よく見ると、かいじんまとっている黒いマントは、もやのようなものだ。

いん……現れたな!」

 冴羽人は、ライフルを構え直し、その不気味な魔物とにらみ合った。

 だが、禍因はゆうぜんたたずみ、その能面の顔は、不吉に笑っていた。

「クククククッ、ギャラクシーポリスの生き残りか。ここまで追いかけて来たこんじようは認めてやろう。だが、これまでだ……」

 禍因は、右手をかざすと指先から、強いプラズマを冴羽人に向けてはなった。

「ぐわあああっ……」

 激しくもだえしながら、冴羽人は倒れた。

「ぐっ……か、禍因……き、貴様だけは……おれが……」

 それをくだして、怪人は氷のように冷たい笑みを浮かべた。

「クククッ、身のほど知らずめ……が力にさからいしことをこうかいするがよい」

 禍因が黒い靄のマントを広げると、そこから青いプラズマが冴羽人をおそった。

「ぎゃ~っ!!

 なんということだろう! 青い光に包まれた冴羽人が、禍因のマントの中に造り出された亜空間に、吸い込まれてしまったのだ。

「冴羽人さんっ!!

 思わず、天地が飛び出した。

「危ないッ! 来るんじゃない!」

 どこからともなく現れた少年に向かって叫ぶ信幸の声に、阿知花が意識を取り戻した。

「ウッ、信幸君?」

「阿知花ちゃん、阿知花ちゃん!! ぼくが分かるかい!?

 阿知花は、ぼんやりと見え始めた目で、信幸を見た。

「信幸君、こ、ここは?」

「展望台……東京タワーの展望台だよ」

「東京タワー……展望台……うっ!」

 また痛みが襲った。

だいじようかい、阿知花ちゃん!」

「……こわい!」

 阿知花が、信幸の腕にしがみついてきた。

 信幸はとまどいながらも、しっかりと阿知花を抱きとめた。

 信幸は先ほどの少年が気になり、振り返った。阿知花もそちらに視線を向けた。

 少年は、ゆうかんにも怪人に立ち向かっていた。

『あの子は……』

 阿知花は不思議なかんがいに、胸がめつけられる思いがした。

 天地は、ふところから〝天地剣〟を出し、身構えた。

 禍因はやはり、不気味な笑いで新しい敵をむかえ入れた。

「ほう、お前の方から現れるとは……クククククッ、ちよう、よかった。私はじゆらいやしにしたいのだ。お前が生まれる前にそうしてやろうかと思ったが、こうなればここで、こうしてくれるわ。死ねーっ」

 バシバシバシッ!

 さっき冴羽人に向かって発せられた青いプラズマが、今度は天地をおそった。

「ぬおおおおお!」

 天地は、プラズマを天地剣で受け止めた。

「ほうー、クククククッ」

 禍因はうれしそうに笑った。

「ま、守ってみせるぜ……母さんを……」

 天地がプラズマをじよじよに押し返し始めた。

「……なかなかのパワーだな……吸収しがいのあるエネルギー量だ。それでは、これではどうだ……」

 禍因は、さっきよりもきようれつなプラズマを放った。

 さすがの天地も、今度はくいとめることができない。体が少しずつ青い光に包まれ、光球になっていった。

 そして、ついに禍因の暗黒のマントに吸収されはじめた。

「くそー、どうなってるんだ、この力は……」

 絶体絶命と思ったしゆんかんだ。

「やめてえっ!!

 その声と同時に、天地の体にしようげきが走った。

「うぐっ!」

 信幸は、青いせんこうはじけるのを見た。

 今にも、怪人のマントにみ込まれそうになっていた少年が、まるでスローモーションのようにゆかに落下した。

 そして、その叫び声のぬしを見上げた。

 それは今まで自分にしがみつき、ふるえていたはずの阿知花だった。

 すがりついていた信幸の腕を振り払い、すっと立った阿知花が、両手を前に出したと思った瞬間、今、のあたりにした光景がり広げられたのだ。

「な、なにっ!?

 禍因にも何が起こったのか、分からないようだ。

 阿知花が両手を前に突き出し、全身からオーラを発して立ちくしていた。

 禍因は阿知花を、不気味な目でにらんだ。

「クククククッ、やはりそうか。おまえは今までのやつらとは違う……フッ、おまえを探して、こんなへんきようわくせいまでやって来たかいがあったというもんだ」

 禍因はゆうぜんと、阿知花に歩み寄った。

「おまえの力だ……おまえにせんざいする能力がこの私を苦しめるのだ」

 禍因は、右手を阿知花に向けて突き出した。その人差し指に、プラズマが集まりだした。

 阿知花の目が大きく開いた。

 倒れていた天地が、顔を上げて叫んだ。

「や、やめるんだ……か、禍因!」


 ちょうどその頃、鷲羽たちはイライラして、美星からの連絡を、今か今かと待っていた。

「まずいわね……これ以上長引くとコントロールが不可能になってしまうわ」

 時間いんりつコントローラーのモニターにうつる、時間じくの波線を気にしながら、鷲羽がつぶやいた。

 と、その時だった。

「こ、こちらは美星で~す、ハアハア、ゼエゼエッ! ただいま、目黄不動へ装置をセットしました~!」

 通信機から、美星の声が流れた。

「やったー!!

 いつせいかつさいがあがった。

「よーし、よくやったわね。それじゃ皆、もう一度スイッチを入れるわよ」

 鷲羽は思いきりよく、えんかくそうスイッチを押した。

 今度こそ『れいけつかい発生装置』が作動し始め、すぐにその効果が現れた。

 東京中の木々の葉が震えだし、大空にい上がった。そして、都内の五か所のポイントから空に向かって光が立ち昇った。

 目赤不動、目白不動、目青不動、目黒不動、そして目黄不動から。

 それぞれの不動みようおうぞうから発した、得も言われぬ美しい光が、東京タワーへ向かって集まった。やがてタワー全体が、えんちゆう形にシールドされていった。

 それはまさに、禍因が阿知花にプラズマをびせようとした瞬間だった。

 シールドによってけ目が発生し、禍因はそこに吞み込まれはじめた。

「グアアアアアアッ!」

 だれもが、やったと思った。

 のもつかの間、その一瞬後、とんでもないことが起こった。

 禍因が、阿知花を道連れにしたのだ。

「きゃああああっ!」

 阿知花の悲鳴がこだました。

 天地は力を振りしぼって立ち上がった。

○○○○○!」

 少年が何か叫んだような気がする。

 だが、阿知花には、もう何も聞こえなかった。

 空間の裂け目は、二人を吞み込むと、満足したようにその口を閉じ始めた。

 その時である!

「阿知花ちゃん!」

 もうぜんと信幸が阿知花を追って、みずかしんえんの世界に身を投じた。

 次の瞬間、最後のきらめきを放って、空間の裂け目は完全にしようめつした。

 遠い東の空に煌く、その最後の光を、食い入るように、いつまでも見つめている男があった。

 そう、東京から遠く離れた地で、娘たちの帰りを待っているまさかつひと、その人であった。