Part 01: 魅音(巫女服): ……うん、こっちは終わったっと。そっちはどう、レナ? レナ(巫女服): あと少しだよ。ここが綺麗になったらおしまいかな、かな。 魅音(巫女服): にしても、結構キツかったねー。これを私ひとりで引き受けていたらって、考えてみただけでもゾッとするよ。 レナ(巫女服): あははは。このお仕事を毎日やってくれている梨花ちゃんには感謝しないといけないよね。 魅音(巫女服): ……まぁ、その負担をもう少し早い段階で気づいてあげるべきだったよ。次からは村の連中にも、定期的に手伝ってもらわないとだね。 レナ(巫女服): 魅ぃちゃんは悪くないよ。寒い日が続いていたからきっとそのせいだ、って沙都子ちゃんも言っていたんだしね。 魅音(巫女服): なら、いいんだけどさ……はぁ。 魅音(巫女服): けど、美雪たちも手伝ってくれて助かったよ。梨花ちゃんが正月前に風邪でダウンするなんて、完全に予想外だったからさ。 レナ(巫女服): そうだね。明日からお正月だけど、神事を任せても大丈夫かな……かな? 魅音(巫女服): あぁ、その辺りは問題ないよ。近くの神社に連絡して、巫女さんを何人か派遣してもらうことにしたから。 魅音(巫女服): このまま私が手伝おうかとも考えたけど、やっぱり餅は餅屋ってことでね。 レナ(巫女服): そっか、それなら安心だね。 レナ(巫女服): ……あれ、そういえば美雪ちゃんたちは?境内の雪かきをしていたはずなんだけど。 魅音(巫女服): 地面がひととおり見えてきたから、今は本殿に積もった雪下ろしをやってもらっているよ。 そう言って魅ぃちゃんは、本殿の方を指さす。すると屋根の上には、彼女が話してくれた通り美雪ちゃんと千雨ちゃんらしき姿があった。 レナ(巫女服): はぅ……あんな高いところに登って、大丈夫かな……かな? 魅音(巫女服): あの2人なら、たぶん大丈夫でしょ。ちゃんと命綱もつけるように、って言っておいたしね。 その言葉通り、屋根に登った2人はスノーシャベルを器用に使って、切り分けた雪の大きな塊を次々に落としていく。 足場の悪いところにもかかわらず、彼女たちの姿勢にはぶれがない。特に千雨ちゃんは熟練の職人のように、動きが軽やかに見えた。 魅音(巫女服): いやー、美雪もたいしたもんだけど千雨の安定感は半端ないね。さすが武道をやっているだけはあるよ。 レナ(巫女服): あははは。あの調子だと、お昼過ぎ頃には雪下ろしも終わりそうだね……はぅ? なんてことを話していたその時、集会所の奥に人影が見える。それは沙都子ちゃんと羽入ちゃんで、こちらに向かって歩いてきた。 羽入(冬服): あぅあぅ……レナに魅音、それに一穂たち。みんな本当に、お疲れ様なのですよ~。 沙都子(冬服): いいお時間ですし、様子を見にまいりましたわ。そろそろご休憩などはいかがでして? 魅音(巫女服): うーん……私とレナは別に構わないんだけど、雪下ろしをやっている途中で降りてこいってのはちょっと手間をかけるかもしれないなぁ……。 魅音(巫女服): 美雪、千雨ー?休憩したらどうって沙都子が言っているけど、あんたたちはどうするー? 千雨: 今、ちょうどコツを掴んだところだ……!あと30分……いや、10分ほど時間をくれ……! 魅音(巫女服): 慌てなくてもいいよー!急いでやると、事故の元だからさ~! 美雪(冬服): 私たちはいいから、先に休んでてー!レナと魅音は、朝から掃除しっぱなしで疲れたでしょー? 屋根の上から千雨ちゃんと美雪ちゃんは、作業の手を止めずにそう返事をしてくれる。 朝から頑張っていたのは、彼女たちも同じ。いや、雪かきは力仕事なので負担や疲労は私たち以上じゃないかなと思ったけど……。 ここで遠慮すると、こちらを気遣った2人が早く雪下ろしを終わらせなければ、と焦ってうっかりミスの元になるかもしれない。 と、本殿から離れた場所で美雪ちゃんたちの様子を伺っていた菜央ちゃんがこちらに顔を向け、私たちに声をかけていった。 菜央(冬服): レナちゃんたちは、先に行っててー!あの2人はあたしが下から見ておくからっ。……ほら、一穂も。 一穂(冬服): えっ? で、でも……。 菜央(冬服): デモもストもないの。だいたいあんた、さっきからへばった感じで足下がふらついてたじゃないの。 一穂(冬服): ご……ごめんなさい……。 菜央(冬服): 謝る必要なんてないわ。だって一穂は、あたしたちの掘り出した雪も自分のと一緒に運んでくれてたじゃない。 菜央(冬服): おかげであたしたちは掘ることに専念できたんだから、その分のお返しよ。しっかり休んできなさい。 一穂(冬服): う、うん……ありがとう、菜央ちゃん。美雪ちゃんと千雨ちゃんも、怪我しないよう気をつけてねー! 美雪(冬服): おぅ、任せてー!危なくなったら、千雨をクッション代わりにして無事に着地するつもりだからさー! 千雨: ほぉ……だったら私は、先に降り立って美雪の落下地点に剣山でも置いといてやるかな。 美雪(冬服): そこまでやるっ? キミは鬼か?! 一穂(冬服): あ、あははは……。 菜央(冬服): ほらほら、さっさと行ってきなさい。みんなの休む時間まで短くなっちゃうでしょ? 一穂(冬服): あ、うん……! 菜央ちゃんにそう答えてから、一穂ちゃんは私たちの元へと駆け寄ってきた。 一穂(冬服): ご、ごめんなさい……お待たせしちゃって。 魅音(巫女服): いやいや、謝るのはむしろこっちの方だよ。大晦日の忙しい時期に、急なお願いをして悪かったね。 羽入(冬服): あぅあぅ……まさかこの時期に、梨花が熱を出して寝込むなんて予想外だったのですよ。 沙都子(冬服): 私も羽入さんも症状が出ていませんので、梨花の体調不良はおそらくただの過労だと思いますわ。 魅音(巫女服): まぁ、年始の準備だのでしばらくの間ずっと忙しかったからねぇ。私のところも、結構な具合にバタバタしていたけどさ。 魅音(巫女服): とりあえず、少し休んでから最後の仕上げをしよう。私たちは美雪たちが休みを取る間に入れ違いで、落としてくれた雪を隅っこの方に移動させないと。 一穂(冬服): う……うん、わかった。力仕事なら、任せてっ。 Part 02: 魅音(巫女服): よーし、これで完了っと。みんな、色々とありがとねー!おかげですっごく助かったよ~。 羽入(冬服): 僕からも、梨花に代わってお礼を言うのです。年の瀬の時期に、本当にありがとうなのですよ~。 レナ(巫女服): あははは、どういたしましてっ。これくらい、いつでもお安いご用だからね♪ レナ(巫女服): ……それより、梨花ちゃんの具合はどう?何か食べやすいものでも作ってあげた方がいいのかな……かな? 沙都子(冬服): をーっほっほっほっ!レナさんのその優しいお気持ちだけ、ありがたくいただいておきますわ。 沙都子(冬服): ですが、梨花のことならどうぞご心配なく。私と羽入さんで手分けして、お料理も込みでしっかりと看病させてもらいましてよ。 羽入(冬服): あぅあぅ、今年はおそばではなく消化にいいおうどんで年越しをするのですよ。あと、おせちの準備もばっちりなのです。 沙都子(冬服): 羽入さんが色々とレシピをご存じでしたので、大助かりでしたわ。それに鷹野さんも、診察の合間に手伝ってくださいましたのよ。 美雪(冬服): へー、そうなんだ。鷹野さんの作るおせちって、どんなものなのかちょっとだけ興味があるね。 鷹野: くすくす……ご期待に沿えなくて申し訳ないけど、他のご家庭と同じで定番のものばかりよ。梨花ちゃん向けに、煮物を多めにしたくらいね。 千雨: ふむ、おせちか……。そういえば私たちって、お正月の食事をどうするのかをまだ考えてなかったな。 菜央(冬服): 昨日#p興宮#sおきのみや#rで買い物をした時に、お餅とお惣菜のいくつかは買っておいたわ。他は帰ってから、準備するつもりよ。 美雪(冬服): おぅ、さすがは私たちのお袋さん。心配りが行き届いてるねー♪ 菜央(冬服): ……あたし、4人の中で一番年下なんだけど。しっかりしてよね、年長さんたち。 一穂(冬服): ご、ごめんなさい……。 菜央(冬服): っていうか千雨、なんで上着脱いでるのよっ?あんた、梨花が風邪を引いて寝込んでるって話、ちゃんと聞いてた?! 千雨: いや……さっきまで雪下ろしやら何やらで身体が火照ってるから、少し涼んでるだけだ。結構汗もかいたし、美雪もどうだ? 美雪(冬服): 冗談は寄せ鍋ちゃんこ鍋っ!年中暑がりで全身火力発電所のキミと一緒にするな!私はこう見えてガラスの心臓なんだからねー! 一穂(冬服): ……ガラスの心臓って、こういう時の表現に使うんだっけ? 菜央(冬服): まぁ美雪の場合、同じガラスでも防弾ガラス製か超強化ガラス製でしょうけどね。……寒さには弱そうだけど。 レナ(巫女服): あははは。それはそうと菜央ちゃん、もしよかったらこの後レナと一緒におせちを作る?その方が色々と効率的じゃないかな、かな。 菜央(冬服): ……いいのっ? もちろん、ぜひぜひっ!レナちゃんと一緒だったら、満漢全席だってやり遂げてみせるわっ! 一穂(冬服): えっと……満漢全席って? 千雨: 中国の宴会料理だな。フルコースになると、でっかいテーブルでも並べきれない量の料理が出るって話だ。 美雪(冬服): いや、さすがにそこまでたくさんだとお正月三が日でも食べきれないんだけど……。 菜央(冬服): じゃあ、早く帰って準備を始めましょう!あっ……でも食材が足りないわね。今から買いに行って、間に合うかしら……? 鷹野: それなら、ジロウさんに言って興宮まで車を出してもらったらどう?今日は、特に予定が無かったはずよ。 菜央(冬服): ぜひお願いします!あっ、レナちゃんも一緒に行く? レナ(巫女服): あははは、いいよ。買いそびれていたものが少しだけあったから、レナもありがたいかな、かなっ……♪ 鷹野: 決まりね。じゃあ二人とも、ついてきて。石段の下で、車を止めて待ってくれているから。 菜央(冬服): ありがとうございます。さぁ行きましょう、レナちゃん。一穂たちは、先に帰っててね。 一穂(冬服): あっ、菜央ちゃん……私たちも、荷物持ちくらいなら……えっ? 千雨: ……野暮は言うもんじゃないぞ、一穂。 美雪(冬服): そうそう。ここは「姉妹」水入らず……ってね♪ 一穂(冬服): う、うん……? Part 03: そう……だから最初は、おせちの料理をちょっとだけ手伝うつもりだった。 そして食材を買い出して、菜央ちゃんと一緒に料理をある程度仕込んだら家に戻って年越しの準備をする……。 そう考えていたからこそ、全てを手早くすませて日が暮れる前に帰る予定でいたのだけど……。 美雪(私服): いやー、レナがいてくれてよかったよ。私たちだけだったら、おせちと年越しそばだけできっと手一杯だったと思うからさ。 千雨: ……だな。夕食のことはまるで考えてなかった。おかげで腹一杯で、少し眠い……。 菜央(私服): もう、千雨ってば。レナちゃんにお礼を伝えるつもりなら、ちゃんと顔を上げて言いなさいよね。 そう言って菜央ちゃんは、テーブルに突っ伏した千雨ちゃんに少し怒った口調でたしなめている。 でも、彼女が眠そうにしているのは私の料理をたくさん食べてくれたからこその反応だ。なので不快どころか、誇らしい思いすらあった。 レナ(私服): (……でもまさか、こんなふうに新年を迎えることになるなんて) 若干の申し訳なさと、後ろめたい思いが胸の内でわだかまるのを感じてはいたけど……。 昨日までは想像もしていなかった楽しい夜更かしに、私は幸せな気分でわくわくと心が躍る思いだった。 美雪(私服): あっ、そろそろだね!ほら千雨、そろそろ起きてってば。もうすぐ年が変わっちゃうよー? 千雨: ……んだよ。新年に向けてのカウントダウンなんて、お前らだけでやればいいだろうが。 菜央(私服): 何言ってるのよ。こういうのは、みんなで一緒にやることに意味があるんじゃない。 菜央(私服): 一穂も、早く目を覚ましなさい。そのまま寝たら風邪を引いちゃうでしょ? 一穂(私服): ふにゅ……もう朝? ご飯の時間……? 美雪(私服): ご飯ならさっき食べたじゃんか。天ぷらをたくさん載せた、年越しそばをさ。 千雨: ……ボケ老人の介護みたいな台詞だな。 菜央(私服): あ……ごめんね、レナちゃん。せっかく来てくれたのに、この子たちがだらしないところを見せちゃって。 レナ(私服): あははは、大丈夫だよ。それに一穂ちゃんのおねむな顔、とってもかぁいいよ~♪ 千雨ちゃんだって……。 千雨: ……っ……?! 美雪(私服): ? どうしたの千雨、急に飛び起きて。 千雨: い、いや……今、命の危機に迫るくらいのものすごい気配を感じたんだが……?獲物を前に舌なめずりする、捕食者のような……。 菜央(私服): 何を寝ぼけてるのよ、千雨。あんたに脅威を抱かせるようなのがこの部屋の中にいるわけないじゃない。ねっ、レナちゃん? レナ(私服): はぅ~、寝ぼけまなこの一穂ちゃん、かぁいい~♪お持ち帰りぃ~★ 一穂(私服): ……お腹、すいた……あれ?ご飯っていつ、食べたっけ……? 美雪(私服): レナに抱っこで頬ずりされても起きないなんて、一穂ってやっぱりある意味で大物だねー。……っと、いよいよ始まるよ。みんな、合わせて! 菜央(私服): カウントダウン、開始ー!10、9、8……。 レナ(私服): 7、6,5……! 千雨: ……4、3、2……。 美雪(私服): 1、……ゼロ!ハッピーニューイヤー! 菜央・レナ: ハッピーニューイヤー! 美雪ちゃんの宣言に続いて、私と菜央ちゃんはほとんど同時に唱和する。 千雨ちゃんは「……おめでとさん」と照れ隠しなのか渋々といった感じに呟き、一穂ちゃんは……。 一穂(私服): ハッピー、にゅぅ……ぐぅ……。 なんて寝言にも近い言葉とともに、私の胸の中でこてんとうなだれてしまった。 美雪(私服): さーて! めでたく新年を迎えたことだし初詣と行きますか! #p雛見沢#sひなみざわ#rだとやっぱり、古手神社でいいんだよね? 千雨: ……おい、冗談はやめろ。大雪が降り積もった真っ暗な中で徒歩なんて、私たちを遭難でもさせる気か? 美雪(私服): それなら大丈夫! なんせ今の私たちには、この村の地理に詳しいレナがいるんだからねー。 菜央(私服): ちょっと美雪、レナちゃんを家に呼んだのは道案内をさせるためじゃないのよ。 菜央(私服): ……ごめんねレナちゃん、美雪が酔っ払って変なことを言っちゃって。気にしなくてもいいわ。 美雪(私服): 私はしらふだよー! そりゃ確かに、深夜テンションで多少ハイにはなってるけどさー? 千雨: ……自覚はあったのか。 レナ(私服): あはははは。さすがに深夜は危ないから、夜が明けてからの方がいいんじゃないかな……かな? レナ(私服): それに、神社の受付と境内に出る屋台も今はまだ準備中だったはずだから……ね? 菜央(私服): ほら見なさい、美雪。レナちゃんがこう言ってるんだから、とりあえず朝まで我慢よ。 美雪(私服): ちぇー。思い立ったら吉日、が私の信条なのにさー。 千雨: 急いては事をし損じる、とも言うぞ。八甲田山の二の舞なんてシャレにもならないから、自然の脅威を認めておとなしく自重しろ。 美雪(私服): はいはい、わかりましたよっと。……ちなみにレナ、屋台ってどんなのがあるの? レナ(私服): #p綿流#sわたなが#rしの時ほどじゃないけど、魅ぃちゃんの話だとそれなりにいろんなお店が並ぶって言っていたよ。 レナ(私服): 夏と違って気温が低いから、あったかい食べ物を扱うところが多いみたいだけどね。 千雨: まぁ、さすがにかき氷とかは出したところで売れんだろうな。氷の代わりに雪を使えば、原価はタダ同然で大儲けかもしれんが。 菜央(私服): 千雨……あんた、その辺に落ちてる雪で作ったかき氷なんか食べたいの……? レナ(私服): やっぱり、お祭りの定番が中心じゃないかな、かな。イカ焼きにベビーカステラ、それから……。 一穂(私服): ……おいしそう、じゅるり。 美雪(私服): って一穂、キミは今寝てたんじゃなかったの? 一穂(私服): ごめんなさい……食べ物の名前が聞こえてきたら、目が覚めちゃって……。 千雨: 食に対して、すさまじい執念だな。 レナ(私服): あははは……何か作る?お雑煮だったらもう仕込んであるから、すぐにでも食べられると思うよ。 一穂(私服): 食べるっ!! 美雪(私服): おぅっ、完全に起きた……! …………。 菜央(私服): レナちゃん……もう、寝た? レナ(私服): ううん、起きているよ。……眠れないの、菜央ちゃん? 菜央(私服): うん。だから、ちょっとだけ……いい? 断る理由なんて、あるわけがない。だから私は「いいよ」と答え、布団の中を少しだけ移動して菜央ちゃんに近づいた。 菜央(私服): ……。ごめんね、レナちゃん。 レナ(私服): えっ……?なんで菜央ちゃんが謝るのかな、かな……? 菜央(私服): だって……お客さんのレナちゃんにお料理を全部任せちゃって。もっとゆっくり、くつろいでもらうつもりだったのに……。 レナ(私服): 菜央ちゃんが怪我しちゃったんだから、仕方がないよ。レナの方こそ、ちゃんと見てあげられなくてごめんね。 菜央(私服): ううん。あたしが浮かれて、うっかり包丁で指を切ったのが悪いんだから……。 レナ(私服): 気にしないで。……それより、怪我はどう?痛くない? 菜央(私服): 全然。軽く指先を切っただけだから、もう血は止まってるわ。 レナ(私服): ……良かった。 本当に良かったと、心から安堵する。そして私は、菜央ちゃんの代わりをすると言ってちょっと強引に家事を引き受けることにしたのだ。 レナ(私服): (菜央ちゃんたちの力になりたい。本心から、私はそう思った……でも……) 実のところ、家に帰らずにすむいい言い訳ができた……と内心で思ったのもまた事実だった。 レナ(私服): ……レナは、とっても楽しかったよ。ご飯を食べて年末のTV番組を見ながら、みんなとわいわい盛り上がることができたんだもの。 レナ(私服): それに……嬉しかった。一穂ちゃんたちが、レナの作った年越しそばをいっぱい食べてくれたから……。 菜央(私服): レナちゃんの天ぷら……とってもおいしかった。あたしが作ったものより、衣に歯応えがあって味付けも絶品だったもの。 菜央(私服): それに、寝る前に食べたお雑煮も……すごくすごく、おいしかったわ。 レナ(私服): あははは……よかった。菜央ちゃんが喜んでくれて、レナも作りがいがあったよ。 今日はここに来てよかった、とお世辞抜きで心から思う。だから……。 菜央(私服): …………。 レナ(私服): ? どうしたの、菜央ちゃん。 菜央(私服): ……レナちゃん。レナちゃんのお父さんは、その……。 レナ(私服): ……一度家に戻って、手紙と一緒におせちも置いてきたからご飯の心配はないと思うけど……。 レナ(私服): 帰ってくるのかな、かな……?最近は特に連絡もなく家を留守にすることが増えたから、……どうなんだろうね。 大晦日を、菜央ちゃんたちと一緒に過ごしたいと思った理由……それは、お父さんが自宅に不在だったからだ。 本来であれば、帰ってきた時のために年末年始のご飯の準備をすべきなのかもしれない。 だけど、……家に何度電話しても誰も出なかった時、私は帰りたくないと思った。 帰ってくるかどうかわからない人を待つのは、やっぱり寂しくて……悲しくなってくるから……。 レナ(私服): ……朝になったら、みんな一緒に初詣に行こうね。 菜央(私服): えぇ……梨花のお見舞いも……。 そう言ってから菜央ちゃんは、しばらくして……すぅすぅと寝息を立て始める。 やはり、昼間の神社での手伝いで疲れていたのだろう。そんな幼いながらも健気な寝顔が可愛くて、切なくて……私は手を伸ばし、彼女の手をきゅっと握った。 レナ(私服): ……お休み、菜央ちゃん。みんながいてくれるから、レナは幸せだよ。 レナ(私服): これからも……きっと、私は……。