「フーッ。砂沙美ちゃん、疲れただろう」

「うん、ちょっとね」

 ああ、なげかわしや。砂沙美姫。世が世なら、だいみよう旅行もできましょうに。

「フミャー」

「リョーちゃん、だいじよう?」

 広い銀河をけめぐる宇宙船が、荷物の中にまぎれていたのである。

 さぞ、きゆうくつだったであろう……。


 一行は皇居の東側にある、二の丸庭園を歩いていた。

 信幸がしきりに、8ミリカメラを回している。

「あれ? 信幸君、8ミリ持って来たの?」

 女生徒の一人が声を上げると、たちまちクラスメイトが、信幸の周りに集まってきた。

「わあ、って、撮って」

「ヤッホー!!

「アッホー!!

 こういう奴もたいていクラスに一人はいる。

 カメラの前でVサインしたり、おどけてみせるクラスメイトを、しばらく撮影していた信幸だったが、やがてそのファインダーは、少しはなれた阿知花をとらえた。

 さくらなみの中で、阿知花はほほんでいた。

 美しく、あでやかに。

『ああ、青春ってらしい!!

 信幸は、おおでなくそう思った。

 生徒たちから、少し遅れてやって来た天地たちが見たのは、ファインダーしに阿知花に熱い視線を投げかける、信幸の姿だった。

「あのフィルム、ここで撮影したものだったんだね」

 砂沙美が言った。

「うん。家の近くじゃないなとは思ってたんだけど、修学旅行の思い出だったんだ」

 天地は、熱心にファインダーをのぞく、若き父親をかんがい深げに見つめながら言った。

 そして、1996年の、アノ、信幸の姿を思い出しながら、心の中でそっとつぶやいた。

『年を取るって、さびしい……』

 その時、一心不乱に8ミリを回しつづける信幸の所へ、魎呼と阿重霞がやって来た。

 しばらくおとなしかった二人だったが、なんだか背筋にかんが走る。

 あんじよう、魎呼が信幸にからみ始めた。

「おまえなー、阿知花ばっかりってんじゃねえよ」

 阿知花の姿に見とれていた信幸は、急に話しかけられて、しかもぼしをさされてあせった。

「な、そ、そんなことないよ」

「あら、お父様ったら真っ赤になって、若い頃は、ずいぶん、純情でいらっしゃいましたのね」

「はあ?」

 阿重霞のわけの分からない話に、ますます頭の中がこんがらがる信幸であった。

 かげからこのようを見ていた、天地と砂沙美ちゃんは、予想された事の成り行きとはいえ、ため息が出た。

「全く、お姉様たちったら、新幹線の中で砂沙美があれほど言ったのに」

「しっ、砂沙美ちゃん、こっちにかくれよう」

 向こうから、阿知花が近づいて来るのをみとめた天地は、砂沙美と木陰に隠れた。

「ねえ、どうしたの?」

 阿知花ばかりか、みんなが集まってきた。魎呼と阿重霞の行くところ、トラブルも多いが、いつも何かがありそうで期待させる。そんなイメージが人の心をくすぐるのかもしれない。

 いや、そんなんじゃない! 皆、多かれ少なかれ事件好き、とりわけ他人のトラブルには興味しんしん、というのがいつぱん大衆というものだろう。

 しかし、そのネタにされる方は、たまったもんじゃない。この場のターゲットはあわれなカメラ小僧。そして、状況を知らない、美しきモデル嬢。

「どうしたの? どうしたの?」

 もう一人、ややっこしいのまで登場してきた。美星である。

「ねえー、皆さん聞いてくださーい。信幸君ったら、阿知花さんばかり撮影しているんですよー」

 ここぞとばかり、阿重霞が大きな声で発表した。

 阿知花は、話題が自分と信幸のことだと知っても、きょとんとして聞いている。

「青春ですね~」

 美星がすぐに合いの手を入れる。

「いや~、ほんとやけるぜ!」

 魎呼がはやしたてる。

「やめてったら~!」

 勝手なことを言っている皆を、やっと阿知花が真っ赤になって止めた。

 が、この手の人の痛みなど、平気な連中だ。

「こんなところを、おまえのおやっさんが見たらしつしんもんだぞ」

 と、言って魎呼は、わざとらしいせきを一つすると、阿重霞を相手にクサいしばを始めた。

「阿知花……」

 勝仁のマネである。

「なあに?」

 阿重霞も阿知花を演じる。こうした段取りや、タイミングはリハなしのねんモンで一芸といえる。

「おまえ、今日、その……」

「はい?」

「信幸君と……その、なんだ、デートしたんだって?」

「えっ! な、何言ってんの、デートなんてしてないわよ」

 だれか止めないと、とどまるところを知らない。

「だっておまえ、8ミリのモデルまでやったそうじゃないか」

 たまりかねて、阿知花がった。

「あんたたちねっ!!

「別にかくすことねえじゃねえか、なあ?」

「ねーえっ」

 うなずき合う魎呼と阿重霞。この二人の共同戦線にかなうものなどない。

 離れて木陰から見ていた天地と砂沙美ちゃんと魎皇鬼は、目をおおいたくなった。

「あいつら、なにやってんだよ! もう……」

 天地がイライラして言った。

「せっかく天地兄ちゃんのお父さんとお母さんが、仲良くなりかけていたのに……」

「ミャア~」

「本来の目的を忘れてるんじゃ……」

 深くため息をついた天地の体が、突然消えかけた。

「うわっ! まただっ」

「天地兄ちゃん!」

 しかし、それは長く続かなかった。しばらくすると体は元にもどった。思わず天地と砂沙美ちゃんは、その場に座り込んでしまった。

「……鷲羽さんのシールドの効果が、弱くなっているのかなあ……」

「うん……急がないと」

「ミャー」

 魎皇鬼が不安そうに、二人を見上げた。


 魎呼たちを無視するように、阿知花は信幸に言った。

「信幸君、浅草では2時間自由行動だって。いつしよに回らない?」

「う……うん」

 ちょっと回りを気にしながら答える信幸に、存在を無視されてカチンときた魎呼が、からむ。

「おう、おう、この色男! 熱いねえ」

「あんたたち、信幸君に変なこと言わないでね!」

「あら、あら、変なことって何ですの?」

 とぼける阿重霞に、阿知花が食ってかかる。

「だから、私たちがデートしたとか、手をつないでたとか、こ、恋のABCとか……」

「恋のABC……?」

 突然、すっとんきょうな声を上げた信幸を見て、真っ赤になった阿知花は顔をおおって、その場を逃げ出した。

「バカ! もう知らない!!

 という言葉だけが残された。

 ハッと気づいた信幸。

 反射的に追いかけた。(行動力がえたかな)

「おーい、阿知花君。待てよー」

 二人が去って、ギャラリーも散って行った後に、隠れていた天地、砂沙美、魎皇鬼が出てきた。

 天地は、当たり前と言えば、当たり前だが、げんな顔をしていた。

「いい加減にしてくれよ、二人とも」

「そうよ、なんであんなにつっかかるの?」

「ミャア、ミャア、ミャー!」

 砂沙美と魎皇鬼も、二人をたしなめる。

「阿知花の奴、さすが血がつながってるだけあって、誰かさんに似て単純でからかいやすくってさあ」

 魎呼が、阿重霞を横目でチラッと見ながら言った。

 阿重霞も負けてはいない。

「あら、私が天地様のお母様に似ているとおっしゃりたいのね。いやだわ。殿とのがたって、皆さん、マザコンのがあるっていうことですし、天地様も……」

「アタシが言ってんのは、単純なとこだけだよ。容姿で言やあ、おめえと阿知花は、月とスッポン、太陽にドジョウだよ」

「なんですってーっ!!

 いかりに身をふるわせ、魎呼につかみかかろうとしたが、しゆんかん、魎呼は地をって飛び上がった。

 透かし技? をかけられてバランスを失った阿重霞は、その場で転んでしまった。

 しかし、魎呼の視線はそこにはなかった。阿重霞の一人相撲ずもうだったのだ。

「何者だッ、待ちやがれ!!

 血相を変えて魎呼が叫んだ方角には、木の中を逃げるように離れて行く、人影があった。

 すかさず魎呼は後を追ったが、男の逃げ足は早く、後には春風にらめく木々が、ざわめくばかりであった……。

「逃げられちまったよ。いったい誰なんだ、確かにこっちの様子をうかがっていたんだが……」

 くやしそうに戻ってきた魎呼に、砂沙美が真顔で言った。

「魎呼姉ちゃん、天地兄ちゃんの体が消えかかったんだよ……」

「な、なんだって!」

 がくぜんとする魎呼のとなりで、阿重霞の顔も青ざめて見えた。


 そして、さらにバスに揺られてやって来たのは、浅草。浅草寺の総門として名高いかみなりもんから浅草寺へのさんどうなか通り。

 東京観光の名所の一つである。

「では皆さん、これから2時間の自由行動になりま~す。集合は4時ですから、あっ、ちょっと待ってくださ~い。まだ注意事項がですねえ……」

 楽しい、楽しい自由時間は2時間しかないのだ。

 のんな美星の言葉なんか聞いてはいられないとばかりに、生徒たちはわれさきに参道へと散って行った。

 参道には、にぎやかに土産みやげもの屋や屋がひしめき合っている。

「あっ、ねえ、ねえ。信幸君、人形焼買おうよ」

「うん。おいしそうだね」

「おばちゃーん、人形焼ちょうだい」

 和気あいあいと楽しそうな信幸と阿知花の後を、トボトボとおとなしく歩いて来るのは、魎呼と阿重霞である。

『いいか。もう絶対におやとお袋のじやはするなよ。二人が結婚してくれないと、俺は生まれて来ないんだからな』

 いつになく強い調ちようで天地に言われたことが、二人をしおらしくさせているのである。

 だが、天地は自分の存在のためだけに、そう言ったわけではなかった。

 会社の女の子にちょっかいかけたりしながらも、決して再婚しようとはしない信幸が、どれほど母親を愛していたか、天地は知っていた。

 そして、この二人の幸せな時間が、そう長くは続かないことも……。

 せめて、今、この時をせいいつぱい楽しませてあげたいと、天地は思っていたのである。

「あ~ん、またはずれちゃったあ……。清音ェ、10円貸してえ~」

 駄菓子屋で、アメを片手にクジを引いている美星の足下には、ハズレクジが山のように積もっていた。

 一体、この人は今回の26年前への旅の目的を、本当に理解しているのであろうか……。

 そう言えば、鷲羽が今回の状況を話している時、美星は魎呼にもたれて眠っていたような……気がするなぁ。

 そうこうしているうちに、未来の息子のおかげで、やっと静かな時を過ごしている、信幸と阿知花は浅草寺のけいだい、五重塔の建築現場付近へとやって来た。

「何の工事をしてるのかしら?」

「五重の塔を再建しているんだ……。戦争で焼けたままになっていたそうだから」

「ふーん、ずいぶん大掛かりね」

「うん。完成すると高さが48mにもなるそうだよ」

「詳しいのね、信幸君」

「いやあ、好きなんだよ。建物が……。それより、阿知花君、笑って、笑って」

 阿知花にほめられた信幸は、照れ隠しに8ミリをかまえ、阿知花にレンズを向けた。

 阿知花は、ファインダー越しの信幸の視線をくすぐったく感じながらも、カメラに向かってVサインを送った。

「ホント、青春ですわねえ……」

 おとなしく、少し離れた所から二人を見守っていた阿重霞が、うっとりと言った。

じゆんすいですわ。まるで私と天地様を見ているよう……」

「なんだとお。何でおめえと天地なんだよ」

 おとなしくしているのも、限界のようである。また、二人のけんが始まった。

「第一、天地がこんな26年前の青春ドラマみたいな、こぢんまりした設定に似合うかよ! 天地にふさわしいのは、アタシといつしよに宇宙をけめぐることだよ」

「まあ、天地様を指名手配のみちれにしようとおっしゃるの?」

「○△×⃞!」

「×○×☆!!

「◇△⃞⃞!!!」

「△◎××!!!!」

 以下、面倒くさいので省略させていただきます。

 物好きなあなたは、自分でとうの言葉を当てはめてみてください。

 激しい喧嘩をり広げながら、ふと魎呼が、さらにけわしい表情をして阿重霞にささやいた。

「さっきのやつだ、行くぜ!」

 言うが早いか、柱のかげひそんでいた男の前にテレポートした。

 きびすを返して逃げようとする男の前に、阿重霞が立ちはだかる。

「お待ちなさい!」

 阿重霞を突き飛ばして逃げようとする男に、魎呼がエネルギーボールを放った。

 さすがに、まずは行動ありき。

「ウッ」

 しようげきを受けて、その場にうずくまった男に、魎呼は右手にエネルギーソードを発生させ、男に突き付けた。

「貴様、何者だ! おめえの正体をいてもらおうか」

「どうして、阿知花さんの後をつけるのです」

 二人にめ寄られ、男は苦しげに口を開いた。

「私は…………ギャラクシーポリスだ」

「ギャラクシーポリス?」

「ギャラクシーポリス……美星と清音のどうりようか?」

「そんな隊員は知らぬ。私は本庁の……特務隊だ……」

「と・く・む・た・い?」

 いぶかしげに問う魎呼の後を、阿重霞が続けた。

うそをおっしゃい。どうしてギャラクシーポリスが、阿知花さんをつけねらわなければなりませんの?」

「私が狙っているのは、あの娘ではない。近いうちにあの娘の前に現れるであろう、いんだ。脱走した禍因を追いかけている……」

 その言葉におどろき、顔を見合わす二人のすきを見て、男は浅草寺本堂に飛び乗り、姿を消した。

「聞いたかよ」

「聞きましたとも、カインって」

 鷲羽が言い残したという、その言葉を、見知らぬGP隊員から聞いた二人は、不吉な予感にらえられていた……。


 その夜、1996年からやって来た6人と1匹は、宿泊先のホテルに個室を与えられている美星の部屋に集合した。

「冴羽人? 知らないわねえ」

 魎呼から昼間のGP隊員の名前を聞かされた清音は、首をひねった。

まつたく、やっと修学旅行も明日の東京タワー見物で終わってくれると思ってたのによお」

 GP隊員という、思わぬ男の登場に、魎呼以下、全員が深刻なおもちだったのだが……。

「あのう、私、その人知ってますぅ」

 相変わらずのんびりした調ちようの美星を、清音がせきたてる。

「知ってるんなら、早く言いなさい!」

「おじいさまから聞いたことがあります。確か……特務隊にいる人です」

「特務隊って……あの?」

 清音のきようがくした表情に、今度は魎呼が詰め寄る。

「何だよ、その特務隊ってえのは」

「GP内の秘密の部署よ。おもに、脱走した重要犯罪者を追う……あっ、禍因?」

 思わず、そう言った清音の声をかき消すように、砂沙美が叫んだ。

「皆、早く! 鷲羽さんからの通信が入ったよ!!