I


ズーキー(ZOOKY)

 銀河系、オリオン宙域に生息する知的生命体。その外見は、成長した個体で直径一フィート大のボール状。その体表にはいつさいの器官はなく、移動はみずからボールのように転がり、はずむことで行う。栄養の摂取はその体表にある小さな口(直径〇・五ミリ。総排泄孔も兼ねる)から行う。しやくが不可能なため、養分は高濃度の液状たんぱくしつに限られ、結果として彼等の棲息域を限定している。ゆう同体で単為生殖し、発芽分裂して増殖するが、その繁殖は銀河標準時間で数年に一度と多くはない。寿命は約二百~三百銀河標準年とされるが、成育条件さえ良好ならば、五百年を超える個体も散見される。

 単純な外観からは想像もつかぬほどの知能を有し、そのIQはしばしば人類をもりようするものと思われる。彼らはその球形の体の、ほとんどが発達した大脳なのである。数亜種が認められるズーキーのうち、最も一般的かつ著名なオリオンオレンジズーキー(ネオアリストテレス・パラドクス。普通種で、基亜種とされる)では、大脳の発達は最も顕著であり、体容積の実に八〇~八五%が大脳である。

 言わば、体の各器官を極限まで退化させた代償として、脳を極大まで発達させた種がズーキーである。彼らは進化の域に達し、後はただ、滅んでいくだけの種である。その全個体数は、多く見積もっても銀河全体で百に満たないとみられている。同種個体間でのコミュニケーションを全くと言ってよいほど持たないのもズーキーの特徴である。彼らはむしろ他の知的生命体に干渉することを好む。非常にしばしば、ズーキーは特定の人類との共生関係を企図し、自らの意志で選別した個体に接近、食物その他を得る対価として、その個体に有益な情報を提供するという奇妙な習性があることで知られている。おそらく、その行為の意味は彼等がうしなった肉体の代償として、パートナーたる人類の行為に干渉することで、彼等なりの目的達成感を得ているものと思われる。その一方でズーキーは、行動よりは思索を好み、その寿命の長さもあって、ほぼ例外なく哲学者であるとの研究報告〔*1〕もあるが、実証例があまりにも少なく、かつかたよっていることもあり、この仮説の断定に関してはなお一層の慎重を期さざるを得ない(多く生物学者は懐疑的)。

 不思議なことにズーキーが自らのパートナーとして選ぶ人類は、幼少個体か、それに準ずる未成育個体に極端に偏重している。また、その中でも女性、児童、知的障害者、社会的弱者(欠損家庭、いじめの被害者等)が多いことでも顕著。これは、自らの代償肉体であるパートナーには、高度の思考能力が必要とされない(あるいは非常にしばしば、かえって邪魔な)ためであろうと推測されている。

 その一方でズーキーは、彼らの生態を研究しようという科学者に対しては、非常に非協力的(それもしばしば、明確に意図的に)であることでも知られる。かなり頻繁な接触例にもかかわらず、彼らの詳しい生態がほとんど解明されていないのはこのためである。要するに、彼らは一言で云って『偏屈』な知的生命体なのだ。

 いずれにせよ、彼等の深い内面にける思索活動の実態究明は、今後の研究課題であり、より一層の実例検証が待たれる。

(コスモクロペディア・宇宙暦六九八八年度版より抜粋)

*1 銀河中央大学生科学部助教授、J・F・ミラーの著書

『ズーキー この未知なるお節介な哲人』 エッジリバー書店 SC6978


    II


微重力バスケット(通称ドリフトボール)

 宇宙暦6900年代後半から、若者の間で爆発的な人気を呼んでいる球技。地球に宇宙暦以前から伝わるバスケットボールをそのルーツに持つが、その性格上、人類が重力を自在にせいぎよ可能となる近年まで、明文規約化された条件下でのプレイは事実上不可能であった。しかし、ラフな遊戯としてのドリフトボールは数百年の歴史を持つ。そもそも、ドリフトボールは重力の微弱な衛星や、小惑星に開拓移民として進出した星間労働者たちの間で、その微弱な重力をさかに取ることによってプレイされたゲームである。その性格上、プレイはかなりラフであり、負傷者も絶えなかった。各衛星でバラバラな土着ルールの下に(ただし、そのルーツが同じバスケットボールである以上、基本ルールは互いに似る)行われていた微重力バスケットボールを『ドリフトボール』として共通ルール化し、星間オリンピック公式競技の域にまで高めたのは、マイケル・ホンキー(SC6888~6925)である。彼はドリフトボールの父であり、同時にドリフトボールコスモスリーグ創世期のスタープレーヤーでもあった。しかし、現在でもなお各辺境惑星ではCDA(宇宙ドリフトボール連盟)ルール以外の地方ルールによる試合も数多く行われており、その呼称も『ドリフター』『ドリフティングダンカー』『無重力ろうきゆう』『ジェットダンク』『反(半)重力バスケ』『アストロボール』と様々である。

 それはともかく、標準的な重力の惑星でも、わざわざ人工的に重力を弱めてまで、このゲームがプレイされるようになったのは、せいぜいこの一世紀のことである。現在では、全銀河大会はCDA公式ルールに定められた、〇・二四七Gの人工重力下で行われるのが普通である。

標準的なルール概略は、以下の通り。

一チーム 四名(交替要員七名。計十一名)

ポジション

 フローティング・フォワード(FF 主としてゴール下でのボール争奪戦に参加)

 シューター(ST チームの得点源)

 ドリフティング・ガード(DG ゲームメーカーである)

 ブロッカー(BL 守りのかなめ。攻撃にも参加)

コート 横十八フィート、縦三十五フィートのエアクッションによるガードフェンス付き 双方のリングは床面から二十二フィートの高さにある。

ボール 直径一フィートのオレンジ色。バスケットボールに似る。

シューズ 足や関節に負担を掛けないよう、特殊クッション入りを使用。近年ストリートファッションとしても人気。ガイキの歴代マイケル・ホンキーモデルは特に人気である。

競技時間 CDAルールではクォーター制。一クォーター七分。第一クォーターと第二クォーター、第三クォーターと第四クォーターとの間にそれぞれ三分休憩。第二クォーターと第三クォーターとの間に五分の休憩とコートチェンジ。

得点 以下の通り。

   ペナルティースロー(フリースロー) 2点

   インサイドレンジ内でのシュート 基本点 1点

   レンジ外からのロングシュート 基本点 2点

   シューターのみのボーナス +1点

   ファウルポイント(一ファウルにつき) +1点

   相手側ディフェンスを

     一人クリア ×2点

     二人クリア ×3点

     三人クリア ×4点

     四人クリア ×5点

 シュート体勢に入った選手が、相手側プレイヤーのディフェンスを一人クリアするごとに、2倍3倍とポイントが飛躍的に増加される。

 例えば、インサイドレンジ内からのなんでもないノーマークのシュートは、たとえ決まっても1点にしかならないが、相手ディフェンスを四人クリアしてのロングシュートは、実に10点になる。さらに、専門のシューターがこれを成功させればシューターボーナスが基本点に加算されるので一発で15点、さらに相手側ディフェンスがファウルをし、なおかつシュートが決まった場合、一ファウル毎に基本点に1ポイントが加えられる訳である(ファウルによりシュートが決まらなかった場合には、一ファウル毎にフリースロー一本が与えられる)。

 このため、一発逆転ねらいの大量点シュートが可能であり、ゲームは非常にエキサイトする。CDA記録では一シュートの最高点は40点。相手を四人クリアしてのシュートは『グランドスラム』と呼ばれる。CDAの統計では、約三試合に一回ほどの頻度で決まっている。

 かくのごとく初心者にはかなり複雑であるが、この独自の得点ルールこそが、空中を泳ぐ(ドリフト)するというヴィジュアル的な面白さとともに、ドリフトボールをして一躍人気スポーツの座に押し上げたと言っても過言ではなかろう。

 つまり優秀なシューターがボールを持った場合、すんなり打たせて低得点に抑えるか、高得点シュートになるリスクを覚悟でえてディフェンスにいくかという駆け引きに、チームやプレイヤー、さらに監督の持ち味がはっきりと出るからである。手堅いチームよりは、破天荒なチーム、一発狙いの選手が喜ばれることは言うまでもない。CDAリーグでは強いフランチャイズによる相乗効果も加わって、熱狂的ファン同士の乱闘も珍しくはない。

ファウル 8ファウルで退場

審判への暴行、悪質ファウルは即退場

 とにかく、あらゆる意味でエキサイティングな宇宙時代のスポーツの代表格、それがドリフトボールなのである。

(コスモクロペディア・宇宙暦六九八八年度版より抜粋)


    


「新しいドッシュじゃないか!」

 と、キャプテンのシュレジー・ターナーは、シゲチヨの靴を見るなり言った。

「それも、トライスターのカートランド・モデルの最新型!」

「わかる?」

 と、シゲチヨ・ヤマモトは得意げに真新しいドッシュ(ドリフトボール用のシューズを、彼らは気取ってこう呼ぶ)を見せびらかした。光り輝くくるぶしの三つ星がよく見えるように……。

 ルロイ・カートランドはアルデバラン・バイソンズの名シューターで、宇宙暦7013年のシーズンに、40点シュートを含む十八本のグランドスラムを決めた花形プレーヤーである。その華麗な空中遊泳は、フライング・スクァレル(むささび)カートランドのニックネームを彼に与えたほどだ。しかし、シゲチヨが理想とするプレイヤーは彼ではない。むしろシリウス・マッドドッグスのバディ・オーカーあたりが彼の目標に近い。シゲチヨのポジションはシューターではなく、その長身を活かしたフローティング・フォワードであった。もっとも、彼をシューターにコンバートしても、並のチームならじゅうぶんにスタープレーヤーになれたであろう。彼は必要とあらば、すべてのポジションをそつなくこなした。もし、幼年学校のドリフトボール・クラブチーム〝ハイキャッスル・アストロスカウツ〟にベンジャミン・クレンナという十年に一人の天才がいなければ、その地位はシゲチヨのものだった。

 しかし、万事につけ控え目な──誰のせいとは敢えて言わないが──シゲチヨは、はなからベンジャミンの才能をねたんだりはせず、ただ自分の仕事をきっちりとこなした。

 そんなシゲチヨに、ベンジャミンを初めとするチームメイトの信頼は厚い。

「対抗戦を前に、気ィ入ってるな、シゲチヨ」

 と、こちらも自称『半年に一人くらいのブロッカー』であるシュレジーは笑いながら言った。

「そうなんだ」

 と、シゲチヨ。

 恒例の、アポロポリス・ジュニアハイスクールのクラブチーム〝ブラックキャッツ〟との対抗試合は一週間後であった。

「今年は、去年みたいなざまな負け方はしたくない。いくら全中(全銀河中学大会)ベスト8のチームだからって、民間のチームには負けるなって、父さんが買ってくれたんだ」

「ヤマモトげんすいかつが……」

「それに──」

 と、シゲチヨは不意に声のトーンを落としてこう言った。

「今年はキサラが、応援に来るんだ」

「キサラって……あのタイラー元大統領の娘の……」

「本人の前では、それは禁句だよ」

 と、十四歳のシゲチヨは言った。

「父上の名を出すと、けっこう本気で、怒るからね」

「そうなのか……」

「うん」

 キサラが応援に来てくれるということで、うれしさ半分、迷惑半分のシゲチヨであった。

「これで絶対、負けられなくなった……」

 キサラの前で負けるということは、シゲチヨにとって、ほぼ半死半生と同義語であった。

「くぉらぁ~、あたしの応援にもかかわらず負けるたぁ、どういう了見だ!? その罪ばんに値する! そこへ直れ!!

 ……という訳なのである。

「同情するよ……」

 と、しみじみ言うシュレジー。

「でも今年は、だいじようだろう」

 とシゲチヨ。

「シュレジーもいるし、僕も微力ながら……。しかし、何と言ってもシューター・ベンジャミンの存在は大きいな」

「ああ、奴がいる限り、我がアストロスカウツは安泰だ」

 シュレジーは目を細めた。

「ベンジャミンの奴、早くもCDAのサテライトチームからスカウトまで来ているからな」

「彼はCDAのAクラスリーグでもやれるよ」

 とシゲチヨ。

「いっそ、そうすればいいのに……」

「でも彼の目標は、あくまで軍人だろう?」

「いいんじゃないか。7007と08のシーズン、ネオシカゴ・ゴールデンカップスでプレイしたシドニー・ブッフホルツだって現役の軍人だぜ」

「ブッフホルツ大尉の場合はまあ、特例だ。それに、ベンジャミンはおやさんも軍人だから、それは許されないだろう」

「宇宙的規模の損失だと思うなあ……」

 とシゲチヨ。彼はまあ、物心ついて以来、自分の将来は軍人しかないと漠然とではあるが思っていたし、ドリフトボールのプレイヤーとしてもさほどの才能ではないと思っている。しかし、ベンジャミンは別格だった。

「彼こそ、スターになるべくして生まれたんだ。戦時中ならいざ知らず、こんな平和な時代だもの……。彼は絶対──」

「大変だ!」

 と、そこへチームのドリフティング・ガードであるカール・フレーベが息き切って駆けて来た。彼はまあ、三か月に一人くらいのガードだ。トレーニングウェアスタイルというその格好をみると、体育館からきようとうの廊下まで駆け通しだったらしい。

「えらいことになった!!

 と、ぜいぜい息を弾ませ、カールは言った。

「一大事だ」

「だからまあ、落ち着いて話せよ」

 と、シュレジー。

「これが……落ち着いてなんて……」

 呼吸を整えながら、カール。

「ベンジャミンが……練習中に……アキレス腱を切ったんだ!」

「なんだって!?

 その瞬間、対抗試合の勝利は絶望的となった。


    IV


「ドルトムントでいく」

 と、ドリフトボールチームの監督であるガーナー一等兵曹は、熟考した上でこう申し渡した。そのひたいには深い苦悩のしわが刻まれている。彼も悩みに悩んだ上での決定であったに違いない。

 しかし──、

 彼の決定に、部員たちは納得しなかった。

です!?

 と、即座に尋ねたのはシュレジーだ。

「何故、彼なんです!?

 と、ばつてきされたツヨシ・ドルトムントを見ながら言った。

 見るからにひよわな少年である。それに、お世辞にも明るく活動的とは言えまい。よく、こんな少年が幼年学校に入ったものだ。海兵隊員だった父親が半ばごういんに、息子の適性をよく考えもせずに『放り込んだ』のである。

「それは──」

 と、ガーナー監督はおごそかに言った。

「クレンナの次にシュートがうまいのは、彼だからだ」

「納得できません!」

 カールが叫んだ。

「そんな……ドルトムントなんて……。彼には試合経験もないんですよ」

「しかし、実力はある。彼は黙々と、一人練習していたからな……。それは皆も、知っているだろう」

「シュートがじようなだけでは、駄目だと思います!」

 シュレジーが言った。

「その……彼とのチームワークも、できてはいませんし……」

「一週間で作れ」

「無理です!」

 とカール。

「そんなことで、ブラックキャッツには勝てはしません!」

「無理でもやれ!!

 と監督。

「促成のチームでブラックキャッツに勝つには、シュートが決まらなくては話にならんのだ!」

「勝つのがすべてではないでしょう!?

 と、シゲチヨ。

「プロリーグならともかく、僕らは幼年学校のクラブチームなんですから……」

「今回に限っては、勝たねばならんのだ!」

 険しい表情で、有無を言わせぬ。

「とにかく、構想としてはドルトムントがシューターでいく! 他に道はない!! これは決定事項! 以上、練習始め!!


    V


「聞いた話だけどな」

 と、カールが小声で言った。

「今度の対抗試合、負けたらドリフト部はつぶされるらしいぜ」

「それで、いきなりの勝利至上主義か……」

 うなずくシュレジー。しかし納得はしていない。

「上の方の人たちがな、これ以上民間人のチームに幼年学校のチームが負けるのは軍の威信に関わるとか言い出したんだそうだ。おまけに、設備や遠征費でお金がかかる。重力制禦装置だけでけっこうな出費だ。チームの活動費も税金から出ているから、僕らは肩身が狭いよ。実績がないなら、潰してしまえということらしい」

「ありそうなことだね」

 とシゲチヨ。

「でも、僕の父さんはその中には入っていないと、信じているよ」

「シゲチヨは気楽でいいよ」

 とシュレジー。

「優等生のおまえと違って、俺なんか、ドリフトボールしか取り柄がないんだぞ。親父はたかが少佐だしな……。チームがなくなったら、ただの落ちこぼれだ……」

 切実である。

「だけど、いくら勝つためとはいえ、ベンジャミンの代わりがツヨシじゃなあ……」

 と、コーチから付きっきりでシュート特訓を受けている彼を横目でにらみながら、カール。

「俺、あんな奴にパスなんかしねえからな」

「当然だ」

「それはよくないよ、二人とも!」

 びっくりするほど大きな声で、シゲチヨは言った。

「彼を、仲間はずれにするなんて……。とにかく、今は勝つことに集中しよう!!

「あのなあ、シゲチヨ」

 と、カールは言った。

「ツヨシなんかと関わっていると、今度はおまえがシカトされんだぞ……」

 声を殺して、言う。かくとも取れる。

「そんなの僕、怖くない」

 キサラに較べたら、なんぼのもんじゃいという感じである。

「とにかく、俺は嫌だね」

 と、カールはかたくなであった。

「あんな奴にパス回すくらいなら、敵にくれてやった方がましさ」

「ああ」

 と、シュレジーもこうする。

「部が潰れるのは痛いけどな……。ツヨシなんかとチームメイトでいるよりは……」

「どうかしてる!」

 とシゲチヨ。

「間違ってるよ。そんな……」

 の足りない、自分がくやしい。

 例えばキサラなら、もっと弁の立った反撃ができるのにと自分の至らなさをがゆく思う、シゲチヨであった。

「駄目だな、こいつも……」

 と、シュレジーがカールにささやいた。

「親父に似て、かたぶつだ」

「ああ。歩く道徳の教科書だからな……」

 とカール。

「こうなりゃ、シゲチヨごとシカトするか?」

 とシュレジー。

「いや」

 と、意地悪く微笑ほほえむ、カール。

 その目がよこしまな、輝きを放った。

「もっといい手がある。一年の時に、ハウザーの奴をいびり出した、あの手だ」

「ああ、あれか」

 頷くシュレジー。

「うまい具合に──」

 と、シュレジーの視線が、シゲチヨの真新しいドリフトボールシューズにいく。

「シゲチョヨの奴、いいドッシュをいていやがるぜ。おあつらえ向きとは、このことだな」

「いつやる?」

「早い方がいい」

 シュレジーの決断は早かった。幼年学校の生徒としては、この決断力はめられていい。


    VI


「おかしいなあ……」

 と、シゲチヨはロッカーをさがしながら呟く。

「ドッシュがないぞ。あれは八百ギガタイラスもしたのに……」

「どうしたシゲチヨ?」

 と、さりげなく声をかけるシュレジー。狭い通路をはさんでロッカーの反対側にいたカールに目配せし、頷き合ったが、ドッシュを捜すのに夢中のシゲチヨはそんなことには気付かない。

「ドッシュがないんだ」

 とシゲチヨ。

「あの新品の、カートランド・モデルか?」

「そうなんだ。知らないよね……」