Ⅱ 勇者の激励
翌朝──戦闘科校舎を
「
昨日の公園の一件──暴れ出した夏樹を、警官二名で取り押さえるなど出来るはずもなく……応援が応援を呼び、
そんな両者の間に入ったのが、セレンに救援を求められた紫貴だった。
「君が来てくれなかったら、危うく流血騒ぎになるところだったよ」
長い黒髪に紺色の士官服姿。セレン程ではないが、大きなバスト。
紫貴は目をとろんとさせていた。
──あー……妊娠してぇ。
紫貴の頭の中は、朝からピンク色だった。
──かっこいいエイルン。エイルン結婚しよ。この場で押し倒されてもOKしちゃう。というより、むしろ押し倒しなさいよ。私、今日、危険日だから。
長いまつ毛、整った
──罪なエイルン。好き、愛してる、私の嫁。あぁ、
紫貴は完全にトリップしていた。
「こ、
夏樹は熱でもあるのかと心配を始める。
九重紫貴はアニメオタクでエイルン=バザットの大ファンなのだ。
そして……生徒の中では唯一、夏樹の正体に気付いている。
超人的な身体能力──実在する声優【
紫貴は絶対にこの秘密を
その理由はというと。
──私のモノになってくれないなら、この秘密をネタに脅しちゃうんだから。
と、
廊下の途中、途中で、セレンは声をかけられていた。
「特務!
「ナイス爆撃! あれ助かっちゃったよ!」
茜の背に隠れてセレンは戸惑う。夏樹はその様子を見て、
──本当に……良かった。
前回の闘い以降、セレンの学園問題はほぼ終結に向かっていた。もう理不尽に
夏樹はそれを誰よりも
「おはようセレン」
妄想から現実に帰ってきた紫貴が優しく言う。セレンは無表情のまま
「いたいた
茜も夏樹を見かけるや、右手を上げた。夏樹は「もうか!」と声のトーンを上げる。
「ハイ! 今、
「ありがとう。さすが
茜がやってくると夏樹はその頭を
それを見たセレンは眉を斜めにした。
「むぅ!」──茜を撫でる夏樹の手を押しのける。
「ちょ! 痛っ! 特務!?」
セレンはそれから茜の頭をポカポカ
すると今度は、階段から
「あ、いた! 隊長──っ!」
セレンは声を聞くや、
セレンはトテトテと葵に向かった。やってきた葵はそんなセレンを胸に納める。セレンの頭を
「最近、隊長、全然機兵部に来てくれないじゃん! なんか
葵の文句に夏樹は頭を
「
葵が「なぁ!」と声を上げる。
「あのさぁ。隊長は私たち機兵部の総隊長で、仕方なくそっちに貸してやってるんだから……おかしな事言ってると、もう貸してやらないぞ?」
葵は口元を引きつらせる。紫貴も大人げなく、カチンとなった。
「……私の権限で、〔副会長〕というポストを新設して、氷室くんに納まって頂いても構わないのよ?」
──氷室さん、やっぱモテモテだなー。
女の修羅場なんてものを茜は初めて見る。一方、夏樹は何かを考えていた。
「そういうことなら
「え? だって隊長にはエルフィーナがあるじゃん」
葵が面食らう。夏樹は苦いコーヒーを飲んだような顔になる。
「もし今後、機兵部にたくさん新入部員が入ってきたとして……仮にも総隊長の肩書きを持つ男が、
葵は「あ~」と納得する。
「そういう事ならまっかせて! やるからにはビシバシいくから!」
夏樹は「ありがとう」と笑う。
紫貴は
そんな一部始終を、廊下の陰で監視する
「ラ、ラノベ主人公かよ」
手に持ったメモに〔信頼あり〕〔女メロメロ〕〔死ねばいいのに〕と記載した。
一五時──戦騎装・第一格納庫。
重機の作業音と整備部員の叫び声が反響する。アスファルトの床を作業車が
二四体の
ハンガー区画は計三つ──一区画に八体──で、戦騎装一機に三~四名の部員が整備に
「あ!
夏樹は目的の人物を見つけると右手を上げた。
六尺豊かな整備部長・
また柔呉の近くには、円柱状のセラミックを抱えてスクワットをする二人組もいた。
一人は、
もう一人は、一九〇センチ超えの日系ブラジル人・
二人とも機兵部のトップ5に入る実力者である。ジャングルブーツにレンジャーズボンを履く。黒のタンクトップは汗でグシャグシャになっていた。
二人も夏樹を見るや、柱を捨てるように置く。直立して夏樹に敬礼した。
夏樹も簡単に敬礼で返す。すぐ柔呉に話を持ちかけた。
「作業中にすまん。ちょっと見てもらいたい物があるんだ」
夏樹は一つの光学書面データを展開する。宙に浮かんだそれを柔呉に見せた。
柔呉は書面データに目を走らせる。しばらくすると「う~ん」と
「できないか?」
「無理じゃないとは思うが……どうだろう」
二人の話に山武とオルソンは興味
「まーた、何かやり出したな?
「それは、一番大変なポジションという事になるが?」
夏樹が返すと柔呉が笑って肩を
「あとそうだ……オルソン、江藤、君たちにも話がある。朗報だぞ」
夏樹は別の光学書面データを二枚分出す。
それを見てオルソンと山武は「「マジっすかぁ!?」」と、目を飛び出させた。
一七時半──
黒のタンクトップにレンジャーズボン。
机にあるのは不要紙の束だ。過去の行事予定など、廃棄予定だった紙を総務部から
一方、大地の二つ後ろのテーブルに
そんな中、
アッシュブロンドの髪を束ねて肩から垂らす。
全自動車椅子に乗った少女──
「八雲さん? ウス!」
大地が立ち上がり、頭を下げる。日向は笑って車椅子を進ませた。大地が勉強で使っていたタブレットを
「
日向がタブレットを見ながら聞く。
大地が勉強していたのは、中隊長クラスの指揮官講習内容だった。
「なりてー……っすかね。試験受かんなきゃ、なりたくてもなれないんで」
大地は座り直す。マッサージするように目元を擦った。
「なんか、昔と見違えちゃったなー。オネーさん、
日向の言葉に、大地がボーズ頭を
「総隊長がなんか、
大地の発言に、日向は内心で感嘆の声を上げた。
「あの八雲さん、ちょっと相談乗ってもらっていいすか?」
「ん? なになに?」
日向は膝の本を机に置く。大地の話を聞く事にした。
「副部長に昇格すれば、部隊で使う、機体の選択申請が出せるって
日向はすぐに合点がいく。
「八雲さんちの四番隊、チューンした
日向は元機兵部である。かつては、砲撃支援部隊【四番隊】の隊長を務めていた程の実力者だ。
そして
「うん、そうだね。ただ、
「やっぱそうなんすね!」
日向の説明に大地は嬉しそうな声をあげた。タブレットの画面を変えて日向に見せる。
「あのコレ! 先月ロールアウトしたばっかの【
「ま、まぁ、それもあるんすけど……
日向は一瞬、息を止める。
「他の
日向には大地の真剣さが伝わっていた。だから日向も真剣に返す。
「……
「も、目標すか?」
大地がオウム返しで聞く。日向は「今のね」と、険しい表情で加えた。
大地は顔を引き締める。
「機兵部で最速の……いえ! 最速で最強の部隊を作りたいっす!」
大地は声に熱を込めて
「冷静に考えて、一個戦力で俺が
大地の実力は、機兵部の中でも群を抜いている。しかしそれは、ヘキサの能力ブーストに
しかも世界には、
そんな天才に届く方法を模索した、大地なりの回答であった。
「それで? 部隊を作る事で何をしたいの?」
「……いつまでもオンブに抱っこじゃ進歩ねーから。そんなんじゃジジイになっても、
大地は、だんだん声を小さくする。言ってて気恥ずかしくなったのだ。
でも日向は笑わない。力強く
「よし、わかった。試験まで一緒に勉強しよ! 私で良かったら勉強教えてあげる!」
大地が耳を疑う。その目をパチパチさせた。
「ま、マジっすか?」
「うん。お姉さんが
腰に手をやり、
「
同時刻──
春物のカーディガンにプリーツスカート。その上からエプロンをかける。
フライパンに引いた油が音を立てる。きつね色に揚がったフライ群が躍っていた。
セレンは揚がった物から、隣のステンレスバットに並べていく。
本日のメニューはフライの盛り合わせだった。
一方、揚げ物の香りにくんくん鼻を動かすのは
対面のソファーには
紫貴は先ほど来たばかりなので制服姿のままだった。
多頭型戦以降、紫貴は、夏樹がセレンと毎晩、夕食を共にしていると聞く。それからは何かと理由をつけては足を運ぶようになっていた。

ちなみに
「今日はフライか~。トンカツはやっぱロースだよね~。脂身ー脂身ー、んふふ」
「アナタは食べた分だけ運動するから、憎らしいくらいに太らないわよね」
足を
葵は「あ」と、声を漏らした。何かを思い出した顔で紫貴に聞く。
「そういや
紫貴が耳を
「んっ、んっ……アナタ、アニメとか興味無かったじゃない。どうしたの急に」
紫貴がアニメオタクなのをセレンと葵は知らない。というのも、紫貴は来客を招く場合、自室とは別に借りているダミー部屋へ人を招く。
これは紫貴がアニメオタクだとバレないようにするためだけに、毎月の家賃を払っている部屋だ。二人を呼ぶ時は、いつもこの部屋に入れていた。葵が言う。
「だって隊長、それ見てんしょ? エルフィーナも出てるっていうし、興味あんだけど、この歳でアニメ見るなんて恥ずかしくて出来ないじゃん」
紫貴は心の芝生をスパイクで踏みにじられた気分になる。
「こほん……ざくっと説明すると、全宇宙を支配できる最強の戦略兵器【アヴァンアリス】、まぁ
「は? 出来るわけないじゃん。戦騎装一機でそんなこと」
きょとんとなる葵。紫貴は脱力した。
「いいのよ、そこは……アニメなんだから。で、【アヴァンアリス】、通称【アリス】は神話の時代に、全宇宙で二二個ある【コスモフィリア】っていう、各星に眠るエネルギー結晶石のうちの三つを使うことで作られたとされているの。物語はアリスを直接奪おうとする【アリス強奪派】と、コスモフィリアを集めてアリスをもう一機作ってしまおうという【アリス製造派】に分かれて話が進むの」
「ふーん。で、エイルン=バザットってのは?」
葵は興味なさそうに
「エイルンは、アリス製造派として動く、月の軍人ね。【シュプリームドール】のエースパイロットで、重要なサブキャラクターという位置づけよ。主人公の壮大なスケールの闘いに巻き込まれる形で物語に
「シュプリームドール?」
「ドール・ワルツ・レクイエム内の人型兵器の総称よ。アリスをモデルにして作られたって設定だから〔
戦騎装という単語が出てくるや、葵は興味を持つ。ソファーの上に座り直した。
「でもさ。そのアリスって、軍隊とケンカできるくらい強いんだろ? それじゃ敵とか作れないじゃん。物語にならなくない?」
「軍隊どころか、星を敵にしても勝つくらいよ? アリスって。敵をばったばったと
「あー。じゃあ、その悪者やっつけて、めでたしめでたし、なんだ」
「お、
「ふーん……。ま、人間同士が争うんだからア○パンマンとバイキンマ○みたいに簡単にはいかないよね。でも、そんな強い
葵がそう言う。紫貴は目をひん
「
葵がビクっと背筋を伸ばす。セレンも驚いて台所から顔を
「あんな不遇演出、重ねに重ねてっ! 何なのよ! 二三話の戦闘シーン丸々カットのピロートーク演出はっ! エルフィーナの変身する直前で場面カットするなんて悪意があるとしか思えないわよ! なんて
紫貴の
「それにエイルンはエルフィーナに乗り換えてから、もう一人の主人公と言われる位に評価をひっくり返したんだから!」
ソファーで正座姿になっていた葵が「ご、ごめん」と謝る。
セレンもおろおろしていた。何を考えたのか、台所から揚げたての
「ありがと。はふ! おいひ! 確かに、もぐ、んぐ。はぁ……アリスやグリムには勝てなかったけど、エルフィーナも月のコスモフィリアを使って作った【ルイン・ウィール】搭載型のスペシャル・シュプリームドールなんだから。それに、あのチートというか、バグキャラのツルギが、命を捨てて──」
説明の途中で紫貴は黙る。そんな紫貴を見てセレンと葵は顔を見合わせた。
──どうして私は……これに気付かなかったんだろう。
劇中において、エイルン=バザットとドクターツルギは両想いだった。
しかし、素直になれないツルギと、奥手で鈍感なエイルンは付かず離れずを繰り返す。そして二人は互いに
物語終盤、ツルギは愛する人と愛する娘・エルフィーナを最後の舞台に送るため、その短き生涯に終止符を打つ────
それがエイルンの
紫貴は顔を曇らせる。
──エイルンがいるって事は、ドクターツルギも実在の人物と考えるのが
セレンが首を
「じゃあエイルンは……今もまだ彼女を」
セレンに呼ばれた事に気付かず、紫貴はそう
同時刻──居住区・某コンビニエンスストア。
学校帰り、コンビニに寄った

中年の店長らしき人物も、その子供のことを注視していた。
大和は舌打ちする。すぐその子の所まで行った。大和は彼が盗もうとした物と、同じ物をガバっと片手で
「バレてるぞ。ポケットの物出せ」
大和に
大和はそれを奪うように取ると会計に向かった────
自販機横のベンチで、大和と男の子が座る。男の子は
「泣くくらいなら初めからやるなよ」
ガムを
「だっ、て、印ナシの人、皆、意地悪してくるし! パパもママにも、意地悪して。パパ、お仕事もやめさせられちゃって! こんな、ところに、お引っ越し、しなくちゃいけなくなって。お店の人、印ナシだったから、困らせて、やろうって」
──こいつ……発症したばかりか。
大和は男の子の右手の刻印を見る。
ヘキサを親族に持ってしまった事で、生活が壊されてしまうケースは珍しくない。まるで、ヘキサが犯罪者であるかのように周囲は扱う。
おそらく、この島に来るまで肩身の狭い思いをしてきたのだろう。大和はそう推察した。
「それでも、お前なんかは恵まれてる方なんだぞ……親が一緒にいてくれるだけな」
この第弐富士には、定期的に若年層のヘキサが他の保管領から送られてくる。
第弐富士の場合、家族が望めば一緒に住む事が可能だ。今までの生活をかなぐり捨ててでも、ヘキサとなった者と一緒に暮らす家族は多い。だが、その反対もある。
家柄や世間体。築いた生活を守るため、
「お前は俺よか全然マシだ……それにこの島で働く印ナシは怖いババアによく調教されてるからな。本土の時みたいに
大和はそう言うも、男の子は泣きやまない。仕方ないと、ポケットから学生証を取り出した。カードタイプの物だ。大和が指で触れる。B5板サイズの光学画面が浮かんだ。
大和は保存した画像データを再生──一機のロボットが宙に表示された。
「う、あ……かっこぃい!」
男の子は、泣き
白銀に輝くボディ。外観は
「地球で最も強く、
それは、かの大英雄が乗り続けた機体──ネイバー7番機【
一九時半──第七地下シェルター。
この場所は、
左の区画に置かれているのは、全長二〇メートル以上の追加装甲である。メタリックレッドの、Aのような形をしている。他にも二基のブースター等が置かれていた。
これらは【ファラリカ】のパーツ群だ。ファラリカとは、エルフィーナの別形態の名である。紅の巨大スーパーカー【ファラリカ・ドーター】に装着する事で、エルフィーナを敵地まで安全に輸送する、巨大戦闘機になる。
シェルター中央には、エルフィーナが休むような
全長一七・二メートルの
そのミッドナイトブルーの
エルフィーナのコックピットには制服姿の夏樹がいた。
夏樹は難しい顔でモニター画像を注視する。
──やはり、これは……
〔空間を内側からこじ開ける黒腕〕──以前、エルフィーナがガールズボディになった際、米国情報管理局【NSA】の機密ファイルから盗んできた画像だった。
ドール・ワルツ・レクイエムの主人公──ジン=ナガトの専用機であるアヴァンアリスとエルフィーナは仲が悪い……というより、一方的にエルフィーナがライバル視している感じだ。それに起因しているのか、夏樹への報告も今日まで遅れてしまっていた。
特段、それについて夏樹に思う所は無い。それよりも問題なのは、この画像の真偽だ。
「これがジンのアリスである可能性は?」
『
夏樹の胸中に不安が芽吹く。夏樹こと、エイルンの世界もまた危機が迫っていた。
夏樹がこの世界の救済に踏み出せたのはジンの存在が大きい。しかし、もしもジンまでこの世界に来てしまっていたとしたら……夏樹の顔に焦りが出る。
「とにかく連絡だ。アイツが着ていたら合流して──」
「
エルフィーナの回答に夏樹は表情を沈ませる。「そうか」と
「だが……うん。そうだな。アイツがこの世界に来た事に変わりないんだ。帰れる方法があると分かっただけでも大きな前進だ……ありがとうエルフィーナ」
そう言うも夏樹の表情は優れない。落胆が見てとれた。
すると正面モニターに【
『捨てられた犬っコロみたいな顔して! シャキッとなさい! 泣き虫エイルン!』
『映像記録以外は、
エルフィーナの声は、開発者であるツルギ自身のものが使われている。
ツルギと死別してからは、
「……君は、ときどきお節介だ」
「私が世話を焼きたいと思うのは
エルフィーナの励ましはちゃんと届いていた。エイルンは肺に大きく息を取り込む。
「そうだな。こんなんじゃツルギにドヤされる……今は
夏樹は
「君の娘は……今も素敵に成長し続けているよ」
寂しさを混じらせた声で夏樹は言う。それから気合を込めるように息を吐いた。
「いよいよ明後日か……」
二日後・一四時──
総勢二四〇〇名である。昼夜関係なく就労する、整備部のような生徒たちも含めて全生徒が集合していた。今回は部活を休ませてまでの招集だ。
壇上には
一〇人は壇上の左右に分かれて座っている。
演台の前に立つのは
「当塾は今年の春、一般人の転入生を迎えております。ヘキサしか入塾できないという校則に対し、例外措置をとってまでの転入でしたので、皆さんとは異なった就学形態をとっていました。ですが準備も整い、今年の夏から皆さんと一緒に机を並べる事になります」
紫貴がそう言うと、夏樹がパイプ
「戦闘科の皆さんはよくご
言って紫貴は拍手をする。壇上の生徒も一緒に拍手をした。体育館に、拍手の波が波及する。夏樹は紫貴と入れ替わるように演台の前に立つと……その目を
「「「「「総隊長─────────っ!!!」」」」」
機兵部全員が総立ちで応援を送る。怒声にも似た野太い声援だ。
機兵部を
「エイルンせんぱ~いっ!!」
「いつも守ってくれてありがとうございま
っす!!」
「「「「「エイルン! エイルン! エイルン! エイルン! エイルン!」」」」」
──……ありがたいな。
夏樹は心中で、声援をくれる生徒に礼を言う。マイクに向かって話し始めた。
「今、ご紹介に
小さな笑いが
「自分は皆さんでいうところの一般人、印ナシです。そんな自分でも、こうして受け入れてくれる皆さんにまずお礼が言いたい……本当に、ありがとう」
夏樹は一歩下がる。生徒たちに頭を下げた。それから夏樹はまたマイクに向かう。
「実は、今日は皆さんに重大な話があって集まってもらいました」
体育館内に
「この
体育館内に、大きなざわめきが湧いた。壇上にいる夏樹は、演台に身を乗り出した。
「ここから先は、敬語無しで失礼するよ……この氷室義塾が、日本の国土防衛を任せられて二年になる。まず皆に理解して欲しいのは、五〇年以上、米軍の
夏樹は、この二カ月を振り返る。
仕方がない、仕様がない──状況が複雑に絡まり合い、多くの子供たちが苦しんでいた。
死の恐怖と、別離の悲しみに
「それでも
言いながら夏樹は振り返る。壇上の仲間たちを見た。
「ここにいる彼らも、今はこうして顔を並べられているが、かつては対立し、傷つき、泣いて怒って、いろんな苦難を乗り越えてやっとここまで来れたんだ」
「少し前置きが長くなってしまったが、ここからが本題だ」
夏樹は口元に、力強い笑みを
「戦闘科の全部活は、
今日、一番のざわめきが体育館に起こる。中でも非戦闘科生の驚きは大きかった。
「もし気持ちをくすぶらせている
マイクを手に取り、左手で壇上の仲間たちを指す。
困惑する者も多いが、多くの生徒が希望を抱いた様子だった。
夏樹は確かな手ごたえを感じ取る。
夏樹は次第に顔を曇らせていく。やはりこれは言っておくべきだと思った。
「上手い事だけ言って……事実を話さないのはフェアじゃないよな」
マイクを通して夏樹がポツリと言った。
壇上脇の茜は、とても嫌な予感がする。夏樹の性格から、何を言おうとしているかすぐに分かった。茜はパイプ
「
周りに聞こえないよう、茜は配慮したつもりだ。でも夏樹は「すまん」と謝った。
「戦闘科に入れば、嫌でも痛感する事だと思う……だから現実も話しておこうと思う」
夏樹の不穏な皮切り──傍聴する生徒たちの笑顔が固まっていく。
「これは非戦闘科の皆に言っておきたい事だ。壇上にいる彼ら……戦闘科生と君たちの間には歴然とした差がある。それは才能であったり、能力であったりと様々な形でだ」
戦闘科と非戦闘科の選別基準は、才能開花の〔ランク指定〕に大きく
ちなみにCというランクは、
「理不尽なまでに、実力の差を見せつけられると思う。きっと悔しい思いもするはずだ……数値化して出た
夏樹は
人は不平等だ。生まれ落ちた時点で全部が違う。でも……だからこそ
「ここからは
夏樹は目に強い光を宿す。そんな〔取るに足らない理由〕で
「はっきり言う……そんなものは何の障害にもならない」
傍聴する生徒の何人かが面を上げた。
「人は生まれながらにして不平等だ。生まれ。金の有る無し。容姿、頭脳、
泥の中をもがき苦しんだからこそ、分かる真理もある。
夏樹はどうにもならない苦しさを知っている。努力しても報われない
「『やっても駄目だった』『時間の無駄だった』と、やってきた全部を否定するつまらない人間になるな。『やっても無駄なら、やらなければいい』なんて、口が裂けても言うな!」
かませ犬──この世界に来て、【エイルン=バザット】というキャラクターが、そう
戦友のジンに、強い劣等感を感じてしまう自分にはお似合いの言葉だとも思った。何度も負け、失敗をし、出来る事もやっても、やれる事をやっても報われず──
「こう見えて俺も、結構負けの味は知っている。そんな
だから夏樹はエイルン=バザットとして教える────必勝の極意を。
「限界を作るな、負けを認めるな……絶対に諦めるな!」
夏樹は語気を荒くする。届いてと欲しいと、心から願って言葉を紡いだ。
「やらなければゼロだ! でも挑戦すれば確率は一パーセントに上がるかもしれない! 勝算が一パーセントなら一〇〇回挑戦すれば一回は勝てるだろ! 〇・一パーセントなら一〇〇〇回挑戦しろ!」
人は誰しも可能性を持っている。でも、展望を見いだせないから一歩が踏み出せない。
「能力が足りない? そんなもの努力で補え! 才能がない? そんなもの根性でねじ伏せろ! 勝ちを決めるのも負けを決めるのも! 最後は自分の心一つだ!」
夏樹は自分の心臓を強く殴る。
「心で負けるな! 全部に負けるぞ! 心で勝て! 勝ち続けろ!」
《私、好きだよ。あんたの絶対に諦めないところ》
不意に……夏樹の脳裏に、
夏樹は目を見開く。マイクを
「そうなった奴に──!」
「出来ない事など何もないっ!」────
夏樹は息を荒らげる。数秒
夏樹の頭がクールダウンする。すると
揺れる体育館──拍手と歓声の大
男子も女子も、戦闘科も非戦闘科も関係ない。全校生徒がパイプ
そんな彼の耳元で、
「
拍手は鳴り
──氷室義塾が……次の段階に移った?
この日、この時──