「あたしがCMに出た商品は、チューインガムから高級エアカーまで、全部買うのよ! たとえ何十年、ローンを組んででも……」
「もちろんです」
あくまでもにこやかに微笑む、タイラー。
「そのことをようく、覚えておきなさいね」
「はい」
「の、ノリコちゃん。やり過ぎだよ……」
おろおろする、イジューインさん。
「この人、すっかり君に
「いいのよ」
と、ノリコ。
「あたしの
「はい……」
後にこのことが、大変な問題を引き起こすことになるのだが、今はその事の重大性を、誰も
「では行きます、イジューイン!」
「はい……」
「待ってください!」
カヤマが叫んだ。
「何?」
「さ……」
おずおずと
「サインしてください!!」
「ファンなんです!」
「
さすがに悪い気はしないらしく、そそくさと
「あ、僕も……」
「こっちもお願いします」
その場にいた部員たちが次から次へと申し出、ちょっとしたサイン会が始まってしまった。
「ツーショットで写真、お願いします!」
「ついでにヨットにも、サインを!!」
「しょうがないわねえ……」
それでもアイドルの
そんな中でタイラーだけは
『もうあたしに、
横目で見ながら、ノリコにはそれが
『このあたしの
ノリコはますます、タイラーを
『ジャスティ・ウエキ・タイラー……。この漢は、いったい何者?』
たぶん──。
タイラーの
「イジューイン」
帰りのエアカーの中で、ノリコは
「あの仕事、受けることにしたわ」
「あの仕事って……」
ハンドルを握りつつ、
「まさか、惑星連合宇宙軍の入隊
「他に、何があるの」
「でも、あれほどダサいからこんな仕事嫌だって、
「気が変わったの」
「やると言ったら、やるわ。ジャスティ・ウエキ・タイラーという漢を、
「そんな、一時の
「イジューイン!」
「は、はい……」
イジューインはこれ以上
「わかりました」
「すぐに電話して」
「はい……」
他惑星直通機能を持つ、自動車電話を取り上げる。
「あ、もしもし、惑星連合宇宙軍の広報課ですか? はい。オフィストレイシーのイジューインです……。実は──」
銀河の運命は、実にこの瞬間に決まった。
「よし、どこから見ても
完成したフィギュアヘッドを見上げながら、満足そうに頷く部員たち。
「これで間違いなく、勝利の女神は
「だといいね」
「おいタイラー、わかってんのか? 自分のしたことが……」
部員が
「わかってる、つもり」
「ま、こっちは握手もしてサインももらって、おまけに写真まで
「まったく」
「それにしてもおまえ、意外に
「うん。少し見直したぜ」
「あの女王様を前にして、少しも動じないんだからな。大物かも──」
女王はおろか、
「とにかく、士官学校との対抗レガッタでは、
とカヤマ。
「タイラー、さしずめおまえは我が部の救世主。そしてノリコ・バッハは、我が『不在の騎士』号の女神……。そうだな」
「かもね」
静かに微笑むタイラー。動じない。
後にタイラーは銀河の救世主、そしてノリコ・バッハは惑星連合宇宙軍の女神となるのであった。
ともあれ──。
レースは目の前だ。
「士官学校は強敵だが、タイラーとノリコちゃんがいれば、なんとかなるんじゃないかって気がしてきたぜ……」
「まったくだ」
その神話は、この時から始まったのかもしれない。
しかし、まだまだ彼の全体像を
運命の歯車は、確実に
かくて、惑星連合宇宙軍士官学校と銀河産業大学ヨット部とが、その
いや、
「いいか!」
と、その『約一名』が、クルーたちを
「負けたら一大事だぞ! なにしろ
「だったらレースなんか、やらなきゃいいのに……」
と、士官学校ヨット
勝って当然。負ければ
それでも、クルーたちにとってはいい
「こうなりゃ十万艇身以上
と、
「遊びでやっている連中にだけは、負けたくない」
「そうだとも!」
とヤマモト。
「逆に言えば十万艇身以上引き離せないようなら、こちらは負けたも同じだ! 敵は銀河産業大学の学生連中などではない!! 我々自身なのだ!」
大きな声で
「でかいことを言いやがって……」
銀河産業大学ヨット部のキャプテンであるコーサク・カヤマは反対側のドックまで届くヤマモトの声に、
「あれで負けた時の、あいつらの顔こそ
「いくら士官学校でも、あそこまで言わせておくことはないんじゃないですか、キャプテン」
部員たちは
「まあいい。我々も宇宙の海に生きる
きっぱりと、カヤマは言った。
「こちらには、タイラーがいる!」
「ぼく?」
と、自分を指差すタイラー。
「いやあ、僕なんか……」
「いや。おまえが入部してから、この『不在の
とカヤマ。
「おまえは勝利の女神……いや、福の神かもしれないな、実際の話……」
「だと、いいんだけどね」
ヘラヘラ笑うタイラー。レース前だというのに
「今回も、チアガールなしかあ……」
と、部員の誰かが言った。
「しょうがねえよ。また野球部のリーグ戦と、カチ合ったのだもの」
「モテるのは、野球部とかサッカー部とか、バスケ部ばっかりだな……」
「グチるな。我々には、勝利の女神のノリコちゃんがいる!」
そう言って、この前写したノリコ・バッハの立体ポートレートを見せるカヤマ。
「いくらノリコちゃんでも、やっぱり実物の女の子の方がいいなあ……」
「おい、見ろよ!」
部員の一人が、反対側のドックを指差した。
「士官学校の方には、女の子がいるぞ!」
それを一目見ようと全員が、わっと
「こいつは
「しかも美人だぜ」
「あれが女子部の生徒か……」
「あと一年もすれば、
「救国の
「俺たちなんて、相手にもしてくれないんだろうなあ……」
「いずれにせよ、なかなかの美人だぜ」
「誰か、アタリをつけてくれねえかなあ。
「よし、そういうことなら!」
カヤマが
「俺が話をつけてきてやる!!」
「あ、キャプテン、ずるいですよ!」
「俺も一緒に……」
「ひがむな! 部長の
いさかか
「必ず色良い返事を持って帰ってやるからな」
「頼みますよ、キャプテン」
「おう。まかせとけ!」
カヤマは意気
「初めまして」
こういう時は、
「僕、カヤマと言います。今日あなた方と戦う銀河産業大学ヨット部のキャプテンです」
「あら……」
彼女はカヤマを見た。
「その……
誰の
「おや、そうですか。僕はてっきり、あなたがマネージャーかと。その……あまりにも宇宙の海が絵になる女性だと思いましたので……」
「ええ、父は船乗りでした。もう戦死しましたけれど……」
「そうですか。それはお気の毒に……」
「どうしたんです、スター候補生!」
カヤマにとって最も
「あら、ヤマモト候補生……」
「あ、あ~っ、
大袈裟に
「貴様、民間人の
「いつの時代の言葉だよ……」
カヤマはすっかり、気分を
「僕はただ、レース前の
『ヨット部の若大将』ことカヤマは、胸を張って言った。さすがにその堂々ぶりは、ヤマモトを相手に一歩も
「正々堂々、戦おうとな」
「む、そういうことなら……」
「言っておくが、負けんぞ!」
カヤマは言った。
「今のうちに、せいぜいほざいておくことだ」
こういう正面から来る相手なら、ヤマモトにも
「官民の間に大きな
「その
ヤマモトが力を込めて
「君の名は?」
「ヤマモト、マコト・ヤマモト……」
「僕はカヤマだ。コーサク・カヤマ。ヤマモトか、覚えておくぞ。青大将みたいな顔しやがって……」
「そちらこそ、
「ま、まあ……二人とも……」
「あくまで学園祭の、一イベントなんですから、そうムキにならずとも……」
「そうですね」
カヤマがまず、
「これはとんだ
「気安く声をかけるな!」
ヤマモトが叫んだ。
「スター候補生が、民間人などを相手にすると思うか!?」
「あら。そういう決め付けはよくないわ、ヤマモトさん」
微笑むユリコ。
「カヤマさんには、下心などありませんわ。彼は
「は、はあ……」
ユリコにそう言われては、ヤマモトも立つ
『ははあ……』
男女間の
『なるほど。そういうことか……』
ニヤリ、
「ユリコさんとおっしゃいましたね」
「はい」
「ユリコ・スターと申します」
「あなたのような人とお知り合いになれて、僕ぁ幸せだなあ……」
鼻の下を人差し指で
「まあ……」
「貴様!」
カヤマの
「するに事欠いて士官学校のマドンナに……」
「やめてください、ヤマモトさん!」
叫ぶユリコ。
「あたし、
「し、しかし……」
「ちょうどいい」
微笑んで、カヤマは言った。
「ユリコさん。ここはひとつ暴力以外の方法で、解決しませんか?」
「このレース、勝った方のクルー全員に、あなたがキスをしてくれるというのは、どうですか?」
「なっ、何を言うか貴様ァ!」
「スター候補生が、そのようなこと……」
「おや?」
なんであんたが怒るの、という顔でカヤマはヤマモトを見た。
「あんたら、勝つに決まってるんでしょ。そんなこと言ってなかった、ヤマモトくん?」
「そ、それは…」
「いいわ」
クスクス笑いながら、頷くユリコ。
「軽いキスくらいなら、して差し上げるわ。どちらも、
「そ、そんな……」
と、
「我々士官学校生のマドンナ、ユリコ・スター候補生が、そんな、よりにもよってこんな連中に、その
「まだそうと決まったわけではありませんわよ、ヤマモトさん」
微笑みながら、ユリコ。
「あなた方が勝てば、当然──」
「うおおお~ッ!!」
これが
「
単純なものである。
「ずぇったい勝ァ──────つ!!」
『バカは単純でいいなあ……』
思わずそう思うカヤマ。
『ま、いいや。これで頑張り
部員たちが
対抗レースは、観客が
「奴らの艇の方が、出足が速い」
カヤマは言った。
「
「う~ス!!」
気合の入った、返事。
「タイラー」
「ん?」
「
「任されちゃったよ……」
頭を
「実になんともはや……だね」
「俺から言うことは、これで全部だ」
カヤマは
「おまえらのすべてを出し切れ! 以上だ」
「始まったわ」
と、ユリコ。
「どちらが勝つのかしら……」
それなりに、気になる。
太陽風を
悪くない作戦だ。
「あのヨットの舵を取ってる人……いい腕だな」
ヨットは
「離され過ぎないように、
なんだか
「カヤマさん……」
たった一人、顔も名前もわかっているカヤマの名を、ユリコは思わず口にした。
「カヤマさあん、頑張ってえ!」
まさかその声に反応したわけではなかろうが、『不在の騎士』号が