第7章 西暦1970年、東京上空異常あり



 すがすがしい朝である。

 その日の東京は、見事な快晴だった。この時期にしてはめずらしく、はるか遠くまでながめることができた。

 さわやかなお天気が、皆の気持ちを楽しくさせた。朝食の時から、なんだかウキウキとした気分がみなぎっていた。

 一昨日からの修学旅行を楽しんできた生徒たちが、最終日の今日、いよいよ東京タワーを見学するとあって、こうふんしたおもちで観光バスに乗り込んでくる。

 バスガイドが、明るい声であいさつをした。

「おはようございます。皆様、昨夜はよくお休みになれましたでしょうか」

「はーい」

 旅の疲れもなく、元気一杯の返事が返ってくる。

 一人の生徒が質問した。

「バスガイドさん、昨日のバスガイドさんはどうしたんですか」

「ええ。なんだか急にお腹が痛いということで、今日は私が、ご案内させていただくことになったんですよ」

「えー? ほし先生も腹痛じゃなかったっけ?」

 別の生徒が、おどろきの声を上げる。

「あの二人、仲が良かったからなあ。きっと昨日の夜、いつしよに何か悪い物でも食べて、食あたりでも起こしたんだよ」

 口の悪い生徒の推理に、全員がドッと笑った。

 きよが聞いたら、しつしん寸前であろう。

「そういえば、転校生二人はどうしたの?」

 今日は、ちゃっかりとなりの座席にじんっている、のぶゆきが聞いた。

「それが、あの二人も腹痛なんですって。りようさんにさん、それに美星先生やガイドさんまでそろって食あたりなんて……一体、何を食べたのかしら?」

 阿知花は、ちょっと心配そうに、だがおかしさをこらえ切れないようで答えた。

「ハハハハッ……そうかあ。昨日、人形焼だかみなりおこしだとよく食ってたからなあ。あの人たち、なんだか食い意地はってそうだもんなあ」

「そうねえ……ウフフフフッ」

 二人は、顔を見合わせて、仲むつまじく笑った。

 阿重霞が聞いたら、ふん寸前であろう。

「でも、ちょっとかわいそうね」

 バスの窓から遠ざかるホテルを見上げて、阿知花は、ひとりごとのようにささやいた。


 ちょうどその頃、天地たちもホテルを出発しようとしていた。

 皆、ナップザックを背負い、手に手に地図を持っている。

「クシュン!」

 阿重霞がくしゃみをした。

「あれっ……お姉様、カゼひいたの?」

 ちゃんが心配そうに聞いた。

「へっ、だれかが悪口でも言ってんだろう」

 また始まりそうなはい。誰です、ハヤシたてるのは。

「なんで私が、この時代に来てまで、かげぐちたたかれなくちゃいけませんの」

 阿重霞はムッとなった。

「まっ、もって生まれたごうってやつかな」

「な、なんですって!」

 一気に、いつしよくそくはつ状態の盛り上がり。と、いきたいところだが、だいの前である、清音がなだめるように言った。

「まあまあ、ケンカは後にして、いい? 昨日打ち合わせした通り、それぞれの場所に装置を間違いなくセットするのよ。

 魎呼さんはじろどうに、阿重霞さんはあお不動に、砂沙美ちゃんとりようおうあか不動に、それから美星は不動に行ってちょうだい。

 私は、ぐろ不動へ行くわ。さんと天地さんは、東京タワーに先回りして、万一の場合に備えてください。

 バスは、朝から公園を回って、途中で昼食。1時過ぎには、東京タワーに着くから、皆、それまでに必ずセットするのよ。時間はまだあるから、地図をよく見て間違えないようにね」

 この時、清音は大変なミスをおかしたことに気がついていなかった。

 そう、皆にあわてないようにね、と言う意味で『時間はまだあるから』と言ってしまったのである。

 あろうことか、この連中に……。


 こんじよう院、目白不動へ向かう魎呼は、一行と東京駅で別れた後、山手線の内回りに乗った。

 通勤ラッシュで乗車率は200%だったが、あみだなはガラきであった。

「ヨイコラショッと」

 ヒョイ、と網棚に飛び乗り、ゴロリと横になって地図の下調べを始めた魎呼に、口出しできる客はもちろんいなかった。

 地図を見ると、目白不動はそう遠い場所ではない。

「確か、この電車は同じ所をグルグル回ってるとか言ってたなあ。まだ時間はあるってことだし、ちょいと一周、昼寝でもしていくか。だいな仕事の前はリラックス&リフレッシュだよな」

 そう思った魎呼は、人々の視線をまったくもって、スッコ~ンと無視してグースカと眠り込んでしまったのであった。


 教学院、目青不動へ向かった阿重霞は、山手線で渋谷駅へ直行。

 ハチ公前に出たまではよかったが、目の前に交番があるというのに、きもせず、地図を見ながらウンウンうなっていたのが運のツキ。

「お嬢さん、どこ行くの?」

 いかにもの男に声をかけられたが、そこは世間知らずのしようしんしようめいのお嬢様。

 親切な人とばかりに、地図を見せて相談してしまった。

「なんだ、教学院か。ちょうど、俺もそっちへ行くところなんだ。いつしよに連れてってあげるよ、もうだいじよう

 そう言って、男が歩きだしたのは、もちろん教学院とは、まつたく違う方向であった。

 どの方向かは、ご想像におまかせ、お任せ。


 美星は、東京駅で皆と別れた後、なぜか駅構内にとどまり、立ち食いソバを食べていた。

「フーッ、フーッ、ツルツルツル、ああ、おいし~い! 時間はまだあるって言ってましたもんね。まず、腹ごしらえしなくっちゃ。あっ、おじさん! だまお願いシマ~ス!」

 九州のたいラーメンと、完全にかんちがいしている美星であった。

「な~んだ。立ち食いソバには替え玉はないのか。残念。あっ、売店があるから、お買って行こうっと。旅行用に持って来たのは、ぜ~んぶ食べちゃったもんね。おばさあん! チョコボールくださ~い!!

 そうこうしているうちに、美星は「このホームから乗るのよ。間違えないようにね」と、清音から言い渡されたホームを、すっかり忘れてしまっていた。

 まあー、だれにも予想できたことではある。

 しかし、よもや目黄不動の地図まで立ち食いソバ屋に忘れてきていようとは、予想屋泣かせのボケぶりである。


 なんこく寺、目赤不動へ向かった砂沙美ちゃんと魎皇鬼は、通勤ラッシュにモミクチャにされながらも、きちんと山手線内回りに乗って単鴨駅へ。

 ところが……。

「お嬢ちゃん、一人? 今日は学校はどうしたの?」

 やたらめったら、やさしげな笑みを浮かべながら、心は笑っていない、おばさんが近づいてきた。

 そう、このおばさんはどういんである。

「あ、あの、砂沙美、お姉さんたちと約束があるの」

「お姉さんたち?」

 おばさんは、金歯をチラッと見せて言った。

「うん。ちゃんとしないと、天地兄ちゃんが大変なことになっちゃうから……」

 そう言って、走り去ろうとした砂沙美の腕をムンズとつかみ、またもや例の笑顔でおばさんは言った。

「そのお話、ゆっくり聞かせてちょうだい」


 りゆうせん寺、目黒不動へ向かった清音は、けんめいにもタクシーを使い、じゆうたいにもひっかからず、とっとと目的地に着いた。

 目黒不動して、けいだいをズンズンと歩いていた時である。

 フト、足が重くなった。

 見ると、3歳くらいの女の子がシッカと、清音の足につかまっている。

「ママ~、ママ~」

「えっ?」

 少女のあまりの呼びかけに面食らった清音だが、そこはギャラクシーポリス。

 時代や場所が変われども、市民の味方のおまわりさん。

 優しい笑顔で、女の子に訊いた。

「お嬢ちゃん、まいかな?」

「ママ~、ママ~」

「ここまでお母さんといつしよに来たの?」

「ママ~、ママ~」

 かんかつ外とはいえ、こんなおさない子を置いていくわけにもいかず、弱り果てた清音の頭に浮かんだのが、さっきタクシーで前を通ったしゆつしよだった。

「分かったからもう泣かないで。お姉ちゃんとおまわりさんの所に行こうね。ママを捜してもらってあげるから」

 そう言って、少女の手を引いて歩き始めようとしたが、少女は清音の足にしがみついたまま、その場にしゃがみこんでしまった。

「イヤ~ン、ママ~、ママ~」

「いや~んってねえ、こっちがいやになっちゃうわよ」

 しかし、少女はテコでも、コテでも動きそうもなかった。

「ああ~ん、もうー、時間がなくなっちゃう~」


「皆、うまくやってるかなあ」

 その頃、冴羽人と天地は、東京タワーに先回りしていた。

 そろそろ、阿知花たちを乗せたバスが、到着する時間である。

「おっ、バスが着いたようだな」

 外の様子をうかがっていた冴羽人が、天地の方を振り返った。

 見ると、バスからドヤドヤと生徒たちが降りて来ている。

 その中に、何やら楽しそうに話しながらこちらへやって来る、阿知花と信幸がいた。

 どうやら、特別展望台に昇るべく、エレベーター待ちの列に加わろうとしているらしい。

「いよいよ、この東京タワーで修学旅行もおしまいねえ」

 阿知花が信幸に話しかける。

 この修学旅行の3日間で、どうやら二人はすっかりうちとけた様子である。

「うん、早かったね。でも、楽しみだなあ、展望台」

 信幸は、展望台に昇るのが、うれしくて仕方がないようだ。

「そうねえ。きっと、あんな高い所から地上を見たら、私たちの悩みなんて、ほんのちっぽけなものに思えるんでしょうね」

 阿知花が展望台を見上げながら、静かに言った。

「それより阿知花君、もうだいじようかい? さっきはビックリしちゃったよ」

 信幸が思い出したように、阿知花の顔を見た。

「ええ、心配かけてゴメンね。ちょっと疲れただけよ」

「そうだね、知らない所へ来てきんちようもしてるんだろうし、みんな遅くまで騒いでるからな。ゆっくり眠れないもんね」

 今日の最初の目的地、代々木公園を歩いている時、阿知花は突然の頭痛におそわれた。

 激しく、割れるような痛みにまんできず、その場にうずくまってしまった。いつしよに歩いていた信幸が、かげかかえるようにして連れていってくれた。

 2、3分も休んだだろうか。阿知花はすぐによくなった。何事もなかったように、いつもの笑顔が戻った。

 そんなことがあった。


 その頃、『れいけつかい発生装置』の前で、鷲羽はイライラしていた。

「あー、もう! どういうことよ。とっくに1時を過ぎたっていうのに、どのポイントにも装置が設置されてないじゃないのよ!」

 だいにんおおせつかった皆さんを、もう一度見てみよう。

 魎呼は、ようやく長い昼寝からめ、目白駅の時計を見て、がんめんそうはくになった。

「ゲッ、もう1時を過ぎてるじゃねえか。じようだんじゃねえよ!」

 必死で駅の階段をり始めたが、

「あー、こんなんじゃ天地が死んじまうよ」

 と、またもや周囲の目をものともせず、空を飛び、かべを抜けて金乗院へ向かった。

 またたく間に金乗院へたどりくと、おおあわてで目白不動に装置を設置。

 ホッとひと息ついたたんあわを食って大に仕事をした自分へのかくしに、欲しくもないさいせん箱を盗み出した。

「ま、人間このくらいの遊び心がなくっちゃいけねえよな。それにしてもシケてやんの」

 人間? だったの…。ということはさて置き、天地のためだとついつい、大真面目になってしまう魎呼。だが、それに自分で気がつくと、なおになれなくなってしまうのである。


 阿重霞は、いかがわしい男に、いかがわしいホテルに連れ込まれ、いかがわしい男をこうかいさせていた。

「よくも、じゆらい星第一おうじよの私をたばかりましたわね!」

 平手パンチ、つめこうげきまわり、およそ皇女とは思えないヒステリックなわざの数々で男をなんなくノックアウトした阿重霞は、外へ飛び出した。

『ああ、私のせいで天地様にもしものことがあったら、阿重霞も生きてはおられません!』

 心でそう叫ぶと、道を歩いていたサラリーマン風の男の首をめあげた。

「教学院はどっちなの! さあ、早くおっしゃい! うそをつくとあなたのためになりませんわよ!!

 道をたずねるというよりは、きようかつである。

 しかしこれもいちな恋心ゆえ、とかんだいな心で許せる人間は、おそらくだれもいないであろう。が、阿重霞は十人あまりのせいしやを出して、ようやく三軒茶屋にある教学院、目青不動にたどり着いたのである。

「天地様、私やりましたわ!!

 装置を設置し終えた阿重霞の目には、うっすらと涙が光っていた。

 そして、えんむすびのの前に行くと、両手を合わせた。

「どうか天地様とげられますように。じやな魎呼は、トットといなくなりますように……」


 さて、こちらは交番に連れてこられた砂沙美ちゃん。

こわがらなくていいのよ。怖いお姉さんたちに、言いつけられたんでしょう? 言うことを聞かないと、お前のお兄ちゃんがひどい目にあうぞって」

 どういんのおばさんは、とんでもないかんちがいをしていたのである。

 つまり、不良のお姉さんたちが、砂沙美の大好きなお兄ちゃんをタテに、砂沙美に言うことを聞かせていると……。アレ? 間違ってなくもないか。

 とにかく、砂沙美には時間がない。砂沙美は困り果てていた。

 思わず、魎皇鬼と顔を見合わせたが、

「よし、砂沙美ちゃん。プリティサミーに変身だ!」

 とは、もちろん言ってくれはしない。

 時計を見ると、もう1時を回っている。

「天地兄ちゃんが、もし天地兄ちゃんがいなくなっちゃったら、それは砂沙美のせいなんだ」

 そう思うと、大きな両のひとみから、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。

「まあ、よっぽど怖かったのね。いいのよ、いいのよ。ゆっくり話してちょうだい。そうだわ! お腹がいたでしょう。何か、出前をとってあげるわね」

 またまた勘違いしたおばさんが、いそいそと電話をかけにいったそのすきに、砂沙美と魎皇鬼はばやく飛び出した。

「天地兄ちゃん、待っててね!」

「ミャオ~ン!」

 そして、南谷寺目赤不動にどうにかたどり着くと、素早く装置を設置した。

「これでよしと。なんとか間に合ったわ、リョウちゃん」

「ミャア~、ミャ~ァ!」

 魎皇鬼も大喜び。


 ところで、清音はどうしているのだろう。

 けいだいで「ママ~、ママ~」と女の子にしがみつかれ、ほとほと困り果てていた。

「あ~、もうカンベンしてよ~。それにしても、あんたのママ、そんなに私に似てるの?」

 その時、巨大なにくかいがドスドスとひびきを立てながら、境内を上がって来た。

「あら~、マミちゃん。こんな所にいたのお。ママ、心配しちゃったわ~」

 肉塊だと思ったのは、まんの限りをくした中年女だった。そう、手も足もまるでハムのような……。

「ママ~!!

 マミちゃんと呼ばれた女の子は、清音を突き飛ばして、巨大な化け物にしがみついていった。

 清音が正気を取り戻すのに、たっぷり3分はかかったが、そこは非常事態にも備えるギャラクシーポリスである。

 乙女おとめ心のほうかいという、きびしいれんも乗り越え、かんにも目黒不動へと向かったのである。

 アッパレ! 清音。

 がんばれ! 清音。

 君の未来は、明るい!……んだろうか。


 地図をなくしたことに気づき、探したが見つからず、道行く人にすがりながら、美星はようやく目黄不動へたどり着いた。

 寺の境内でそうをしている、じゆうしよくらしいお坊さんを見つけると、け寄った。

「あの~、すみませ~ん。このお寺にメキフドウがあると聞いたんですけど~」

「ああっ、それならこの奥じゃよ」

「うわ~い、やった~! ありがとうございま~す」

 美星は喜びいさんで奥へけ出した。そして、、装置をセットしたのだった。

 美星にしては、なかなかのフォローではないか。

 しかし、何か期待してますか?

 美星はここにたどり着くまでに、たっぷりと時間を浪費しているので、他の面々のように、現地でボケているひまはないのです。

 あしからず……。

 と、言っておいて、だいじよう

 期待は決して裏切らない、美星おねえさんなのです。

 必ずやってくれます、お楽しみに……。


 一方、阿知花と信幸は、アツアツムードで展望台にいた。

「わあ~、すごいわ。信幸くん。ホラ、ホラ、人や車が、あんなに小さく見える!」

「うん。こんなにたくさんいる人の中で、ぼくと阿知花ちゃんが出会えたなんて、うそのようだね」

「信幸君!」

「阿知花ちゃん!」

 いつの間にか、信幸は〝阿知花君〟から〝阿知花ちゃん〟と親しげに呼ぶようになっていた。

 やってくれますねぇ。

 見つめ合う若い二人に、今、何もこわいものはなかった……ハズだったのだが。

 世の中、そううまくはいかないのだ。

「阿知花ちゃん、あっちの窓辺に立ってごらん。8ミリるよ」

 信幸が、カメラをかまえて言った。

 阿知花は、言われるまままどぎわに行くと、ポーズをとった。

 次のしゆんかん、カメラをのぞいていた信幸が、変な顔をした。そして、いったんファインダーから目をはずすと、ぼんやりとした視線で阿知花の方を見た。

 顔はこちらを向いているが、しようてんは阿知花を通り越して、窓の外にあった。つられて阿知花も振り向いてみた。

 さっきまで、あんなに晴れ渡っていた空が、突然、くもりだした。それも、すみを流したように黒雲が急激に流れ、だいに台風の目のようなうず巻きになった。

 そしてあたかも、たいの知れないな目のようになり、二人をジッと見つめているようにも見えた。

 よく見ると、不思議なことに、その雲は東京タワーの上空にだけ、発生しているのだった。

 阿知花は、これまで感じたことのない恐怖に、身をふるわせた。どこからつき上げてくるのか分からない、恐ろしさと不安が阿知花を支配していた。

「あ~あ、せっかく東京タワーで、けつさくを撮ろうと思っていたのに……こんなに空が暗くなったんじゃなあ……」

 信幸には、まだ何が起ころうとしているのか想像すらできなかった。

 事の重大さに気づいていない信幸は、のんびりとしたいきいた。

「それにしてもこの雲は変だな!?

 信幸はさらに暗くなり、不気味さを増した空ようと、顔をこわばらせて立ちすくんでいる阿知花をこうに見た。

 少しずつ高まるきんちよう感に、やっと信幸にもただ事でないことが分かってきた。

 周りのクラスメイトやいつぱんの客もさわぎだしている。

 皆をパニックにおとしいれたのは、次の瞬間だ。

「キャーッ」

「な、なんだアレは!?

 うず巻きの中心に、のうめんのような顔が浮かび上がった。

 展望台にいた人々は、われさきにエレベーターへ向かって走り出した。

 阿知花と信幸も、人々の群れに加わろうとした。

 と、その時! いなずまが走り、らいめいとどろいた。

 一瞬、せんこうに包まれた東京タワーがまぼろしのように浮かび上がった。

「ウッ」

 突然、頭を押さえて、阿知花がその場にうずくまった。

「どうしたんだ、阿知花ちゃん!」

 信幸が、ただならぬ阿知花の様子に、けつそうを変えて叫んだ。

「あ、頭が割れるように痛い……ウッ」

「阿知花ちゃん、阿知花ちゃん!!

 そうこうしているうちにも、うず巻きはどんどん下降し、タワーに近づいてくる。

 エレベーターは、二人に気づかず、置き去りにして行ってしまった。

 いや、こっそりと二人をつけて、見守っていた天地と冴羽人も残して。

「ピカッ!!

 うず巻きの中心からプラズマが放電したかと思ったら、まばゆいばかりの光球がい降りて来た。

 頭を押さえながら、阿知花はられたようにその光球を見つめた。

 すると、光球から青い光がほとばしり、阿知花をつつんだ。

「きゃあああーっ!」

 阿知花の悲鳴が、展望台に響き渡った。そして、くずれるように倒れた。

 必死にこらえて、様子をうかがっていた天地が、がまんできずに飛び出そうとした。

 と、それよりも早く! せまり来る光球に、なすすべもなくいた信幸が、気を失った阿知花をかばうようにおおいかぶさったのだった。


「いよいよ、お出ましだわね」

れいけつかい発生装置』のえんかくそうスイッチの前で、鷲羽はがまえた。

「行くわよ、皆!」

「あいよっ」

「はい!」

「は~い」

「ミャー!」

 通信機から、魎呼の、阿重霞の、美星の、清音の、砂沙美の、そして魎皇鬼のきんぱくした声が、次々と返って来た。

「さあ、うまく動いてちょうだいよ。『霊波結界発生装置』、作動!!

 鷲羽がスイッチボタンを押した。

 たんに、東京都の五つのポイントから空に向かって五色の光が立ち昇る……ハズなんだが。

 お~い、どうしたの???

 シーンと静まりかえり、なんの反応も示さない。

「おかしいわ、作動しない! こんなはずは……」

 鷲羽は遠隔スイッチを激しくすった。

「鷲羽、どういうことだよ!」

「鷲羽さん!」

「鷲羽お姉ちゃん!」

「ミャミャー!」

 通信機から、皆の不安げな声が流れてくる。

「ちょっ、ちょっと待っててよ。私の計算にミスがあるはずが……」

 鷲羽は、冷静さを取り戻し、チェックポイントを調べ始めた。

「おーい、まだかよ!」

「鷲羽さん、急いでください!」

 皆のイライラが聞こえてくる。

「……えーい、うるさいわね! えーっと、目赤不動はOK。目白不動もOK。目青不動、これもOK。目黒不動OK。そして、目黄不動……あらっ、美星殿、ちゃんとセットしてる?」

「はい、やってま~す!」

 通信機から、美星の元気な声が返ってくる。

「おかしいわね……あっ!」

 何かに思い当たったように、鷲羽は続けた。

「美星殿、ちゃんと地図を見て行ったんでしょうね。目黄不動の場所だけど……私の指定した場所? 目黄不動は二か所あるのよ!」

「え~? 二か所お~!!

 すっとんきょうな声で叫んだ美星に、鷲羽は頭をかかえた。

「そうよ、二か所よ! 私の指定した所じゃなきゃ機能しないのよ。だから、地図を送ったでしょうがっ!」

「それが、地図をなくしちゃって、一生けんめいきながら来たんですけど、まさか二か所あるなんて……ふぇっ、ヒック、ヒック、グスン」

 言いながら、だんだん涙声になってくる美星に、清音が呼びかける。

「泣いてたってしょうがないでしょっ! とにかく早く指定の目黄不動へ行きなさい!」

 清音の声に、ますます美星は泣きじゃくる。

「あ、あたしのせいで、天地さんが、天地さんがあ~。ウワーン! 清音ェ!!

 その時、通信機から砂沙美の声が聞こえた。

「美星さん、まだだいじようですから。落ち着いて、行ってください」

「そうよ、砂沙美ちゃんの言う通りよ。もう一度地図をそこに送るわ。とにかく一刻も早く正しい場所に設置するのよ」

 子供をあやすように鷲羽が言った。

「はいっ。グスン」

 やさしい砂沙美の言葉にはげまされながら、ようやく美星は気をとり直し、正しいポイントへと向かった。

 お約束通り、やってくれましたが、今回のボケは笑ってすまされない。


「阿知花ちゃん、しっかりして! 阿知花ちゃん!」

 意識のない阿知花を抱き起こして、信幸は並べたの上に横たえた。

 光球はなおもせまって来る。その時だった。阿知花と信幸の前に、一人の男が飛び出した。

 GP隊員の冴羽人である。

 冴羽人は、光球に向かってライフルをかまえ、しようじゆんを合わせた。

 ガラスしに正面にたいするところまで降下してきた、光球からの強力なプレッシャーで、窓ガラスがくだけ散った。しかし、冴羽人はどうだにせずライフルを構え、大容量のビームを光球目がけて発射した。

 攻撃を受けた球体は、プラズマを発しながら急激にぼうちようし、はじけるように一面を異世界に取り込み始めた。

 そこはオーロラが輝く亜空間であった。

 やがて、いくつもの光点がしゆうそくし、それは人の型を取り始めた。

 そして、まばゆい光が消えると、能面のようなな顔に長い長いマントを引きずった、人間の姿が現れたのである。

 と、同時に亜空間は消えていた。