プロローグ



 ──こいつは今……何を言ったんだ?

 一人の少年は言葉を無くす。周りにいる、他の少年・少女たちもだ。彼らに微笑ほほえむのは、架空世界からやってきた勇者だった。その目はぐに彼らを見る。

 ──それがどれだけ難しいことなのか、本当に理解しているのか?

 少年は右手を握る。さびついていたはずの心臓が動き出していた。全身に血が巡っていく。

 少年の英明な頭脳は思索を始める。

 思索の先には獣がいた……可能性という名の獣が。その獣とは、もう一人の自分だった。

 偽り、潜み……獲物に飛び掛かる瞬間を、今か今かと待ち続ける。

 この獣は叫んでいた。変えたいと。壊したいと。暴れたいと。

 伴ったのはろうばいだ。コイツを解き放っていいのか?

 コイツを解き放つのは今なのか? と……。

 少年はめいびんなハンターでなければならなかった。少年の敵は多く、あまりに大きかったからだ。でも、勇者は示してしまった。

 少年が戦うべき、本当の敵を。心のどこかで、打倒してやりたかった極上の獲物を。

 そして、かつてあきらめてしまった地平線────一人の少女が見た夢。

 勇者が示したのは、少女の夢見た世界だった。

 弱者に優しい、弱者がいても良い場所だった。

 でも……少年はそれがどれほど難しい事なのかを知っていた。

「それが何を意味するのか分かっているのか?」

 少年の口が思わず動く。勇者は笑った。事もなげに答える。

「ああ。おれたちは世界とケンカをすることになるね」

 少年の身体からだを風が通り過ぎる。思考も心配も緊張も……負の要素だけをそそぐ、みそぎの風だった。少年の脳裏に少女のおもかげよみがえる。


 ひまわりの花みたいに笑う少女と────目の前の勇者が重なった気がした。


 少年は気付かない。自分の口元が、こくはくな笑みをかたどっていた事に。

「世界中のヘキサを救う。そのために……君たちの力を貸してほしい」

 この時は誰も分からない。少年自身もまた、よしもなかった。

 彼こそが、この世界を救うかもしれなかった本物の勇者で……


 自分こそ、この世界を壊すことになる解放者リベレイターだったと言う事に。