Ⅷ
時は一時間前に
「演ぎっ!? ──っ!」
叫びかけた
《ここには防犯カメラがありませんけど、
セレンは自分の口をヌイグルミで
《七扇さんのアレはおそらく演技です。
「でもアイツ! 隊長のこ──ぎゃん!」──葵の後頭部を紫貴が
《特務。その脳筋の口、閉じて下さい》
セレンはこくんと
《敵の要求については、まだ腑に落ちない点が幾つかあるん──》
茜は打っていた文字を途中から消す。他の者たちは
《今のナシ。直接関係無いので忘れて下さい。七扇さんの真意は読みかねますが、要求に素早く応じることで敵の警戒心を下げようとしたんじゃないかな? 氷室さんも氷室さんで、わざと捕まって敵の細菌兵器を押さえるつもりなんだと思います。ですが、こちらでも策は打つつもりです……グラン三号には
「ん
!?!?」「め!」──葵がリアクションを取ろうとして、セレンがその口を押す。
茜が真剣な顔で
《飛鳥さん。アレの準備をお願いします》
全員の視線が飛鳥に向く。飛鳥は仮面○イダーのような変身ポーズをとった。最後にゆっくりと親指を立て……ペロと舌出し・ウインク顔で、サムズアップする──
*****
ここは
船長である
操舵席の画面には
『その様子じゃ、心配は
「このっ! このぉおおぉ!」
『田舎の内乱軍ごときが、よりにもよって
画面の雷鳥は笑う。それは教育者の顔ではない……闘争を楽しむ悪人の顔だった。
『最近はめっきり人とドンパチをやってないが、それを人間とやりあえないって履き違えているとしたら、ど偉い間違いだ……こっちゃあ、むしるモンがあった方が、
「い! いいのか! 細菌兵器をばら
『やってみなよ? こっちはもう確認が取れてんのさ。ねぇ
雷鳥が聞く。画面の向こうで茜が
『ハイ!
『まぁ? 坊やたちがどうにかしなくても手段が無かった訳じゃないんだ。ただ、核ミサイルの発射装置を使われていた場合、奥の手が通じない可能性があったからね……良かったよ。これで一方的にぶん殴れる』
司令管制室では、
「司令。
「伝令! 敵艦隊位置! 最後尾の船も
中央モニターの敵リーダーに雷鳥が言う。
「うちは兎角、敵が多いからねぇ。アンタらみたいなドテチンの襲撃は十分に考えて、この第弐富士は作られている……マリスだろうが、人間だろうが、いつ襲われても対処できるよう、備えは万全さね」
言いながら雷鳥が茜に視線をやる。茜は、両腕で頭の上に〔○〕を描いた。
「もしも去年くらいに、一人の大天才がキロ単位で発動する強烈な〔
「本邦初公開さ……あんた等のその小汚い船、どれもこれも何世代も前の中古品じゃないか。そんなボロ船のEMP対策は十分なのかねぇ?」
モニターに映る、
紫貴の周りに浮かぶ四つの光学画面──その一つに飛鳥の顔が表示される。飛鳥の手には〔ドクロマークのスイッチ〕が持たれていた。
「くひひひっ。準備は万端でございます事よ。
紫貴は飛鳥に許可を出す。右手の親指を真下に向け……落とした。
「やっておしまい」
「よいよいさー! ポチっとな♪」
画面の飛鳥が、喜々としてドクロスイッチを押した。
第弐富士より三〇キロ地点・海上──
海中から、直径六メートル程の〔
突如、繭が内側から破裂──現れたのは巨大な〔電磁コイル〕だった。
巨大コイルが発電を開始……青い光を帯び始めた。
するとコイルの付近にいた七
外周にいた七隻を残し、
電磁パルス兵器──ElectroMagnetic Pulseの頭文字をとってEMP兵器とも呼ばれる。
これは電磁パルスを利用して、電子機器やデジタルデータにダメージを与えるという代物だ。都市がこのEMP攻撃に
もし範囲内に旅客機がいれば墜落を起こす。これは、戦艦や戦闘機などのコンピューターを内蔵する軍事兵器も例外ではない。いわば〔電子機器を殺すための兵器〕である。
軍事機関の多くが、自軍の戦術兵器にはこのEMP対策を施す。それでも完全という訳にはいかない。そして……飛鳥の作り上げたのは広範囲かつ、強力な物だった。
司令管制室の正面モニターが戦場を映す。
機兵部の
その先陣を切るのが、リボルバー式グレネード【クロガネ】を両手に持つ
「パルスから漏れた敵もいます! なるべく船影に隠れるように移動してください!」
「全軍に通達! 混乱が解ける前に各艦を強襲! 最優先は
全役員が、恐々と後ろを向いた。紫貴の
「敵は害虫にも劣るテロリスト共よ! 投降してきたら、惨たらしく殺してやりなさい! ジュネーブ条約の適用外だから罪には問われないわ!」
言って、紫貴が親指の爪を
「私のハニーを傷物にして生きて帰ろうなんて、おめでた過ぎて目からスパゲッティが食べれそうよ……生きたまま脳みそをくり抜いて、
役員達がドン引きする。敵に憐みを感じる者も出た。そんな中、
「あ、あの、
「ああ。あの男……氷室くんを殴った」
紫貴はツンと鼻先を持ち上げる。茜は「うわー」と声を上げた。
「生きていたら浮輪くらいなら上げても良いでしょう。
田中はすぐ小声で通信を送る。
正面モニターを見る
「
「
茜は「おお」と拍手した。雷鳥はニヒリスティックに笑う。
「先制パンチは
中央左列・
グラン二号のコックピットでは日向が顔を引きつらせていた。
モニターには『電磁パルスを検知中。対策許容内。運用に支障なし』という光学文字が点滅している。
「電磁パルス兵器なんて……
日向はこれを機と
「グラン二号、
日向が
荷台の上で
甲板に巨人の足跡が付いた。雨に
グラン二号が荷台を向く。置かれている銃器の一本に手を伸ばした。
九五ミリ
『まずはポジションングの確保──』
グラン二号がカノン砲の砲身を延ばす。それを右腕にマウントした。グラン二号が右膝をアスファルトに付ける。砲撃体勢に入った。
『これ、砲台無しじゃ撃っちゃダメなヤツなんだけと……スパイクパイク一番・二番! ステーク!』
グラン二号の両
『固定ヨシ! 初弾
火花を上げて引かれるレバー──重音と共にカノン砲に榴弾が装塡された。
『……これで、私も人殺しか』
鉛色の全身を雨で濡らし、グラン二号は厳かに銃口を

その時だ。グラン二号の背後を銃弾が襲う。音を立てて弾が弾かれた。グラン二号の後ろにいたのは民兵五人だ。手に持った小銃を一心不乱に撃ち続けていた。
腰を起点に、グラン二号の上半身が一八〇度回る。上半身のみが背後を向いた。
グラン二号の
『皆を守らないといけないから、仕方ないよね』
外部スピーカー越しに、
『だから私はっ、何も、悪くない☆』
民兵らの足元が吹き飛ばされる。甲板の破片ごと五人は海へ投げ出された。
中央右列・
ここは日向がいる船とは対角線上にある駆逐艦である。
バイク型のコックピット──月下の防護服はメインカラーが緑である。月下は嫌そうに右目を細める。自分の義手を見た。
「これ……なんか気持ち悪ぃんだよなー」
月下の左前方には〔機械穴〕がある。コレの中に義手を挿入しないとグラン三号は動かないのだ。月下は覚悟を決める。「ええい!」と義手を突っ込んだ。
義手を入れた途端、
「痛ってえええええええええええええ!」
左腕から神経を直接刺すような痛みが走った。だが痛みが
「…………あれ? なんだこれ。ある? あるぞ、指っ!」
感じたのは失ったはずの五指の感覚──グラン三号の牙が光る。
これは牙のデザインをしたカメラだ。グラン三号は現在、
『基本は
固定用ワイヤーを引き千切る。鋼鉄の人獣がのそりと起き上がった。
『やべ!』
甲板にテロリストの乗る戦騎装が集まってきた。全部で三機だ。
ドラム缶に手足を生やしたような戦騎装──中国
グラン三号が後ろ脚を曲げ縮め……
『あば……よっ、うわあぁっああああぁあ』──トレーラーの荷台がぶっ壊された。
グラン三号が垂直に跳び上がる。猛スピードで上空を突き進んだ。
コックピットの中で
「雲? 雨だ……」
モニターには曇天の空があった。高速で横切っていく景色が次第に緩慢になる。
今度はコックピットモニターに海と艦隊が広がった。これはグラン三号が上空で自由落下に転じたからだ。
「今、こいつ何した? 跳んだのか? いや、そうじゃない。知らない光景だった。知らない体感、スピード……スピードっ!」
月下の右目が思い切り
月下は防護服のポケットからヘアピンを取る。左目を隠す前髪を乱暴に上げた。
落下の最中、月下の
『こいつ……速ぇええええええええええええ!』──グラン三号が甲板に着地する。
船体が大きく傾いた。波がシャワーになって甲板を
グラン三号の
グラン三号はゴリラのような両腕で顔をブロック──音を立てて銃弾が弾かれた。
『ハハ! お前、止まらないのかっ! いいな! 男の子だっ!』
グラン三号はそのままの
まるでダンプカーだ。回転しながら
滑走中のグラン三号が転ぶように右腕を擦りつける。
右腕──内蔵されたコーナータイヤ──が水を切った。グラン三号は雨で濡れた甲板の上で華麗なコーナーリングを決める。グラン三号が転進した。
『これも知らないっ! これもカッコイイ!』
二機の
『お前分かるんだなっ! 私がどう走りたいか! どんなふうに跳びたいか!』
グランの左爪が
空中で力任せに左腕を振る……
グラン三号は艦砲台を踏み
電磁パルスで機動停止に陥った空母──その甲板にグラン三号は降り立つ。
今度は広大な滑走路甲板が広がった。
「さぁ、これはどうだ!」
走るグラン三号が上半身を上げた。両腕を水平に広げる。
『邪魔っ!』
両爪が水平に躍る……重さ・遠心力が加えられた獣撃だった。
滑走路甲板に整列する戦闘機──その一機をグラン三号が
『ほーらっ!』
グラン三号が戦闘機を
他の四機がグラン三号を追いかける。しかしスピードの次元が違う。
グラン三号がまた走り出す。三秒でその距離が数十メートル以上広がった。
『遅ぇ! 遅ぇ! エンジンが燃え尽きるまで噴かしてみな! じゃなきゃっ──』
グラン三号が反転、四つ足で跳躍した。一機の
『この月下さまは捕まんねーぞ!』──そのまま
『ひょっとぉっ!』
グラン三号がまた跳び上がる。空中で縦に回る。回転しながら両爪を振り下ろす。
最後の一機が銃を撃ちながらグラン三号に突撃する。グラン三号は右へ、左へと回避した。氷の上を滑るような柔らかい動きだ。途中、途中で両腕を
『こっちこっちぃ!』
グラン三号が踊るように走る。鋼鉄のゴリラを追って
しばらくしてから月下の声が上がった。
『あーあ。ご
追いかける
グラン三号は十分な加速を付け、
交差しざま──グラン三号の背中が縦に割れる。携行地雷が五つ放られた。
空母の船橋を爆発の炎が覆い隠す。
コックピットにいる
「ぶつかるか、殴るしかないって、
目まぐるしく変わる景色──月下はその加速世界を楽しんでいた。
一秒を間違えれば大事故に成りかねない世界で……月下は
*****
それは初めて月下が、グラン三号に乗った時の事だ。
コックピットモニターに表示される機体情報を見て、月下は
「……
モニター横に表示されるのは飛鳥だ。飛鳥は映像通信で月下に言った。
「でしょ♪ 鬼灯ちゃんは〔スピード〕と同じくらい〔パワー〕も求めた欲張り設計だからねー。『戦術機動はやりたい』けど『武器もいっぱい持たせたい』『殴り合っても押し負けたくない』って設計。その結果、機動に一切の遊びがなくなっちゃたんだよ。これがあの機体を暴れ馬にさせちゃう一番の要因。『ちょっとアクセル踏んだだけで二〇〇キロ出るスポーツカー』。『中パンチと中キックの無い格ゲーキャラ』って言えばイメージ付く? そう……鬼灯ちゃんは動きに繊細さがまるで無いんだ」
月下は内心で同意する。映像の飛鳥は、まるで見透かしたような目になった。
「だから
月下は右目で飛鳥を
「
画面向こうで飛鳥が指さす──左目を隠す、月下の前髪を。
「月下ちんのその前髪。現役時代からず~っとそうだよね? コレってとんでもないハンデとリスクになるんだけど……遠近感を狂わしても、視界を半分
飛鳥は「にゅふふ」と意地悪く笑った。
「
*****
「ああそう! 退屈だった! 何に乗っても! 誰が敵でも!」
グラン三号のコックピットで月下は
「私の周りだけ時間が止まってんじゃないかって疑う時がある! 私の描いた世界が見えない! 見覚えのある、見た事あるモンばっか! 退屈過ぎてババアになる夢も見た! でも
月下は再びギアを変える。モードが〔猿立ち〕の電光表示に切り替わった──グラン三号が別の
『だからずっと我慢してやったんだ! 最速の風!? 最強の鬼!? 素人童貞に、ベッドマナー最低の早漏ヤローだろっ!』
グラン三号が爆走……その右爪を振り上げ、一気に跳躍した。
『そんなんでイケる訳────っ、無ぇだろ!』
グラン三号の右爪が

グラン三号が腕を引き抜くと、鋼鉄の上腕には赤い血が付着していた。
モニター越しにそれを見る
「でも、
もう月下に逃げるなんて選択肢はない。どう走るか、どう
月下はとにかく、この機体と戦場を駆け回りたかった。
そんなグラン三号を
──あら、いけない。
日向はつい、昔の癖で月下を追いかけてしまっていた。グラン三号を照準から外す。これは別に月下を後ろから撃ち殺したいからではない。
月下を視界に納めていれば、より多くの敵を殺せるからだ。
月下が派手に暴れ回っていた時間───その間、日向がやっていたのは環境整備だ。敵を思う存分、撃ち殺す為の。
日向がいるのは
パルスで動きが止まったのは分かっていたが、日向は真っ先にその二つを破壊する。
後ろから撃たれたり、通信設備が生きていて、助けを呼ばれても面倒だからだ。
次に様々な銃器をグラン二号にマウントさせる。最後は空になったトレーラーを吹っ飛ばす。荷台ごと海へと沈めた。
甲板に残ったのは過剰武装した
グラン二号の
両腕には常備の火炎放射機とグレネードだ。
日向は最初、二つ折りの特大カノン砲をグラン二号に拾わせた。
中央後列・巡洋艦──この船は艦隊の最後尾にいる船である。
外周で難を逃れた
突如、鳴りだした破壊音──跳び回る機影──船団中央で起こっている騒ぎ──
でも彼らの一番の問題は、直前で動きを止めた駆逐艦についてである。
「誰が止めろなんていった! 船団が乱れる! 早く進ませろ!」
甲板で
そんな時だ。不意に……誰も意図しない形でそれは襲ってくる。
特大ハンマーで、船体をぶっ
甲板にいた民士は
「穴?」
船体のどてっ腹には〔巨大な穴〕が開いていた。次の瞬間──
大爆発──巡洋艦が、内部から
その一キロ先……甲板で片
コックピットでは
「ぷっ!」
日向が薬莢を吐き出す。これは
「
日向は横にある右レバーを引く──グラン二号が砲身のレバーを引いた。
砲身横からドラム缶のような薬莢が跳び出す。アスファルトを割って薬莢が転がった。
車両大のシリンダー──弾が込められているユニット──が、
次弾が、大口径・長距離カノン砲に
直後、五〇〇メートル先の
海上にもう一
グラン二号は落とすように一四四ミリ・スナイパーライフルを
コックピットの日向は、炎上する二
両手を
「こうやって私が撃たないと皆が殺されちゃうから。だから私は……壊していいっ」
日向の表情は、恋に恋する乙女のソレだった。
そんな乙女が悩むのは次にどんな銃を使うか。どう壊すかだ。
六二ミリグレネードで、甲板をひしめく民兵たちをハンバーグにするか。
五一ミリスナイパーライフルで、
九五ミリカノン砲で船体に穴を空け、中にいる船員を爆発であぶり殺してしまうか。
四九ミリヘビーマシンガンで、人の居そうなところを無差別に撃ちまくるか。
燃え
「私は狂おしいほど……愛している!」
求められる戦果──人目のない戦場──絶好の狙撃ロケーション──
単一戦術として好きに動けるこの状況が……
「第三射♪」
日向はダッシュボードから
サイトスコープを
日向はトリガーを引き絞る────サイト内の駆逐艦の
「ぷっ! キャハっ」
日向は薬莢を吐く。
壊そうとすると足が震えるほど興奮して、壊せると青々とした爽快感が広がる。
日向は、獲物をスコープに納め続ける。照準を合わせた先から、トリガーを絞り続けた。
合わせてグラン二号も、銃を変え、弾を変え……次々と破壊を吐き散らす。
──ヘビーマシンガンの重い銃声が
目まぐるしく、グラン二号の
巨大な
グラン二号は火薬庫だ──
でも、糸目の彼を思い出す。するとそんな心配、すぐに消えた。
──その時は……あの人にもらってもらお♪
責任を取ってもらえばいい……こんな自分を〔ヒーロー〕と肯定してしまった
日向は心底から、そう思った。
水上を滑る二六機────機兵部の
疾風は水上バイクのように海面を滑っていた。全機、
陸上戦しかできない鬼灯は
『オーガゼロより各機!
彼らは遠目で戦闘を確認していた。
爆発音や砲声が鳴り響く。時折、機影らしきものが宙を跳んでいた。
『日向と姉御、もう始めてる! オーガゼロ、このまま先行する! 皆は、日向と合流してから手はず通りに!』
鬼灯の
慌ててその後を、青い
『馬鹿!
フットボールを抱えるように、大地機が救命ポットを運ぶ。この中にはセレンが入り込んでいる。大地機はスピードを上げて
他の二四機も、四機編成で六班に分かれる────
左後列・
船倉の入り口が吹き飛ばされている。横たわるように破壊されているのは四機の
鬼灯の右足が、一機の
『いろんなモンすっ飛ばして
左手のクロガネを真横にぶっ放す。突進してきた
『アンタら、この島で一番ケンカを売っちゃいけない十人にケンカを売ったんだ……今は元十人だけどね』
みしみしと鬼灯の右足が敵機──その胸元にあるコックピット──を
外部スピーカーを通して、男の悲鳴が上がり続けた。
『
周囲の炎が揺らめく。鬼灯の面が赤く照らされた。
『でもテメーら何? 算数できんでしょ? 一と一〇〇、どっちが大きいか分かるよねぇ!? どうしてケンカ売ってくるかなー』
──金属が金属を潰す音。──ボリュームアップした男の悲鳴。
それらを
『アンタらが踏んだのは犬っころの
鬼灯の右足が一気に沈む。
一方──旗艦の
三国志に例えるなら【
「……激しいな」
「おう。どっちが悪者なのか分からなくなるくらいには一方的だ」
エイルンに大和が
大和はその場でしゃがむ。腰のポシェットから鉄製の箱を取り出した。文庫本程の大きさである。
「それは?」
「予備の携帯だ。手持ちのはさっきのEMPで
その鉄箱は、電磁波等から電子機器を守るという触れ込みの小物入れだった。
「………………よしっ。
エイルンは顔を曇らせて「君は?」と聞く。大和はアタッシュケースを見せた。
「まだ懸念要素が残っている。それを
エイルンは
今回の
敵の目が強襲部隊に向かっている間に本命を搔っ攫う。
『チビスケぇ! 用意はいいかぁ!』
海上を走る
救命ポットがパカと開く。中からパイロットスーツ姿のセレンが現れた。横殴りの雨と向かってくる突風に、セレンは長い髪を
「うん!」
セレンは黄金の髪を耳後ろにかける。それから両手を口に添えた。
「クーっ! ローっ!」──まるでペッドでも呼ぶように……自分の半身を呼び起こす。
中央次列・空母──飛行甲板。
艦載機の滑走場である飛行甲板に、デストブルムのハンガーは置かれていた。
「いた!」
セレンが遠目でデストブルムを見つける。大地が『ひっ!』と声を上げた。
デストブルムは空母の甲板で暴れ始めていた。
デストブルムは高度を上げ……体当たり──空母がVの字に割れた。
そんなデストブルムに向け、周りの船が砲撃を始める。付近の海面に水柱が上がった。
「クロ! お仕置き!」
セレンは砲撃を始めた艦船を指さす。するとデストブルムが空母の
『まさか──』
それを一個、二個とデストブルムが
その後、デストブルムは
疾風との全長差は二倍以上ある。あまりの迫力に大地は敬語になった。
『ウッス。いつもお世話になります!』
デストブルムは『うむ』とでも言うように、頭部ユニットを下げる。
大地機は差し出すように救命ポットを上に……セレンが
「クロ!」
デストブルムが
三六〇度がモニター画面となる。中央には大きな水晶ユニットとコックピットシートだ。
デストブルムのコックピットに入るや、セレンはシートに飛び乗った。シートからベルトが延びてセレンの
「クロ!
セレンはデストブルムに聞く。デストブルムは一秒でその位置を解析した。三六〇度モニタ──一隻の船が何度かに分けて拡大される。船橋の通路に彼の姿を見た。
「夏樹!」
セレンに笑顔の花が咲く。
武器はなく、多勢に無勢だ。エイルンは不要な戦闘は避け、とにかく逃げ回っていた。前後──廊下の端──から、小銃を下げた民兵たちが一〇人以上で押し寄せた。
「くっ!」
エイルンは腹を決めて格闘戦に転じようとしたが。
『夏樹! とんで!』──突如、セレンの声が響いた。
エイルンは迷わず横の窓ガラスをぶち破る。そのまま
エイルンの腹に鋼鉄の蔓が巻き付く。エイルンが首を横に向けた。
「セレン!」
飛翔するデストブルムがエイルンを捕えていた。デストブルムは胸元にエイルンを寄せる。コックピットのハッチが開く。デストブルムは中にエイルンを放りこんだ。
「とっ! ぶふ!」──エイルンはセレンの爆乳に顔を
「クロ! 逃飛行!」
セレンはエイルンの頭をそのまま抱く。デストブルムは二人を連れて
遠くなるデストブルム──その背を見るのはブリッジにいる
「ショワンウーはどこだ! いったい何をやっている! どうして援護に入らないっ!」
片腕になった敵首領は
「それがこちらの通信に出ずっ!」
「アレだ! もうアレを出させろ! 全機だ!」
「しかし! あれは来るべき聖戦のため──ぐほっ!」
その部下も
「ここで我々が負けることが聖王さまへの不義だ! そんな事も分からんのかこの馬鹿チンがぁっ!」
この後すぐ、旗艦から赤と緑の信号弾が打ち上げられる。
艦隊外周にいた巡洋艦一
甲板内部が露出する。下からリフトが上がってきた。リフトに乗せられているのは新品の
雨空の下、〔鋼鉄の
敵の混乱は今、ピークに達している。機兵部にはそれが肌で伝わっていた。
停止船は、動ける
先ほどから砲弾は、明後日の方角を撃っていた。
船影に隠れながら進み、まだ生きている船を狙い打つ。一方的な試合展開と言えた。
海上を滑走する
ゴーグルをかけたような頭部。グレーのカラーリングは一般部員の機体だ。
『え?』『っ!』『は?』『ちょ!』
全員のコックピットに警報音が鳴った。
突如、空から鉛の雨が降り注いだ。一機の股間から足元を貫く。背中からパイロットブロックが射出される。次の瞬間、その疾風は爆砕した。
『
『馬鹿、来てる!』
更にもう一機のアイゴーグルが撃ち貫かれる。上空からの銃弾だった。すぐさまパイロットブロックが射出される。一拍置いて、胸部装甲にも十発の
生き残った二機が左右に散開する。
『聞いてないっ! こんな!』
一機が上を向く。もう一機から女子生徒の叫び声が上がった。
『だ! 脱出

っ!』
二機の頭上──白煙の軌跡を作ってロケットミサイルが降ってくる。
更に二つ、パイロットブロックが射出……二機の
「バックス2班、音信途絶!」
「バックス5班もです! これで合計八機、戦闘不能です!」
雨を引き裂いて高速
流線形のシャープなデザイン。背中にジェット機の翼を付ける。片手にマシンガン、両脚にはミサイルポットを装着していた。
「司令! 識別が取れました。USAFの開発した【イェーガー】です!」
「先月出たばかりの最新型じゃないか……どうしてあんなもんまで」
E-101【イェーガー】──米国空軍が主導開発した、空中戦を得意とする最新の戦騎装である。もともとは首都防衛を目的として開発された機体だった。田中が紫貴に言う。
「これ! 水上戦仕様の疾風じゃ勝ち目なんてありませんよ!」
開発コンセプトというのは、その用途・性能に大きく影響する。
例えば【疾風】──この機体は〔マリスから逃げ回ること〕に主眼を置かれて作られた機体だ。陸上戦、更には悪路にも対応した野戦仕様がベースとなる。
燃費の良さ、滑らかな戦術機動を売りとする。陸を走らせたら、間違いなく世界でもトップランクに食い込む。だが、水上戦においては、その長所が
「これって、まだニューヨークにしか配備されていないみたいです! なんで中国の
対するこの【イェーガー】は対人戦に主眼を置く。
高層ビルの谷間を潜り抜け、敵を駆逐するために作られたような機体だ。
空を自在に飛び回り、敵を追い詰める様から、
雷鳥は舌打ちした。即座に命令を下す。
「ガキ共を下がらせな! 相性が悪すぎる! 自衛隊に空戦装備で出撃を要請! 出せる戦闘機はみんな向かわせな! ヘキサには絶対、被害を出すんじゃないよ!」
生途会はすぐ、自衛隊に救援を要請した。
甲板に立つ、グレーの
この疾風は、元四番隊の部員たちの機体だ。先ほど
『みんな。少しの間だけ、任せていい?』
『『はい!』』『任せて下さい!』
部下の到着で、日向は部隊長としての顔に切り替わっている。
敵戦力の洗い出しを行い……新たな敵影を察知した。
日向は解析を済ますと顔を
「葵ちゃん!
葵と月下の顔がモニター右に表示される。
「敵が空戦装備の機体を投入してきました!」
月下が
「米軍の最新鋭です! 今の疾風に勝ち目なんてありません! 皆、このままだと
即座に月下が通信を切る。モニター内にいたグラン三号が、別方向へと跳んで行った。
モニター内の葵が焦りを見せる。
『この機体、そんなに強いのかよ!』
「グランのデータベースに載ってました。米軍の新型です。水上戦仕様の疾風じゃ相性が悪すぎる! 地の利もなければ、疾風
『ッ!? 分かった!』
葵が顔を引き締める。すぐに通信を切った。
「ワンサイドゲームはお
日向は愛用の五一ミリスナイパーライフル【スレイコンドル】をグラン二号に持たせた。
雨を切って戦闘機が滑空する。編隊飛行する五機が、戦場海域へ向かっていた。
下方から三本のロケットミサイルが打ち上げられる。五機の戦闘機が一機に上空へ角度を変えた。
ミサイルも進行方向を変える。ミサイルは戦闘機を追っていた。
『ホーミング弾──』──着弾。曇天の下、一機が爆砕した。
更に二本のミサイルが、もう二機を撃ち落とす。
運よく当たらなかった二機──その背後に猛スピードで二機のイェーガーが迫る。
『『うわぁああぁあぁ!』』
戦闘機の両翼と外装に穴が開く。何十発も。逃げた一機が火ダルマになって爆砕する。
最後の戦闘機に銃を向けようとした時──
イェーガーのこめかみを銃弾がぶち抜く。背部スラスターにも二発の
航行能力を失い、イェーガーが墜落する。残った一機がすぐ下を向いた。
発射地点は一八〇〇メートル先……
「ぷっ!」
コックピットで
「偉そうにして!」
薬莢をガチリと
「まふっ!?」
薬莢を
グラン二号の左肩から炎玉が打ち出される。何十本もの白い煙が上がった。フレアというデコイの一種だ。
ホーミングミサイルが向きを変える。明後日の方角で爆発が起こった。
黒煙を潜ってイェーガーが迫る。日向たちの甲板へ向かっていた。
グラン二号が改めてスナイパーライフルを構え直す。だが、それよりも速く大きな影が上空に飛び上がった。
『手間かけさせんな! 四番隊!』
空中のイェーガーをグラン三号が殴り飛ばす。
イェーガーが炎上する駆逐艦へと落下していく。グラン三号は背中を見せたまま隣の船へ飛び移った。コックピットの中の日向は憎々しげに漏らす。
「ありがとうございましたっ!」
旗艦の船倉格納庫には
「はーい。手を上げて。じゃないとお兄さんぶっ放しちゃうよー」
大和は
いるのは自分と同じくらいの同年代程の子供ばかりだ。おそらくは民兵として
格納庫内はカビ臭い。鋼材は
六基のハンガー──一機だけ、出撃せずに残っている。
それは現在、戦場で猛威を振るっているあの【イェーガー】だった。
大和はおもむろに銃を捨てる。「交渉しよう」と、空いた右手でイェーガーとコンテナを指差した。
「コレにアレを付けてくれ……報酬はこれだ」
大和は左手のアタッシュケースを無造作に開けた。バサバサと札束が落ちてくる。少年たちは札束に目が
この札束は、先ほどの船長室で大和が拝借してきたものである。
「お兄さん、ビジネスにはうるさいぞ。一番早い
大和が言う。少年たちは競争するようにイェーガーに向かった。
雨が降りしきる。波も荒さを増していた。海面を切り裂き、一機の
『や! や! や!
疾風の足元を火線が
二時と一〇時の方向から
『騎兵隊、参上じゃオラぁあ!』
『もえな! そのままフルスピードよ!』
二機が、担いでいた空のミサイルポットを
イェーガーが後方へ
『二人とも
山武機とオルソン機がイェーガーに向かう。
空中にいる二機のイェーガー目がけて……一気に跳び上がる。
『『ッ!?!?』』
二人を強烈な違和感が襲う。二人の背筋が凍った。いつもの跳躍量の半分もない。
装備の違いと水上という盲点……二人の経験不足が招いた失策に違いなかった。
コックピットの中で二人は直感する──殺される、と。
空中のイェーガー二機が、足のミサイルポットを発射する。
『そこのアホ×2っ!』
オルソン機の下から火線が二つ伸びる。乱射したマシンガンの弾だった。
弾は空中でミサイルを
空に爆炎が広がる。水上をつんのめるようにオルソン機と
『『
スイートビーを二丁抱えた大地機が海面を滑る。大地が二人の下までやってきていた。
『模擬実習でやったろ! 水上と陸上、全然違うって! ずらか──っ!』
大地機が即座にブレーキをかける。巻き上げた波が空からの銃弾を
既にイェーガーは滑空を始めていた。狙いを大地機にシフトさせたのだ。
スピーカー越しに民兵二人が笑う。
イェーガーが、大地機目がけてマシンガンを乱射する。その時だ。
『ぎゃははははははははははははっ!』──
スター小隊よりも民兵よりも先だ。一番遠くに逃げていた彼女がそれを
「あれはぜったい……味方には見えないっ」
女子部員のコックピットモニターに映るのは、四つ目の黒い悪魔だった。
『ん? 笑えよ。ご機嫌なんだろ?』
イェーガーの背中に立ったのは、黒い翼を生やした【
四つ目のアイカメラとしゃくれた
アギトの雷公は、他の
『ゴングだ』
右の夜光虫が火を噴く──イェーガーの背中がハチの巣にされた。
この夜光虫は、カービン銃──取り回し重視のマシンガン──の銃身に、ブレードを付けた武器だ。遠近両用である。アギトが好んで使う、雷公の主兵装だった。
バイク型のコックピットでアギトは薄く笑う。
メインモニターの中で、残った一機がマシンガンをこちらに向ける。
アギトが
イェーガーの両
『うわあぁあああああああ!』
イェーガーが転身する。バーニアを噴出して逃げ出した。雷公は右の肩から二つ折りの銃身を伸ばす。それはカートリッジ式のレーザーガンだ。
銃口のレンズが白く輝き……発射──白い光線がイェーガーの背中に照射された。
イェーガーが発光に包まれる。装甲が徐々に融解していき、爆砕に至る。
風に
雷公はレーザーガンを折りたたんで背中に収納する。
警告音──敵機接近を知らせるアラームが、疾風と雷公のコックピットで鳴った。
三人が急接近するソレに気付く。無論、アギトもだ。
空中を鋭角に跳び回る
同じイェーガーだった。だが、この機体は装備がまるで違う。
両肩に旋回補助のターンブースター──バックパックの推進用ジェットが四基──両肩と胸部、両脚にミサイルポット──
イェーガーの
『スター小隊離脱!
『遊ぼうか』
雷公はそのイェーガーを真っ向から迎え撃つ。
対するイェーガーは更に加速した。前腕からソードエッジを延ばす。
雷公はその頭をかち割るように二丁剣銃を振り下ろした。
雷公の両腕がモーター音を鳴らす。一気にイェーガーの
だがイェーガーはジェットを更に噴かす。パワーの差を、ジェットの推進力で埋めたのだ。イェーガーは鋭いシフト運動に切り替える。インファイトを挑んだのはイェーガーの方だった。双刃が踊り、舞う。二つの
雷公は半身でそれを受け止める。目にもとまらぬ速さで雷公の右腕がしなり続けた。関節のモーターが悲鳴を上げる。雷公は夜光虫・一本だけで双刃を防ぎきっていた。
イェーガーは身体でぶつかりに行く。
しかし、二機のソレは巧みな戦術機動の
メテオジャケットのイェーガーは、接近戦が度外視された高機動仕様だ。
機動力が高すぎて、対象を懐に
一方、雷公もそのスピードに
高速戦闘を繰り返す二機──徐々に船団中央へと押し出されていった。
それと同時刻の話だ。
四番隊が集まる甲板には、
『ちっ……これで最後だ。姉御。弾、あとどんくらい残ってる?』
『クレイモアが一回分。陰険ウサギ、オメーの
『こっちもほとんど撃ち切ってしまいました。まぁ? 誰かさんよりも、ずっとお仕事をしていたので当たり前の事なんですけど』
グラン二号が九五ミリカノン砲に弾を込める。グラン三号から『あん?』と威圧めいた声が上がった。グラン三号がグラン二号を見下ろす。
『ケンカ売ってんの? 貧乳』
『……胸の大きい人って、どうして粗野で頭の悪い人が多いんでしょうね』
辺りに一触即発の空気が漂う。しかし空気の読めない
『ププ! そーだよ姉御。そんなんじゃお嫁にいけないよ』
それを聞いた
『?』『っ!』『あ?』
回線元は未登録。知らない機体からの通信だった。
『パーティの時間だ。指定するポイントに来てくれ……目いっぱいめかしこんでな』
一方、
イェーガーが空中で雷公を押さえ付ける。二機がもつれるように墜落していく。その最中、外部スピーカーから大音量で
『現在、空戦タイプの戦機装と戦闘中! 空戦タイプはこいつだけだ! しかし手ごわい! 誰か! 援護を求む!』
機兵部を追跡していたイェーガー三機が即座に転進する。
『間違いない! コイツが敵のトップエースだ!
同じく、他の五機が真っ先にアギトの方へ向かう。
他のイェーガーが続々と集まってくる。
雨を切り裂く、鋼鉄の
雷公が組みついていたイェーガーを
バトンタッチするように援軍の九機が雷公へ向かう。全機が、雷公を射程内に納めるか、納めないかのギリギリの距離で…………空一帯を強烈な白い光が覆った。
それは落下するメテオジャケットのイェーガーが撃った〔
『ラノベ主人公設定はもう廃業か?』
『
アギトの通信に
イェーガーのコックピットには、
「だが、俺の真逆を行く
大和が
『丁度いいドレスが無かったから、私はこれかなー』
雷公の四〇〇メートル下──グラン二号が九五ミリカノン砲を空に構えていた。
『レディーを誘うなら、次はもっとシャレた文句で頼む』
雷公の横……背中を向ける
『こっちにだって選ぶ権利あるよねぇ、そうじゃない、姉御?』
鬼灯がリボルバー式グレネード・クロガネを二丁、正面に。
『お前と同意見とは……あー、だから雨が降ってるのか』
雷公が二つ折りのレーザーガンを伸ばす。それを脇に抱えた。
同じくグラン三号の背中のハッチが全開した。
下では、グラン二号が砲身のレバーを引く。
そして最後に……コックピットにいる大和が残忍に笑った。
「オープン……ファイアッ」──イェーガーがミサイルを全弾発射する。
グラン二号の九五ミリカノン砲が火を噴く。
グラン三号の背中から、数千発分の散弾が
鬼灯のクロガネが爆炎の
雷公のレーザーが敵団を貫く。
イェーガーのミサイルが、何十本もの線を描く……集約して一か所に。
曇天に起こる大爆発──九機のイェーガーが、一個の巨大な炎に