「では、次のりようちようを発表する」

 と、惑星連合宇宙軍士官学校男子寮・第六百六十五代寮長であるキクチヨ・ミフネはおごそかに、そしておもむろに口を開いた。

「まあ、みんなだいたいさつしはついているとは思うが、一応発表させてもらおう。かんれいだからな……。第六百六十六代目の寮長は、マコト・ヤマモトだ」

 だれもが当然という顔をした。彼の成績はばつぐんであり、こうはいめんどうもよかったから、ろんのあろうはずはなかった。

 そう、彼をおいて他にはなかったのだ、この責任ある、ぼうで、その割に何の見返りらしい見返りもない大役を押し付けるにかつこうの人物は──。

「ヤマモト」

 一年間のじゆうせきたいなく終えたキクチヨ・ミフネは、あんの笑顔で言った。一週間後には、ミフネしようと呼ばれることになろう。

「こっちへ来て、しゆうにんあいさつをしろよ」

「は、はい……」

 当のマコト・ヤマモトはコチコチにきんちようしまくっていた。集会室でもある生徒食堂の前まで出るだけで、はつだった。片方の手と足とが、同時に前に出ているのを見るだけで、その緊張ぶりがうかがえる。あまりに彼らしい。八百六十余名の寮生たちは、いちように笑いをこらえるのにけんめいであった。

「気楽にやれよ」

 と、ミフネは後任者のかたを、そっとたたきながらささやいた。

「何のために一週間も前に、通達したと思ってる。上がりしようのおまえに、緊張をほぐす時間を与えてやるためなんだぞ」

「そ、それはわかっております」

 とヤマモト。

「で、ですが──」

 その一週間のゆうを、寮長就任の挨拶のそう稿こうのためについやしてしまったヤマモトなのである。

すいこうに推敲を重ねたこうじようを、一語一句間違わずに言えるかどうかと思うと……夜も眠れませんでした」

「相変わらずだなあ……」

 苦笑するミフネ。

「ま、そこがおまえなんだが──。しかし、もうちょっと気楽にかまえろよ。そんなんじゃ、任期の半分もたないうちに、胃に穴が開くぜ」

「で、ですが、この大任を──」

「大任と思っているのは、おまえだけだ」

 とミフネ。

「他のやつにとっては、どうでもいいんだよ、そんなこと……」

「ですが──」

「なあヤマモト」

 とミフネは親身にあふれる表情でさとした。

「おまえだって、あと一年で士官として戦場に出ることになるんだ。今からそんなコチコチじゃ、先が思いやられるぞ。ま、おれの予想じゃ、任官した早々に、めいの戦死だな」

「おっしゃらないでください、ミフネせんぱい……」

 と、ふるえながらヤマモト。

「これで、ますます……緊張が……」

「さ、とっとと挨拶しろ!」

 ポンと背中をはたく。そのしゆんかんにヤマモトののうからは、推敲に推敲を重ねた就任挨拶の内容が、れいさっぱり飛んでしまった。

『あ──』

 ろうばいするヤマモト。

『まっしろ……』

 そこからは、何をしゃべっているのか自分でもさっぱりわからなかった。おくもない。

「ふ、しようこのマコト・ヤマモト……」

 彼は五秒で、就任挨拶を終えた。

せいしんせいがんるであります!」

 まんじよう、割れんばかりのはくしゆかつさいであった。

「あ──」

 そこでヤマモトの、記憶が戻った。

「じ、自分は……」

「最高の挨拶だったぞ、ヤマモト」

 ミフネがしんそこ微笑ほほえんでいる。

かんぺきだ」

「本当は、五分ばかり続くはずだったのでありますが──」

「いいんだ」

 彼の心中も意にかいさず、ミフネは言った。

「就任挨拶なんてのは、短ければ短いほどいいんだ。どうせ誰も聞いちゃいないんだし……」

「そ、それではミもフタも──」

「見ろ、ヤマモト」

 と、ミフネは寮生たちを見渡し、言った。

「みんなおまえの短い挨拶に、かんしやしてる」

「そ、そうでありましょうか?」

 思わず微笑んでしまう、ヤマモト。

「そうとも」

 ミフネのたいばん

「これでおまえは、寮長としてみんなの心をつかんだ!」

 思えばそれが、一連の不幸の始まりだったかもしれないと、ヤマモトは後年になってつくづく思う。

 あれから何十年も経つというのに、その就任挨拶のことを、マコト・ヤマモトげんすいは今でも夢に見るのだ。

はいぞくが、決まったよ」

 と、少尉の階級章を付けたミフネが、微笑みながら言う。

じゆんようかんかさすて』の三番ほうとうだ」

うんを──!!

 ヤマモトはさっとけいれいした。桜の花びらが風にう。

「どうかなあ……」

 まるで他人事のように、ミフネ。

「巡洋艦クラスは、いちばんボカスカしずふねだからなあ……」

だいじようです」

 とヤマモト。

「先輩のような強運の持ち主が、そうやすやすと──」

「ヤマモト」

 ミフネは一瞬、真顔になった。

「世の中に、『絶対』という二文字はないのだ。特に、戦場ではな……」

かなしいことを、おっしゃらないでください。先輩なら、大丈夫です。絶対です!」