Part 01: 富竹: うん、いいよ羽入ちゃん!こっちに目線を向けて、上からのぞき込むように……! 羽入(サマーウェディング): あ、あぅあぅ……こ、こんな感じですか? 富竹: あっ、今の笑顔いただきっ!少し照れているような表情も素敵だね! 羽入(サマーウェディング): へ、変な褒め方をしないでくださいなのです!僕は恥ずかしくてもう、今すぐにでもこの場で気を失ってしまいそうなのですよ~?! 富竹: 大丈夫だ羽入ちゃん、君ならできる!自分を信じて、その秘められたポテンシャルを余すことなく発揮するんだ! 羽入(サマーウェディング): あぅあぅあぅあぅ~っ!! 一穂(私服): 富竹さんって、カメラを持つと人が変わるんだね……ファインダー越しだと気が大きくなったりするのかな? 美雪(私服): んー、確かに肉眼で目の当たりにするのと間に何かを介して見るのとでは、印象が違ってくるって言うからねー。 美雪(私服): まぁ、あっちで盛り上がってるバカップルならぬ、オッペケペアもいい勝負してると思うけどさ……。 レナ(サマーウェディング): はぅぅ~っ、菜央ちゃんかぁいいよ~!とっても素敵で、お持ち帰りしたぁぁい~♪ 菜央(サマーウェディング): そ……そう?ちょっと恥ずかしいけど、レナちゃんにそう言ってもらえると嬉しいかも……かも。 レナ(サマーウェディング): うんうんっ♪ あっ、次はレナと一緒に写真を撮ってもらってもいいかな、かな?圭一くん、よろしくね~! 圭一(私服): へいへい。2人とも、こっちに向いて……いいか?そら、撮るぞー。 レナ・菜央: はい、チーズ♪♪ 美雪(私服): 菜央ってば……あのドレスを着る時は、すっごく恥ずかしがってたのにさー。レナもレナで、相変わらずのアレっぷりだし。 一穂(私服): あ、あははは……。 梨花(私服): みー。富竹とレナが変態さんだという事実は、とりあえず確定させてもいいと思うのですが。 梨花(私服): ボクたちはさらにもうひとり、とんでもないモンスターを蘇らせてしまったかもなのですよ……。 入江: あぁ……あぁああぁっ! 美しい、実に美しい!あなたが先ほどまで着ていたメイド姿も、実に可憐で麗しいお姿でしたが……。 入江: そのお姿から、いよいよ嫁ぐためのドレスに着替えられたというこのシチュエーションは……いい!この感覚こそまさに、センスオブワンダー!! 入江: まるで美しき彩りを秘めた蛹が、殻を破って荘厳な羽を広げながら美しき蝶となるように……! 入江: 素晴らしい……素晴らしいです!これはもう、眼福などという言葉では形容することなどできないほどの至宝ッッ! 入江: 私は、今こそここでッ! 人間の五感に視覚を与えたもうた神々の慈悲と恩恵に心からの感謝を申し上げますぅぅッッ! 魅音(私服): えっと、あのさ……あそこで狂喜乱舞している人って……誰?なんか私が見覚えのある人に見えるんだけど。 詩音(私服): ……お姉。間違いなく、あれは監督です。別名、村の診療所の入江京介先生……。 魅音(私服): いや、解説してくれなくても知っているって。ただ認めたくないだけだから。 美雪(私服): なんかさぁ……村の年寄りたちには絶っっ対、見せちゃマズい光景だよね。 魅音(私服): ほんと、ファッションショーの後のプライベート撮影会にしてよかったよ……。進退問題が再燃してもおかしくないっての。 一穂(私服): ま、まぁ……入江先生も元気になって、結果オーライってことで……ね? 沙都子(サマーウェディング): か、監督……? あの、そろそろ私も疲れてきましたので、少し休ませてもらってもよろしくて? 入江: あぁすみません、これは気が利きませんでした。 入江: それでは、こちらのフィルム1グロスを使い切りましたら、小休止を挟みますね。 一穂(私服): ……1グロスって聞きなれない単位だけど、フィルム何個分になるの? 美雪(私服): ん-、12個が1ダースで……その12ダースが1グロスになるから、144個だね。 美雪(私服): しかもフィルム1個あたりに24枚、いや36枚ネガがあることを考えると、撮影枚数は……。 沙都子(サマーウェディング): ちょっ……? ま、待ってくださいませ!私はさっきから、ざっと覚えているだけでも数百枚は撮影されておりましてよっ? 沙都子(サマーウェディング): いったいいつになったら、この撮影地獄から解放されるんですの~? ふあぁぁぁあぁん! 入江: なっ……なんと! 嫁ぐにあたって涙をこぼすメイド花嫁の姿を写真に収められるとは……!これはレア、激超レアなショットです! 入江: 沙都子さん……いえっ沙都子姫っ!どうか私めに、その見目麗しいご尊顔をとくとご披露くださいッッ……!! 沙都子(サマーウェディング): ひっ……ひぃぃいぃっっ?泣き顔すら、監督の琴線に触れるんですの?! 沙都子(サマーウェディング): 魅音さん詩音さん、そこにいるどなたでも構いませんので、助けてくださいまし~っ?! 魅音(私服): ……なんていうか、今まで我慢して耐えていた鬱憤が一気に爆発したって感じだね。 詩音(私服): あぁいう真面目な性分の方に我慢をさせると、反動で恐ろしいほどに暴走しちゃうんですねー。いい勉強になりました。 詩音(私服): とはいえ……沙都子ー?今までのお詫びに思う存分撮影をさせてあげると約束したのはあんたなんですからね~! 詩音(私服): その約束を守って、しっかりばっちり「最期」まで協力してあげなさいね~? 美雪(私服): 詩音……「さいご」の響きが不吉になってるって。 沙都子(サマーウェディング): いっ……いくらなんでも、ここまでハードな対応になるとは私だって思っておりませんでしたのよ~!もう堪忍してくださいませぇぇっ!! 羽入(サマーウェディング): あぅあぅあぅ~!僕も一緒に助けてほしいのですよ~!! 一穂(私服): あ、あははは……。 Part 02: 羽入(私服): ……あぅあぅ、疲れたのです。まさか、こんな顛末になるとは思ってもみなかったのですよ~。 梨花(私服): くすくす……大変だったわね、羽入。あなたの慌てっぷり、なかなか面白かったわ。 羽入(私服): 笑い事ではないのですよ、梨花。僕は梨花たちのように「今」の存在ではないので、肌を見せることに抵抗を感じてしまうのです。 梨花(私服): ……そんな言い方をされると、なんだか現代に生きる私たちが露出狂みたいで不本意な感じね。 梨花(私服): まぁ、気持ちはわからなくもないわ。あのドレスって見方によっては水着、いえ下着みたいなデザインだもんね。 羽入(私服): だったら、あの場で止めてくださいなのです。一緒に悪ノリして僕が困るところを見て楽しむのは、とてもいい趣味とは言えないのですよ。 梨花(私服): あら、いいじゃない。あんな体験は何年か経って過去の記憶になれば、結構笑い話になったりするものよ。 羽入(私服): 他人事だと思って……あぅあぅ……。 梨花(私服): 過去……か。そういえば羽入、以前聞いた話だとあんたは私の祖先にあたる存在なのよね? 梨花(私服): だとしたら当然、家族を持ったことがあると思うんだけど……。 羽入(私服): あぅあぅ……? それがどうかしましたか? 梨花(私服): 前から一度、聞いてみたいと思っていたのよ。羽入が伴侶に選んだ相手って、どんな人だったの? 羽入(私服): ……なぜ、そのようなことを尋ねるのですか? 梨花(私服): 深い意味はないわ。ただ、結婚に関するイベントに触れる機会が最近続いたから、なんとなく頭に浮かんだだけよ。 梨花(私服): それに、私のルーツに関わることでもあるし……知っておくのもいいかなってね。 羽入(私服): ……。正直、あまり良く覚えていないのです。あの日からもう、ずいぶんと長い時間が過ぎてしまいましたから……でも……。 羽入(私服): 優しい人……それだけは間違いなかったと思うのですよ。 梨花(私服): 優しい……か。いかにも便利な表現ね。そもそも優しさを感じるような御仁でなければ、一緒になろうとは考えないでしょうに。 羽入(私服): あぅあぅ……その通りなのです。ただ、こうして僕が#p雛見沢#sひなみざわ#rにとどまり、力と意志をこの地に保ち得ている……。 羽入(私服): それはきっと、僕の夫だった人や娘の存在が大きく影響しているのだと思いますのですよ。 羽入(私服): なにしろ、こんな外見の僕を受け入れて、あまつさえ好きになってくれたのですから……。 梨花(私服): なるほど。たとえ記憶の大半がなくなっても、わずかに残った想いでのろけるってわけね。くすくす……。 羽入(私服): か、からかわないでくださいなのですよ……! 梨花(私服): …………。 羽入(私服): ? どうしましたか、梨花? 梨花(私服): いえ……ね。私もいつか、そういった人に巡り会うことがあるのかしら……って思って。 梨花(私服): もちろん、まだ先の話には違いないけど……自分のことを理解してくれて、心をさらけ出してもいいと思えるような人が現れたら……。 梨花(私服): 私は、どんな感じに変わるのか……それが楽しみでもあるし、不安でもあるわ。 羽入(私服): 梨花……。 羽入(私服): 大丈夫なのですよ、梨花。あなたは口も悪いし腹黒で、斜に構えた態度で素直じゃないところもありますが……。 羽入(私服): 僕が心から自慢に思っている、大切で大好きな人なんですから……きっといい人が見つかるのですよ。 羽入(私服): あなたの過去の傷を包み込んで癒してくれる、お日様のような男性が……。 梨花(私服): ……羽入。 梨花(私服): って、なんかいい感じに言っているようにも聞こえたけど、前半の批評はなに?明日の朝からキムチ責めにあいたいのっ? 羽入(私服): ひっ、ひぃぃぃいぃっっっ?!つ、つい口が滑ってしまったのですよ~! 梨花(私服): まったく……でも、ありがとう羽入。 梨花(私服): そろそろ寝ましょう。あんまり話していると、沙都子が起きてくるかもしれないし。 羽入(私服): はいなのですよ、梨花。ゆっくり休んで、よい夢を見てくださいなのです。 梨花(私服): くすくす……自由に見る夢を選べるんだったら、睡眠も結構楽しいものになるんだけどね。 梨花(私服): それじゃお休み、羽入。 羽入(私服): お休みなさいなのですよ、あぅあぅ。 …………。 沙都子(私服): 梨花……羽入さん……。 Part 03: 羽入(私服): あぅあぅ……?沙都子、こんなところに呼び出して何か御用なのですか? 沙都子(私服): えぇ……すみませんわね、羽入さん。梨花は今日、村の寄合に行って夕方まで戻ってこない、とのことでしたし……。 沙都子(私服): 他の方々にはあまり聞かれたくないことなので、こちらに来ていただきましたのよ。 羽入(私服): ……それはつまり、梨花にも黙っておくべき話がしたい、ということなのですか? 沙都子(私服): 可能であれば。……梨花に内緒というのも心苦しいんですけど、彼女に余計な心配をかけたくはありませんので。 羽入(私服): ……。わかりましたのです。ここで沙都子から聞いたことは、梨花には秘密にしておくのですよ。 沙都子(私服): 助かりますわ。……では、羽入さん。単刀直入にお伺いします。 沙都子(私服): あなたは……いったい誰なんですの? 羽入(私服): ……? あぅあぅ、それはどういう意味の質問なのですか? 沙都子(私服): 申し訳ありませんが、実は昨夜……眠りが浅かったせいか、私は夜中に起きてしまいましたのよ。 沙都子(私服): そして、薄目を開けると窓辺のところで……あなたと梨花が何かお話をしているところをお見かけしまして。 沙都子(私服): 言葉は聞き取れませんでしたので、どんな内容だったのかは存じ上げませんが……いったい、何を話しておられたんですの? 羽入(私服): ……別に、大したことではないのです。昨日富竹たちの撮影のモデルとして散々振り回されてしまったので……。 羽入(私服): それが大変だったと話し、そしてお疲れさまと梨花に労ってもらっていたのですよ。 沙都子(私服): ……本当に? たったそれだけのことを、あんな深夜の時間に……? 羽入(私服): どうしたのです、沙都子……?僕たちの様子に何か、気になるようなことがありましたのですか? 沙都子(私服): 見た……というよりも、感じましたのよ。あなたと話している時の梨花は、どこか私の知る彼女と雰囲気が違っている、と。 羽入(私服): …………。 沙都子(私服): あと……私と梨花、そしてあなたはこれまで共同生活を営んでまいりましたが……。 沙都子(私服): あなたと梨花の関係……そういえばずっと、聞いたことがありませんでしたわね。遠縁の親戚とのことですが、出自はどちらに? 羽入(私服): ……それを聞いて、どうするつもりなのですか? 沙都子(私服): そんなに怖い顔で身構えないでくださいまし。あなたのことを追及したり、まして追い出そうと考えているわけではありませんのよ。ただ……。 沙都子(私服): 梨花とあなたは、何か大きな秘密を共有している。さらにその内容は、私のあずかり知らぬ「未知」でとても「重要」なこと……違いまして? 羽入(私服): ……。答えることはできません。これは僕というより、梨花本人の意思が大きく関わってくることですので。 沙都子(私服): えぇ、おそらくそうなのでしょうね。ただ……先ほども申し上げました通り、梨花に直接問いただすべきでもない。 沙都子(私服): だから……1つだけ、答えてくださいませ。私は、この先もずっとあなたのことを……梨花の味方だと考えてよろしいんですの? 羽入(私服): もちろんなのです。何が起ころうとも……そして変わろうとも僕は梨花のことを想い、彼女の幸せな未来が拓かれること……。 羽入(私服): ただそれだけを、願い……祈り続けていくつもりなのですよ。 沙都子(私服): ……そのお言葉、信じますわ。だから、これから何があったとしても……その想いだけは守り抜いてくださいまし。 羽入(私服): 沙都子……? 沙都子(私服): 話はそれだけですわ。お時間をいただいてすみません……では。 羽入(私服): あっ……? 羽入(私服): …………。 羽入(私服): 沙都子は、僕と梨花の関係について何か気づいている……? 羽入(私服): 同居している以上、その危険は常に意識してきてボロを出さないよう努めていたつもりですけど……。 羽入(私服): ……。やはり沙都子は、学校の成績では推し量れない……聡明な思考の持ち主なのです。 羽入(私服): それに、どうやら気がつかないうちに僕も梨花も油断して、周囲の状況を甘く見積もっていたのかもしれません……。 羽入(私服): …………。 羽入(私服): 変わるべき時が、来たということでしょうか……?いつまでも、今の幸せな時間を過ごしていたいと思ってきましたが……。 羽入(私服): 無限にも等しい輪廻を抜け出て、新しい「世界」へと踏み出す……。 羽入(私服): 梨花たちも……そして僕も、きっと……。