まくあい 【ドール・ワルツ・レクイエム  第二二話 〔ルインレーゼ伝説〕

2069年1月29日 放映】

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 小惑星に浮かぶ人面──星の脈動〔コスモフィリア〕の一つを動力源とする。

 それは量子コンピューターと同化した人間だった。

 黄金に染められた宇宙空間で〔人面惑星〕と高機動兵装コンバツトオプシヨンの【エルフィーナ・ルインレーゼ】がたいする。

 その人面惑星は、狂気のマッドサイエンティスト【ベン・ヴァンヴァム博士】の成れの果てだった。エルフィーナの胸元と、サングラス型の仮面にはヒビが入っていた。

「無事か……エルフィーナ」

『ノープロブレム、バザット大尉。少し前髪が乱れただけです』

 コックピットのエイルンは涙を流す。エイルンとエルフィーナは、幼馴染が命を捨ててくれたから、この場に来られていた。

 罪も無い人々が無為に殺される未来──それを阻止するためにエイルンは、ドクターツルギから【エルフィーナ・ルインレーゼ】を託される。


《助けてきなさい。泣いているすべての人たちを》──その言葉を最後、彼の胸に刻んで。


しよせんはあの小娘も女だったということかぁ

 人面惑星が間延びした口調で言う。エイルンとエルフィーナがその言葉に止まった。

『あの女も気付いていたはずぅ。この姿こそが人の到達点。人の最後の進化の形……しかし、人であることに固執し、〔恋愛感情〕などという脳のバグで、正しき選択をできなかった。それがあの女の限界ぃ……しかも最後に作り出したのは、今や過去の遺物でしかない、たかだが【シュプリームドール】一機だけぇ。それを、何の取り柄もないただの小僧に渡す。なんと愚かぁ──っ!』

「たかが……シュプリームドール、だと?」

 エイルンのりようが血走る。そのひとみと髪が、〔紅色〕に染まった。

『すでにオリジナルフレームなど必要無いぃ。あの王が持つがんさくもだ~。だから、あの小娘の作ったそのエルフィーナ人形もゴミと等価ぁ──』


「何と言った貴様ぁああああああああああああああああ!」──エイルンがげきこうする。


 エルフィーナのまゆが動く。それはエイルンが劇中で初めて見せる、感情の発露だった。

「彼女がこの機体にルインレーゼの名を冠した意味! それを分からないやつがアイツを! そしてっ! この機体をじよくするなど、おれが絶対に許さないっ!」


《ねぇエイルン。ルインレーゼ伝説ってさ。素敵だと思わない》


「どうして……どうして俺はアイツの気持ちにこたえてやらなかった! 俺だって好きだった、大好きだったさ! でも自分とアイツは釣りあってないとかっ! 俺は凡人で、あいつは天才で! 何よりれいでっ……貴族の生まれで。でも俺は一介の軍人でしかなくて! 平民の出だからとか! だからってえぇえ!」

 エイルンは片手で顔を覆う。大粒の涙をこぼし、そのくちびるを震わせていた。


《すごいじゃん。七回死んで生まれ変わっても、好きな男と結ばれるなんて。女神のくせにイイ根性してるわ……それにまぁ、ただの羊飼いに恋をしたっていうのも、他人な気がしないんだよね。なんていうか……目が追っちゃうの、分かる──》


「俺は自分が大嫌いだ! 弱くて泣き虫で! いつだって上手にできない! 一番大事な気持ちにも目を背け続けてきた臆病者だ! それでも、それでも涙を止めたいと思ったんだ。アイツが本当にうれしそうだったから……泣いて喜んでくれたアイツの顔を見たから俺は軍人になれたんだ」

 フラッシュバックする原風景──公園の砂場でボロボロになった人形を抱える、一人の女の子。それは泣いて喜ぶ、幼少時のツルギだった。


《アンタって羊みたい……臆病なくせに、いつだって真っ先に自分のことを捨てられる


「傷ついているのは慣れてる! でもっ、でもぉ……お前にだけは傷ついて欲しくながっだ。そして……おれが一番、君を傷つけたっ」

 エイルンは顔を伏せ、涙をこぼし続ける。

『理解不能こんなバカなガキにぇ~』

『口を閉じろ下郎。本機の搭乗者ダンスパートナーののしる事は、このエルフィーナ・ルインレーゼが許しません』

 人面惑星にエルフィーナがぜんと言う。エイルンが目を丸めた。

貴方あなた様のおもい……確かに聞かせて頂きました、バザット大尉。いえ、だんな様ムツシユ。私は、生涯のダンスパートナーに貴方様を設定入力させていただきます』

 エルフィーナが首元のブローチをでる。

『お母様は素敵な恋をしていたのですね……貴方を乗せる事、私は心から幸せに思います』

 エイルンにまた涙が込み上げる。しかし、それを我慢して「ありがとう」と言った。

 やがてエイルンは、ぐに前を向く。

「俺の信念ワガママに付き合ってくれるか? エルフィーナ」

『この身が朽ち果てる、その時まで……貴方様の進む道に、私も在りましょう』

 エルフィーナが仮面を投げ捨てる。そして、スラスター群ウイング・パレオを外した。すべての武装を捨て、エルフィーナはアップにしていた髪を解く。

 長い髪が流れるように舞い踊る。二人のひとみに、燃えるような戦意が宿った。

「このクソ野郎をぶちのめす! エイルン=バザットオレと! エルフィーナオマエで!」

『このらちモノをぶちのめす! エルフィーナわたくしと! エイルン=バザット貴方さまで!』

 今、一人と一機の声が重ねられる。

 紅の勇者と真紅のしゆくじよ────二人の伝説は、ここから全て始まった。