Ⅳ 勇者の新世界
縦長の会議円卓──配置は夏樹をトップに、右側が男衆+セレン。左側が女衆だ。
光学書面データが、各人の前に浮かんでいる。
「あの、総隊長。
「
手を上げた
「さて。あと一人来る事になってるんだが……」
夏樹がそう言うと前のドアが開かれる。
「こん! にちっ! わぁああああああああ!」
ポヨンとバストを弾ませて入ってきたのは
ショートの髪に白のノースリーブシャツ。作業ズボン。腰から伸ばすのはマニピュレーター形状の作業補助ロボットである。
「ありがとう。来てくれ──」
「うぉおおおおおおおおお! 何これ超かわいいいいいぃ!」
飛鳥は夏樹を無視して、セレンのヌイグルミを取り上げる。
「ねぇ! これドリルつけていーいぃい!! 角付きアザラシにしよーよぉお!」
「ダメ! ダメぇ!」
セレンが飛鳥からヌイグルミを取り戻そうとしがみつく。そんな中、
無言で飛鳥の下に行き……「ふん!」と、頭突きした。
「座れ」
「お、オーケー葵ちん。だから暴力は
目を潤ませて飛鳥はセレンの隣に座る。葵も席に戻ると、夏樹は話を始めた。
「改めて自己紹介を……初めまして。俺は
夏樹は円卓に両手を付ける。体重を預けた。
「結論から言う。
名前を呼ばれた者たちの心臓が跳ねる。夏樹は続けて飛鳥を見た。
「そして伏見飛鳥さんには兵器開発の面で専門的なバックアップに回ってもらいたい」
飛鳥はいつ取り出したのか、携帯ゲーム機をピコピコさせていた。軽い調子で「いーよー」と言う。すると
「そこのやる気のない二人はまぁ分かる。が、私やそこのポンコツが呼ばれた理由は何だ?」
月下が言ったのはアギトと
日向は煩わしそうに月下を
「見ての通り、やれることそんな無いぞ。
月下は話す内にノリ気になる。
「ランジェリーパブのお立ち台とかだったら映えそうですよね。月下さん」
鋭い視線で
「ひがむな、老け顔。
月下の容赦ない悪口に日向の両目が細くなる。一気に場の空気が悪くなった。
夏樹が慌てて間に入る。
「う、歌ってもらうのもいいな! うん! 部隊の士気高揚も重要な任務だ!」
「お、話わかるな。アンタ」
月下が機嫌を良くする。すると
「こほん。
「紫貴さん何言ってるんですか?」
隣に座る
「ん?
「説明を頼む。皆、渡したデータの五ページを開いてくれ」
各々が光学書面データを進ませる。すると二体のロボットのファイルが浮かび上がった。
「やっぱり、これ……」
飛鳥が円卓に乗る。円卓をステージにして指を鳴らした。
「デザイン&プロデュース・バイ僕! プロダクト・バイ・氷室
宙空に立体画像の拡大版が現れる。セレンが「おぉ」と
グラン二号は鈍重な人型のフォルムをしている。肩や胸、特に
グラン三号は、二号の更に二回りは大きい。ゴリラのような巨腕をしている。ごつごつした装甲に覆われていた。見るからに堅そうな機体だ。後ろから見ればアルマジロ。前から見たらゴリラといった感じだ。人と言うよりは獣に
「二号には独自に開発した【サスペンションウェーブ】と【イメージモーションサポート】を搭載! まぁ勝手に反動制御してくれて、機動も脳波検出で簡略化できてるってこと! 三号には【ナーヴリンクソフト】っていうの、作って搭載させたから、
「月下ちんと日向ちんの専用機だよん!」
全員の視線が二人に行く。
日向の表情は暗かった。月下に関しては、あからさまに気を悪くしたようだった。
「傷病人用にマシン作るとかアホか? パイロットに合わせてマシンのスペック落とすなんて本末転倒だろ」
声には出さないが日向も同意見だった。でも飛鳥は「にひ!」と白い歯を見せる。円卓の上で
「グラン三号は鬼灯よりも速いよ……月下ちん」
「そしてグラン二号には、最大二二キロ射程のスペシャルライフルを持たせるつもり」
日向も絶句した。飛鳥は
「グラン三号に求められるのは怪物的な動体視力と運動神経。グラン二号に求められるのは超高精度な射撃テクニック。極端な話、これだけあればよくて、これが無いパイロットはみ
んなボツ! 不適格ぅ!」
飛鳥は「ブーっ!」と手で×を作る。それから不服そうな顔になった。
「だいたい、おかしな話だよねぇ。
それは開発者である飛鳥が抱く不満──搭乗者と戦術兵器、両者にある現実問題に他ならなかった。搭乗者が優れていれば、より強い機体を作り出せる。しかし、人に扱えない兵器は無用の長物に成り下がる。
飛鳥は大多数のパイロットの〔上限値の低さ〕に腹を立てているのだ。
「技術畑の視点から見てどうっすか、今のご意見?」
面白くなさそうな顔で
「
日向が「部長は未成年ですよ」と注意する。
「その点、
飛鳥の目は
「どうやってあんなモン作り出したのか、疑問しかないけどね」
夏樹は口を強く
同時刻──日本国内・某所。
暗い
雷鳥は昨日から
黒スーツの部下が重い扉を開ける。
窓がなく、光が差さない。オレンジ色の古びた照明が一つだけである。
室内は強烈なアンモニア臭が充満していた。雷鳥は
「トイレくらい行かせて下さいって、お願いも出来なかったのかい。偉くなるって言うのも人それぞれだねぇ」
手を後ろに回され、座らせられている男が一人──
男は雷鳥を見るや、その面相を怒りに染め上げた。
「初めまして。元・陸上自衛隊陸将、現・防衛省防衛副大臣、
男の前に
「まずは話を聞かせてもらおうじゃないか」
パチンとライターを閉じる。雷鳥の目は無機質なものに変わっていた。
「この
「んふふ~。ま、こんなとこかな」
飛鳥はいつもの調子に戻る。円卓から跳び下りて元の席に座った。
「よしヒムロン、バトンタッチだっ!」
内心、
「今の説明で分かった通り、君たち二人にしか、この機体の性能を引き出せないみたいなんだ。こういうのはやってみないと分からない部分が多いからな。当面の間は〔テストパイロット〕で良いので、データ収集だけでも手伝ってもらえないかな?」
「ええと……まぁ、それくらいなら」
「ありがとう。今は一刻も早く学園の戦力を拡充させたいんだ。今日、新しく来てもらった人たちは学園きっての
言って夏樹は頭を下げる。
「メリット」
ずっと静聴していた
「それを
夏樹は少し困った顔になる。
「この島にいる
大和は「未来、ねぇ」と、露骨なまでに皮肉な笑みを作った。
「昔いたんだよ。アンタと似たような事言っておっ死んだ
紫貴が──
葵が
「……テメェ、
「客観的な結果を述べただけだ。何も
言葉に反し、その表情は人を見下していた。大和は、これだけの実力者たちに
「みんながみんな、
大和は日向、月下に目配せする。
「少なくともこの場には、アンタに似た考えの奴についていって、過去に
夏樹は
「行動の果てにあるビジョンを隠されている以上、これは交渉のテーブルとはいえない。口八丁で巻き込んで、思い通りに動かしたいってのいうのなら、悪徳宗教の勧誘とかわらんだろ……命を預けろと言うのなら、まず踏むべき順序があるんじゃないのか?」
「こんな事をしてただで済むと思うな! すぐに私の部下がここを押さえに来るぞ! 勝った気で居られるのも今のうちだ! この戦争成金が!」
雷鳥はうるさそうに顔をしかめた。
「おーおー。この部屋に来て二日になるのに、元気じゃないか……。私ぁね? この日本を守る者同士、どこで行き違いが起こったのか、それが知りたいだけなんだよ」
「説明するまでも無いわ! ただの民間企業がネイバーを占有し! 国土防衛をやっている! その
竹中は
「前回の戦闘で、学園モドキの解体だけで済んでいれば良かった物を!」
一瞬だけ、雷鳥の
「見ていろ! 誰に盾突いたのか嫌と言うほど教えてやる!
「副大臣……あんた昨日から飲まず食わずらしいね」
「お、分かるかい? 【ロマネコンティ】のヴィンテージ物、時価にして一〇〇〇万はくだらない……昨今、良い酒はめっきり手に入らなくなったからねぇ。アンタ、これには目が無いんだって?」
雷鳥が部下にボトルを渡す。すると黒スーツがワインのコックを開けた。
竹中はごくりと喉を鳴らす。
「悪い様にはしないから話してくれないかい。こう見えて、子供たちの健全な心身の育成に頭を悩ます教育者の端くれだ。こういうヤクザみたいなやり方は、いい加減、廃業したいんだよ。いくら、
口の開いたワインボトルを雷鳥が受け取る。竹中は豪胆に笑いだした。
「成金風情がこの
ペっと、雷鳥の顔に唾を飛ばす。雷鳥はしかめ面で顔を
「……たまげたね。今のは、一周回って感心したわ」
急に雷鳥は態度を軟化させる。ワインボトルの飲み口を竹中へ近付けた。
「
竹中は驚きに面を上げる。すぐ自分から首を伸ばし、その口先を
「ほれお飲み」────一〇〇〇万のワインボトルが竹中の鼻頭を襲う。
「ぐぎゃあああああぁあ!」
竹中は鼻血を出しながら絶叫した。
「こっ! このクソババァあぁあああああああぁ!」
「負け犬には相応の酒の振舞い方ってもんがある。ちなみにこのボトルの中身はコンビニで買った二〇〇〇円のワインだ。あんたみたいな
血だらけになった
「言い忘れてたがアンタの子飼いは
雷鳥は割れたボトルを竹中の
「アンタに首輪をつけた、よその飼い主がいるはずだ。そいつが誰か、何が何でも話してもらうよ」
竹中はここに来て、初めて恐れを見せた。雷鳥は血だらけの竹中を
「
黙りこんでいた
「分かった。
それを止めるように
「氷室さん、待って下さい! これを今の段階で話すのはリスクが高すぎます!」
茜の不穏な物言いに緊張が走った。それとは
「全責任は
紫貴は
PC画面とプロジェクターを同期させ、映像を白い壁に表示させた。
「まずはこれを見て下さい」
紫貴が表示したのは世界地図だった。日本列島を中心に、それぞれの大陸が広がっている。地図上には〔緑色の光点〕が無数に点在していた。
そして大陸を囲む海には、数百という〔赤い光点〕が
「皆さんは既に〔マリスの戦略概論〕で学んでいるはずですので再確認となります。これは教材用の映像ですが、地図上に見える赤い光点はクイーンを、緑色の光点はヘキサ保管領を差します。日本列島の真ん中ぐらいを見て下さい。あの緑色の光点が、私たちの住む第弐富士ですね」
紫貴は光学モニターを指で操作する。地図上の日本列島を拡大させた。
日本の東海沖にある緑の光点──第弐富士──に向けて二つ、赤い光点が近づいてくる。
二つの赤い光点は緑色の光点の前で重なった。地図が動画に切り替わる。
「ひっ!」
セレンが思わず、動画から顔を背けた。
上映される動画──マリスの群れ同士が、互いを襲い合う共食いの映像だった。
「このように、クイーン同士の
彼が人類に大きな怒りを抱く
二〇七〇年現代──マリスの侵攻はその九割が、ヘキサの密集する保管領へ誘導・限定されている。保管領以外の地域に侵攻するのは
この【保管領システム】は、追い込まれた人類の執った苦肉の策に他ならない。
同じ人類にヘキサという
保管領に
人類は、保管領に向かってきたクイーンだけをネイバーで殺せばいいのだ。
文字通り、〔ヘキサを餌にする事で成り立つ戦略〕なのである。
そして……大多数の人間をシステムに取り込むべく、国という国が世論を操作したのだ。
人を〔白〕、ヘキサを〔黒〕と言うように。
人は誰も白でいたい。正当性という後ろ盾さえ在れば、どこまでも残忍になれる。
結果、ヘキサが迫害される今の世界が
紫貴が動画を消す。再び壁際に世界地図が現れた。
「これが今の世界の惨状です。人類は、私たちヘキサを見捨てる事で、より多くの命を生かす道を選びとりました」
「本当に……何が【ヘキサ】だ。
それを聞いた大和が息を止める。ゆっくりと横目で夏樹を盗み見た。
「はっきり言おう。君たちの力はギフトだ。でも、力ある者によって
夏樹が親指で背後の世界地図を指さす。
「……この世界中に
「だから変えてやるのさ。世界の方を……
夏樹は円卓に両手を置く。計画の概要を説明した。
「まず日本中のヘキサを一か所に集める。詳細は明かせないが既に準備も整いつつある。現在、
「それはつまり、日本にいる全ヘキサの解放……第弐富士のヘキサだけでなく、日本の全ヘキサに人権を与えるということですか?」
「日本のヘキサ解放はこの計画の前段階にすぎません。ある程度、戦備が整ったら、今度はこのプランに賛同いただける〔穏健派の諸外国を取り込んでいく〕んです……お恥ずかしながら、まだ具体的には煮詰まって無いんですが──」
話を聞き、
そんな大和と同じように、頭脳労働専門の生徒たちも顔を青くしていた。
夏樹たちの言う計画がどれだけスケールの大きな事か分かっているからだ。
片や、
茜は考えるように視線を上に向けた。
「まーぶっちゃけ、中国を引きずり降ろしちゃって日本が国際連合の〔常任理事国〕になっちゃうのが手っとり早いんですよねー。あそこ、二年くらい前から
「おまえ、冗談でもそんな恐ろしいこと言うなって」
「でも、
田中がたしなめ、
大和は思わず、笑いかけた口を手で隠した。大和が
彼らは、さも当たり前のように、目の前の障害を破る選択肢を明示してしまう。
大和は強く左腕を押さえ付ける。全身を燃えるような興奮が駆けめぐっていた。
夏樹が最後に、その決意を全員に表明した。
「氷室義塾の最終目標は、世界中のヘキサ保管領を一か所に統合し、一個の独立国家を建国すること」
沈黙を守るアギトも笑みを浮かべる。
「
「それが何を意味するのか分かっているのか?」
夏樹は事も無さそうに
「ああ。俺たちは世界とケンカをすることになるね」
大和は虚脱する────全身を突風が駆け抜けたような感覚が走った。
「世界中のヘキサを救う。そのために……君たちの力を貸してほしい」
説明を聞いた者は、それが何を意味するか理解していた……図らずとも、夏樹の目指す目標とは、〔かつて
「くはっ、やべ! ははっ! ははは!」

不意に
「最高だっ。やっぱり
「総隊長! この
遅れてオルソン、
「ぼ、
「な、なんか
三人を押しのけるように、今度は
良く分かってないセレンも立ち上がった。夏樹の
アギトは鼻で笑ってサムズアップを返す。
そして