Ⅷ 規格外十番テンナンバー



 時は一時間前にさかのぼ────なつの引き渡し後、義塾の中核メンバーはむろじゆくに戻った。あかねに誘導され、全員は美術室に集まっていた。

「演ぎっ!? ──っ!」

 叫びかけたあおいの口をが押さえる。茜が「しーっ!」と口元に指を立てた。それからまた光学キーボードを打つ。プロジェクターを通し、茜の文面が出来ていく。

《ここには防犯カメラがありませんけど、ななおうぎさんの盗聴器がどこにあるかわかりません。だから黙って読んでください。私語厳禁!》

 セレンは自分の口をヌイグルミでふさぐ。全員が息をんでプロジェクターを見る。

《七扇さんのアレはおそらく演技です。どうかつの為、最初に爆破した通学用の第三モノレールですが、あれは以前の多頭型戦で、デストブルムが大暴れした時に壊されたモノなんです。事実、爆破による被害は生徒側に出ていません》

「でもアイツ! 隊長のこ──ぎゃん!」──葵の後頭部を紫貴がたたいた。

《特務。その脳筋の口、閉じて下さい》

 セレンはこくんとうなずく。葵の口を両手で押すように塞いだ。

《敵の要求については、まだ腑に落ちない点が幾つかあるん──》

 茜は打っていた文字を途中から消す。他の者たちはげんそうな顔になった。

《今のナシ。直接関係無いので忘れて下さい。七扇さんの真意は読みかねますが、要求に素早く応じることで敵の警戒心を下げようとしたんじゃないかな? 氷室さんも氷室さんで、わざと捕まって敵の細菌兵器を押さえるつもりなんだと思います。ですが、こちらでも策は打つつもりです……グラン三号にはげつさん。グラン二号には日向ひなたさんが乗って、敵艦隊に潜入済みです》

「ん!?!?」「め!」──葵がリアクションを取ろうとして、セレンがその口を押す。

 茜が真剣な顔で飛鳥あすかを見た。

《飛鳥さん。アレの準備をお願いします》

 全員の視線が飛鳥に向く。飛鳥は仮面○イダーのような変身ポーズをとった。最後にゆっくりと親指を立て……ペロと舌出し・ウインク顔で、サムズアップする──


    *****


 操舵室ブリツジの窓を雨が叩く。外の景色は灰色の地平線と黒雲だ。それに薄ぼんやりと黄色いヴェールが掛かっている。黄色の霧は晴れつつあった。

 ここは唐紅軍タンホンジユンの旗艦を務める巡洋艦、そのそうしつだ。

 船長であるリーは、無くなった右腕にベルトを巻く。止血を行っていた。

 操舵席の画面にはろうのバストアップが映し出されている。らいちようだった。

『その様子じゃ、心配はゆうだったようだね。どうだい、毒ダンゴを腹に納めちまった気分は? 下手すれば内臓ごと持ってきかねない、自慢の毒ダンゴたちだ』

「このっ! このぉおおぉ!」

 リーは怒り心頭で雷鳥にえた。

『田舎の内乱軍ごときが、よりにもよってにケンカを売るたぁ、いい度胸だ。売られたケンカは借金してでも買うっていうのが私の流儀でね……やってやろうじゃないか。戦争だ』

 画面の雷鳥は笑う。それは教育者の顔ではない……闘争を楽しむ悪人の顔だった。

『最近はめっきり人とドンパチをやってないが、それを人間とやりあえないって履き違えているとしたら、偉い間違いだ……こっちゃあ、むしるモンがあった方が、ぜん鼻息が荒くなるんだ。リストに載せる兵隊の数がケタ単位で変わってくる』

「い! いいのか! 細菌兵器をばらかれても!」

『やってみなよ? こっちはもう確認が取れてんのさ。ねぇあかね?』

 雷鳥が聞く。画面の向こうで茜がこたえた。

『ハイ! むろ総隊長からの電文、確認済みです! 敵の発射キーは海に投げ捨てたそうです!』

 リーは一層に顔を赤くする。片や、唐紅軍タンホンジユンの民兵たちは顔を青くしてリーを見た。雷鳥は画面の中で片目をつぶる。

『まぁ? 坊やたちがどうにかしなくても手段が無かった訳じゃないんだ。ただ、核ミサイルの発射装置を使われていた場合、奥の手が通じない可能性があったからね……良かったよ。これで一方的にぶん殴れる』



 司令管制室では、せいかいが戦闘態勢へ移行していた。

「司令。ふしさんの準備、整っています」

「伝令! 敵艦隊位置! 最後尾の船もむろじゆくより、およそ三〇キロまで離れたと確認が取れました!」

 が言って、なかが続く。田中がやり取りをしていたのは現地付近にいる水兵だ。

 中央モニターの敵リーダーに雷鳥が言う。

「うちは兎角、敵が多いからねぇ。アンタらみたいなドテチンの襲撃は十分に考えて、この第弐富士は作られている……マリスだろうが、人間だろうが、いつ襲われても対処できるよう、備えは万全さね」

 言いながら雷鳥が茜に視線をやる。茜は、両腕で頭の上に〔○〕を描いた。

「もしも去年くらいに、一人の大天才がキロ単位で発動する強烈な〔電磁パルスEMP兵器〕の開発に成功していたら……どうなると思う?」

 リーが口をあんぐり開けた。前触れもなく、自らの会社の倒産を聞かされた社長のような顔だった。

「本邦初公開さ……あんた等のその小汚い船、どれもこれも何世代も前の中古品じゃないか。そんなボロ船のEMP対策は十分なのかねぇ?」

 モニターに映る、リーの顔には脂汗が噴き出ていた。

 らいちように視線をやる。中央スペースに立つ紫貴は、飛鳥あすかに映像通信をつなぐ。

 紫貴の周りに浮かぶ四つの光学画面──その一つに飛鳥の顔が表示される。飛鳥の手には〔ドクロマークのスイッチ〕が持たれていた。

「くひひひっ。準備は万端でございます事よ。せいかいちようさま」

 紫貴は飛鳥に許可を出す。右手の親指を真下に向け……落とした。

「やっておしまい」

「よいよいさー! ポチっとな♪」

 画面の飛鳥が、喜々としてドクロスイッチを押した。



 第弐富士より三〇キロ地点・海上──

 海中から、直径六メートル程の〔まゆ〕のような物体が七つ現われた。鉄塔にるされた鋼鉄の繭である。七つの繭は円を描くように、中心部にいる船を囲んでいた。

 突如、繭が内側から破裂──現れたのは巨大な〔電磁コイル〕だった。

 巨大コイルが発電を開始……青い光を帯び始めた。

 するとコイルの付近にいた七せきの敵戦艦が即座に沈黙する

 外周にいた七隻を残し、唐紅軍タンホンジユン艦隊は完全にその動きを止めてしまう。

 電磁パルス兵器──ElectroMagnetic Pulseの頭文字をとってEMP兵器とも呼ばれる。

 これは電磁パルスを利用して、電子機器やデジタルデータにダメージを与えるという代物だ。都市がこのEMP攻撃にさらされた場合、電気網や重要インフラはすべて破壊される。

 もし範囲内に旅客機がいれば墜落を起こす。これは、戦艦や戦闘機などのコンピューターを内蔵する軍事兵器も例外ではない。いわば〔電子機器を殺すための兵器〕である。

 軍事機関の多くが、自軍の戦術兵器にはこのEMP対策を施す。それでも完全という訳にはいかない。そして……飛鳥の作り上げたのは広範囲かつ、強力な物だった。



 司令管制室の正面モニターが戦場を映す。

 機兵部のせんそうしつぷう】が水上を走る。全部で二五機だ。携行式ロケット弾を抱えたり、肩にミサイルポットを積んだ重武装である。逆扇状に隊列を組む。

 その先陣を切るのが、リボルバー式グレネード【クロガネ】を両手に持つ鬼灯ほおずきだ。

「パルスから漏れた敵もいます! なるべく船影に隠れるように移動してください!」

 あかねが全機に通信を飛ばす。も中央スペースで号令をかけた。

「全軍に通達! 混乱が解ける前に各艦を強襲! 最優先はむろ総隊長の保護です! それ以外の船は一切、遠慮は無用! スターワン以外の各機! 一せき残らず撃滅せよ! 皆殺しになさい!」

 全役員が、恐々と後ろを向いた。紫貴のげきは続く。

「敵は害虫にも劣るテロリスト共よ! 投降してきたら、惨たらしく殺してやりなさい! ジュネーブ条約の適用外だから罪には問われないわ!」

 言って、紫貴が親指の爪をむ……前髪からのぞひとみは、愛憎に狂う女の目だった。

「私のハニーを傷物にして生きて帰ろうなんて、おめでた過ぎて目からスパゲッティが食べれそうよ……生きたまま脳みそをくり抜いて、駿するわんにばらいてやる──」

 役員達がドン引きする。敵に憐みを感じる者も出た。そんな中、なかが小さな声で聞く。

「あ、あの、ななおうぎ三年生は? 一連の行動は敵の目を欺くための演技だと、総隊長の確認も取れた事だし──」

「ああ。あの男……氷室くんを殴った

 紫貴はツンと鼻先を持ち上げる。茜は「うわー」と声を上げた。

「生きていたら浮輪くらいなら上げても良いでしょう。りよの事故で亡くなってしまったのなら仕方ないけど。この島の英霊として、線香の一本ぐらいはいてあげてもいいわ」

 田中はすぐ小声で通信を送る。大和やまとの救出も命令に付け加えた。

 正面モニターを見るらいちように茜が話しかけた。

すごかったですね、飛鳥あすかさんの発明」

氷室義塾うちは敵が多いからねぇ。マリスにゃ使えないが、こういうのは人間相手には覿てきめんさ。まぁ、何してくるか分からないマリスより、人間の方がうんとやりやすい……米軍第七艦隊の襲撃だろうが、返り討ちにできるだけの戦力は備えてるつもりさ」

 茜は「おお」と拍手した。雷鳥はニヒリスティックに笑う。

「先制パンチは日向ひなたげつの犬猿コンビか……コレで終わっちゃうかもねぇ」



 中央左列・ちくかん──前部甲板。

 グラン二号のコックピットでは日向が顔を引きつらせていた。

 モニターには『電磁パルスを検知中。対策許容内。運用に支障なし』という光学文字が点滅している。

「電磁パルス兵器なんて……飛鳥あの子なんでもありだわ」

 日向はこれを機ととらえる。左下にあるダッシュボードを開けた。火薬抜きのやつきようが大量に現れる。「さて」と、肩にかけたポニーテールを後ろへ払った。

「グラン二号、くも日向……せんめつ戦に移ります」

 日向がそうじゆうかんを両手で握る──グラン二号の単眼モノアイカメラが赤く光った。十字を切って稼働する。

 荷台の上でひざを突くグラン二号。九・七メートルの鉄巨人が立ち上がる。固定用のワイヤーが弾けるように切れた。グラン二号は荷台から跳び下りる。

 甲板に巨人の足跡が付いた。雨にれた鉛色のボディが、その威容を際立たせる。

 グラン二号が荷台を向く。置かれている銃器の一本に手を伸ばした。

 九五ミリてつこうりゆうだん砲【ヒステリーマイワイフ】──砲撃戦を得意とする、がんりゆうの主兵装として有名なカノン砲だ。

『まずはポジションングの確保──』

 グラン二号がカノン砲の砲身を延ばす。それを右腕にマウントした。グラン二号が右膝をアスファルトに付ける。砲撃体勢に入った。

『これ、砲台無しじゃ撃っちゃダメなヤツなんだけと……スパイクパイク一番・二番! ステーク!』

 グラン二号の両かかとから、〔くい状のスパイク〕が打ち出される。二本の鉄杭が深々と甲板に突き刺さった。次にグラン二号は砲身のレバーをつかむ。

『固定ヨシ! 初弾そうてんっ!』

 火花を上げて引かれるレバー──重音と共にカノン砲に榴弾が装塡された。

『……これで、私も人殺しか』

 鉛色の全身を雨で濡らし、グラン二号は厳かに銃口をかんきように向けた。

 その時だ。グラン二号の背後を銃弾が襲う。音を立てて弾が弾かれた。グラン二号の後ろにいたのは民兵五人だ。手に持った小銃を一心不乱に撃ち続けていた。

 腰を起点に、グラン二号の上半身が一八〇度回る。上半身のみが背後を向いた。

 グラン二号の単眼モノアイが怪しく光る。民兵たちは一斉に逃げだした。

『皆を守らないといけないから、仕方ないよね』

 外部スピーカー越しに、日向ひなたの声が響く。グラン二号は左手を彼らに向けた。

 ひじを起点に、半円を描いて〔グレネード〕が起き上がる。そして……外部スピーカーから上ずった声が漏れた。

『だから私はっ、何も、悪くない☆』

 民兵らの足元が吹き飛ばされる。甲板の破片ごと五人は海へ投げ出された。



 中央右列・ちくかん──後部甲板。

 ここは日向がいる船とは対角線上にある駆逐艦である。げつも異変には気付いていた。グラン三号を起動させ、早々にトンズラしてしまおうと考える。

 バイク型のコックピット──月下の防護服はメインカラーが緑である。月下は嫌そうに右目を細める。自分の義手を見た。

「これ……なんか気持ち悪ぃんだよなー」

 月下の左前方には〔機械穴〕がある。コレの中に義手を挿入しないとグラン三号は動かないのだ。月下は覚悟を決める。「ええい!」と義手を突っ込んだ。

 義手を入れた途端、かにが、ハサミを挟むように穴が閉じる。

「痛ってえええええええええええええ!」

 左腕から神経を直接刺すような痛みが走った。だが痛みがむと……。

…………あれ? なんだこれ。ある? あるぞ、指っ!」

 感じたのは失ったはずの五指の感覚──グラン三号の牙が光る。

 これは牙のデザインをしたカメラだ。グラン三号は現在、身体からだを丸めるようなポーズで荷台につながれている。外部スピーカーから月下の声が流れた。

『基本はせんそう規格に準拠……いけるか』

 固定用ワイヤーを引き千切る。鋼鉄の人獣がのそりと起き上がった。

『やべ!』

 甲板にテロリストの乗る戦騎装が集まってきた。全部で三機だ。

 ドラム缶に手足を生やしたような戦騎装──中国第三世代サードシーズンの主力戦騎装【猛虎モンフー】だった。大部分は飛鳥あすかの電磁パルスでつぶしたが、それでも難を逃れた機体があったのだ。

 グラン三号が後ろ脚を曲げ縮め……

『あば……よっ、うわあぁっああああぁあ』──トレーラーの荷台がぶっ壊された。

 グラン三号が垂直に跳び上がる。猛スピードで上空を突き進んだ。

 コックピットの中でげつは、ぼうの境地にとらわれる。

「雲? 雨だ……」

 モニターには曇天の空があった。高速で横切っていく景色が次第に緩慢になる。

 今度はコックピットモニターに海と艦隊が広がった。これはグラン三号が上空で自由落下に転じたからだ。

「今、こいつ何した? 跳んだのか? いや、そうじゃない。知らない光景だった。知らない体感、スピード……スピードっ!」

 月下の右目が思い切りひろげられる。喜びに涙がにじむ。その口元が緩んだ。

 月下は防護服のポケットからヘアピンを取る。左目を隠す前髪を乱暴に上げた。

 落下の最中、月下のりようが狂喜に打ち震える。


『こいつ……速ぇええええええええええええ!』──グラン三号が甲板に着地する。


 船体が大きく傾いた。波がシャワーになって甲板をらす。

 グラン三号の巨大タイヤロードホイールが急回転──グラン三号が甲板の上を滑り始める。猛虎モンフーが三機、マシンガンを発射した。

 グラン三号はゴリラのような両腕で顔をブロック──音を立てて銃弾が弾かれた。

『ハハ! お前、止まらないのかっ! いいな! 男の子だっ!』

 グラン三号はそのままのかつこうで加速……前方の猛虎モンフーに体当たりをした。

 まるでダンプカーだ。回転しながら猛虎モンフーが跳ね飛ばされる。手すりを突き破って、猛虎モンフーは海へと落ちていった。

 滑走中のグラン三号が転ぶように右腕を擦りつける。

 右腕──内蔵されたコーナータイヤ──が水を切った。グラン三号は雨で濡れた甲板の上で華麗なコーナーリングを決める。グラン三号が転進した。

『これも知らないっ! これもカッコイイ!』

 二機の猛虎モンフーちやちやに銃を撃つ。それをグラン三号は、右へ左へと跳躍して回避。二秒でその内の一機に肉薄した。

『お前分かるんだなっ! 私がどう走りたいか! どんなふうに跳びたいか!』

 グランの左爪が猛虎モンフーの胸部装甲を貫く。猛虎の背中からグランの左腕が飛び出した。猛虎モンフーを腕に付けたまま、グラン三号は猿みたいに跳び上がる。

 空中で力任せに左腕を振る……猛虎モンフーが飛ばされた。

 かんきよう操舵室ブリツジと、猛虎モンフーが激突する。艦橋は円形に陥没した。

 グラン三号は艦砲台を踏みつぶして、また跳び上がる。隣の空母へ飛び移った。


 電磁パルスで機動停止に陥った空母──その甲板にグラン三号は降り立つ。

 今度は広大な滑走路甲板が広がった。

「さぁ、これはどうだ!」

 げつがギアチェンジをするように右横のレバーをいじる──グラン三号が四つんいになる。バギー走行に切り変わった。グラン三号が雨水をき上げて急発進する。

 猛虎モンフーが七機現れた。四方からグラン三号へ向かってくる。

 走るグラン三号が上半身を上げた。両腕を水平に広げる。

『邪魔っ!』

 両爪が水平に躍る……重さ・遠心力が加えられた獣撃だった。

 猛虎ドラム缶が二機、二つに折られて吹っ飛ばされる。グラン三号は減速せずに滑走に転じた。

 滑走路甲板に整列する戦闘機──その一機をグラン三号がつかみ上げる。

『ほーらっ!』

 グラン三号が戦闘機をほうり投げた。猛虎モンフーの右半身を戦闘機がつぶす。すかさずグラン三号が体当たりをぶちかます。戦闘機ごと猛虎モンフーがプレスされた。

 他の四機がグラン三号を追いかける。しかしスピードの次元が違う。

 グラン三号がまた走り出す。三秒でその距離が数十メートル以上広がった。

『遅ぇ! 遅ぇ! エンジンが燃え尽きるまで噴かしてみな! じゃなきゃっ──』

 グラン三号が反転、四つ足で跳躍した。一機の猛虎モンフーが押し倒される。その背中が甲板を削った。飛び掛かったひようのように、グラン三号は猛虎モンフーを押さえ付ける。


『この月下さまは捕まんねーぞ!』──そのまま猛虎モンフーを押し潰す。


『ひょっとぉっ!』

 グラン三号がまた跳び上がる。空中で縦に回る。回転しながら両爪を振り下ろす。

 猛虎モンフーが頭頂部から縦に潰される。グラン三号は潰した敵機の股ぐらに右手を突き入れる。横にいるもう一機に、そのざんがいをぶん投げた。

 最後の一機が銃を撃ちながらグラン三号に突撃する。グラン三号は右へ、左へと回避した。氷の上を滑るような柔らかい動きだ。途中、途中で両腕をたたきつけて音を鳴らした。

『こっちこっちぃ!』

 グラン三号が踊るように走る。鋼鉄のゴリラを追って猛虎モンフーが加速を求めた。加速し、追いつきそうになって、また引き離され……それを広大な滑走路で繰り返す。

 しばらくしてから月下の声が上がった。

『あーあ。ごしゆうしよう様……』

 追いかける猛虎モンフーの両ひざは火花を上げていた。足下の巨大タイヤロードホイール火の車になっている……既に機体限界を迎えていたのだ。

 猛虎モンフーの全身が内側から燃え出す。猛虎モンフーは自壊し、そのまま海へ飛び込んでいった。

 グラン三号は十分な加速を付け、かんきようを豹のように飛び越えた。

 交差しざま──グラン三号の背中が縦に割れる。携行地雷が五つ放られた。

 空母の船橋を爆発の炎が覆い隠す。

 コックピットにいるげつは、遊園地ではしゃぐ子供のように興奮しっ放しだった。

「ぶつかるか、殴るしかないって、せんそうっていえるか!? 本当に走るしか能がないのな! そうか! 不器用なやつはお姉さん好きだぞ!」

 目まぐるしく変わる景色──月下はその加速世界を楽しんでいた。

 一秒を間違えれば大事故に成りかねない世界で……月下は飛鳥あすかとのやり取りを思い起こしていた──


    *****


 それは初めて月下が、グラン三号に乗った時の事だ。

 コックピットモニターに表示される機体情報を見て、月下はつぶやく。

「……鬼灯ほおずきより速いって、本当だったのか」

 モニター横に表示されるのは飛鳥だ。飛鳥は映像通信で月下に言った。

「でしょ♪ 鬼灯ちゃんは〔スピード〕と同じくらい〔パワー〕も求めた欲張り設計だからねー。『戦術機動はやりたい』けど『武器もいっぱい持たせたい』『殴り合っても押し負けたくない』って設計。その結果、機動に一切の遊びがなくなっちゃたんだよ。これがあの機体を暴れ馬にさせちゃう一番の要因。『ちょっとアクセル踏んだだけで二〇〇キロ出るスポーツカー』。『中パンチと中キックの無い格ゲーキャラ』って言えばイメージ付く? そう……鬼灯ちゃんは動きに繊細さがまるで無いんだ」

 月下は内心で同意する。映像の飛鳥は、まるで見透かしたような目になった。

「だからあおいちんとは相性が良くて、月下ちんとは相性が悪い……。葵ちんの操縦はアレ、思考を挟んでないからね~。ほぼ、条件反射で最善手を選び抜いてる。しかも、何十手先を読んだみたいに間違えないときもんだ……葵ちんは分かんね。もうエイリアン。対して月下ちんは機動をイメージする。でも月下ちんの思い描く機動を鬼灯は再現できない。だからイメージにズレが生じて、リズムのズレにつながる……結果、機体に振り回される」

 月下は右目で飛鳥をにらみつける。

ぼくから言わせれば当然なんだけどねー。人型である以上の限界なんだ。人間は走るしかしない生き物じゃないんだから」

 画面向こうで飛鳥が指さす──左目を隠す、月下の前髪を。

「月下ちんのその前髪。現役時代からず~っとそうだよね? コレってとんでもないハンデとリスクになるんだけど……遠近感を狂わしても、視界を半分ふさいでも、誰一人、月下ちんを抜く事はできなかった……すごいなぁ。でも何でそんなことしてたのかなぁ。不思議だなぁ」

 飛鳥は「にゅふふ」と意地悪く笑った。

げつちん、退屈だったんしょ? 何に乗っても、満足なんて出来なかったんだ」──


    *****


「ああそう! 退屈だった! 何に乗っても! 誰が敵でも!」

 グラン三号のコックピットで月下はえた。

「私の周りだけ時間が止まってんじゃないかって疑う時がある! 私の描いた世界が見えない! 見覚えのある、見た事あるモンばっか! 退屈過ぎてババアになる夢も見た! でもアイツがいたから『まぁいいか』ってなれた! 慕って付いて来るモンがいたから『しゃんとしないと』ってなれた! 夢なんて持てない私の代わりに、アイツや子分たちがたくさん夢を見てくれたっ! それを近くから見てるのが心地よかったんだ!」

 月下は再びギアを変える。モードが〔猿立ち〕の電光表示に切り替わった──グラン三号が別のちくかんの甲板に跳び移る。

『だからずっと我慢してやったんだ! 最速の風!? 最強の鬼!? 素人童貞に、ベッドマナー最低の早漏ヤローだろっ!』

 グラン三号が爆走……その右爪を振り上げ、一気に跳躍した。

『そんなんでイケる────っ、無ぇだろ!』

 グラン三号の右爪がかんきように突き刺さる。

 グラン三号が腕を引き抜くと、鋼鉄の上腕には赤い血が付着していた。

 モニター越しにそれを見るげつ──にもかけず、とろけるような声を漏らした。

「でも、グラン三号アンタは違う……もう私はメロメロでビショビショさ」

 もう月下に逃げるなんて選択肢はない。どう走るか、どう飛翔ぶか。

 月下はとにかく、この機体と戦場を駆け回りたかった。



 そんなグラン三号を日向ひなたがサイトスコープ内に納める。グラン三号にターゲットカーソルが現れては消えていた。

 ──あら、いけない。

 日向はつい、昔の癖で月下を追いかけてしまっていた。グラン三号を照準から外す。これは別に月下を後ろから撃ち殺したいからではない。

 月下を視界に納めていれば、より多くの敵を殺せるからだ

 月下が派手に暴れ回っていた時間───その間、日向がやっていたのは環境整備だ。敵を思う存分、撃ち殺す為の。

 日向がいるのはちくかんの前部甲板である。艦砲が一門と、かんきよう──高所に設けられた指揮所──が見える場所にいる。現在、艦砲は折られ、艦橋は炎上していた。

 パルスで動きが止まったのは分かっていたが、日向は真っ先にその二つを破壊する。

 後ろから撃たれたり、通信設備が生きていて、助けを呼ばれても面倒だからだ。

 次に様々な銃器をグラン二号にマウントさせる。最後は空になったトレーラーを吹っ飛ばす。荷台ごと海へと沈めた。

 甲板に残ったのは過剰武装したせんそうが一機だけ──

 グラン二号のいでちは、武蔵むさし坊弁慶さながらだ。四種類の銃火器を両肩・両すねにつける。

 両腕には常備の火炎放射機とグレネードだ。

 日向は最初、二つ折りの特大カノン砲をグラン二号に拾わせた。



 中央後列・巡洋艦──この船は艦隊の最後尾にいる船である。

 外周で難を逃れた唐紅軍タンホンジユン艦隊はいまだに状況をつかめずにいた。

 突如、鳴りだした破壊音──跳び回る機影──船団中央で起こっている騒ぎ──

 でも彼らの一番の問題は、直前で動きを止めた駆逐艦についてである。

「誰が止めろなんていった! 船団が乱れる! 早く進ませろ!」

 甲板でわめく民兵。同じく放送では、前方の船に『前進しろ』と勧告が発せられていた。

 そんな時だ。不意に……誰も意図しない形でそれは襲ってくる。

 特大ハンマーで、船体をぶったたかれたかのような衝撃。船体が大きく傾いた。

 甲板にいた民士はさくにしがみつく。転倒を防いで、民兵はそれを見た。

「穴?」

 船体のどてっ腹には〔巨大な穴〕が開いていた。次の瞬間──


 大爆発──巡洋艦が、内部かられんの炎を吐き散らした。


 その一キロ先……甲板で片ひざを付くグラン二号。両かかとくい型スパイクが甲板に深々と刺さっている。右手に構えられているのは一四四ミリ・スナイパーライフルだった。

 コックピットでは日向ひなたやつきようくわえていた。

「ぷっ!」

 日向が薬莢を吐き出す。これは閃光の八ライトニング・エイト独自の射撃儀式である。日向は、めらめら燃える炎をモニター越しに眺めた。

すごっ、機関部を狙えば巡洋艦クラスでも一発なんて! 初めて撃つけど癖になるかも……ただ、あと一発しか残ってないのが残念、っと──」

 日向は横にある右レバーを引く──グラン二号が砲身のレバーを引いた。

 砲身横からドラム缶のような薬莢が跳び出す。アスファルトを割って薬莢が転がった。

 車両大のシリンダー──弾が込められているユニット──が、げきてつ音を鳴らして半回転する。たくましい重音が鳴った。

 次弾が、大口径・長距離カノン砲にそうてんされたのだ。グラン二号はすかさず銃を構える。

 ぜる砲口──大反動がグラン二号と船を揺らす。

 直後、五〇〇メートル先のちくかんの腹に大穴があいた。大爆発が起こる。

 海上にもう一せき分の炎の花が咲いた。

 グラン二号は落とすように一四四ミリ・スナイパーライフルをてる。代わりに一四四ミリよりもずっと小さい、九五ミリ・カノン砲を拾う。グラン二号はそれを右腕に下げた。

 コックピットの日向は、炎上する二そうを眺める。その顔は、かつて誰も見た事がないような表情になっていた。

 両手をほおに添える日向──目はとろんと垂れ、顔は上気しきっていた。

「こうやって私が撃たないと皆が殺されちゃうから。だから私は……壊していいっ」

 日向の表情は、恋に恋する乙女のソレだった。

 そんな乙女が悩むのは次にどんな銃を使うか。どう壊すかだ。

 六二ミリグレネードで、甲板をひしめく民兵たちをハンバーグにするか。

 五一ミリスナイパーライフルで、かんきようを狙撃してクルーを肉片に変えてしまうか。

 九五ミリカノン砲で船体に穴を空け、中にいる船員を爆発であぶり殺してしまうか。

 四九ミリヘビーマシンガンで、人の居そうなところを無差別に撃ちまくるか。

 燃えひろがる光景が好きだ。形ある物が吹き飛ぶ様に心を奪われる。誰もが強いと認識している存在を、安全圏でゴミみたいに壊すことが────

「私は狂おしいほど……愛している!」

 求められる戦果──人目のない戦場──絶好の狙撃ロケーション──

 単一戦術として好きに動けるこの状況が……日向ひなたの〔タガ〕を外した。

「第三射♪」

 日向はダッシュボードからやつきようを取りだす。ガチリと歯にくわえた。

 サイトスコープをのぞきこむ。ターゲットカーソルが隣のちくかんとらえた。

 日向はトリガーを引き絞る────サイト内の駆逐艦のかんきよう無くなった

「ぷっ! キャハっ」

 日向は薬莢を吐く。きようせいを上げた。日向は第四、第五の薬莢に手を伸ばす。

 壊そうとすると足が震えるほど興奮して、壊せると青々とした爽快感が広がる。

 日向は、獲物をスコープに納め続ける。照準を合わせた先から、トリガーを絞り続けた。

 合わせてグラン二号も、銃を変え、弾を変え……次々と破壊を吐き散らす。

 ──ヘビーマシンガンの重い銃声が木霊こだまする。──グレネード弾が猛虎モンフーの上半身を吹き飛ばした。──火炎放射器から炎の龍が噴き出される。

 目まぐるしく、グラン二号の単眼モノアイが動く。次の標的を探し続けて。

 巨大なももと、胸の装甲板は砲熱で赤くなっていた。これは休むことなく日向が銃を撃ち続けるからだ。火花のシャワーをその身に浴び、カノン砲に弾を込める。

 グラン二号は火薬庫だ──閃光の八ライトニング・エイトが銃を撃つ為だけに存在する。こんなイカレタ姿を誰かに見られたら……頭の片隅で、日向はそんな心配をした。

 でも、糸目の彼を思い出す。するとそんな心配、すぐに消えた。

 ──その時は……あの人にもらってもらお♪

 責任を取ってもらえばいい……こんな自分を〔ヒーロー〕と肯定してしまったたちばなじゆうに。

 日向は心底から、そう思った。


 水上を滑る二六機────機兵部のしつぷう鬼灯ほおずきである。

 疾風は水上バイクのように海面を滑っていた。全機、装備である。バズーカ砲や、魚雷、ミサイルポットを付ける。打撃力を優先した水上戦仕様となっていた。

 陸上戦しかできない鬼灯は自動高速艇サーフボードに乗る。

『オーガゼロより各機! から情報は行ってるね! このクソッタレ共は聖戦とか抜かして、体制側の人間なら、民間人だろうが容赦なく殺しまわるアホ革命軍だ! 女なら所構わずごうかんするってさ! 迷う必要なんてない! 全員ぶっ殺しちまいな!』

 彼らは遠目で戦闘を確認していた。

 爆発音や砲声が鳴り響く。時折、機影らしきものが宙を跳んでいた。

『日向と姉御、もう始めてる! オーガゼロ、このまま先行する! 皆は、日向と合流してから手はず通りに!』

 鬼灯の自動高速艇サーフボードが速度を上げる。荒波をばして鬼灯が大破した二せきを追い越した。赤く燃え始めた海上を進んで行く。

 慌ててその後を、青いしつぷうが追い掛ける。このアイカメラの疾風はだいの機体だ。

『馬鹿! おれとこいつが本命だろ! 護衛がいなくなってどうすんだ!』

 フットボールを抱えるように、大地機が救命ポットを運ぶ。この中にはセレンが入り込んでいる。大地機はスピードを上げて鬼灯ほおずきの後を追った。

 他の二四機も、四機編成で六班に分かれる────


 左後列・ちくかん──船倉格納庫。

 船倉の入り口が吹き飛ばされている。横たわるように破壊されているのは四機の猛虎モンフーだ。格納庫内は既に火の海となっていた。

 鬼灯の右足が、一機の猛虎モンフーを壁に縫いつける。猛虎モンフーがマシンガンを向けようとした。鬼灯が太刀を無造作にぐ。マシンガンの銃身が半分にられた。

『いろんなモンすっ飛ばして可哀かわいそうになるわ』

 左手のクロガネを真横にぶっ放す。突進してきた猛虎モンフーが景気良く爆砕した。

『アンタら、この島で一番ケンカを売っちゃいけない十人にケンカを売ったんだ……今は十人だけどね』

 みしみしと鬼灯の右足が敵機──その胸元にあるコックピット──をつぶしていく。

 外部スピーカーを通して、男の悲鳴が上がり続けた。

マリスアイツらならまぁ分かる。土も人も、間違って食っちまう脳無しだからね……まだ落とし所はある』

 周囲の炎が揺らめく。鬼灯の面が赤く照らされた。

『でもテメーら何? 算数できんでしょ? 一と一〇〇、どっちが大きいか分かるよねぇ!? どうしてケンカ売ってくるかなー』

 ──金属が金属を潰す音。──ボリュームアップした男の悲鳴。

 それらをあおいえた。

『アンタらが踏んだのは犬っころの尻尾しつぽじゃなくておおかみの尻尾だっ! それもデカくて、いつも腹をすかしてる凶暴なやつのね!』

 鬼灯の右足が一気に沈む。猛虎モンフーの上半身が潰れて爆発した。


 一方──旗艦のかんきよう通路からエイルンと大和やまとが外を眺める。海は真っ赤に燃えていた。

 三国志に例えるなら【せきへきの闘い】状態だ。味方のふんじんぶりに二人は閉口する。

「……激しいな」

「おう。どっちが悪者なのか分からなくなるくらいには一方的だ」

 エイルンに大和がこたえる。その手にはアタッシュケースが持たれていた。

 大和はその場でしゃがむ。腰のポシェットから鉄製の箱を取り出した。文庫本程の大きさである。

「それは?」

「予備の携帯だ。手持ちのはさっきのEMPでっちまったからな。なんたって数少ない交渉道具だ。万全を期したつもりだったが……頼むぞアマゾ○二七〇〇〇円っ」

 その鉄箱は、電磁波等から電子機器を守るという触れ込みの小物入れだった。

 大和やまとは箱を開ける。中から携帯を取り出した。携帯電話の作動を試みる。

………………よしっ。むろも通信手段は持っていたな? 今のうちに目立つ所に。この分ならすぐに迎えがくるだろ」

 エイルンは顔を曇らせて「君は?」と聞く。大和はアタッシュケースを見せた。

「まだ懸念要素が残っている。それをつぶしにな。二手に分かれた方が追手もまきやすいだろ。何かあったら互いに連絡を」

 エイルンはうなずく。二人は別方向へ走り出した。



 今回のあかねの作戦はこうだ──電磁パルスで敵の半数を無力化にし、グラン二号・三号で開幕打撃を食らわせる。後追いのしつぷう鬼灯ほおずきようどうも兼ねて、派手に破壊工作を開始する。

 敵の目が強襲部隊に向かっている間に本命を搔っ攫う

『チビスケぇ! 用意はいいかぁ!』

 海上を走るだい機──胸の前で救命ポットを掲げた。

 救命ポットがパカと開く。中からパイロットスーツ姿のセレンが現れた。横殴りの雨と向かってくる突風に、セレンは長い髪をさらわれる。前方からのすごい風に、一瞬目を閉じた。

「うん!」

 セレンは黄金の髪を耳後ろにかける。それから両手を口に添えた。


「クーっ! ローっ!」──まるでペッドでも呼ぶように……自分の半身を呼び起こす。


 中央次列・空母──飛行甲板。

 艦載機の滑走場である飛行甲板に、デストブルムのハンガーは置かれていた。

 じよ帽子の下──デストブルムのアイカメラ──がパールに光った。


「いた!」

 セレンが遠目でデストブルムを見つける。大地が『ひっ!』と声を上げた。

 デストブルムは空母の甲板で暴れ始めていた。

 デストブルムは高度を上げ……体当たり──空母がVの字に割れた。

 そんなデストブルムに向け、周りの船が砲撃を始める。付近の海面に水柱が上がった。

「クロ! お仕置き!」

 セレンは砲撃を始めた艦船を指さす。するとデストブルムが空母のれき──割れた航空甲板──を二つ、持ち上げる。トン単位の鉄鋼せんべいだ。

『まさか──』

 しつぷうの外部スピーカーからだいおののきが漏れる。

 それを一個、二個とデストブルムがほうり投げた。れきはゆっくりと放物線を描いて敵艦に落ちて行く。一せき、二隻と敵戦艦が水柱を上げて海のくずとなる。

 その後、デストブルムはしよう……大波を起こして大地機の前に降り立った。

 疾風との全長差は二倍以上ある。あまりの迫力に大地は敬語になった。

『ウッス。いつもお世話になります!』

 デストブルムは『うむ』とでも言うように、頭部ユニットを下げる。

 大地機は差し出すように救命ポットを上に……セレンがうれしそうに万歳した。

「クロ!」

 デストブルムがつるをセレンに伸ばす。セレンはデストブルムのコクピットに入った。

 三六〇度がモニター画面となる。中央には大きな水晶ユニットとコックピットシートだ。

 デストブルムのコックピットに入るや、セレンはシートに飛び乗った。シートからベルトが延びてセレンの身体からだを固定する。

「クロ! なつどこにいる?」

 セレンはデストブルムに聞く。デストブルムは一秒でその位置を解析した。三六〇度モニタ──一隻の船が何度かに分けて拡大される。船橋の通路に彼の姿を見た。

「夏樹!」

 セレンに笑顔の花が咲く。



 かんきよう通路をエイルンが走り抜ける。既に大量の追手がエイルンを追いかけ始めていた。

 武器はなく、多勢に無勢だ。エイルンは不要な戦闘は避け、とにかく逃げ回っていた。前後──廊下の端──から、小銃を下げた民兵たちが一〇人以上で押し寄せた。

「くっ!」

 エイルンは腹を決めて格闘戦に転じようとしたが。

『夏樹! とんで!』──突如、セレンの声が響いた。

 エイルンは迷わず横の窓ガラスをぶち破る。そのままあらしの海へ飛び出した。

 エイルンの腹に鋼鉄の蔓が巻き付く。エイルンが首を横に向けた。

「セレン!」

 飛翔するデストブルムがエイルンを捕えていた。デストブルムは胸元にエイルンを寄せる。コックピットのハッチが開く。デストブルムは中にエイルンを放りこんだ。

「とっ! ぶふ!」──エイルンはセレンの爆乳に顔をうずめる。

「クロ! 逃行!」

 セレンはエイルンの頭をそのまま抱く。デストブルムは二人を連れてむろじゆくを目指す。


 遠くなるデストブルム──その背を見るのはブリッジにいるリーたちだ。

ショワンウーはどこだ! いったい何をやっている! どうして援護に入らないっ!」

 片腕になった敵首領はそばのオペレーターにつかみかかった。

「それがこちらの通信に出ずっ!」

 リーはそのオペレーターを殴り飛ばす。八つ当たりにもう一発、二発と。返り血が散って、折れた歯が舞った。リーの顔は、興奮したブルドッグのようになっていた。

アレだ! もうアレを出させろ! 全機だ!」

 つばを飛ばして他の部下に命令する。近くにいた部下が聞き返した。

「しかし! あれは来るべき聖戦のため──ぐほっ!」

 その部下もリーは殴り飛ばす。顔を真っ赤にして怒鳴った。

「ここで我々が負けることが聖王さまへの不義だ! そんな事も分からんのかこの馬鹿チンがぁっ!」

 この後すぐ、旗艦から赤と緑の信号弾が打ち上げられる。

 艦隊外周にいた巡洋艦一せきと四隻のちくかん──その甲板ハッチが開放された。

 甲板内部が露出する。下からリフトが上がってきた。リフトに乗せられているのは新品のせんそうだ。断続音を鳴らし、次々とリフトが甲板に到達した。


 雨空の下、〔鋼鉄の狩人かりうど〕たちがその姿をさらす。


 敵の混乱は今、ピークに達している。機兵部にはそれが肌で伝わっていた。

 停止船は、動ける猛虎モンフーを引っ張り出して、甲板から威力射撃をするだけである。動ける艦船は、味方に当たらない様に配慮しながら敵を狙い撃たなければならない。

 先ほどから砲弾は、明後日の方角を撃っていた。

 船影に隠れながら進み、まだ生きている船を狙い打つ。一方的な試合展開と言えた。

 海上を滑走するしつぷう四機──水上バイクのように波飛沫しぶきを上げている。

 ゴーグルをかけたような頭部。グレーのカラーリングは一般部員の機体だ。

『え?』『っ!』『は?』『ちょ!』

 全員のコックピットに警報音が鳴った。

 突如、空から鉛の雨が降り注いだ。一機の股間から足元を貫く。背中からパイロットブロックが射出される。次の瞬間、その疾風は爆砕した。

りんっ! なんっ──』

『馬鹿、来てる!』

 更にもう一機のアイゴーグルが撃ち貫かれる。上空からの銃弾だった。すぐさまパイロットブロックが射出される。一拍置いて、胸部装甲にも十発のだんこんが刻まれて爆砕した。

 生き残った二機が左右に散開する。

『聞いてないっ! こんな!』

 一機が上を向く。もう一機から女子生徒の叫び声が上がった。

『だ! 脱出っ!』

 二機の頭上──白煙の軌跡を作ってロケットミサイルが降ってくる。

 更に二つ、パイロットブロックが射出……二機のしつぷうが爆発と共に砕け散った。



 せいかいは、セレンから作戦成功──エイルンとデストブルムの奪還──の報告を受けていた。戦勝ムードが漂い始める中、司令管制室に不穏な知らせが届く。

「バックス2班、音信途絶!」

「バックス5班もです! これで合計八機、戦闘不能です!」

 なかと女子役員が報告した。正面モニターの映像が切り替わる。

 雨を引き裂いて高速しようするせんそう──全部で一四機だ。

 流線形のシャープなデザイン。背中にジェット機の翼を付ける。片手にマシンガン、両脚にはミサイルポットを装着していた。が報告する。

「司令! 識別が取れました。USAFの開発した【イェーガー】です!」

「先月出たばかりの最新型じゃないか……どうしてあんなもんまで」

 らいちようが司令席からわずかに身を乗り出す。

 E-101【イェーガー】──米国空軍が主導開発した、空中戦を得意とする最新の戦騎装である。もともとは首都防衛を目的として開発された機体だった。田中が紫貴に言う。

「これ! 水上戦仕様の疾風じゃ勝ち目なんてありませんよ!」

 開発コンセプトというのは、その用途・性能に大きく影響する。

 例えば【疾風】──この機体は〔マリスから逃げ回ること〕に主眼を置かれて作られた機体だ。陸上戦、更には悪路にも対応した野戦仕様がベースとなる。

 燃費の良さ、滑らかな戦術機動を売りとする。陸を走らせたら、間違いなく世界でもトップランクに食い込む。だが、水上戦においては、その長所がつぶされる事を意味するのだ。

 あかねがイェーガーのデータを読みながら言う。

「これって、まだニューヨークにしか配備されていないみたいです! なんで中国のやつらがこんなの持ってるの!?

 対するこの【イェーガー】は対人戦に主眼を置く。

 高層ビルの谷間を潜り抜け、敵を駆逐するために作られたような機体だ。

 空を自在に飛び回り、敵を追い詰める様から、狩人イエーガーと名付けられる。

 雷鳥は舌打ちした。即座に命令を下す。

「ガキ共を下がらせな! 相性が悪すぎる! 自衛隊に空戦装備で出撃を要請! 出せる戦闘機はみんな向かわせな! ヘキサには絶対、被害を出すんじゃないよ!」

 生途会はすぐ、自衛隊に救援を要請した。



 甲板に立つ、グレーのしつぷう四機──グラン二号と背中合わせに立つ。

 この疾風は、元四番隊の部員たちの機体だ。先ほど日向ひなたと合流したばかりである。彼女たちは、味方の支援砲撃に回っていた。日向がオープンチャンネルで言う。

『みんな。少しの間だけ、任せていい?』

『『はい!』』『任せて下さい!』

 部下の到着で、日向は部隊長としての顔に切り替わっている。

 敵戦力の洗い出しを行い……新たな敵影を察知した。

 日向は解析を済ますと顔をこわらせた。急いであおいげつに通信をつなぐ。

「葵ちゃん! いつはしさん! 緊急事態です!」

 葵と月下の顔がモニター右に表示される。

「敵が空戦装備の機体を投入してきました!」

 月下がりようを鋭くした。葵もまゆを曇らせる。

「米軍の最新鋭です! 今の疾風に勝ち目なんてありません! 皆、このままだと鴨狩りダツクハントにあいます!」

 即座に月下が通信を切る。モニター内にいたグラン三号が、別方向へと跳んで行った。

 モニター内の葵が焦りを見せる。

『この機体、そんなに強いのかよ!』

「グランのデータベースに載ってました。米軍の新型です。水上戦仕様の疾風じゃ相性が悪すぎる! 地の利もなければ、疾風十八番おはこの高機動回避も使えない! 私たちで優先して撃墜を! このままだと死人が出ます」

『ッ!? 分かった!』

 葵が顔を引き締める。すぐに通信を切った。

「ワンサイドゲームはおしまいか」

 日向は愛用の五一ミリスナイパーライフル【スレイコンドル】をグラン二号に持たせた。



 雨を切って戦闘機が滑空する。編隊飛行する五機が、戦場海域へ向かっていた。

 下方から三本のロケットミサイルが打ち上げられる。五機の戦闘機が一機に上空へ角度を変えた。

 ミサイルも進行方向を変える。ミサイルは戦闘機を追っていた。


『ホーミング弾──』──着弾。曇天の下、一機が爆砕した。


 更に二本のミサイルが、もう二機を撃ち落とす。

 運よく当たらなかった二機──その背後に猛スピードで二機のイェーガーが迫る。

『『うわぁああぁあぁ!』』

 戦闘機の両翼と外装に穴が開く。何十発も。逃げた一機が火ダルマになって爆砕する。

 最後の戦闘機に銃を向けようとした時──

 イェーガーのこめかみを銃弾がぶち抜く。背部スラスターにも二発のだんこんが刻まれた。

 航行能力を失い、イェーガーが墜落する。残った一機がすぐ下を向いた。


 発射地点は一八〇〇メートル先……ちくかんの甲板から撃たれた物だった。


「ぷっ!」

 コックピットで日向ひなたやつきようを吐く。サイトスコープ内では、イェーガーがこちらに向かってきていた。日向はすぐ別の薬きょうに手を伸ばす。

「偉そうにして!」

 薬莢をガチリとみ締める。サイト内のイェーガーが乱機動を取った。不意にそのふくらはぎから赤外線ホーミングの誘導ミサイルが撃ち出される。

「まふっ!?

 薬莢をくわえたまま、日向は目をひろげる。左横のボタンをたたき押した──

 グラン二号の左肩から炎玉が打ち出される。何十本もの白い煙が上がった。フレアというデコイの一種だ。

 ホーミングミサイルが向きを変える。明後日の方角で爆発が起こった。

 黒煙を潜ってイェーガーが迫る。日向たちの甲板へ向かっていた。

 グラン二号が改めてスナイパーライフルを構え直す。だが、それよりも速く大きな影が上空に飛び上がった。

『手間かけさせんな! 四番隊!』

 空中のイェーガーをグラン三号が殴り飛ばす。

 イェーガーが炎上する駆逐艦へと落下していく。グラン三号は背中を見せたまま隣の船へ飛び移った。コックピットの中の日向は憎々しげに漏らす。

「ありがとうございましたっ!」



 旗艦の船倉格納庫には大和やまとの姿があった。

「はーい。手を上げて。じゃないとお兄さんぶっ放しちゃうよー」

 大和は広東カントン語で警告する。けんじゆうで天井を何発も撃った。格納庫にいた民兵たちが手を上げる。大和はざっと格納庫内を見渡した。

 いるのは自分と同じくらいの同年代程の子供ばかりだ。おそらくは民兵としてされ、強制労働を強いられているのだろうと、大和は思った。

 格納庫内はカビ臭い。鋼材はびて茶ばんでいた。幾つかのコンテナが重なって壁際に積載されている。小汚い空間で、せんそうハンガーだけは新品だった。

 六基のハンガー──一機だけ、出撃せずに残っている。

 それは現在、戦場で猛威を振るっているあの【イェーガー】だった。

 大和やまとは口の端をり上げる。先ほど見つけたコンテナボックスの一つに視線を戻した。

 大和はおもむろに銃を捨てる。「交渉しよう」と、空いた右手でイェーガーとコンテナを指差した。

「コレにアレを付けてくれ……報酬はこれだ」

 大和は左手のアタッシュケースを無造作に開けた。バサバサと札束が落ちてくる。少年たちは札束に目がくぎ付けになった。

 この札束は、先ほどの船長室で大和が拝借してきたものである。

「お兄さん、ビジネスにはうるさいぞ。一番早いやつに、一番多く支払おう」

 大和が言う。少年たちは競争するようにイェーガーに向かった。



 雨が降りしきる。波も荒さを増していた。海面を切り裂き、一機のしつぷうが懸命に逃げる。

『や! や! や! めてっ!』

 疾風の足元を火線がよぎる……その背後には二機のイェーガーが迫っていた。

 二時と一〇時の方向からやまたけ機とオルソン機が滑走してくる。

『騎兵隊、参上じゃオラぁあ!』

『もえな! そのままフルスピードよ!』

 二機が、担いでいた空のミサイルポットをてる。ひざから戦騎装運用コンバットナイフ【バレルスライサー】を抜き放った。

 イェーガーが後方へ退く。女子部員の疾風を山武機とオルソン機が追い越した。

『二人ともちやだよ!』

 山武機とオルソン機がイェーガーに向かう。

 空中にいる二機のイェーガー目がけて……一気に跳び上がる。

『『ッ!?!?』』

 二人を強烈な違和感が襲う。二人の背筋が凍った。いつもの跳躍量の半分もない。

 装備の違いと水上という盲点……二人の経験不足が招いた失策に違いなかった。


 コックピットの中で二人は直感する──殺される、と。


 空中のイェーガー二機が、足のミサイルポットを発射する。

『そこのアホ×2っ!』

 オルソン機の下から火線が二つ伸びる。乱射したマシンガンの弾だった。

 弾は空中でミサイルをかすめ、誘爆を引き起こす。

 空に爆炎が広がる。水上をつんのめるようにオルソン機とやまたけ機が着水する。

『『だいぃ~っ!』』

 スイートビーを二丁抱えた大地機が海面を滑る。大地が二人の下までやってきていた。

『模擬実習でやったろ! 水上と陸上、全然違うって! ずらか──っ!』

 大地機が即座にブレーキをかける。巻き上げた波が空からの銃弾をみこむ。

 既にイェーガーは滑空を始めていた。狙いを大地機にシフトさせたのだ。

 スピーカー越しに民兵二人が笑う。広東カントン語で興奮しながら何かをしやべっていた。

 イェーガーが、大地機目がけてマシンガンを乱射する。その時だ。


『ぎゃははははははははははははっ!』──こうしようの中に混じる、別の哄笑


 スター小隊よりも民兵よりも先だ。一番遠くに逃げていた彼女がそれとらえていた。

「あれはぜったい……味方には見えないっ」

 女子部員のコックピットモニターに映るのは、四つ目の黒い悪魔だった。

『ん? 笑えよ。ご機嫌なんだろ?』

 イェーガーの背中に立ったのは、黒い翼を生やした【らいこう】だった。

 四つ目のアイカメラとしゃくれたあごたくましすぎる腕と足を付ける。両手に三五ミリ二丁銃【夜光虫】を持つ──その様相はまさに、雷と共に降ってきた一匹の悪魔だった。

 アギトの雷公は、他のしつぷうと違って空戦装備をオプションできる。その取り付け作業で、ここまで出撃が遅れてしまっていた。

『ゴングだ』

 右の夜光虫が火を噴く──イェーガーの背中がハチの巣にされた。

 この夜光虫は、カービン銃──取り回し重視のマシンガン──の銃身に、ブレードを付けた武器だ。遠近両用である。アギトが好んで使う、雷公の主兵装だった。

 バイク型のコックピットでアギトは薄く笑う。

 メインモニターの中で、残った一機がマシンガンをこちらに向ける。

 アギトがそうじゆうかんを引く──雷公が二丁剣銃を交差させた。

 イェーガーの両ひじから先がり飛ばされる。両腕のざんがいが宙を舞った。

『うわあぁあああああああ!』

 イェーガーが転身する。バーニアを噴出して逃げ出した。雷公は右の肩から二つ折りの銃身を伸ばす。それはカートリッジ式のレーザーガンだ。

 銃口のレンズが白く輝き……発射──白い光線がイェーガーの背中に照射された。

 イェーガーが発光に包まれる。装甲が徐々に融解していき、爆砕に至る。

 風にあおられて残骸が落ちて行く。

 雷公はレーザーガンを折りたたんで背中に収納する。

 警告音──敵機接近を知らせるアラームが、疾風と雷公のコックピットで鳴った。

 三人が急接近するソレに気付く。無論、アギトもだ。

 空中を鋭角に跳び回るせんそう──その軌道は雷撃を描く。

 同じイェーガーだった。だが、この機体は装備がまるで違う。

 両肩に旋回補助のターンブースター──バックパックの推進用ジェットが四基──両肩と胸部、両脚にミサイルポット──

 イェーガーの高機動爆撃装備メテオジヤケツト仕様だった。だいがスピーカー越しに言った。

『スター小隊離脱! いちたちと合流する! おれらがいても邪魔になるだけだ!」

 しつぷうの三機は即座に後退を始める。一方、空中でホバリングしていたらいこうが急発進した。

『遊ぼうか』

 雷公はそのイェーガーを真っ向から迎え撃つ。

 対するイェーガーは更に加速した。前腕からソードエッジを延ばす。

 雷公はその頭をかち割るように二丁剣銃を振り下ろした。

 けんげきの火花──イェーガーは雷公の夜光虫を双刃で防ぎきった。

 雷公の両腕がモーター音を鳴らす。一気にイェーガーの身体からだが空中で沈んだ。

 だがイェーガーはジェットを更に噴かす。パワーの差を、ジェットの推進力で埋めたのだ。イェーガーは鋭いシフト運動に切り替える。インファイトを挑んだのはイェーガーの方だった。双刃が踊り、舞う。二つのけんせんしつように雷公を襲う。

 雷公は半身でそれを受け止める。目にもとまらぬ速さで雷公の右腕がしなり続けた。関節のモーターが悲鳴を上げる。雷公は夜光虫・一本だけで双刃を防ぎきっていた。

 イェーガーは身体でぶつかりに行く。つばり合いが起こった。間合いをとっては、また激突する両機──一見すると力押しの攻防に見える。

 しかし、二機のソレは巧みな戦術機動のおうしゆうだった。

 メテオジャケットのイェーガーは、接近戦が度外視された高機動仕様だ。

 機動力が高すぎて、対象を懐にとらえるのが困難なのだ。でもこのイェーガーは、ターンブースターで無理やり機動を修正し、接近戦に転じている。

 一方、雷公もそのスピードにすべて反応している。巧みに混ぜられたフェイントも完全に見抜いていた。回避は全て紙一重……並の神経ではできない芸当だ。

 高速戦闘を繰り返す二機──徐々に船団中央へと押し出されていった。


 それと同時刻の話だ。

 四番隊が集まる甲板には、あおいたちが集結していた。

『ちっ……これで最後だ。姉御。弾、あとどんくらい残ってる?』

 鬼灯ほおずきがクロガネのリボルバーにりゆうだんそうてんする。隣にはグラン三号がゴリラ立ちをしていた。グラン三号の装甲は銃弾で所々がくぼんでいる。

『クレイモアが一回分。陰険ウサギ、オメーのグラン二号耳長は?』

 げつ日向ひなたに聞く。【陰険ウサギ】とは日向のあだ名だ。四番隊のコードネームには〔ラビット〕が用いられていたので、ウサギを文字って名付けられたのである。

『こっちもほとんど撃ち切ってしまいました。まぁ? 誰かさんよりも、ずっとお仕事をしていたので当たり前の事なんですけど』

 グラン二号が九五ミリカノン砲に弾を込める。グラン三号から『あん?』と威圧めいた声が上がった。グラン三号がグラン二号を見下ろす。

『ケンカ売ってんの? 貧乳』

『……胸の大きい人って、どうして粗野で頭の悪い人が多いんでしょうね』

 辺りに一触即発の空気が漂う。しかし空気の読めないあおいが笑った。

『ププ! そーだよ姉御。そんなんじゃお嫁にいけないよ』

 それを聞いた日向ひなた達の部下は幸せな人だなと思った。毒気を抜かれたのかグラン三号が視線を別に移す。すると三機に同じ通信が送られてきた。

『?』『っ!』『あ?』

 回線元は未登録。知らない機体からの通信だった。

『パーティの時間だ。指定するポイントに来てくれ……目いっぱいめかしこんでな

 なぞの通信主は、早々に通信を切った────

 一方、らいこうとメテオジャケットのイェーガーの空中戦は続いていた。

 イェーガーが空中で雷公を押さえ付ける。二機がもつれるように墜落していく。その最中、外部スピーカーから大音量で広東カントン語が流れた。


『現在、空戦タイプの戦機装と戦闘中! 空戦タイプはこいつだけだ! しかし手ごわい! 誰か! 援護を求む!』

 機兵部を追跡していたイェーガー三機が即座に転進する。


『間違いない! コイツが敵のトップエースだ! は後回しにしろ! こいつに攻撃を集中させてくれ!』

 同じく、他の五機が真っ先にアギトの方へ向かう。


 他のイェーガーが続々と集まってくる。

 雨を切り裂く、鋼鉄の狩人かりうどたちだ。合流しては空中で隊列を組み直す。

 じり状に編隊飛行する九機──メテオジャケットのイェーガーが雷公の下へ向かう。

 雷公が組みついていたイェーガーをばす。メテオジャケットのイェーガーが猛スピードで落下した。

 バトンタッチするように援軍の九機が雷公へ向かう。全機が、雷公を射程内に納めるか、納めないかのギリギリの距離で…………空一帯を強烈な白い光が覆った。


 それは落下するメテオジャケットのイェーガーが撃った〔せんこうだん〕だった。


『ラノベ主人公設定はもう廃業か?』

おれのはしたたかな計算と、確固たる信念に基づいてやってきたものだ』

 アギトの通信にこたえたのは、落下中のイェーガーのパイロットだ。

 イェーガーのコックピットには、ななおうぎ大和やまとの姿があった。

「だが、俺の真逆を行くやつに出会ってなっ! 表舞台に興味が出た!」

 大和がてんがい部のスイッチを弾く──大和のイェーガーの胸部・脚部・肩部のハッチが開く。弾頭群が顔をのぞかせた。

 せんこうだんの光が収まる……らいこうがイェーガー隊の背後を取っていた。他の演者たちも舞台に上がる。オープンチャンネルで続々と通信が入ってきた。

『丁度いいドレスが無かったから、私はこれかなー』

 雷公の四〇〇メートル下──グラン二号が九五ミリカノン砲を空に構えていた。

『レディーを誘うなら、次はもっとシャレた文句で頼む』

 雷公の横……背中を向けるかつこうで跳躍してきたのはグラン三号だ。そのグラン三号の右腕に抱えられるのは鬼灯ほおずきだった。

『こっちにだって選ぶ権利あるよねぇ、そうじゃない、姉御?』

 鬼灯がリボルバー式グレネード・クロガネを二丁、正面に。

『お前と同意見とは……あー、だから雨が降ってるのか』

 雷公が二つ折りのレーザーガンを伸ばす。それを脇に抱えた。

 同じくグラン三号の背中のハッチが全開した。

 下では、グラン二号が砲身のレバーを引く。

 そして最後に……コックピットにいる大和が残忍に笑った。


「オープン……ファイアッ」──イェーガーがミサイルを全弾発射する。


 グラン二号の九五ミリカノン砲が火を噴く。

 グラン三号の背中から、数千発分の散弾がさくれつする。

 鬼灯のクロガネが爆炎のうずを巻きあげた。

 雷公のレーザーが敵団を貫く。

 イェーガーのミサイルが、何十本もの線を描く……集約して一か所に。


 曇天に起こる大爆発──九機のイェーガーが、一個の巨大な炎にみこまれた。