Part 01: 一穂(私服): あれ、沙都子ちゃん? 沙都子(私服): あら一穂さん。奇遇ですわね、お夕飯の買い出しですの? 一穂(私服): うん、今日は菜央ちゃんが作ってくれるんだけど、美雪ちゃんは今度のキャンプの準備で忙しいから。 沙都子(私服): 今度のキャンプは美雪さんが頼りですものね。魅音さんはキャンプというより、ほぼサバイバル……?的な知識に偏っているようですし。 一穂(私服): 沙都子ちゃんはキャンプ初体験? 沙都子(私服): ……えぇ、覚えている限りでは。ですからとても楽しみなんですの! 沙都子(私服): そう言う一穂さんは? 一穂(私服): 私もこんなにちゃんとしたやつは初めてかな。 一穂(私服): (……ゴールデンウィークの予定がキャンプになってから美雪ちゃんがちょっと元気がない感じに見えるのさえなければ、普通に楽しみって言えるんだけど) 一穂(私服): (美雪ちゃん、どうしたのかな……心配だな。他の皆もきっと気づいていると思うけど、他の子にも何も言ってないみたいだし……) 一穂(私服): (なにか、言えないことがあるのかな……?私なんか言っても、役に立たないから言えないだけで) 一穂(私服): (私って、本当に役に立たないな……) 沙都子(私服): 一穂さん……一穂さん? 一穂(私服): え? あっ、ごめんなさい。ちょっとお買い物で忘れ物してないか気になって。 沙都子(私服): そういう時はメモを持ってくると忘れませんわよ。私も買い物に来る時はちゃんとメモを持って来ますの。 一穂(私服): そ、そうだよね……次からはちゃんと気をつけるね。 一穂(私服): それにしても沙都子ちゃん、色々買ってるけどそれは今日のお夕飯の材料? 沙都子(私服): お夕飯の材料もありますけど、今度のキャンプでバーベキューをすることになりましたので……その下ごしらえのために必要なものを買いに来ましたの。 一穂(私服): そう言えばお料理は沙都子ちゃんたち担当だったよね。楽しみにしてるね。 沙都子(私服): えぇ、当日にすごいものを用意する予定ですわ! 一穂(私服): すごいもの……?よくわからないけど、なんだか楽しそうだね! 沙都子(私服): えぇ、とても楽しいものになる予定ですわ。是非期待してくださいまし! 一穂(私服): うんっ! Part 02: 美雪(私服): はーい、火ぃついたっと。 圭一(キャンプ): おぉ、すげぇ手際がいいな。さすがはガールスカウトだぜ。 美雪(私服): まぁ、この程度はね。 魅音(私服): さーて、それじゃバーベキューの準備を……って、なにこれ。 レナ(私服): どうしたの魅ぃちゃん。 魅音(私服): いや、このバーベキューの串だけ他のと別に包んであるんだけど……。 沙都子(キャンプ): ふっふっふ……あらあら、とうとう見つかってしまいましたわね。 詩音(私服): 沙都子? 沙都子(キャンプ): そちらは私が特別に配合した特製の超エキサイトなスパイスをふんだんに使用したバーベキュー串……。 沙都子(キャンプ): その名も、エキサイトバーベキューZですわ! 美雪(私服): Z……? 沙都子(キャンプ): Zはまぁ……言うなれば飾りですわ。 一穂(キャンプ): この前スーパーで色々買ってたのってこれを作るためのだったんだね。 沙都子(キャンプ): えぇ、辛いものが好きな梨花も大満足間違いなしの独自の配合で調合したスパイスに漬け込みましたの! 梨花(私服): ……みー? と言うことは、これは辛いのですか? 菜央(私服): それにしては、赤くないね。見た目は他の串と変わらないけど……。 沙都子(キャンプ): 赤い=辛いは定番すぎて面白くありませんわ。というわけで今回は唐辛子には頼らない辛みを追求してみましたのよ! 圭一(キャンプ): 唐辛子に頼らない辛み……なんか凄そうだな。 レナ(私服): はぅ……どんな味がするのかな? かな? 沙都子(キャンプ): それは食べてからのお楽しみですわ! 詩音(私服): 妙に自信ありげですね。 美雪(私服): じゃあこれも一緒に焼いちゃおうか。 美雪(私服): ……って、焼き始めたら沙都子エキサイトZからなんていうか……。 美雪(私服): いいニオイなんだけど、若干危険を感じるニオイが漂ってきた気が……?! レナ(私服): はぅ……焼いていると目がシパシパしてくるよぅ。 菜央(私服): 他の串はこんなニオイしないってことは、確実に沙都子エキサイトZが原因よね……? 詩音(私服): 沙都子……これ、本当に大丈夫なんですか? 沙都子(キャンプ): え、えぇ……もっ、もちろんですわ!あら、これなんてそろそろいい感じですわよ!どなたか食べてみてくださいまし。 梨花(私服): では、ボクがもらうのですよ。 羽入(私服): だ、大丈夫なのですか……? 梨花(私服): きっと平気なのです。……羽入、念のため感覚を切っておいて。それでは……もぐもぐ。 梨花(私服): みー、とってもおいしいのですよ。 梨花(私服): ゲッホゲッホゲホッゲホゲホッ?!?! 羽入(私服): り、りりり、梨花ぁ?!?! 沙都子(キャンプ): し、しっかりしてくださいまし! 梨花(私服): ゲホッ、ゲホッ、ゲフッ、ガフッ……み、みー……。 梨花(私服): と、とっても……おいしいの、ですよ。に、にぱー……! 詩音(私服): 梨花ちゃま、笑顔引きつってますよ?! レナ(私服): 水、水水っ! 梨花(私服): ごくごくごくごくごくごくごくごく……は、はぁ。 羽入(私服): り、梨花……? 梨花(私服): とっても、おいしかったのですよ……みー。 美雪(私服): おぅ……プロだ! プロがいる! 菜央(私服): なんのプロよ。 圭一(キャンプ): 梨花ちゃん、その串の残りを食べてみてもいいか? 魅音(私服): あ、私もちょっとチャレンジしてみたいな。 梨花(私服): みー……どうぞなのです。 魅音(私服): いっただっきまーす……あむ。 圭一(キャンプ): もぐもぐ……お、なかなか辛みが利いて……。 圭一(キャンプ): グブファッ?! レナ(私服): 圭一くん?! 魅音(私服): ゲッホゲッホゲホッ?! 詩音(私服): お姉ぇ?! 美雪(私服): は、はいお水! 圭一&魅音: ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく……!! 圭一&魅音: はーっッッ!! 一穂(キャンプ): そ、そんなに辛かったの? 圭一(キャンプ): からいって言うか、つ、つらいい……! 魅音(私服): し、舌が、舌が痛い……ッ! 沙都子(キャンプ): えっ? ……えっ? 圭一(キャンプ): さ、沙都子ォ!お前がイタズラ好きなのは知ってるけど、さすがにこれは……食べ物で遊ぶのはダメだろ?! 詩音(私服): 沙都子……どういうことです?食べた全員が涙目じゃないですか。 沙都子(キャンプ): えっ? あっ、ちっ、ちがっ……。 一穂(キャンプ): さ……沙都子ちゃんはイタズラのつもりはなかったと思うよっ?! 菜央(私服): 一穂? 一穂(キャンプ): 新しい味を作って、みんなに喜んでもらいたかっただけで……!前にスーパーで会った時も、そう言ってて……! 一穂(キャンプ): だから、えっと、そのっ……あんまり怒らないであげて……! 沙都子(キャンプ): 一穂さん……。 圭一(キャンプ): でもイタズラじゃないにしても……なぁ? ごふっ。沙都子、これ自分で味見したか? 沙都子(キャンプ): うっ?! し、しましたわよ!ですが、タレに漬け込むとここまでになるとはその……思わなくて……。 沙都子(キャンプ): ……ごめんなさいですわ。 レナ(私服): はぅ……調理方法を変えると味が変わるって知らなかったせいで、ちょっとやり過ぎちゃったんだね。 一穂(キャンプ): そんなに変わるの? レナ(私服): つけ込みとつけ焼きだと、結構変わっちゃうの。特に今回はバーベキューだから染みこんだ味が凝縮されてさらに濃くなっちゃったんじゃないかな? かな? 菜央(私服): で……これ、どうするの? 美雪(私服): 洗って味付けし直すのがベターかな。漬け込みで作ったなら洗って全部落ちるかわからないし、せっかく用意してくれた沙都子には悪いけど……。 沙都子(キャンプ): ……結構ですわ。いえ、私がやりましてよ。 沙都子(キャンプ): 確かに色々調合しているうちに楽しくなってきて、食べてくれる人のことを置き去りにしてしまった心当たりがないかと聞かれたら……ありますもの。 梨花(私服): 沙都子……ゲフゲフッ! 羽入(私服): 梨花、無理しないほうがいいのですよ。 一穂(キャンプ): ……じゃあ、私がもらってもいいかな? 沙都子(キャンプ): えっ……? 一穂(キャンプ): 沙都子ちゃんエキサイトZ。 Part 03: 一穂(キャンプ): もぐもぐ……うん、おいしい!ちょっと舌がぴりぴりするけど、なんだろう……大人の味ってこんな感じなのかな? 沙都子(キャンプ): 大丈夫ですの一穂さん?その……無理していません? 一穂(キャンプ): ううん、とってもおいしいよ。 圭一(キャンプ): おい、一穂ちゃん何本食べたんだ? レナ(私服): 6本……だね。1本はみんなで分けて食べたから、残りは……3本かな。 一穂(キャンプ): じゃあ残り全部、私がもらっていい? 沙都子(キャンプ): 食べられますの? 本当に大丈夫ですの?私もさっき一口食べて、火を噴きましたのよ?! 沙都子(キャンプ): 本当にムリをしてくださらなくても……。 一穂(キャンプ): 大丈夫、沙都子ちゃんのみんなを喜ばせようって努力……私がムダにはしないから! 一穂(キャンプ): もぐもぐ……! 美雪(私服): ……普通に美味しそうに食べてるね? 圭一(キャンプ): もしかして最初の一本がハズレで、実は他の串はそこまで辛くなかったりするとか? 魅音(私服): んー。その可能性はあるかも。 圭一(キャンプ): ……なぁ、一穂ちゃん。こっちの串ちょっともらっていいか? 一穂(キャンプ): うん、いいよ。 圭一(キャンプ): じゃあ箸で外して……もぐっ。 魅音(私服): 私も試してみようかな。もぐもぐ……。 圭一(キャンプ): ゴッフ! かっらぁ?!?!?! 魅音(私服): ぐ、ぅ……げほげほげほっ!ゲホッ、ゲホゲホッ! レナ(私服): 大丈夫、2人とも?! はいお水! 圭一(キャンプ): あっ、あっ、頭の中で火花が散った……! 魅音(私服): 最初のやつより辛いよこれ?!なんで一穂これ平気で食べられるのさ?! 菜央(私服): 最初の一本だけが異様に辛かった説は覆されたわね。まぁ、予想はできてたけど。 詩音(私服): にしても一穂さん、本当に平気みたいですね。 一穂(キャンプ): だっておいしいもん! もぐもぐ……。 梨花(私服): みー……ボクは辛いものは好きなはずなのですが。 圭一(キャンプ): もしかしてこの痺れる感じがダメなんじゃないのか?なんか後からビリビリッて来たヤツ。かなりキツかったぞ。 魅音(私服): あー、それあり得る。最初にぐわっ! って辛みがくるけど、そこは梨花ちゃん平気そうだったし。 レナ(私服): はぅ……痺れと辛みって似て非なるものって言うよね。 魅音(私服): まぁにしてもこれは量が多すぎだけど……ごふっ。 梨花(私服): みー、もう一度チャレンジを……。 羽入(私服): あぅあぅ、梨花やめるのですよ!これ以上はお腹が痛くなってしまうのです! 梨花(私服): でも、沙都子が作ってくれたものなので……羽入、次は感覚を繋いでもいい? 羽入(私服): 冗談は寄せ鍋ちゃんこ鍋なのです!僕まで地獄に道連れにするつもりですかー?! 沙都子(キャンプ): いいんですのよ、梨花。帰ったら痺れを減らしたやつをまた作りますわ。 梨花(私服): みー、約束なのです。 沙都子(キャンプ): えぇ、もちろんですわ! 一穂(キャンプ): もぐもぐ……ふふっ、2人は仲良しだねぇ。 詩音(私服): ちょっとちょっと……美雪さん菜央さん。言いにくいんですけど……一穂さんって、味音痴なんですか? 菜央(私服): 特にそんな風に感じたことはないけど……そう言えばこの子がご飯に文句つけたこと、なかったかも……かも。 詩音(私服): なんかいつも文句言われてませんでしたっけ? 美雪(私服): パン出したらご飯がいいとはよく言うけど、冷静に考えるとそれくらいしかないね……確かに、味に文句言われたことはなかった気がする。 美雪(私服): 私がまずいとはいかなくても微妙かなって思ったヤツも、ニコニコ顔で美味しいって食べてくれるし。 菜央(私服): そもそもあたしもあんたもちゃんと味見するから、変なもの一穂に食べさせたことなかったじゃない。 美雪(私服): それもそうか……いや、しかし。 美雪(私服): 見てると気持ちいい食べっぷりだよねぇ。ははっ。 菜央(私服): 笑ってる場合じゃないでしょうが……あの子にあまり刺激物与えないようにしないと。舌は平気でも、いつかお腹壊すわよ。 美雪(私服): ま、今日くらいはいいんじゃない?……ふふふっ。 一穂(キャンプ): はぁ、お腹いっぱい……ごちそうさま、沙都子ちゃん。 沙都子(キャンプ): ……一穂さん、大丈夫なんですの? お腹とか。 一穂(キャンプ): いっぱいになったよっ! 沙都子(キャンプ): あの、そうではなく……いえ、なんでもありませんわ。 沙都子(キャンプ): 美味しく食べてくださったなら、嬉しいですわ。……ですので、あとで。 一穂(キャンプ): えっ? 沙都子(キャンプ): お菓子持ってきたので、小腹が空いたら一緒にいかがでして? 一穂(キャンプ): もらっちゃっていいの? 沙都子(キャンプ): お口直しと、お礼ですわ。 一穂(キャンプ): ……お礼を言われるようなことしてないと思うけど。むしろ私ばっかり食べちゃったような……。 沙都子(キャンプ): 他の皆さんは普通のバーベキューの方でお腹いっぱいになられましたし……。一穂さんのおかげで食材が無駄になりませんでしたもの。 一穂(キャンプ): えっと……じゃ、じゃあお菓子ご馳走になろうかな。 菜央(私服): あの子、まだ食べる気なのかしら……。 美雪(私服): 2人ともキャンプを満喫してるね……ふふっ。 菜央(私服): 何笑ってるのよ。 美雪(私服): いやさぁ、一穂と沙都子見てたらなんか楽しくなってきてさ。 美雪(私服): キャンプって楽しいなって思って。 菜央(私服): 今更それ言う? 美雪(私服): 今さら思い出したんだよ……ふふふっ。 一穂(キャンプ): (……あれ、美雪ちゃん笑ってる) 一穂(キャンプ): (よくわからないけど……元気になってくれたならよかった!)