Part 01: 最後の#p綿流#sわたなが#rしが行われた昭和58年のあの日、5歳だった私は……どうだっただろうか。 小さい頃、お祭りに行ったような記憶は一応ある。 けど、よくよく考えるとその記憶が昭和58年の綿流しに参加した証明になるようなものは何も浮かばない……。 だから私は、昭和58年の綿流しには参加していなかった……かもしれない。 10年前の記憶はとても曖昧で。ひょっとしたら行ったのに覚えていないとか、勘違いをしている可能性も否定できない。 ただ、たとえ行ったにせよ……少なくともお祭りが楽しかった、という記憶は本当におぼろげにしかなくて。 だからこうして成長した今、美雪ちゃんや菜央ちゃんたちと一緒に屋台巡りや演舞の観劇ができるのはすごく楽しみで……。 本番の日が早く来ないかなと、毎日ずっと楽しみにしていた。 一穂(私服): (けど……もしも5歳の時の私が綿流しに参加してなかったとしたら、どういう理由があったんだろう?) 当時小さかったとはいえ、一応私は#p雛見沢#sひなみざわ#r御三家公由の人間。 綿流しは雛見沢の総力を挙げた大きなお祭り。つまり、参加したと考えるほうが自然……のはずだけど。 一穂(私服): (お父さんやお母さん、それにお兄ちゃんは参加した……のかな?) 今日もみんなと一緒にお祭り準備を手伝ったけど、手なんていくらあっても足りないと実感した。 猫の手すら借りたい、という忙しさで当時の私ぐらいの小さな子が伝言役として駆けずり回っているくらいだ。 一穂(私服): (つまり、3人はお祭りに行っていた可能性が高い?) ということは私だけ不参加だとしたら体調を崩してひとり留守番をしていた……とか。 その程度のことすら、私はなにも覚えていないのだ……。 一穂(私服): だから、その……綿流しがどんなお祭りだったかは、その……全然覚えてなくて……。 一穂(私服): ごめんなさい……。 美雪(私服): いや、謝る必要はないよ。けど……一穂って、当時は5歳だよね? 美雪(私服): その年齢の子どもが体調を崩してるとしたら、たった1人で家に置いて行くかな……? 菜央(私服): そうね。お父さんとお母さんは無理だとしても、お兄ちゃんぐらいは残るんじゃない? 美雪(私服): それか、近所の人が面倒を見てくれてたとか? 一穂(私服): そういう記憶は、ない……かも。 美雪(私服): そっか……だとしたら綿流しについて一穂が把握してる情報は、私たちとあんまり変わらないかぁ。 一穂(私服): 役に立たなくて……ごめんなさい。 菜央(私服): 謝るなら一穂じゃなくて、美雪の方でしょ。 美雪(私服): うっ! う、うん……いや、それはそうだ。 美雪(私服): この村の誰かより、一穂相手に質問したほうが多少込み入ったことでも聞けるかなって思ってつい気軽に聞いちゃったけど……。 美雪(私服): ごめんね、別に責めるつもりなんてないんだ。それに、10年前の記憶を忘れてても当然だし。 美雪(私服): 冷静に考えたら、私だって幼稚園時代に何をやってたかなんて、もう断片的にしか覚えてないもんなぁ。 菜央(私服): 断片って、例えばどんな? 美雪(私服): ……よし、この話はおしまいにしよう。 菜央(私服): 露骨に話そらすってことは、ロクでもない記憶なのね。呆れた。 美雪(私服): まだ何も言ってないやいっ! 美雪(私服): そう言う菜央はどうなの?5歳の時のことなんて覚えてないんじゃない? 菜央(私服): ちょっとなら覚えてるわよ。そうね……お母さんの仕事の見学で、撮影スタジオに連れて行ってもらった時のこととか? 菜央(私服): 照明がすごく熱くて、ミリ単位のポージングの指示が罵声みたいに飛んでて……。 美雪(私服): それって、覚えてるんじゃなくて……ある程度大きくなってからこんなことがあったね~。 美雪(私服): ……って思い出話をされたのを記憶と間違えてない? 菜央(私服): 失礼ね。そんなことあるはず……。 菜央(私服): ない……はず……ん……んん……? 菜央(私服): ないわ。 美雪(私服): 今めちゃくちゃ言い淀んだ!図星だ図星! 絶対記憶を混同してる~っ! 菜央(私服): うるっさい。 一穂(私服): あ、あははは……ふふっ。 美雪ちゃんと菜央ちゃんのにぎやかで楽しいやりとりを苦笑交じりで眺めていると……本当におかしさがこみ上げて、思わず笑ってしまう。 雛見沢に来て、この2人と出会ってから……毎日がずっと楽しいことだらけだ。 もちろんレナさんや魅音さん、沙都子ちゃんたちが何かと気遣ってくれているおかげでもあるんだけど……。 私と同じように未来からきたという彼女たちの存在は、ともすれば過去にいたはずの「世界」を見て感じる寂しさ、悲しさに陥りそうな私の心の支えとなっていた……。 一穂(私服): (この2人がそばにいてくれたから、今日まで明るい気持ちで過ごすことができたんだね) もし、私1人だけこの「世界」に放り込まれていたら、どうなっていただろう。 感謝の思いとともに、ちょっとだけ想像してみる。 美雪ちゃんと菜央ちゃんのいない世界。私はたった1人で……。 1人、で……。 一穂(私服): (…………ぅ…………!) 広い雛見沢の中、ぽつんと佇む自分を想像した瞬間。 足元から何かが這い上がって飲み込んで押し潰されて私は跡形もなく――。 菜央(私服): え、ちょっと……どうしたの一穂。あんた、顔面が真っ青じゃないの。 美雪(私服): お、おう……! どうした一穂?具合悪い?! 一穂(私服): えっ……? あ、ううん。なんでもない。ちょっとだけ、眠くなったのかな……? 菜央(私服): 本当にそれだけ?タチの悪い夏風邪を引いたとかじゃないわよね? 菜央ちゃんが手を伸ばして、私の額に手を押し当てる。 菜央(私服): 熱はないみたいだけど……風邪が流行ってるかもしれないし。用心した方がいいわね。 美雪(私服): あれ、誰か風邪引いた人っていた? 菜央(私服): なんだか最近、レナちゃんの様子が変なのよ。もしかして風邪を引きかけてるのかも……かも。 美雪(私服): レナが? うーん、私の目には元気そうに見えたけど……。 一穂(私服): 風邪にかかってることに無自覚なのかな? 美雪(私服): それはキミが言えることじゃないでしょ……って、確かにもうこんな時間だ。 菜央(私服): そろそろ寝ましょうか。あんまり遅くまで起きてると、一穂の引きかけの風邪が悪化しちゃうかもしれないし。 一穂(私服): えっ?! 菜央(私服): 言っておくけど、一穂の風邪が悪化したらあたしたち全員お祭りはキャンセルよ。 美雪(私服): 一穂が風邪を引いてるなら、菜央と私も移ってるかもしれないからねぇ。他の子に移すのは忍びないし。 一穂(私服): い……いいい、いますぐ寝る!もしかかってても寝て治すっ!だから、えっと、その……! 慌てて初日に寝かされてから自分の寝床になっている2階にあがろうとして……。 美雪(私服): あ、ちょっと待って。 一穂(私服): え? 聞き返すよりも早く、美雪ちゃんの姿が台所の奥へと引っ込んでいく。 そのまましばらく物音がして、戻って来た美雪ちゃんの手にはお盆。その上には……。 菜央(私服): なに、その3つの湯飲みは。 美雪(私服): 梅湯。風邪を引きかけると、よくお母さんが作ってくれるんだ。……はい、一穂。これ飲んで。 一穂(私服): い、いただきます。 差し出された湯飲みを受け取り、口に運ぶ。 美雪(私服): どう?……って言っても、潰した梅にお湯入れただけの代物だけどね。 一穂(私服): ううん……おいしい。 本当においしかった。梅を潰してお湯を入れただけとは思えないくらいに。 美雪(私服): なら、よかった。風邪予防のために菜央も飲んじゃってよ。 菜央(私服): ……まぁ、薬だと思っていただくわ。 美雪(私服): 素直に受け取りなよ。 うりうり、と肘で菜央ちゃんを小突く美雪ちゃんを見ながら梅湯をすすりつつ思う。 一穂(私服): (私も、風邪引いた時にこういうのを作って貰ったのかな……) 作ってもらったのかもしれないが、味はおろか何を作って貰ったかさえ覚えていない。 ……薄情な娘だと、自分で思う。どうしようもない後ろめたさに背中が重くなる。 だから……。 一穂(私服): (せめて、薄情な友達にはなりたくない) Part 02: 魅音(私服): 綿流祭八凶爆闘、次の競技は射的!今回はそうだね……チーム戦でいこうか。勝った方全員にポイント! 一穂(私服): ち、チーム戦……? 昨日の梅湯を飲んでから寝り、すっきりした頭からさぁっと血の気が引いていくのがわかる。 夢にまで見た#p綿流#sわたなが#rし……そして部活。どちらも待ち望んでいたものなのに……。 一穂(私服): (私、ぶっちぎりで最下位……!) どんな競技も、何をやっても最下位かよくてその一個上。 一穂(私服): (つまり、私と一緒のチームになる人は私と言うハンデを背負うと言うことに……?!) 一穂(私服): あわわわわわ……! レナ(私服): チーム分けは……さっきかき氷を食べた時メロンとイチゴでちょうど半々だったから……。 レナ(私服): メロンチームとイチゴチームに分かれるのはどうかな? かな? 魅音(私服): よし、それでいこう! レナ(私服): じゃあいちごチームはレナと梨花ちゃん、沙都子ちゃんと菜央ちゃん……。 圭一(私服): レナ以外、全員が小さい子ばかりだな……。 沙都子(私服): をーっほっほっほ!そんな偏った見方をしていたら痛い目を見ましてよ~! 美雪(私服): いや、前原くんは舐めてるとかそうじゃなくて……このままだと全員レナに持ち帰られそうだなって思ったってことじゃない? レナ(私服): はぅ~! みんなかぁいいよ~!!おっもちかえりぃ、したぃ~っ☆ 魅音(私服): 残りのメロンチーム、このゲーム手早く済ませるよー。レナの我慢が利かなくなる前にー。 一穂(私服): (あああっ! あっという間に班分け完了?!) 屋台: お、全員でやるのか?いいけど、同時に打つのは2人ずつで頼むぜ? みんな: はーい! 一穂(私服): まっ……?! レナ(私服): じゃあ、先に行かせてもらうね。 慌てる私をよそにレナさんと菜央ちゃんが小銭を屋台のおじさんに渡し、それぞれが銃を手に取る。 そして2人は構えを取ると、互いに視線を交差させて……。 ギャラリー: ぅおおおぉおぉおおおぉッ!!!! いつの間に集まったのか、射的屋を取り囲んでいたギャラリーが大歓声をあげる。 その声が収まる頃には、既に菜央ちゃんとレナさんのそれぞれのコルク弾3つは撃ち尽くされていて……! 場が僅かに静寂を取り戻す頃……額に3つ弾が命中し、大きく揺らいでいたネコのぬいぐるみがぐらり、と……! ギャラリー: ああぁぁぁああああああー!!!! ギャラリーの悲鳴を受けながら、ネコのぬいぐるみは元の位置に戻る。 レナ(私服): はぅ……さすがに大物は難しかったかな、かな。 菜央(私服): でも……レナちゃん、やったわ!キャラメル2つ、ゲットよ! レナ(私服): やったね、菜央ちゃん! いえーい! と、ハイタッチを交わす2人。 美雪(私服): なるほど、そう来たか。今回はチーム戦だからねぇ。 圭一(私服): 小物で確実に点を取りつつ、レナは大物に挑戦……即興にしてはいいコンビだぜ! 腕を組んだ美雪ちゃんと前原くんが職人さんみたいな目でうんうん頷いている。 一穂(私服): (……え、えっと2人ずつってことは次は連続でいちごチームだとすると……) 魅音(私服): はい、一穂。 一穂(私服): へっ……? 差し出された銃の意味が一瞬理解できず、目をしばたたかせる私に魅音さんがニヤリと笑う。 魅音(私服): コルク弾の放縦方法とか撃ち方とかは、レナたちのを見ていたから……わかるよね? 一穂(私服): い、一応……でも、当てる自信が……! 魅音(私服): いいよ。当たんなくってもさ。 一穂(私服): えっ? Part 03: 不敵に笑いながら魅音さんが銃を構え、私も慌ててその姿を真似る。 魅音(私服): 一穂、あんたは好きにしな。 一穂(私服): す、好きにって……?え、ええっと……ええっと……。 つまり私は自由に好きな獲物を狙え……ということだろうか。 一穂(私服): (確実に当てるなら……小物?) 菜央ちゃんが狙っていたキャラメル箱に銃口を向けてみる……けど。 一穂(私服): (思ったより小さくて狙いにくい……私じゃ、小物すら当たるかわからない) だとしたら、イチかバチか……! 銃口の狙いを変えた、その先は……! 圭一(私服): おおっ?レナが狙っていた、大きなネコのぬいぐるみ?! 一穂(私服): あ、当たるかどうかわからないけど……! 圭一(私服): いいじゃねぇか! 当てに行こうぜ! 魅音(私服): こっちは気にしなくていいから、思いっきりやりな! 美雪(私服): 頑張れ、一穂ー! 一穂(私服): う、うん……! 息を吸い、呼吸を整え……思い出せ! 一穂(私服): (レナさんの弾を装填する滑らかな手つき……!) ポンポンポンポンッッ!! ポップコーンが弾けるような音が、連続で……鳴って。そして、大きく揺れたネコは、そのまま……! 素早く伸びた店主さんの手の中に、大きなネコのぬいぐるみが……落ちて。 ギャラリー: ぅおおぉぉおおおぉおぉおおッ!!!! 背後から大歓声が響き渡って……?! 梨花(私服): みー……。 沙都子(私服): ……やはり大物狙いなら連続射撃、数で攻めるが正解のようですわね……! レナ(私服): すごーい! 三段打ちならぬ二段打ちだねっ! 一穂(私服): …………。 何がおきたのかまだ読み込めず、最後の1弾を撃った体勢のまま固まる私の前にずいっ、と大きなネコのぬいぐるみが差し出される。 屋台: 持って行きな。 一穂(私服): えっ、あっ、あっ……! 魅音(私服): 受け取りな、一穂。あんたの選択の勝利だ。 美雪(私服): 大物に挑戦するのを選んだのは一穂だからねー。この大観衆の中で、よくそっちを選んだよ。 圭一(私服): な! 魅音の命中率はよかったけど、一穂ちゃんもちゃんと当ててたよな! 一穂(私服): …………。 ギャラリー: うぉおおおおおおおっ!! 私がぬいぐるみを受け取ると、背後で再び大歓声があがる。 沙都子(私服): ライバルチームに向けられた歓声は、なかなかアウェイ感がありますわね……ですが。 沙都子(私服): この北条沙都子、この程度で潰れるほどヤワではありませんわーっ! 梨花(私服): ふぁいと、おー☆……なのです。 美雪(私服): これはこれは……この2人も、大物持って行っちゃうかもね。 美雪(私服): 一穂と魅音の頑張りを無駄にしないためにも、その場合は私たちで取り返そうね、前原くん! 圭一(私服): へっ、沙都子たちの得物は関係ねぇよ。 圭一(私服): ……せっかく波が来てるんだ!攻めの姿勢で行くぜぇえええええっ!! レナ(私服): はぅー、どっちが勝つかなっ。かなっ?! 沙都子ちゃんと梨花ちゃんが用意を整える中、野次馬の歓声はますます大きくなっていく一方。 私は手にしたぬいぐるみを、黙ってぎゅっと握りしめていた……。 レナ(私服): ……一穂ちゃん、まだ綿を流していないの? レナさんの視線は、ぬいぐるみを抱える私の手にまだまだ握られている#p綿流#sわたなが#rし用の綿。 レナ(私服): もしかしてぬいぐるみが濡れちゃうから?よかったら、ちょっとだけ預かってあげるけど。 一穂(私服): あ、えっとその……預かるんじゃなくて。 一穂(私服): こ、このぬいぐるみ……もらってください! 両手に握ったネコのぬいぐるみを突き出す。 レナ(私服): え……? このぬいぐるみを?でもこれは……。 一穂(私服): あの時……魅音さんと一緒に、最下位の私のためにかき氷の味でのチーム戦を提案してくれたんだよね? 戸惑うレナさんに早口で告げると、彼女の目が見開かれる。 あの時点で、メロンチームは私以外、みんな結構点を取得していて……だから。 何も取れないだろう私をハンデにしても、いちごチームとメロンチームは引き分けくらいの実力になっていただろう。 だからこそ、私は安心して大物を狙えたのだ。 一穂(私服): それに、レナさんがお手本を見せてくれなかったら大きいぬいぐるみをあんな風に狙えばいいって、知らなかった……から。 レナ(私服): ……たまたまだよ。なんとなく、あぁいう狙い方をすれば取れるような気がしただけだから。 レナ(私服): 取れたのは、一穂ちゃんと魅ぃちゃんだよ。だから渡すなら魅ぃちゃんに……。 一穂(私服): 実は、魅音さんにも相談したんだけど……レナに渡してあげてって言われて。 一穂(私服): 私が頑張ったのを見たのが面白かったから、自分はそれで十分だって……よくわからないけど。 一穂(私服): 皆が、手加減とかしないでくれたのも、本当に嬉しかったから……! だ、だから……。 だから……だから? 一穂(私服): (あれ、なんと言おうとしたんだっけ……?!) もうパニック状態になった頭には言うべき言葉は浮かばない。真っ白だ。 無言で目を回す私を見て、レナさんはくすっとわらって……。 レナ(私服): ……うん、わかった。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。 私の手からネコのぬいぐるみを受け取ったレナさんは両手でかき抱くようにして、ぎゅっと抱きしめた。 レナ(私服): はぅ~、かぁいい~!レナ、これお持ち帰りしたかったんだ~! 満面の笑みを浮かべるレナさんを前に、ようやく受け取ってもらえた私はほっと一息つき……。 一穂(私服): (…………あれ?) 奇妙な違和感に襲われた。 一穂(私服): ……レナさん、大丈夫? レナ(私服): え……? なにが……? 一穂(私服): え、えっと……? 一穂(私服): (気のせいかな、今、レナさんの目が一瞬おかしな風に見えた……ような) けど……なんでそう見えたんだろう?緊張の糸が途切れたせいで、変なものを見てしまっただけじゃ……? それとも菜央ちゃんが、レナさんは風邪気味っぽいって言ってたから……? 一穂(私服): な……なんでもない。 慌てて首を振り、ごまかすように綿が流れてくる川に視線を向ける。 松明と月明かりに照らされた綿は、まるで小さな光が流れて行っているようで……。 その仲間に咥えるべく、私は手にしていた綿を乗せた手をそっと川へ付ける。 ……軽い綿は水に浮かび、川の流れへ乗って他の綿と共に下流へと流れていく。 いつしか他のものに紛れてわからなくなった自分が流した綿を見送り……呟いた。 一穂(私服): また、綿を流しに来たいな。 レナ(私服): …………。 レナ(私服): そうだね……また一緒に、来ようね。 レナ(私服): みんなで一緒にねっ。 一穂(私服): ……うんっ!