Part 01: 美雪(白うさぎ): とりあえず、空と風の部族は魔王退治で協力するってことで落ち着いたけど……他の部族も説得しないと意味がないよね。 菜央(マッドハッター): そうね。次はどこへ交渉に行くつもりなのか、教えてもらってもいいかしら? 沙都子(部族): えぇ、構いませんのよ。レナさんさえ問題がないようでしたら、私は地の部族をオススメしますわ~。 一穂(アリス): 地の部族……って、ここからその集落は結構離れた場所にあったと思うけど、大丈夫なの? 沙都子(部族): もちろんですわ。このレッドテッペーの背中に乗って飛べば、あっという間に到着ですのよ~♪ レッドテッペー: んぎゃおぉおおおぉぉっっ……! 美雪(白うさぎ): ……こういう乗り物を使っての移動って、遠いか近いかの距離感が掴みづらいんだよね。まさか、最高速で飛んだりするとか……? 沙都子(部族): をーっほっほっほっ、最高速なんて生温い!風の魔法を駆使して超高速で駆け抜ければ、地球の裏側までひとっ飛びでしてよ~♪ 夏美: じょ、冗談は止めてよー!万が一飛んでいる最中に振り落とされでもしたら、一生恨んで化けて出て祟ってやるんだからぁぁ!! 次も流されるまま危険な目に遭わされてはたまらないと、私はなりふり構う余裕もなく断固拒否の意思を示して叫び返す。 ここは#p雛見沢#sひなみざわ#rであって、私の知る雛見沢とは全く違う異世界……これまでの常識は一切通じない。とりあえず納得はさておき、一応理解はした。 そして彼女たちも、決して悪意で言っているわけではない……それはわかっている。だけど、それとこれとは話が別だ……! レナ(部族): はぅ……沙都子ちゃん。美夏さんもこう言っているし、無茶をさせるのは部族の長としてどうなのかな……かな? 沙都子(部族): 確かに……ごめんなさいですわ。皆さんをからかうのが面白くて、つい調子に乗りすぎてしまいましてよ。 そういって沙都子ちゃんは、素直に非を認めて申し訳なさげに頭を下げてくれる。 こういう反応をしてくれるあたり、やはりこの子は私のよく知るあの子と本質は同じなんだろう。ただ……。 夏美: ……あの、レナちゃん。そうやって沙都子ちゃんを注意してくれたのはとてもありがたいんだけど……。 夏美: そんなあなたも、さっき私が天馬に乗って競争させられるのを止めなかったよね?しかもあんなに、猛スピードで走らせて。 夏美: あれも十分すぎるくらいに、無茶なことをさせていたと思うんだけど……。 レナ(部族): …………。 レナ(部族): あはははは。 夏美: 笑ってごまかさないでよー?! 一穂(アリス): ま、まぁまぁ……。それより……えっと、沙都子姫……様? 沙都子(部族): 家来でもない方に姫と呼ばれるのはむずがゆいので、普通に名前で構いませんのよ。敬語もなしで話してくださいまし。 一穂(アリス): あ、うん。わかりました……わかったよ。それじゃ沙都子ちゃん、どうして地の部族があなたのオススメなんですか……なの? 沙都子(部族): 地の部族には、ねーねーがいるからですの。あの人ならきっと、私の頼みであれば二つ返事で引き受けてくれるはずですわ。 美雪(白うさぎ): ねーねーってことはつまり、お姉さん……?部族が違うのに、どうして? レナ(部族): あ、そうじゃなくて……沙都子ちゃんと詩音ちゃんは義姉妹の関係なの。 夏美: えっと……それだけだとどういう繋がりなのかよくわからないから、もう少し説明してもらってもいい? 沙都子(部族): まぁ、簡単に言ってしまうと……血は繋がらなくともお互いを姉妹同然として認め合っているということでしてよ。 沙都子(部族): 詩音さんは昔から、私のことをすごく気にかけてくれる……優しい人ですの。 夏美: 詩音……ってことは、やっぱり魅音ちゃんもその部族の集落で姉妹として暮らしているの? 沙都子(部族): えっ……? 当然のように抱いた疑問に対して、沙都子ちゃんはなぜかきょとん、と意外そうな表情を浮かべる。 そして「ミオン……」と小さく呟いてから、私に問い直してきた。 沙都子(部族): あの、「美夏」さん……でしたわよね。ひょっとして魅音さんとは、火の部族の魅音さんのことでして? 沙都子(部族): お生憎様ですが……魅音さんと詩音さんは犬猿の仲、不倶戴天の敵同士でしてよ。もちろん、姉妹などではありませんわ。 夏美: えっ……そ、そうなのっ? 思ってもみなかったことを告げられて、私はつい素っ頓狂な声を上げてしまう。 そもそも、ここを雛見沢と呼ぶにはあまりにも異なっていることがありすぎるので、今さら違いが増えても変ではない……と思う。 ただ、それでも魅音ちゃんと詩音ちゃんの関係は姉妹のままであるはずだと思い込んでいたので……やはり違和感を覚えずにはいられなかった。 美雪(白うさぎ): んー、美夏さんがなんでそう思ったのかはしらないけど……魅音姫と詩音姫の仲が悪いのは有名な話だよ。私たちでも知ってるくらいにね。 菜央(マッドハッター): えぇ。それに、地の部族と火の部族は昔から対立してるのよ。間を取り持つ水の部族がいなければ、今頃大変なことになってたほどにね。 夏美: ……。その水の部族のお姫様って、ひょっとして……梨花ちゃん……? 一穂(アリス): よ、よくご存じですね……。やっぱりその名前の女の子も、美夏さんの知る雛見沢にいたんですか? 夏美: うん、いたよ。でも……魅音ちゃんと詩音ちゃんは、私の「世界」だと双子の姉妹だった。 夏美: それに、沙都子ちゃんには……っ……。 ふいに優しげな少年の顔が脳裏に蘇ってきたが、彼女たちにその名前を告げることは憚られて……私はそっと口をつぐむ。 ひょっとしたらこの「世界」には、立場等を変えた「彼」が存在しているのかもしれない。……だけど、それを聞いたところで事態がややこしくなるだけだ。 それに、もしこれから詩音ちゃんのところへ赴くのであれば、「彼」を知っているという事実が彼女の逆鱗となって働くかもしれない……。 一穂(アリス): ? どうしました、美夏さん? 夏美: あ、ううん。たいしたことじゃないから……。 そう言ってごまかしてから私は、離れた場所に住まうという地の部族の長……詩音ちゃんのことについて思いを馳せる。 夏美: そっか……あの子も、やっぱりこの「世界」にいるんだね……。 詩音: 『あんまり思い詰めないことです。……これはあんたの先達として、そして同類としての忠告です』 夏美: あれは……どういう意味だったんだろう……? 10年たった今もなお色褪せず、ずっと心の中に残っている詩音ちゃんからの言葉。……私はそれを、ひとり内心で反芻していた。 Part 02: ……思い出す。あれはたまたま、#p興宮#sおきのみや#rを歩いていた時のことだ。 おばーちゃんの検査入院に付き添うために、里帰りしたある日の昼下がり……私はバイト帰りの詩音ちゃんと会ったのだ。 詩音(私服): おや……夏美さん? こんなところで会うなんて珍しいこともあるもんですね。 夏美(高校生): ……詩音ちゃん?あははは、久しぶりー。どう、元気だった? 詩音(私服): えぇ、おかげさまで。……まぁ学校以外だとほぼバイトの毎日ですから、元気かどうかと聞かれたら微妙ですけどねぇ。 そう言って詩音ちゃんは肩をすくめながら、気さくな様子で笑ってみせる。 付き合いの長さは、姉の魅音ちゃんほどではない。というのも数年、彼女は#p雛見沢#sひなみざわ#rを離れていたからだ。 再会したのは、ちょうど去年。最初は魅音ちゃんと見間違えかけたが、雰囲気が違うのですぐにわかった。 夏美(高校生): バイトって……詩音ちゃんの年齢だと、厳しい制限とかがあったよね。大丈夫なの? 詩音(私服): そこは、言わないお約束……ってことで。まぁ働いている場所が親族のお店なので、多少黙認してもらっている状況ですよ。 夏美(高校生): そっか……なら、よかったね。 夏美(高校生): あ、いや……良くはないか。アルバイトをし続けているってことはつまり、まだ詩音ちゃんって……。 詩音(私服): くっくっくっ……はい、ご推察の通り。勘当が解けないまま、丸一年が経ちました。 夏美(高校生): あ……そうなんだ。えっと……。 どういう言葉をかけていいのかわからなくて、私は気まずい思いで口ごもってしまう。 すると、私の表情から先にそれを察したのか詩音ちゃんは苦笑を浮かべ、気にするな、といった感じに手を振ってみせた。 詩音(私服): まぁ勘当状態と言っても、本家にはちょくちょく顔を出しているんですけどね。先週だって、お姉に誘われて一泊しましたし。 詩音(私服): お母さんも鬼婆も、他の人たちへの面子もあって振り上げたこぶしをどこで下ろせばいいのか……まだ探りかねているんでしょう。 詩音(私服): だから、夏美さんがそこまでの顔をするほど深刻な事態ってわけでもありませんので……適当に流してもらえるとありがたいです。 夏美(高校生): そう……なんだ。なら、いいんだけど……。 からからと笑う詩音ちゃんの気遣いをありがたいとは思いつつも……はいそうですか、と素直に納得する気にはなれない。 家を追い出されて、一人暮らしをする……私からすれば世界とこれまでの常識が一変するかと思えるほどの、大事件だ。 そんな出来事を、私よりも年下の子が経験し平然と受け入れていることが信じられなくて……ある意味敗北感にも近い眩しさを覚えていた。 夏美(高校生): 詩音ちゃんは……すごいよね。やっぱり御三家直系の人って、子どもの頃から強くあるように教わったりしているのかな? 詩音(私服): いえいえ、そんなことはありませんよ。将来園崎家を背負って立つお姉とかと違って、私は気楽な次女ってやつですから。 詩音(私服): 何の責任も義務もない分、あとは野となれ花となれ。好き勝手に生きて野垂れ死にしろ……なーんてね?くっくっくっ……! 夏美(高校生): 羨ましいな……あっ……? 思わず口をついて出てしまったその言葉に、私自身が一番驚いて口を押さえる。 そして顔を上げると、目を丸くした詩音ちゃんがこちらを見ている様子が視界に映った。 夏美(高校生): ご……ごめんね、変なことを言っちゃって!けど、そうやって詩音ちゃんみたいに自立して色々決めるってこと……私はできないから……。 夏美(高校生): 親に対して、自分の意思を伝えたくても向き合っただけで怖くて……怯んじゃう。ほんと情けないよね、私って……。 詩音(私服): …………。 詩音(私服): 相変わらず……なんですか?その、……春子おばさんは……。 夏美(高校生): ……うん。 付き合いが深くなかったとはいえ、雛見沢と興宮はそこまで広くない。まして、私と詩音ちゃんは同じ御三家だ。 あえて積極的に詮索をしなくとも、私の家の事情は誰かの口と耳を通じて勝手に周知になっているのだろう……。 詩音(私服): あー……もし時間があるようなら、少し話していきませんか?私もこの後、特に予定がありませんので。 夏美(高校生): ……。ありがとう。 詩音ちゃんの気遣いをありがたく受け取り、私たちは自動販売機で缶ジュースを買ってから図書館のそばにあるベンチに座った……。 Part 03: ……私のおかーさんは、基本的にはいい人だ。家事で一切手を抜いたりしないし、近所でも悪く言う人はほとんどいない。 それに、引っ越した前も後も美人と評判で……友達に対しても自慢できる母親、だと思う。 ただ……唯一というか最大の欠点は、とにかく外聞を気にしすぎることだった。 夏美(高校生): (新しい家を選ぶ時も、結構おとーさんやおばーちゃんと口論になったんだよね……) ……いや、あれは口論ではなくおかーさんからの一方的な主張だ。相手の話はほとんど聞きもしない。 もちろん、私が意見を言える余地なんて全く存在せず……家族会議の場にいても、ただ黙って成り行きを見守るだけだった。 詩音(私服): ……悪い人ではないと、私も思いますけどね。ただ、ちょっとばかり癇癪持ちとでもいうか感情的になった時が面倒な感じで……あ、失礼。 夏美(高校生): ううん……いいよ。実際、その通りだと思うから。 夏美(高校生): 今通っている学校だって、おかーさんが決めて私はそれに黙って従って……いい友達ができた分、後悔や不満はないけどね。 詩音(私服): 学校を勝手に決められたのは、こっちも同じですよ。まぁ私の場合、すぐに我慢できなくなって大脱走をしてやったわけですが……くっくっくっ。 夏美(高校生): ……それが、すごいと思うよ。私だったらきっと、嫌な気分を抱えたまま逆らえなくて、内にこもっちゃって……。 夏美(高校生): どこかで爆発して「また」、おかしなことをしでかしていたかもしれない。……そんな気がする。 詩音(私服): …………。 缶ジュースを飲む手を止め、詩音ちゃんはそっと私の様子を窺うように顔を向けてくるのを……感じる。 私が中学校時代に起こしたとある「事件」は、#p興宮#sおきのみや#rでもあまり知られていなかったけど……それでも一部の人間の耳には入っていた。 もちろん、御三家の人間であれば当然把握していてもおかしくない。経緯はもちろん、その後のことも……。 ……ただ、にもかかわらず何事もなかったように接してくれる魅音ちゃんや詩音ちゃんの存在は、私にとってとてもありがたくて嬉しいものだった。 詩音(私服): ……あれは、不幸な「事故」ですよ。これは慰めでも何でもないし、町会の間でもそういうことになっています。 詩音(私服): それに……同じ状況になれば私だって、あんたと同じことをしていたと思いますよ。 夏美(高校生): もし、そうだとしても……私が相手の子を傷つけてしまったのは確かだし、それに……っ……! 詩音(私服): あんまり思い詰めないことです。……これはあんたの先達として、そして同類としての忠告です。 夏美(高校生): えっ……? その言葉の意味がよくわからず、私は顔を上げて詩音ちゃんを見つめる。 すると、彼女は……寂しげな笑みを浮かべながら肩をすくめ、缶ジュースを飲み干してから言った。 詩音(私服): 突き放した言い方になっちゃいますが……他人ってのは自分が思っているほど、こっちのことなんて考えてくれていません。 詩音(私服): だから、自分が思っていることはちゃんと言葉にして相手に伝えておかないと、勝手に解釈されて損をすることになります。 詩音(私服): つまるところ、したいがままに生きるのが結局は一番正解に近かったりするんだ、と私は思いますよ。 夏美(高校生): ……。詩音ちゃんなら、できるんだろうね。でも、私は臆病で……自信も全然ないからそう言われても、簡単には……。 詩音(私服): ……なら、簡単な変わり方を教えてあげますよ。といってもこれは邪道中の邪道、反則技なので他には絶対漏らさないようにして下さいね。 夏美(高校生): 邪道……反則技っ……?あの、いったいそれは、どういう……?! 詩音(部族): ん? あれは……メッセージバード?鳥の種類から見て、沙都子……? 鳥: ぴー、ひょろろろ~。 詩音(部族): どうもご苦労様。……はい、これはお駄賃の土トカゲの尻尾です。気をつけて帰って下さいねー。 鳥: ひょろろろ~、ぴー……♪ 詩音(部族): 普段なら挨拶も押しかけてくるのに前もって手紙を送ってくるとは……何か面倒ごとみたいだね。 詩音(部族): なになに……ふむ、なるほど。 詩音(部族): 魔王軍の進撃とは、まぁずいぶんと唐突な……。早速皆に伝えて、準備を整えるかな。 詩音(部族): しかし……それにしても一緒にいるのが一穂さんに美雪さん、菜央さん……そして……。 詩音(部族): 今度は千雨さんじゃなくて「夏美」さんとはね。彼女って、こんなに付き合いがいい人だった……?いや、単純に断れずに巻き込まれただけかなぁ。 詩音(部族): ……はぁ、まいった。できればあの人とは、なるべく接点を持たずにやり過ごしたかったんだけど……。 詩音(部族): ……ま、しょうがない。なんとなくの気の迷いで仏心を出したツケだから、ちゃんと責任をとることにしますか。 詩音(部族): そういうことで……いいですよね、※※? …………。 詩音(部族): くすくす……返事なしですか。まぁ期待もしていませんでしたけどね。 詩音(部族): さて……それじゃ、沙都子たちを出迎える準備に取りかかるとしますかね~。