Part 01: 圭一(私服): ……いやー、それにしてもまいったぜ。いきなりレナと魅音が俺を分校に呼び出したかと思ったら、理由も話さずに両腕を引っ張ってきたんだからさ。 圭一(私服): てっきり俺は、自分でも気づかないうちに何かまずいことをしたせいで2人を怒らせて、罰ゲームを食らわせられたのかと思ったぜ。 レナ(私服): はぅ……ごめんね、圭一くん。#p興宮#sおきのみや#rへ買い物に出かけた帰りに魅ぃちゃんと会って、お話しながら歩いていたことは記憶にあるんだけど……。 魅音(私服): 水車小屋のある辺りだったかなぁ……そこを通りがかった前後で、急に意識が遠くなってさ。 魅音(私服): 気がついたらなぜかレナと一緒に分校にいて、圭ちゃんの身体を使って綱引きをしていたんだよねー。腕がもげる前に我に返って、ほんとよかったよ。 圭一(私服): ……おいおい、シャレになってねぇって。俺の腕はプラモデルみたいに着脱式じゃないんだぞ? 詩音(私服): 全くです。今回の一件は不可抗力だったとはいえ、お姉はもう少し圭ちゃんをいたわってあげてもバチは当たらないと思いますよ。 魅音(私服): だから、いたわってあげているじゃん!これだけのご馳走を人数分用意するのって、結構大変だったんだよー! 美雪(私服): まぁまぁ、詩音も魅音もそのくらいで。私たちは普段から見慣れてて気にしないけど、今はお客さんも同席なんだからさ。 美雪(私服): あんまりいつもの調子で言い合いをしてたら、清浦さんたちがびっくりしちゃうと思うよ。 魅音(私服): あ……それもそうだね。すみません、清浦さん。私たちって、毎度こんな感じなので……。 刹那: ううん、気にしないで。私たちはみんなのご好意で同席してるだけなんだから。……だよね、世界? 世界: えっ? う、うん……。 言葉: むしろ私たちこそ、この村に余計な騒動を持ち込んでしまったようで……本当にすみませんでした。 詩音(私服): いえいえ、その点についてはご心配なく。こういった乱痴気騒ぎについてはもう私たち、すっかり慣れっこになっていますので。 刹那: そうなの? この前、桂さんに変なバケモノがとりついてたけど……あれも珍しくないってこと? 一穂(私服): ……っ……。 菜央(私服): 毎日ってほどじゃありませんが……もう慣れました。言ってみれば、山に住んでる獣みたいなものです。 世界: いや、獣って……見た目もスケールも全然違ってて、とんでもない奴らだったんだけど……。 言葉: でも……皆さんとてもお強くて、羨ましいです。あんな怪物を相手にしても、全然ひるまずに戦うことができるなんて……すごいと思います。 沙都子(私服): をーっほっほっほっ、私たちもそれなりに場数を踏んできておりますしね~! 梨花(私服): みー。言葉たちも『ロールカード』の使い方を覚えたら、きっと怖いものナシなのですよ。 言葉: ど、どうでしょう……?私は、乱暴な様子を見るだけでも怖いので……きっと足がすくんでしまいます。 世界: ……よく言うわ。この前は私のことを、殺そうとしてたくせに。 言葉: ご、ごめんなさい……!でも、あれは私の意思でそうしたわけじゃ……。 刹那: ……やめなって、世界。せっかくみんな無事だったんだし、この村の人たちに迷惑をかけるべきじゃないよ。 世界: はぁ……わかったわ。私、もう疲れたから……先に休ませてもらっていい? 詩音(私服): えぇ、どうぞ。私、客間まで案内しますねー。 言葉: ……私も、少し席を外してもよろしいでしょうか。助けてもらって申し訳ないのですが、まだ身体の調子が戻りきっていないみたいなので……すみません。 魅音(私服): いやいや、謝る必要なんてないですよ。あんな目に遭ったんだから、気分が優れなくても当然でしょうしね。 魅音(私服): 一穂たちと一緒に帰るまで、とりあえず別室で休んでいてくれて大丈夫ですよ。……レナ、悪いけど頼んでもいい? レナ(私服): うん、わかった。……桂さん、レナについてきてください。 言葉: ……すみません。ありがとうございます。 菜央(私服): あたしもついていくわ。行きましょう、桂さん。 刹那: はぁ……まったく、あの2人ってばどうしようもないね。 一穂(私服): え、えっと……桂さんと西園寺さんって、あまり仲が良くなかったりするんですか? 刹那: ……少し前までは、そうでもなかったんだけどね。桂さんは誤解を受けやすい子だけど、話してみると楽しいし、優しいから。でも……。 一穂(私服): でも……なんですか? 刹那: 仲良しの男の子に頼まれた世界が、桂さんを彼に紹介してから……ギクシャクし始めてね。 刹那: 今ではすっかり、彼を巡って腹の探り合い。……いい加減、どっちかに決めてほしいところだよ。 一穂(私服): …………。 言葉: ご面倒をおかけして申し訳ありません、竜宮さん……鳳谷さん。私のせいで皆さんを危ない目に……。 レナ(私服): あははは、気にしないでください。魅ぃちゃんと詩ぃちゃんが言っていましたけど、#p雛見沢#sひなみざわ#rではいつも通りのことですから。 菜央(私服): あんまり日常的になりすぎてるのも、どうかって気もしますが……まぁちょっとした余興程度だと思っててください。 言葉: ……。本当に、皆さんのことが羨ましいです。怪物を相手にして一歩も引かないくらいに勇気があるし、さっきの料理だって……。 言葉: 私、料理が苦手で……あんなふうに作ることのできる竜宮さんたちがすごいと思いますし……羨ましいです。 レナ(私服): はぅ……ありがとうございます。でも、料理ってちょっとした工夫でなんとかなったりするものなんですよ。 言葉: 皆さん、そう言うんですが……どんなに頑張ってみても、私には……。 菜央(私服): ……じゃあ、試してみませんか? 菜央(私服): せっかくお知り合いになれたことですし、それに「旅の恥はかき捨て」とも言いますから……この機会に新しいことをやってみてもいいと思います。 菜央(私服): 失敗したって、外に漏れることがないんだから思いっきり羽目を外してみるのも悪くないと思いますよ。……どうです、桂さん? 言葉: …………。 レナ(私服): あ……も、もちろん無理にとは言いません!気が向いたらでもかまわないので、その……。 言葉: ……わかりました。やってみます。 言葉: 確かに、この不思議な体験をしてる中で自分じゃない自分になってみるのも、一つの手かもしれませんね……よろしくお願いします。 菜央(私服): 桂さん……。 レナ(私服): あはははっ、それじゃ明日は料理講習だねっ。菜央ちゃんもよかったら、手伝ってくれる? 菜央(私服): えぇ、もちろん。桂さんのために、素敵なレシピを考えてくるわね♪ 言葉: …………。 言葉: (姉妹じゃないって言ってましたが……この2人を見てると、心のことを思い出しますね。とても、微笑ましくなります) 言葉: (あの子だったらきっと、やってみたら? って背中を押してくれるはず。だから……) Part 02: レナ(私服): はぅ……それじゃ、料理を作るコツについて講習を始めます。みんな、準備はいいかな……かな? 菜央(私服): はーいっ。あたしはいつでも準備OKよ~♪ 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!あのお料理上手のレナさんから手ほどきをいただけるなんて、なんという好機会! 沙都子(私服): ぜひともそのテクニックを盗m……ではなく、参考にさせていただきましてよ~! 梨花(私服): それに菜央が、今回の講習のために都会の最新レシピを考えてきてくれたそうなので、それを聞くのも楽しみなのですよ。にぱ~♪ 羽入(私服): あぅあぅ、どんな料理を食べさせてもらえるのかもう待ちきれないのですよ~♪ 美雪(私服): えっと、あのさ……突っ込むのも野暮な話だけど、今回の講習って確か、桂さんの料理スキルを高めるために開かれたもの……のはずだよね? 美雪(私服): なのにどうして、参加者がこんなにも増えたのさ?アシスタントとしての菜央はともかく、沙都子に梨花ちゃん、羽入まで……? 梨花(私服): みー。美雪たちが話しているのを立ち聞きして、面白そうなので一穂にお願いしたのですよー。 一穂(私服): ご……ごめん、美雪ちゃんっ。梨花ちゃんたちに囲まれて頭を下げられたら、とても断りきれなくて……。 沙都子(私服): それに、料理というものは大勢でやってこそそれぞれのスキルや知識に触れ合うことができて、大いに参考になるものでしてよ~! 美雪(私服): まぁ、人数が増えたほうが賑やかにはなるけど……っていうか、沙都子と梨花ちゃんは料理が上手なんだから今さら講習を受ける必要なんてないでしょ? 圭一(私服): そうだな……羽入に至っては、明らかに講習の趣旨を間違えているみたいだし。 羽入(私服): ぼ、僕も料理の知識を伝えるために来たのです……!和洋中華に宇宙食まで、どんなものでも遠慮なく聞いてほしいのですよ~! 圭一(私服): あのな……最後のやつって、一般家庭の設備で作ったりできるものじゃねぇだろ? 菜央(私服): まぁ、いいじゃない。楽しくやるってのはあたしも大賛成だし、いいと思うわ。桂さん、他の子たちも参加で構わないかしら? 言葉: えぇ、もちろんです。……といっても、この中だと私が一番手際が悪いと思うので皆さんにご迷惑をおかけするかもしれませんが……。 美雪(私服): はいはい、そういうことは言いっこなしで。でないとここにいる料理イマイチっ娘が、さらに凹んでしまいますよー。 一穂(私服): ご、ごめんなさい……っ。 言葉: …………。 言葉: ふふっ……わかりました。皆さん、よろしくお願いします。 レナ(私服): それじゃ、始めるね。……そういえば桂さん、彼氏さんの好きな料理ってどんなものか知っているかな、かな? 言葉: あ、はい。誠くん本人に直接聞いたりしたので、ある程度は把握してます。確か……。 …………。 レナ(私服): はぅ……なるほど。それじゃ桂さん、当分の間はその料理をレパートリーから除外するようにしてね。 言葉: えっ……? 菜央(私服): どういうこと、レナちゃん?どうせなら好きな料理を作ってあげたほうが、相手は喜んでくれるんじゃないの……? レナ(私服): あははは。菜央ちゃんみたいに料理の腕がある子だったら、もちろんそれでいいと思うよ。 レナ(私服): でも、桂さんは料理があまり得意じゃない。だとしたら相手の好きな料理を作ると、かえってその欠点を際立たせることがあると思うの。 一穂(私服): え、えっと……それって、どういうこと? レナ(私服): 好きな料理って、他のものよりも食べる機会が多くなるでしょ? 家庭以外にも、外食とかで。 レナ(私服): そうすると、どうしても合格の基準点が高くなる。普段から好みを把握しているお母さんや、プロの職人さんが作ったものとの比較になるからね。 沙都子(私服): なるほど……好みが固定された料理では、オリジナリティを差し挟むとリスクにも転じやすい。レナさんのご指摘は、ごもっともですわ。 梨花(私服): みー。好きなものも嫌いなものも、同じなのです。沙都子もカボチャが入っていると聞くと、それだけで料理に口をつけてくれなくなるのですよ。 沙都子(私服): そ、それとこれとは話が違いましてよ……!変なことを言って流れを混乱させないでくださいまし! 美雪(私服): んー、つまり好きな料理だと腕と経験の差が明らかに出やすくなるから、慣れていないうちはレナの言う通りにしたほうがいいってことだね。 圭一(私服): 確かにな。俺も豚骨ショウガ味を食べようとして中途半端な味噌味を出されたりしたら、不味いって感じることもあったりするかもしれねぇぜ。 菜央(私服): あと……これはあたしのお母さんからの受け売りなんだけど、思春期から大人にかけての男子はあまり味覚が発達してないことが多いそうなの。 圭一(私服): なっ……? それって本当なのか、菜央ちゃん?! 菜央(私服): えぇ。もちろんそれは前原さんが味音痴だって意味じゃないから、安心してね。 菜央(私服): ただ、そういった中高生、大学生の男子だと繊細な味よりもガツンと濃くて、わかりやすい味付けを好む傾向があるから……。 菜央(私服): 言い方は悪いけど「お子様向け」くらいの感覚でまとめたほうがいいんだって。 圭一(私服): お、俺の舌はお子様レベルってことなのかっ?確かに普段の飯はインスタントだのレトルトだの、質より量ってことが多い気がするが……! 美雪(私服): ……っていうか、菜央。そういう栄養学的な知識は、小学校のキミが知っておくことじゃないと思うんだけど……。 菜央(私服): 別にいいでしょ。あたしのお母さん、そういうことは早い段階で覚えておいたほうが社会に出た時に役立つって考え方の人だもの。 菜央(私服): 美雪だって、中学生のくせに法律だの社会事情だのにやたらと詳しいところがあるじゃない。それと同じよ。 美雪(私服): いや……私の場合は生活環境のおかげというか、年上の公務員の人と接する機会が多いから勝手に覚えちゃっただけの話なんだけど……。 菜央(私服): まぁ、それはさておいて……というわけだからカレー、ハンバーグ、とんかつなどで勝負すると、添加物山盛りのレトルトや冷凍にはとてもかなわない。 菜央(私服): だってあっちは、食べた時の味のインパクトをいかに大きく出すかでレシピをまとめてるんだもの。そうよね、前原さん? 圭一(私服): ……ぐうの音も出ねぇ。すまねぇレナ、お前が時々作ってくれる手の込んだ煮物とかを、決して軽んじているわけじゃねぇんだが……。 レナ(私服): あははは、気にしないで。……それに、そうは言っても圭一くんはレナの作ったおかずをいつもおいしいって食べてくれるよね? レナ(私服): それが嘘じゃないってこともよくわかっているからレナは嬉しいし、作りがいがあるんだよ~はぅ♪ 美雪(私服): んー……なんか、某料理番組みたいな話の展開になってきたね。要するに、どんな料理ならいいってことなの? 菜央(私服): それを今から紹介するわ。……あたしのおすすめはずばり、生姜焼きよ! 梨花(私服): みー、生姜焼き……とは、どんな料理なのですか? 美雪(私服): えっ、嘘……?梨花ちゃんたちって、生姜焼きを知らない? 沙都子(私服): 生姜そのものはよく知っておりますけど……つまりそれを芋か何かのように切って炒めて、食べるということですの? 羽入(私服): あ、あぅあぅ……想像しただけで、口の中がひりひりとした感じになって辛いのですよ~……。 一穂(私服): え、えっと……この時代、じゃなくて#p雛見沢#sひなみざわ#rだとあまり有名な料理じゃなかったの? レナ(私服): はぅ……実は、そうだったみたいだね。レナは昔、東京のデパートの食堂で食べたことがあったから一応知っていたんだけど……。 レナ(私服): 菜央ちゃんにレシピを提案してもらって、なるほどって思ったんだ。これなら初めてでもきっとおいしく作ることができるかな、って。 言葉: そ、そうなんですか……?でも、あんまり難しい料理だと味付けで失敗してしまうかもしれませんが……。 菜央(私服): 大丈夫ですよ。レナちゃんの言う通りに作れば、きっとおいしいものができると思いますから……ね? 言葉: は、はぁ……。 Part 03: 圭一(私服): ……で、こいつが生姜焼きの試作ってわけか。念のために確認しておくが、これは桂さんが作ったものなんだよ……な? 言葉: は、はい……お口に合うと、いいのですが……。 美雪(私服): んー……さすがに、若干焼いた肉の形にばらつきがあったりして、拙さは否めないけど……。 一穂(私服): あ、でも……匂いはとっても、おいしそうだよ。うぅ、なんだか吸い寄せられそう……。 菜央(私服): ……一穂、よだれよだれ。だらしないから、口元を拭きなさいよ。 一穂(私服): ご、ごめんね、菜央ちゃん……。 菜央(私服): あんたにはちゃんと、あとであたしが作ってあげるから。もちろん炊き立て白米、てんこ盛りでね。 一穂(私服): や……やったーっっ!!今は楽しみにして我慢するね、菜央ちゃん! 美雪(私服): はいはーい、こっちがメインだからお静かにね。それじゃ前原くん……お願いします! 圭一(私服): お、おぅっ……! ちょっと怖い感じだが、ここは度胸ってやつだな……。 レナ(私服): 感想は正直に言ってね、圭一くん。厳しい内容でも、それが大事だと思うから。 菜央(私服): といっても、レナちゃんとあたしがすでに味見済みだから、とんでもない味には仕上がってないはずよ。 圭一(私服): 信じるぜ、菜央ちゃん。んじゃ、まずは一口……。 …………。 言葉: あ、あの……味のほどは、どうでしょうか……? 圭一(私服): ……。なんだ、これ……。 圭一(私服): うまい……すっげぇ、うまいぞ!! レナ(私服): ほんとに? あははは、やったぁぁー!! 圭一(私服): いや、なんだこれっ?豚の焼肉かと思ったら、なんか後味がさっぱりとしてて食べやすい! 圭一(私服): しかも……このタレ!生姜の香りはするけど、辛味もねぇしむしろ甘い!ご飯にものすごくあって、箸が止まらねぇぜ! 沙都子(私服): そ、そんなにおいしい出来ですの……?香りは確かに食欲をそそりますけど、そんなに絶賛とは……ちょっと失礼しますわね。 沙都子(私服): んぐっ……な、なんですのこれは!豚の焼肉のはずなのに、肉の臭みや油臭さがほとんど……いえ全く感じられませんわ! 梨花(私服): みー、生姜が臭み消しになっているのです。しかもこのタレは、添えたキャベツの千切りにとても合うのですよ~♪ 梨花(私服): 甘い味わいなので、これなら羽入も大丈夫だと思うのです。……食べてみますですか? 羽入(私服): あぅあぅ……そう言って梨花は、いつも僕をだましてからかってばかりで……。 羽入(私服): ……あ、あぅあぅあぅっ?ほんとに甘いのです、おいしいのです!こんな味の料理は、生まれて初めてなのですよ~! 菜央(私服): 初めてって……大げさねぇ。でも、どうして#p雛見沢#sひなみざわ#rに生姜焼きが今までなかったんだろ……だろ? 美雪(私服): ……そういえば、酒飲みのご近所さんに聞いたことがあったよ。元々生姜焼きは、昭和の頃だと関東ローカルの料理だったんだって。 美雪(私服): で、それがレストランや大衆食堂の全国展開で日本各地に伝わって……日常的な料理のひとつとして一般家庭でも作られるようになったそうだよ。 菜央(私服): ……あんたのその知識も、十分年不相応じゃない。 一穂(私服): あ、あははは……でも、よかったですね桂さん。前原くんも他の子たちも、大絶賛ですよ。 言葉: は、はい……ありがとうございます。これも、竜宮さんが最初からつきっきりで教えてくれたおかげです。 レナ(私服): あははは、そんなことないですよ。桂さんが一生懸命レナの言うことを聞いて、頑張った結果だと思います。 言葉: 竜宮さん……。 沙都子(私服): こうしてはいられませんわ、梨花!私たちも菜央さんからレシピを伺って、早速作ってみましてよ! 梨花(私服): みー。いい匂いといい味で、ボクたちもお腹が空いてきたのですよ~。 菜央(私服): はいはい、豚肉とご飯はいっぱいあるから慌てないで。……一穂も、一緒に食べるでしょ? 一穂(私服): うん、もちろんっ! 言葉: ……。ふふっ。 …………。 その日、私は夢を見た。学校の屋上にあるベンチに座って、お昼のお弁当を食べる夢だ。 隣りに座っているのは、同じ制服を着た竜宮さん。少し離れた場所にいるのは、前原さんだ。 レナ(私服): はぅ~、おいしいね言葉ちゃん。こっちの唐揚げ、もうひとつだけもらってもいいかな……かな? 言葉: はい、どんどん食べてくださいね。代わりに私は、この玉子焼きを……。 圭一(私服): お……おいおい、またおかずの交換会かよ。ほんとお前らって、仲がいいよなぁ。 レナ(私服): あはははっ……♪ ……ふと、思う。確かに彼女たちと一緒なら、きっと楽しい学生生活を送ることができるだろう。 でも……残念ながらそこに、「彼」の姿がない。それが唯一、そして最大の欠点であり……。 私の「世界」を幸せにしてくれない、必要不可欠な要素だった。 言葉: (どちらかを選べと言われたら……きっと私は、「彼」のいる世界を選ぶだろう。たとえそこが、息苦しさに満ちていたとしても……) 幸せを求めて、不幸としか思えない選択をする。……それでいい。私は自分で、そう望んだのだから。 でも、……こんな不思議な体験をしたからこそ、今だけはこの、あたたかな空気の中に包まれていたい。 そう思いながら私は、再び夢の中へと舞い戻っていった――。