界」――平成5年において信頼を寄せていたという幼馴染で、今回の「旅」の同行者だった。 千雨: とりあえず、こっちは片づいたぞ。取り逃がしはない、とは断言できないし責任も持てないが、まぁ安心していいぞ。 菜央(私服): ありがとう。千雨さ――っとと。 慌てて「千雨さん」と言いかけた口をふさいだが、その声までは抑えきれずにこぼれ出てしまう。 案の定、そう呼ばれた彼女は腰に手を当ててため息をつき……不満そうに頭をかきながらあたしをじろり、と睨みつけていった。 千雨: いい加減、「さん」抜きの呼び方にも慣れてもらいたいところなんだがな……。そんなに無理なことを頼んでるか、私は? 菜央(私服): あははは……ごめんなさい。美雪と違って会ってまだ数日ほどだから、つい、ね。 千雨: まぁ、いいだろう。……ただし、この次もまた「さん」づけで呼んだりしたら、私もお前を「菜央ちゃん」呼びに戻すから、覚えとけよ? 菜央(私服): ちょ、ちょっとした言い間違いじゃない……!襲ってきた連中と戦った直後だったんだから、思考が鈍ってても仕方ないでしょ? 美雪(私服): まぁまぁ千雨、それくらい許してあげなよ。私だってパニックになったら、キミのことを「千雨さん」って呼ぶかもしれないんだしさ。 千雨: ……もしお前がそう呼んできたら、問答無用で攻撃する。たとえ敵に囲まれてても、真っ先に探し出して横っ面を張り飛ばすからな。 美雪(私服): ひどっ、なんなのキミはっ?私と菜央の扱いが明らかに違いすぎるように思えるのは、絶対に気のせいじゃないよね?! 千雨: 当然だろ? お前が私を「さん」づけして呼んだ場合はからかってるか、もしくは偽者だ。よって、両方ともムカつくので制裁する。 菜央(私服): ふふっ……あはは……。 気の合った漫才のようなやり取りに、さっきまでの沈鬱な気持ちが少しだけ軽くなったように思えて……つい、笑ってしまう。 最初に紹介された時は、怖い印象だった。そして、身のこなしを軽く見ただけでも相当鍛えている人なんだと理解できて……緊張した。 だけど、この人がいると……美雪の印象がこれまでとは少し変わって見える。きっとこっちの方が、美雪の素の姿だ。 親友というのは、こういう関係を言うのだろう。そんな二人が微笑ましくて、眩しく……ほんのちょっぴりだけ、羨ましかった。 ここに一穂がいれば、きっとあたしと同じような感想を抱いたような気がする。……そう、私はあの子に思いを馳せていた。 菜央(私服): (……一穂) 最初、平成から昭和58年の世界にやって来た時にはあたしと美雪と……一穂がいた。 でもあの#p綿流#sわたなが#rしの日。みんなが殺し合いを始め、あたしと美雪は命からがら平成に脱出した……一穂だけを、昭和58年に置き去りにして。 だからあたしと美雪は、千雨という新しい味方を引き連れて……もう一度この昭和58年の「世界」に戻ってきたのだ。 一穂を、平成へ引き戻すために……! 千雨: で……これからどうする?雛見沢に来て間もない私が言うのもなんだが、夜間移動はなるべく控えたほうがいいだろう。 菜央(私服): そうね……今の戦闘で少し疲れたのも確かだし、視界が悪いと捜索に不向きだわ。 千雨: できれば、身を潜める場所を見つけて朝まで休んだ方がいいと思うんだが……どこか、よさげな建物とかはないか? 美雪(私服): んー、そうだね。ここからだと前原くんの家がわりと近いし、順当な選択だと思うけど……菜央はどう? 菜央(私服): 一晩を過ごすとしたら、そこもいいかもね。ただ……。 美雪(私服): ? どうしたの菜央、他に行きたいところでも……あっ。 あたしの言いたいことをいち早く察したのか、美雪はそれ以上聞かずに口をつぐむ。 そして、ぐるりと周囲に目を向けてからおおよその現在位置を確かめると、左の奥に見える道の先を指さしていった。 美雪(私服): ……たぶん、この道を進んだほうが早いね。あとは途中で、村の人たちとなるべく遭遇しないことを祈るばかりだよ。 菜央(私服): ……ごめんね。あたしのわがままで、寄り道をさせちゃって。 美雪(私服): 気にしなくてもいいって。キミにとっては、一穂と同じくらいにすごく大事なことだって私もわかってるからさ。 千雨: ん、どうした?どこか立ち寄っておきたい場所でもあるのか? 菜央(私服): えぇ。……悪いけど、千雨も付き合ってくれる? 菜央(私服): あたしのお姉ちゃん……竜宮レナが住んでた家を、もう一度この目でちゃんと見ておきたいの。 Part 02: お姉ちゃんの家は、歩いてほどなく見つかった。 ……というより、闇夜の中でもひときわ目立っていたのだ。なぜなら――。 美雪(私服): ……明かりがついてる。誰かいるのかな? 菜央(私服): …………。 期待と不安……そして緊張をみなぎらせながら、あたしは玄関へと近づく。そして耳をすませ、扉の向こうの気配をうかがった。 菜央(私服): 何も聞こえない……。ただ、いるかどうかは中に入ってみないと断定できないわね。 美雪(私服): ……。あのさ、菜央。もし、この中にレナがいたとしたら……どうする? 菜央(私服): ……それは、あたしたちが最後に見た狂気に染まったお姉ちゃんのことかしら。それとも、正気を取り戻した状態の……? 美雪(私服): んー……前者か後者のどちらなのかは私は責任を持てないけど、……助けたいでしょ? 菜央(私服): …………。 一瞬すがりかけた甘い考えを振り払い、あたしは現実的に自分の思考を追い込んでお姉ちゃんがいる可能性を算出する。 ……結果は、両方ともほぼゼロ。なぜならここは、あの人にとって「終の棲家」にはなりえないからだ。 菜央(私服): ……お姉ちゃんが正気を取り戻してたとしたら、明かりがついてる時点でありえないわね。あの人が、そこまで無用心だとは思えない。 菜央(私服): そして、狂気に染まったままだとしても……おそらく、いえ絶対に来ない。 菜央(私服): お姉ちゃんにとって、ここは安らぎの場所でもなかったし、憎悪の対象でもなかったから……。 ただ、万が一そんな感情や思考も捨て去るほど狂気に支配されていたとすれば……わずかなりとも「期待」していいかもしれない。 菜央(私服): (もっともその場合、待ち受けてるのはさっきの連中なんかとは比較にもならないほど最強で、最悪の「敵」との死闘だけど……) そんなリスクに、美雪と千雨を巻き込むわけにはいかない。あたしたちの一番の目的は、別にあるのだから……。 美雪(私服): ……菜央? 菜央(私服): あ、ごめんなさい。……おそらくここに、レナちゃんはいないと思う。確かめる必要はないわ。 美雪(私服): ……そっか。キミがそう言うんだったら、きっとそれで正解なんだろうね。 千雨: で……どうする? 誰も中にいないんだったら、特に押し入る必要はないと思うが……ん? 美雪(私服): どうしたの、千雨? 千雨: 今……かすかだが、中から音が聞こえた。ひょっとして、何かいる……? 菜央(私服): えっ……?! 極めて冷静に理由をつけて否定した可能性が急に現実味を帯びて……胸が、高鳴る。 この家の中に……お姉ちゃんが、いるっ?もう会えないと諦めていたあの人の顔を、また見ることができるかもしれない……?! 菜央(私服): ……っ……! 喜び勇んで飛び込んでしまいそうな衝動を、あたしは必死に胸の中へと押し戻す。 さっきも言った通り、万が一お姉ちゃんがこの中にいたとしても……もし正気だったら、明かりをつけることは間違いなく「ない」。 だとしたら、狂気の状態と考えるべきだ。つまり顔を合わせた途端、あたしたちに襲いかかってくることは確実……っ! 菜央(私服): ……お姉、ちゃん……っ。 あぁ、だけど……それでも、いいか。血まみれの格闘になって、たとえ殺し合いになっても……! あの人と、もう一度話ができる……そして願わくば、ほんの少しでも救える可能性があるなら……あたしは……! 美雪(私服): ……行こう、菜央。 菜央(私服): 美雪……っ……。 美雪(私服): レナにもう一度、会いたいんだよね?どんなに姿や中身が変わっても、あの子に会いたいんだったら……会おうよ。 菜央(私服): ……。うん……! 美雪(私服): というわけだから……千雨。ちょっと面倒なことになるかもしれないけど、力を貸してもらっていい? 千雨: だいたい、ここに来ること自体がとっくに面倒事そのものじゃないか。その覚悟はできてるよ。 千雨: 行くぞ、菜央。お前の姉さんがどこまで強いかは知らんが、まぁ……ホオジロザメよりはどうにかなるだろうよ。 菜央(私服): ありがとう、千雨……! そして、あたしたちは玄関の扉を開け……竜宮邸の中に足を踏み入れた。 美雪(私服): ……ほんとに全部の部屋、電気がつけっぱなしだね。千雨、そっちはどう? 千雨: あちこち見て回ってるが……特に気配はないな。2階の方にも行ってみるか。 美雪(私服): くれぐれも気をつけてよ。キミは体術面でこそ私たちよりずっと上だけど、『ロールカード』での戦闘は不慣れなんだからさ。 千雨: 大丈夫だ。危なくなったらさっさと逃げて、お前たちと合流するさ。 美雪(私服): 了解。……で、菜央。レナは、本当にここへ戻ってきたと思う? 菜央(私服): ……靴が見当たらなかったわ。下駄箱の中も見たけど、お姉ちゃんの履いてたのはどこにもなかった。 菜央(私服): もし土足で家の中に入ってたとしたら、廊下が汚れてないとおかしいでしょうし……可能性としては、やっぱり低いでしょうね。 せっかく抱きかけた可能性が、急速にしぼんでいくのを感じて……あたしは、大きくため息をつく。 ただ……実のところ、逆によかったのかもしれない。ありえないほど低い可能性に賭けて、お姉ちゃんを苦しめるくらいなら……これで……。 ――と、その時だった。 菜央(私服): ……っ……?! 頭上からずしん、と大きな響きが聞こえて……あたしと美雪はほぼ同時に天井を見上げる。 この轟音は、2階からのものだ。そして今、そこには千雨が……?! 美雪(私服): ……千雨っ? 菜央(私服): 行きましょう、美雪ッ! 美雪からの返事を聞くよりも早く、あたしたちは階段を駆け上がって2階へ向かう。すると――。 菜央(私服): なっ……あ、あなたは……?! そこにいたのは、いかにも冴えない身なりでがたがたと震えながら……床に転がる中年の男性。 だけど顔を見て、すぐにわかった。この人は――。 菜央(私服): おね……レナちゃんの、お父さん……?! Part 03: 千雨: おい……返事しろよ、おっさん!なんでお前がここにいるんだって聞いてるんだ! だんっ! と千雨が床を踏み抜く勢いで凄みながら、足元に転がっている酒瓶を蹴り飛ばしている。 ……にもかかわらず、その人は抵抗どころか逃げるそぶりも見せない。ただ震えて、その場にうずくまるばかりだった。 菜央(私服): これ……どういうことなの、千雨?! 千雨: どうもこうも、人の気配を感じて押し入れから布団を引きずり出したら、このおっさんが転がり出てきたんだよ! 床の上に散らばる布団をなるべく避けながら、美雪はレナちゃんのお父さんに近づく。そして、目線を下げるように膝を突いていった。 美雪(私服): ……失礼、私は赤坂美雪といいます。あなたはどうして、ここにいるんです?外が大変なことになっていることはご存知ですか? レナの父: ……っ……。 美雪が丁寧に尋ねても、お姉ちゃんのお父さんは怯えた顔で何も答えようとしなかった。 手足は運動不足を証明するように細く、自分よりも年下の少女を見上げる目は心底怖がっていて……覇気がない。 ドラマでよく見る、自堕落の中で無気力に生きていた役の人と少し……似ている気がする。 これが、お姉ちゃんのお父さん……とは正直思いたくないけど、なぜこうなったのかは考えるまでもなかった。 菜央(私服): (あたしが、生まれたせい……?) あたしが生まれ、妻が出て行ったせいでおそらくこんなふうになってしまったのだろう。 だとしたら……あたしがこの人を悪く言う資格なんて……どこにも……。 千雨: このおっさん、正気みたいだな。少なくとも村のやつらとは、目が違ってる。……おいおっさん、何か知ってるか? レナの父: …………。 千雨: 聞こえてるんだろ?!心当たりはないかって聞いてんだよ!! レナの父: ひっ……! 美雪(私服): 千雨、そんな乱暴に聞いたらダメだよ。……おじさん、私たちは娘さんの友達です。 レナの父: れ、礼奈の……? 美雪(私服): はい、そうです。分校のクラスメイトなんですけど、レナから何か聞いていませんか? レナの父: …………。 美雪が笑顔を見せると、おじさんはわずかにこわばりを解く。 とりあえず状況だけでも確かめておこう……なんて考えたその時、階の下から響くほどの大きな物音が聞こえてきた。 美雪(私服): ちっ……千雨、レナパパのこと頼んだよ! そう言って美雪は即座に立ち上がると、階段の方へと飛んでいく。 続いて、何かが落ちるような音がして……彼女のそれとは違う叫び声が轟き渡った。 千雨: あいつ、無茶しやがって……ついて来い、おっさん! レナの父: ひぃいっ! や、やめてくれ!! 千雨: んなとこにいても助かりっこねぇだろっ?置き去りにされたくなけりゃ、黙ってろ!行くぞ、菜央! 菜央(私服): う、うん! レナの父: ひぃいいい!! あたしは、お姉ちゃんのお父さんを引きずるようにして手を引きながら階段を降りていく、千雨のあとを追いかける。 1階の床には、美雪に倒されたと思しき村人たちが倒れていた。 どうやら1階に侵入した村人は、先行した美雪が対処してくれたらしい。……人間絨毯は、そのまま外まで続いている。 千雨: 美雪っ! 千雨の後を追って家を飛び出すと、その向こうに美雪の背中が見えた。が、その奥には……! 菜央(私服): か、囲まれてる……! 舗装路どころか、用水路にまではみ出さんばかりに群がる村人たちの姿……100、200なんてものではないほどの人数だ。 もはや……どこにも退路らしきものは見つけられない。進むも地獄、退こうにも家の中はもう……! レナの父: だ……だから、イヤだったんだ!だから外には、出たくなかったのに……! レナの父: せ、せっかく見つからないよう隠れていたのに……余計なことをしてくれて……ッ! 千雨: あぁもう、おっさんは喋んな!ヤツらより先に私が殺したくなる!! 菜央(私服): ……………。 千雨が怒鳴りつける間も、ジリジリと包囲網は狭まっていく。……だけど、おそらくあたしたちだけなら逃げ切れるだろう。 もちろんそれは、お姉ちゃんのお父さんを置き去りにすれば、という条件付きで――。 菜央(私服): ……美雪、千雨。あたしが足止めするから、レナちゃんのお父さんをお願い。 美雪(私服): えっ?! 菜央(私服): あたしじゃ身体が小さくて、この人を引きずって行けないでしょ。だから……。 美雪(私服): ……じゃあ、私が足止めで残るよ。菜央は千雨と一緒に、先に――。 菜央(私服): ――美雪、お願い。 美雪(私服): ……っ、なんで……! あたしの考えていることを察したのか、美雪は苦々しそうに顔をしかめてみせる。 そう……あたしはこの人をなんとしても守らなければいけないのだ。それはもはや義務であり、そして――。 千雨: おい、菜央!このおっさんを、お前がそこまでして助ける価値があるってのか?! 菜央(私服): ……あるわ。だって、レナちゃんのお父さんだもの。 千雨: ……っ……!! あたしがそう言うと、美雪と千雨はぐっと言いたいことを飲み込み……そして同時に、地面を蹴り出した。 美雪(私服): この人を、安全な場所まで送ってくる……!すぐに戻ってくるから、ムリしちゃダメだよ! 千雨: ……行くぞ、おっさん!殺されたくなかったら、とっとと走れ! レナの父: ひ、ひぃっ……! 美雪が突破口を切り開き、千雨がレナちゃんのお父さんを引きずりながらも前進する。 ……うん、やっぱり2人はいいコンビだ。任せておけば、きっと大丈夫。 あとは……。 菜央(私服): (レナちゃんを助けられなくても……あの人に、罪滅ぼしくらいはしておかないとね) あたしは息を吸って、吐いて……構える。 菜央(私服): あんたたちの相手はこっちよ!さぁ、来なさい……! その気合とともに、……あたしの胸の内で何かがはじけるような音がする。 それは、瞬く間に全身へと広がり……頭の中へと到達した瞬間、今までにない高揚感と使命感がふつふつとわき上がって――! 菜央(私服): ……く、くくくく、くすくすくす……! 菜央(私服): あはははははは、あーっはははははははッッッ!!! 菜央(私服): 殺してやる……みんなみんな、消してやるわ……!!! 菜央(私服): さぁ、あんたたち……全部、滅びなさいッッ!!このあたしと一緒にね――きひひひひひッッッ!!! 菜央(私服): ああああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁっっ!! …………。 ……。 菜央(私服): あ……あれ? レナ(私服): 菜央ちゃん、菜央ちゃん。 菜央(私服): レナちゃん? レナ(私服): はぅ……大丈夫? さっきのお買い物で疲れちゃったのかな? かな? 菜央(私服): ううん、大丈夫……ちょっとだけ、うたた寝しかけただけだから。 菜央(私服): ……一穂と美雪は? レナ(私服): 2人はお家にいるんじゃなかったっけ?お夕飯楽しみにしてるって。 菜央(私服): ……ごめんなさい、そうだったわね。なんだか寝ぼけちゃってたみたい。 レナ(私服): あはははは。もしかして昨日は夜更かしでもしちゃったのかな? かな? 菜央(私服): う、うん……そんなところかも、かも……、っ? レナの父: おや……礼奈、お友達かい? レナ(私服): うん。菜央ちゃんって言うの。とっても料理が上手なんだよ。 菜央(私服): ……こんにちは。 レナ(私服): お父さんは……これからまた、お出かけ? レナの父: あぁ、ちょっと着替えに寄っただけだから。それじゃ、ごゆっくり。 菜央(私服): あ、ありがとうございます……。 レナ(私服): ? どうしたの、菜央ちゃん。 菜央(私服): あ、うん。何か、大事なことを忘れてる気がして……。 レナ(私服): はぅ……すぐに思い出せないなら、無理して思い出そうとしなくても別にいいんじゃないかな、かな。 レナ(私服): それより、菜央ちゃん。おいしいものをいっぱい作って、一穂ちゃんと美雪ちゃんに食べさせてあげようね。 菜央(私服): ……えぇ、そうね。