第6章 宇宙暦507510……GPしようめつ



「ヤッホー、皆、しゆはどうだい?」

 通信モニターに現れた鷲羽わしゆうは、元気に問いかけた。

「どうだい? じゃねえよ。前の通信は途中でえたって言うし、その後はなしのつぶてだ。一体、何やってたんだよ!!

 りようが画面にかみつき、他の皆もすがりつくように画面の周りに集まってきた。

「ごめん、ごめん。どうも時間じくが不安定で通信がうまくいかなかったのよ。でも、この天才鷲羽ちゃんが改良を加えたから、もう安心よ」

 鷲羽の話が終わるのを待ちかねたように、皆を押しのけて、きよがモニターの正面に進んだ。

「鷲羽さん、いんって、まさか……」

 先程、思い立った恐ろしい禍因の正体!

 清音は、鷲羽が自分の考えを否定してくれればいいと思いながら、その言葉を口にした。

「さすが、清音殿! ギャラクシーポリスのデータをよく勉強してるわね。そうなんだよ、今回の事件の原因はあの禍因てわけさ」

「だって、そんな……」

 信じられないという表情で、なおも何かを言いかけた清音の横から、魎呼が割り込んできた。

「もったいつけねえで、早く言えよ! 鷲羽」

「はい、はい。あんたは相変わらずせっかちだね。今、説明してあげるから……」

 鷲羽は、いつになく重々しい調ちようで語りはじめた。

「禍因。それは年齢・性別・出身・経歴、すべて不明のかいじんとくしゆエネルギー体N.O.V.に分類、コードネーム『K・A・I・N』。犯罪者ナンバー・07069……『ランクA』というだけで、身元を示すものは現在に至るまでいつさい見つかっていないわ。

 宇宙暦507410……、わくせいめつテロ及び殺人容疑によって全宇宙に指名手配され、時のじゆらいおうの協力により、ギャラクシーポリスの亜空間ネットでかく

 逮捕されるまでに惑星国家13、宇宙艦隊27万5千せきを破壊。この時の状況は、GP大艦隊に対して自己の持つ超能力で対抗しているわ。魎呼の比じゃないね、生きている超新星ってとこかな……。

 そして、逮捕以降ずっと、ギャラクシーポリス本庁の亜空間ルームにゆうへいされていたはずだったんだけれど、今回、どうやらこの禍因が脱走して、26年前の地球に来ているらしいのよ」

「でも鷲羽さん、禍因が脱走したとして、26年前にかんしようするっていうのは……」

 清音が、ギャラクシーポリスの顔になって言った。

「ふむ、亜空間から抜け出すやつなんだから、時空間にえいきようがあったって、不思議はないさ」

 と、その時突然、別のところから声がした。

「続きは、おれに話させてもらえないか」

 それは、いつの間にか部屋の入り口に立っていた、昼間のGP隊員だった。

「おめえは……!」

 男に飛びかかろうとする魎呼を、鷲羽がたしなめた。

「よしなさい、魎呼。あなたは、ギャラクシーポリスの生き残りね?」

「生き残りって……」

 鷲羽の言葉に、清音がげんそうに聞き返す。

「ギャラクシーポリスは、しようめつしたわ」

 きっぱりと言った鷲羽の言葉に、全員がこおりついた。

「そうさ。すべてあいつ、禍因のせいだ!」

 男が語りはじめた。

「その日、俺はいつもの定期報告のために、本庁を訪れていた。報告は問題なく終わり、最上部の展望カフェで、昔なじみの同僚と世間話をしていたんだ。

 無限に広がる宇宙は、いつ見ても神秘的で、星々は何かを語りかけているようだった。特に、その日の美しさは格別で、がらにもなく感傷的になって、同僚に笑われたもんだ。

 そいつが言うには、もう小一時間ほどで、長い定期パトロールに出るというんだ。それで、きるほど、星や銀河や暗黒の宇宙につき合わされることになるのに、ここで宇宙観測はゴメンというわけさ。

 その時だった。突然、俺の目の前にいたそいつが消えたんだ。いや、そいつだけじゃない。きつ室にいた、少なくとも半数がこつぜんと消えたのさ。

 そして、次のしゆんかん、激しいしようげきと突風が起こり、警報が鳴った。

『緊急事態、緊急事態! 亜空間ルームに異常が発生しました。コアブロックを中心に通常空間がみ込まれています!』

 と言う、アナウンスの声に、俺はあわてて亜空間ルームをせいぎよする電子制御室へと走った。

 さざ波のようなもんが、断続的に走りつづける不安定な空間の中をけて、電子制御室へたどりいた俺が見たものは、コンピューターのモニターに自動てんめつする『KAIN・ROCK・OFF』という赤いランプだった。

 俺は自分の目を疑った。

 亜空間ルームのコアブロックには、二重三重のかべがめぐらされて、ロックがかけられていた。脱走なんかできるはずがないんだ!

 いや、だが奴は脱走した。恐ろしいプラズマを発しながら……。

 やむをえず、中央コントロール室が第一級セキュリティを始動させた。コアブロックを次元シールドでふうしようとしたんだ。

 無限の光を発しながらシールドが広がり、亜空間化したコアブロックをつつみ込んだ。

 一瞬のせいじやくもどり、作戦は成功したように思われた次の瞬間、オーロラ状の光がはなたれ、シールドは消滅してしまった。

 そして次に、奴の力の影響が本庁の建物にまで及び始めた。あちこちのブロックが消え始め、パトロールていも消え、GP隊員もことごとく消滅していった。死体も何も残さずに……。

 せき的に難をのがれた俺は、時間じくの乱れで、奴がマイナス・ポイント……過去へ空間移動しようとしているのを知った。そこで、奴について、この26年前の地球へやって来たんだ。時間軸に吞み込まれる瞬間、つまり時空転移の瞬間、俺が最後に見たものは、亜空間に吸収されていく、本庁の姿だった……」

 話し終えた男をえて、鷲羽がいた。

「それで、あなたはどうして殿がねらわれていると思ったの?」

「それは、もちろん彼女がじゆらいおうの血を引く者だからだ。禍因は、樹雷にうらみを持ちし者。その昔、宇宙のいたる所で破壊とさつりくり返していた禍因が、ギャラクシーポリスにかくされる時、それに協力したのが当時の樹雷皇。それ以来奴は、樹雷をにくふくしゆうの鬼と化したのだ」

「それが阿知花とどう関係するんだ」

 魎呼がイライラして聞いた。

「奴はこの地球に来る前、樹雷に向かい、現樹雷皇をおそったのだ」

「阿知花たちとは関係ねえだろう」

「ならばいいが、現樹雷皇ですら直接かかわったわけではないのに、ターゲットになり、ダメージを負った。禍因は樹雷の皇族すべてに、復讐するつもりと考えてもおかしくあるまい。当然、第一おうようしよう殿とその娘の阿知花殿も例外ではないだろう」

「ちっ、とんだとばっちりってわけか」

 魎呼が舌打ちした。

「それだけではない……奴の能力は反樹雷のエネルギーを利用している……高レベルの樹雷エネルギーを持つ者は、いないに越したことはないのさ」

 それまでだまっていた天地が、ぽつりと言った。

「でも、どうしてお袋を……お袋は普通の地球人として生まれ育っている。樹雷のエネルギーはもちろん、樹雷の血を引いていることだって知らないはずだ。ましてや高レベルの樹雷エネルギーを、感じるはずはないのに……」

「ふーん、そういう意味じゃ、勝仁殿や天地殿が最初に狙われてもいいのにね……」

 鷲羽がたんたんと言う。

「どうして、わざわざ26年前にやって来て、彼女を狙うのかは分からない……」

 冴羽人がつづけた。

「……そこのところは後でゆっくり考えるとして……わざわざここに現れたってことは、私たちに力を貸してくれるってことかしら、GP隊員さん」

 鷲羽は、画面の中から冴羽人にウインクを送った。

 ウインクにややたじろぎ、うろたえながら冴羽人が答える。

「お前たちに協力するわけじゃない。ただ、敵が同じなら、人は多いほうがいいと考えたんだ」

「まあ、なおじゃないね」

 いかにも機密にかかわる公務員という答え方に、ちょっと肩をすくめ、鷲羽は話を続けた。

「まあ、いいわ。とにかく今は時間がないんだから、話を先に進めましょ。禍因が阿知花殿を襲うのは、99%の確率で、今から24時間以内。場所は、でんとうのあるところ」

「電波塔……って、東京タワー!?

 天地が叫んだ。

「あ~ん、せっかく展望台から記念さつえいしようと思ったのに~」

 美星である。やはりこのパターンだ。

「あんたは黙って!」

 清音に口を押さえられてしまった。

「そう、東京タワーよ。1996年現在も日本を代表する電波塔よ。おそらく、禍因はこの電波塔のエネルギーで自分の力をぞうふくさせ、阿知花殿を襲おうとしている。でも、そうはさせない。ここに、禍因をらえた時のデータがあるわ。この時は、亜空間ネットと樹雷皇の樹雷エネルギーによってかくしている。つまりは、樹雷エネルギーにひつてきするものを、用意しなければならないってこと。でもこの時代に、樹雷皇クラスのエネルギーを持つ者は存在しないわ……」

 鷲羽がちょっぴり、顔をしかめた。

「じっちゃん、だったら……」

 天地がひとごとのように言った。

「勝仁殿といえども、このエネルギー量は不可能ね。仮にあったとしても……」

「あったとしても……?」

「禍因を封じ込めた樹雷皇は、その後早死にしているわ」

「え~っ!」

 皆がいつせいに声を上げた。

「そこで、天才鷲羽ちゃんが考えたのが特製『れいけつかい発生装置』よ。これは、地球における樹木の霊波を増幅させ、亜空間ネットに連動させることによって結界を作るってしろものよ」

「なんだよ……言ってることがよく分かんねえんだけど……」

 魎呼に話の腰を折られた鷲羽は、ムッとして荒々しく答えた。

「つまり、樹雷エネルギーと亜空間ネットをいつしよにした装置ってこと!」

 そして、何やら装置を取り出し、さらに説明を続けた。

「この通信が終わりだい、この装置を5つ、その部屋に空間移動させるわ。あんたたちは、この装置を東京タワーを中心に5カ所に設置してちょうだい。

 ただし、どこでもいいってわけじゃないわ。

 装置と一緒に地図も送るから、間違いなくチェックされた場所に設置すること。

 それ以外の場所はだめよ。

 あとは禍因が東京タワーに現れたら、私がえんかくそうで『霊波結界発生装置』を始動させるから。ただし、この装置の作動時間は10分。もし、10分以内に禍因を捕らえられなかったら、この計画はおしまいよ」

10分! そんなんで足りるのかよ」

 魎呼が、また文句を言っている。

「それが限界よ。何たってインスタントの樹雷エネルギー発生装置だもん。動くだけマシってもんよ」

「本当に地球で樹雷の力が、発生するのでしょうか?」

 さすがのも心配そうだ。

 その時だ。

「あっ」

 突然、部屋にいた全員が、天地を見て叫んだ。

 天地の体が半透明にブレたのだ。

 だが、それはほんの一瞬のことで、次の瞬間には元に戻っていた。

「タイムリミットが近づいてきたちようこうね。でも禍因が現れるまでは、シールドはかんぺきに機能するはずだから。じゃあ、皆、幸運を祈るわ」

 そう言って、画面から鷲羽が姿を消した一瞬の後、モニターの前にさきほどの装置と地図がこつぜんと現れた。

「一体、どこに設置しろって言うのかしら」

 清音が地図を手に、設置場所をチェックしはじめた。

ぐろじろ……」

「あれっ、これ〝江戸しきどう〟のことか?」

 清音と一緒に地図をのぞき込んでいた天地が不意に、思い当たったように言った。

「五色不動って?」

 砂沙美が、天地の側にやって来てく。

「うん。江戸城の守りとして、五か所に不動みようおうを祭ってあるんだ。確か他にあかあお……間違いない!」

「なるほど。過去のれいじようを利用して、地球の大気のエネルギーを集めようというわけか。さすがマッドサイエンティスト、鷲羽の考えそうなことだ」

 天地たちの会話に耳を傾けていた冴羽人が、感心したように言った。

「安心するのはまだ早いぜ、おっさん。あいつの発明は確かに天才的だが、役に立たないことも多いんだ」

 冴羽人に、そう挑戦的に言う魎呼に続いて美星が言った。

「そういえば、魎呼さんも鷲羽さんの発明品でしたねえ。アハハハハ」

 万事休す。