Part 01: 魅音(私服): いっけぇぇ、圭ちゃん!この忍者池を渡り切れば、クリアだよ~! 詩音(私服): 池の中に設置された飛び石を足場にして、向こう岸まで横断する最終関門……!もし落ちたら、最初からやり直しですよ~。 菜央(私服): しかも飛び石の中には、本物の石じゃなくて発泡スチロール製で浮かんでるだけの偽物もあるのよね。さて、見分けがつくかしら……? 羽入(私服): あぅあぅ……僕は見事にだまされて、思いっきり池に飛び込んでしまったのですよ~。 菜央(私服): えぇ、本当に豪快なダイブだったわね……。全員でしばらく、笑いが止まらなかったわ。 羽入(私服): わ、笑うなんてみんなひどいのですよ~!僕は溺れるかと思って必死だったのに~!あぅあぅあぅ~! 美雪(私服): いやー、にしてもスピードと一瞬の判断力、そして運……あのテレビ番組で一番好きだったゲームを、まさか実際にプレイできるとは思わなかったよ。 梨花(私服): ……みー、そんな面白い番組があったのですか?今度ボクにも教えてくださいなのです。 一穂(私服): (だ、大丈夫かな……?確かあの番組って、微妙にこの「世界」と放映時期がずれてた気がするけど……) レナ(私服): あははは! 頑張ってねー、圭一くん!新記録達成まであと少しだよ~! 圭一(私服): へっ、任せておけって!俺はこういうアスレチック系のゲームが昔から大の得意なんだからよっ! 沙都子(私服): をーっほっほっほっ、それは楽しみですわね!では、私たちが渾身で作り上げた最後の難関を精々お楽しみくださいまし……! 圭一(私服): おぉっ、望むところだ!んじゃ……いっくぜえぇぇぇえっっ!! 一穂(私服): が、頑張って前原くん……えっ? 魅音(私服): なっ……! 最初からトップスピードっ?さすがに無茶だよ、圭ちゃん! 詩音(私服): い、いえ違います……!ちゃんと本物の石を選んだ上で、確実に渡っているようです……! 圭一(私服): そらそらそら、そらぁぁっ!!どんどん行くぜ、おりゃぁぁぁあっ!! 梨花(私服): みー、すごいのです……!まるで源義経の八艘飛びのように、鮮やかな足取りなのですよ~! 圭一(私服): よし……これがラストで、ゴールっ!タイムはどうだ、詩音っ? 詩音(私服): ちょっと待ってください……わっ、すごいです!沙都子のタイムを、コンマ2秒上回りました! 沙都子(私服): なっ……なんですってえぇぇっ?まさか、そんな奇跡のようなことが起こりえるはずありませんわぁぁ?! 圭一(私服): へへっ……そうさ、俺は奇跡を起こしたんだ!どうだ沙都子、俺の勝ちだぁぁぁ!! 沙都子(私服): く、くぅぅっ……!このコースのことを熟知している私が、初見の圭一さんに破れるなんて……! レナ(私服): すごいよ、圭一くん!でも、どうやってあの足場の石が本物かどうかを判断できたのかな、かな? 沙都子(私服): 私もお聞きしたいですわ!あの偽物の石は菜央さんに作ってもらった、本物そっくりの代物でしたのに……! 圭一(私服): いや……確かにすげぇ出来だった。プレイ中に判断しろって言われたら、絶対見分けがつかなかったと思うぜ。 圭一(私服): だから俺は、全部暗記したんだ!そう……先攻の沙都子が踏んでいった石はどれとどれだったのかを、なっ! 沙都子(私服): んなっ……! だ、だから私が何としても先攻になるよう、主張されたんですのね?くっ、迂闊でしたわ……! 美雪(私服): いや……そうは言っても、見たのは1回だけだよね? それで全部覚えるなんて、もはやカメラ並みの記憶力じゃんか……! 梨花(私服): みー。圭一はゲームの目的と意味が定まると、とんでもないパワーを発揮するのですよ。にぱ―☆ 沙都子(私服): うぅ……最終難関である以上、難易度はもう少し高めの方がよろしかったかもしれませんわね。 沙都子(私服): 本番ではもっと偽物の石を増やすか、あるいは飛び石の間隔を広げたりして渡りづらくするとか……むむ……。 魅音(私服): いやいや、沙都子。あんまり難しくしちゃうと誰もクリアができなくなるから、さすがにまずいよ。 詩音(私服): ですね。それに難度を上げれば上げるほど、怪我とかのリスクも大きくなりますし。 沙都子(私服): そうは申されましても……初見の圭一さんにノーミスでクリアされたのでは、私にだって意地とプライドというものがありましてよ。 雪泉: いえ……沙都子さん。これは修行ではなく楽しませるためのアトラクションですから、これくらいのさじ加減でよいかと思います。 斑鳩: わたくしも、雪泉さんと同じ意見です。失敗よりも成功の体験を増やすことにこそ、喜びがあってやりがいがあるものですから。 飛鳥: 一般の人には、十分のレベルじゃないかな。私だってつい、1度うっかり落ちそうになっちゃったくらいだし……あはは……。 梨花(私服): みー。そうは言っても飛鳥は落ちる前に次の石へ素早く飛び移って、見事な足さばきだったのです。 飛鳥: 発泡スチロールは不安定だけど、それなりに浮力があるからね。沈むまで少しの猶予があって、助かったよ。 美雪(私服): いや、猶予って言っても1秒ほどでしょ?やっぱ本職の忍者って、普通の人とは能力も鍛え方も違うって感じだよねぇ。 斑鳩: そう褒めていただけるのは嬉しいんですが……わたくしたちからすれば皆さんも、「普通の人」とはかなり違ってると思いますよ。 一穂(私服): え、えっと……それって、どういうこと? 斑鳩: あ……すみません。決して悪い意味で言ったわけではないので、お気を害さないでください。ただ……。 斑鳩: 以前この村に出没したあの怪物たち……わたくしたちが戦ってきた相手と比べても、相当の力を有していました。 斑鳩: なのにあなたたちは、それを難なく倒した……その点については、大いに気になるところです。 飛鳥: 斑鳩さん……。 美雪(私服): んー、そう言われても……この村で暮らし始めた頃から、なんとなく当たり前のように力を使えてたわけだしね。 一穂(私服): ……うん。確かに普通じゃないかも、って自覚は少しあるけど、私たちだってどう答えたらいいのか……ごめんなさい。 斑鳩: いえ。こちらこそ立ち入ったことを聞いてしまって、失礼しました。 魅音(私服): ん……? そういやそろそろ、お昼の時間だね。よかったら旅館に戻って、昼食にしない? 飛鳥: えっ、いいの?実はお腹ぺこぺこで、いつ言い出そうかなって思ってたんだよ~。 雪泉: ふふっ……飛鳥さんはどこに行っても、相変わらずですね。 斑鳩: …………。 斑鳩: (怪物を倒した、この村の子たちの力……確かに、どういった原理によるものなのか知りたいとは思う。けど……) 斑鳩: (それ以上に気になるのは……やはり……) 羽入(私服): ……? あぅあぅ、どうかしましたか? 斑鳩: あ、いえ……別に……。 Part 02: 飛鳥: あー、今日も楽しかったぁ……♪ほんと、この村に来てよかったね。 雪泉: そうですね。景色も良くて、お食事もおいしく……村の人たちは明るい表情で、生活を送っている。 雪泉: ただのんびりと過ごしてるだけなのに……日々の疲れと心の傷が癒されていくようです。 飛鳥: うんうん、わかるよ雪泉ちゃん!とりあえず『影』の残党がいないのを確かめてから、頃合いを見て引き上げるつもりでいたけど……。 飛鳥: こんなに毎日を楽しく過ごせるんだったら、もう少しくらいは滞在してもいいかもね。……ですよね、斑鳩さん? 斑鳩: えっ……?ごめんなさい、話を聞いてませんでした……どうしましたか、飛鳥さん? 飛鳥: あ、いえ……せっかくだからあと数日はこの村にいてもいいんじゃないか、って雪泉ちゃんと話してたんですけど……。 斑鳩: ……そうですね。あまり長居しすぎると、魅音さんたちにご迷惑をおかけすることになるかもしれませんが……。 斑鳩: 数日であれば、問題はないと思います。ただ、……。 雪泉: ……何か心配事でもあるんですか、斑鳩さん? 斑鳩: 雪泉さん……あなたはこの村にいる間、何らかの手段で外部への連絡を試みましたか? 雪泉: あ、はい。ただ、何度電話をかけても通話が繋がりませんでしたし、忍び文への返信もなしのつぶてで……。 斑鳩: わたくしもです。とはいえここは外国でもなく、来た道を普通に引き返せば帰還できる。だから、危機を感じていませんでしたが……。 飛鳥: ……何かあったんですか、斑鳩さん? 斑鳩: ロビーに置いてあった今朝の新聞……日付を見て、驚きました。『昭和58年』と書かれてあったんです。 飛鳥: なっ……? そ、それって……?! 斑鳩: ……はい。どうやらわたくしたちは、何らかの手段で時間を超えてしまったようです。どういった理屈なのかは、わかりませんが……。 雪泉: 最近は新聞を読む機会がめっきり減ったので、気づくのが遅れてしまったというわけですね……。 雪泉: それに昭和58年は、私たちの時代から数えてもかなり昔ということに……なっ? 斑鳩: ……あなたも気づきましたか、雪泉さん。昭和58年は、この#p雛見沢#sひなみざわ#rが滅ぶことになった大災害が起きた年……。 斑鳩: つまり、この村に間もなく未曽有の大災害が起きて……みんな、死んでしまうのです……。 飛鳥: そ、そんな……! 雪泉: ……。どうしますか、斑鳩さん? 斑鳩: 実はわたくしにひとつ、考えがあります。ある人と会っておきたいので、しばらくひとりで行動させてください。 飛鳥: だ、大丈夫ですか? 危険かもしれませんし、私たちもご一緒したほうが……。 斑鳩: いえ、……大丈夫です。ただ万が一のことを考えて、2時間ほどここで待っててもらえると助かります。 雪泉: 戻ってこなかった時は……どうすれば? 斑鳩: ……わたくしたちは「忍」です。その責務と本分に従い、情報の持ち出しとわが身の確保を第一に行動してください。 飛鳥: なっ……? そ、それってまさか……!? 斑鳩: 安心してください、飛鳥さん。あくまでも「万が一」のための保険です。 斑鳩: 大丈夫です、ちゃんと戻ってきます。だからわたくしのことを信じてください……ね? 飛鳥: ……わかりました。 斑鳩: ……。なんて言って、来てしまいましたが……。 斑鳩: 我ながら、無茶な選択だと自分でも思います。でも、せめて真実の一端でも掴んでおかなければここに来た意味が……、っ? 羽入:私服: …………。 斑鳩: ……来てくださいましたね、羽入さん。 羽入(私服): ……あぅあぅ……。 Part 03: 斑鳩: すみません、お呼びたてをして。どうしてもあなたに確かめておきたいことがありましたので、無理を聞いていただきました。 羽入(私服): あぅあぅ……それは構わないのですが、僕に何の御用なのですか? 斑鳩: ……羽入さん、正直に答えてください。あなたが身にまとってるその力は、いったい何によるモノなのですか……? 羽入(私服): ……?あぅあぅ、あなたの言っている意味がよくわからないのですよ。 斑鳩: では、失礼を承知で申し上げます。あなたから感じる波動と、わたくしたちが追っていた『影』の気配は……とても良く似てるのです。 斑鳩: 正直言って、最初にお会いした時はあなた自身が『影』の本体かと錯覚して、攻撃を仕掛けたほどでした……。 羽入(私服): …………。 斑鳩: それに、あなたは運動が不得意そうに振る舞っておられますが……わたくしにはわかるのです。 斑鳩: あなたの内に秘めたる力は、あのお友達の誰よりも強く……そして「異質」であると。 羽入(私服): ……っ……。 斑鳩: 教えてください。あなたは何者ですか?そして、どうしてわたくしたちをこの村に連れてきたんです? 斑鳩: この村は、すでに廃村になったと聞きました。近隣の村と間違えたわけでもないと思います。 斑鳩: なのに、この村は生きている……しかも災害が起きた、あの年の時間の中で!これは、いったいどういう……!? 羽入(私服): ――そこまでにしてください。 斑鳩: ……えっ……? 羽入(私服): 確かに僕は、あなたたちが他の「世界」……それも、時間や場所の概念を超えたところからここへやってきたことに気づいています。 羽入(私服): ですが……それをここで語るべきではないし、また聞くべきではないと思っています。 羽入(私服): 可能であれば、これ以上何も起こらず……何も起こさないまま、あなたたちを元の「世界」へ無事に送り出したいのです。 斑鳩: それは、つまり……たとえこの「世界」が滅んだとしても、あえて未来を変えないままにしてもらいたい……ということでしょうか? 羽入(私服): はい。そうでなければ、あなたたちも僕たちを束縛して閉じ込める……「あの者」が作り出した因果律に組み込まれるかもしれない。 羽入(私服): 元々あなたたちは、この「世界」とは無縁であった存在……ともに不幸の連鎖に巻き込まれるべきではないのですよ。 斑鳩: ……。あなたは、それでもよいのですか?未来が不幸になるとわかってるのであれば、皆さんを連れて脱出したほうが……! 斑鳩: もし、必要であればわたくしたちもお力添えします! だからっ……! 羽入(私服): ありがとう……斑鳩。あなたはとても優しい人なのです。 羽入(私服): だからこそ、その力は別の人に向けて使ってもらいたいのです。……そのお気持ちだけで、十分なのですよ。 斑鳩: っ……は、羽入さん……!? 羽入(私服): 神でさえ及ばぬ力によって作り出されたこの歪な「世界」……でも、あなたたちのおかげで希望は見えました。 羽入(私服): あとは僕たち……いえ、私たちが成功することを祈っていてください。 羽入(私服): そしていつか、どこかの「世界」で再び会うことができたら……その時は……。 斑鳩: ま、待ってください!話はまだ、終わって――!? 飛鳥: ……さん、斑鳩さんっ……! 斑鳩: ……。……ん、……ぅ……? 雪泉: あっ……気がつきましたね!良かった、本当に……! 斑鳩: ……あの、わたくしはいったい、……? 飛鳥: 覚えてないんですか……?あなたは誰かと会ってくると言って、行き先を告げずに出かけて……。 雪泉: 2時間たっても戻ってこないから、飛鳥さんと2人で探してたんです。そうしたらここに、あなたが倒れてて……! 斑鳩: そう、だったんですか……。心配をかけて、すみません。 飛鳥: ……私こそごめんなさい、斑鳩さん。約束の時間が過ぎたら、2人だけでも脱出しろって言われてたのに……。 飛鳥: どうしても、置いて逃げることなんてできなくて……それで……っ! 斑鳩: ……謝ることなんて、ありませんよ。むしろ、わたくしを見捨てずにいてくれてありがとうございます。 飛鳥: あの……立てますか? 斑鳩: はい、大丈夫です。気を失ってはおりましたが、身体のどこにも異常はないようですし。ただ……。 飛鳥: ? どうかしましたか……? 斑鳩: あ、いえ……。 斑鳩: (おかしい……誰に会うつもりだったのか、何を確かめようとしてたのか……思い出すことができなくなっている) 斑鳩: (誰かが、わたくしの記憶に干渉した?だけど、それをこの2人に話せばさらに心配をかけてしまうかもしれない……) 雪泉: とにかく、一度旅館に戻りましょう。まずはそこでゆっくり休んでから……、あら? 魅音(私服): あっ……いたいた!おーい、大丈夫ですかー? 詩音(私服): 行方が分からなくなったって言われて、心配しちゃいましたよ……でも、皆さんがご無事で何よりです。 飛鳥: 斑鳩さんが戻ってこないから、魅音さんたちにも協力してもらったんです。……すみません、勝手なことをして。 斑鳩: いえ……わたくしこそ、とんだご迷惑を……。 羽入(私服): あぅあぅ……何はともあれ、斑鳩が無事でよかったのですよ~。 斑鳩: …………。 詩音(私服): おおっと、ここで敵味方入り乱れての大バトル!勝利は誰の手に~っ? レナ(カグラ): あはははは!沙都子ちゃん羽入ちゃん、いっくよー! 沙都子(カグラ): 手加減無用ですわ、をーっほっほっほっ! 羽入(カグラ): っ……ま、負けないのですよ……っ! 羽入(カグラ): やぁぁっ! こ、これでどうですかーっ? 沙都子(カグラ): ぐぅっ? や、やりますわね……!次は、こっちの番でしてよー! レナ(カグラ): あははは! みんなまとめて、レナ……じゃなかった、この忍1号がお持ち帰り~♪ 魅音(私服): いやー、忍者ショーも上々の盛り上がりだね。観客も喜んでくれているみたいだし、こりゃ本格的に定着させてもいいかもだよ。 詩音(私服): それもこれも、飛鳥さんたちが殺陣の指導をしてくれたおかげですよ。どうもありがとうございます、本当に。 飛鳥: ううん、みんなの頑張りのおかげだよ。また何かあったら、いつでも呼んでね。どこにいても、すぐに駆けつけるから♪ 雪泉: 私たちの学校の電話番号、渡しておきます。末永いお付き合いを、お願いしますね。 斑鳩: …………。 美雪(私服): ? どうかしましたか、斑鳩さん? 斑鳩: あ、いえ。 斑鳩: (……なぜでしょう、違和感があります。でも、いったい何が……?)