まくあい 【ドール・ワルツ・レクイエム  第六話 〔コスモフィリア〕

2068年9月26日 放映】

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 黒煙が何本も立ち昇る。火星のアボメル砂漠は主人公ジンが駆る【アヴァンアリス】とエイルンの属する【ラインハルト軍】との激戦場となっていた。

 空中で高速で戦う二機────一機は、エイルンの駆る【エドレスカMkⅡ】だ。

 白いロングヘアーが風圧にたなびく。黒いハイブーツのようなレッグユニット。西洋よろいのような上半身をしている。エドレスカMkⅡは赤い騎士をほう彿ふつさせるSDシユプリームドールだった。

 相対するは、主人公ジンとヒロイン・サクラが乗る【アヴァンアリス】である。

 全身に古傷を抱える黒き魔人──剛健なボディは暴力的なまでの力強さを持つ。その黒腕は実にまがまがしい。の者にふさわしいデザインだ。エドレスカより二回りは大きかった。

 エイルンは、かつて煮え湯を飲まされた最強の魔人に再戦を挑んでいた。

『もうやめろ! 自分が戦火を拡大させていると、どうして分からないんだっ!』

 エドレスカの手の甲からブラストソードが二本伸びる。黄色い光剣だ。背中のバーニアを噴出させてアヴァンアリスに突撃した。

 アヴァンアリスは両こぶしを打ち付ける。周囲にがく模様のバリアーが張り巡らされた。

「大きすぎる力は争いを呼ぶ! だから、しかるべき場所で、正しく管理されなければならない! お前のやっていることは正義の味方にあこがれた、子供の遊びと変わらないんだぞ!」

 バリアーの上からエドレスカが何度も二刀を振り抜く。接触の度に光の激突が火花を散らした。アヴァンアリスは微動だにしない。

 ジンはコックピットで悠然と脚を組む。サンバイザーに、黒いがいとう姿の美青年だ。

 かんろくさえにじませ、ジンはゆっくりとほおづえをついた。

「正義か。じゃあ聞くが、お前が尻尾しつぽを振る月にはそれがあるというのか?」

「当たり前だ! 月は三星間の激化する紛争を止めたいと本気で願っている! 正義がどこにあるかなんて誰が見ても明白じゃないか!」

 エドレスカの中で必死にエイルンが訴える。汗の玉が弾け飛んた。

 エドレスカが何回もアリスと身体からだを交差させる。けんせんの光と効果音がその度に起こった。戦いながらエイルンとジンは、互いの正義をぶつけ合う。

「本気で言ってるならおめでたい。ラインハルト軍はお前が思っているほどれいで正しい軍隊じゃないと思うぞ」

「どういうことだ!」

「何かの縁だ。教えてやるよ軍人。正義なんて言葉は自分を正当化したいやつほど使いたがる、万国共通のめんざいだ。正義をかざして闘争を起こし、正義に酔って引き金を引く。事実と向き合えない雑魚ほど使いたがる、全宇宙で二番目に汚い逃げ文句だ」

 エイルンのきようがくした顔がアップになる。エドレスカがバーニアを逆噴射して距離を取った。アヴァンアリスは展開したバリアを解く。

「なん、だと」

 エイルンが歯をのぞかせる。ジンは形の良い鼻を持ち上げた。

「アンタ……『おれは悪くない。俺は正しいんだ』って、騒ぎたてて銃をぶっ放す、思考停止したガキにしか見えないよ」

 エイルンはひとみを震わせる。その目と髪が、紅色に染め上がった

「おまえええええええええええええ!!

「っ!?

 エドレスカが赤い残像を作った。じゆうおうじんに空を飛び回る。そのスピードに虚を突かれ、ジンも声を上げる。エドレスカがアリスの装甲を切りつけていく。しかし──

 エドレスカの両手がアヴァンアリスにつかまれる。

「操縦技術は俺並み……いや、以上かもな。だが、乗り物のが絶望的だ」

 アリスによって、エドレスカの両手がみしみしと握りつぶされていく。

「宇宙は俺が救ってやる……一介の軍人に星四つは重いだろう」

 アヴァンアリスの全身が発光する。青々とした空の雲が一瞬でき消えた。

 そして──エドレスカも上半身だけを残し、ざんがいとなって地面に落ちていった。

「くっそぉおおおおぉおおぉ!!!」

 エイルンの悲痛な叫びと共に、戦闘は終了する。


 ■シーンが変わる。

 エイルンは上官の部屋に呼び出されていた。頭と腕に包帯を巻く。対面に座るのは上機嫌な上官である。エイルンはげんそうに聞き返した。

「大尉昇進? 私がですか?」

「あぁ、そうだとも。よくあのアリスを止めてくれた。これで私たちアルタイル艦隊はベガ、デネブよりも一歩先んじたのだ。手ずから皇帝様にこれを献上することを考えたら、今晩は眠れそうにないな! グハハハ!」

 手に持たれるのはあおい宝石のようなキューブ──それは現地人の村の子供たちが隠し持っていた物だった。エイルンは声を震わせて聞く。

「まさか……それをやつよりも先に手に入れるために、あの村を?」

「中尉、いや、大尉か……これは宇宙平和の鍵となる、やんごとなき品だ。あんな小汚い村一つとはかりにかけるなんて、皇帝陛下への背信だよ。慎みたまえ」

 その言葉にエイルンは打ちひしがれた。


 ■シーンが変わる。

 エイルンは一人かんきように出る。眼下に広がるのは自分が焼いた砂漠の町だ。

 空にオレンジ色の夕日が揺らめく。

 エイルンは左手でフェンスをつかんだ。くちびるを震わせ、頭をフェンスにつける。

《よくもだましたな! うそつき軍人! 母ちゃんを返せ! 母ちゃん返してよぉ!》

 村の子供が泣きながら石を投げる。

《もう大丈夫って言ったのに! 私たちを助けにきたって言ってたじゃないですかぁ!》

 その姉も声を張り上げて泣いていた。

おれは! 俺は本当に君たちを助けようと! 助けたかっただけなんだ!》

《中尉殿! 危険です! 下がって! 我々の任務は終わったんです!》

 暴徒と化した村人に石を投げられるエイルン。そんなエイルンを、部下の中年軍人が背後から押さえつける。エイルンは最後まで彼らに手を伸ばし、訴え続けていた────

「うぁあ、」

 エイルンの目から涙がこぼれる。

「あぁああぁあああああぁっ」

 エイルンは一人泣き崩れる……そんな彼をかんきようの入り口でドクターツルギがのぞいていた。

 ツインテールに眼鏡めがねだいだいの着物の上から白衣をかける。

 そばには、助手のアンドロイド《チビフィーナ》がちょこんと座る。

「泣き虫エイルン」

 ツルギはいとおしそうにエイルンの背中を見守っていた。