Part 01: 女子生徒: ……園崎先輩は、たった1本の映画を見たせいで人生が変わった人の存在を信じますか? 詩音: …………。 女子生徒: 私は会ったことないんですけどね。叔父さんの友人に、そういう人がいるんです。 女子生徒: この前の話の主役がGさんだったから……仮にHさんにしましょう。 女子生徒: Hさんは厳格な家庭の1人息子で、それはそれは真面目な人だったそうです。 女子生徒: 酒も煙草も博打もやらず、唯一の趣味はたまに映画を見に行くこと。……そんなある日、彼はある映画に出会いました。 女子生徒: えーっと、タイトルは何だったかな……すみません、ど忘れしちゃいました。まぁ、そこは重要ではないので置いておきまして。 女子生徒: 見終えて映画館を出たHさんはどうしたと思います? 詩音: …………。 女子生徒: なんと彼はそのまま自宅へ戻ると、それまで一度も刃向かったことのない親に直談判! 女子生徒: 親子の口論は激しく、近所の人が刃傷沙汰を心配して様子を見に来るほどだったそうです。 女子生徒: 最終的にHさんは親元を飛び出し、コツコツ貯めていた貯金通帳片手にアメリカへゴー! 女子生徒: 紆余曲折あったそうですが、Hさんは今でもアメリカ在住して……映画に関係する仕事をしているそうですよ。 詩音: …………。 女子生徒: さて、この話の要点ですが。大人しいとばかり思っていたHさんの人生が映画1本、2時間程度で変わってしまったことです。 女子生徒: 叔父さんはその時、人間とはとてもささやかな出来事で変わる生き物だと思ったそうですよ。 女子生徒: まぁ、Hさんのご両親からしたら悪夢でしょうね。 女子生徒: 思い通りに育てたはずの息子が、たった1本の映画のせいで安定と自分たちを捨てて外国へ行ってしまうなんてね。 女子生徒: まぁ、Hさんがあっさり渡米できたのは彼に相談された叔父さんが面白がってあれやこれや手伝っちゃったせいなんですけどね。 女子生徒: 叔父さんは、Hさんが功績を積み重ねて誰かの人生を変えるような映画を送り出す方になったら楽しいなーとか言っていましたね。 女子生徒: それで……。 詩音: ……。この流れだと、ゆぷぃって言わないんだ。 女子生徒: ん? 詩音: …………。 女子生徒: 久しぶりに園崎先輩の声を聞いた気がします。……あ、失礼。今なんとおっしゃいました?ちょっと聞き逃してしまいまして。 詩音: …………。 詩音: ……ゆぷぃって、なに? 女子生徒: たいした意味はありませんよ。それより、何があったか話してくれる気になりましたか? 詩音: …………。 女子生徒: 失礼、まだちょっと早かったですね。でも、先輩から話しかけてもらって素直に嬉しいです……ゆぷぃ。 女子生徒: もう少しコイツと話をしてもいいかなと思ってもらえるように、頑張りますねー! Part 02: 富竹: 赤坂さん。あなたは予言……ってやつを聞いたことがありますか? 赤坂: ……富竹さんは、あるんですか? 富竹: 直接はありませんが、またぎきでしたらあります。 富竹: 何年前だったかな……高速道路で、トンネルの崩落事故があったのを覚えてます? 赤坂: えぇ、千葉……?あ、いや神奈川……だったかな? 赤坂: トンネルの崩落そのものよりも、落ちてきた瓦礫を避けようとしたことで起きた玉突き事故の方が犠牲者が多かったんですよね。 富竹: はい。結論から言いますと、そのトンネル崩落事故を事前に予言した人間がいた、って話なんです。 赤坂: ……詳しく聞かせてもらえますか。 富竹: 事故現場の近くに大きな病院があるんですが、たまたま事故が起きたタイミングで僕の知人が入院していまして。 富竹: トンネル事故の怪我人が大勢運ばれてきて、一時は野戦病院のような有様だったそうです。 富竹: しばらくは大騒ぎだったそうなんですが……。事故の騒ぎが落ち着いた頃、知人が院内で妙な噂を聞いたそうなんです。 富竹: 崩落事故を事前に予言した人がいた……と。 赤坂: ……。その、予言した人は……? 富竹: 崩落事故に巻き込まれて亡くなったそうです。どうも病院関係者だったとか。 赤坂: つまり、事故前にその話を聞かされた人があれは予言だった、と事故後に話を広げた……ということですか? 富竹: そうだと思います。 富竹: 僕は彼の快気祝いの席で酒のつまみ程度に軽く聞かされたんですけど……なぜだか、頭に残ってしまいましてね。 富竹: ほら、ノストラダムスの大予言、ってあるじゃないですか……1999年の7月に地球が滅ぶって。 富竹: トンネル事故の話を聞いてからというもの、予言とか予知夢とか、そういう話を聞くとこの話を思い出すようになってしまいまして。 赤坂: 梨花ちゃんが見た夢の話を聞いた時も、崩落事故の話を思い出したんですか? 富竹: ……あの子の話をすぐに笑い飛ばせなかった理由のひとつではあります。 富竹: 梨花ちゃんにも言いましたが……僕は彼女が見た夢が実際に起こる未来だと、完全に信じたわけではありません。 富竹: ただ、梨花ちゃんは女王感染者です。『#p雛見沢#sひなみざわ#r症候群』の研究にも協力してもらいました。 富竹: 適当に話を聞き流して不安に怯えさせるより、きちんと調べてから安心させるべきだと思ったんですよ……個人的な判断ですがね。 赤坂: ……カーテンの裏におばけがいると主張する子どもに、そんなものはいないと大人が主張するだけでは、納得してくれません。 赤坂: 大人が実際にカーテンの裏を見て、おばけがいないことを確認する姿を見せないと。 富竹: そうです。子どもの前に、まずは大人が確認すべきだと。 赤坂: えぇ。 赤坂: ……でも今回、梨花ちゃんは立場上絶対に知りえないことを正確に言い当てた。それもまた事実ですよね? 富竹: ……それは、否定できません。いくつかの単語が彼女の口から出た時は、情けない話ですが正直背筋が凍りました。 赤坂: …………。 富竹: ところで赤坂さん、鳳谷さんという子と最後に何やら話していたようですが……もしかして知り合いですか? 赤坂: いえ、初対面です。富竹さんもですか? 富竹: 今日初めて会いましたね。仕事上、村の子のことはある程度把握してるつもりだったんですが。 赤坂: ……そうですか。 Part 03: 初老の男: 『東京』……? って、わははははは!君が今いるここが東京都じゃぁないか! 初老の男: ……はは、悪いねぇ。昔はこのネタでひと笑いを取ったもんだけど、久しぶりに使ったもんだから間違えたかなぁ? 初老の男: そういや家の工具、こないだ使おうと思って久しぶりに出したら、サビちゃっててねぁ。 初老の男: 工具も笑いのネタも、定期的に使わないとサビちゃうもんなんだろうなぁ。 初老の男: 今日みたいな政治家のパーティーも、資金集めだけじゃなくて爺さんたちのサビを落とさせるためには必要なのかもねぇ。 初老の男: だってほら、肝心なときにサビて使えなかったら意味がないからねぇ? 初老の男: ……あぁ、ごめんごめん。『東京』のことだったねぇ。 初老の男: 私もそんなに詳しいわけじゃなくてね。記憶もサビちゃってるかもしれないから、間違えてたらごめんよぉ。 初老の男: ええっとねぇ……私が知ってる『東京』ってのはね、日本の未来を憂い、この国を強くして明るい未来を築こうって立ち上げた旧帝大発祥の組織なんだよ。 初老の男: 立ち上がったのは戦後……いや、戦前だったかな?在学中に結成……立ち上げたのは卒業生だったかな? 初老の男: まぁ結成そのものは古かったはずだけど、今で言うところのサークルってやつなのかもね。初期メンバーはお遊びだったかもしれないなぁ。 初老の男: けど、『東京』に所属してる卒業生たちが権力を持って政財官学の各界上層部に食い込むと、なかなかどうして……ねぇ。 初老の男: いやー、戦前の強い日本を取り戻すんだ~! って青くてひょろっこい思想も、権力や金がくっつけばなかなかどうして大木に育つもんなんだねぇ。 初老の男: 最初はクレジットカード程度だった『東京』の入会審査も、大きくなった後はずぅっと難しくなっちゃったそうだよ。 初老の男: 出身大学ひとつとっても、どこそこの学閥にいたかとか……そりゃもう何から何まで調べ上げられるとか。 初老の男: 審査をパスして『東京』に入会したヤツの中には自分たちがこの国を実質的に裏から支配している~、なーんて大言吐いてた輩もいたみたいでねぇ。 初老の男: 大学の学閥ってのは、生まれと同じで、死ぬまで引きずるもんだから慎重に選べって学生時代の自分に言ってやりたいねぇ。 初老の男: ……あぁ、ごめんごめん。話がずれたね。 初老の男: 官は軍事組織から民は輸入会社までそりゃもうひろぉ~く影響があった『東京』だけどさ……時代の流れってやつかねぇ? 初老の男: 小泉先生、覚えてる?10年ちょっとくらい前だから、君が大学生か社会に出てちょっとしたくらいかなぁ~。 初老の男: ……その頃に、亡くなった政治家先生。 初老の男: 『東京』最後の強権的なタカ派だっだとかで、その死後は平和路線のハトさんたちによる穏健派が巣の主権を握ったとかなんとか。 初老の男: 『東京』そのものは、今でもあるのかな?まぁ、昔に比べると大分弱体化してるし、横の繋がりもうす~くなっちゃったみたいだよ。 初老の男: いやはや、沙羅双樹の花の色と言うか栄枯盛衰と言うか……。 初老の男: 組織ってのは人間が運営するだけあって、簡単に変わっていくものだねぇ。 初老の男: うちのカミさんも昔は美人だったのに、いまじゃしわ伸ばしに躍起のばあさんだよ……月日の流れは怖いねぇ。 初老の男: 私の知ってる範囲だとこんなモノかな?……んじゃ、今度は私の番だ。 初老の男: どうして私にそんなことを聞いてきたのかな……喜多嶋くん。 喜多嶋: ……失礼しました。風の噂で、先生も現役で『東京』に所属していらっしゃると伺いまして。 初老の男: はっはっは、どこにそんな風が吹いたのやら。最近の風は、株と同じでなかなか読めないねぇ。 初老の男: うーん……君みたいなのが独身なんて、もったいないなぁ。 喜多嶋: ……? 初老の男: 君くらい男前なら、若くて可愛い女の子が何もしなくても山ほど寄ってくるだろうねぇ。いやはや、羨ましいなぁ。 初老の男: でも、美女もゲテモノもつまみ食い程度でもそろそろ腹一杯になってる頃じゃないかい? 初老の男: 今後の事を考えるなら、早めに身を固めた方がいいと思うんだけどねぇ。ウチが懇意にしてる先生の娘さん、紹介するよ? 喜多嶋: ……失礼。私は先生のことを一方的に存じておりましたが、先生は私のことをどちらで? 初老の男: なぁに、風の噂で聞いたのさ。 初老の男: 厚生省の手袋をつけた男前とは、仲良くした方がいいってね!