Part 01: 梨花(冬服): ……まったく、羽入のおかげで酷い目にあったわ。無事に戻ってくることができたからまだよかったけど、よくもあんな危険物を私たちに使わせてくれたわね。 羽入(冬服): ご、ごめんなさいなのです……。ただ、僕もまさか古手家が管理する道具の中に、あんな力があったとは思わなかったのですよ。 梨花(冬服): 力というより、あれはもはや呪いと呼ぶべきよ。……それにしても羽入、あれは#p雛見沢#sひなみざわ#rに出没する『ツクヤミ』の一種と考えるべきなのかしら? 羽入(冬服): あぅ……現時点だと、なんとも言えないのですよ。以前にも鏡の中に閉じ込める力を使ったり、夢の中に引きずり込んだりする連中はいましたが……。 羽入(冬服): あれらも含めて、そもそも『ツクヤミ』なるものがどのような存在なのかが一切わかっていませんので……同種か異種かも、僕には断じることができないのですよ。 梨花(冬服): この村に古くから居着くありがたい存在のあんたにも、まだ不明なことがあったなんてね……色んな意味で驚きというか、新発見だわ。 羽入(冬服): あぅあぅ、皮肉を言わないでくださいなのです……!神と等しい立場であれ、全知全能なんて稀有な力を僕に求められても困るのですよ~! 梨花(冬服): ……そうね、確かにその通りだわ。意地の悪い言い方になってしまって、悪かったわね。 羽入(冬服): えっと……梨花? そうやってあなたから素直に謝られてしまうと、言葉の裏に潜むなにかの意図を勘ぐってしまいそうになってしまうのですが……。 梨花(冬服): ……今から激辛キムチをお腹いっぱいに叩き込むわよ。 羽入(冬服): じょ、冗談なのです! この場の空気を和ませようと思って、ついからかってしまっただけなのですよ~! 梨花(冬服): なにが和ませるためよ……まったく。あんたの空気の読めない天然なうっかり発言は、魅音なみに相手を苛立たせるから注意しなさい。 梨花(冬服): ……まぁ、それはさておき。この「世界」に姿を現して暴れまわるならまだしも、私たちの精神の中にまで入り込んでくるってことは……。 梨花(冬服): 少なくとも連中は、動物が突然変異したようなものではない……と考えたほうがいいみたいね。もしかして霊とか、スピリチュアルなたぐいなのかしら? 羽入(冬服): ……少なくとも、科学などの理論的な考え方ではとても説明ができない超常の存在であることは、おそらく間違いないと思います。 羽入(冬服): それに大昔だと、雛見沢……旧名の鬼ヶ淵村には、不可思議な存在が実際にいたことも確かです。付喪神しかり、霊しかり、それに……あしきもの。 羽入(冬服): 日本神話や民間の昔話に登場するような八百万の神なども、かなりの数がこの集落全土にて共存していたのですよ。今ではもう、大半がこの地を去ってしまいましたが……。 梨花(冬服): ……なるほど。で、その中で今もなおこの地に残っているのが、あんたが教えてくれた#p田村媛#sたむらひめ#r命という女神ってわけね。 梨花(冬服): ということは、今回の一件もその神様に問い合わせてみれば……違った視点と考え方で、何かわかるようなこともあるんじゃないかしら? 羽入(冬服): ……。もし本当にそうだったとしたら、憎き相手だとはいえ頭を下げることもやぶさかではないのですが……。 羽入(冬服): あ、いや……やっぱり今の発言はなしです。僕が頭を下げるその対面に、偉そうにふんぞり返るあんにゃろうの顔を思い出したらムカムカが……! 梨花(冬服): ……なんだか羽入って、その女神様のことをずいぶん嫌っているというか……いつも恨みつらみが重なっているって感じよね。 梨花(冬服): いったい、あんたとその神様との間に何があったの?以前に一悶着があった、ということはあんたの口から一応聞かせてもらったけど……。 梨花(冬服): もしよかったら、話せる範囲だけでも構わないから聞かせてもらってもいい? 羽入(冬服): わかりましたのです。あれはそう、僕がこの地に降り立ってからしばらく経ったある日のこと――。 …………。 梨花(冬服): は……? 羽入、それってほんとのことなの?正直言って、さっきみたいに私のことをからかっているとしか思えない説明なんだけど。 羽入(冬服): いいえ、事実なのです。今話した内容はあなたがどう捉えるかはともかく、できるだけ中立的な観点から述べたものなのですよ。 梨花(冬服): ……。教えてくれといったのは私だけど、聞いた今では知らないままの方がよかったと後悔しているわ。 梨花(冬服): ほんと、あなたたちって……人間より長く生きているという割に、思考も感情もお子様レベルなのね。……情けないったらないわ。 羽入(冬服): あ、あぅあぅ~!だからって、そんなに大きなため息をつきながらバカにしたような目で僕を見ないでください~! 梨花(冬服): バカにしたくもなるわよ。自分たちへのお供物を巡って罵りあった末に激突して、絶縁状態に突入だなんて……。 梨花(冬服): 別に『神々の黄昏』のように人類の命運をかけた争いをしろとは言わないけど……低レベルすぎるケンカだと、神様っていったい何様? と鼎の軽重を問いたくなるわ。 羽入(冬服): そ、そんなことを言われましても……僕としては神としての自尊心と矜持を守るためにも、安易に引き下がるわけにはいかなかったのですよ。 梨花(冬服): はいはい。とりあえず共感できるポイントもなさそうだし、このあたりにしておきましょう。 梨花(冬服): で……羽入。とりあえず話を戻すと、今回の一件でその女神様に協力を頼むことはできるの? それともできないの? 羽入(冬服): ……結論から申し上げると、可能です。田村媛命は傲岸不遜に全てを見下す傾向がありますが、自分に敬意を払う相手に対しては誠実なのです。 羽入(冬服): ですから、僕が不倶戴天の敵であるかの女神に涙をのんで頭を下げ……下げ……あ、あぅあぅ……! 梨花(冬服): そんなに嫌だったら、私があんたの代わりに行ってあげてもいいけど……それはダメなの? 羽入(冬服): えっ? り、梨花が田村媛命と会って話をする、ということですか……? 梨花(冬服): えぇ。一般人だったら厳しいかもしれないけど、『オヤシロさま』の巫女であれば少しくらいは一目置いてもらえるかもしれないからね。 羽入(冬服): ……うーん……。 羽入(冬服): いえ、やっぱり僕が会ってきます。梨花の気持ちはとてもありがたいのですが、やはりこれは僕がやるべきことだと思うのですよ。 梨花(冬服): そう……。もしよかったら、田村媛命と話したことをあとで私にも教えてくれると嬉しいわ。もちろん、話せる範囲でかまわないから。 羽入(冬服): わかりましたのですよ、あぅあぅ。 Part 02: 羽入(冬服): ……というわけなのです。僕としてはものすっっごく忸怩たる思いですが、ぜひあなたの力を貸してもらいたいのですよ。 田村媛命: ……相も変わらずというか、建前だの社交辞令だのが下手くそな輩#p哉#sかな#r。そなたでなければ神罰を食らわせて、即刻叩き出してやっているところ#p也#sなり#rや。 羽入(冬服): あぅあぅ……たとえ隠し事をしたところで、神の座にある僕たちはその気になれば、相手の考えを察知することができるはずなのです。 羽入(冬服): だったら、嘘偽りなく腹を割って打ち明けることこそが誠意というものだと、僕は思うのですよ。 田村媛命: ふん……ものは言いよう哉。されど、確かにそなたの言にも一理有る也や。 田村媛命: とはいえ、残念ながら吾輩とて現状知り得ているものはそなたらと五十歩百歩。ゆえに、殊に伝えられる情報は大して持ち合わせておらぬ哉。 羽入(冬服): ということは……#p田村媛#sたむらひめ#r命、あなたも今回の事態の詳細を掴んでいなかったのですね。……役に立たない神様なのですよ、あぅあぅ。 田村媛命: おい……角の民の長。いくら寛容な吾輩とて、ものには限度というものがあるということを少しは理解すべきと知り給え。 羽入(冬服): あぅあぅ。そうはいってもつい抱いてしまう悪感情は抑えようがないし、ごまかしようがないのですよ~。 田村媛命: ……よろしい、ならば戦争だ。吾輩も素直になりて貴様に悪感情をぶつけてやるゆえ、覚悟して身構え給え……ッ! 羽入(冬服): あぅあぅ……だから、すぐにムキになるクセをやめてくださいなのです。安い挑発に乗りすぎると、神としての器量を問われかねないのですよ。 田村媛命: 貴様が言うかっ? その口で言うのかぁ?! 羽入(冬服): それはさておき、田村媛命。ここ最近あなたの存在を感じづらい日が多くなったような気がするのですが、どちらかに出かけているのですか? 田村媛命: ふん、そなたの知ったことではない……と返したいところだが、角の民の長よ。実は手を借りたいのは吾輩も同じ也や。 羽入(冬服): あぅあぅ……?僕にいったい、どんな助力を求めようというのですか? 田村媛命: 案ずるな、そこまで難儀なことは求めぬ哉。……第一、そなたにできることといえば幼児でもこなせそうな簡単なお遣いの類が精々也や。 羽入(冬服): 早速、仕返してきやがったのです……ほんと根に持つ神様なのですよ、あぅあぅ。 田村媛命: ……貴様、鏡は知っている也や?便利ゆえ今度から携行して、ことあるごとに己の顔を見るが善きと知り給え。 田村媛命: それはさておき……しばし、吾輩に付き合う哉。ここだと話しづらいことがあるゆえ。 羽入(冬服): あぅあぅ……ここに来たということは、外には絶対に聞かせたくない話ということなのですか? 田村媛命: #p然#sしか#rり。此度の騒動の原因、おぬしが最初に思い至ったものはなにゆえ哉? 羽入(冬服): 原因? それはもちろん、例の鏡の事件を……。 田村媛命: 否。一斉に眠りに落ちたという言葉から、吾輩は真っ先に#p采#sウネ#rを思い出した也や。 羽入(冬服): …………。 田村媛命: 一瞬でも、もしやとは思わなんだった哉? 羽入(冬服): 思った……のです。といっても、あとから思い出した形になりますが。 田村媛命: 外宇宙からの外来者。……貴様と似た存在。 羽入(冬服): 田村媛命とも似ていると思うのですよ。 田村媛命: 吾輩は古きより、この地の管理者也や。故に、外来者とは異なる哉。 田村媛命: ……貴様とはまだこうして相対できる也や。だが、ヤツにソレを求めるのは無理な話である哉。 羽入(冬服): それは、そうかもしれませんが……。 田村媛命: ……直接的に言う也や。吾輩は、『ツクヤミ』の跋扈の原因がヤツではないかと疑っている哉。 羽入(冬服): 采が……? 眠りはともかく、あれにそんな力があったでしょうか? 田村媛命: だとしても他の神の関係がなくては、この悪夢のような状況は説明がつかぬ也や。 羽入(冬服): でも、まだ疑っている段階で原因だと断言は出来ないということですか? 田村媛命: 出来ぬ。だが、無関係とも断言できぬ哉。 田村媛命: ……采を探せ。 田村媛命: ヤツの居場所を突き止めることこそが、この状況を打開する鍵になるやもしれぬ也や。 羽入(冬服): あっ……待ってください、田村媛命! 羽入(冬服): 田村媛命……。 Part 03: 詩音(サンタ水着): メリークリスマース! 一穂(冬服): 何度見ても、詩音さんの格好ってすごいよね。 圭一(冬服): やっぱり一穂ちゃんもそう思うよな……?詩音とか平然としているから俺の方がおかしいのかなとか……。 美雪(冬服): んー……あれを普通だと思い始めたら、ちょっとまずいと思うよ。公序良俗的にさ。 レナ(冬服): はぅ~。レナは可愛いからいいと思うよ! 圭一(冬服): レナはそうだろうな。 レナ(冬服): あれ? もう一人のサンタさんはどこに行っちゃったのかな? かな? 菜央(冬服): そういえば、さっきから姿が見えないわね。 沙都子(冬服): あの……さきほど運び込まれた、この大きなプレゼントボックスは何ですの? 魅音(冬服): うわっ、でかっ! いつの間にこんなものを……。 梨花(冬服): さっき魅ぃが、詩ぃと話してた時に運び込まれてきたのですよ。 菜央(冬服): なにかしら。開けてもいいの? 圭一(冬服): って……おい、今箱が動かなかったか? 一穂(冬服): えっ? えっと……。 羽入(サンタ水着): サンタさんからプレゼントなのですよーっ! 一穂(冬服): わぁっ!? 羽入(サンタ水着): よいこのみんなに、お菓子をあげるのです!みんなでお腹いっぱい食べるのですよ~! 沙都子(冬服): び、びっくりしましたわ……。 菜央(冬服): そう? 箱のサイズ的に人が入ってるって丸わかりだったけど。 羽入(サンタ水着): あぅあぅ、もっと驚いてくださいなのですよ~! 圭一(冬服): いやいや、十分驚いたって。このお菓子もらっていいのか? 羽入(サンタ水着): はい、クリスマスプレゼントなのです! 一穂(冬服): あ、ありがとう。でもこれどうしたの? 羽入(サンタ水着): ちょっとしたツテでたくさんお菓子をもらったので、渡し方もサプライズにしようと……。 詩音(サンタ水着): 私が提案したんですよ。 詩音(サンタ水着): サプライズ大成功! イエーイ! 羽入(サンタ水着): い、いえーい!少なくとも、一穂と沙都子は驚かせられたのですっ! 梨花(冬服): みー、一穂と沙都子しか驚かせられなかった……の間違いでは? 一穂(冬服): うぅっ! 沙都子(冬服): なんだか今、ちょっと馬鹿にされた気がしましたわ……? 美雪(冬服): 2人とも、素直で可愛いって事だよ。にしてもお菓子たくさんあるね。 羽入(サンタ水着): さぁ、みんなで山分けするのですよ! レナ(冬服): わぁ、このお菓子懐かしい! 魅音(冬服): お菓子バイキングみたいでなんか楽しいね。 詩音(サンタ水着): じゃあ私、これいただきます。 沙都子(冬服): サンタさんがプレゼントをもらっていいんですの? 詩音(サンタ水着): サンタさんだってプレゼントをもらう権利はありますよ! 羽入(サンタ水着): 梨花。 梨花(冬服): 羽入。どうしたのです?お菓子をもらいにいかないのですか? 羽入(サンタ水着): もしも……もしもですが。 羽入(サンタ水着): 僕が手のひらより小さな箱の中に隠れていたとしたら……見つけられると、思いますか? 梨花(冬服): …………。 羽入(サンタ水着): どうでしょうか? 梨花(冬服): みー……羽入が何を言っているか、よくわからないのです。 梨花(冬服): だけど、大きな箱を開け回って、それでも羽入が見つからなかったら……どんな箱でも開けて回るのです。 梨花(冬服): それで最後には、絶対羽入を見つけるのですよ。 梨花(冬服): ただ、大きな箱から探すのが定石なので、見つけるのは遅くなってしまうかもしれませんが……。 梨花(冬服): その点については、勘弁してほしいのですよ。 羽入(サンタ水着): ……諦めないのですね。 梨花(冬服): みー……忘れてしまったのですか?僕は諦めないことを、羽入に教わったのです。 羽入(サンタ水着): ……そうだったでしょうか。そうだったかもしれないのですよ。 羽入(サンタ水着): ありがとう、梨花。なんだかプレゼントをもらった気分なのです。 梨花(冬服): サンタなのに? 羽入(サンタ水着): サンタだって、プレゼントをもらう権利はあるのですよ! 梨花(冬服): くすっ……そうね。サンタさんもプレゼントを配るばかりじゃ不公平だものね。 羽入(サンタ水着): ……ありがとう、梨花。あなたの言う通り、諦めては終わりなのです。 羽入(サンタ水着): だから僕も諦めない。たった一人になったとしても、この悪夢の原因を……。 羽入(サンタ水着): 采を、探します。 羽入(サンタ水着): そして、必要だと思ったなら……。 羽入(サンタ水着): …………。 羽入(サンタ水着): ……僕が相打ちになってしまっても、大丈夫。だって、梨花には心強い仲間がたくさんいる。 羽入(サンタ水着): だから……。 羽入(サンタ水着): 僕も、諦めないのですよ。