また独り言。
だがヤマモトのその
「ジャスティ」
と、愛する妻が彼の名を呼んだ。
「
「出たくない」
と、惑星連合宇宙軍名誉元帥にして、元
「そんなこと言わないで……」
と、妻のユリコは、彼をそう簡単には
「せっかくの、休暇なんだから……。それに、ここまで来てあれを見ないって手はないと思うの」
むろん、それはタイラーのではなくて、ユリコの休暇である。夫が軍を辞めた後も、彼女は
「ね、一緒に見よう?」
「そうだね」
しぶしぶ、タイラーは起き上がった。
「この星は、好きじゃないな。紫外線は強いし、塩分の強い砂が口の中に入るしね」
「それを
「行くいく」
妻に手を引かれ、サイトデッキへのラッタルを駆け上がるタイラー。
「どうせ大したことは──」
だが不覚にも、彼はそこで絶句してしまった。
見渡す限りの、オレンジ色──。
朱色から山吹色までの、ありとあらゆる階調のオレンジ色が、そこにあった。見事な全天のグラデーションだ。
「うん。銀河もまだまだ、捨てたもんじゃない」
と、タイラー。
「でしょう?」
「ああ。ジェーンの
自分が守った物の価値を、改めて
「キサラも……」
と、いつの間にかタイラーの手は、ユリコの肩に回っている。
「連れて来てやるべきだったかな……。あとで写真を見て、悔しがるぞ」
「学校を休ませることは、できないわ」
あくまでも
「それに今のキサラには、この美しさの価値が、どこまでわかるか……。もう少し
結局自分で苦労してみなければ、物事の本当の価値はわからない。押し付けでは感動は味わえない。
「ま、キサラはキサラで、楽しくやっているだろう」
気楽にも、父親は言ってのけた。
「おおかたまた、ヤマモト家の、シゲチヨ君あたりを
「あの子も気の毒ね」
と、思わず
「まあ、本人が
「そういう問題かしら?」
「人生の
と、無責任にタイラー。
「シゲチヨ君はきっと父親以上の、出来た人間になるよ」
「……でしょうけど」
「ま、何にせよキサラが、いたぶられる立場でなくて本当によかった」
「あなた……」
シゲチヨ・ヤマモトの未来に幸多かれと、ユリコは祈らずにはおれなかった。
夕陽はますます、その
「シャッターチャンスよ」
と、ユリコ。
「わかってる」
タイラーは指を、パチンと鳴らした。
その音を聞き付けて、何体かデッキ上を走り回っていた『スナッピー』のひとつが、こちらにやって来る。これは頭部に高性能カメラ、腹部に急速現象・プリント装置を
「一枚、頼むぞ」
「あいあい・さー」
機械的な声で『スナッピー』が言い、頭部のセンサーがチカッと光った。
「写シマス」
目の位置のズームレンズが動き、人間なら
「なかなかよく撮れているじゃない」
と、出来上がったプリントを見て、ユリコは
「二人とも、新婚みたい。あなたが撮ったんじゃ、とてもこうはいかないわ」
「僕はカメラ
「ヒラガー技術中将みたいに、撮るのに時間がかからないのもいいわ」
「彼の場合は写真を撮る前に、まずカメラとレンズを選ぶところから始めなきゃいけないからね。女の子と軍艦しか撮らないし……」
『スナッピー』はプリントに続いて、ネガ画像の収まったマイクロフロッピーを吐き出した。これを持って行けば、銀河のどこのラボでも焼き増し可能だ。『スナッピー』自体にも四ツ切りサイズまでの引き伸ばし機能はあるが、やや割高である。
「ご苦労さん。行っていいぞ」
タイラーが頭を
「さんきゅー」
との声を残し、『スナッピー』は別の客のところへ──。
「平和ねえ……」
と、幸せそうに、ユリコ。
「ああ、平和だとも」
と、タイラー。
「平和すぎて、不気味なくらいだ。僕の
しなかった。
不意に岩陰から、黒い砂上船がぬっと現れたのだ。
「ヒラガー中将がいたら、夢中で写真を撮りまくるぞ」
と、タイラー。