Prologue: 千雨: ……にしても、なぁ美雪。 魅音から頼まれた「仕事」のノルマをこなし、ようやく一息つくことができた昼休み……缶コーヒーを傾けながら、隣の美雪たちに話しかける。 というか、完全にこれはぼやきだ。特定の誰かにではなく、理不尽な運命に対して多少の不満をぶつけずにはいられなかったのだ。 千雨: 毎度のことで、もう慣れっこになってきたが……どうして私たちが関わる諸々ってやつには、トラブルとアクシデントがつきまとうんだろうな。 美雪: いや、そう言われてもねぇ……。ひょっとしたら貧乏神にでも憑かれてる子が私たちの中にいるんじゃない? 羽入: あぅあぅ、そんな不幸まみれの子はいない……はずだと、胸を張って断言……できない僕を許してくださいなのです。 千雨: あ、いや……なんで羽入が謝るんだ?ただの愚痴なんだから、気にしないでくれ。 どういうわけか申し訳なさそうにしょげ返る羽入を慰めながら、私は大きくため息をつく。 千雨: (全く……どうしてこうなったんだ?) 臨時バイトの「衣装」に身を包んだ2人の姿を改めて見つめて、私は内心でそう呟かずにはいられなかった……。 ……今から半年ほど前の、日曜日。私たちは「春の試食会」という名目で、魅音と詩音から昼食の席に誘われた。 ちょうどお昼を何にしようか、と話していた最中だったこともあり、電話を取った美雪は私たちに確認を取るよりも早く「行くっ!」と返事をしていた。 美雪(私服): やったー!食費を一食分、いや二食分を浮かせるつもりで食べまくるよ~! 一穂(私服): お、お腹いっぱい食べてもいいのかな……? そう言って美雪と一穂は、飛び跳ねる勢いで……いや、実際に飛び跳ねながら歓喜している。 そして、最近家計簿をつけ始めた菜央ちゃんは安堵のため息をついていた。 菜央(私服): はぁ……助かったわ。正直次のバイト代が出るまで、少し食費が心許ないと思ってたところだったのよ。 菜央(私服): もし保存が利きそうなものがあったら、行儀が悪いかもだけど魅音さんにお願いして少し持ち帰らせてもらおうかしら……? 千雨: 菜央ちゃん……うちって、そんなに厳しい台所事情だったのか? 菜央(私服): お米とかの主食は魅音さんたちから、二級品や余りものってことで超格安の品を手配してもらってるんだけどね。 菜央(私服): やっぱり、4人もいると量が……その。それに、おかずが漬物とかだけだったら栄養が偏ってきちゃうでしょ? 千雨: ……悪い。これでも結構、加減してたつもりだったんだが。 つい最近まで体育会系に所属していたこともあり、どうしても1杯や2杯では腹が持たないのだ。 一応、魅音や詩音からの紹介などで私たちは全員臨時バイトを入れているのだが……そろそろ定期の働き口を見つけるべきだろう。 美雪(私服): まぁまぁ、そういった問題解決はあとで考えるとして……せっかくのお招きなんだし、思いっきり食べさせてもらおうよ。ねっ? 千雨: あ、あぁ……そうだな。 それに対して美雪は楽観が過ぎるのでは、と少々ちくりとした違和感を覚えたものの……ご馳走を満喫できるのは私も歓迎なので、素直に頷く。 そんなわけで私たちは、準備もそこそこに園崎本家を訪れることにした。 案内されて入った居間にはレナや沙都子たち、そして私たちが住む家の持ち主の息子で現在は#p興宮#sおきのみや#rで暮らしている、前原圭一もいた。 それぞれが座布団の上に座っていて、目の前にはお膳が置かれてある。……思っていた以上に、本格的な食事会のようだ。 菜央(私服): あっ……レナちゃん!隣、座ってもいい? レナ(私服): あははは、もちろん!そう思って1人分、空けておいてもらったから♪ 美雪(私服): んー、私たちはあっちの並びでいいかな。千雨も一緒でいいよね? 千雨: あぁ。……どっこいせ、っと。 ついオヤジめいた声を呟きながら、私はレナたちとは対面の座に腰を下ろす。 ほどなく隣の部屋と仕切る襖が開き、そこから魅音と詩音が姿を現した。 魅音(私服): いらっしゃい、みんな!今日は来てくれてありがとうね! 沙都子(私服): こちらこそ、お招きいただいてありがとうですわ。何を食べさせてもらえるのか今からとっても楽しみでしてよ~♪ 詩音(私服): あ、沙都子だけは別メニューですよ。採れたて新鮮なカボチャとブロッコリー、ナス、アスパラガスのフルコースで……。 沙都子(私服): ひぃいいぃぃぃっ?じ、実家に帰らせていただきますわっっ! 魅音(私服): あっはっはっはっ、冗談だって!あんたの嫌いなものはちゃんと除外してあるから。さて、それじゃ料理の準備を……。 レナ(私服): 魅ぃちゃん、レナも手伝うよ。ここに全員分運んでくるのは、2人だと大変でしょ? 菜央(私服): あっ……じゃあ、あたしも。4人もいれば大丈夫よね? 詩音(私服): えぇ、助かります。それじゃ他の皆さんは、少しだけ待っていてください。 そう言って魅音たちは奥へと去り……間もなく色とりどりの食材を配した料理を持ってきて、手際のいい動作でそれらを膳の上に並べていく。 その見た目はもちろん、香り……口をつける前から「これ絶対美味いに決まってる」と、胸を張って主張せんばかりの数々だった。 魅音(私服): はい、これで全員に行き渡ったかな~?それじゃ手を合わせて、いただきまーす! 一同: 「「いただきまーす!」」 合唱もそこそこに、私たちは我先にと箸を取って料理に手をつける。そして口の中に入れて、咀嚼して……。 一同: 「「おいし~!!」」 当然の如く上げた歓声のあと、あとは会話もほとんど無くひたすらに美味い料理に舌鼓を打ち続けた……。 美食を満喫したあとは、デザートとお茶の時間。「甘いものは別腹」との言葉通りに、私たちはひたすら甘味の魅惑に浸りきっていた。 美雪(私服): んー、この桃って甘みが強くておいしいね~。東京のスーパーとかで売ってるものよりずーっとみずみずしくて食べ応えがあるよ。 千雨: このグレープフルーツも、酸味がほどよくて食べやすいな。砂糖をかけなくても甘くて、いくらでも食べられそうだ。 レナ(私服): 菜央ちゃん、このイチゴ食べる?はい、あーんしてっ♪ 菜央(私服): ほ、ほわぁ……っ? これは夢?だったらもう絶対に覚めないで!あたしはこのまま永眠してもいいわ~! 美雪(私服): いや、永眠してどうするんだよ。生きてこそ幸せを感じることができるんだからさ。 千雨: 菜央ちゃん的な感動表現なんだから、マジツッコミは止めろ。まぁそれより……。 一穂(私服): んぐんぐ、おいし~!とれたての豆と炊き上げた五目ご飯、おいしすぎる~♪ 千雨: ……おい、一穂。みんな食べ終わったのに、まだ飯を食ってるのか? 一穂(私服): だ、だって……!こんなおいしいご飯を食べるのって滅多にないから、とても止められないよ……! 沙都子(私服): す、すごい勢いですわ……!あんなにもたくさん炊いてあったご飯が、あっという間に半減していましてよ。 梨花(私服): みー。きっと一穂のお腹の中には、全てを飲み込むブラックホールが存在しているのですよ。 羽入(私服): あぅあぅ、それはさすがに言い過ぎ……とも、言い切れない速さと量なのですよ。 その後、詩音が入れてくれたお茶を飲みながら私たちがのんびりと人心地ついていると、魅音が今回の食材の感想を求めていった。 魅音(私服): で、味はどうだった?#p雛見沢#sひなみざわ#r産のお米と野菜、それに果物もなかなかいけるでしょ? 美雪(私服): いやー、いけるどころの話じゃないよ。このおいしさだったら首都圏とかに持ち込めば、結構高値で買い手がついてもおかしくないって。 魅音(私服): だよね? 私もそう思って、今後は販路を広げていこうって考えたんだよ。 圭一(私服): 販路を広げる……?それって魅音たちが最近頑張っている、村おこしの一環ってやつか? 詩音(私服): えぇ、その通りです。観光業はある程度の目処がついてきましたが、次にお客が求めるのは食事面です。 詩音(私服): 風光明媚と呼ばれる名所には名物がつきものですし、おいしい食事があるというのはリピーターの定着や口コミの評判を向上させる大事な要素ですからね。 魅音(私服): そして、この地の食べ物がおいしいとなれば当然農作物や加工品などに対するニーズが高まって市場に出回り、村の収益が上がる……てな感じだよ。 美雪(私服): なるほど。つまり、3次産業から1次産業への逆発展の道を開拓するってわけだね。 沙都子(私服): 3次……1次? あの、美雪さん。そのなんとか産業というのは……? 千雨: 産業の区分ってやつだ。1次産業は農業や漁業、林業や採掘業で、2次産業はそれを用いた工業、製造業。 千雨: そして3次産業は、できあがった製品を商品として流通・販売させる仕事を指すんだよ。 羽入(私服): あぅあぅ……では、その逆発展とはどういったことなのですか? 美雪(私服): 本来は原料を調達し、それを製品化して市場で売り出すというのが一般的な産業の流れなんだけど……。 美雪(私服): 今はむしろ、3次産業に「宣伝」の要素を加えることで商品に対する興味や購買意欲を消費者に持たせて、1次・2次産業を発展させるアプローチがあるんだって。 美雪(私服): 特に、商品の種類が増えたことでお客の選択肢が多くなった現状の市場だと、そうやってブランド化を行わなければ買ってもらえない。 美雪(私服): 海外からの輸入にも対抗するためにも、そういう方向転換が産業界で強く提唱されるようになった……って、私のお母さんが言ってたなー。 魅音(私服): うん。今はどこの農家も、農協が一手に買い取って市場に卸すのが一般的な流れになっているけど……。 魅音(私服): それだと、十把一絡げ的な扱いになって売上を伸ばすことは難しい。……だから私たちは、直接お客に売り込む方式もとるべきだと思ったんだ。 詩音(私服): 最終的には飲食店や大型スーパーといった、大口顧客を捕まえられるといいんですが……いきなりそこに到達するのは難しいというか、無理です。 詩音(私服): ですから、まずは地道に評判作りです。直売所を増やして観光客相手に売り込みを図ったり、TVのCMや特集で観光とセットに宣伝したり……。 詩音(私服): そういった活動を続けていれば、いずれ雛見沢の農作物をブランド化して付加価値をつけられるのでは、と考えたんですよ。 千雨: ブランド化……か……。 今後に向けた方針としては間違ってはいないと思う。だが、そんな大胆な方針が実現可能なんだろうか……。 魅音たちの未来にかける期待が伝わるからこそ、私は一抹の不安を覚えずにはいられなかった……。 Part 01: 実際、魅音と詩音が考えていることはなかなかいいアイディアだと私も思う。とはいえ……。 千雨: 有効性は認めるとしても……だ。農作物の評判が定着してブランド化するまでには、結構な時間がかかるんじゃないか? 千雨: あと、農協ってのは保守的な連中が多いから、その新しい策を好意的に受け止めてもらえるかがネックになってくるだろうな。 美雪(私服): それに、TVCMって全国ネットになると高いよ。特集番組を組むにしても、局の担当者に企画書を提出してから審査……。 美雪(私服): 立ち上げまでに時間がかかるって言うしね。それこそ1年や2年ではすまないくらいに、長いスパンで計画を立てる必要があって大変だと思うけど……大丈夫? 魅音(私服): ……そこなんだよねぇ。私と詩音も、どうビジネスモデルを組み上げたものかいいアイディアが浮かばなくてさ。 詩音(私服): というわけで、皆さんから何かいいアドバイスをもらえないかと思って……この会合を開いた次第です。 千雨: なるほど……そういうことだったのか。ただできれば、食べる前に聞いておきたかったな。 「報酬」をもらった後だと、さすがに断りづらい。もっとも魅音と詩音は、たとえ無理だと言っても根に持ったりすることはないだろうが……。 一穂(私服): アドバイス……かぁ……。私はそういうの、あんまり詳しくなくて……ごめんなさい。 千雨: いや、別に謝ることじゃないぞ。そもそも詳しいやつがいること自体が奇跡なんだし、いきなり言われてもすぐには……ん? そう言って、美雪たちに同意を求めようと振り返った私は……視線の先に、考え込んでいる菜央ちゃんの姿を見て取る。 そういえば彼女は、さっきから言葉を発していない。……と、その時だった。 菜央(私服): ねぇ、魅音さん……アンテナショップを開くってのはどうかしら? 彼女が提案した内容は、魅音たちはもちろん私たちでさえ聞いたことのないものだった。 魅音(私服): アンテナショップ……って、いったい何? 美雪(私服): 私も初めて聞いたよ。それって、どういうお店なの? 菜央(私服): えっと……これは、お母さんと有楽町へ買い物に行った時に軽く聞いただけで、詳しいことはよく知らないんだけど……。 菜央(私服): アンテナショップは、各地の名産品を宣伝目的に販売してるお店だそうよ。 菜央(私服): 東京都は少し前からそこで都内の農作物や食品加工物、工芸品を紹介して宣伝活動を行ってるんですって。 沙都子(私服): えっ……? ということは、東京でも農作物を作ったりしているんですの? 菜央(私服): もちろんよ。東京の全てが都会ってわけじゃないんだから、あたしの家の近所にもあったりするわ。 梨花(私服): みー……東京はどこも高いビルやマンション、商業施設や高速道路などの近代的な建造物で埋め尽くされていると思っていたのですよ。 美雪(私服): いやいや、SFの未来都市じゃないんだから。そういうのは23区だけで、西の方に行けば自然に囲まれたところだって結構あるよ。 菜央(私服): ただ、都内にいる人でさえそういった印象だから「都会でできた農作物は、おいしくない」ってイメージが強いらしいわ。 菜央(私服): そういった悪い評判を払拭するために、販売と同時に宣伝を目的とした店が国内の人や外国からの観光客を対象に、作られたんですって。 詩音(私服): なるほど……いってしまえば規模の大きくした直売所を、人の集まる都市部に置くってわけですね。 詩音(私服): でも、それって効果があったりするんですか?都市部に店を構えるとなると、諸々の経費がとんでもなくかかってくると思うんですが。 菜央(私服): ある、ってお母さんは言ってたわ。例えば北海道のジンギスカンや豚丼、お菓子ってすっごくおいしいんだけど……。 菜央(私服): 実際に現地に旅行でもしない限り、そんなことはみんな知らないもの。だから、宣伝はとても重要なことよ。 菜央(私服): 今は小規模なブースが集合してるだけだけど、いずれあちこちの県や市町村の自治体が独立した出店をしていくかもしれない、って。 沙都子(私服): ジンギスカンと豚丼は、以前テレビ番組で見たことがありましたけど……北海道のお菓子って、そんなにもおいしいんですの? 美雪(私服): 間違いなくめちゃウマだよ~!北海道は牛乳に小麦と新鮮な食材が豊富だから、一度食べ始めると帰れなくなるって言うくらいだしね。 千雨: あぁ。親戚から送ってもらったバターサンドなんて絶品だった。最後に残った1個をどちらが食うかで、美雪とバトルになったほどだ。 沙都子(私服): ば、バトルって……結果はどうなりましたの? 千雨: ……経過については省略するが、美雪のところのおばさんが間に入って引き分け。半分こで食べることになった。 美雪(私服): んー、最初からそうしてればあんな不毛な時間を費やすことはなかったのにね。若さゆえの過ち、ってやつかな? 沙都子(私服): その「不毛な時間」とやらに何があったのかは、聞かないほうが良いのかもしれませんわね……。 梨花(私服): みー……北海道、素敵なのです。そんなことを聞いてしまうと、ボクもいつか行きたくなるのですよ。 羽入(私服): あ、あぅあぅ……僕はいつかではなく、今すぐにでも行ってみたいのです……! 一穂(私服): じゅるり……話を聞いてるだけで、お腹がすいてきたよ……! 圭一(私服): おいおい、2人ともたった今腹一杯に食べたばかりだろ? 圭一(私服): ……まぁなんにせよ、市場を介してではなく店を開いて宣伝するってのは確かにいいかもしれねぇな。 魅音(私服): 問題は、それを農協が認めるかどうかだね。さて、どういった説得をしたらいいのか……。 圭一(私服): ……なぁ、魅音。農協を差し置いて動くのがまずいんだったら、逆に仕切らせるってのはどうだ? 魅音(私服): えっ……?それって、どういうこと? 圭一(私服): 農協ってのは、農家が勝手な行動をしたら困るって姿勢なんだろ? 市場の価格を見ながら流通量を決めたりしなきゃならねぇわけだしさ。 圭一(私服): だから、いったんは農協を通すんだよ。そして……。 レナ(私服): はぅ、そっか……!つまり農協の人たちにお願いして、そのお店に商品を置かせてもらうってわけだね! 詩音(私服): なるほど……農協としては、卸し先が追加されるだけでデメリットはない。量も彼らの指示に従えば、不満はなくなる……。 詩音(私服): そして私たちは、店に通販の申込窓口などを設置して、直売のルートもあることをお客に宣伝すればいい……。 魅音(私服): 実際に買って品質を確かめているわけだから、お客としても安心して通販を頼むことができる。 魅音(私服): こちらも仲介分が削れて、輸送費用を入れても値段を安く抑えられる……うん、いけるかもしれない! 菜央(私服): 問題は農協に加えて役場、それと配送をしてもらう郵便局の担当者さんたちと色々と調整を図らなきゃいけないってところでしょうね。 菜央(私服): かなり手間がかかると思うけど……大丈夫? 魅音(私服): 任せてっ!そういう小難しい手続き関係は、おじさんの得意分野だからさ。 詩音(私服): それに、#p雛見沢#sひなみざわ#rや#p興宮#sおきのみや#r以外の地域に声をかけてみるというのも、ありでしょうね。 詩音(私服): うまくいけばバリエーションを増やした上で、家賃などの経費を分担し合うというメリットも生まれそうですよ……くっくっくっ。 そう言って魅音と詩音は、他の面子も交えて前のめり姿勢であれこれと話し合っていく。 そして私は、やる気に満ちた魅音たちの様子に口を挟むことができず……ただ見守るだけだった。 千雨: おいおい……大丈夫か、あいつら?なんかスケールが大きすぎる話になってきたんだが。 美雪(私服): まぁ、いいんじゃない?新しいことを始める時のトライアンドエラーってのは、必要なことだと思うよ。 千雨: まぁ……事がそんなにうまく運ぶはずもないしな。 それに始めるとしても、数年先のことだろう。私はそう思って、苦笑交じりに肩をすくめたが……。 魅音(私服): よし……それじゃ、善は急げ!今年の秋にはそのアンテナショップとやらを立ち上げて、雛見沢の農作物をアピールだよ! 千雨: こ、今年の秋だとっ……?今からどう見積もっても、半年もないぞ?! 詩音(私服): テストケース、って言い方にしておけば多少の手続きはなんとかなりますよ。経費も園崎家で持ち出せば、文句も出ないでしょうしね。 千雨: マジか……こいつら……。 金を持っているやつは動きも速く、大胆。魅音と詩音を見た私は、確かに真理だと改めて感じていた……。 Part 02: ……そして、半年後の秋。 例年以上に農作物の出来が良かったということで、「秋の試食会」なる会合が園崎本家で開催され……私たちはまた、そこに招待されることになった。 そして、半年前以上に豪勢な料理をたらふく賞味して、満喫した私たちを前に……魅音と詩音は満面に笑みをたたえていった。 魅音(私服): えー、では報告をさせてもらいます。 魅音(私服): 春頃から仕込んだ果物のジャム、夏からの日本酒、そしてこの秋に収穫したばかりの新米……。 魅音(私服): 例のアンテナショップで売り出したら、あぁっという間に在庫がなくなる勢いで売れました!もう笑いが止まらないくらいにねー! 千雨: なっ……マジでか?! 失敗を願う気持ちはこれっぽっちも無かったが……まさかそこまでの成果を上げるとは夢にも思わず、私は絶句する。 ただ、他の面子は最近の魅音の上機嫌ぶりからある程度の予測ができていたのか「おぉ~」と感嘆の声を上げ、素直に受け止めている様子だった。 千雨: な、なんでそんなにうまくいったんだ……?やろうって言い出してから、半年くらいしか時間が無かったんだろ? すごすぎるぞ?! 詩音(私服): くすくす……実は、アンテナショップを開く際にTV局に企画を持ち込んで、小さな情報番組とかで取り上げてもらおうと交渉したんですが……。 詩音(私服): たまたま、「日本の農業の新しいスタイル」なる特別番組が進行中で……そこで扱ってもらえたんですよ。 千雨: な、何という鬼引き……! タイミングがいいにもほどがある、と私は感心と驚きの思いをない交ぜにして息をつく。もはやこれは運ではなく、奇跡か天の配剤だろう。 詩音(私服): あと、自治体が単体で首都圏に店を出したことを珍しがったのか、いい時間帯のニュース番組でも何度か取り上げられましてね。 詩音(私服): 通販も数日で予定数が集まって……さらに追加するかどうかで町会が大わらわ状態になっているくらいです。 レナ(私服): ということは、大成功だね……!おめでとう魅ぃちゃん、詩ぃちゃん! 魅音(私服): ありがとう、レナ! それにみんなも! 魅音(私服): 町会の連中や周辺の町村に声をかけた時は、みんな半信半疑だったけど……押し通すことができたのはあんたたちが応援してくれたおかげだよ! 沙都子(私服): をーっほっほっほっ! それはご謙遜ですわ。魅音さんと詩音さんの頑張りこそが、この結果をもたらすことになったのでしてよ。 圭一(私服): へへっ、だな! やっぱりお前らはすげぇぜ!大人顔負けの仕事をやってのけちまうんだからよー! 詩音(私服): くすくす……ありがとうございます、圭ちゃん。とはいえ、全ての始まりとなったのは菜央さん。あなたがアドバイスしてくれたおかげですよ。 詩音(私服): まさか、アンテナショップというものがここまで役に立つとは思いもしませんでした。 詩音(私服): #p雛見沢#sひなみざわ#r以外の地域の方々も、今回はお試しで参加とのことでしたが……予想以上の結果に驚いて、来年からは参加する自治体も増える見込みです。 梨花(私服): みー。雛見沢を盟主にした地域大連合が誕生なのですよ~♪ 一穂(私服): だ、大連合……?そんな大プロジェクトまで動き出してるの?! 梨花(私服): ボクも耳を疑ったのですが……町会の人たちは、本気でそんなことを言っているのです。 梨花(私服): ボクは今まで、雛見沢の産業を発展させるのは技術革新しかないと考えていました。 梨花(私服): ですが3次産業から、1次産業への働きかけ……こんな方法があったとは、目から鱗なのですよ。 沙都子(私服): 梨花……。 梨花(私服): ……こんな形の新しい風も、あったのね。私もまだまだ勉強しなきゃいけないんだって、改めて思い知らされたわ。 羽入(私服): …………。 そんな感じに、魅音と詩音からの報告を聞いた一同は最高の結果が出たことを喜び合う。 ……ただ私だけは、どうしても複雑な思いを拭い去ることができなかった。 美雪(私服): ……? 千雨、また何か心配事でもあるの? 千雨: ……また、とはなんだ。嫌な言い方をするな。 美雪(私服): あははは、ごめんごめん。……で、どうしたのさ? 千雨: ……最近調べてみたんだが、この時代だと東京都はまだアンテナショップらしきものを開くどころか、計画すら立ててなかったらしい。 千雨: つまり、あの施設は私たちが元いた時代の常識だったってわけだから……。 美雪(私服): 結果として、時代を先取り……歴史を変えちゃったかもしれないってことだね。 美雪(私服): まぁ損をしなかった人は誰もいないんだから、別にいいんじゃない? そう言って美雪は、お気楽な感想で笑い飛ばそうとしてくるが……。 やはりわいてきた違和感を抱きつつ、私はたとえマイナス思考だと誹られようとも言わずにはいられなかった。 千雨: ……『バタフライ効果』って、知ってるか? 美雪(私服): んー、聞いたことないなぁ。……それって何? 千雨: 恐竜が出てくる海外のSF小説で出てきた理論だ。それによると、ひとつのわずかな変化が以降の歴史の状態に大きな影響を与えるという。 千雨: ほんの少しだけ動かした道の石ころが、後々になって大事故を生み出す……といった感じだ。 千雨: だから……今回がそうじゃなければいい、と心配になったんだよ。 美雪(私服): 大丈夫だよ。ほんとキミって身体的には最強の部類なのに、考え方は繊細で悲観的って言うか……ん? と、そこへ園崎家のお手伝いさんが「失礼します」と言って居間に姿を現す。 そして、中央で盛り上がっている魅音に手招きするように合図を送ってみせた。 魅音(私服): 私? なに、どうしたの? 沁子: 魅音さんに、お電話が……#p興宮#sおきのみや#r郵便局からだそうです。 魅音(私服): 郵便局? なんだろ、通販の件かな……みんな、ちょっと待っていてね。 そう言って魅音はお手伝いさんと一緒に、居間を出ていく。あとには少し水入り気分で会話が絶えた、私たちが残された。 圭一(私服): 日曜日に郵便局から電話って、なかなか聞かないよな。魅音に、どういった用件なんだろう……? 詩音(私服): あ、それはですね……。 前原の疑問に答えようと、詩音が口を開きかけた……その時だった。 魅音(私服): た……大変だよ、みんなっ?! ドタドタと足音をかき鳴らし、大声で慌てふためいた様子で魅音が居間に駆け込んできた……。 Part 03: 詩音(私服): どうしたんです、お姉?またあんたの手配ミスでもあったんですか。 詩音は半ばからかう口調で、呆れ顔でおどける。……が、魅音が告げた事実は私たちの予想を遥かに超える事態だった。 魅音(私服): さ、さっき#p興宮#sおきのみや#r郵便局の局長代理から、連絡があって……。 魅音(私服): 局内で、食中毒が発生したみたいなんだ……! 一穂(私服): えっ……しょ、食中毒?! 魅音(私服): どうやら、食堂の昼食が傷んでいたらしくて……。配達員と事務員、かなりの数が病院に運び込まれて治療を受けているんだって! 美雪(私服): ……それってマジっ? 大丈夫なの?! 魅音(私服): 幸い、通報が早かったから全員命には別状がないらしい……今のところは、だけどね。 魅音(私服): それで、当分の間他の局から応援が来てくれるそうだけど、郵便局の機能は極端に落ちると思う。つまり……。 詩音(私服): ……今週と来週は、通販の第一便が発送の予定。どうあってもそちらの手配の遅延は避けられませんね。 レナ(私服): 遅延って……詩ぃちゃん、ひょっとして今回の通販の運送業者は……?! 詩音(私服): えぇ……お察しの通り、郵便局に委託しているんです。農協から声をかけてもらったのと、歳暮前の閑散期ということでかなり値を下げてくれましたので……。 魅音(私服): ただ、今のままだと人手が足りなくて、大きな支障が出ることになると思う。それに、業務の引き継ぎが間に合うかどうか……。 沙都子(私服): ? 他の局とはいえ、応援の方々も同じ郵便局員で勝手知ったるですし……すぐに対応できるのではありませんの? 魅音(私服): 通常の郵便業務ならね。……けど、今回の配送は何ヶ月も前から打ち合わせをして体制を構築した、特別仕様だ。 魅音(私服): それを1から……いや、実質ゼロから再編することになるんだから、どうしても時間がかかることは避けられないね……。 梨花(私服): みー……せっかくうまくいっていたのに、土壇場で大アクシデントなのですよ。 沙都子(私服): とはいえ、今回は事情が事情ですし……ちゃんと説明した上でお詫びすればお客さんも理解してくれるのではありませんの? 梨花(私服): みー……それでも幸先からこんな事態があっては、イメージの低下は避けられないのです。 千雨: ……なんてこった。 順調すぎたのも若干複雑な思いだったが、成功を目の前にしてこんな落とし穴とは……もし神様がいたら、抗議したいところだ。 詩音(私服): ……どうします、お姉?かなり無理筋ですが、私とあんたが手伝いに入れば多少の効率化にはなると思います。 魅音(私服): かといって、スピード重視で業務のマニュアル化をしていなかったから、引き継ぎは難しいよ。伝達不備で作業のミスも、増えてくると思うし……。 菜央(私服): ……マニュアルなら、ここにあるわ。 魅音・詩音: えっ……?! そうぽつりと言った菜央ちゃんに、頭を抱えていた魅音と詩音は同時に振り返る。 すると彼女は、隣に立つレナに無言で頷いてから手に持ったノートを掲げていった。 菜央(私服): もしかしたら魅音さんと詩音さん、忙しくてマニュアルを作ってる時間が無いんじゃないか、ってレナちゃんが心配してたから……2人で作っておいたわ。 レナ(私服): 魅ぃちゃんと詩ぃちゃんが走り書きしていたメモとかを念のために清書したりしてね。……これって役に立つかな、かな? そう言って差し出されたノートを魅音が開き、詩音が横からのぞき込む。 すると、内容を確かめた2人の表情が驚きに……そして目が潤むほどの笑みに変わっていくのがありありと見て取ることができた。 魅音(私服): これ……使える!図も入っていて、すっごくわかりやすい! 詩音(私服): ありがとうございます……レナさん、菜央さん!さっそくこれ、コピーしてもらってきますね! そう言って詩音はノートをつかみ、廊下から縁側に出てものすごい勢いで駆け去っていく。 その背中を見送ってから……魅音は私たちに向き直り、神妙な表情で大きく頭を下げていった。 魅音(私服): ……みんな。これまでにも色々と力を貸してもらって、本当にありがたいし申し訳ないと本気で思っているよ。 魅音(私服): だから正直言って、これ以上お願いできる資格なんて私にはない……しちゃいけないって、わかっているんだ。 魅音(私服): でも……今回は。今回が最後でもいいから……どうかっ……! 圭一(私服): ……へへっ、それ以上は言いっこなしだぜ。なぁ、みんな! そう言って魅音の言葉を遮り、前原が私たちに振り返ってみせる。 もちろん、彼が何を提案するつもりなのかは全員すでに理解していた。 レナ(私服): あははは、任せて!レナたちにできることなら、なんでもお手伝いするよ! 羽入(私服): あぅあぅ~!#p雛見沢#sひなみざわ#rの危機は、僕たち全員で乗り越えるのですよ~! 言われるまでもなく、私たちは口々に協力を申し出る。 そして最後に沙都子と梨花が立ち上がり、魅音に向かっていった。 沙都子(私服): ……魅音さん、あなたは私たちのリーダー。ですから、遠慮なんて必要ありませんわ。 沙都子(私服): ただ一言、「行け!」と命じてくれるだけで結構ですのよ。 梨花(私服): みー。全員で力を合わせて、ふぁいと、おーなのですよ! 魅音(私服): みんな……っ……! 一穂(私服): それに……最後なんて言わないでよ。私は魅音さんからのお願いを聞くたびに、すごく楽しませてもらっているんだから。 美雪(私服): んー、そうだね。いい経験って言ったらちょっと嫌味に聞こえるかもしれないけど、なかなか刺激的だもんねー。 千雨: いや、刺激的って言い方も皮肉っぽいが……。 千雨: なんにせよ、頼り頼られはお互い様だ。遠慮なんかは無用だぞ、魅音。 魅音(私服): ……っ……! 頼もしい声に、思わず魅音が涙をこらえるようにぐしっ、と鼻をすすり上げる。 そして決心を固めたように、宣言していった。 魅音(私服): みんな……頼んだよ!雛見沢の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ! 全員: 「「おおおぉぉぉおおっ!!」」 雄叫びのように、一同は気炎をあげる。 と、そんな感じに全員が盛り上がる中でふと、魅音は美雪と羽入……そして私を呼んでいった。 魅音(私服): ……あんたたちを見込んで、頼みたいことがあるんだ。危険な役目だけど……頼んでいいかい? Part 04: そして、数日後。 千雨: ……やっと戻ってきたか。今日はずいぶん遅かったな。 美雪(郵便屋): あれ……千雨?こんな遅い時間に、どうしてここに? 千雨: お前のことを待ってたに決まってるじゃないか。羽入も遅くまで、ご苦労様だな。 羽入(郵便屋): あぅあぅ~。配達業務は大変でしたが、喜んでもらえる人の顔が嬉しくてとっても楽しかったのですよ~。 羽入はそう言って、美雪と顔を見合わせながら笑顔で頷き合う。 今回は近場ということもあり、配達員としてこの2人を派遣することになったのだが……彼女たちの様子から見て、うまくいったようだ。 千雨: にしても……2人とも、なんて格好だ。ひょっとして、菜央ちゃんに衣装を特注して作ってもらったりしたのか? 美雪(郵便屋): いやいや、まさかー。今回は緊急事態だし、そんな予算が無いって私たちもわかってるよ。 羽入(郵便屋): あぅあぅ……これは、以前#p興宮#sおきのみや#rに来たアイドルが1日郵便局長のイベントを行った時に着ていた服なのです。 美雪(郵便屋): 配達で外回りをするんだったら、制服らしいものを着ておいた方がいいってね。どう、似合うでしょ? 千雨: 呑気なやつらだ。……魅音から頼まれてる仕事、ちゃんと忘れずにいるんだろうな? 美雪(郵便屋): もちろんっ!これでも私は、結構記憶力がいいんだから! 千雨: ……知ってるよ。時々都合の悪いことを忘れたふりしてごまかす癖もな。 美雪(郵便屋): あはは、そうだったっけ?……いやー、けど今日もよく働いたねー。羽入も配達業務、お疲れ様っ。 羽入(郵便屋): あぅあぅ……僕は#p雛見沢#sひなみざわ#rだけの担当でしたが、あっちこっちに移動して大変だったのですよ~。 美雪(郵便屋): だねー。普段から手紙や小包を届けてくれてる配達員さんたちには、ほんとに感謝しなきゃだよ。 美雪(郵便屋): あと……ありがとうございます、富竹さん。たくさんの荷物があったから、車がないととても回りきれませんでしたよ。 富竹: ははっ、この程度ならいつでもお安いご用だよ。 そう言って、近くに停まったワゴン車から降りてきた富竹さんが、にこやかに笑顔を浮かべる。 今日は運悪く、郵便局の車を運転できる人がいなかったので……無理を言って彼に、2人の同乗と荷物の搬送をお願いしていたのだ。 富竹: ……けど、美雪ちゃんに羽入ちゃん。郵便局に勤務していない君たちがこんなふうに仕事を肩代わりしても大丈夫なのかい? 美雪(郵便屋): あはははっ、問題ないです。だって私たちは「ゆうメイト」……期間限定のバイトをしてるだけですから。 美雪(郵便屋): 年齢とかはまぁ、ご愛敬ってことで。 羽入(郵便屋): あぅあぅ……富竹。細かいことを気にしすぎると、あなたの頭髪が将来不安になってしまうのですよ。 富竹: ははっ、そうだね。僕もある程度状況は聞いているから、そこで建前論を振りかざすのは野暮な話だったよ。 富竹: ……でも、気をつけて。君たちに万一のことがあったら、魅音ちゃんたちも大変なことになっちゃうからさ。 美雪(郵便屋): もちろんです。それじゃ富竹さん、お疲れ様!明日もよろしくお願いしますね~。 そう言って美雪と羽入は、車に乗り込み去っていく富竹を見送る。 そして、郵便局に戻ろうと踵を返した――と、その時だった。 羽入(郵便屋): ……だ、誰なのですっ……? 緊張した声で羽入が物陰に呼びかけると、数名の人影がゆらり、と現れる。 そして無言で胸ポケットから「カード」のようなものを取り出すと……。 そこから発せられた影が瞬く間に膨れ上がり、禍々しい怪物と化していった。 美雪(郵便屋): ……ようやく現れたね。しかも、全員が「カード」持ちだなんてさ。 羽入(郵便屋): あ、あぅあぅ……か弱い僕たちに大勢で襲撃なんて、卑怯なのですよ。 千雨: ……か弱い?まぁ、確かに羽入は外面だとそう見えるかもな。 羽入(郵便屋): そ、それはどういう意味なのですかー? そう言って身構える私たちを、男たちは怪物を従えながら取り囲んでいく。 ……だが、そこへ目映くひらめく光。何かと思って彼らが振り返ると、そこにはカメラを構えた菜央ちゃん。さらに――。 詩音(私服): ……証拠は取りました。面が割れた以上、知らぬ存ぜぬは通用しませんよ。 男: なっ……?! 魅音(私服): そろそろ出てくる頃だと思っていたよ。けど、やっぱり詰めが甘いねぇ……くっくっくっ! 詩音に続いて魅音、他の部活メンバーも次々に現れて男たちを逆包囲していく。 そして形勢逆転に戸惑う彼らを見据え、魅音が厳かに言い放った。 魅音(私服): 行けぇ! 一人残らず目にもの見せて、ふん縛ってやれッッ!! 全員: 「「おおおぉぉぉおおっ!!」」 Epilogue: 「カード」の力を遠慮無くふるった私たちによって、男どもはことごとく叩きのめされ、ふん縛られて……その後、遅れてやってきた警察の手に引き渡された。 大石: いやいや、つくづく災難でしたねぇ~。事情はあらかた他の方からお伺いしましたが、さすがに同情させてもらいますよ。 魅音(私服): 別にいいですよ。……そもそも警察には最初に相談したのに、確たる証拠がないと動けないって追い払われたクチですから。 大石: なっはっはっはっ、それは失礼しました!まぁあなた方なら全てお任せしても問題ないと、丸投げしたのが本音なんですがね~。 魅音(私服): 働いてくださいよね、公務員なんだから。何のために税金を納めているのかわかりませんので。 大石: おぉ、痛いところを突いてきますね。まぁ本来なら、未成年がタッチできない仕事を堂々とやっておられている……。 大石: それを見なかったことにしていることで、手打ちとさせてください。んっふっふっふっ。 魅音(私服): まぁ、いいです。……それで、今日来られたのは私の嫌味を聞きに来たわけじゃないんですよね? 大石: ……他の方々には内密に、とのことでしたので。あなたにだけお伝えします。 大石: やはり先日のお話にあった通り、園崎組の三船一派の息がかかった者たちでした。 魅音(私服): ……やっぱりか。 大石: ただ、その接点となるような証拠は掴めなかったので……三船一派に警察の手を及ぼすことは、現状だと難しいと思います。 魅音(私服): ……安全な場所から、自分たちだけは高みの見物と。さすがにこういった荒事に慣れているだけあって、警察への対処は万全ってわけですね。 大石: とりあえず、監視の目は続けます。私の立場から申し上げられるのはこんなところです。……では、よいお年を。 そう言って大石刑事は、用を済ませるとさっさと居間を出ていく。 そして、魅音は……隣の部屋に控えていた私に声をかけていった。 魅音(私服): おそらくは、郵便局での食中毒騒ぎも今言った連中の仕業だ。……さすがに命を奪う毒とかは使わなかったみたいだけどね。 千雨: そんなことになれば、第二の帝銀事件だ。この村どころか全国で轟く大スキャンダルになるぞ。 魅音(私服): そこまではしたくなかった、てところか。……ったく、田舎の小さなヤクザの親分の座がそんなにも魅力的なのかねぇ。 千雨: さぁな。その辺りの事情だの真意だのは、私にはわからん世界だ。 千雨: ……あと、不可解なのはどうしてお前が私に今の話を聞かせたのかってことだ。 魅音(私服): もちろん、他の面子とあんたは違うと思っているからだよ。 魅音(私服): それに……何があっても命の危険はないだろうっていう信頼かな。 千雨: まるで戦闘サイボーグみたいな扱いだな……まぁいい。それで私は、何をすればいい? 余計な会話は無用だ、とばかりに私は魅音に本題を促す。 すると彼女は大きく息をついて呼吸を鎮め、徐ろに切り出していった。 魅音(私服): あんたの力を、貸してもらいたいんだ。……私たちの中に、裏切り者がいる。 その目に敵意をみなぎらせながら、魅音は告げていった。 魅音(私服): そいつが誰かを突き止めたい。頼まれてくれる? 千雨: ……。だから、なんで私なんだ。 またしても重ねてくる謎の信頼とやらに、私はため息をついて疑問を繰り返す。 すると、魅音は……私をじっと見据え、低い響きの声で……。 魅音(私服): だって、あんた……※※だろ?