ドリスに肩を貸してもらって部屋に帰ってくる
兄の顔からは、生気というものが完全に消えていた。
光を失った
裂けたズボンからは
その口からは苦しそうな息が
盟人がベッドのリノの隣に倒れ込む。ドリスとシアが力を合わせて盟人の体を引っ張り、きちんとベッドに横たわらせる。
盟人の腹には奇妙なキューブが埋め込まれ、肉にほとんど同化しかけていた。やたら生物じみた青や赤の管がキューブから伸び、腹に突き刺さって脈動している。
盟人の体から吸い上げた光の粒が、管を通ってキューブへと流れ込んでいた。キューブの中心の
「な、なに……これ……?
リノはかすれた声で尋ねながら、キューブを外そうとした。
途端、キューブの眼が激しくぎらつき、キューブから無数の管が伸びる。
リノは悲鳴を漏らしてキューブから手を離した。
すると、キューブから生える管の動きが止まった。
盟人はぐったりと横たわる。額には大量の脂汗が浮かび、体は細かく
ドリスが深刻な面持ちで盟人を見下ろす。
「アランの
「なんなのですか、その計画は……?」
シアがこわばった声で尋ねると、ドリスが答える。
「日本中にばらまいた
「そんな……まさか……」
シアは
心当たりがあるのだ。最近、なぜかネットの調子が悪かった。どうしても
物理的な障害だろうと考え、いろいろと原因を探ってみたのだけれど、まさか呪的結界によって日本が囲まれているとは……さすがのリノでも予想しない。
「ずっと生命力を吸収されているせいで、盟人は力が出ないし、傷も治らないし……このままじゃ……」
ドリスが唇を
その先は言わずとも知れたこと。生命力を吸われ続けた人間は、生命力を失った人間は、機能を停止する。ソウルジェネレーターの加護を失ったデスウォーカーのように。
日本地区は滅び、盟人は死ぬ。
それが、アランの描いた絵図。たどり着くべくしてたどり着いた、終着点なのだ。
「兄者は……どうやったら助かる?」
「……分からないわ。私もキューブを外そうとしてみたけど、取れないし、さっきみたいな反応が起きるし、盟人がもっと苦しむだけだし……もう、どうしようもなくて……」
ドリスが声を震わせた。今にも泣き出しそうな空気。
シアも
たとえリノより年上でも、この出来事は彼女たちの精神を削っているようだった。
だが、それはリノも同じで。
いや、自分を救うために出かけていった兄が、取り返しがつかないまでに傷ついて帰って来たとなれば、襲いかかる罪悪感は
なぜ、自分は兄を止めなかったのだろう。
なぜ、厚意に甘えて兄を死地に送り出したのだろう。
なぜ、もっとアランの
そんな後悔と自責の念が、次から次へと込み上げる。
「兄者……ごめんなさい……リノのせいで……。ごめんなさい……ごめんなさい……」
リノは盟人の腕にすがりついて、必死に声を絞り出した。
すると、盟人はつらそうにしながらも笑顔を作る。
「お前のせいなんかじゃない。
そう言って、リノを苦しませまいとする。
自分の方がよほど苦しいのに、ひたすらリノのことを考えてくれる。
それは、人を見下ろすような表の態度とは、まったく違っていて。
リノは、
重く、甘い、甘い棘。茨のように心臓を囲み、まとわりついて離れない甘美な棘。ずっと昔からその刃は、リノの
「兄者……大好き……」
リノは盟人の腕に鼻を押しつけながらささやいた。
「ああ、分かってるぞ」
優しいけれど、軽い返事。
「違う。リノは兄者が大好き」
「分かってるって」
「大好き。大好き。大好き」
懸命に繰り返すリノに、盟人が苦笑する。
「だから、分かってるって言ってるだろ」
だから、分かっていないのだ。
ちっとも。
ひとかけらも。
だって、リノの愛情は、家族としてのものではないのだ。
エデン製薬の魔導実験によって造り替えられ、人間の知能のリミッターを外されたリノは、なんでも知っている。
物理の法則も、難しい概念も、社会の真実も、そして……大人の感情も。
