兼崎は頓狂とんきょうな声を上げた。

 兼崎が足を引き摺りながらも、なんとか、コングロマリットの様子を見に行くと、コングロマリットと斜が両方とも倒れていたのだ。コングロマリットは路地裏で大の字になっていて、深草斜は引き裂かれた金網フェンスの前で倒れている。そして、六根雫は斜のそばで泣いている。

「相打ちなのかしらねぇ?」

 兼崎についてきた終雪が言う。

「……そんなわけあるか。コングロマリットが負けるわけねぇだろ?」

 とは、言うものの、状況は如実にょじつに物語っている。多分、コングロマリットは深草斜に立ち上がれないほどのダメージを与えられたのだ。

 兼崎は上着のポケットに手を入れる──

(まぁ、俺の勝ちだ)

 このまま、六根雫を撃ち殺せばいい。それですべて解決する。隣の女と賭けをした気もするが──知ったことではない。

(──!?

 だが、ポケットに入れた兼崎の手は何も摑めなかった。

 拳銃がない。

「葬。あなたの探し物はここよ」

 終雪が言った。兼崎は終雪の方を振り向く──だが、視界に飛び込んできたのは終雪の顔ではなく銃口だった。いつの間にか拳銃をスられていた。

「ばぁん!」

「うぉああああああああ!」

 兼崎は終雪の声に驚き、腰を抜かしながら叫んだ。

 それを見た終雪はけらけら笑い出す。本当に最悪な女だ。

「これはもらっておくわ。真糸を傷つけた道具……部屋に飾っておきましょう」

「……なんつー趣味だ」

「ちなみに、あなたと初めてセックスしたときに使ったコンドームも部屋に飾ってあるわ」

「…………は? ん? はぁぁぁぁぁぁ? 馬鹿か? てめーは? 気持ち悪りー!」

「もちろん噓よ。葬は相変わらず楽しい男ね」

 終雪は嬉しそうに言う。

「で、賭けだけど、どうしましょうか? このパターンには誰も賭けてなかったわね」

「賭けなんて知るか」

 兼崎が悪態をつくと、終雪に銃口をこめかみに当てられた。

「お、おい、やめろ、馬鹿、マジで。分かった。賭けはした。俺が間違ってた」

「どうしましょうか?」

 終雪が銃を下げる──だが、さっきと同じような感触が今度は背中に現れた。

「コングロマリットを止めろ」

 柚木ゆずき春の声だ。

「……もう止まってるよ、多分、てめーのところのガキにやられた」

 兼崎はおずおずと手を挙げながら答えた。終雪が隣で笑っている。

 春は銃を下ろすと、すぐに斜のところに駆け寄っていった。彼女が持っていたのは拳銃ではなく、サブマシンガンだった。コングロマリットを相手取ることを考えれば、武器の選択は間違っていないだろうが、兼崎はやり過ぎだと感じた。そもそも、どうやって所持していたのか分からない。

「そうね、どうやら〝誘拐屋〟さんの勝ちみたいね。今、あの子にあれを撃たれたら、全員死んじゃうわ」

「……そうだな」

「じゃあ、雫の処遇は〝誘拐屋〟さんに任せましょう」

 兼崎はすぐに返事ができない。

 ここで引けば──〝村〟の人間が。

「まぁ、あなたの事情は分かっているわ」

 終雪はそう言って、続ける。

「でも、あんな幼い少女を犠牲にした上の平和に──何か意味があるのかしら? 別の手段を模索するべきではなくて?」

「てめーにだけは言われたくない」

 強がってはみたが、兼崎にはもう六根雫を殺す手段がなかった。そもそも、最初の銃弾で六根雫を殺せなかったとき、すべては終わっていたのだ。兼崎はあの少女に向けて二度と引き金を引けない。それどころか、もう一度コングロマリットに命令できるとも思えない。

 つまるところ、チキンなのだ。

 そして、こんな葛藤かっとうをするぐらいなら、別の手段を選んだ方がマシだと思った。どんなに困難でも不可能ではないはずだ。あの深草斜とかいうガキがコングロマリットを倒せたのだ。それに比べれば、うまく立ち回って〝村〟を守ることぐらいなんてことのない難易度だろう。

「──俺も〝誘拐屋〟の勝ちで構わん」

 兼崎はそう言って、コングロマリットを回収すると、その場を去っていった。

「じゃあ、私も、真糸と卯助を連れて帰ろうかしら」

 終雪は兼崎を見送りながら、携帯電話で部下に車を出すよう命令した。