Ⅶ 七扇大和
緊張が走る司令管制室内──大和の
「この
大和は一人一人に視線を渡す。
「飛び掛かってきてもいいが、覚悟を忘れるな……自分たちのせいで人が死ぬという覚悟だ。まぁ? コイツ以外なら、ここにいる誰が来ても、返り討ちにする自信も実力も持ち併せているつもりだがな」
大和は銃口で夏樹の後頭部を突く。モニターの首謀者が質問した。
『君は誰だ?』
「俺は七扇大和。この学園の転覆を
大和は銃で夏樹の背中を押す。
『私がそんな見え透いた
「今から第弐富士に設置される防犯カメラへのアクセス方法を教えよう。個人で使っていた物だが盗聴器の周波数もな。そっちの見張りが到着するまでの監視に使ってくれ」
画面内で首謀者の部下が横からやってきた。首謀者はその部下に確認を急がせる。
「何をやっているか分かってるんですか? ヘキサがこんなことしたら!」
「……
その視線は
「何がヘキサの人権
大和は銃口を
「こいつも言ってただろ。兵士となったヘキサが、このご時世でどれだけの戦術価値を生み出すのか……ここはヘキサを使って新たなビジネスモデルを作り上げる、糞まみれの実験場だよ。
大和が夏樹の
「どいつもこいつもそれに気付かないで、コイツや、あのババアの手の平でブレイクダンスを決め込んでる……哀れすぎて涙が出るよ。お前ら、もう手遅れだ」
大和はモニター画面を向く。首謀者に言った。
「この学園をぶっ壊したとしてもヘキサの俺に未来はない。かといって何もしなくても、俺はこの島から一生出られない。でも……今、目の前にチャンスがぶらさがってる」
モニターの首謀者はにんまりと笑った。
「見ての通り、このババアに一泡吹かすつもりで準備した、半年かけての仕込みもパァとなった訳だが……逃亡先が海賊というのも華があると思わないか?」
一〇時半──第弐富士・第一
全高一〇〇メートル超えの
ここは海上貨物を一手に引き受ける港である。
港際には
コンテナを背に、
背後から
「クロ……」
セレンの前を、超巨大ハンガーに固定されたデストブルムが横切って行く。
デストブルムは大きすぎるため、
次に二台の四〇トン・トレーラーが
荷台にはグラン二号とグラン三号が置かれていた。
運転手の
「この泥棒──っ!
「バッカ! 殺されちゃうぞ!」
「うわぁああああああああああああああぁんん!!」
飛鳥は地面に伏して大泣きする。柔呉は仕方なくその背に傘を掛けてやった。
「うわぁああん、あん、あん、あん──」
地面に伏す
二つのトレーラーを、民兵たちが
グラン二号の荷台には大量の銃器──スナイパーライフル・ヘビーマシンガン・ショットガン・グレネード、そして二つ折りになった、特大口径のカノン砲が置かれている。
グラン二号のコックピットが開く。
一人が中を
「よし。大丈夫た」
「こっちもだ」
「
セレンが
拘束具で両腕をぐるぐる巻きにされた夏樹が歩いてくる。その背後には
「総隊長っ」「たいちょーぅ!」「くそっ!」
大和は民兵二人の所へ、夏樹を連れていく。セレンは見ていられなくなった。
「
っ!!」
「セレン、ダメ!」
「待ってくれ! 来るなセレン! 来ちゃダメだ!」
夏樹に銃が向けられて、セレンは慌てて止まる。
「許可もなく動くなよ」──夏樹の側頭部が銃のグリップで殴られた。
アスファルトに夏樹の血が飛び散る。血は雨に
「戻れ、ネイバーフッド。さぁ早くっ! さもないと──」
夏樹の腹が
「ぐっ! が! あっぐ! ぶほ!」
夏樹の
「ぶは! ハぁーっ! ハぁーっ!」
大和が夏樹の前髪を引く。その面を上げさせた。
夏樹は鼻血で顔半分を真っ赤にしていた。呼吸がしずらいのか、息が荒い。そんな夏樹の腹に大和がボディブローを打ち込む。夏樹があまりの威力に目を
我慢できなくなった葵が飛びだそうとする。
「
「っ!? このアホ!」
それでも葵は止まらなかった。怒り狂った
「テメーは絶対っ! 絶対にっ! この私が
涙を浮かべる
大和は気分を害したのか、息を強く吐く。挑発するように、夏樹の顔をまたぶん殴った。
「女の子がそんな言葉づかいしないでくださいよ。怖くて泣いちゃいますから」
葵が
「さすがは今をときめく
大和は夏樹の右耳を引っ張る。その耳穴に指を突っ込んだ。
「耳かっぽじってよく聞け……体育館の演説だが、
夏樹は苦しそうに大和を見上げる。
「現にお前には、この拘束具はどうにもできないし、
「
民兵の二人が夏樹の
その背中を見てセレンはどうすればいいかわからなくなった。
「夏樹ぃいいいぃいいっ!」
セレンが
「な、なんだ! おい!」「急にネイバーが!」
港に
デストブルムを拘束するハンガーが、音が鳴る度に盛大に震える。
「セレン……気持ちを落ち着かせて。デストブルムが暴れ出すわ」
紫貴の声は感情を押し殺しているようだった。
「この低能どもは、私が一人残らず
それを聞いてセレンは目を丸める。
夏樹を取り戻す──強烈なまでの使命感と義務感がセレンに芽生えた。そのために……夏樹を取り戻すために、セレンは泣くのを我慢する。心でデストブルムに暴れないでとお願いする。セレンが泣き
セレンを抱きしめる紫貴──地面を
「いったい誰の
夏樹を連れ去った
雨は次第に強くなっていた。波も荒れ始めている。海も空と同じ灰色だった。
赤い光がゆらゆらと揺れる──それはまるで海中で無数の目が輝いているような光景だった。海面からは亀の甲羅のような装甲が
ネイバー16番機【ショワンウー】だった。
ダークブルーのパイロットスーツを着る少年──甲羅の上で双眼鏡を覗いていた。
足元には花束を置いている。ヒマワリの花だ。その花弁は雨に
少年は米粒大の大きさで船影を確認すると双眼鏡を下ろした。
「【ミスティミスト】を再展開。粒子濃度を八〇パーセントに」
後方の装甲板に二か所、正方形の穴が開く。排気孔が現れた。
そこから黄色の粒子がガスみたいに噴出される。黄色い粒子は〔黄色い霧〕となって周囲を覆っていった。
【ミスティミスト】──ネイバー・ショワンウーが持つ特殊機構である。
これは散布式の〔高性能ジャマー〕と言える。粒子で覆った物質は、レーダーなどの索敵網に引っ掛からなくなる。
濃霧と区別がつかず、視認阻害効果も高い。衛星にもキャッチされなくなる。
少年は足元の花束を拾い上げる。ヒマワリの花を悲しげに見つめた。
──女々しい
「無理だよ。あの人は……あの人だけは、特別だったんだ」
──お前はよくやった。あの状況は完全に詰みだ。俺でもお前でもありゃ無理だよ。
「それでも
少年は目を閉じる。
「ただ、生きていて欲しかったよ」
少年は花束に顔を押しつける。
「初恋でした……今もこれからもずっと愛しています。
──あばよ。バカ女。
少年は第弐富士めがけて花束を
この少年は、かつてテンナンバーの一人に数えられていた人物である。
変幻自在のオールラウンダー──【
それが、この島にいた
投げた花束が、荒れ始めた海に
──今のうちに休んどけ。
「これでどこまで釣れてくれるか、だね」
水久那は遠くにいる
誰もいないグラン二号のコックピット──突如、照明が付く。
「潜入成功っと」
日向は息をつく。手に持っていた、カップのアイスカフェラテで
「用意が良いと言うか、ピンポイント過ぎというか──」
《敵に捕まったと見せかけて『実は中にいるんでしたぁ!』っていうのがやりたくて作ったカメレオンルームだよ! コックピットの後ろ側が丸々休憩室になってんだぜ! ということで乗って乗って!》
そんな感じでグラン二号に押し込まれ、
「このギミック作るために、脱出装置を外したっていうんだからなぁ」
これで、もしもの事があったら、さぞ自分は
「
日向は作戦の詳細を聞かされていなかった。聞かされたのは合図があったら暴れろという事だけだ。日向はもう一度、アイスカフェラテをすすった。
「
釣り下がったオレンジ色の照明が揺れる。窓はない。カビ臭い二段ベッドと、小さな執務台。その他に
民兵の一人がパイプ
もう一人が円形の無線機のような物に話しかける。それは翻訳機だ。
民兵の
「これで意味は分かるな。日本人」
夏樹は顔を曇らせる。民兵の二人が視線を交差させて笑い合った。
「お前に許されるのは、良い子で質問に
不意に、夏樹の頭めがけて警棒が落とされた。
夏樹は無言で面を上げる。その額が割れ、血の線が
「こうなる。さて……まず第一。貴様は何者だ? どうして貴様みたいなガキを同盟主は欲している?」
──同盟主?
夏樹は
船長室には
部屋の中央に白いソファー。ニスの塗られた木製の執務机が奥に置かれる。壁際には二人の民兵だ。彼らは一般兵と違って中華軍服を着ていた。肩から小銃を下げている。
執務机に座る肥満の中年男性──船団のリーダーが執務机のマイク越しに言った。
「私は、
首謀者改め、
「中国への亡命は兼ねてより計画していた。翻訳機は使わなくていい」
「っ!」
二人の部下が大和に銃を向ける。
大和は即座に、上半身にかけた〔爆弾チョッキ〕の起動スイッチを彼らに見せた。
「私はけっこう心配性でね。安心が確保できない以上、君を仲間とは見れないなぁ……。日本の賢く、
大和はゆっくりと何度も
スイッチがカーペットに転がり、部下の一人が慌ててそれを拾う。
大和は次に爆弾のチョッキを脱ぐ。そのままソファー前のテーブルに置いた。
「これで完全に丸腰だ」
ポケットに手を突っ込み、引っ張って裏側に何もない事を見せる。
「なぁ……アンタみたか? あのババアの悔しそうな顔」
大和は笑う。でもその内心は生きた心地がしなかった。背中には汗が垂れている。
どんな言葉なら目の前の男の興味を引けるか……それだけに腐心していた。
「あのババアは、【ウォー・プロダクター
大和は勝手にソファーに座る。ゆっくりと長い足を組んだ。
「そんな
大和が苦笑いを向ける。
すると部下たちは銃を下ろした。
「大和。君はとても賢い子だ……だから、もう少し安心が欲しいかな? 君には親愛なる聖王への忠義がない。志以外の、納得できる理由を教えてくれよ。君の目的は何だ?」
大和は一瞬、言うべきか迷う。でもすぐ首を横に振った。大和は足を解く。
テーブルに両手を付いて、大和は真剣な顔で
「……ヘキサに市民権を与えて欲しい。もちろん人権を保障した上での話だ」
「何だってやる。
「あんたも知っての通り、ヘキサが発症したら未来なんてない。どの国も〔
それは大和が緑の在世中に掲げていた、大目標に他ならなかった。
そして今、それを
「新政府を立ち上げる事が出来れば、ヘキサを受け入れる風土を作る事が出来る! それから日本のヘキサを新天地に招いてやりたい……もう俺には、これしか方法がないっ」
大和は机に額を押しつける。高いプライドをかなぐり捨て、必死に懇願した。
「だから……頼むっ! どうかヘキサを救ってやってくれ!」
大和は何度も「頼む!」と続けた。
「顔を上げてくれ」
目に涙を浮かべて
「素晴らしい……さぞ、さぞ君は、
大和は笑みを
「なぁんて言うとでも思ったぁ!?」
部下の二人が後ろから襲いかかる。大和の
「
「どの道、我らが同盟主様より、氷室義塾を陥落せよと命を受けている」
大和の全身に
「なん……だと?」
「光栄に思えっ日本人! この島は、聖王さまが歩まれる、覇道の
──俺は……間違えたのか?
第弐富士・地下エリア──発電区画。
周囲に見られるのは大量の太いチューブ群だ。中央にはスクリューの形をしたタービン──大型バスほどの発電機──が横たわる。
「
飛鳥の背中にあるマニピュレーターが球形ユニットを拾い上げる。その重さに、飛鳥の重心が横に引かれた。
「ととっ! ……さぁって。君のハート、ちょっとの間だけ借りるよん。君の熱さを皆にも見せてやろうぜ」
飛鳥はサングラスをかける。そのまま巨大タービンに向かう。タービンには円形の
「バァ~ニングソウルっ、イいいいぃンッ
」──飛鳥が球形ユニットを押し込んだ。
球体ユニット──グラン一号【フェニックスハート】のメインエンジン──が、緑色に光り出した。すると巨大タービンが音を立てて回りだす。
タービンの回転は早くなる。バチバチと稲光を発した。飛鳥は
「キタキタキタキタぁ



っ!」
発電区画は、ほどばしる光で埋め尽くされた。
──
ニタニタ笑う
──どうして、このブタの人心を
大和は畳みかけるように自問する。
呼吸が荒くなる。顔には一片の余裕も残っていない。
「国際条約違反兵器なんて使えば、政権を打倒する前にUNが内戦に介入する! 政権を打倒したとしても、中国に未来はない! 世界中を敵に回す気か!」
「それは、これから死ぬ君には関係の無い事だ」
大和はそれでも必死に食い下がった。
「ヘキサたちは!?
大和の顔が再びテーブルに押さえつけられる。
「ボロが出たねぇ。体よく私を丸めこんで仲間を救おうとでも? ぶふ!」
「同士諸君!
館内に中国語の軍歌が流れ始める。
それは【E790ウイルス弾頭】の発射キーだった。
「今より、聖帝の御声は天へと上り! 人モドキどもを地獄に落とすだろうっ!」
「そんな所に隠し持ってたのか」────その口を三日月の形に変えた。
部下と
尋問室では
右目は
夏樹の髪を
『思いのほか頭が悪くて助かった。本命は船長室だ』
突如、夏樹の右耳から大和の声が流れ込んでくる。夏樹が小さく笑った。左目に力を取り戻す。夏樹は左目を閉じる。意識を集中させた。民兵が
「か、髪が?」
波紋が渡るように、夏樹の髪が〔紅〕に染められる。
夏樹の真紅の
吹き飛ばされる船室扉────民兵二人が廊下へと
自由を取り戻して夏樹が立ち上がる。顔中の血を両手で
月の天才科学者・ドクターツルギに、改造人体を与えられた超人戦士。
鋼鉄よりも堅い
エイルンは、理不尽な悪と
エイルンは手首を回す。腫れた右目部分を、親指の爪で擦った。血がブチュと噴き出る。
閉じられていたエイルンの右目が開く。紅の瞳は真っ赤に燃えていた。
「さぁ……反撃開始だ」
エイルンは廊下へと跳び出る。民兵の姿を廊下の端に
外れた船室扉を持ち上げ、エイルンは一気に駆け出した。
船長室の三人は
「船長室は
『君たちの声を追っている! 君はそのまま喋り続けてくれればいい!』
大和の耳奥にエイルンの声が届く。大和は化物かよと思った。
ゴーン、ゴーンという、音が聞こえてくる。時折、人の叫ぶ声と銃声も。
音が鳴る毎に船長室に微震が走った。そして、音と揺れは徐々に大きくなっていく。
「貴様いったい何をした! 何が起こっている!?」
「ふん。同情するよ、この船団の兵士全員にな」
「バカをトップに持つと早死にするって意味だ」──壁をぶち破ってエイルンが現れる。
「「「っ!?!?」」」
声を失う
「でやぁっ!」
エイルンが船室扉をぶん投げた。
部下の二人が弾き飛ばされる。同時に大和がテーブルの下に避難した。エイルンも床に伏せる。大和はすぐさま自分のベルト──バックルの裏側──のボタンを押す。
「ぎゃあぁああああああああぁっ!」
大和がその様子を見下ろす。
「頭の中でさ。
「貴様は生皮
敵の首謀者は悲鳴を上げながら駆けだす。船長室から逃げ出した。
「ほい。ゲット」
大和がエイルンを殴った時──エイルンの耳穴に指を突っ込んだ、あの瞬間だ。
大和は小型の無線機をエイルンの耳奥に忍ばせていたのだ。また腹を殴った時に、シャツの内側に無線機のマイクも忍ばせていた。
その事からエイルンは、大和の反逆が芝居だったと分かる。そして大和に
エイルンと大和が
その反応に大和は困惑する。大和も二つだけ想定外の事があった。
──一つはコイツの怪物染みた戦闘力。そしてもう一つ。
「どこまでも
エイルンは穏やかに笑っていた。大和は
演技とはいえ、大和は本気でエイルンの事をぶちのめした。数発分のお返しは覚悟していたつもりだったが……大和は毒気を抜かれてしまう。照れ隠しに腕を組んだ。
「え、演技派と言え。
「? 何をゴニョゴニョ言ってるんだ? とは言っても
エイルンは右手を腰に当てる。大和は「それはない」と即答した。
「手札には切り札二枚が来るように運んだからな……
大和は意地の悪い笑みを浮かべる。エイルンは「性格の悪い奴だ」とまた笑った。
『あーあー、
操舵室のモニター画面にニコニコ顔の