ぼしをさされ、天地はついこわくてけなかったことを、鷲羽に訊こうとした。

「鷲羽さん、俺……」

鹿ねえ」

 真剣なひとみで、自分を見つめているそんな天地の気持ちを、鷲羽は察して言った。

「天地殿が過去へ行かなければ、母上は助からなかった。たとえ、天地殿を助けたせいで母上が早くくなったのだとしても、天地殿が過去へ行かなければ母上は、26年前に死んでしまっていたんだから、同じこと」

「でも、俺が過去へ行ったのは、ついこの間のことじゃないか!」

 鷲羽の言葉のじゆんを突いて、天地が言う。

 慌てずに鷲羽は続けた。

「そういうこと。天地殿、時間っていうのは、いつもどの時代にも安定しているものじゃないんだよ。

 人は、過去は定められたものだと思いがちだけど、未来が流動的であるように、過去もまた、日々、変化するものなんだ。

 つまり、こうしているうちにも、私たちのいるこの時代も、過去のえいきようで刻々と変化してるってわけ。分かるかな?

 だから、もし、母上が若くして亡くなったのがあの戦いのせいだとしても、それは、ひとつのきっかけに過ぎないんだし、あるいは、この先には過去が変動して、母上はあの戦いのせいで死んだのではなくなるかもしれない」

「鷲羽さん!」

 突然、天地が大きな声を上げた。

「それって、もしかしたら、過去のありようによっては、今、この時代に母さんが生きてる可能性もあるってことですか?」

「へ?」

 いきなりな話の展開に、さすがの天才科学者、鷲羽ちゃんもおどろいたが、しばらく考えてからこう答えた。

「まあ、そういうことも絶対ないとは言えないわね」

「そうか、そうなんだ! やったー!! ようし、過去を変えるぞー!!

 かんせいを上げながら、家へ向かって行く天地に、あっけにとられながら鷲羽は慌てて叫んだ。

「ちょっと待ちなさい! 過去を変えるってそんな簡単なことじゃないのよ。今回の件だって、私がかげでどんなに苦労したか……ちょっと天地殿ー!!

 聞こえているようもなく、おどりしながらけていく天地を見送りながら、鷲羽は苦笑した。

「……ったく。男って、みんなマザコンなんだから」

 いつの間にか、鷲羽の後ろに立っていたかつひとが、空をあおぎながら言った。

「この広い空の下には、阿知花が元気に生きている……そんな世界も、あるのかもしれんなあ」

 さわさわとこずえをわたる春の風だちも、そっと二人の言葉に耳をかたむけている。

 遠くの山々が、少しかすんで見える。

 定刻通りの列車が、そのやまあいを抜けて、次の町へと旅立っていった。

 柾木家はと見れば、妙に明るくそうぞうしい家族(?)が、またあいもないことで大騒ぎしている。

 勝仁が、信幸が、天地がこのれた光景を、今、愛しながら生きている。

 そして、その三人をだれよりも愛した阿知花の心は、それぞれの胸の中にそれぞれの形でいつまでも生き続けることだろう。