I
ズーキー(ZOOKY)
銀河系、オリオン宙域に生息する知的生命体。その外見は、成長した個体で直径一フィート大のボール状。その体表には
単純な外観からは想像もつかぬほどの知能を有し、そのIQはしばしば人類をも
言わば、体の各器官を極限まで退化させた代償として、脳を極大まで発達させた種がズーキーである。彼らは進化の域に達し、後はただ、滅んでいくだけの種である。その全個体数は、多く見積もっても銀河全体で百に満たないとみられている。同種個体間でのコミュニケーションを全くと言ってよいほど持たないのもズーキーの特徴である。彼らはむしろ他の知的生命体に干渉することを好む。非常にしばしば、ズーキーは特定の人類との共生関係を企図し、自らの意志で選別した個体に接近、食物その他を得る対価として、その個体に有益な情報を提供するという奇妙な習性があることで知られている。おそらく、その行為の意味は彼等が
不思議なことにズーキーが自らのパートナーとして選ぶ人類は、幼少個体か、それに準ずる未成育個体に極端に偏重している。また、その中でも女性、児童、知的障害者、社会的弱者(欠損家庭、
その一方でズーキーは、彼らの生態を研究しようという科学者に対しては、非常に非協力的(それもしばしば、明確に意図的に)であることでも知られる。かなり頻繁な接触例にも
いずれにせよ、彼等の深い内面に
(コスモクロペディア・宇宙暦六九八八年度版より抜粋)
*1 銀河中央大学生科学部助教授、J・F・ミラーの著書
『ズーキー この未知なるお節介な哲人』 エッジリバー書店 SC6978
II
微重力バスケット(通称ドリフトボール)
宇宙暦6900年代後半から、若者の間で爆発的な人気を呼んでいる球技。地球に宇宙暦以前から伝わるバスケットボールをそのルーツに持つが、その性格上、人類が重力を自在に
それはともかく、標準的な重力の惑星でも、わざわざ人工的に重力を弱めてまで、このゲームがプレイされるようになったのは、せいぜいこの一世紀のことである。現在では、全銀河大会はCDA公式ルールに定められた、〇・二四七Gの人工重力下で行われるのが普通である。
標準的なルール概略は、以下の通り。
一チーム 四名(交替要員七名。計十一名)
ポジション
フローティング・フォワード(FF 主としてゴール下でのボール争奪戦に参加)
シューター(ST チームの得点源)
ドリフティング・ガード(DG ゲームメーカーである)
ブロッカー(BL 守りの
コート 横十八フィート、縦三十五フィートのエアクッションによるガードフェンス付き 双方のリングは床面から二十二フィートの高さにある。
ボール 直径一フィートのオレンジ色。バスケットボールに似る。
シューズ 足や関節に負担を掛けないよう、特殊クッション入りを使用。近年ストリートファッションとしても人気。ガイキの歴代マイケル・ホンキーモデルは特に人気である。
競技時間 CDAルールではクォーター制。一クォーター七分。第一クォーターと第二クォーター、第三クォーターと第四クォーターとの間にそれぞれ三分休憩。第二クォーターと第三クォーターとの間に五分の休憩とコートチェンジ。
得点 以下の通り。
ペナルティースロー(フリースロー) 2点
インサイドレンジ内でのシュート 基本点 1点
レンジ外からのロングシュート 基本点 2点
シューターのみのボーナス +1点
ファウルポイント(一ファウルにつき) +1点
相手側ディフェンスを
一人クリア ×2点
二人クリア ×3点
三人クリア ×4点
四人クリア ×5点
シュート体勢に入った選手が、相手側プレイヤーのディフェンスを一人クリアする
例えば、インサイドレンジ内からのなんでもないノーマークのシュートは、たとえ決まっても1点にしかならないが、相手ディフェンスを四人クリアしてのロングシュートは、実に10点になる。さらに、専門のシューターがこれを成功させればシューターボーナスが基本点に加算されるので一発で15点、さらに相手側ディフェンスがファウルをし、なおかつシュートが決まった場合、一ファウル毎に基本点に1ポイントが加えられる訳である(ファウルによりシュートが決まらなかった場合には、一ファウル毎にフリースロー一本が与えられる)。
このため、一発逆転
かくの
つまり優秀なシューターがボールを持った場合、すんなり打たせて低得点に抑えるか、高得点シュートになるリスクを覚悟で
ファウル 8ファウルで退場
審判への暴行、悪質ファウルは即退場
とにかく、あらゆる意味でエキサイティングな宇宙時代のスポーツの代表格、それがドリフトボールなのである。
(コスモクロペディア・宇宙暦六九八八年度版より抜粋)

「新しいドッシュじゃないか!」
と、キャプテンのシュレジー・ターナーは、シゲチヨの靴を見るなり言った。
「それも、トライスターのカートランド・モデルの最新型!」
「わかる?」
と、シゲチヨ・ヤマモトは得意げに真新しいドッシュ(ドリフトボール用のシューズを、彼らは気取ってこう呼ぶ)を見せびらかした。光り輝くくるぶしの三つ星がよく見えるように……。
ルロイ・カートランドはアルデバラン・バイソンズの名シューターで、宇宙暦7013年のシーズンに、40点シュートを含む十八本のグランドスラムを決めた花形プレーヤーである。その華麗な空中遊泳は、フライング・スクァレル(むささび)カートランドのニックネームを彼に与えたほどだ。しかし、シゲチヨが理想とするプレイヤーは彼ではない。むしろシリウス・マッドドッグスのバディ・オーカーあたりが彼の目標に近い。シゲチヨのポジションはシューターではなく、その長身を活かしたフローティング・フォワードであった。もっとも、彼をシューターにコンバートしても、並のチームならじゅうぶんにスタープレーヤーになれたであろう。彼は必要とあらば、すべてのポジションをそつなくこなした。もし、幼年学校のドリフトボール・クラブチーム〝ハイキャッスル・アストロスカウツ〟にベンジャミン・クレンナという十年に一人の天才がいなければ、その地位はシゲチヨのものだった。
しかし、万事につけ控え目な──誰のせいとは敢えて言わないが──シゲチヨは、
そんなシゲチヨに、ベンジャミンを初めとするチームメイトの信頼は厚い。
「対抗戦を前に、気ィ入ってるな、シゲチヨ」
と、こちらも自称『半年に一人くらいのブロッカー』であるシュレジーは笑いながら言った。
「そうなんだ」
と、シゲチヨ。
恒例の、アポロポリス・ジュニアハイスクールのクラブチーム〝ブラックキャッツ〟との対抗試合は一週間後であった。
「今年は、去年みたいな
「ヤマモト
「それに──」
と、シゲチヨは不意に声のトーンを落としてこう言った。
「今年はキサラが、応援に来るんだ」
「キサラって……あのタイラー元大統領の娘の……」
「本人の前では、それは禁句だよ」
と、十四歳のシゲチヨは言った。
「父上の名を出すと、けっこう本気で、怒るからね」
「そうなのか……」
「うん」
キサラが応援に来てくれるということで、
「これで絶対、負けられなくなった……」
キサラの前で負けるということは、シゲチヨにとって、ほぼ半死半生と同義語であった。
「くぉらぁ~、あたしの応援にもかかわらず負けるたぁ、どういう了見だ!? その罪
……という訳なのである。
「同情するよ……」
と、しみじみ言うシュレジー。
「でも今年は、
とシゲチヨ。
「シュレジーもいるし、僕も微力ながら……。しかし、何と言ってもシューター・ベンジャミンの存在は大きいな」
「ああ、奴がいる限り、我がアストロスカウツは安泰だ」
シュレジーは目を細めた。
「ベンジャミンの奴、早くもCDAのサテライトチームからスカウトまで来ているからな」
「彼はCDAのAクラスリーグでもやれるよ」
とシゲチヨ。
「いっそ、そうすればいいのに……」
「でも彼の目標は、あくまで軍人だろう?」
「いいんじゃないか。7007と08のシーズン、ネオシカゴ・ゴールデンカップスでプレイしたシドニー・ブッフホルツだって現役の軍人だぜ」
「ブッフホルツ大尉の場合はまあ、特例だ。それに、ベンジャミンは
「宇宙的規模の損失だと思うなあ……」
とシゲチヨ。彼はまあ、物心ついて以来、自分の将来は軍人しかないと漠然とではあるが思っていたし、ドリフトボールのプレイヤーとしてもさほどの才能ではないと思っている。しかし、ベンジャミンは別格だった。
「彼こそ、スターになるべくして生まれたんだ。戦時中ならいざ知らず、こんな平和な時代だもの……。彼は絶対──」
「大変だ!」
と、そこへチームのドリフティング・ガードであるカール・フレーベが息
「えらいことになった!!」
と、ぜいぜい息を弾ませ、カールは言った。
「一大事だ」
「だからまあ、落ち着いて話せよ」
と、シュレジー。
「これが……落ち着いてなんて……」
呼吸を整えながら、カール。
「ベンジャミンが……練習中に……アキレス腱を切ったんだ!」
「なんだって!?」
その瞬間、対抗試合の勝利は絶望的となった。
IV
「ドルトムントでいく」
と、ドリフトボールチームの監督であるガーナー一等兵曹は、熟考した上でこう申し渡した。その
しかし──、
彼の決定に、部員たちは納得しなかった。
「
と、即座に尋ねたのはシュレジーだ。
「何故、彼なんです!?」
と、
見るからにひよわな少年である。それに、お世辞にも明るく活動的とは言えまい。よく、こんな少年が幼年学校に入ったものだ。海兵隊員だった父親が半ば
「それは──」
と、ガーナー監督は
「クレンナの次にシュートが
「納得できません!」
カールが叫んだ。
「そんな……ドルトムントなんて……。彼には試合経験もないんですよ」
「しかし、実力はある。彼は黙々と、一人練習していたからな……。それは皆も、知っているだろう」
「シュートが
シュレジーが言った。
「その……彼とのチームワークも、できてはいませんし……」
「一週間で作れ」
「無理です!」
とカール。
「そんなことで、ブラックキャッツには勝てはしません!」
「無理でもやれ!!」
と監督。
「促成のチームでブラックキャッツに勝つには、シュートが決まらなくては話にならんのだ!」
「勝つのがすべてではないでしょう!?」
と、シゲチヨ。
「プロリーグならともかく、僕らは幼年学校のクラブチームなんですから……」
「今回に限っては、勝たねばならんのだ!」
険しい表情で、有無を言わせぬ。
「とにかく、構想としてはドルトムントがシューターでいく! 他に道はない!! これは決定事項! 以上、練習始め!!」
V
「聞いた話だけどな」
と、カールが小声で言った。
「今度の対抗試合、負けたらドリフト部は
「それで、いきなりの勝利至上主義か……」
「上の方の人たちがな、これ以上民間人のチームに幼年学校のチームが負けるのは軍の威信に関わるとか言い出したんだそうだ。おまけに、設備や遠征費でお金がかかる。重力制禦装置だけでけっこうな出費だ。チームの活動費も税金から出ているから、僕らは肩身が狭いよ。実績がないなら、潰してしまえということらしい」
「ありそうなことだね」
とシゲチヨ。
「でも、僕の父さんはその中には入っていないと、信じているよ」
「シゲチヨは気楽でいいよ」
とシュレジー。
「優等生のおまえと違って、俺なんか、ドリフトボールしか取り柄がないんだぞ。親父はたかが少佐だしな……。チームがなくなったら、ただの落ちこぼれだ……」
切実である。
「だけど、いくら勝つためとはいえ、ベンジャミンの代わりがツヨシじゃなあ……」
と、コーチから付きっきりでシュート特訓を受けている彼を横目で
「俺、あんな奴にパスなんかしねえからな」
「当然だ」
「それはよくないよ、二人とも!」
びっくりするほど大きな声で、シゲチヨは言った。
「彼を、仲間
「あのなあ、シゲチヨ」
と、カールは言った。
「ツヨシなんかと関わっていると、今度はおまえがシカトされんだぞ……」
声を殺して、言う。
「そんなの僕、怖くない」
キサラに較べたら、なんぼのもんじゃいという感じである。
「とにかく、俺は嫌だね」
と、カールは
「あんな奴にパス回すくらいなら、敵にくれてやった方がましさ」
「ああ」
と、シュレジーも
「部が潰れるのは痛いけどな……。ツヨシなんかとチームメイトでいるよりは……」
「どうかしてる!」
とシゲチヨ。
「間違ってるよ。そんな……」
例えばキサラなら、もっと弁の立った反撃ができるのにと自分の至らなさを
「駄目だな、こいつも……」
と、シュレジーがカールに
「親父に似て、
「ああ。歩く道徳の教科書だからな……」
とカール。
「こうなりゃ、シゲチヨごとシカトするか?」
とシュレジー。
「いや」
と、意地悪く
その目が
「もっといい手がある。一年の時に、ハウザーの奴をいびり出した、あの手だ」
「ああ、あれか」
頷くシュレジー。
「うまい具合に──」
と、シュレジーの視線が、シゲチヨの真新しいドリフトボールシューズにいく。
「シゲチョヨの奴、いいドッシュを
「いつやる?」
「早い方がいい」
シュレジーの決断は早かった。幼年学校の生徒としては、この決断力は
VI
「おかしいなあ……」
と、シゲチヨはロッカーを
「ドッシュがないぞ。あれは八百ギガタイラスもしたのに……」
「どうしたシゲチヨ?」
と、さりげなく声をかけるシュレジー。狭い通路を
「ドッシュがないんだ」
とシゲチヨ。
「あの新品の、カートランド・モデルか?」
「そうなんだ。知らないよね……」