Ⅸ 大波スクナ襲来



 司令管制室の緊張状態は、ほぼ解けつつあった。

「スカーレット・レディ。敵機の全滅を確認。これにて状況終了です」

 なかが振り向きながら報告する。田中は後ろのやり取りを見るとがんした。

「こ! 九重ここのえ! 見た目ほど大したことないからっ、そんなおおに──」

「いえダメです! あぁ! ここにも、ここにもっ……あの犬にも劣るド畜生ども、尋問の時間が楽しみね。死んだ方が良かったと思えるくらいに後悔させてやるんだから」

 に座らされたエイルンがに介抱されていた。紫貴はピンセットでつまんだガーゼをエイルンの額やほおに当てる。その心は固くふくしゆうを誓っていた。

 エイルンはセレンに送られてすぐ、出撃しようとしたがらいちようからストップが掛かる。

 司令管制室に直行すると、テンナンバーたちの活躍で唐紅軍タンホンジユン艦隊は、ほぼ壊滅状態になったのを知らされる。

 一安心したエイルンは、そのまませいかいのサポートに……そして現在に至っていた。

 エイルンの下に、救急箱を持った女子役員がくる。

「会長、後は私がやっておきますから、皆の──」

「結・構です! 引き続き、E970ウイルス弾頭の捜索を急がせて下さい」

 紫貴は彼女をにらみつける。女子役員はそのけんまくにたじろいだ。紫貴の心中は、傷ついたエイルンの世話は私の仕事よ! だ。そんな中、あかねが報告をする。

「紫貴さん。特務が細菌兵器を探知しました」

 司令管制室にあんが広がった。



 あれほど強かった雨がむ。雲の間からは日が差し込んでいた。

 戦場となった海域は沈静化している。既に海上自衛隊が包囲していた。現在は生き残った民兵の捕縛などに当たっている。

 また付近の隣小島では、浜辺から機兵部の機体が続々と上がってくる。他にも回収されたパイロットブロックが幾つも砂浜に打ち揚げられていた。

 終息に向かう戦場をデストブルムが横断する。海上をしようしていた。

 海域には敵艦のざんがいが幾つも浮かんでいる。そのうちの一せき──半壊状態の巡洋艦の隣にデストブルムが来る。後頭部から噴出する、スラスターの推力が海面を泡立てた。

「ん、と──」

 デストブルムの中にいるセレンは少ししゆんじゆんした。

 三六〇度モニターに、焼け焦げた船の外装が映っている。その中の一か所がターゲットカーソルで示されていた。セレンに目的物のを伝えているのだ。

「クロ。優しくね」

 セレンが念を押す。瞬間、モニター内でデストブルムのマシンアームがしなった。

 縦一直線の割れ目ができる。デストブルムは触手四本で、割れ目をこじ開けた。

 現れた一発のミサイル──全長六メートル、翼幅は三メートル程度だ。

 発射台の上に直立するのは【E970ウイルス弾頭】だった。

 デストブルムはマシンアームでそれを巻き取る。近くまで持ってきた。すると、大きくなったミサイル画像に〔?マーク〕が表示される。

 セレンは小首をかしげた。デストブルムに聞く。

「違うの?」

 全方位モニターに、別のミサイル画像や数列データが羅列された。次に、回収した【E970ウイルス弾頭】が様々な角度で何パターンにも分かれて表示される。

 やがて【E970ウイルス弾頭】に〔×マーク〕が付いた。

 セレンはせいかいに通信をつなぐ。あかねのバストアップ映像が画面横に表示された。

『早っ! 特務、もう見つけたんですか!』

「茜、茜……クロ、これ違うって」

 セレンが報告するや、茜は『はぁあああぁ!?』と、目を真ん丸にした。

『ほ! 本当なんですか特務!』

 映像の茜が叫ぶように聞き返す。セレンは水晶ユニットに手を乗せた──

 デストブルムが本格的に解析する。

 ミサイルを持ち上げて下から見た。強度を確かめるようにじよ帽子にゴン! とミサイルをぶつける。茜の『おい』という声が響く。デストブルムは、ミサイルを二本のつるで振りだす。バーテンがシェイカーを振るような手並みだった。茜の絶叫が渡った。

『何やってんのよ、バカ触手────っ!』

 デストブルムのアイカメラが赤くなる。ミサイルを敵のちくかんへ投げつけた。盛大に爆発が起こって、その駆逐艦はごうちんする。

 コックピットのセレンは間を空けてから言った。

「……茜が悪い」

『『『『『『じゃなくてええぇええええ』』』』』』

 らいちようなか・エイルンと、司令管制室にいる全員の顔が一斉に表示された。

 セレンは小首を傾げる。するとデストブルムが、解析したデータ群をモニター一面に広げた。セレンはそれを見てうなずく。データを生途会へ転送した。



「私悪くないもん! 全部あの黒触手怪獣ビオランテのせいだもん!」

 茜が泣きながら自己弁護をする。一方でデストブルムから送られてきたデータを田中が読んでいた。

「司令……特務の言っていた事は本当です。大気中からは、細菌や類する有害物質は検出されませんでした」

「ほ、ほ、ほっ、本当かいっ……なかっ」

 らいちようは酸欠患者のような様子だった。田中はうなりながらデータに目を走らせる。

「はい。まるで病理の診断レポートですね……巡航ミサイルトマホークの外見をこくさせて作っただけの偽物のようです」

 田中が報告する。司令管制室はため息であふれ返った。だがエイルンだけは違う。

 ──なんだ……この違和感。

 一国の防衛網を巧みにすり抜けた事実と、唐紅軍タンホンジユンの一連の行動──行き当たりばったりに思える穴の多さ──に、エイルンはちぐはぐさを感じていた。

 もしミサイルが偽物だとバレたら、むろじゆくと海上戦力の両方から総攻撃を食らっていた事になる……しかし敵の首領はミサイルを撃つ体だった。それがどうもエイルンの中で引っ掛かる。やがてエイルンはつぶやいた。

「もしかして、やつらは──」

 ほぼ同タイミングで女子役員が叫ぶように報告する。

「司令! ポイントE近海にアンノウン確認!」

 エイルンの悪い予感は的中していた。


 現在、第弐富士の近海には、日米の護衛艦隊が陣を張っている。

 全部で一六せきだ。米海軍最強とうたわれる【第七艦隊】と【海上自衛隊】の混成艦隊である。遅れて到着した彼らは、第弐富士の警護に回っていた。

 そんな大艦隊をへいげいする一機──海面から、上半身だけをのぞかせる。

 丸みを帯びた人型……亀の怪物のような機体だった。

 両肩と背中に特大装甲をまとう。〔亀の甲羅〕に酷似したモノだ。

 同じく両手には甲羅型のラージシールドを装備していた。後頭部からポニーテールのように〔機械の大蛇〕を伸ばす。全部で八匹だ。

 ネイバー16番機【ショワンウー】は、まさに堅牢さが具現化したようなネイバーだった。

 シート型のコックピットにが座る。

「半分は釣れたね……餌が良いと掛かりが違う」

 ──やっちまおうぜ。あんま時間ねえぞ。

 水久那の頭の中で声が響く。そんな中、正面の艦隊が警告なしに発砲を始めた。

 ショワンウーが両手の巨大盾を正面に掲げる。

 艦砲が直撃──海面が爆発して波が舞い上がった。ショワンウーが波飛沫しぶきと黒煙で見えなくなる。

 その間も両艦隊は砲撃を繰り返す。周囲の波が爆発しては水柱を立てた。

 ショワンウーを、連装速射砲の弾幕と、艦砲砲弾が間断なく襲う。

 前者は、艦船の装甲板すらみ千切る──後者は、砲弾重量が一発三〇キロを超える──そんな砲・弾幕の中だ。

 周囲にいる巡洋艦の甲板が光った。計八せき分である。

 今度は炎華が咲き乱れた。甲板が光る度に火が上がる。レーザー兵器による攻撃だった。ショワンウーを容赦なき集中攻撃が襲う。

 息をする間も与えない。艦砲はたけびを上げ続ける。れつな鉛と熱の洗礼だった。

 やがて砲撃がみ、水柱が収まる……。

 ショワンウーは全くの無傷だった。



 司令管制室の中央モニター内で、ショワンウーが盾を下ろす。

うそ、でしょ?」

明星並の装甲……いえ、もしかしたらそれ以上?」

 あかねどうもくする。皆、声を失う思いだった。

 大きさとは、それだけで武器になる。〔戦艦〕は、せんそうや戦車の十倍以上の大きさ、重さを持つ。その大きさに比例した火砲を装備できるのだ。

 艦砲射撃の前では、戦騎装でさえも易々と粉砕される。

 たかだか二〇メートル大のサイズで、一個艦隊の集中砲火に耐えられる戦術兵器など、この世には存在しない。それが現代兵器の真実である。

 しかし、それを覆してしまう存在が、この世界には一つだけある。

 らいちようは恐れと共に、確信した。

「間違いない……こいつ、【ネイバー】だ」

 エイルンが勢いよく中央モニターを見上げる──ショワンウーは前進を始めていた。

 じりじりと海面を進む。再びショワンウーに、艦砲弾幕が浴びせかけられた。

 ショワンウーの盾がそのことごとくを防ぐ。特大口径の火線が跳弾して火花を上げる。艦砲射撃を食らっても、ショワンウーはずしんと身体からだを沈ませるだけだ。

 まさに、デタラメなまでの防御力だった。

【ネイバー規格】に通説の兵器概念など適用しない。

 パワー、タフネス、スピード、索敵能力……現代兵器水準など超越した武装・個体戦力を有する機体が幾つも存在する。デストブルムなどは実に分かりやすい。その面制圧力、IME兵器群は、もはや戦略兵器と言っても差し支えない。

 事実、たった一機で二個師団を壊滅させた機体も存在する。

 ちなみに〔師団〕とは部隊の編成単位の事だ。兵員規模にして六千~二万人。投入する戦車も何百となる。つまりは〔戦争〕をやるための戦力と考えてもらっていい。

 マリスを狩るだけが能ではない。ネイバーは軍隊すらもりようするのだ。

 そして、ネイバーの真価は、機体毎に与えられた特徴・固有武装に起因する。

 ショワンウーの後頭部──八匹の蛇がかまくびを持ち上げた。

 それは機械の大蛇だった。蛇たちが一斉に口を開ける。裂けた下あごと上顎の間に、紫色の炎球が発生した。エイルンに、壮絶なまでの悪寒が走る。

 紫の炎はうず巻き、凝縮されるように小さくなっていく。

 そして……八方に散らばった。

 中央モニター内で、ゆっくりと放物線を描く。紫の炎球が空母やちくかんなど、両軍艦隊へ落ちていく。


 八つの太陽────極大化した火の玉が海上一面をみ込んだ。


 全員、目の前が真っ暗になった。

「なんだい……今のは?」

 世界中の兵器という兵器に精通しているらいちようが……そう言った。

 中央モニター──蒸発した海から、真っ白い蒸気が上る。

 海面に浮かんでいたのはドロドロに融解した鉄塊だ。全部で九せき分。

 あれほどれつな攻撃を繰り返していた艦隊は、たったの一撃で半数を失っていた。

 司令管制室の時間が止まる。

 きようがくに青ざめる者──夢から覚めたいようにほおをつねる者──失った命の数を想像して涙を浮かべる者──

 各々が肌で感じていた……ネイバーを敵に回した時の恐ろしさを。

「パターン【KKK】!」

 雷鳥が迷わず命令を下す。

「アイツを絶対に第弐富士へ入れるんじゃないよっ!」

 なかが血相を変えて振り向く。

「しかしアレは【海洋型】にしか使用許可がっ!」

「この場面で文句言ってきたら、逆にミサイルをぶちこんでやるよ! 早くしなっ!」

 雷鳥が怒鳴り散らす。あかねがすぐに動いた。自分の光学画面を操作する。それからコンソール盤のガラス盤をたたき割り、手を伸ばして奥にあるレバーをつかんだ。

「よい、っしょぉ!」

 茜がレバーを重そうに引く。

 中央モニター──ショワンウーの全周から〔巨大投網〕が飛び出す。

 投網がショワンウーの全身を絡め取る。これは全重五〇〇トン、全長四〇メートルを超す【海洋型】と呼ばれる水生クイーンを足止めするために考案されたわなだった。

「ぶちかましなっ!」

 雷鳥がえた。四つの光学画面を操作していたがそれにこたえる。

「E23海域の全機雷! 点火しますっ!」

 光学画面の〔確認ボタン〕を殴り押す──二〇〇個の機械水雷が作動した。

 中央モニターに映る海が白く光り出す。投網をかぶったショワンウーが光に照らされた。

 海中で大爆発が起こる。百メートル超えの水柱が天に立ち上った。

 水の昇竜は空で水にかえる。白い舞台幕となって、再び海へと落ちてきた。

 白い霧が立ち込める中、黒い影が動く……さしものエイルンも我が目を疑った。

 モニターが映したのは、投網を内側から破るショワンウーの姿だった。

「化物め……」

 らいちようおののきにその顔をゆがませた。


 ショワンウーのコックピットではも顔を歪ませていた。

「大歓迎だよ! もう!」

 ──お返しするぞ! 代われ!

 頭の中で怒声が響く。水久那の目つきが荒いものに変わった。

 水久那は右そうじゆうかんのレバーをひねる──ショワンウーのマウスガードから蒸気が噴き出た。

 ショワンウーの両肩が持ち上がる。点火したスラスターが赤くなった。ショワンウーが天空に飛び上がる。上空で反転……重落下を開始する。

 残存艦隊が対空射撃に切り替えた。対空砲の火線が何本もショワンウーへ伸びた。

 しかしショワンウーはガードもしない。火線は弱々しく装甲に弾かれた。

 ショワンウーはすいせいになる。生き残った一せきに頭から落下した。


 だいかいしよう──巡洋艦が真っ二つに折れる。周囲の波が急激に盛り上がった。


 ──津波が全方位に広がる。──大波にちくかんみこまれた。──海上で空母が横転する。──大津波が第弐富士の巨大外壁を殴りつけた。

 ショワンウーが海面から上半身を上げる。すると左肩の甲羅装甲が爆発した。


 隣小島の海岸沿いにはせんそうが陣を構えていた。戦車がそのまま人型になったようなフォルム──自衛隊の主力戦騎装【がんりゆう】だ。

 巌流四機が右腕のカノン砲でショワンウーを狙い撃つ。だが──

 海面を豪速で何かが割る。円形のソレはフリスビーのようにとうてきされていた。


 直撃──五機の巌流が木端になって吹き飛ぶ。


 浜辺に突き立ったのは、厚さ三メートル・全重五〇トンの大盾だ。ショワンウーのラージシールドである。ショワンウーがただ投げただけで、この威力だった。

 甲羅型のシールドが自動的にショワンウーの方へ戻っていく……ショワンウーの左腕に装着された。コックピットのは口笛を吹いた。

「ひゅう! たまんねぇ! コイツに乗ったらせんそうなんて乗れねぇよな!」

 ──これで海上戦力はだいたいつぶした! もう行こう!

「分かって、るって!」

 水久那は笑って二本のそうじゆうかんを押す──ショワンウーの両肩の甲羅装甲が顔を隠した。

 一対のラージシールドが左右の肩にぴったり付く。

 亀が、手足や首をひっこめるように、ショワンウーが変形する。後頭部の大蛇たちをしならせ、海中へと潜った。鈍重さが一転、ショワンウーはロケットスタートを切る。

 蛇を携えた亀神獣【玄武】が、海中を進む。海面に白い線が引かれた。進行上にある護衛艦のざんがいめがけて突貫する。

 ──船体が爆炎に包まれる。──超巨大な甲羅が、船体を貫通していた。

 ショワンウーは残存艦隊の包囲網を力づくでこじ開ける。

 水中を高速で進むじようついだ。海面を引き裂き、玄武が第弐富士へ特攻する。

 目指すは一点。敢行するは突破。ショワンウーは第弐富士の海底外壁をぶち破った



 司令管制室に、けたたましいまでの警報ビープ音が鳴り響く。

「アンノウン! 第弐富士内に侵入! 五五番隔壁から五四! 五三! 五二! 次々と隔壁が破られていきます!」

「どうして非常用の隠し水路を!?

 なかが叫び、がコンソール盤を操作する。

 右モニターに第弐富士の立体マップが映った。黄色い〔?マーク〕が基地内の壁を次々とこじ開けていた。〔?マーク〕はスピードを全く緩めず、一直線に何かを目指す。

 中央モニターには激走するショワンウーの姿が映っている。短い足を、猛然と前に出し続ける。両手の盾で、隔壁をしようぶすまみたいにぶち破っていた。

 口元に手を当てて、あかねが立体マップを見る。目を見開き「まさかっ」とつぶやいた。

よう! どうした! 何か分かったのか!」

 エイルンが茜を見る。茜はそうぼうを震わせて思考を続けた。

「この進路……間違いない。じゃあ敵の狙いは始めから?」

 茜が一人、納得するように「うん、うんっ」とうなずく。

「グランシリーズは分かる。でもデストブルムは特務しか乗れないのに、どうして特務の身柄は要求してこなかったのか……デストブルムが暴れる危険があったからだとしても不自然よ。それに、どうしてむろさんの身柄だけを要求してきたのか──」

 茜がゆっくりとエイルンの方を見る。エイルンは固唾かたずんだ。

「……ずっと府に落ちなかった。氷室さんの身柄を要求したという事は、当然、彼女の存在も認知しているはず。でももし……もしですよ? あの艦隊パレードが、自分たちがようどうをやらされている捨て駒だと知らなかったら? その間、この亀ネイバーがむろじゆくの背後まで近づいていたとしたら? それなら全部つじつまが合うんです! 第一の狙いは氷室義塾を〔もぬけの空〕にすること! そして第二! これが一番の狙いだったんだ! なんで気付かなかったのよ私ぃ!」

 あかねは悔しそうに頭を抱える。それからエイルンの両腕つかんだ。

「ネイバーやグランを要求したのは戦力をぎ落すのもそうなんだけど! こちらの注意をらしたかったからです! 敵は私たちに『ネイバーを欲しがっている』って思ってもらいたかったの! でも本当の目的は、彼女から氷室さんを遠ざけたかった! 確実に彼女を破壊するために!」

「じゃあつまり……敵の真の狙いは──」

 話を聞いていたおののく。エイルンは自失した。

「……エル、フィーナ?」

 エイルンの脳裏を愛機がかすめる。エイルンは司令管制室を飛び出した。



 ショワンウーは既に、氷室義塾の敷地内に侵入していた。

 氷室義塾の広大な地下スペースには、機体輸送用の地下線路が縦横に引かれている。ショワンウーは、最短でその区画にまで足を踏み入れていた。

 ショワンウーが第七地下シェルターの入り口──メインゲート──の前に立つ。

 全高四〇メートルはある鋼鉄の門だ。ショワンウーは二二メートルのため、頭がゲートの中腹ほどにある。この場所は、ネイバーの予備格納庫に当たる。

 ショワンウーが大盾ごとこぶしを振り上げる。

 ごうおん──厚さ八メートルのゲートが大きくくぼむ。ショワンウーは二つの盾を交互に振り続ける。凹みが二つ、五つ、六つと出来上がっていった。

 巨大ゲートは見る見るゆがんでいく。ゲートの中心にすきができ、大きくなった。ショワンウーは最後、隙間に両手を差し込む。メインゲートをこじ開けた。

 真っ暗な格納庫内で緑色のアイカメラが不気味に光る。その目がとらえたのは、格納庫中央──うたた寝をするようなかつこうで鎮座するエルフィーナターゲツトだった。

 ショワンウーが背中の甲羅の隙間から、二つ折りの砲塔を取り出す。それを伸ばして右腕に下げた。ネイバー規格用の特大アンチマテリアルライフルだ。

 ライフルをエルフィーナに向けて構える。コックピットのは照準を合わせた。

「任務……完了」

 ──だな。

 十字のターゲットサイトが一七メートルのしゆくじよをロックオンする。

 水久那は迷わず、トリガーを引き絞った──ショワンウーのライフルが火を噴く。

 マズルフラッシュのせんこうがショワンウーを下から照らした。

 だが、それとほぼ同時……異変が起こった。

「っ!?

 コックピットのが声をむ。何かがターゲットの前を横切ったのだ。水久那は無意識にトリガーを絞る指の力を強めた。

 しようえんの煙が辺りに立ち込める。モニター全体を煙が覆っても、水久那はトリガーを引き絞っていた。

 ライフルが弾を吐き出し続け……やがて弾装が空になる。

「うっ!」──突如、水久那の視界が真っ白になった。

 格納庫内の照明が一挙にいたのだ。立ち込める煙の中から何かが勢いよく飛び出す。

しつぷう!?

 空中で、赤の疾風【あおい機】が巨大な装甲板を投げ捨てる。

 金属を打ちつける音が鳴った。コンクリートに転がったのは、ハチの巣にされたファラリカのパーツだった。そして──


『うぉおおおおおおおおおおっ!』


 エイルンの怒号が外部スピーカーを通して響き渡る。

 おさなじみの忘れ形見を守るため……エイルンの命を盾にした戦いが始まった。